これほどまでに食事の味がわからなかったことが、これまでの人生であっただろうか。
メイド頭の水蓮と以前からいるメイドが、食事の準備等をしてくれているが、猫猫の姿が見当たらない。
学生だと言っていたから、このまま今日は終わりなのだろう。
うん、きっとそうだ。風呂がどうとかは揶揄っただけだ。そうに違いない。うんうん。
一人で納得しながら、不自由さを感じながら食事を進める。
食べやすくしてくれているのが、ありがたい。
「猫猫ですが、このあと坊っちゃんのお風呂のお世話がありますので、この時間はプライベートの時間にさせて頂きました」
「ブホッ」
「まあ、下品ですよ」
「水蓮!おまえは年頃の女に、年頃の男の風呂の世話をさせて平気なのか!」
「別に二人ともその気がないのなら、構わないではありませんか。清拭でも良いですが、さっぱりしたいでしょう?」
「一人で入るから良い!」
「せっかくですから、髪の毛も片手では難しいでしょう?」
このメイド頭はなぜ、こんなにも主に風呂の世話をさせたがるのだ?
仮にも年頃の男と女だぞ?
「万が一と言うことがあったらしいどうするんだ!」
「あら、坊っちゃんにそんなお気持ちが?」
「万が一だ!…絶対と言うことは、世の中にないだろう…」
段々と声が小さくなる自分が情けない。
「それならそれで良いではありませんか、坊っちゃんがあまりに女性に興味をもたないので心配していましたのよ。万が一のことがあって過ちだったとしても猫猫なら、口は固いので大丈夫でしょう」
むしろ、勧められている気がする。
どうやら避けられない道らしい。
時間がかかっても一人で、ゆっくり入りたかった。
治るまでは、遠い夢なんだろうな。
言い合いとため息のまま食事は終わってしまった。
重い足取りで風呂に向かう。
いつものように、着替えは水蓮が準備してくれているだろう。
脱衣所でもぞもぞと服を脱ごうとしていると、ノックの音と共に「瑞月さま、入りますよ」と、返事を待たずに猫猫が入ってくる。
ここから?この場面からすでに猫猫!?
そしてやたらと手際が良い猫猫劇場の始まりだ。
「はい!手を退ける!」
手を退けると、あっという間に上半身は裸だ。
待て、次はもしや…。
そう、猫猫はすでにスエットに手をかけている。
「ちょっと待て!」
「待てません!早く終わらせてレポートを仕上げたいんです!」
反論する間もなく、スエットは一気に下ろされた。
そして、バスタオルを腰に巻かれたと思ったら、バスタオルの中に下から手を突っ込んで、パンツの裾を掴みまた一気に下ろされる。
もう見事過ぎて芸術性すら感じる。
猫猫と言えば、部屋着のラフなワンピースをいきなり脱ぎ捨て、下に着ていた競泳用水着になっている。
「なあ、俺はともかくおまえが俺の目の前で脱ぐ必要はあるか?俺が先に風呂場に行って、その間に脱げば良くないか?」
「…それもそうですね…」
案外、抜けているな。
風呂では相変わらず、猫猫のなすがままだ。
フルスピードで風呂コースを仕上げたられると思ったが、ゆっくり丁寧に洗ってくれた。
気持ちが良すぎて、身を委ねてしまう。
しかし、なぜか居心地の悪さも感じる。
何か話すか?
「そう言えばおまえ、大学は何学部なんだ?」
そこから、ポツリポツリとたわいもない話をした。
湯船に浸かろうとすると「タオルを巻いたまま、入るのですか?」と聞いてきた。
「そりゃ、おまえがいるし」
入浴剤が入った湯は、乳白色でタオルを取っても見えはしないが…。
「普通、テレビの撮影でもないのに自宅のお風呂で、タオルを巻いたまま浸かります?」
「だから、おまえが…」
猫猫が不服そうに睨んでくるが、不服なのは俺だ。
「じゃ、せめてこのまま湯船に入ってからタオルを取ってもいいか?さすがに恥ずかしい」
「はあ…」
湯船に浸かり、タオルを外すして猫猫に渡すが、猫猫は一向に出ていこうとしない。
「一人にしてくれないか?」
「何かあっては、水蓮さまに怒られますし」
「頼む、一人にしてくれ。ゆっくりしたい。無理なら脱衣所で控えていてくれ」
「わかりました。そうさせて頂きます」
一礼をして去ろうとした猫猫が歩みを止める。
振り返るや否や「もしかして、瑞月さまって、童…女性経験がないのですか?」とドストレードな質問を投げかけてきた。
「今、必要なことか?必要な質問か?どうでも良いだろう!」
「そうですね、ま、人のことは言えませんが」
そう言い残して、猫猫は脱衣所へ消えた。
人のことは言えませんが?
では、猫猫も処…。
いや、どうでも良いじゃないか!
ん?今、この状態で風呂から上がるとき、俺は猫猫を呼ばなくてはいけないのか?
着替えもあいつがするのか?
体を拭くのも猫猫なのか?
そして、思い出さなくてもいい猫猫の白い肌や、骨折の原因になったことを思い出してしまう。
乳白色の湯から、何かが顔を出している。
「おまえ…元気だな…」


















