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一皮剥けたい少女達

まーまー

猫猫の仕返しで壬氏様がどんな状態になったかは、それぞれの解釈で。

とある芸能事務所の会議室。

 多くのアイドルを抱えるMI⭐︎KA⭐︎DOエージェンシーと、老舗芸能事務所であるオフィス緑青館の合同企画会議が行われていた。

「本日の議題はMI⭐︎KA⭐︎DOエージェンシー所属「bubbles」の、オフィス緑青館移籍後の活動についてです。ご存知の通り、メンバーである小猫の受験期間は活動休止していましたが、彼女は見事に医大に合格しました。今後は学業と両立しながら、オフィス緑青館で活動を再スタートします」

 敏腕マネージャー高順からの発表に、パチパチと拍手が湧き起こる。アイドルが一芸を持っているのは珍しくないが、現役医大生アイドルは珍しい。

「新生bubblesは、少女らしさは残しつつも「元気な女の子」から一皮剥けた「大人の女性」を目指します」
「ヒッヒッヒ。このアタシに任せれば、どんな芋娘だってNo. 1嬢にしてみせるさ」
「アイドルです」
「じゃあ早速、アタシが考えた泡姫計画を…」
「bubblesです」

 悪い魔女のように笑うオフィス緑青館社長は、かつて銀幕の月精と呼ばれた伝説の大女優。芸能事務所以外にも多角経営しており、その経営方針と金にがめつい性格から通称「やり手婆」とも呼ばれている。

 その商才に相応しく、やり手婆からは様々なプランが飛び出してくる。会議の出席者は時に驚き時に頷きながらそれを聞いていた。

「ご意見のある方は?」

 既定路線でもあったことから特に異議は出ないと考えられていた会議室で、一人の男が手を挙げた。

「みんな、ちょっと待って欲しい」

 男は紙の資料をパンッと手で叩く。

「イメージビデオの絵コンテを見るだけでも、これらの企画を受け入れるのは難しい。まずプランA、3人が棒状の氷菓をカメラ目線で舐める必要性、説明がつかない」
「男受けがいいからに決まってんだろ」

 分かりきった事を聞くなとやり手婆がため息をつく。

「プランBでは下着姿の3人がベッドに寝そべって密着している。これは健全とは言い難い。bubblesは水着まではOKだが下着はNGだったはずだ」
「ウチにそんな生ぬるい規定があるわけ無いだろ。本番OKのセクシー女優も抱えてるんだよ」
「特に猫猫。たっぷりとしたベビードールは一見露出が少なくキュートに見ええるが…シースルータイプの生地を指定している。しかも透けて見えるのはかなり際どい下着だ」
「人の話を聞かない坊やだね」
「確かに猫猫の肌は魅力的だ。スベスベで肌のキメも細かく、しっとり柔らかい。天が創りし美の極みと言って過言ではないあの素肌は、思わず舐めて噛んで吸って揉んで掛けたくなる。しかし、その魅力を全面に押し出しすぎると当然、性的な目で見る輩が大勢出てくる」

 到底許容できないと拳を握りしめる。

「さらにプランC!なぜヨーグルトを食べるシーンが必要で、猫猫の顔に白いものがピュッと飛ぶんだ!」
「ヨーグルトだからセーフなんだよ」
「納得がいかない!」

 おかしな空気で静まり返る会議室。

 普段は穏やかに美髯を捻りながら聞いているMI⭐︎KA⭐︎DOエージェンシー社長もさすがに複雑な表情で眉間を押さえる。そして、ここで意見できるのは自分しかいないこともわかっている。

「瑞…いや、Edel Glanzの壬氏殿」
「何でしょう、社長」

 壬氏の父でもある所属事務所社長ははっきりと言った。

「出て行け」

 何を勝手に会議に参加しているのだと、社長は企画書をくるくる丸めて壬氏の頭をスパーンと叩いて会議室からつまみ出した。

 (勝手に侵入した)会議からの帰り、壬氏は憤慨しながら歩いていた。

「あり得ない!あれではまるで売られた娘ではないか!時代錯誤も甚だしい!」

 かつてこの国でも貧困や借金苦で親元から売られた娘が春を売りながら泣く泣く暮らすという現実があった。オフィス緑青館はまさにそんな「遊郭」を起源としている。
 そんな事務所への移籍と、明らかに性的な意味で増える露出。金のために脱がされ搾取されていく少女たちの悲壮感に打ちひしがれ、壬氏が頭を抱えながら事務所を歩いていると…。

「ねぇねぇ、猫猫。こんな感じかな?」

 レッスンスタジオには猫猫と子翠と小蘭がいた。少し離れて、馬閃と李白もトレーニングをしながら筋肉語りをしている。この二つのグループは音楽イベントではコラボさせられることが多いため、定期的に合同レッスンをしている。

 猫猫達は3人で大きな鏡の前で一生懸命にセクシーなポージングの練習をしていた。

(うう、不憫だ…)

 少女達のいたいけな姿に目頭を抑える壬氏。しかし。

「こんな角度でどう?」
「さり気ない谷間の見せ方でいいね、子翠。もう少し上目づかいであざとくても良いと思うよ」
「こんな感じ?」
「それはあざとすぎかな」
「もー!猫猫がやれって言ったんじゃーん!」

 鏡に向かってポーズを決めたり自撮りをしてキャッキャしている。

(なんでノリノリなんだこいつら…)

 悲壮感どころか、まさに女子のノリだった。

「むー。私、谷間できない…」
「小蘭はまだかなー」

 まだ成長途中の小蘭が口を尖らせる。

「猫猫は、おっぱい寄せるといけそうだね」
「まぁね。でも子翠みたいなボリュームはないから、ブラをずらして下乳の方が需要あるかな」

 猫猫が両手で胸を寄せると、そこには確かに皺ではない谷間ができた。

「次はおっぱいでこの「棒」を挟んで上下に…」
「やめないか!」

 壬氏は猫猫が取り出した変な形の棒らしき物を奪い取るとゴミ箱にダンクシュートする勢いでぶち込む。

「猫猫!こんな猥褻物どっから持ってきた!」
「ちょっと壬氏様!新生bubblesのスタートダッシュの邪魔しないでください!」
「ダッシュする方向がおかしい!」
「おかしくないです!せっかくセクシー路線目指すきっかけ作ってもらったんですから!」

 Edel Glanzが王子様的な要素を醸し出しつつも「大人の男」のイメージがあるのに対して、同時デビューのbubblesは「女の子」であり、同期なのに妹分のような存在と認識されている。

 そのイメージを覆したいのだという。

「そのために彼氏OKになったんだよねー、小蘭」
「ねー、子翠。私もカッコイイ彼欲しいー」

 やや煽るように悪い顔をする子翠。

 bubblesは以前から事務所に報告する事を条件に恋愛は禁止されていなかったが、本人達にそのつもりがない事もあり特に騒ぎは起きなかった。しかし、色恋は芸の肥やしと考えるオフィス緑青館ではプライベートは完全に本人にお任せ、むしろ推奨しているという。

 それを聞いた壬氏は猫猫を見ながら真っ青になる。

「あ、アイドルが恋愛なんて、ダメに決まってるだろ!」
「今時そんなの壬氏様だけですよ」

 李白はすでに白鈴と結婚を公表していて、二人がプライベートでホテルから出てくると記者にピースしながら写真を撮らせている。
 馬閃も人気女優里樹との交際は公然の秘密で、先日もナイトプールでの背伸びしたお忍びデートを写真週刊誌に撮られ『Edel Glanz馬閃、張り切りすぎてナイトプールでバタフライ』として掲載されている。

 事務所から本当に恋愛を禁止されているのは、絶対的王子様である壬氏のみなのだ。

「別にセクシー路線でなくても、今までと同じでいいだろう!?」
「何の変化も無しに売れ続けるわけないでしょう?そもそも私たちだって一皮剥けたいと思って何が悪いんです?」
「私も〜。一皮剥けた〜い」
「剥けたいでーす」

 子翠と小蘭もはーいと手を上げる。

「ほら、剥けてるほうがイイに決まってます!白鈴姉ちゃんだって、剥けてないより剥けてる方が断然イイって言ってました!」

 遠くから李白が「嬢ちゃん、それ意味が違うぞー」とツッコミを入れている。

「壬氏様だって、剥けてる方がいいでしょう?というか剥けてないんですか!?」
「剥けているに決まっているだろう!いや、なんの話だ!」
「皮ですけど!?」

 壬氏は情けない顔で膝をついて猫猫の腰に抱きつく。

「猫猫の肌がこれ以上晒されるなんていやだぁ…」

 柔らかな肌をスンスンと嗅いで頬を擦り付ける。

 すると猫猫は、言い争いで気が立っていたせいで壬氏のセクハラ行為に堪忍袋の尾が切れてしまった。

「壬氏様!毎度毎度何なんですか!?やられた側の気持ち考えたことありますか!?」

 膝立ちになっていた壬氏をそのまま床に押し倒し、猫猫が馬乗りになる。シャツを捲り上げると、そこには見事に割れた腹筋。

「思い知ってください」

 猫猫は悪い顔をして顔を伏せ、自分がやられたようにスンスンと壬氏の肌の匂いを嗅ぐ。

「あっ、あぁっ、猫猫…や、やめてくれ…」
「私がそう言ってやめたことありましたか!?」
「いや、そうなのだが…あふっ…流石に、はぁっ……んっ…これは…」
「いやです、徹底的にやります」

 やめさせたいのに引き剥がせない。複雑な思いを胸に、壬氏は全神経を下腹部に集中させる。暴走させないように。

 猫猫は自分がやられたように壬氏の腰にしがみついて、脇腹や臍の周り、腹筋に沿うように丁寧にちろちろと舐める。

 そして壬氏にとって衝撃的な瞬間が訪れる。

 腰にしがみつき、己の下腹部の方で舌を伸ばしている猫猫と目が合ったのだ。どうだ思い知ったかとばかりに微笑む顔は妖艶で、しかも前屈みになった事でシャツの隙間から寄せれば谷間が出来るらしいその全貌がハッキリと見えてしまい…。

「はうぅっ!」

 壬氏のキャパシティを遥かに超える猫猫の反撃。ファンが見たら卒倒するほどの色気を含んだ嬌声と共に、ビクッと壬氏の身体が仰け反り大きく震えた。

 そして、何故か身体をピクピク痙攣させながら横たわっていた。

「失礼します!」

 会議終わりに騒ぎを聞いて駆けつけたであろう高順マネージャーが光の速さで壬氏に肩を貸し去っていく。なぜか「あちらの部屋にシャワーと着替えがありますから」と小さな声で慰めのような言葉を掛けながら。

 壬氏がいなくなったレッスンスタジオは静まり返る。

「今のは嬢ちゃんが悪い」
「え?」

 ダメだぞと、公私共にアニキな李白が注意する。

「気持ち悪いのは壬氏様だけど、悪いのは猫猫」
「なんで?」

 何故か子翠まで壬氏の肩を持つ。

「舐めるのは衛生的に良く無いからな」
「なるほど…」
「いやそういう事じゃないんだよなぁ」

 馬閃の指摘に李白が首を振る。

「猫猫だって、お腹ペロペロされるのイヤなんでしょ?自分がされてイヤな事で仕返ししたらダメだよっ」

 そうやって戦争が起こるのだという小蘭ならではの正論に、子翠が「それもちょっと違うんだよねぇ」と困り顔で首を傾げていた。

 高順に助けられた壬氏はその後、賢者の如く一人悟りを開いていた。

(おそらく事務所社長では埒があかない。親会社のLee Entertainmentのトップに直談判が必要か…)

 実はMI⭐︎KA⭐︎DOエージェンシーもオフィス緑青館も、Lee Entertainmentという世界的大企業の傘下にある。Lee Entertainmentは不動産業や金融業など幅広く事業を展開し、芸能事務所はほんの一部に過ぎない。

 本来、所属タレントの一人にすぎない壬氏が掛け合える人物では無いのだが、すぐにLee Entertainmentの社長秘書に連絡を取った。

 生憎、社長は分刻みのスケジュールで忙しくアポを取ることは出来なかったが、運良く夜の会食前のわずかな時間に面会できることとなった。

 壬氏が高級レストランの個室に案内されると、そこでは一人の女性がひと足先にワインを嗜んでいた。

「どうした月…いや、Edel Glanzの壬氏殿。珍しいな」
「阿多社長、今日は折り入って相談が…」

 壬氏がアポを取ったのはLee Entertainmentを束ねる女社長であり、実母である阿多。

 阿多は10代だったアイドル時代に思いがけない妊娠で壬氏を産み、周りの大人達と共にその事実を隠し通し、見事に復帰も果たした。しかしアイドル引退後、結婚はしたものの苦労の原因だった夫を見返してやるとばかりに起業し、商才を惜しみなく発揮した。

 結果的に、下剋上を果たして夫の親会社の社長をしている。

「bubblesのイメージ戦略変更について相談が…」
「bubblesではなく猫猫の、だろう?」
「ううっ…」

 あくまでビジネスの話としてわざわざアポを取ってきたが、勘の良い母に隠し事はできない。

「路線変更は猫猫だけでなくbubbles全員の意向でもある。もちろんみんなの将来も考えての事だ。変えるつもりはない」

 確かにメンバーに「やらされてる」感はなくモチベーションも高かった。

「まさか話はそれだけか?そろそろ客人が来るから帰ってくれないか?」
「ですがっ…」
「帰りなさい」

 まさに、けんもほろろ。

 今の自分ではこれ以上の交渉は望めないと壬氏が肩を落とした時だった。

「お疲れ様です、阿多社長」
「猫猫!?」
「あれ、なんで壬氏様が?」

 入ってきた会食の相手はまさかの猫猫。

「猫猫は私の愚痴に付き合ってくれる貴重な飲み仲間なんだ」
「いや、彼女は未成年…」
「葡萄ジュースだ、安心しろ」

 本当かと訝しんでいるうちに壬氏は追い出され「さぁさぁ、王子様のお帰りですよぅ〜」とくるくる回る秘書に連れて行かれた。

 邪魔者を追い出すと、二人は乾杯をする。時代は違うが第一線を経験したアイドル同士のガス抜きの場だ。

「私の時代はプロフィールに『いちごのショートケーキが好きです』みたいな薄っぺらい嘘を書くしかなかった。ホントに馬鹿だよな、48人のアイドルグループ全員ケーキが好きとかあり得ないだろう?」

 私はスルメと干し肉好きだったのに、と憤る。

「私たちは焼肉食べたいとかこってりラーメン食べたいくらいは言えるし、その点はマシですねー。SNSに載せるときは、内容気をつけないといけませんが」

 映り込みから自宅や同席相手がすぐに特定されるという。

「はははっ、私の時代にSNSなんかあったら、グループメンバーの大半がスキャンダルまみれだな。枕営業だらけだし恋愛禁止なんて誰も守っていなかった。今のアイドルは私生活まで監視されて大変だなぁ」

 日頃の社長業のストレスもあるのか阿多のそばのボトルが次々と空いていく。

「息子のセクハラにいても申し訳ない」
「もう慣れました」
「あのヒゲの血を引いているからなぁ、気をつけてくれ。本当に身の危険を感じたらいつでも言ってくれ」
「はぁ」

 美髯の社長を思い出し、なんとも反応に困る。

「大体アイツも頭おかしいんだ。アイドルやってた頃から真顔でお願いしてくるんだからな、CHINのチンを…」
「それ私が聞いていいやつですか?」

 愚痴は聞くが、墓まで持っていく秘密は聞きたくないなぁと猫猫は苦笑いするのであった。

— End —

Comments 4

チャコチャコ2 天前
Sticker
S
supiringa/スピ2 天前

猫猫も阿多様も粘着質な変態男親子に強烈に好かれているから同じ部類で分かり合える事も多いんだろうなぁ

まりまり2 天前

ナイトプールでバタフライ に吹きました!!面白過ぎます。

貴田3 天前

阿多さんも猫猫も、変態親子に好かれていて苦労しているのですね🤣

Sakuria
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