Novel19 days ago · 4.7k chars · 1 pages

勝手に震えてろ

ご飯食え!ご飯食え!

徹夜明けの勝とデが喧嘩をした結果、デが家出と称して切shimaくんとトどロきくんと飲みにいく話です ほぼ勝は出ません 轟出っぽく見える箇所が一部ありますが、徹頭徹尾勝デでとドロきくんにもデにもそういう感情はないです

頬を張られたことに気がついたのは、口の中に鉄くささが滲んだからだった。
 あ、と目の前から声がする。僕も驚いていたけれど、それ以上に驚いているのは、かっちゃんの方だった。
 眇められることの多い瞳を見開いている。角膜が全て露出していて、彼の赤はこんなにも美しいのか、と少し驚く。幼い頃から、それこそ親の顔よりも見ている虹彩の色に、今更ながら見惚れた。
「出久、ごめん」
 先ほど僕を張った手のひらが、僕に触れようと伸びてきていた。
 彼が本気で殴ったわけではないとわかっていたし、僕も煽る様な言葉を吐いたから、殴られても仕方ないと頭では理解していた。かっちゃんは徹夜明けで、睡眠が足りていない状態での口論だから、気が普段よりも立っているのは仕方のないことだった。そもそも、僕が伸ばされた手を避けなければ、彼の手は頬に当たらなかっただろう。多分、伸ばされた彼の手は、僕の後頭部を掴もうとしたのだ。
 でも、だ。殴られたのは痛い。どんな理由があっても、それは変わらない。
「触るな」
 僕の硬い声に、伸ばされていた腕ががちりと動きを止めた。
 かっちゃんの顔に、やばいとでかでかと書いてある。僕が怒っていると思っている様だった。そう怒っているわけではなかったけれど、殴られたことに腹が立っていたから、僕は声高に宣言をした。
「家出をします。探さないでください」
 そうして財布と家の鍵がカバンを引っ掴み、テーブルの上にあったスマートフォンを引っ掴んで、かっちゃんと同棲している家を飛び出してきた。
「っていうのが、君たちを誘った理由です!」
 ジョッキを抱える様にしてビールを飲む僕に、轟くんは顔色を変えずに、切島くんは顎が外れるんじゃないかっていうくらいに口を開いていた。
 話してみて思ったけれど、僕もなかなか子供っぽい動きをしていた。殴られたことに腹を立ててそのまま家出なんて、三歳児のようだ。もっと冷静だったら、殴られたことへの謝罪を求めて、その上で対話をするべきだった。人間は口がついているのだから、話をしなければ分かり合えないと常々思っているのに。殴られた痛みで頭が沸騰していたのかもしれない。冷静ではなかった。
「じゃあ、爆豪は家に一人なのか」
 焼き鳥を咀嚼し、飲み込んでから轟くんが聞いてくる。
「そうだと思うよ。僕が家から出てきた時は、そこで固まってたから。切島くんのところに連絡ってきてる?」
 僕の問いかけに、切島くんは顔を真っ青にしていた。髪の毛の赤色との落差が激しい。目がチカチカしてくる。
「鬼電だよ……」 
「わっ本当だ。かっちゃんってしつこいんだね」
 切島くんが差し出した画面には、爆豪と名前が表示されていた。それが一瞬なくなって、またすぐに画面に同じ名前が表示される。どうしてこんなにしつこく切島くんに電話をかけているのか不思議だ。
 疑問が顔に出ていたのか、轟くんが自分のスマートフォンの不在通知を見せながら話し始める。轟くんのスマートフォンにも、大量のかっちゃんの名前が表示されていた。
「爆豪は緑谷と喧嘩して姿が見えなくなると、まず俺に電話をかけてくる。俺が通じねえとわかると、次は切島、瀬呂、上鳴の順番だ。覚えておくといい。この順番に根回しするんだ」
「ありがたい情報だ。覚えておくね」
「なんでこの不在通知を見ても平然としてられるんだよ……」
 未だに激しく振動しているスマートフォンを放り出して、切島くんが酒を煽る。やけ酒の様だった。迷惑をかけて申し訳ない気持ちがあるから、酒代は奢ろうと決めた。
「それで、口論の原因ってなんなんだ?」
 轟くんが首を傾げる。高校時代よりもずっと短くなった髪の毛が額で揺れる。髪の毛は短くなると、どうしてもつんつんとして硬い様な印象を与えるのに、彼の前髪は変わらず柔らかそうだった。
 最後の一口となったビールを飲み干す。タブレットでもう一杯ビールを注文してから、僕は口元をおしぼりで拭った。
「くだらなすぎて、びっくりすると思うよ? 小学生もびっくりなくだらなさ」
「そこまで言われると、すげえ気になるな」
 僕の言葉に、轟くんの声が楽しそうに弾み出した。高校の時よりもずっと表情が豊かになったと思うけれど、声や空気感にも、感情の揺らぎが出る様になったと思う。すごくいいことだ、と、勝手に心が温かくなった。友達が感情を素直に出せることは、純粋に嬉しい。
「爆豪が何かやらかしたのか?」
 かっちゃんが聞けば元から吊り上がった目をさらに吊り上げて怒るだろう言葉に苦笑しつつも、首を振った、
「ううん、今回はどっちって言うか、どっちだろうな。人によるかも」
「どういうことだ」
 切島くんは今でも震え続けているスマートフォンを見て顔を青くしている。電源を切ってしまえばいいのにそうしないのは、きっと瀬呂くんへの被害をなるべく遅らせたいからなのだろう。律儀だ。これも彼の言う漢気なのだろう。
 店員が個室の扉をノックして入ってくる。注文したビールを口につける。きんと冷たいアルコールが喉を滑り落ちていく。まだ理性はしっかりとしている。どこまであけすけに話そうか。うまく話を切り取れないだろうかと考えていると、切島くんが悲鳴をあげた。
「みっみみみ緑谷!」
「なに?」
「爆豪からこれ!」
 目の前に突き出されたスマートフォンの画面には、かっちゃんと切島くんのメッセージのやり取りが表示されている。
 ぽんぽんと連続して届いているそれを読んでいく。

 出久といるんだろ。連絡よこせ。おい、既読ついてるじゃねえか。返信よこせ。SNSでお前と轟と出久が三人で飲んでるって回ってるぞ、写真付きで。おいこら。次会ったらコブラツイスト。4の字固めの方がいいか?  髪の毛毟るぞ。

 未だにぽんぽんと届くそれは、どんどん乱暴な口調になっていく。
 画面を指差す。顔を上げると、これらのメッセージ攻撃を受けている切島くんの顔はどんどん青色を濃くしていた。
「これ、返信してもいい?」
 え、と切島くんが青い顔をしたまま首を傾げる。少し考える様に視線を彷徨わせて、首を左右に振った。
「だめだ。緑谷、爆豪を挑発する様なこと送るつもりだろ」
「あ、ばれた?」
「何年の付き合いだと思ってんだよ」
「ちぇ、残念」
 画面に伸ばしかけていた指を大人しく下げる。
「ちなみになんて送るつもりだったんだ?」
「性欲馬鹿魔神」
 僕がさらりと言うと、轟くんはからからと楽しそうに笑って、切島くんは青い顔をさらに青くしていた。
 ジョッキを半分ほど飲み干すと、だんだんとアルコールが意識の輪郭を曖昧にし始める。僕という人間を構成する理性や思考の壁がふやけていって、ぐんにゃりとし始める。
 この流れなら、どうして家出をすることにしたのか言ってもいい。
 ジョッキに残ったビールを一気に飲み干すと、大量の水分を受け入れた胃が水でたぷたぷする。体を揺すると、ちゃぽんと水の跳ねる音が体の真ん中からした。
 未だに引かない笑いで喉を震わせながら、轟くんが
「それはなんで?」
 と柔らかい声で言う。彼もアルコールに酔っているのか、目尻が少し赤い。大人になって、すっかり青年から大人の男性に変わった轟くんは、以前よりもずっとかっこよくなった。同性であるのに、彼からふっと香り立つ色香にどきりとするのは仕方がないことだ。万が一、轟くんにそんな感情を抱くことがあると知ったら、かっちゃんは猛烈に怒るだろう。
 切島くんは、振動を再開したスマートフォンをテーブルに放置して、諦めた様に酒を飲んでいる。タブレットを抱えているから、いくつかおつまみも注文したのかもしれない。
「かっちゃんが今日徹夜明けで帰ってきたんだけど、僕としては早く寝てほしかったんだ。でもかっちゃんはその、せ、性行為がしたいって駄々を捏ねるから口論になって、それで殴られたっていう」
 ちょうど酒を口に含んでいた切島くんが吹き出す。彼の顎からは、吹き出した酒がぽたぽたと滴っている。僕とかっちゃんの喧嘩の内容に驚いているのは誰の目からも明らかだった。彼の反応が正常だと思う。男同士で交際していることは知っていても、まさか性のあれそれを言葉にしたのはこれが初めてだった。切島くんとは対照的に、轟くんはそんな感情を噯にも出さないでいる。当たり前だと思っているのか、なんとも思っていないのか、その表情から窺い知ることはできない。
「本当に下らねえな」
 轟くんがさらりと言う。はは、と笑いを返しながら、同意した。
「本当にね……明日、僕もかっちゃんも休みなんだから、明日でいいだろって言ったんだけど、疲れマラだわ! って言って聞き入れてもらえず、こんなことに」
「殴られたって言うけど、どっちだ?」
 轟くんの腕が伸びてきて、頬に触れた。ちなみに触れられている頬は張られた方ではない。
「こっちだよ」
 その手を握って誘導すると、優しく人差し指で張られた頬を摩ってくれる。二人を待っている間、頬が腫れていないことは確認していたけれど、こうして触れられると、張られた拍子に切れた口の中が少し痛む。
「腫れてはねえな」
「うん。殴られたって言ったけど、手が当たっちゃったって感じだったから。かっちゃんすぐに謝ろうとしてくれたし」
「お、そうだったのか」
 轟くんの人差し指がまた僕の頬を撫でる。すっと離れていく体温に、かっちゃんはもう少し体温が高い、と寂しくなった。
 でも、まだ家には帰らない。僕の家出はまだ終わらないし、終わらせるつもりもない。今日はまだまだ飲むつもりだ。いつもの飲み会は、終わったらかっちゃんが迎えに来る。今日はそれがないから、何軒目までもいくことができた。
「かっちゃん、きっとびくびくしてるんだろうなあ」
 僕が家出をしたのはこれが初めてではない。でも、家出をしたのは、別れを切り出そうとした時だけだった。今回はそんなつもりは全くないのだけれど、かっちゃんはいつ僕から別れ話を切り出されるのかとヒヤヒヤしているに違いなかった。しかも、いつセックスをするかという、本当に下らない内容で僕が飛び出していったから。
 今、どこにいるのか知らないけれど、きっと後悔しているんだろう。
 僕が言った通り、明日セックスすればよかった、と。
 後悔する内容がそれだと想像すると、可哀想で面白い。
 それまで絶え間なく振動していた切島くんのスマートフォンの振動が止まる。少しの間をおいて、僕のスマートフォンがぶるぶると震え出した。泣いているみたいだった。
 画面に表示されているのは、思った通りかっちゃんの名前だった。
 名前をじっと見て、電源を落とす。
「いいのか?」
 一連の動作を見ていた切島くんが不安そうな顔をしていた。僕は黙り込んだスマートフォンをカバンの奥に詰め込んで、にっこりと笑った。
 タブレットを手に取る。温くなったビールを空いている左手で掴み、一口飲む。熱燗が飲みたくなって、熱燗を注文する。
「たまには自分の言動を振り返って、反省すればいいんじゃないかな」
 きっと、おかけになった電話番号は、というアナウンスを聞いて、かっちゃんは震えているに違いない。
 誰からも返ってこない連絡。ただ、友人といるという目撃情報だけが、彼の持っている情報だった。
 電源を切る前に勝手に震えてろ、と送信してやればよかった。後悔を、温いビールと一緒に飲み込んだ。

— End —

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pixiv事務局19 天前

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Sakuria
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