Novel20 days ago · 4.7k chars · 1 pages

いつもからかってくる松田さんには好きな人がいるらしい

は

松田夢 捜査一課の松田×夢主の話。

もやもや、もやもや。
最近、やり場のないモヤつきが私の中に存在していた。その原因は。

「お前はほんとに可愛いな」
「……もう、松田さんってばそればっかり!」

頻繁に発生する、松田さんとのこのやりとりが原因だった。
私達は捜査一課の刑事である。捜査一課では一番の新人である私は、先輩である松田さんが教育係で、そんな彼の指導の下、日々業務に励んでいた。
松田さんは最初、教育係に任命された時は「はぁ!?新人の指導なんてしねぇよ!」と目暮警部に歯向かっていたけれど、何だかんだでいろいろと教えてくれて、面倒も見てくれるいい先輩だ。

「ははっ、リスみてぇ」
「リス……!からかいすぎです!!」
「いいだろ?リスって可愛いじゃねぇか」
「だから、それがからかってるんです!」
「へーへー」

そんなことを言いながら松田さんはいたずらっ子のようにニヤリと笑う。そんな彼に対してドキドキと鼓動が速くなっているのを悟られないよう、私は可愛げなく言い返した。
ドキドキしている理由、それは私はいつからか松田さんのことを恋愛として好きになっていたからだ。
松田さんは事あるごとに私をからかい、「可愛い」だの「小動物みたい」だのなんだの言ってくる。そんなことを言われたら期待してしまいそうになるけれど、それを抑えるかのように「また私のことからかってますね!」「いい加減にしてくださいよ!」と、私は毎回言い返している。だけど本当は嬉しくて仕方なかった。

けれどある日からその嬉しさはモヤつきに変わってしまったのだ。それはつい先月の話である。

先月のとある日のこと。

「私、松田さんのことが好きです!」

休憩中、歩いているとまさかの告白現場に遭遇した。告白しているのは事務課の可愛くて有名な子、告白されているのは私の想い人である松田さんだった。松田さんが告白されているというまさかの状況に、私は彼らに気付かれないように隠れた。

「………」
「良かったらその、付き合って欲しいんですけど……」
「………」
「あ、でもお互いのことあんまり知らないですよね?だからお友達からでも良いので」

事務課の子が狼狽えながらも一生懸命に話している。元々可愛らしい容姿をしているうえで一生懸命話すその姿は女の私から見ても可愛く見えた。

(……松田さんはなんて答えるんだろう。こんな可愛い人に告白されたら付き合っちゃうのかなぁ)

二人を見て不安で心臓がきゅっとなっていると、

「……悪ぃ。好きな奴がいる」

無言だった松田さんは呟くようにそう話したのだ。

「!好きな人、いたんですね……」
「ああ。ま、俺には勿体ねぇ奴だけどな。だから無理だ、悪い」

それを聞いた女性は「分かり、ました……」と言って顔を歪めながら去っていく。そして陰から聞いていた私もまた、彼が想いを寄せている人がいることに衝撃を受けていた。
……松田さん、好きな人いたんだ。あんな可愛い人を振る程にその人のことが好きなんだ。自分には勿体ない人だと言う程にその人のことが好きなんだ。
彼の想い人が誰なのか、どんな人なのか、はたまた自分が知ってる人なのかすら分からない。確定なのは私は失恋したということだ。

「……っ」

分かっていた。松田さんとはただの先輩と後輩の関係なだけだ。
けれど私は松田さんと仲良いと思い込み、それに増して「可愛い」と言われていたことで少しだけ浮かれていたのだ。実際、仲は良い方かもしれないけれど、それは恋愛とはまた別である。松田さんはあくまでも新人の私の『教育係』なだけなのに。

「期待してた自分、馬鹿すぎるな……」

それなのに浮かれていた自分が馬鹿みたいで、そんな自嘲と共に、涙はぽろりと零れ落ちていった。

松田さんに好きな人がいた。気にしないようにと思っていても、気づいたらそのことを考えてしまっていた。

「おい。さっきのアホ面なんだよ。ちゃんと話聞いてたか?」
「………」
「……おい」
「………」
「聞いてんのかよ」
「痛っ……。デコピンは酷くないですか!?」
「聞いてねぇのが悪い」

どうやら松田さんは私に話しかけてきたらしい。けれど松田さんのことを考えていて気づかなかった。そんな私の額を彼はピンッと指で弾く。

「……すみません」
「………」

ひとまず謝ったけれど松田さんからの返事はない。ちらっと顔を伺うと、彼は何かを言いたそうな様子だった。何となく気まずかった私は思わず目を逸らしてしまう。

「……なぁ、お前何か変だぞ」
「えっ……」

けれど私の行動が不自然だったのか、松田さんは不審そうに問いかけてくる。そうはいっても、理由は話せるはずもない。

「体調でも悪ぃのか?」
「ぜ、全然!元気ですよ!」
「なら何かあったのか」
「な、何もない、ですけど……」

何もない。本当のことだ。松田さんに好きな人がいて、私が失恋して辛いなんて、松田さんにとっては関係ないことなのだから。
ズキズキと痛む胸に気にしないフリをして平静を保つ。けれど松田さんは納得していないのか、その表情はむしろ険しくなっていく一方だ。

「何もなくねぇだろ。話せよ、仕事のことか?」
「な、違います!本当に何もないんですって」
「んだよ。じゃああれか、ダチと喧嘩でもしたか」
「違いますよ、喧嘩なんてしませんし!もうこの話、終わりにしましょう」

何もないと言っても、松田さんはその理由を聞いてこようとする。これ以上話を広げられると自分の気持ちがバレてしまいそうだ。それに恐れた私は無理にでも会話を終わらせようとした。

「……ならアレか、恋の悩みってやつか」
「っ!」

けれど松田さんは話を終わらせてくれなかった。まさかの図星を突かれ、バクっ!と心臓が跳ね上がるのを感じた。

「ち、違います!」
「……へー。好きな奴いたのかよ」
「だから違うって……」
「違くねぇだろ。お前分かりやすいの、自覚ある?」
「っ……!」

バクバクバク。
鼓動が異常なくらいに速くなっていく。
好きな人がいるかと問われて違うと否定したけれど、松田さんはそれが嘘だと分かっているようだ。そうはいってもその好きな人とは今、目の前にいる松田さんだ。だから言えるはずもない。そもそも失恋した相手に言う勇気などあるはずもなかった。
話を逸らしたくて、松田さんから逃げたくて、改めて視線を逸らす。けれど松田さんはそれを許さないと言わんばかりにパシッと私の手首を掴んだ。その反動で視線が絡まった。

「なぁ、好きな奴って誰だよ。俺の知ってる野郎か?」
「っ……」

そう問いかけてくる松田さんは真剣な表情で、けれどどこか悲しげにも見えた。
なぜ、どうしてこんなことを聞いてくるのだろう。どうしてそんな顔をしているのだろう。何もかもが分からなくて頭が混乱してしまう。

「……俺じゃ、だめかよ」

そして松田さんは混乱する私にさらに追い打ちをかけるようなことを言ってきたのだ。そう話す彼はどこか切なそうな表情をしている。

「な……?」
「俺ならお前にそんな顔させねぇし、幸せにする自信しかねぇけど」
「ま、松田さん!?何言ってるんですか……!?」

松田さんは一体何を言っているのか、私は何を言われてるのか、頭が追いつかない。

「何って、分かんねぇのかよ」

ドクン、ドクン、ドクン。
心臓は更にうるさくなっていく。
分かるってなんだ。何を分かれと言うのだ。どうして期待させることを言うのか。
だって松田さんには、勿体ないくらいの好きな人がいて、それで、それで。

「……俺、お前のこと好きなんだけど」

だからただの後輩の私が思い上がるなんて、馬鹿みたいだと思っていたのに。
けれど松田さんの言葉がそんな私を否定した。
松田さんは今、確かに私のことが好きだと言ったのだ。

「な……」
「だからお前にそんな顔させる奴がすげぇムカつく。なぁ、俺じゃダメかよ」
「な、に言ってる、んですか……。だって、松田さんは、」

あまりの驚きに声が震えて、言葉が途切れ途切れになってしまう。だけど松田さんには聞かなければならないことがある。だって松田さんには。

「俺がなんだよ」
「松田さんは、事務課のすごく可愛い人に告白されてて、それ断ってたし、」
「お前アレ聞いてたのかよ。断るに決まってんだろ。お前のことが好きなんだから」
「その時、勿体ないくらいの好きな人がいるって……」
「それがお前だろ、何言ってんだ」

何言ってんだ、なんてそれはこちらの台詞だ。私が勿体ない存在だなんて、意味が分からない。

「勿体ないって、なに、分かんない……っ」

全部が分からなくて、信じられなくて、だんだんと視界が歪んでいく。

「……勿体ねぇよ、俺には」

けれどそんな私を包むように、松田さんは優しい声で囁いた。そして私の頬にそっと手を添えてくる。

「な、にが」
「………」

そして添えられた手に少しばかり力が入った。その手によって顔を上へと向けられると、目線が上がり、松田さんと目が合った。

「お前の真っ直ぐで、素直なところ。明るくて無邪気なところ。あほっ面で可愛いところ。全部、俺には勿体ねぇ」
「っ……!!」

松田さんは真剣で、だけどとても優しい表情をしていて。信じられなかったけれどそんな風に思われていて、そんな風に言われて、嬉しくて思わず涙が出てきてしまった。

「うっ……ひくっ……」
「は、待て、何で泣くんだよ!泣かれるほど俺、嫌われてはねぇだろ!」
「違います!私だって、松田さんのことが、好きなんですっ……!」
「……は?それ、まじ?」

私の涙を見てギョッと戸惑っていた松田さんだったけれど、気持ちを伝えると彼は信じられないといった顔で固まっている。一方私は嬉しい気持ちと、モヤモヤからの解放で更に涙が溢れてきてしまった。

「でも松田さんの好きな人が自分なんて思わないじゃないですかぁ〜〜!!だから私も失恋したと思ってっ……!!」
「……」
「てか、私が勿体ないとか、有り得ないです!それはこっちの台詞で、松田さんの方が勿体ない……!かっこいいし、ぶっきらぼうなくせにいつも面倒見てくれるし、意地悪だし!もう〜〜……ッ!!」

全てからの解放によって、私は大人げなく泣きじゃくってしまった。それを聞いた松田さんは「はっ……。最後の褒めてねぇだろ」と笑って、私のことをぎゅっと優しく抱き締めてくれたのだった。

「……つーか俺、お前のこといつも可愛いって言ってただろ。気づけよ」

しばらく抱き合った後、松田さんは少しばかり不貞腐れながらそう言った。

「そんなの分かる訳ないじゃないですか……!」
「俺がこんなに構う女、お前しかいねぇけど」
「そんなこと言ったら松田さんだって、私の気持ち知らなかったくせに」
「……うっせ」

痛いところを突いてしまったのか、松田さんは間の悪そうにしながら指を私の額の前に構える。
デコピンされる……!
そう思って目をぎゅっと閉じる。けれど一瞬の間の後、

──ちゅ

おでこに痛みはなくて、代わりに感じたのは唇へ柔らかい感触だった。

「!?え、ま、松田さん、いま、なにっ……!!」

今、もしかして。いや、もしかしなくても、キスされた……!?
まさかのその行動に動揺を隠せず、ドキドキドキドキと心臓が飛び出そうになる。そんな私を見て松田さんは「お前はほんとに可愛いな」と笑ったのだった。

— End —

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