Novel2 years ago · 1.3w chars · 1 pages

異世界知識は〝禁忌の知識〟となり得るか

ひ〜らぎひ〜らぎ

トリップしてしまった原神プレイヤーの成人女性が、自分の今までの経験が世界樹の病となり死域や魔鱗病を生み出した〝禁忌の知識〟になるのでは??とアイデアクリティカルしつつも関係者各所から庇護される話……の、導入。 ※本文の注意事項必読※ 思ってた以上に長くなったので一旦投げます。続いたところでアルハイゼンとどうなるかは分からないです。 アルハイゼンの動かし方が難し過ぎて言動がフワフワしている気がする。

注意

・スメール編までプレイ済み。ゲーム本編以外はほとんど未読。

・フワッと知識です。フワッとお楽しみください。

・誤字脱字はスルーでお願いします。

楽しんで頂けたら幸いです。
____________________________

「怪我はない?」

_______全ての始まりは、だだっ広い草原で金色の旅人に助けられたことだった。

私は、この『テイワット』の人間ではない。

散歩へ行こうと扉を開けたら異世界で、混乱のままに魔物に襲われ、助けられたのだ。本当の本当に意味が分からない。

旅人は蛍と名乗った。彼女もテイワットの人間ではないが、この世界のどこかにいるであろう血縁者を探していると言う。そばにいたガイドのパイモンがその助力をしていて、今はこのテイワットの言語や文字を教えているところなんだとか。

この時点で私はキャパオーバーし、熱を出した。丸三日寝込んだ。当たり前だ、許容範囲内であってたまるかこんな奇天烈な現象。そこまで豪胆に生きてないし、豪胆に生きる必要もなかったんだよ。

三日間、際限のない頭痛に苛まれながら考えた。

私は、元の世界に帰りたい。

全てを置いてきてしまった。家族や友人もそうだけど、やりたいことも買いたいものもたくさんある。読みかけの本や販売開始を今か今かと待ち続けたゲームもある。今の職場にだって、ようやく慣れたところだった。安定した生活の全てを捨てられるほど、私は強くない。

何より私は『原神』の続きを待ち焦がれる立派なプレイヤーだった。だからこそ分かる。

「現代人にテイワットは無理」

「うなされてる割に、いやにハッキリした寝言だな……」

パイモンのツッコミは無視した。

街を出れば蔓延るスライムにヒルチャールにその他諸々。
スライムはともかく、ヒルチャールには姑息とも言える知能がある。もちろんその理由には心痛を覚えるが、今はそれに気を取られている場合じゃない。

アビスやら何やらの魔物を除外したとしても、ファデュイだの宝盗団だの普通の詐欺師だの何だのがいる。良い人と嫌な人の差が凄いんだテイワットは。だからこそ分かりやすくて助かるが、生涯関わらずに済むならそうしたい。

あと、一つ懸念事項がある。

それはまあ、正直不確定要素が多いと言うか、私が知っている『原神』のストーリー内ではあまり深堀りされなかった。だから情報が少なくて断言は出来ないのだが、無視することも出来ない。

……まあ、旅をすれば自ずと分かるだろうし、何ならそれを知るまでに帰ればいいか。

「もう平気か?頭は痛くないのか?」

「うん。状況は整理できた。何としてでも私は帰る」

「それがいいと思う。……行こう」

私はテイワットを去るために、テイワットの旅を始めた。

____________________________

あれから、様々な国を旅した。数としては三つ。
モンド、璃月、稲妻だ。

事細かに語るのは煩わしいのでざっくり行こう。

モンドでは風神と出会った。帰れなかった。

ついでに酒場で度数が強くて慣れない酒を出され、私は見事にぶっ倒れた。以降、どこの酒場に行こうとも酒は出されない。好きと言うわけでもないしありがたいんだが、各店に「未成年だから」で通すのやめてディルックさん。国民性ゆえに童顔なだけなんですよ、成人済みです。お酒出したの貴方だし知ってますよね。

騎士団に行けば蛍は『栄誉騎士』としてもてなされ、信頼の眼差しと共に依頼を受けている。
それに反して私はフカフカのソファに導かれた後にブランケットを膝にかけられる。蛍が帰るまでそのままだ。何でだ。断ろうにもリサさんやらガイアさんやらジンさんやらの誘導が上手すぎて抗えない。何でだ。ありとあらゆる世話を焼かれるので、動こうとすると横にアンバーさん、膝にはクレーちゃんが乗る。かわいい。……いや違う何でだ。ア待ってドドコちょっと怖い。

ドラゴンスパインに行った後はソファ誘導にアルベドさんが参戦した。やめて。

璃月では岩神に出会った。帰れなかった。

岩神モラクスもとい鍾離さんに、璃月を中心にテイワットのことを教えてもらった。流石の博識さにミーハー心も相まって色々聞いてはウキウキしてたら「幼子はいつの時代も愛らしいな」と笑って言われた。成人済みです。
仙人の魈さんは初対面以降、会うとやけに遠い。蛍経由に聞けば「我の業障は、繊細な幼子には近寄るだけでも毒になりかねない」と。成人済みです。
人の姿をあまりとらない仙人達からは時々清心や夕暮れの実を貰う。理由を聞けば「よく食べてよく寝ることが、幼子の役目であろう」と。清心は食べませんが成人済みです。
ファデュイのタルタリヤさんには「君を使えば仙人や鍾離先生と戦えるかな?」とか光の無い目で言われてぺっしょぺしょに泣いた。後にタルタリヤさんに謝らせる蛍は強かった。

稲妻ではピン婆やから貰った壺に引きこもった。戦争真っ只中の祖国に似た国、というのはちょっとショックが強かったのだ。温室育ちなので。

鎖国解除後に、蛍に会って欲しいと言われて神里家の綾華さんに会った。可愛かった。だがしかし蛍と三人で女子会してたら、知らない間に知らない足長男がニコニコ同席してて、驚きのあまりぺっしょぺしょに泣いた。よくよく見たらトーマさんだった。私の涙腺はストレスでおかしくなっているのである。

大慌ての二人とトーマさん。泣き止もうにも止まらず自分でも困惑していると、神里家内で騒ぎが大きくなって、果ては綾華さんの兄であり当主の足長男が出てきた。怖くて泣いてるとこに胡散臭い奴連れてこないでください。
後に綾華さんの兄、綾人さんのお友達(?)の鬼(??)や雷神とその眷属の狐巫女が出てきた時点で、私は動じることをやめた。知っててもリアルで見るとまあまあ驚く。

なんか、ちょっと、いやちょっとどころではなく何かおかしくないか??

結局長くなってしまったが、長くなった理由も分かるだろう。どう足掻いたっておかしいだろこれは。なんか、こう、やんわり庇護されてないかな??真綿で包むような優しさが逆に居た堪れない。文字を書くだけで「綺麗に出来たね」じゃないんだ。

「自立しなきゃいけない世界で、自立心を奪われる……なぜ……」

「うーん。泣き方が、ちょっと?」

眉を下げて笑う蛍。
意味によっては泣き喚くよ、その発言。

「まあ嫌われてるわけではないし、好きにさせておいたらいいんじゃないかな」

「そうだぞ!それに、ただソファに座ってるだけで美味い料理が出てくるなんて、オイラはどれだけ羨ましかったか!!」

「じゃあ変わってよぉ……」

それなりに真っ当な社会人として、それなりに自立していたつもりだったんだ。なのにそのなけなしのプライドと自立心をやんわり嗜められる気分が分かるか。モンドと稲妻はまだともかく璃月は「幼子」。意味もなく泣けてくる。私は成人済み……だよね?

まあ、そんなことは今はどうだっていい。
蛍の言う通り、好意でやってくれてるんだから放っておくくらいでいいだろう。
次また行くことがあれば、手土産を持っていこう。やめてくださいの意を込めて。

現在地、スメール。
知恵の国と謳われるそこは、他の国よりも自然そのものにより密着した生活風景だ。巨大な木の中に教令院があるのも正直ワクワクしたのは記憶に新しい。

そして、既に革命は終えられている。
大賢者とその他一部の学者は教令院を出ていき、既に新たな草神クラクサナリデビが治めている。

一悶着どころではないことがたくさん起きたし、彼らはサラッと砂漠を横断しようとか言い出すのでヘェヘェ言いながら歩いた。涙は出なかった、全て汗となって流れたので。

蛍には何度もアアル村か壺での待機を勧められたが、何としても知りたいことがあったので無理を押してついていった。死ぬかと思ったが、その甲斐はあった……と、思いたい。

私が知りたかったこと、そしてこの世界で旅をするにおいての最大の懸念事項。

キングデシェレトの『禁忌の知識』である。

キングデシェレトは『禁忌の知識』と呼ばれる〝この世界に属さない知識〟をこの世界に降ろしたからこそ、世界樹は病に冒された。

私は異世界の人間だ。
〝この世界に属さない人間〟と呼んでも過不足はないはず。ならば、私の元の世界の知識もこの『禁忌の知識』に当たるのではと、この世界に来た最初の三日間で考えた。原神をスメール編までプレイして日が浅かったのが功を奏したと言うべきか。

それが正しい推測なのかは分からない。試す気もない。たくさんの人が命をかけてナヒーダを救い出し、マハールッカデヴァータは存在そのものを消滅させてでも世界樹を救った。誰も覚えていなくても、私と蛍が覚えている。

その犠牲と覚悟を無碍にしてまで試したいことではないし、何より軽率に漏らした些細な知識がコレイのような人を生むのかと思うと、責任と罪が重すぎてぺっしょぺしょになる。

念のため、パイモンが寝静まった後に蛍にも相談している。彼女も私に賛同してくれた。もちろん確証があるわけではない。だが、彼女も私もいずれこの世界を去る者だ。であれば、それが善行で無いなら余計なことはしないに限る。

とか何とか思ってたんだがなあ!!!

「〝異世界の知識〟……ふむ、興味がある」

「死にたいのか???」

「あいにく、そう言った願望は無い」

自称文弱書記官様は、どうやらこちらの心労を理解してくれないらしい。しろ。

____________________________

ナヒーダのためにスメールを駆け回っていた頃、正直アルハイゼンさんとは会話という会話はあまりなかった。

というか、どこの国でも本編ストーリーとなるところで私が介入する必要はない。
元より〝禁忌の知識〟の件で口数を少なくしていたこともあり、本編中は相手にガン無視されることもままある。別に傷つきはしないんだが、正直居心地は悪い。だって戦力にもならないのにいるからね。ひたすら後方支援である。

なので大抵全てが終わった後が交流の始まりになるのだが、アルハイゼンさんも例に漏れずそうだった。

ズバイルシアターにて、セノさんのための祝いの席に招待するため、アルハイゼンさんを知恵の殿堂に探しに行った時だ。
ずっとドタバタしていたので、じっくり知恵の殿堂を見られたのはそのときが最初。

本という娯楽が大量にある知恵の殿堂にて、私はそれもう大はしゃぎしたのである。

「おお……!おぉお……!!!」

「おーい!聞いてるのか!アルハイゼンに伝えられたし、もう行くぞ!」

「……意外だな。以前俺が読んでいた本には反応が薄かったから、てっきり本にはあまり興味がないのかと思っていたが」

「あのときは彼女も必死だったから」

パイモンの声はもちろん聞こえているが、それ以上に次々と目に飛び込む本のタイトルが片っ端から気になってしょうがなかった。

ハッキリ言って、この世界には娯楽が少ない。いやもちろんあるにはあるが、現代人であった私には馴染み深い娯楽も無ければ片手間に出来るものも無い。

旅を始めてから涙もろくなっていたのは、そういった慣れない環境へのストレスを発散するのが難しかったからなのも一因だ。泣くことでしか直接的な発散が出来なかった。

ちなみに私はそこまで本が好きというわけでは無いが、大前提としてここはテイワット。ゲームの中で作られた世界。そして私はプレイヤー。

まあつまりだ。どれだけ難解な学術本であろうと、それらは全て〝テイワット大陸のコアな設定〟として見ることができた。
もちろん学術本の全てが正しいわけではない。検討外れな論文もあるだろう。
だが、そういう人間がいたという演出や設定として私は捉えられたのだ。よくある『メタ思考』である。

元々原神のストーリー内では、明らかに勘違いしていたり、検討外れな憶測を並べたりする教令院の学生はそこそこ出てきていた記憶がある。過激な思考や見当違いな意見が出てきても今更だ。

なのでセノさんの祝賀会の後、私はそれはもう読み漁った。
久々の娯楽だったし、全てが終わって開放的になっていたのもある。未だ帰れないという現実から目を逸らしつつもヒントが無いかと縋っていたのも認めよう。

知恵の殿堂は貸し出しこそ教令院の身分が必要になるが、現地で読むくらいなら許される。何より功労者は蛍とはいえ、その付き添いとして多少の知名度もあったから、すんなり入れた。

「……昨年の知論派の学生による卒業論文か。先日は生論派の論文だったが、君は具体的にはどの分野に興味を持っているんだ?」

「こだわりは特に。内容が被っていても視点は違いますから、これがまた面白くて」

「なるほど。学ぶ目的ならずいぶん非効率的なやり方だが、君はそうではないらしい」

そんな私をたまに見かけていたらしいのが、アルハイゼンさんである。呼びに行ったときに目をキラキラさせて本を眺めていたのが印象に残ったらしい。

本人には不本意でも、代理賢者の地位に就いた以上は多忙になる。会う回数こそ少ないが、知恵の殿堂に来れば挨拶くらいはした。
少ない休憩時間を過度に邪魔されるのを嫌う人なのは誰が見たって分かるだろう。それを許されるほど好かれているわけでもないしね。

ただ向こうからすると、あたかも娯楽のように論文を読んではニコニコしている私に思うところがあったらしい。

聞けば「教令院の学生でさえ、本を読み知識を得ることを楽しいと感じる者は少ない」と。
恐らくアルハイゼンさん自身が本から知識欲を満たすことを楽しむタイプなので、私のこの行為に対して共感されたと捉えていいのだろうか。

とはいえ、教令院は知恵を得ることが出世の道に直結し、その知恵を持って明確な結果を残さなければ肩身が狭くなる世界だ。
行く末どころか明日の我が身に直結するのだから、よほどの天才でない限り娯楽のようにやってる場合ではない。「楽しい」と思えないのはしょうがないとは思うが。

……その余程の天才が、アルハイゼンさん達なのだろうけども。私をそこに並べられても困るなあというところである。

蛍達が日々依頼をこなす中、彼女達に許可をとった上で知恵の殿堂に入り浸る。もちろん必要なときは出向くが、そんなときは早々無いのである。だって雑魚だし。

何より蛍は、私が帰りたいと願う心を誰よりも理解してくれている。知恵に縋る私の思うままにさせてくれているのだろう。

すると自然と交流が増えるわけで。そのおかげで徐々に私の中で彼への警戒心と緊張が薄れ、些細な心の声も独り言のように溢れるようになっていった。

そのせいで、ポロリとこぼした言葉が運命の分かれ目だった。

「星が運命を示す……??相変わらず分からない……星はただの星であってここまで明確に運命を示すことはありえないっていうか価値観の違いっていうか」

「『ありえない』?」

ア、やらかした。

咄嗟に言葉が喉の奥に押し込む。しかし既に遅く、一つ空席を挟んで隣に座っていたアルハイゼンさんの特徴的な虹彩は、寸分違わずこちらを射抜いている。

「〝星が運命を示すことはありえない〟」

「ウッ」

「驚いたな。君に明論派の存在そのものを否定する度胸があったとは」

「ウゥッ……!!ちがくてぇ……!」

「違う?俺は君の言葉を寸分違わず理解した気になっていたが、間違いだったようだ。是非とも理解出来るよう説明してもらいたい」

私の世界ではそういうのはあくまでちょっとした占いの範囲であって……なんて言い出せるはずもない。墓穴にも程がある。いやもう既に掘ってるんだけども。

それはそれとしてガン詰めしてくるの怖いよぉ!!!

「……勘違いしているようだから訂正しておくが、俺は君が明論派を否定したことには何も感じていないよ。ただその根拠が気になるだけだ」

「根拠……」

「〝価値観の違い〟と言ったな」

隠し切れる気がしなくて力無くオウム返しする私も気にせず、アルハイゼンさんはまるで詰め将棋でもするかのように退路を塞いでいく。尚、本を開く姿勢は微動だにしない。怖い。

「学習不足からなる学術の否定はよくあることだ。理解出来ないものに対して憤りを感じて感情のままに否定する、無知を晒す行為と言えるだろう。だが君のそれは明確な根拠、あるいは経験則からなるもののように感じた。でなければ〝価値観の違い〟など言葉は出ないだろう」

「はい…………」

「ずいぶん声が小さいな。周囲を気にしているのなら杞憂だ。今は昼時だから、人は少ない。多少会話をしていても邪魔にはならないよ」

全てを理解した上でわっかりにくいジョーク挟んでこないで……。いやこれ気遣いか?萎縮する私に、萎縮しなくていいよって言ってる?腹から声出せって言われてるのかと思ったが?どう足掻いても怖いが??

「話を戻しても?」

「はい…………」

逸らした覚えもないんだよ。

そんなこと言えもせず、淡々と語り続けるアルハイゼンさんに私はソッと白旗を上げた。ぺっしょぺしょに泣いた。

そしてあの発言に戻るのである。

「〝異世界の知識〟……ふむ、興味がある」

「死にたいのか???」

「あいにく、そう言った願望は無い」

_____________________

「なるほど、禁忌の知識による世界樹への影響か……確かに無視していいものではないな」

キングデシェレトの遺跡にはアルハイゼンさんもいた。禁忌の知識の根源を知った数少ない人なのだから、話の理解が早くて助かる。

内容が内容なので場所を移動して、アルハイゼンさんの執務室。人払いをしてあるので気兼ねなく話せるのは利点だが、逆を言うとアルハイゼンさんと二人きりである。緊張で泣きそう。

私が話したがらない理由を聞いて、自ずと口数が少なかった原因も理解したらしい。
しばらく思考し続ける間、ものの見事に放置されていたので居心地が悪い。再三言うが、そもそもあまり親しいわけではないのだ。

「…………こうするのはどうだろうか。
君が持つ異世界の知識が、どこまでなら害とされないか検証をするというのは」

「世界樹チキンレースしようとしてます??」

「では聞くが、君は突然こちらに来たと言ったな。ならば、今までの習慣や仕草が『禁忌の知識』になるのか?もしそうなら、君の存在そのものが禁忌と言えるだろう。何の影響もなくここにいるとは思いづらい」

なんか、この光景見覚えがある気がするな。

「君の言語や身体的特徴、毛髪の一本でさえ異世界のものと言えるだろう。だが君を中心に死域や魔鱗病が広がったと言う事実はない。では君が知る異世界の歌やダンス、異世界の風景を描いた絵、生活の知恵、服装、基本とされる学問、専門的な知識は?……それら全て、明確に線引きが出来るのか?」

無理だ。
というか、その線引きのリスクが高過ぎるからこそ私は沈黙を選んだのだ。
過去を振り返り、それを他者と共有出来ないというのは少し寂しかったが、その程度のメリットは我慢出来る。……正確には、我慢出来ていた。

薄々察していた。そう簡単には帰れないと。
下手すれば蛍の旅が終わるまで私は帰れない。それはどれだけ先のことだろうか。
先の見えない現実と無情にも過ぎ去る時間が、私の決意に綻びを生む。

寂しい。

どれだけ手厚く対応されてもいずれ去るのだから、良い宿であっても帰るべき家にはならない。根無し草のように生きていたわけではない私には、その事実は少しずつ心を蝕むものだった。今となってはそれも無視できないほどになっている。

視線を落とした私に、アルハイゼンさんは更に言葉を並べる。

「不用意に知識を漏らさないと言う君の判断は正しかった。だが、その現状に納得していないならば納得出来るよう、突き詰めるべきだ」

「…………アルハイゼンさん」

「何だ」

「やけに饒舌に説得されてますけど、結局自分が異世界の知識を知りたいだけですよね」

「そうだが」

そうだが。じゃないんだよ!!!!!!

既視感コレだよ!!見覚えあると思った!!!言いくるめられるときの景色だこれ!!!!!

エ"ーーン助けて蛍!!!!!!!

_____________________

夜のランバド酒場の喧騒の中で淡々と言葉を連ねる姿は、ハッキリ言って浮いていた。

「君は何か誤解していないか?俺は確かに自分の知識欲を満たすことを目的としているが、それは本心の一部に過ぎない。一番は……何故一歩下がる?」

淡々としているアルハイゼンに対して、口元を引き攣らせて半泣きで距離を取る旅の仲間。
いつもは口が達者なパイモンも、何をどう突っ込めばいいのか分からなかった。

旅仲間である彼女は、自身が非力なことを誰よりも理解している。パイモンはその身軽さを利用してどんな場所にも蛍についていくが、彼女は引き際を見極めて帰りを待つのが常だった。

それに少し寂しさを感じながらも、彼女が辛い目に遭う方が嫌だからとパイモンはいつも必ず約束をしてから出発する。必ず帰ると告げれば、泣き虫な彼女はいつも笑って見送った。

泣き虫な彼女は、泣く時はいつも声を抑え込む。大人としてのプライドからか、ギュッと口を引き結んでポロポロと大粒の涙をこぼす。そのくせ眉を下げて寂しそうで、まるで心のままに泣くことを禁じられた子どものような顔をする。
童顔なのも相まって、妙に罪悪感や庇護欲を誘うそれに、分かっていてもパイモンは慌ててしまう。

だから、だろうか。蛍が色んな人から尊敬や信頼を勝ち取る中、彼女は庇護を勝ち取っていた。その庇護があるからこそ蛍とパイモンは彼女から離れられるのだが、時折面倒なタイプを引き寄せる。

蛍が彼女と旅をして守っているから誰も言わないが、恐らく「彼女が死ぬまで世話をしてほしい」と頼めば快く引き受けてくれそうな人達が少なからずいる。何なら即断即決されるし二度と一緒に旅が出来なくなる、とパイモンも蛍も気付いていた。誰とは言わない。

けれど彼女の理解者であり揺るぎない強さがある蛍がいなければ、スメールまで彼女は辿り着けなかったと断言出来てしまうくらいだ。よっぽどであると察してほしい。

「えーと……アルハイゼン、どういう風の吹き回しだ?というか、お前達がそんなに仲良くなってるなんてオイラびっくりしたぞ」

「ただ単に興味がある、それだけだ」

「でも、さっき『知識欲を満たすのは本心の一部に過ぎない』みたいなこと言ってたじゃないか」

「それは知識欲の話だ。目的のほとんどは、彼女の憂いを晴らすことにある」

「うへぇ……なぜ…………」

哀れ。今までの過ぎた庇護に対して察するところがあったのか、彼女は理由のわからない好意を怖がる節がある。隣に座る蛍の服の裾を握った。そういうとこ。蛍はそっと服から離した手を握った。

「君は学びを楽しみ、地頭も悪くない。ただそれを発揮出来ない状態にあるのは『禁忌の知識』への怯えが原因だ」

アルハイゼンの目は現実逃避も許さないほどの好奇心を訴えかけている。言葉こそ優しいが、その話し方が彼女に最も有効であると理解しての言動なのだと、蛍だけは気付いてる。

「恐怖とは、大抵が未知への本能的な拒絶にある。なら未知を既知にすればいい。出来ることと出来ないことを理解すれば、今よりも彼女の心は自由になる。そしてより学びを得れば、教令院に入ることも不可能ではないだろう」

「急な教令院。ちょっとそれは買い被りすぎでは」

「君の視点は面白い。憂いさえ晴れれば現在教令院に在学している生徒のほとんどよりは期待出来るよ」

「やめてあげて」

蛍は察した。
そして遠い目をする蛍を見てパイモンも察した。

アルハイゼンが庇護欲のまま動くとは思いづらい。彼の理性は頑強であり、いつだって冷静だ。
けれどそれは決して、彼自身の感情を抑え込んでいるわけではない。むしろその逆。

だからこそ蛍とパイモンは引くわけにはいかなくなった。

「アルハイゼン、少し強引な気がする。少なくとも検証すること自体、彼女は望んでない」

「ならこれから先ずっと黙り込むつもりか?いつ終わるかも分からない旅が終わって尚〝帰る〟という目的が果たされなかった場合は?……元々そういった性格の人間なら苦ではないだろうが、彼女はそうではないように見える」

「あなたの言うことも分かる。けれどリスクの大きさと、それを心配したからこそ沈黙を選んだ彼女の意思を尊重してほしいと思うよ」

「そうだぞ!それに、何も昔の話しか話題が無いわけじゃないしな。オイラ達はたっくさん旅をしてきたし、それについては話せるんだからずっと黙ってるわけじゃないぞ!」

「それは根本的な解決にならない。過去を共有したいという願いと未知への恐怖から来るストレスだろう。今の話では意味がない。現に彼女は自身の意思に反して泣いてしまうことが多々ある、抱えきれないストレスがあることの証拠だと思うが」

ワァみんな饒舌ぅ。

話題の中心たる女はぺっしょぺしょに泣いていた。他の席は暖かくて楽しいランバド酒場なのに、ここだけドラゴンスパインより寒い。両者絶対に引かないと言う意思を感じるし、当事者なのに口を挟む隙のない討論は大層居心地が悪かった。

隣の席の人が気まずそうな顔をしている。ほんとすみません。

_______彼女は、アルハイゼンがここまで食い下がることに異様さを感じていた。

スメール本編を旅した当時には感じなかった熱量。彼女しか知らない異世界知識に希少性を見出しているのか、本当に彼女の頭脳に価値を感じているのか。どちらにせよ、それは蛍にもあるものだ。
なぜ私なんだと、ぺっしょぺしょになって考える。

不意に、アルハイゼンの言葉が浮かんだ。

_______視点。

アルハイゼンは「視点が面白い」と言った。それは『原神』というゲームを知るからこその『メタ的な視点』である。現実として旅をする蛍にはないものだ。

彼女は、世界から提示される情報に無駄はないと知っている。
些細な日常会話、落ちている本、ただ通りかかるだけの人。この世界の全てに何かしらの意図があると考える彼女は、他人から見れば思いもよらぬ点と点の繋げ方をする。そしてそれが本当に合っていることの方が多かった。

もちろんそれはゲーム本編から得た知識も含まれている。だが突拍子が無いようで鋭い考察には、アルハイゼン以外にも興味を抱く者がいる。純粋な興味を抱く者、危機感を抱く者、利用出来ないかと思考する者。

しかしそれら全ては蛍とパイモンにより叩き落とされてきた。そんなことを知りもしない彼女は勝手に納得した。メタ的な視点を面白がられているのかあ、と。あまりに呑気である。

そうこうしているうちに、少しの静寂が訪れる。絶え間ないリレーがようやく途切れた瞬間だった。蛍が重いため息を吐く。

「引いてくれないんだね」

「オイラ達がこれだけ言っても聞かないなんて、どんだけ興味があるんだよ!!」

「〝異世界の知識〟を得られる機会がそう多いとは思わない。リスクに関しても本人が自覚しているなら、安易な発言はしないだろうと判断した」

蛍はアルハイゼンから視線を外し、隣で一人納得したような顔をする仲間を見る。

スメールにおいて、彼女を過度に庇護する者は現状いない。強いて言うならティナリが死域や地脈の影響を心配したり、セノとディシアが不慣れな砂漠という環境から来る負担を気にしていたくらいか。どちらも許容範囲内と言える。

アルハイゼンのコレが完全なる庇護欲からくるものかは判断しきれない。しかし悪いようにはしないだろう。蛍としても、彼女のストレスに関しては対応しかねていたところである。

蛍はこの世界の人間ではない。テイワット大陸のことを知らない以上、何が禁忌となるか判断がつかないのだ。ガイドのパイモンは少し幼いし、このスメールで知恵を得続けるアルハイゼンの方が適役と言えた。

旅へのストレスはどうしようもない。彼女の目的が変わらない以上、なるべく負荷をかけないよう気遣うしか出来ない。だが、禁忌への不安と恐怖を緩和させられれば、それは心理的にかなり助けになるはずだと、蛍は判断した。

「どうする?」

「うぇぇ…………」

「彼を信じる?」

端的な言葉だが、蛍がアルハイゼンの提案を了承したのだと彼女は理解する。
例え過去を共有出来なくとも、未知と禁忌への恐怖が薄れることは大きなメリットである。

うーんうーんと少し考えて、彼女はゆっくりと頷く。それを見たアルハイゼンは満足気に目を細めた。

「いずれ君が後輩となる日を期待しよう」

「期待が重いよお……!!こわいよぉ……!!!」

早まったかもしれない。

____________________________

トリップ主人公
・帰りたい成人女性。不慣れな旅と異世界にストレスがやばい。
・地頭は良いし勘も冴えている。「この世界はゲームである」という前提の認識から来るメタ的な視点もあるので、全く関係のなさそうな話でも関連付けて考えることがよくある。側から見れば洞察力がとても優れた人間に見えていることへの自覚は薄い。
・テイワット大陸の女性の平均よりも筋肉がない。戦闘も自信が無いし、意識的に無口になっているので意思表示も少なく、泣くと声を抑えるのでテイワット住民から見れば意思表示の仕方を知らない子どもにしか見えない。
・平和な世界の温室育ちなので戦闘を見るのもちょっと怯えてしまう。蛍が通りがかりにファデュイや宝盗団を殴っていくのを見てなんとも言えない顔になる。どっちも物騒でコワイヨォ(ぺっしょぺしょ)。
・テイワットのことを教えてあげればウキウキニコニコしてるので主に大人組がニッコリしている。はーい庇護庇護。
・尚、本人は過度な庇護が純粋に申し訳ないし、意図が読めなくて怖い。

蛍・パイモン
・守らねば…………。
・庇護されることを彼女が受け入れているならともかく、若干怯えているのでどこにもあげる気はない。
・ギミックの解除や洞察力に優れているので頼りにしている。
・最高の仲間!

過度な庇護をする人たち。
・「健やかに生きろ……」と言う人と「下心はあるがそれはそれとして外で生きるには弱くて優しくて危うい」と言う人と「子どもは巣立つまで守るべきだろう」と言う人達がいる。

— End —

Comments 16

すてら4 个月前
Sticker
アストレア2 年前

その「死ぬまで世話をしてほしい」に頷く人の枠に、絶対「元」がつく岩王帝君が入ってるでしょ(笑)健やかに生きろ派なのか巣立つまで守るべき派なのかはたまた全部なのか気になりますね(笑)

アルストロメリア2 年前
Sticker
雪羽2 年前
Sticker
しちみ2 年前
Sticker
2 年前
Sticker
クロ2 年前
Sticker
2 年前
Sticker
豆捻2 年前
Sticker
2 年前
Sticker
あめ2 年前
Sticker
L
LUNA2 年前

続き待ってます!!

Sakuria
Where every work blooms
Click anywhere to skip