Novel3 days ago · 4.9k chars · 1 pages

ハードコア焦心苦慮

鈴近鈴近

あらすじ 夢主は考えすぎて調子を崩した    今回出番のある人 アルベド

なんかもう帰れないんじゃね? 私はうっすらと気づき始めてしまった。

 自分で自分の首を絞めて安寧を壊したとしか言いようがない。
 気が塞いでいるときの方が思考は空転するうえに、視野も狭まる。気づいたらそのことしか考えられない。
 意識を逸らすために黙々と働いたが、自分の思考からは逃げられないのだ。絶対に。

 私はじわじわと思い詰めていった。何人かからは直接心配され、(言及を避ける)一部からは迂遠な探りを入れられる。が、すっとぼけることしかできない。

 い、いや〜、だって話せる相手いなくね……? 聞かれるがままに答えて私に導火線を気づかせたアルベドには、もっとまとまってから推論を話したいし……弱音を漏らすにしても「未来が不安」を薄めたものにしかならないよ。今旅人はスメールだし。スメールの認知の書き換え系ってあれはあれで頭おかしくなりそうだよな。
 私もちょっと今自己同一性とか連続性について考えて頭がおかしくなりそうです。

「帰りたい」と思い続けるなら、アルベドが発した、私のルーツにまつわる言葉を突くのは失策だった。テイワットと調和するための調整、(露悪的に言ったところの)改造を甘く見すぎていた。
 状況に対し悲観的になりすぎず、自分の転移を不幸だと思わなかったこともある種の思考誘導だったのだろうか? 

 いや……どうかな……空想と虚構が好きすぎたゆえの適応も確実にあるな……。サバイバルはできないけどメタ読みはできる、それが私。
 君みたいな勘のいい成人済みは嫌いだよ。

 つまり、全部私のことが好きな上位者(仮)のせいにしてはいけないということだ。テイワットでの初期ステータス恩恵、でかすぎるから。
 私のことが好きだから逃がしてくれないかもしれないんだけどねえ!! 超えるな……! 第四の壁を……! 
 ぶっちゃけ「テイワット成分注入」がルーツ単位で起きているとなると、私の存在は最初から地脈に記憶されている可能性が浮上してくる。その線が濃厚になれば私がテイワット(というか世界樹)を汚染する確率は大幅に下がるのだ。問題がひとつ解決する。
 代償として私の帰郷願望の成就が絶望的になるだけで。

 落ち着け……落ち着くんだ……最悪とその次(まだマシ)を考えるんだ……。
 一番嫌な可能性は地球に存在した物理的な私をそのまま引っこ抜いていじくり回してるパターン。失踪系異世界トリップ。
 嫌だと思う理由は多すぎるので省略。このパターンのとき、ピンポイントで都合がいいことが起きているとは思いにくい。

 次善のものが「テイワットにいる私」と「地球にいる私」が別物の場合。
 地球の私が読み手ならテイワットの私は夢主ってわけ。
 情報の統合は前から期待してなかったけど、本体の私がいるのは本当にマシ。ていうかこれが希望。こうであってほしい。

 失踪→時間経過→帰還コンボがマジで一番困る。アイデンティティクラッシュでこころこわれちゃうよ〜。どうやって保護してもらおうね(白目)
 浦島太郎って残酷な真理だ。浦島は逆に周りがみんな死んでてマシのレベル、玉手箱あるし。

 具合が悪くなりながら私はひたすら考えた。
 理性的であろうとすると目をそらしたいことばかり思い浮かんで八方塞がりになるんですけど。
 理性の狂人たちはどうやって健康管理をしているんですか? 浅学のわたくしにも教えてください。修行させてください。

 で、どうなったかって? うつの初期症状がものの見事に出ました! 残念ながら当然。

 いやも〜、悩みすぎて心理的な生存欲求を見失ったのがでかかったね。仕方ないね。
 食欲不振、夜は眠れず朝は起きられない、意欲の低下、慢性的な疲労。自分がどうなっているかも年の功でわかってしまって、三回目の病欠で自らアルベドを訪ねたくらいだ。もう自律神経が乱れて乱れてやばいよ(笑)
 知識があってよかった。おおストレス社会の功罪よ。

 訪ねていった先の騎士団の一室で、私の顔を見た途端にアルベドはわずかに顔をしかめた。
 勧められた椅子に腰掛ければ、話はすぐにつく。

「自分で申告しに来た点は褒めよう。原因に心当たりは?」
「ホームシックです……」
「……ボクのせいだ。すまない」
「察しがよすぎる」
「気づくさ、キミと最後に話したブリーズブリュー祭はもう三週間前だよ。記憶力はいい方だと思っているしね」

 思わず私は目を剥く。

「そんなに経ちました!? お祭りの日付、覚えてないです!! いやまあアルベド先生は正直に答えただけで、そもそも聞いた私が虎の尾を踏んだから自業自得なんですけど〜……」
「過度な自責は今のキミには厳禁だ。それにしても……」

 少し考え込んだあと、アルベドは顔を上げた。

「もしかして既往歴が?」
「黙秘で」
「答えているようなものだけど」
「黙秘で……」
「……キミがそう言うなら仕方がないね」

 軽くため息を吐かれても私は姿勢を変えなかったし、目も逸らさなかった。

 後ろめたくはない。ふと、私の本当の事情を一部把握している面々にも、自分の個人的な過去や背景を話したことがなかったことに気づいた。話す必要なかったからな……。殴られたことが少ないのはバレてるかな……。

 アルベドとしては確認しておいた方がいいから聞いているだけだ。彼の考えがわかっているから私も拒否をする。
「個人的な過去」は誰に対しても語らないと決めた。気の緩みはどこで墓穴を掘るかわからない。
 アルベドはペンを走らせながら、呟くように言う。

「こうなる可能性は観察の初期で気づいていたんだ。よく持ちこたえた方だと思う。だからこそ、ボクは口を滑らせたことを後悔している。ボク自身がきっかけになるなんてね」
「……アルベド先生、なんか共感性増しましたね」
「キミ……」

 アルベドは少し眉を寄せたが、私は納得していた。

 あの「ルーツが知りたかったら」の言葉、人間性薄め時期のうっかりか〜。
 思えば(体感)二年が過ぎてアルベドはかなり表情、感情が豊かになった。情報でしか知らないけど、アリスやクレーと出会ったばかりの頃は伝説任務に輪を掛けて無機質だったらしいし。彼も何年モンドにいるんだっけ? 私は忘れました。

 自分の体験だけでも、保護初日のときは熱に浮かされながらアルベドが瞬きをするか不安になって見てたもんね。さすがに瞬きはしていた。
 いくらホムンクルスでも生理現象はオートマだろう、特にアルベドは「唯一の成功例」なのだから。寝てるときにうっかり呼吸や心臓を止める生命、それって生命か? まずいどんなものや状態を生命と見なすかの哲学が始まる。

 とにかく、それだけ人間味が薄かったのだ。私の現実感のなさを加味しても! 
 そのため私はわずかに感動していた。アルベドが私を解釈し、見守り、私の問いという欲求に自分自身の好奇心と、入力に出力で答えるという結果でミスを犯し、今、心配と後悔を見せていることに。

「指摘をされると、自分がおかしなことをしたみたいに感じるな。不思議な感覚がする」

 つい、私は笑った。

「前より親しみやすくなって、私は好感ありますよ。親しいと感じている相手に心配されるのは、照れくさいけど嬉しいですし」
「そうかい。キミはキミで、ボクの前だと言語化が増えるみたいだね」
「文脈に載せて先生に推測させるより合理的ですからねえ……」
「確かに。実に合理的だ。キミのそういった長所が、結果として疾患に繋がるのはとても歯がゆいけれど」

 アルベドはまた嘆息した。真顔なのに憂いが見えるから解釈って不思議だ……。
 私は足を組む。

「と言っても、今の状態は不安が極まったのが原因ですし。いつかは向き合わないといけないことだったでしょう、『帰りたいのなら』」

 ぶっちゃけテイワット生活をエンジョイしすぎて「帰らなくていいや!」と思うかもしれないことも不安だったので、自分のこの性格には少し安心した。こういうところが我ながら難儀だし、夢がないと呆れるけども。
 でも「今」も人生だからね……。私は所詮週休七日の楽園を謳歌できない人間だよ……。

 なんて考えていたら、今度はくっきりとアルベドの眉間にしわが寄った。
 おっ、ミスりましたね! 物わかりいいせいでネガティブな感情を引き起こすの、困る。人間関係って難しい。

「とりあえず休職をすること。休むことを優先してほしい。ただし寝起きの時間は固定するように。食事は、栄養バランスが整っていれば少なくても構わない。それから適度な運動をすること」
「はあい」
「いっそ、療養のために他の国に行くのもいい。稲妻には夢喰い獏の心理療法士がいるらしいから」
「そうなんですか!?」
「前回の旅行で聞いたんだ。モンドに滞在したこともあるそうだよ」
「へえ〜」

 それ初耳かも〜。やってない時期のプレイアブルキャラかな? 
 あとテイワットって心理療法あったんですね……。局所的な先進……。トラウマの発見が早い。
 というかアルベドのアドバイスも全部理想的な休養のそれだ。心を病む人、わりといるんだな……。

 あー、でも国の間の戦争が少ないだけで、天理の壊滅チャンスと魔物の存在と人間の内乱チャンスがあると。しかも稲妻の妖怪は長命が多い。500年前は世界中大荒れだから、当時の経験から発見と発明がされてても不自然じゃないなあ。
 現テイワットは近代殺戮兵器がないだけで普通に世知辛い。地上に神がいようと楽園はできないものなのか。今いる魔神が自分の国民の味方なだけマシって? 「不完全な神は人と同じ」……? 先生帰って。

 その心理療法士がモンドに来たのも、トラウマ研究の一環だったのかもしれない。そもそも冒険者が常に死の隣で生きている。スタンレーのあれは、自分で編み出した傷を癒す方法ともとれる。自分もそうだが、仲間もいつ死ぬかわからない。
 トラウマという言葉が使われていたかは覚えがないが、心の傷のケアのノウハウは確かに冒険者協会にはあった。

 待って(テケリン!)私はいつか顔見知りの不幸な死の後処理を、仕事としてやらなきゃいけないのか? 
 い、嫌すぎる……。なんて仕事だ……。現代日本で具体的な死から切り離されすぎた弊害!! 
 これだからアウトローの冒険野郎は。くそう。見落としだ。また現実テイワットを甘く見ていた。
 アウトローの冒険野郎ばかりだから身元の怪しい私も飛び込めるけど。街の外はいつもデッドオアアライブ。

 あー、でもそう考えるとシスターにならなくてよかったかも……葬儀の仕事もあるよね、そりゃ……。屠殺は関われるようになったけど他者の死はまだ向き合えないです。
 逆になんで龍災とかオセル解放で人が死んでないんだ。奇跡じゃん。序盤(メタ)という奇跡? 
 稲妻編からは……ね……。

 セルフ追い打ちでちょっと気が重くなったが、稲妻に行くのはありだと思う。少なくとも(旅人と現地の人々の大奮闘のおかげで)今は平和で、容彩祭に参加したことで知り合いがいる。近頃は璃月との船の行き来も活発だ。
 ある程度体調が改善したら、気分転換として短期滞在といったところか。

 モンドにいると仕事のことを考えそうでよくない。すっかり勤勉になってしまった。あと寮の部屋で休養を甘受できる自信がない。働かねばと思ってしまう。
 ある意味湯治だね、稲妻には銭湯があるし。あれ入れる……よな? 現実だし……。湯船はわりと恋しい……。
 さて、旅人にどう話そうかなあ。どのタイミングで切り出すかも……。

「まずは休職の申請ですか」
「うん。他のことは急がなくていい」
「あー、じゃあ心配してくれてる他の皆さんをごまかす話作りも手伝ってほしくて」

 頬を掻きながら情けなく笑うと、アルベドはまたため息を吐く。しかし反応のわりに、すんなりうなずいてくれたのだった。

— End —

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