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テイワット食レポ紀行

妃ユエ妃ユエ

シャフリサブスシチューの元ネタはゴルメサブジと言われています。 イランで国民食として親しまれている伝統的なハーブ煮込み料理です。 ハーブの濃厚な香りと旨味に、乾燥ライムのほのかな酸味が加わった奥深い味わいが特徴です。 肉のコクと豆の食感が調和し、さっぱりしながらも満足感があります。 イランでは、香り高いバスマティライスにかけて食べるのが定番です。 カリカリのおこげ「タフディグ」と一緒に楽しむことも人気があります。 一番力を入れたのは食レポ部分です。

(美味ぁ⋯⋯!!)

ひと匙を口へ運んだ瞬間、思わずそんな感想が脳内を駆け巡った。
素晴らしい、実に素晴らしい。

思わず目を閉じて余韻に浸る。
これはただの煮込み料理ではない。
長い年月をかけて磨き上げられた食文化そのものだ。

味の宝石箱──いや、ティワット風に言うなら味の宝箱と言うべきだろうか。

そんなことを考えながら、私は思わず旅人さんとパイモンちゃんへ向かって勢いよく親指を立てた。
すると二人も満面の笑みを浮かべ、同じように親指を立て返してくる。
パイモンちゃんなど既に二皿目へ突入していた。

「だろだろ!?スメールの料理はうまいんだぞ!」

クルクルと飛び回り得意気である。
可愛い。
旅人さんも苦笑しながら肩を竦めていた。

その様子を見ていると自然と笑みが零れた。
うん、今生での私の幸運は間違いなく旅人さんと出会えたことだと思う。

本当に心の底からそう思う。

だってこの人がいなければ私は今こうして各国の料理を味わうことなど出来なかったのだから。

前世の私はそれなりに大きな企業で働いていた。
給料もそこそこ良く、その大半は外食にあてられていた。
私にとって食事とは単なる栄養補給ではなく人生を豊かにしてくれる幸福そのものだったのである。

そしてそんな私には少し変わった特技があった。
本当に美味しい料理を食べると何故か語彙力が跳ね上がる。
普段の私ならまず使わないような美辞麗句や比喩表現が次々と口を突いて出てくるのだ。
気を付けていても感動した気持ちがそのまま言葉になって溢れ出してしまう。
結果として周囲の客まで釣られてしまうのだ。
まだ注文を決めていなかった客は「そこまで言うなら食べてみようかな」と同じ料理を注文し始め、既に食事を終えていた客ですら追加注文することも珍しくない。

これには店主もニッコリ。
サービスだと一品増やされたり、代金をまけてもらった経験も一度や二度ではなかった。

転生後、フォンテーヌ最大の新聞社であるスチームバード社へ就職してからその特技は思わぬ形で花開いた。
現在の私はグルメコラム担当記者である。

正直に言おう、これ以上ない程の天職だった。

私が記事を書いた店は掲載翌日から客足が目に見えて増え、紹介した料理は予想以上の勢いで売れるのだ。
老舗であろうと屋台であろうと、私が本当に美味しいと思った料理だけを書く。
逆に言えばどれほど有名な店であろうと心から感動できなければ大きく取り上げることはしない。
だからこそ読者も信頼してくれているのだろう。

以前には経営難で閉店寸前だった小さな食堂の店主から、君の記事のおかげで客が戻ってきた、本当にありがとう、と両手を握られた事もある。
私にとってはただ美味しかった料理を紹介しただけなのだけれど。

現在までに掲載されたコラムは写真付きグルメマップとして再編集され既に八巻まで刊行されている。
売上も評価も順調そのもの、取材依頼は年々増え続けていた。
記者人生は極めて順風満帆だった。

⋯⋯移動手段の問題さえなければ。

フォンテーヌ国内で取材をする分にはそれほど大きな問題はなかった。
蒸気船もあれば巡回線も整備されているし、多少時間は掛かるとはいえ国内の主要都市を回ること自体は十分に可能だ。
だが、国外取材となると話はまるで別だった。

飛行機は存在せず、国境を越えて各国を結ぶ鉄道網もない。
移動手段は基本的に船か馬車あるいは徒歩であり、どれも決して効率が良いとは言えなかった。

例えばスメールへ行こうと思えば船旅だけでかなりの日数を消費するし、璃月や稲妻となれば移動だけで一つの取材日程が終わりかねない。

もちろん旅行ならそれでも良いかもしれない。
だが私は仕事として各国の料理を取材しなければならないのだ。

限られた日程の中で店を回り、料理を味わい、記事を書き、次の取材先へ向かう。
それを考えると移動時間の長さは致命的な問題だった。

そんな悩みを抱えながら頭を捻っていた時だった。
同期のシャルロットが旅人さんを紹介してくれたのである。
最初はあまりに突拍子のない話に半信半疑だった。

何でも彼はワープポイントという不思議な装置を利用してティワット各地を瞬時に移動出来るらしい。
しかも本人だけではなく同行者まで連れて行けるというのだ。

聞いた瞬間、先程の疑念も忘れ私は飛び付いた。
当時のことを思い返しても少々必死過ぎた気はする。

でも仕方がない、全国グルメ取材という長年の夢が突然現実味を帯びたのだから。
旅人さんは少し困ったような顔をして「安全な場所しか案内出来ないけど」と前置きをしていた。

私はシャルロットではない。
彼女のように特ダネのためなら事件現場へ飛び込み、遺跡だろうが危険地帯だろうが突撃していくような勇気は持ち合わせていない。
あくまでもグルメ担当であって戦闘能力など皆無なのだ。

むしろ危険な魔物の巣に連れて行かれても困るし、戦場など論外である。

結果として『二泊三日、旅人さんとパイモンちゃんによる観光案内付き各国グルメ取材』という夢のような契約が成立した。

ありがとう、本当にありがとう!
きっと私はこの恩を一生忘れないと思う。

Side 旅人

目の前の女性はシャフリサブスシチューをひと匙すくい上げると、まず香りを確かめるように静かに目を閉じた。
その仕草には妙な丁寧さがあった。

ただ料理を食べるのではない。
まず香りを楽しみ、見た目を観察し、それから味わう。
まるで一皿の料理と真剣に向き合っているような、そんな慎重さが感じられる。

そしてゆっくりと口へ運ぶ。

次の瞬間だった。
ぱっと目を見開き、勢いよく親指が立った。
旅人は危うく吹き出しそうになる。

表情そのものは普段と大きく変わらない。
相変わらず穏やかで落ち着いているがその瞳だけは違った。
まるで宝石のような輝きを宿し、隠し切れない喜びがそのまま表れている。
どれほど気に入ったのか一目見ただけで分かる程だった。

彼女とはシャルロットの紹介で知り合った。
年齢は自分より少し上だろうか。
同じスチームバード社で働いていると聞いていたが、初対面の印象はシャルロットとは正反対だった。

シャルロットは嵐のような人間である。
思い立ったら即行動、興味を持てばどこへでも飛んでいく。
元気で騒がしく常に全力だ。

対して彼女は穏やかだった。
柔らかな口調、落ち着いた物腰、人当たりも良く、どちらかと言えばおっとりしている。

悪く言えば少しぽやぽやとしていて旅人の目には到底危険地帯へ連れて行って良い人物には見えなかった。

だから最初は断るつもりだった。
非戦闘員を連れ回すなど危険過ぎるし何かあった時に守り切れる保証もない、そう考えていたのだが⋯⋯話を聞けば目的は料理の取材だった。

彼女の雰囲気が突如ガラリと変わる。
各国の食文化について語り始めたかと思えば、そこから熱弁が止まらない。
スメールの香辛料文化、璃月の茶文化、フォンテーヌの菓子文化に稲妻の保存食。
料理の話になるとまるで別人のように目を輝かせながら延々と語り続けるのである。

その熱量に真っ先に飲まれたのはパイモンだった。

「すげぇな!オイラも美味いもの大好きだぞ!」

気付けばすっかり意気投合している。
旅人が止める暇もなかった。

結局、自分達の予定が空いている日なら構わないという条件で引き受けることになった。
日当も悪くないし、気分転換にもなる。
何より、契約が決まった瞬間に見せた彼女の笑顔があまりにも嬉しそうだった。
あの顔を見てしまえば断る気も失せるというものだ。

そういえば以前、エスコフィエが珍しく他人を褒めていたことがあった。

「彼女の舌は神の寵愛を受けているに違いない」

料理に対して一切妥協しない彼女がそこまで言うのだから、余程なのだろうと思っていた。
今なら少し分かる気がする。

そんなことを考えていると、隣の席へ見慣れた面々が腰を下ろした。

カーヴェ。
ティナリ。
セノ。
そしてアルハイゼン。

偶然休みが重なったらしい。
軽く挨拶を交わしていると、少し目を離している間に店主が彼女へ声を掛けていた。

「うちの料理はどうだい?」

異国の服装をした客が、これほど幸せそうな顔で料理を味わっているのだ。
気にならない方がおかしい。
彼女は静かに頷くとスプーンを置き、背筋を伸ばす。

そして──小さな口を開いた。

その瞬間、旅人は内心で店主へ同情した。

もう遅い。
その質問をしてしまった時点で、彼女の食レポから逃れることは出来ないのだから。

「運ばれてきた瞬間、その深い緑色に思わず目を奪われてしまいました」

彼女はそう切り出した。
決して大きな声ではなく、けれど不思議なことにその声は自然と耳へ届く。
店内の客たちは最初こそ何気なく聞いていた。
だが数秒も経たないうちに会話が途切れ始める。
食事の手を止める者、飲みかけのグラスを持ったまま固まる者、誰もが無意識のうちに彼女の言葉へ耳を傾けていた。

「艶やかな濃緑色の煮込みからは、パセリやコリアンダーを思わせる青々しい香りと、フェヌグリーク特有の香ばしさが立ち上ります。その奥にはじっくり煮込まれた駄獣肉の旨味と、微かな酸味が隠れていて、香りだけでもこの料理の奥深さが伝わってくるんです」

店主が目を丸くする。
常連客たちも顔を見合わせた。
普段何気なく食べている料理を、ここまで丁寧に言語化されたことがなかったからだ。

「スプーンを入れると、とろりとしたシチューの中からホロホロに煮込まれた駄獣肉と豆が顔を覗かせます。ひと口食べれば何種類もの香草が織り成す複雑な風味が広がり、続いて肉の濃厚なコクが追い掛けてくる。けれど、この料理の本当の主役はそこではありません」

いつの間にか店内は静まり返っていた。
厨房から聞こえていた調理音すら遠く感じる。
誰もが続きを待っていた。

「この料理を特徴付けているのはドライライムです」

数人の客が「ああ」と頷いた。
スメールでは馴染み深い食材だ。
店主も腕を組みながら「分かってるじゃないか」と小さく笑う。
彼女は更に続けた。

「レモンのような鋭い酸味ではありません。熟成した果実を思わせる丸みのある酸味とほのかな苦味が、香草と肉の濃厚さを鮮やかに引き締めています。だからこそ最後まで重たくならず、何口でも食べ進められるんですね」

語るたびに客たちの喉が鳴る。
まだ食べていない者ほど反応が顕著だった。
まるで目の前に料理があるかのような表情を浮かべている。

「そして長粒米と合わせた瞬間、この料理は完成します」

その一言で、米を注文していなかった客が慌ててメニューを見直し始めた。

「粒立ちの良いお米のほのかな甘みが、香草の苦味や酸味を優しく包み込み、全体を見事にまとめ上げてくれるんです。シチュー単体でも十分に素晴らしいですが、お米と合わせてこそ真価を発揮する料理だと私は思いました」

彼女はそこで一度言葉を切った。
けれど誰も話し始めない。
まだ終わっていないと分かっているからだ。

「シャフリサブスシチューは長い年月をかけて受け継がれてきた伝統料理です。家庭や地域ごとに香草の配合は異なりますが、豊富な香草とドライライムを煮込むという基本は変わりません。それは単なるレシピではなく、人々の暮らしそのものなんです」

静かな声だった。
けれど、その場にいた誰もが聞き入っていた。

「香草の芳香、肉の旨味、ドライライムの酸味、そしてお米の甘み。それらが穏やかに重なり合い、派手ではないのに忘れられない印象を残してくれる。まるで長い叙事詩をゆっくり読み進めるような味わいでした」

最後に彼女は微笑んだ。

「食べ終えた後も香草と柑橘の余韻が長く残る。シャフリサブスシチューは単なる煮込み料理ではなく、豊かな香草文化と人々の記憶が溶け込んだ一皿の食文化そのものだと思わせてくれる料理でした」

そして軽く頭を下げる。

「大変美味しゅうございました」

沈黙が落ちた。
まるで講演会が終わった後のような静寂だった。
誰も口を開かない。
誰もが彼女の言葉を反芻していた。

ゴクリ。
やがて誰かが唾を飲み込む。
その音が合図になった。

「あ、あの⋯⋯シャフリサブスシチューを一つ」

一人が注文する。
すると堰を切ったように声が上がった。

「俺も!」
「私もお願いします!」
「追加で二皿!」
「こっちもだ!」
「ライス付きで!」

注文が次々と飛び交う。
店主は口を半開きにしたまま店内を見回す。
どのテーブルからも飛んでくるのは同じ注文、シャフリサブスシチューばかりだ。

「⋯⋯夢じゃないよな?」

誰にともなく呟くけば厨房の奥から妻らしき女性が顔を出した。

「何ぼーっとしてるの!早く作って!」
「は、はいっ!」

店主は慌てて厨房に駆け込んだ。

店内は一瞬でシャフリサブスシチュー一色になった。
旅人は額を押さえる。
既に見慣れた光景であった。

「⋯⋯今日はカレーシュリムプにしようと思っていたんだけど」

カーヴェが苦笑しながらメニューを閉じる。

「なんだか食べたくなってしまったな」
「僕も同感だよ」

ティナリも頷いた。

「ドライライムの話は興味深かった。そこまで意識して食べたことはなかったからね」

耳が僅かに揺れる。
どうやら本気で興味を引かれたらしい。

「理性的に考えても、今ここで別の料理を頼めば後悔する確率が高い」

セノも真面目な顔で言う。
そして、

「俺もそれにしよう」

何でもないことのようにアルハイゼンが告げた。

数秒の沈黙。

「⋯⋯は?」

真っ先に反応したのはカーヴェだ。

「何だ」

アルハイゼンは怪訝そうに眉をひそめる。

「いや、君が人の意見を聞いて注文を変えるなんて⋯初めて見たな、と」
「別に変な話ではないだろう。興味を引かれただけだ」
「だけって⋯⋯」

淡々と返したアルハイゼンにカーヴェが絶句する。
隣でティナリは肩を竦めた。

「むしろ彼らしいと思うけどね。合理的だ」
「そうか?」
「情報を得て判断を変えただけだろう」

アルハイゼンはそう言って再びメニューへ視線を落とした。
まるで周囲の反応の方が理解できないと言いたげだ。

その時だった。

「あら、今日はシャフリサブスシチューのお祭りかしら?」

鈴を転がすような可憐な声が響く。
ナヒーダだった。

彼女は店内を見回し、くすりと笑う。
どのテーブルにも緑色の皿が並んでおり、確かに祭りと言われても仕方がない光景だった。
事情を説明しようと旅人が振り返り、そして固まる。
元凶である女性が店主から包みを受け取っていた。

「これはサービスです!」
「えっ、本当ですか?」

ぱっと顔が輝く。
開かれた包みの中身はナツメヤシキャンディだった。

スメール名物の甘味で他では食べる事の出来ない地域特有の食べ物で、シャフリサブスシチュー同様この店の看板メニューだ。
女性の目が再び宝石のように煌めく。
その隣でナヒーダも興味深そうに小さな身体を乗り出していた。

旅人は悟った。
彼女とはそれなりに長い付き合いなので。

分かる、あの目は危険だ。
美味しいものを見付けた時の目である。
しかも隣には甘味好きの草神までいる。
キャンディを見つめるグルメ記者とキャンディを見つめる草神。

旅人はそっと遠い目になった。

──ああ、終わった。

これから間違いなく第二ラウンドが始まる。
シャフリサブスシチュー祭りの次はナツメヤシキャンディ祭りだ。
十分後には店内の客の半分がナツメヤシキャンディを注文し始め、二十分後には売り切れ、三十分後には店主夫妻が追加生産を始めるだろう。

旅人は静かに確信した。

──今日、この店の売上は過去最高を更新するだろう、と。

— End —

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セシル2 小时前
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どんぐり5 天前
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松庭10 天前
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東北のおこめ10 天前
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推しは萌11 天前

笑うしかない(#^.^#)

瑞輝11 天前
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Sakuria
Where every work blooms
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