「いや赤髪違いですわ」
オッケーオッケー、なるほどね?これが噂の成り代わりっつーワケ。
病室のトイレの鏡の前で仁王立ち。腰まで届く紅白なツートンカラーの髪を指先でくるくると弄び、はは、と乾いた笑い声を零す。ワァ、今世の親の声より聞いた声。喉に推しが住んでる。
「焦凍君の双子の妹かつウタちゃん成り代わりはキャラが濃いな……ただでさえ、ぼくのかんがえたさいきょうのワンピ夢主の概念擬人化なのに……。それにしても顔がいいな……」
目元を隠す長い前髪をかきあげ、その下から覗いた美しいアメジストの瞳に我ながら惚れ惚れする。タレ目釣り眉の睫毛バシバシなハイライト死んだ美少女、ドタイプです。親からの遺伝子が髪色しか受け継いでなくて草。
前世の記憶を全て…恐らく全てとするが、思い出したのはつい数分前だ。
切っ掛けとなったのは、訓練という名の虐待から片割れを守るために父である轟炎司に抵抗したところ、ぶん投げられて勢いよく壁に頭から突っ込んだ時の衝撃によるものであろう。床?血塗れ。
まさか彼も私がこんなにも羽のように軽いとは思っていなかったようで、意識を手放す直前に真っ青な顔で固まっていたのを覚えている。マ、許さねぇけど。こちとらまだ五歳になったばっかの幼女なんだけど。頭カチ割れて綺麗な紅白頭が真っ赤なんだけど。片割れギャン泣きなんだけど。は???キレたわ。一生許さねぇからお前のこと。
多少の怪我なら舐めときゃ治るな我が家であっても、流石にこれはキャパオーバーな大怪我。救急車に乗せられ即入院。リカバリーガール様のおかげで痕も残らず完治したが、なんせ幼子の頭へのダメージだ。後から問題が出る可能性も否めない。
念の為にと検査入院を一日はさみ、本日退院となったところでトイレに立ち鏡を見て前世の記憶がイン。イマココ!である。ちなみに轟炎司は一度も見舞いにこなかった。は???お前のせいでこんなことになったんだが???一生許さねぇからお前のこと。悪気はなかったとか知らんから。
私は見た目こそウタちゃんだけど中身はゴリゴリのアラサーオタク女だし家族愛とかほぼ無いナンチャッテ!ウタちゃんだから、家族だから嫌いになれないよ……とかそんなの無いからな。普通に嫌いになるからな。私は一度恨んだが最後死ぬまで引き摺るからな、覚えとけよ。例えお前が忘れても私は覚えてるぞ。
「うーん……、うん!!縁切一択!!」
パチィン!!と指を鳴らし、決意。え、救済?無茶言うな。どうしろっつーんだ長男問題。ありゃ無理だろ、彼が求めているのは父からの愛だ。末っ子の無個性の妹からの愛ではない。
そう、私は無個性ということになっている。そりゃそうだ、だって私の個性は『ウタ』なのだから。
ノンデリ親父にメンタルブレイクの母、そしてメンヘラ長男とヤングケアラーな長女に次男と虐待児な片割れ。こんな地獄みてぇな家の中でゴキゲンにお歌歌ってられるわきゃねぇ。個性の発動条件が整うはずもないよネ!是非もなし。
しかしてこの個性、激強なのである。チートすぎると指差されても致し方ない。
原作ウタちゃんのウタウタの実の能力は『歌を聴いた者を強制的に眠らせ、聴き手の精神を仮想世界「ウタワールド」に引き込んだり、解放したりすることが出来る』というもの。これによりウタちゃんはウタワールドにおいて全能な無敵のプリンセスとなるのだ。最高に可愛い好きだ。
では、個性としてはどうか?答えは『歌うことで現実世界でもウタワールドと同様に思い通りの現象を起こすことができる』のである。私が抱えてる紅白カラーなウサギさんのぬいぐるみがその証拠。出ろ!!ってしたら出たわ。
いや最強すぎて編集からボツ食らうでしょこんなん、なろう系主人公でもここまでやらんて。でもこれって現実なのよね。そもそもお歌が上手な女の子っつったら耳郎ちゃんでもう枠埋まってるんだよ、何番煎じを重複さすな。
何故そんなチート化してんのかっつったら、それはトットムジカが個性に含まれているからである。
トットムジカとは、ウタウタの実の能力者が禁忌の楽曲を歌うと『ウタワールド』のみならず現実世界にも降臨する、一度顕現すれば最後ウタワールドと現実世界両方に姿を現し破壊のかぎりを尽くす存在。作中では歌の魔王とも呼ばれ、実質唯一の悪役でありラスボスであった。
こいつは『「寂しい」「認められたい」「誰かに見つけてほしい」といった歌を愛する人々の負の感情』の集合体。そう、記憶を取り戻す前の私ちゃんと見事にシンクロ。片割ればかりを構う両親に自分を見てほしかった、寂しがりやで可哀想な女の子。それが私ちゃん。この五年間は涙無しには語れないね。
本来ならば、常闇君の個性の黒影のようにトットムジカは存在していたかもしれない。暴走して身体を乗っ取られていたかもしれない。しかしあまりにも君は私で私は君。無意識下でトットムジカを受け入れ寄り添った聖人すぎる前私ちゃん、トットムジカを完全に懐柔し能力ごと己の支配下においた。幼女は最強。
「でもまだ五歳だし、家を出るにも手段がないか…。いや……ワンチャン今回の件で父親に対するPTSDの発症を装って距離をおければ……いけるか…イケるか…!?」
アリよりのアリ…では…!?何故なら前私ちゃんは控えめで大人しい心優しい天使な幼女、今回だって片割れが泣いて私に助けを求め手を伸ばしたのが切っ掛けだ。普段は父の怒鳴り声に肩を震わせ怯えていたか弱い幼女が、片割れを助ける為に勇気を振り絞り抵抗した結果がこれ。トラウマになる理由、ありまくる。
まだ私に勝機はある。原作に関わるなんてまっぴらだ、今度こそ老衰で死にたいんだ私は。こんな危ない家にいられるか!俺は部屋に引きこもるからな!!
「目指せ、真っ当なモブ人生!!」
という導入から始まる、最早何番煎じなウタちゃん成り代わりの轟君双子妹夢主。その後はなんやかんやで個性バレして、ウタワールドで燈矢君の個性訓練続けて蒼炎の制御を身に着けさせていったり、ひとつ年上の病みカワな女の子とマブダチになったり、そんなマブの誘いで雄英高校普通科に進学したり、体育祭で色々思いつめて曇ってる片割れを『逆光』でボコボコにしたり、その歌詞で夢主の過去を知る大人達が勝手に曇ったり、表彰台でオールマイトに撫でられて褒められてときめいて目のハイライトが復活して完全に恋する乙女してる顔を全国にお届けしてしまったり、夢主の鋼メンタルを知る燈矢君にあーあ(笑)とんでもない子に惚れられちゃったねオールマイト(笑)ドンマイ(笑)って後方腕組みお義兄さん面されたり、恋はいつでもハリケーン!!になった夢主にトゥルーフォームも好き♡♡♡って正体を一目で看破されてちょっと絆されかけたり、迷惑かけたくないから大人になったらまた告白させてくださいねって圧倒的””美””な顔面で儚く微笑まれてちょっとドギマギしたり、神野の悪夢で傷ついた人達を歌声で全員もれなく癒したり、そのせいで体力尽きて死にかけたり、大切な生徒に死んでほしくない一心で「君は大人になったら私をお婿さんにするんだろう…!?」ってうっかり言質をとられるオールマイトがいたり、倫理観とか歳の差とか立場とか色々総動員して十数年も自分の気持ちに抵抗してたのに遂に70歳手前くらいで「今更私以外を好きになったりしないでよね……」って真っ赤な顔で観念する元ナンバーワンヒーローに夢主が大勝利したり、プロヒーローショートに40歳年上の義弟が出来たりするかもしれない。あの日、私の頭を撫でてくれた『アナタしか持ってないその温もりで、私は最強』。続きません。
