「え?誕生日?」
未曾有の大規模テロ事件が片付き一時の平穏が訪れ始めた二日後、休日に学生寮に呼び出された私は、ローを会長に預けて学生寮にやってきた。
手には、会長特性のドーナツがある。
爆豪が「アイツ、こんなんもできんのか、」と無駄に完成度の高いデコレーションのドーナツをじーっと見つめているので、皆は取ろうとしても取れないという状況が続いていた。
「お紅茶が出来上がりましたわ。」という百の発言をきっかけにやっとお茶会が始まる。
突然、上鳴によって切り出された言葉に首を傾げた。
「・・・えっと、誰の?」
「先生のに決まってるでしょーが!!」
テンション高めに拳を突き上げた三奈から、
「頑張るぞー!」的な何かを感じる。
「・・・・・・ああ、先生[[emphasismark:誕生日 > ・]]なの?」
「「「「「「『え、?』」」」」」」」
ふーん、と紅茶を口に含むと、周囲から信じられないものを見るような目で見つめられる。
いや、実際に「マジかよ、」って声がチラホラ聞こえてくる。
誕生日だから、なんだというんだろうか。
「おい、凛。お前、これまでセンパイやジーパンからどうやって誕生日祝われてたンだよ。」
「あの二人に限って、お前の誕生日祝わねぇなんてあるわけねぇ。」とキレ気味に零す爆豪。
「・・・祝われたことはないかな。」
「「「「「「『はっ!?』」」」」」」
皆が飲んでいた紅茶を噴き出して、こっちを見た。なんだなんだ、汚いぞ、
「ど、どうして、なんですの?」
「そ、そうだよ。てか、ウチら、凛の誕生日も祝う気満々だったんだけど、」
百と響香が顔を真っ青にして問い詰めてくる。
「返答の次第によっちゃ、アイツらぶん殴ってやる。」と爆豪と「俺も行くぞ。」と轟が、何だか凄くキレ始めた。
「・・・単純な話だよ。私は、元々誕生日が分からない。戸籍自体がなかったからね。
だから[[emphasismark:、設定された誕生日 > ・]]は、八年前の事件の日なんだ。私以外の子供が大勢死んだ日だ。そんな日を祝ったりなんてできないだろう?」
「「「「「「「『!!』」」」」」」」
皆の顔からどんどん血の気が引いて言っているのを感じた。
「あ、・・・でも、あの、そうだな、えっと。か、紙原の姓になった日は、来年も祝おうって兄さんたちが言ってたらか、その日が、・・・誕生日、ってことになるの、かな?誕生日は祝われるものなんでしょ?」
なけなしのフォローは、ただ息の根を完全に止めただけであった。
そこで、A組の優秀な脳みそは働き始める。
そういえば、ローにも明確な戸籍はなかったと聞いている。・・・ということは、紙原姉弟は、
誕生日が一体どういう日なのかを知らないし、知る機会もなかったのだ。
「俺たちは、バカか。」と急に項垂れ、病み始めた周囲に、凛は若干オロオロし始めるばかりである。
響香が、ぎゅっと凛を正面から抱きしめた。その背後から百が抱きしめてくる。
「来年は、第一回ってことで、盛大にやるからね。」
「他のイベント事も、盛大にやりましょうね。」
凜は目をぱちくりとさせて、そして柔らかく目を瞑ってほほ笑んだ。
「・・・ふふ、それは楽しみだな。」
そんな凛の言葉に、だんだん皆も持ち直し、
「誕生日」が一体どんなものなのか、を凛に教えるためにも、猶更やる気がみなぎったのである。
さて、皆が言うに、誕生日会とは、
「生まれてきてくれたことに感謝してお祝いをする会」らしい。
聞くだけで平和だと感じる会だな、と凛は思った。
ご馳走を作ってパーティーをするのは、絶対だが、「それだと相澤先生が萎縮してしまう」と考えた先生への解像度の高い皆は、相澤先生の誕生日会、兼、色々あったので[[emphasismark:お疲れ様 > ・]]、[[emphasismark:これからも頑張りましょうの会 > ・]]にするらしい。
平和だ。
部屋の飾りつけを峰田、障子、瀬呂、青山、口田が担当し、
飲食料の運び係に、切島、尾白、
調理係が、私と爆豪、百、梅雨ちゃん、砂藤。
緑谷、お茶子、轟、常闇、上鳴、響香、三奈、透は、プレゼントの作成をするそうだ。
「えっと、ケーキは砂藤と梅雨ちゃんに任せるとして、」
「私たちは、何を作るかですわね。凛さん、相澤先生の好物はご存じですか?」
「・・・えーっと、基本的に出されたものは「美味い」って食べるから、何が好物とかは・・・多分、自炊とかしないと思うから、余ったらタッパーに詰めて持って帰らせよう。」
「いいですわね!それ!!でしたら、爆豪さん、凛さん、得意料理はございますか?」
爆豪が不遜な態度で「中華」と言い切った。
「私は、洋食かな。」
「わたくしは、和食ですわ。・・・別れましたわね。」
「・・・こんだけ人数いンだ。どうせ、他の教師も呼ぶんだから、何種類か作ってビュッフェ形式にすりゃあ良いンじゃねーのか。」
「なるほど、・・・ええ!それで行きましょう!!」
思ってたより、豪華になりそうだな。
「勝己、私、炒飯食べたい。」
「おう、任せろや。」
「爆豪さんったら、凛さんに甘いですわよね。凜さん、和食は何か食べたいものありますか?」
「・・・・・・天ぷら、かな。」
「お任せください!」
「・・・今の言葉、テメーにそっくり返すわ。
誰の誕生日だと思っとんだ。」
「・・・洋食で何か食べたいのって、」
「ハンバーグ」
「・・・・・・爆豪、さん、・・・ローストビーフですわ。」
「ふっ、任せて。」
本格的には、明日作るとして、
「・・・今日は食材の調達と、仕込みだね。」
「ですわね。メニューと買い出しリストを作りませんと。」
「コメは当日たくとして、パンはどうすんだ。」
「作る?」
「パン作り!良いですわね!」
三人で割り出した結果。
[i:
中華
・黒酢酢豚
・エビのチリマヨソース和え
・春巻きと点心
・炒飯
・八宝菜
和食
・季節の天ぷら
・魚の竜田揚げ
・唐揚げ
・筑前煮
・手まり寿司
洋食
・ハンバーグ
・ローストビーフ
・白身魚と貝類のアクアパッツァ
・サラダバー
・チーズとエビのアヒージョ]
[i:
その他
・パン各種
・フライドポテト
]
・・・・・・大変だな、
◇◇◇
雄英高校、敷地内に作られた
雄英印のスーパーマーケット(通称:コストコ)にやってきた。
雄英には、かなりの数の生徒が寮生活をしている。さらに、雄英教師陣や関係者となると、その規模の料理を毎日作り続けるというのは難しいもので、そのため、雄英の敷地内にコストコが増設された。
百が素早く作ったメモに従い多量の食材を買い込んでいく。
「うおっ!?なんじゃ、そりゃ!?すっげぇ量じゃねーの!?」
「あら、ほんと。」
あまりの量に、スーパー内にいたらしいプレゼントマイクとミッドナイトに引き止められた。
実は、とゴニョゴニョ、百が事情を伝えると、
2人は目を瞬いて、それからとっても楽しそうな顔で笑った。
「お金は払うわ。それ、私も参加していいかしら?」
「俺も!アイツの味の好みなら知ってんぜ!?」
「!!是非とも!ゼファー先生や、オールマイト先生もお誘いする予定でしたので!!」
確か、二人は、先生が学生時代だったころからの知り合い、プレゼントマイク先生に至っては親友(自称)だという。先生も喜ぶだろう。
いよいよ、大人数になってきたな。
ちなみに、今回の全ての材料費は全て、皆が意外と稼いでいるヒーローインターンの給金から出ている。
だからこその、(これからも頑張りましょう会)にしてあるのだ。
一人ずつ出せば、そんなに痛い出費でもない。
さて、その日の内に仕込みは完璧に済ませ、百がカマドまで増設した。
【翌日】
ピンポーン
家のインターホンが鳴った。
「邪魔すんぞ。」
ベスト・ジーニストと、エッジショットが住んでいるということで極秘事項となっている我が家の場所だが、ローの世話をかなりの頻度でしてくれており、ベスト・ジーニストに師事している爆豪は我が家の場所を知っていたりする。
ハイツのキッチンでは、少々手狭なので、私と爆豪は我が家の広いキッチンで調理することに決めたのである。
「来たか、爆豪。」
「ッス、・・・じーぱ、ジーニストは、?」
「維兄なら、今日は出勤だ。夕方には帰ってくるらしいぞ。」
「そうか。・・・って、何をいっぱい作ってんだ、センパイ。」
「ん?パーティーに参加するための献上品だ。」
「そうか・・・・・・はぁっ!?」
爆豪が驚くのも無理はない。
昨日、帰りが遅くなってしまったので、ローと遊んでいた会長と、帰ってきた兄さんに尋問されて、白状したのだ。
「イレイザーの誕生日会、兼、これからも頑張ろうの会だろう?俺たちは、これまでお前たちの訓練に付き合うことも多かった。俺と会長がいてもおかしくはない。」
「・・・普通に、楽しそうだから参加したいって言えよ。兄さん。」
「・・・・・・まあ、そういうわけだ。」
ロー、容赦ないな。
兄さんたち、結構A組のこと気に入ってるからな。
「・・・で?その件について、」
「百と飯田には話を通してある。」
爆豪からジト目を貰いつつ、しっかりと根回ししてあることを返すと、爆豪はどこか呆れたようにため息を吐いて、腕をまくった。
「そうかよ。・・・ほんじゃ、まあ、作るぞ。」
「うん。」
◇
「・・・さすが、勝己。手際イイね。」
「お前も、どこの料理人だ?あまりにも大人数の料理を作り慣れすぎてんだろうが。」
・・・まあ、交流のあった海賊団とかには、
時々船に乗せてもらってたし、
乗せてもらってる間は厨房手伝ったりしてたからな。
戦場でも、料理を手伝ったりしていたし・・・
「姉さんの洋食は絶品だからな。」
ロー、兄さんにおにぎりを握ってもらいながら、物欲しそうにこっちを見つめないの。
兄さんが苦笑してるよ。
「その辺のレストランよりも余程美味いからな。」
そして、兄さんも自慢げだ。
「特に魚料理は美味いぞ。会長が腰を抜かしたぐらいだ。」
「・・・アイツが腰抜かすってどんくらい美味いんだ。」
まあ、海賊は基本的に海上生活なので・・・
◇
「・・・できたな、」
「疲れた。」
ソファで完全に伸びている私達を後目に、帰ってきた会長が「おお、凄いな。」と並んだ美味しそうな料理たちに簡単の声を漏らした。
「よく頑張ったな。」と爆豪とセットで頭を撫でられる。満更でもなさそうな爆豪が面白くて笑ってしまった。
さすがにプロヒーローが堂々と学生寮に出入りするのはまずいので、二人はシレッと変装して料理を背負いこみ、ハイツ・アライアンスへと向かった。
◇
「おお、凄い飾りつけ。」
「・・・張り切ってんな、」
共有スペースは完全にパーティーモードに飾り付けられている。そして、何故かその一角には、DJブースが、
「・・・気合の入りようが凄いですね、プレゼント・マイク先生。」
「おお!盛り上げんぜェ!!」
「「イェーイ!!」」
三奈と上鳴がすでに凄い盛り上がりを見せてる。
「うわ、なんだよ!これ!?美味そう!!」
「中華は爆豪さんが、洋食は凛さんが、和食はわたくしが作りましたのよ。」
「マジか!爆豪!!前から思ってたが、料理人じゃねぇか!!」
「凛ちゃんの料理もヤバイ!!クオリティ高すぎる!!」
「・・・凄いや、かっちゃんも紙原さんも。」
「ああ!素晴らしい出来だ!!八百万くんの、和食もとても彩豊かで美しいな。」
「ね!手まり寿司、ちょーおいしそう!!」
「・・・俺も、料理とか勉強した方がいいのか。」
「・・・轟は、急にどうしたんだ?」
複数のテーブルをつなげて、ビュッフェ形式用のセットを作る。
ジュースの中に、お酒が混じっているのは見なかったことにしておこう。ミッドナイトがすっごく良い笑顔してるし。・・・てか、校長までいる。
「砂藤、轟。パンの方、任せて悪かったね。とても美味しそうだ。」
「お前らの仕込みが良いんだよ。」
「火加減なら手伝えた。」
パンは、砂藤がケーキなどのお菓子を作りながら、同時並行で轟を監修し、焼いてくれたそうだ。どの種類もとても美味しそうである。
ケーキ、デカい、
何段ケーキだ、しかも種類ある。
兄さんたちの献上品である、和菓子も美味しそう。
先生はオールマイトが連れてくることになっているらしい。
「皆!オールマイト先生から連絡だ!相澤先生と共に教員寮を出たと!!」
「カーテン閉めろ!!」
「クラッカー準備!!」
寮のカーテンを閉め、クラッカーを準備し、
扉の前に待機すること数分。
百が密かに取り付けていた防犯カメラで先生がきたことを察知し、皆に合図を送る。
そして、扉が開かれ、
「・・・なんでそう、急かすんです?
爆豪か緑谷あたりが何かやらかしたんじゃないでしょうね?」
と、困惑した相澤先生の声が響くと同時に、
[b:パンッ!!!]
[i:[b:
「・・・・・・は、?」
「「『お誕生日、おめでとう!』」」
]]
上鳴によって、「本日の主役」と書かれたタスキが先生に欠けられ、そして、紙吹雪を頭からかぶった先生が、状況に理解が追い付かず目を見開いて突っ立っていた。
「・・・フッ、ふふっ、」
「先生、びっくり顔、」
「珍しー顔してる!」
「そんなに、吃驚した!?」
「ドッキリ大成功だね!!」
「ふふ、そうね。」
「なんか、もうその顔見れただけで満足だわ。」
「それな。」
一拍おいて、戻ってきた先生が、
周囲を見回してさらに目を見開く。
「マイクにミッドナイトさん、校長に、ゼファーさん、それに、ベスト・ジーニストにエッジショットまで?!」
そりゃ、そうなる。
「ふむ、この子たちがお疲れ様会を計画していると聞いて参加させてもらった。」
「同じく。献上品も持ってきたぞ。」
はい、和菓子・・・じゃないんだよ。
ダメだ、面白い、
「よっしゃ!お前ら!!始めんぞォ!!」
「「「「「『イエーイ!』」」」」」
この寮、防音でよかったよね。
皆が、びっくりしたままの先生の手を引いてビュッフェの元に連れて行く。
「和食は八百万が!中華は爆豪が!洋食は紙原が作ったんだぜ!!!」
「先生、どれ食べる?」
「まだ現実受け入れてないっぽいよ!」
「じゃあ、全部盛り合わせようぜ!」
「俺らも食べたい!!」
「いや、誕生日の人優先しよ?」
ということで、Uターンして、先生はソファの一角に座らされ、目の前には、全ての料理を全て盛り合されたプレートが置かれた。
皆が、また急いでビュッフェの元に戻っていく。
ゼファー先生や、オールマイト、校長の大人組にも、梅雨ちゃんや、飯田君、百などの気を使える組がオール乗せプレートを準備して持ってくる。
「え、美味しい、・・・」
「美味いな・・・」
「嘘でしょ、超美味しいんだけど。」
「美味しすぎて、言葉を失ってしまうのさ!」
「相変わらず美味しいな。」
「さすが、ウチのコたち。」
先生は、部屋の飾りつけや、目の前に置かれたプレートをじっと見つめたまま動かない。
ローの分と一緒にプレートをもって隣に座る。
「・・・どうして急に、それにこれ、時間も金も結構かかってるだろ、」
「だから言ったじゃないですか、先生のお誕生日会、兼、お疲れ様、これからも頑張りましょうの会だって。」
「だが、」
「面倒くさいな。つべこべ言わずにこの時間を享受して、笑っていてください。」
「めんどっ、」
すごいショックを受けた顔をする先生を、
フンッと鼻で笑ってやる。
「あら、言うわねぇ。紙原さん。」
「うんうん。今のは効いたねぇ。」
「ひぇ、」
「面倒くさい男は嫌われるぞ、消太さん。」
「「・・・ん?」」
「み、らいの奥さん、とかに、」
「・・・確かに、生徒達も準備に何だかんだ楽しそうにしていた。」
「彼らの息抜きにもなっているようだし、君はありがたく好意を受け取ればいいんじゃないのか?」
ちょっと、危なかったね、ロー。
渋々、といった様子であるが、先生が料理を口に運び始める。
「・・・美味い、」
「百!勝己!先生が美味しいって!」
「ったりめぇだろ!」
「それは、良かったですわ!!」
目があった爆豪がドカドカとこっちに歩いてくる。
「テメェは、どうなんだよ。」
「ん?」
「炒飯はテメェの要望だろうが、」
「!すっごく、美味しい。また作ってくれる?」
「フン、気ィ向いたらな。」
爆豪はもう、中華飯店やるべきだよ。
馬鹿みたいに美味しいし、
「・・・ああ、」と、兄さんが顔を上げた。
「どうりで炒飯は念入りに作っていると思った。」
「ちょっ、何言ってんだよ!センパイ!!」
「違うのか?工程がいやに多かったから不思議に思っていたんだが、」
「ちっ、・・・ちが、わねぇ、」
「そうか。ありがとう、凛のために。」
「・・・勝己って、なんでか兄さんには頭が上がらないよね。」
「カツキは、姉さんにも頭が上がらないぞ。」
「ふふふ、爆豪は紙原家に弱いのか。」
「そういう、会長にも懐いてますよ。」
「おや、ソレは嬉しいな。」
兄さんと会長にナチュラルにイジられていく勝己は、結局大した反論もできずに、顔を真っ赤にして「うっせぇ!」とドスドス去っていった。
「勝己!そっちのご要望のハンバーグはどう!?」
「死ぬほどウメェわ!!!」
「ふっ、ありがとう。」
「ッッッヂ!!」
どっから、出してるんだ。その舌打ち。
そうしていると今度は轟がやってきた。
「この、魚のヤツ、すごく美味いぞ。」
「アクアパッツァね。口に合ったなら、良かった。」
「ん。」
伝えるだけ伝えて満足気に帰っていった。
・・・幼児かな、
「幼児か?」
「え、今、声に出てた?てか、ローがそれ言うの?」
「出てない。アレを見たら、誰だってそう思う。
というか、兄さんたちが凄く轟を睨んでいるが、何かあったのか。」
「・・・何もない。」
「おい、兄さん。」
「何もなかったんだ。」
「維兄まで、」
体育祭のことまだ根に持ってたのか。
宴?もたけなわ、食事を終えた響香が、テンションMAX状態で、爆豪にも絡んでセッションを始める。それに、プレゼントマイクも絡んでいって、ゲリラライブへと発展していった。
百がいそいそとキーボードをセットする。
この時になると、先生も普通に状況を楽しみ始めた。
「マイク、うるせぇな。」
そして、いよいよ、ケーキ入刀。
百がピアノで「お誕生日の歌」というものを弾き始める。
「~”Happy Birthday to you!”♪」
ろうそくの前に立たされ、観念した先生がろうそくの火を消した。
「先生!」
「これ、僕たちからのプレゼントです!!」
「頑張って作ったんだよ!アルバム!!」
へえ、プレゼントってアルバムだったのか。
表紙には、1-Aと書かれており、
文化祭で撮った集合写真が貼られている。
良いモノ作るなぁ、と見ていると、
案の定、今度こそ先生が涙ぐみ始めた。
「やっぱ、泣くんじゃないですか。」
「・・・こんなことされて、泣かないわけにはいかないだろ。」
皆の力作を開こうとした先生だが、
何故か響香が全力でストップをかけた。
「待って待って!先生、それは、部屋に帰って一人になってからゆっくり見て!!」
「・・・今、見たいんだが、駄目なのか?」
「あ!!」
お茶子が何かに気づいた様子で、挙動不審になった。
「せ、センセイ!!今は、そう!泣いちゃうから!!もっと泣いちゃうので、やめときましょ!??」
それが、緑谷にも伝染する。
「ヒャッ、あ、ソ、そう!!あるいみ、先生のためです!!」
?
一体そのアルバムに何が?
先生は「そう、なのか?」と渋々、アルバムを閉まった。
すると、それを見ていた兄さんたちが立ち上がる。
「イヤホン=ジャック、そのアルバムの写真、私達もいただけないだろうか。」
「学校での様子を俺たちも知りたくてな。」
「ひょっ、え、あ、はい!現像してあるんで!持ってきましょうか?」
「「頼む。」」
◇
皆が皆騒ぎまわってパーティーは終わった。
教師陣が次々と帰っていく。
「兄さん、私は少し片づけをして、今日はこのままここに泊まるね。」
兄さんはそれに頷いて、ローを抱き上げた。
「ウチのコの仲間が、こんなに良い子たちで本当に嬉しく思う。どうか、これからも仲良くしてやってくれ。」
「では、今日はありがとう。これからもよろしく頼む。」
『勿論!』と全力で言葉を返す皆に、胸が少し熱くなった。
本当に楽しかった。
「あ、凛さん。」
「ん?」
皆んなで片付けを手伝い、順番にお風呂に入ったところ。部屋に向かおうとすると、百に止められた。
「どうしたの?………あ、タッパー?」
「ええ、残った料理をタッパーに詰めたのですが、それを相澤先生にお渡しするのを忘れてしまって。」
綺麗に詰められた料理を見て、百が困りました、と頰に手を当てて言う。
「……明日、「いえ!今日ですわ!!」えっ、」
凄い圧にびっくりしていると、百がそのまま何かを色々捲し立ててきた。
今の時刻は、8時………
「届けてこようか?」
「はい!お願いいたします!!」
「いーえ、こちらこそ。」
百からバッグを預かって、外に出る。
11月もまだ初旬とはいえ、夜も寒くなってきた。一度部屋に戻って上着を着て来れば良かったと思いつつ、教員寮がそこまで離れていないので、そのまま急いで先を進んだ。
目当ての建物の寮内に入ると、共有スペースにちょうどプレゼントマイクの姿が見えた。
「うおっ!?紙原!?何でここに、」
「えっと、余った食糧を先生に分け与えに?ゼリーばっかりでしょう、あの人。」
「あ〜」思い当たる節しかないらしい、プレゼントマイクが少し遠い目をする。それから、何故か、ニヤリと笑った。
「相澤の部屋は、二階の突き当たり!」
合理的な彼のことだ「玄関の近くで」とか言ったんだろう。
礼を言ってそこに向かうと、案の定、階段のそばに目当ての部屋はあった。
ブザーを押すと、インターホンのカメラが光る。カメラ越しに私を見たのか、先生がドタドタと扉を開けた。
「あ、せんせ…!!?」
◇◇◇
酔っていた。
生徒達に誕生日を祝われて、
隣で彼女が笑っていて、
何だか嬉しくて仕方なくて、
ベスト・ジーニストとエッジショットに異様な程酒を飲まされた。あの人たちは、本来なら、ああ言うことをして来るような人たちじゃないのだが、
ソレで、部屋に帰って、
生徒達にもらったアルバムを開いた。
頑張って作ってくれたことがよく分かる。
誰がこんなに撮り溜めてきたのか、いろんな画角からの生徒達の写真が散りばめられていた。
訓練直後でへばっている写真もあれば、
上鳴たちが馬鹿やってる写真や、
女子達がお菓子作りに励んでる写真、
文化祭の練習風景や、
緑谷と爆豪が喧嘩してる写真、
ソレを仲裁する飯田や、
天然かましてみんなを笑わせる轟、
その中にオレも混じっていて、
クスッと笑えたり、心が温まるような写真ばかり。
空白に描かれた、文字には、「これちょー怖かった!」「この時の先生!イケメン!」「ゼファー先生、顔怖い!」とか色々書いてあって面白い。
そして、最後の数ページ、
凛ばかりを集めたページだった。
被写体が美しいからか、
シャッターの切り取った凛はどれも綺麗で、
どれも愛おしい。
見たこともないほど弾けた笑顔で笑うものもあったし、寝顔なんかも貼り付けてある。
そして、最後のページには、俺と凛の写真が複数収められていた。
俺は、俺でも恥ずかしくなるぐらい感情をモロに出した目で凛を見つめていたし、
俺の見ていない時、凛がとても優しくて「愛おしさ」を込めた目で俺を見ていたことを知ってしまった。
なんて可愛いんだろう。
愛らしいのだろう。
そりゃ、あの人たちに見せられないわけだ。
ああ、
十分過ぎるほど、色々もらっているのに、
まだ、凛に会いたいなんて、
俺はこんなに我儘だっただろうか。
死穢八斎會の一件以降、世界的規模のテロ事件と後処理によって、凛と過ごす時間はめっきり減っていた。
壊理ちゃんのこととか、色々あって、学校で顔も見れない日もあった。
今日は、ずっと隣にいたのに、足りない。
会いたくて、触れたくてたまらない。
無意識に指が、彼女のトーク画面を開いていて、ふと我に帰る。
「………何を考えてんだ、俺は。」
その時、インターホンが鳴った。
カメラを見て、そこに彼女がいるのが見えた瞬間、飛び出した。
彼女が、目の前にいる。
「あ、せんせ…!!?」
一切の躊躇などなかった。
時間とか、
立場とか、
年齢とか、
そんなことが一切消えてしまって、
ただ目の前に現れた彼女を感じたくて、
手を伸ばした。
部屋に引き込んで、後ろ手に鍵をかけて、
抱きしめる。
戸惑いつつも、背に伸ばされた小さな手を感じて自然と口角が上がった。
唇を合わせると、パチパチと目を瞬いてキョトンとしている子供のような顔をした彼女の表情が見えて、また可愛らしさに小さく笑った。
「………好き。」
「……………酔ってる、?」
「好きだ。」
「酔ってるね。……えっと、水、……せんせ…消太さん、水取りに行くから離して。」
「いやだ。」
「ええ、」と呆れたような声をして、凛は、仕方ないな、と言う顔で俺を見る。
「!……これで、」
「!!」
ていやっ、と何だか可愛らしい掛け声と共に凛が俺の腕を解いて、くるりと向きを変える。
バックハグはソレで、嫌いじゃないが、正面の方が彼女の顔が見えて好きなのに、
だが、ここで不服を口にすると、
「なら、おんぶでもしようか?」とでも言いかねない。ソレは、ちょっと、いや、かなり自尊心が傷つけられるのでご遠慮したい。
簡易キッチンにたどり着いた凛が、水の入ったグラスを手渡して来る。
「……ありがとう。」
そのまま、ソファに座らせられたので、凛の腕を引き、胡座の上に乗せた。
凛は、キョロキョロと辺りを見回して、
「何もない。」と呟いた後、ローテーブルに開かれていたアルバムに目をつけた。
「………すごいクオリティだ、」
「な。」
「後半、ほとんど私、?
………こんな顔して、いっつも、消太さんのこと見てる?」
「俺は気づかなかったけど、そうみたいだな。」
少し色づいた頰に口付けると、パッと反射で頬を押さえたまま、「酔っ払い、」と言う手厳しいお言葉と共に、ジトっと見つめられた。
「そんな顔も可愛いな。」
「っ、〜〜〜〜っ!!帰るっ!」
「ダメ。」
立ちあがろうとして持ち上がった彼女の腰に腕を絡めて引き戻す。口付けると、ムッと寄っていた眉間の皺がゆるゆると解れていく、ずっと俺に見られてることに気づいているのか、気づいていないのか、目を閉じている彼女を見つめるのが好きだ。「まつ毛長いな、」なんて思いながら、目尻に滲んでいく涙を見ると、抑えが効かなくなる。
唇を離すと、ボーッとした目で、物欲しそうに見つめて来るのものだからタチが悪い。
くたりと、彼女が胸に倒れ込んでくるのを、
しっかりと抱きしめ直す。
「………あの紙袋、今日の料理をタッパーに詰めたやつ。ちゃんと食べてね。」
「うん、大丈夫?」
「…………うん。ソレと、もう一つ袋入れてあるの、私から誕生日プレゼント。」
「えっ、」
ソレは気になる、
ダイニングテーブルに置いてある紙袋とソファとの距離は少し遠い、
今すぐ見たいが、彼女も手放したくない。
…………最適解は、
「ねぇ、私を手放せばいいんじゃないかな。」
「非合理的だ。」
「そんなことないと思う、」
片手で抱き上げたまま移動して、紙袋の中の袋を取り出す。そして、またソファに戻ると、凛は呆れた顔を隠しもせずに、「もう好きにして」としなだれかかってきた。
「………ハンドクリーム、?」
出てきたのは、有名なブランドのハンドクリーム。
「貸して。」
言われた通りにプレゼントの品であるクリームを凛に渡すと、凛がソレを少し手に取って、俺の手を握りクリームを塗り込み始めた。
「消太さんの手、好きなの。」
「!」
「頭撫でられるのも、頬に触れられるのも好き。
手を繋ぐのも、好き。
……誕生日、祝うものだって知らなくてね。
本当は、クリスマスプレゼントにするつもりだったけど、用意するには時間が足りなくて。」
「ごめんね」と申し訳なさそうにする凛に、無言で首を振った。
「来年の誕生日は、みんなが盛大に祝ってくれるんだって。」と微笑む凛に、「絶対に俺も祝おう」と決める。
「消太さんの手、大きくて、暖かくて、触れられていると、何だか心が落ち着くの。
………だから、私のためにも手を大事にしてください。」
「っ、」
「それから、来年も、その次も祝わせてね。」
ソレは、俺との未来を考えていると言うことに、他ならない。
目頭が熱くなった。
生暖かいものが、情けなくも目から溢れて、
凛が、ぱちぱちと目を瞬いて、
それからニンマリと笑う。
「泣き虫、」
「………嬉し泣きだから、」


























