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お互い様の僕たちは

めけめけ

2026.5.23〜25 KTDK QUEST Ⅶ 展示作品です。酔っ払い勝デクをテーマに書き下ろしました。 隣接のmokeさん(user/14975623)・傘さん(user/110733185)・てふさん(user/37365543)と企画しました、『酔っぱらいアンソロジー 作者当てブラインド企画』で掲載していたお話です。沢山の方がご参加くださって楽しかったです。ありがとうございました! 最終結果と解答はこちら! https://sites.google.com/view/ktdkquest7anthologyanswer/home 少しだけ加筆修正してあります。 以下注意点 終始出久視点 いつものことながら轟くんは重い友情

「お前、オレにしとけよ」

 耳元で急にそんなことを言い出した君に、僕は盛大に顔を顰めた。

 いったい何の話だよ。

 周囲は瓦礫の山。ひっくり返った自動車や、へし折れた電柱、ひしゃげた看板なんかが散乱している。鉄と油と埃の匂い。それから血と汗と、君から微かにする、爆煙の残り香。

 空はやけに高くて、さっきまでの戦闘が嘘みたいに静かだった。
 インカムはとっくの昔にどこかに飛んで行ってしまっていて、僕のアーマーの通信システムも沈黙していた。

 ビュービューと強い風が吹き荒ぶ音しか聞こえなくて、まるで君と二人きりで知らない星に居るみたいだった。

 僕は額からの出血で視界の半分が塞がっていて、右足の感覚が無かった。君は肩が外れていて右腕を前にぶら下げ、それでも左腕で僕を抱えるように支えてくれていた。

 冬の乾いた北風が、巻き上げた砂埃を僕らに容赦無く叩きつけ、代わりに体温を奪っていく。けれど君と密着している右半身だけは温かくて、安心感でなんだか泣けてしまいそうだった。

 僕は君の端正な横顔をぼんやり見つめて、この顔に傷が増えなくて良かったなあ、なんて考えてた。
 その横顔が、僕の方を見ようともせずボソリと呟く。

「言ってただろ、誰とも付き合ったことねェって」

 それはこないだ一緒に焼肉を食べに行った時の話かな。確かに、言った。引く手数多の君と違って、おあいにく様、僕に一度だってそういう相手が居たことはありません、ってね。
 その時、君は鼻で笑って、それから特上カルビの最後の一きれの争奪戦になって、その話は有耶無耶になって、それから……。

「──オレもねェ」
「え?」

 思わず聞き返した僕を一瞥もせずに、君は口をへの字に曲げたまま、言葉を続けた。

「オレも誰とも付き合ったことねェんだわ。──だから、出久。オレにしとけよ」

 今思い出しても、何が、だから、なのかよく分からない。けれど君の中で、それは確固とした整合性が取れていて、そして、とても真摯な告白だったのだろう。

「……うん、まあ、僕も君の隣に居られるのは、やぶさかじゃないな」

 戦闘直後の、埃っぽくて殺風景な瓦礫の只中で、お互いに満身創痍、ズタボロで血だらけで。甘いものなんて一つもない。それが僕らの始まりだ。

 そもそもが君と僕だ。物心つく前からずっと一緒で、まぁ、何というか色々と紆余曲折はあったものの、今となってはお互いの好き嫌いは把握してるし、遠慮も無い。
 昔より少し大人になった僕たちは、譲れないところと譲れるところの線引きも、折り合いの付け方もちゃんと分かってる。 

 僕は君の家に、文字Tシャツは──残念ながら──着ていかないし、お邪魔する際は靴もちゃんと揃えて、四十秒以上かけて手を洗う。

 君だって、僕がどうしても、と言ったのをちゃんと受け止めて──死ぬほど嫌そうな顔をしながら──遊園地で効率よく絶叫マシーンを制覇した後、ホイップ追加のスペシャルチョコバナナクレープを一口齧ってくれた。

「……まあ、お互い様なんだけどね」

 僕の言葉に、真正面で蕎麦を啜っていた親友が不思議そうに首を傾げた。

「よくわかんねえけど、仲良くできてんだろ?」
「うん」

 僕が頷くと彼、轟くんは左右で色の違う目を柔らかく細めてくれた。轟くんは、僕らの関係を知ってる数少ないうちの一人だ。

 あの殺伐とした冬の日から季節は巡って春を越え、僕らのいわゆる、お付き合いってヤツは順調なんだと思う。

 お互い多忙の身ではあるけれど、なるべく連絡は取り合ってるし、時間が合えばご飯もいっしょに行く。僕は実家住まいだから無理だけど、君のマンションの合鍵も貰ってる。一度も使った事は無いけど。

「でも、納得してねえって顔してるな」
「え、そうかな?」
「ああ」

 僕が箸を置いて、両手で自分の顔をむにむにいじると、轟くんは面白そうに口元を綻ばせた。

「……うーん。言語化が難しいんだけど。なんというか、普通、なんだ。変わらない、っていうか」
「変わらない?」
「うん。えと、僕ら、曲がりなりにもこ、こ、恋ッ人っ同士ッに、なったわけだけど」

 二十代も半ばを過ぎてるけど、いまだにこういう話をするのはちょっと照れてしまう。けど、僕の親友は絶対に茶化したりはしてこないのが分かってるので、僕も安心してなんとか言葉を吐き出す。

「今までの延長、というか、幼馴染で同業者の時と同じなんだよね。会う頻度が上がったことも、かっちゃんが僕を前よりはパーソナルスペースに招き入れてくれてることも分かってるんだけど、いっしょにいる時の態度も言葉も変わらなくて」
「それはもっとイチャイチャしてえってことか」
「イッ、イチャイチャ!? ──あー、うーん、そう、なのかも?」

 何しろ、僕らの始まりはアレだ。好きとか、愛してるとか、アイラブユーとか、ウォーアイニーとか、そんな甘ったるい言葉のやりとりは僕らの間にひとかけらも挟まってなくて、あれから数ヶ月経った今でも君の口からも僕の口からも転がり落ちた事は無いわけで。

「それでもっとキスとかセックスとかしてえと」
「わーーー!? と、轟くん!?」
「違うのか?」

 ち、違うわけじゃない。あの、僕らはキッ、キッ、キッス、はまだあの、その、一回だけした、けど、そこまで深い仲というわけでも無くてっ……むしろ、その、それ以降進展が無いと言いますかっ……! いや、ていうか他でも無い轟くんの口からそ、そんなキッスとかっせっ……とか言われてしまうとびっくりするというか焦るというかっ!! ……いや、そもそも轟くんの言うイチャイチャはどのレベルに達してるのかちょっと想像が付かないぞ。

「そうか、すまねえ」
「え、あれ? 口に出てた?」
「ああ。キスはしたんだな。良かったな」

 しれっとそう言った轟くんは箸を持ち直し、何事も無かったかのように蕎麦を一口分持ち上げると、つゆに付けた。

「うう……恥ずかしい……」

 僕も少しほてった頬を意識しながら、大事に取っておいた海老天に箸をつける。

「言葉は伝えたい時に伝えとかねえと、後悔するぞ」

 つるつると美味しそうに蕎麦を啜って、轟くんはそう言った。僕は海老天にかぶりつく寸前で止めて、彼の顔を見る。綺麗なアーモンド型の目がひどく優しい光をたたえて僕を見つめていた。

「そう、だね」
「これから会うんだろ、爆豪と」
「うん。今日はかっちゃんは、切島くん達と飲み会行くって。迎えに来いって言われてて」
「ああ、チームアップでこっちに来てるんだったな、切島。いっしょに行けば良かったじゃねえか」
「お互いの友達付き合いに口出ししないようにしてるんだ」

 僕がそう言うと轟くんは僅かに首を傾げた。

 迎えに来いって、言ってもらえるのは嬉しかったけど、連絡が来るまで家で待ってるのはどうにもそわそわしてしまって、ダメだった。
 僕も今日と明日は学校の方もお休みで、飲み会に参加できなくは無かった。でも、かっちゃんと友達として気軽に飲みに行ける関係を築いてる切島くん達が羨ましいって気持ちもたぶん何処かにあって、なんとなくいっしょに行きたいとは言えなかった。

「俺は緑谷に誘ってもらえたからいいけど」
「うん、急にごめんね」
「都合の良い男ってヤツだな、俺は」
「ゲホッ……ちょっ、どこでそんな言葉覚えて来るんだよ、君は!」

 思わず咽せた僕に、轟くんはおかしそうに笑った。

 ちょうど、店を出たところで連絡が入って、事務所に戻ると言う轟くんとはそこで別れた。かっちゃんたちが飲んでる居酒屋は、そんなに遠くはないみたいだ。

 ◇◇◇

 居酒屋の暖簾をくぐると、途端に独特の油と酒の匂いと喧騒に包まれた。いらっしゃーせー! と威勢の良い声が飛んできたけど、曖昧な笑顔で応えて、メッセージにあった個室を目指す。

 襖で区切られたいくつかの個室、上がり框に知ってる靴が揃えられてるのが見えて、ちょっとほっとする。
 襖を遠慮がちにノックすると、すぐに開いてよく知った顔が覗いた。

「あ、来た来た、緑谷!」
「お疲れさん」
「上鳴くん、瀬呂くん、お疲れさま」

 二人に挨拶して部屋の奥に目をやると、堀り座卓の上には空いたグラスやジョッキ、食べかけの皿が並んでいて、それらに紛れるようにして白金色の頭が突っ伏していた。

「よお、緑谷、久しぶり!」
「切島くん! チームアップお疲れさま! ニュース見たよ、すごかった!」
「へへ、ありがとな。──おい、爆豪、緑谷来たぞ──悪いな、緑谷。お前呼べって聞かなくてよぉ」
「大丈夫、元々、迎えに来いって言われてたんだ」

 僕がそういうと、上鳴くんと瀬呂くんは呆れたように顔を見合わせ、切島くんはちょっと驚いたような顔をしてから、そうかあ、と言ってにかっと笑ってくれた。

 座敷に上がって、黒いシャツに包まれた背中を揺する。

「かっちゃん、迎えに来たよ」

 腕の隙間から覗く顔も、首筋も耳も真っ赤だ。かっちゃんがこんなに酔っ払ってるところ、初めて見たかも。少なくとも、僕と飲む時はこんな風に前後不覚になったの見たことない。……このメンツだし、楽しいお酒だったんだろうな。

「──んん……れく?」
「そうだよ、僕が来たー!」
「れぇく……れく、いうく……」

 いつもは鋭く吊り上がった目がとろんと半分閉じたまま、僕を見る。そのまま僕、というか、僕の頭をじっと見つめていたかと思うと、フハッ、と吹き出した。
 なんだよ、失礼だな?

「やっぱ似とる……」
「なに?」

 そのままかっちゃんの大きな手が僕の頭に伸びてきて、髪を掻き回した。瀬呂くんの、呆れたような、あーあ、という声が聞こえる。

「なに、なんなの?」

 ご機嫌に僕の頭を撫でくりまわすかっちゃんに代わって、切島くんが困ったように、かっちゃんの前に置いてある皿を指差した。
 パセリ?
 よく料理に添えてあるパセリが一つの皿に集められて、ちょっとした山になっていた。

「爆豪が集めたんだよ、それ。飲んでたら、デクが足りない、デクを寄越せ、とか言い出してよぉ……」
「えー……そんなに似てるかなあ?」
「似とる……オレがぜんぶ食ってやるからな……」
「わ、待って、待って、パセリ食べすぎるとお腹壊すから!」

 パセリを鷲掴みにしたかっちゃんの手を慌てて開かせ、僕の方に顔を向けさせる。

「ほら、かっちゃん、僕。本物。パセリじゃない方! 僕と帰るんでしょ?」
「ん。れくとけぇる。お前もオレが全部食う……」

 ぼそぼそと呟きながら、ん、と僕に両手を差し伸べる君。半分閉じた目はとろんとしていて、いつも不機嫌そうに寄せられてる眉も穏やかに緩んでいて、なんだか表情が幼く見える。

 わ、わぁ、なんだよ、君かわいいな!? 思わずギュンと力が入っちゃって、僕、今、すごい変な顔してたと思う。

 かっちゃんの両手が僕の首に回ったので、慌てて自分の財布から万札を抜き出してテーブルに置いた。

「切島くん、これで足りる?」
「おー、十分だぜ! 緑谷もまたいっしょに飲もうぜ」
「うん。ぜひ!」
「気をつけてな」
「瀬呂くん、ありがと」

 そのままかっちゃんの背中と膝裏に手を回してヨイショと抱き上げる。
 何故か、三人から、おー、と感心したような声が上がった。
 これくらいならね。ただ、目立っちゃいそうだな。

「裏から出られないか聞いてくるな!」

 さすが上鳴くん。こういうところ、尊敬しちゃうよね。
 店の裏にタクシーを止めてもらって、かっちゃんを押し込み、僕も乗り込んだ。

 みんなに手を振って、ほっと息を吐く。かっちゃんは向こう側のドアに寄りかかって、目を瞑ったままだ。

「君の家で良いんだよね」
「ん」

 短く頷くと、かっちゃんはゆらりと体を起こして、今度は僕の方に寄りかかって来た。

「か、かっちゃん……」

 君の熱い左手が僕の右手の甲をなぞり、上から被せるように握る。焦った僕は、手を引き抜こうとしたけど、逆に強く握り込まれてしまった。

「……合鍵、使えや」

 僕の耳元に寄せた唇から、吐息混じりの掠れた囁きが流し込まれてゾクゾクする。
 僕が硬直していると、かっちゃんはニヤニヤしながら、僕の手で遊び始めた。にぎにぎ握ってみたり、指を一本一本絡めてみたり……。
 その指遣いが、あの、その、す、すごくいやらしくて。

 僕は常とは違うかっちゃんの様子にも、距離の近さにも、運転手さんに見られてないかな、という緊張感にも目が回りそうだった。自分で分かるくらいに脈が速くて心臓がドキドキしてる。かっちゃん、手のひらはダメだって、手汗がっ!

 そうこうしてるうちにタクシーが停まった。かっちゃんが一人暮らししているマンションは、さっきの居酒屋がある駅前から十分くらいだったはずだけど、僕の体感では一時間以上かかったように思えた。

 車から降りた彼がたたらを踏んだので、肩を貸して、マンションのエントランスに向かう。

「……鍵」

 耳元で囁かれて、僕はのろのろとカードキーを取り出した。貰ってからずっと僕の財布の中で眠っていたそれは当然ながらぴかぴかで、認証リーダーにかざすと、ようやく出番が来たか、とでも言うように高らかに電子音を鳴らし、玄関扉を厳かに解錠した。

 それだけなのに、なぜか僕の脈拍は速くなってしまう。

 逃がさないとでも言うように僕に思い切り体重を預けてきた彼を半ば引きずるようにして、エレベーターに乗り込み、四階のボタンを押し込む。そういえば、ハイツアライアンスでも君の部屋は四階だったなぁ、なんて現実逃避してる間にも、かっちゃんは遠慮なく僕に覆い被さってきて、まるで後ろから抱きしめられてるみたいだ。

 付き合う前は当然ながら、付き合ってからだって、こんな熱を伴った密着なんてした事無い。──あの、初めてのキスの時だって、緊張でプルプル震える僕の肩に君の両手が乗って、それから、口と口がくっついて、なんならちょっと前歯が当たってカツッって音がして、すぐに君は離れてしまって。それだけだった。

 わずかな振動と共にエレベーターが止まり、後ろからぐいぐい押されるようにしてかっちゃんの部屋の前にたどり着く。

「……かーぎ」

 んんっ!? なんだよ、その甘ったるい声!? 君、そんな声出せたのかよ!? 変な個性でもかかってないだろうな!?

 でも、そんな忙しない脳内とは裏腹に僕の手はのろのろと、上着のポケットに向かった。さっきエントランスで使ったカードキーを摘んだ手に、君の手が添えられる。

「開けろ」

 まるで君の意のままに動く人形にでもなったみたいに、僕はゆっくりと扉を開く。

 後ろから押し込まれるように、けれど、僕は僕の意志で中に足を踏み入れる。僕と君の後ろで重い鉄の扉がゆっくりと閉じていき、僕らは世界から隔絶された。

 何度か来たことのある君の家。入った途端に君の家の匂いに包まれる。それは遠い記憶の向こうにある、爆豪家──かっちゃんの実家の匂いに似ていて、いつもはほんの少し懐かしさを覚えるのだけど、今はそんな郷愁に浸ってはいられなかった。灯りをつける暇もないまま、君の掠れた声が狭い空間を支配した。

「……いずく」

 居酒屋にいた時より、少し呂律が回るようになった君に、ひどく大事なもののように名を呼ばれ、僕は立ちすくむ。

「いずく、いずく」

 何度も僕の名を呼びながら、君の腕が僕を後ろから羽交い締めにするように抱きしめてきて、痛いくらいだ。君の匂いがする、君の家の玄関で、君とこれまでに無いくらい密着して、君の体温とお酒の残り香にクラクラする。

『それでもっとキスとかセックスとかしてえと』

 そんな煮えたぎった頭の片隅で、急に轟くんの言葉が再生されて、また一段、心音が速まった。

 ど、どうしよう、僕ら、もしかして今夜、一線超えちゃったりしちゃうんだろうかっ。そ、それはまあ、あの、なんというか、そう、やぶさかでは無いんですけども! いや、あの、その、期待してるわけじゃっ! いや、期待してるかもっ! ……でもっ、せめてシャワーは浴びたいし、そういえばいま履いてるぱんつ、お気に入りのオールマイトのフェイスプリントなのは良いとして、だいぶ着古してるやつじゃなかった!? 擦り切れたりしてなかったっけ……!?

 ぐるぐる考える僕にはお構いなしに、君は僕の耳に流し込むように、いずく、いずくと囁く。アルコール混じりの吐息が熱くてくすぐったい。
 不意に君の腕がゆるみ、今度はその腕が肩を抱くように回って、振り返させられた。

「かっちゃ……」

 僕をじっと見つめる紅い瞳。いつもの剣呑さは鳴りをひそめ、ただ、その奥底に昏く燃えるような光が灯っていて気圧される。
 君の手がゆっくりと僕の頬に添えられて、腹を括った僕は、少しだけ顎を上げて目を瞑る。

 ──…………。…………? 

 ……あれ?

 何も起きないまま、十秒経ち、二十秒経ち……。

 こっそり、そっと、薄目を開けると、まだ君は僕の顔をじっと見つめていた。

「……かわいい」

 ん?

 いま、確かに君の口が動いたと思ったんだけど。幻聴かな?

「お前、ほんとにかわいいな」

 んんっ?

「なんだこのふっくらほっぺは。そばかすはあざてぇ過ぎるし、むにむにのふくふくで美味そうだし、こんなのぶら下げて歩いてて大丈夫か」

 なんて?

「そもそもまろいんだわ。うさぎ組さんの頃から変わってねえ、ばぶ顔しやがって。すぐ攫われちまうぞ。いや、オレが攫う」

 えっと……。

「髪もくるくるでかわいさが天元突破しとる。天使か。天使だな。天国に帰っちまわねえようにどっかに繋いどくか」

 てんし……? て……んし……ってなんだっけ? 

「目もデカくて丸くてきゅるきゅるしてて死ぬほどかわいい。オレの顔見るたびにキラッキラさせやがって、かわいすぎて眩しいんだわ。その目ん玉取り出して舐めしゃぶりたくなンだろが」

 やめろよ……こわいよ……。

「デコもかわいい上にえろい。お前、前髪上げるのそろそろやめた方がいい、しょっ引かれる」

 人のおでこを勝手に猥褻物扱いするなよ!

「ちっせえ口もめちゃくちゃかわいい。両手でデカいメロンパン持ってその口で齧り付いてんの股間に来る。太くて長いもん咥えさせてえ」

 え? え? ちょ、ちょっと、待って!?

「こんなかわいい顔の下にえろい体まで隠しやがって。腰はほせーし、尻から太ももの辺りなんか芸術の域でオレ好み。ほせー足首掴んでひんひん泣かせてえ」

 ひぇぇぇ……ちょっ、まっ、ほんとっ、待ってぇ!

「──なのに、お前は、本当に、」

 君の目が真っ直ぐに僕を見つめて、昏く燻っていたはずの紅い瞳が陽光を宿したようにキラリと輝いて、それは君と僕の憧れを見つめていた、あの日の輝きときっと同じで。

「かっけぇんだ」

 ──ああ。
 ああ、君は。
 君はそんなにも。

「……いずく」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「かわいい。かっこいい。オレのいずく」

 僕は思わず、息を飲む。

「好き。大好き。オレのもん。……愛してる」
「か、かっちゃ……」

 僕が名前を呼んだ途端、かっちゃんはこれ以上無いってくらいに無邪気に笑って、そのまま僕の方に倒れ込んできた。
 慌てて抱きしめるように支えると、耳元ですうすうと穏やかな寝息が聞こえてきて、僕は思わず脱力してしまった。君を抱き留めたまま、ずるずると玄関の上り框に座り込む。

「……なんだよ、君、僕のこと、めちゃくちゃ好きじゃん」

 なんだか目頭が熱い。鼻の奥がツンとする。

「僕も、君のこと、」

 ◇◇◇

 しかめ面で起き出してきた君は、リビングのソファーでくつろぐ僕にギョッとした顔をした。

「おはよう、かっちゃん」
「お、おー。……あー、あれだ、泊まったんか」

 いつもと違って歯切れの悪い君に、僕はくすくす笑う。

「うん、ここで寝たよ。毛布、勝手に借りた。君も僕もお風呂入ってないから、あとで貸して欲しい」
「わぁった……」

 そう言って、君はまたすぐしかめ面に戻って、イテェ、と呟きながら額を抑えた。珍しいことに、どうやら二日酔いみたいだ。

「昨日のこと、覚えてる?」
「──………………………………………おぼえて、ねえ」
「……ふふ、だいぶ酔っ払ってたもんね」

 僕が笑いながら言うと、君はひどくバツが悪そうな顔で僕から目を逸らした。……ふーん。なるほどなるほど。

「ねえ、かっちゃん」

 僕はソファーから立ち上がり、君の側へ一歩近寄る。

「ンだよ」
「僕、君に伝えたいこと、たくさんあるんだ」

 君の顔を下から覗き込むようにして言った僕に、君は驚いたように目を瞬かせた。

 今日は君も僕もお休み。幸い、時間はたっぷりとある。

「君は、僕に言いたいこと、無い?」

 僕がじっと見つめてそう言うと、あー、とか、うー、とか、散々言い淀んだ後で、君は口を尖らせて、照れくさそうに呟いた。

「お前、もっと、うちの合鍵使えや……」

 それがかわいくて、かわいくて! 
 僕は笑い声を上げて、僕の大好きな幼馴染で、素直じゃない恋人に、思いっきり飛び付いた。

— End —

Comments 9

K
KAKLSA5 小时前
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アカリ2 天前

かっちゃんの、たくさんかわいいところを並べたあとにとどめで口から出るのがかっけえんだって言葉であることに、胸がいっぱいになりました。素敵な作品をありがとうございました!

める2 天前
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2 天前
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葉月丸3 天前

めけさんの描くお話本当に好きです…

Sakuria
Where every work blooms
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