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有明月から愛をこめて 第一話 再会

わっかわっか

転生現パロ青春壬猫 猫猫は前世の記憶を持つ十五歳の少女。受験勉強に明け暮れながら平凡な日々を過ごしていた。 平穏な暮らしの中で壬氏の生まれ変わりに会いたいと密かに探していたが、壬氏との記憶が遠い過去になってしまうことへの不安で疲弊し始めていた。 ガールミーツボーイな話。 前世と現代が場面で入り乱れていますので分かりにくかったら、すみません。 転生ものなので途中死ネタ有 全4話+番外編くらいの予定です。

“有明の月”

明け方になっても空に残る月のこと。
夜が明けてもまだ想いは残っていることを例えている。

 古い建物の暗い石廊下をそっと歩く。足元を照らすのは煌々とした満月の灯り。そっと風が吹いて外の木々が揺れている。葉や枝の擦り合うそんな些細な音さえよく分かるほど辺りは静まりかえっていた。
 そんななかで、か細い声が聞こえる。耳をすませれば、それは絞り出すように泣いている声だった。
 誰が泣いているのだろう。
 隠れるように、誰にも気づかれないように、そっと独りで泣いている。

 泣き声が聞こえてくる部屋の扉を開ける。床に直に座って寝台に顔を伏せている小さな女性の背中が見えた。
 思わず手を伸ばし――。

 ピピピピピピピピッ
 耳の横でけたたましく電子音が鳴り響く。目をぱちりと開けた猫猫はアラームをかけたスマホを探す。
 時間は朝六時過ぎ。爽やかな日の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。大きな欠伸をして身体を伸ばしベッドから抜け出す。
 一階に降りればおやじが台所に立っていた。
「おはよう、おやじ」
「おはよう」
 猫猫を見て穏やかな顔で微笑む。
「これから仕事でしょ、私が作るから座っててよ」
「もうほとんど出来ているから大丈夫だよ。顔を洗っておいで」
「ありがとう」
 味噌汁の良い匂いがした。

「行ってきます」
 制服に着替えてスニーカーを履いて家を出る。今は暑くもなく寒くもなく歩くのに丁度よい気候である。屋外にいるのが苦ではない時期はそんなにない。学校帰りに植物園にでも行きたいところだが生憎、猫猫は受験生である。それなりに勉強しないと志望校には進めない。大人しく帰るか図書館で勉強するとしよう。

****

 猫猫は普通の女子中学生である。優等生ではないが落ちこぼれでもないし、目を見張る美人ではないが見られないほどの容姿でもない。得意なものと苦手ものも人並みにある。好きなものへの探求心は人より少し大きいかもしれない。
 大勢の中では埋没してしまうだろう人間だと思うが一つだけ特殊なことがあった。前世の記憶があることである。
 はるか昔の茘という国で生きていた記憶。
 同じ猫猫という名で過ごした遠い記憶があった。
 いつからその記憶があったかもう覚えていない。物心ついた頃には自然と前世の存在を受け入れて共存していた。
 だがあくまで自分は現世を生きている人間で前世のことは過去の出来事として受け止めている。
 それでも薬や毒に興味があるのはそのままで、またその分野に携わってみたいと進路は考えていた。

 縁というものはどうやらあるもので現世でも昔に見たような顔がチラホラいた。
 特に親族はほぼ同じ面子で両親はあの二人だし、おやじも大叔父だし、従兄たちも奴らである。
 三姫も見つけたし、やり手婆は何故か母方の祖母として存在していて面食らった。
 そうなるとやはり気になってしまう男がいる。
 前世と現世は違うし、生まれ変わっているとは限らない。それでも何となく探してしまうのは仕方がないだろう。猫猫の前世の人生に大きく影響したひとなのだから。
 目立つ男だと思うのに今のところ彼は見つかっていない。

****

 今日は中間テストの返却日であった。返って来た答案用紙を見て苦い表情をする。全体としてはそんなに点数は悪くはない。全教科平均点を大きく上回っている。だが志望先は進学校だ。トータルでもう三十点は欲しいところで足を引っ張っているのは文系の教科である。
 だが前世では簡単だといわれた官女試験に一度落ちたのだ。現世は自分ひとりでここまで成績を残せていることを誰か褒めてくれないだろうか。
「猫猫。テスト結果なんて忘れて購買いこ」
「うん、そうだね」
 明るい能天気な友人の声に連れられて猫猫は席を立った。

 昼休み明けの授業は眠い。窓の外の流れる雲をつい見てしまう。今は歴史の時間である。この教科に前世の記憶が役に立ったことは皆無だ。
 歴史の授業の中では猫猫の生きていた時代は一瞬で通り過ぎる。茘という国がこの年代に存在しました。それだけだ。少し詳しい資料に帝の名が列挙している程度である。帝の名前すら教科書に載らないのだから皇弟のことなど片隅にもない。
 それでもあの容貌をはじめ逸話てんこ盛りの男だったから創作でもされていなかとそういうコンテンツを探してみたが見当たらなかった。
 大きな時代の流れの中に猫猫が確かに生きた時間は埋もれてしまっていた。

「さあ、猫猫さん。これをご覧下さい」
 無駄に厳かな言い回しで友人が雑誌を見せてきた。猫猫は表情を一瞬歪め、雑誌を受け取り、見ろと言われた記事を眺めたが目当てのものはなかったので首を振る。
「えーまたダメ?今度はなかなか粒ぞろいだと思ったのに」
「いや誰でも良いわけじゃなくて――」
「なになに―?どうしたの?」
 他のクラスメイトまで集まってくる。
「また猫猫のお眼鏡には叶わなかった―」
「えー、誰見せたん?」
「今度デビューするダンスグループだよ」
 友人が指さしたのは美形が揃った集合写真の記事だった。
「この人たちでもダメなのさすがに厳しすぎない?」
 猫猫は息を吐く。
「だから、好みのイケメンを品定めしてるわけじゃない」
「でもよくイケメンの写真見てるじゃん」
「それは……」
 もしかして奴がいるかもしれないという、ただの淡い期待だ。前世で付き合いのあった男の生まれ変わりを探しているなんて口が裂けても言えない。
 言いよどんだ猫猫を見て友人は声を潜めて言う。
「……もしかして面食いだから生徒会長、振ったの?」
「え!?何それ!そうなの!」
「……いや全然違う。大体、顔だけだったら会長は悪くない部類でしょ」
 生徒会長をやっている男子生徒とは腐れ縁だっただけなのだが、そういう噂が立って困っている。
 前世でもそうだったが現世でも好いた惚れたといった感情が薄い気質なようで、そういった話題にいまいち乗り切れなかった。
 前世で横にいた男が強烈だったことも若干尾を引いているかもしれない。

 放課後になって猫猫は図書館に行っていた。
 家で勉強すると興味のない科目の場合、寝てしまうので外でする方がまだいい。ここで机を使用しているのは勉強している人がほとんどなので雰囲気も悪くない。
 古文の教科書を問題集を見ながら、点数を上げるためにはどうしたものかと悩む。文系が得意な姐に教えを乞おうかと考えていたら後ろから視線を感じた。
「……羅半兄」
 従兄が背後に立っていた。三歳年上の彼もまた受験生である。
「ちゃんと名前を呼べっていつも言っているだろ」
 眉間にしわを寄せながら抗議してくる。
「だって羅半兄は羅半兄だし」
 生まれ変わっても彼は本名より羅半兄と呼んだ方がしっくりくるので仕方がない。あと肝心の羅半よりは好感度が遥かに高いのも前世と変わらない。
 何故か羅半兄は隣に座る。
「順調か」
「まあ、ぼちぼち」
 羅半兄は農学部を目指しているらしい。彼の父親、猫猫にとっては叔父だが、大規模農場を経営しているがその跡を継ぎたくはないと断固拒否している。それなのに何故、農学部を目指すのか。
「興味があった分野がそこの学部にあったんだよ」
 本人はそう言っているが絶対跡を継ぐことになるだろう。
「お前は薬剤師になりたいんだって?」
「まあ」
「大叔父さんの影響だろ」
「うん、そんなとこ」
「ホント大好きだよなぁ、大叔父さんのこと」
「うん」
 それは間違いない事実である。羅門と再び穏やかに暮らしているこの生活は居心地が良かった。

「ただいま」
 家に帰れば美味しそうな匂いがしてくる。
「おかえり」
 羅門が穏やかな顔で笑っていた。受験がある今年は羅門が家にいるときは家事をしてくれる。本当は高齢に差し掛かってまだ医者を続けている彼に負担をかけたくはないのだが、今はお言葉に甘えることにしていた。
 二人で食卓について夕飯を食べる。
「勉強はどうだい」
「苦手科目で困ってる。さっき図書館で羅半兄に会った」
「あの子も受験生だしねえ」
 静かに会話をしながら食事は進む。
「猫猫、この前話していた三者面談なんだがね。ちょうどその時期、羅漢たちが戻ってくるというから私はやめておくよ」
「えぇー」
 現世では羅漢はプロの棋士であった。その腕前は国内トップレベルだがそれ以外はからきしで放っておくととても他人様の前に出れるような風体でなくなる。以前はマネージメントを兼ねて人が付いていたのだが皆、胃を痛めて辞めてしまっていた。そのため猫猫がある程度成長してからは鳳仙が遠征に付いていっている。
 それらの状況を見兼ねて羅漢と懇意にしていた羅門が猫猫の保護者になってくれていた。もちろん猫猫は羅門とまた暮らせることは大歓迎なので喜んで両親を見送っている。
 羅門は今世では独身ではなかった。といっても猫猫が産まれる前に夫人には先立たれているので会ったことはない。若いとき留学先で出会った現地の人のようで、子どもはおらず現在は身軽な身であるため猫猫の面倒をみていられる。
「ちゃんと両親と向き合わないといけないよ」
「……はぁい」
 我ながら不貞腐れた声であった。どうにもあの二人への苦手意識は消えない。

「寝るか」
 ほどほどに勉強してベッドに倒れ込む。スマホを少しいじってから目を閉じた。脳みそがそれなりに疲れている。こういうときは前世の夢を見ることが多い。
 今晩も見るかもしれない。なんとなくそんな予感がした。

 寝ぼけ眼の先には見慣れた顔があった。天仙だの傾国だの色々言われているが、猫猫にとっては身近な顔で今となっては誰よりも安心できる顔。
 あまりにも心地よさそうに寝息を立てているのが微笑ましくなって、もっとくっ付いてみたくなって壬氏の胸に顔を寄せる。白檀の香はすでに薄れてきて彼の匂いがした。
 突然ぎゅっと抱きしめられる。顔を上げて見える壬氏の表情は大変締まりがないものであった。
「何という顔をしてるんですか」
「こんなに幸せな朝は初めてなのだから仕方ない」
 そう言って壬氏は猫猫の髪に顔を埋める。
 (嗅ぐんじゃないよ)
 心の中で悪態をつきながらも顔が熱くなっていくのを感じた。
 ようやく婚約をして昨晩二人は初めて結ばれた。よって今は初めての朝である。さすがの自分も多少、面映くなるものである。
「そんないちいち感動してきたらキリがないですよ」
 いつもの素っ気ない声で言えば壬氏は眉を寄せ口を尖らす。
「こんな朝、これから何回も過ごすのですから」
 その言葉に目を丸くした壬氏の顔をこれ以上、見ていられなくて顔を壬氏の胸板に押し付けると、さらにぎゅっと抱きしめる力を強くされた。
「幸せだな、猫猫」
 穏やかで落ち着く声が優しく言う。
「……まあ、そうですね」
 小さな声で呟けば猫猫を大事そうに抱く男の喜びが体全体から伝わって来た。

 人生で最も幸せな朝だった。

 パチリと目を開ける。いつものアラームの音が鳴り響く。もぞもぞと体を起こし辺りを見回す。
 隣に壬氏はいない。当たり前だ。ここは一人用の小さいベッド。誰かと共寝できるような代物ではない。
 起きて学校に行く用意をしなくてはならない。階段を下りて洗面所に向かう。顔を洗って化粧水で整えてペンシル型のアイブロウでそばかすを描く。髪の毛はハーフアップにしてお団子に結い、垂らしたほうは小さなゴムでおさげのように結ぶ。
 左腕にはじつは少し傷がある。まだ自分では調薬したことはないが市販薬でどれくらい違いあるのか試したりするのが面白い。だから包帯を巻いている。
 靴を履くために玄関に座る。スカートから見える自分のふくらはぎ。何の傷もない貧弱な細い脚だった。

 学校に行く。いつも通りの光景で友達と他愛もなく話をする。
 外を歩く。幼いころから見てきた街並みで何の変哲もないものだ。
 毎日毎日、日常はなんでもないように流れていく。
 だけど背の高い男性とすれ違うと思わず顔を確認してしまう。
 街頭モニターに売り出し中の新人俳優が映っているとどうせ違うと分かっているのに見てしまう。

 ちゃんと探したことはない。
 あれは前世の出来事で、今、自分は違う人生を歩いている。
 彼が同じ時代に生まれているとは限らない。記憶を持っているかも分からない。現に自分の周りで記憶を持っている人物はいないのだ。
 会えない可能性の方がはるかに高い。会えた人もいるが小蘭も子翠も姚も燕燕も雀もいないのだ。だがあの人は粘着質でしつこくて諦めが悪くて頑固だから、もしかしたらまた見つけてくれるかもしれないなんて、らしくもないことを空想する。
 見つけやすいように雀斑を描いて、あの頃と似た髪型にして、同じ箇所で薬の実験をして。
 今世の自分は前世より随分と夢見がちに成長してしまったようだ。まるで白馬の王子様を夢見る乙女のようで滑稽である。
 だが会えたとしてもあの瞳に猫猫が全く映らなかったら。もう隣に誰かいたら。
 満たされた記憶ばかり持っていて、現代の価値観で生きてきた子供の猫猫では受け止めきれないかもしれない。
 それに今の猫猫の毎日が過ぎていくにつれ、あの頃はどんどん過去になっていく。もうあの人の落ち着く匂いも声も朧気になってきた。嫌いだった綺羅綺羅した甘い声も皇弟としての外向きの凛とした声も確かに聞いたはずなのに思い出せない。
 もしかしたら前世の記憶全部が自分の空想で周囲にいる人達を勝手に当て嵌めているだけなのか。
 たまに自信がなくなってしまう。
 死んで新たな生を受けても消えて無くならなかった熱とどうやって折り合いをつければ良いのだろう。前世より平穏に育ってきた今の自分は昔ほど達観できない。
「怖いです、壬氏さま……」
 ポツリとつぶやく。
 会いたい。もう一度、あの締まらない幸せそうな笑顔が見たい。その気持ちは本物だ。

 でもこんな想いさえ自分の妄想だったら。
 それが怖くて探しに行けない。

****

 それは塾へ向かう夕暮れ時だった。日の長さもだんだんと短くなってきて、行き交う人々の大半は家路へと向かっているようである。
 羅門が作り置きしていってくれた軽食を食欲がわかず食べ損ねた。最近そういうことが多い。だが心配をかけたくはないので羅門が夜勤から帰ってくるまでには食べなければならない。
 雑踏をかき分け足取り重く歩いていく。いつもと何ら変わりない光景で気に留めることなど何もなかった。だが。

 それは一瞬だった。
 誰かとすれ違ったほんのひととき。
 慣れ親しんだ白檀の匂いがした。

 思わず顔を上げ周囲を見回す。間違いなく壬氏の愛用していた白檀であった。確かに彼の香りである。ただ同じ材料だけで香を作ってもこの薫りにはならない。何度も試したから知っている。
 気づかないうちに近くにいたのだろうか。薫りとともに一気に前世の、壬氏の記憶がよみがえる。彼と過ごした時間、話した言葉、触れあったぬくもり。嗅覚は記憶と深い結びつきがあると言われている。これが自分の妄想であってたまるか。
 必死に辺りを探して気づけば人が少ない住宅街へ入り込んでしまった。完全にその姿を見失う。どこにも壬氏はいない。幻だったというのだろうか。
「そんな……」
 自分はやはりおかしいのか。うつむけば体中から涙が集まってきそうであった。
 だが。

「猫猫」

 猫猫は頭を上げる。今度ははっきり聞こえた。ずっと聞きたくて呼んで欲しくて求めていた声。
「壬氏……さま」
 通りを挟んだ向こうに壬氏がいた。
 穏やかな優しい眼差しで猫猫を見つめている。
「壬氏さま!」
 叫ぶと同時に足が動いていた。手を伸ばしていた。

 だから気づかなかった。
 信号もない道路に飛び出したことに。
 壬氏の姿が前世のままだったことに。

 クラクションが耳を劈いた。
 ヘッドライトのまばゆい光が襲いかかる。
 ああ、馬鹿なことしたな。
 そんなことだけ一瞬思って来るであろう衝撃に備えて目を閉じた。

「危ない!」

 そのとき大きな叫び声が聞こえた。と思ったと同時に身体に突き飛ばされたような衝撃が走った。
 だがそれは思ったような叩きつけられる痛みではなく暖かいものに強く抱きしめ締め付けられるようなものだった。
 そのまま視界も体もぐるぐると回る。
 クラクションがもう一度鳴るとの同時くらいに猫猫も止まった。
 何が起きたか分からず目の前の出来事を処理しようとするが思考は全くまとまらず、荒い呼吸と早鐘のように心臓が音を立てているばかりであった。
「大丈夫か?」
 すぐ近くから男の声が聞こえた。いや聞こえたというより体に響いたといった方が正しいくらいで、それもそのはず猫猫は彼に抱きしめられていた。
「え、はい……」
 体を離され起き上がる。勢い良く転がったので多少体は痛いが怪我という怪我はなさそうだが、生命の危機だったという状況に鼓動が収まらない。
「そうか。良かった」
 ああ、そうだ。助けてもらったのだ、お礼を言わないと。そう思って顔を上げ、恩人の顔を見る。
「え……」
 思わず固まった。目を見張った。頭が状況を上手く理解してくれなかった。だが感情が先に動いたのか掠れきった声がこぼれた。
 記憶にあるよりやや若くまだ幼さが残る顔に短い髪。だがそこにいるのはどう見たって――。
「じん……し……さま……?」
 壬氏に似た少年はこちらの顔を瞬きもせずに前世と変わらない黒曜石のような瞳で見つめてくる。
 すぐにまずいと思った。今まで前世を覚えていた者は一人もいなかった。もし本当に目の前の少年が壬氏の生まれ変わりだとしても記憶を持っているわけはない。いきなり知らない名前で呼ばれても困るだろう。
「すみません、何でもありません。助けてくれてありがとうございました」
 混乱して口走ってしまったことにすればいい。だが少年はこちらを見つめるばかりで何も答えない。
「あの、大丈夫ですか……?」
 彼の方が衝撃は強かったはずだ。怪我をしているかもしれない。思わずそっと手を伸ばす。するとガシッと手首を掴まれた。痛いほど強く。
 少年はまだ猫猫の顔を見つめ続けている。その瞳には驚愕と一筋の涙が流れていた。
「……俺が分かるのか、猫猫」
 今度は猫猫の方が驚きに包まれる。
「壬氏さま……」
 気づけば手を取り合って二人でその場にへたり込んでいた。

— End —

Comments 6

2 天前

途中からボロ泣きしてました。゚(゚´ω`゚)゚。 二人はまた、出会えたのですね。 本当に本当に感動するシリーズで、大好きです。こんなに素晴らしい小説を書いてくださり、ありがとうござます。

T
Taro21 天前

2人とも前世の記憶があるんですね、壬氏さまも涙を流すということは、必死で探していたのでしょうね。 これからどうなるんでしょう楽しみです。

のりたま22 天前

壬氏さまも記憶を持っていた。 彼もまた、周りに記憶ありの人がなく、一人で猫猫を捜していたのでしょうか?だとしたら、猫猫が見た幻の壬氏さまはなぜ現れたのか。 続きが楽しみです。

るねここ22 天前

ふたりとも前世の記憶を持っていた?!😳これからどうなるんだろう。続きが気になります🍀

���
🍒チェリ家の まーちゃん🍒23 天前

他の人には前世の記憶は無いのに やっと巡り逢えた壬氏様には前世の記憶があったとは これから2人はどうなるのか 楽しみです🥰

ポプラ23 天前

前世の記憶をもって、巡り合った壬氏様と猫猫。今後の展開が楽しみです。

Sakuria
Where every work blooms
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