Novel24 days ago · 1.2w chars · 1 pages

勿忘草が似合う男と紫のクロッカスが似合う女

詩桜 紅凛―シオウ アカリ―詩桜 紅凛―シオウ アカリ―

ワスレナグサの花言葉は「私を忘れないで」 紫のクロッカスの花言葉は「愛した事を後悔する」 悲しい恋っていいよね。でも作者はハピエン厨なので最後は大団円で終わらせた mtd夢なのでその他のキャラクターのタグは付けていません 2026/05/15~2026/05/21の[小説] ルーキーランキング62 位!ありがとうございます!! 以下おまけ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「ねえ陣平」 「ん?」 「もし私が陣平の事忘れちゃったらどうする?」 「何が何でも思い出させる」 「思い出せなかったら?」 「思い出せなくてもお前は俺に惚れるよ」 「何その自信」 「ガキの頃から惚れてたんだぜ、今更逃がすかよ」

私と萩原研二、松田陣平は幼少期からの幼馴染だった。何がきっかけだったか覚えていないけど仲良くなってから私の生活は一変した

母が変質者に襲われた

父が警察に相談したがまともに取り合ってくれなかった

母は精神を病み男性恐怖症になり大好きだった父を拒絶して数日後この世を去った

亡くなった母とよく似た顔立ちの私を父は捨てた

__憎らしくもよく晴れた日に私はひとりぼっちになった

そんな私を気にかけてくれたのが幼馴染の2人とそのご両親だった
私は不器用ながらに幼馴染の両親を第2、第3の両親と慕っていたし幼馴染たちに感謝している。だから彼らが目指す警察官に自分もなりたいと思った
……彼らが目指すものを後押しする事が恩返しだと思ったし離れたくなかったから

……全てが壊れたのは幼馴染の片方が死にかけた日から少し経ち面会出来ると言われた日だった
あいつは、陣平は研二をこんな風にした仇を取ると息巻いていた

「…研二」

「ごめんな…俺はこんなんだからあいつの事止められなかったよ」

ぐるぐると巻かれた包帯に顔を顰めながら世話をしていると自責の念に駆られた研二が呟く

「俺が防護服を着ていたらここまでの怪我は負ってない。俺が悪いって言ってもさあいつ聞かないんだ」

「そうだろうね、あんたが巻き込まれたあの日からあいつ、全然家帰ってないらしいから」

「らしいな…班長から聞いたよ」

アクセルしかついてない幼馴染共にため息を零し気にしておくと伝え病室を出て向かった先は警視庁。私達の職場だ

「……陣平」

「……おう」

「ん、どうせろくに食べてないんでしょ?少しでも胃に入れておいた方がいいよ」

「さんきゅ。……ハギのヤツどうだった」

「変わらず、かな。あんたの事心配してたよ」

「そうか」

あげたゼリー飲料を一気飲みした陣平は心ここに在らずの様子でまるで業務連絡のように研二の様子を聞いてくる
……今のこいつに何を言ってもきっと届きやしない。陣平のお父さんが誤認逮捕されたあの時も同じようなオーラを纏っていたから

「……落ち着いたら顔出してやって。あいつ暇そうだから」

「そうだな」

ああ……こいつはもう__

松田陣平にとって萩原研二は唯一無二の相棒。なら私は?私はたまたま2人と関わる事が出来ているだけの存在。研二の意識は私の方に向くけど陣平の意識が私に向くことはない。

「きっついなあ……ゴホッ、ゴホゴホッ……おえ、」

洗面台に散らばる花びらに顔を顰めた
僅かでも事例が報告されている病気「嘔吐中枢花被性疾患」通称、花吐き病。

片思いを拗らせると発症する病気で患っている人の吐いた花びらに触れると感染する、という病気だ。私は花を吐いた人を見た事ないし触れるなんてもってのほか。つまりは片思いを拗らせた結果の発症という事になる

「……こんな事で知りたくなかったよ」

私はあの2人と一緒にいられるならそれで良かったのに。どうして今なの。

止められない激情に勢いを任せ壁を殴る
これを悟られる訳にはいかない。幼馴染にも、同期達にも
……だけど隠せるとも思ってなかった

__だから私は次の月末で辞めると退職届を提出した

私が退職届を出したと噂で聞いたらしい陣平は一目散に私の元にやってきて本当に出したのかと聞いてきた

「……出したよ」

「何で……いや、悪い……」

「私さ、2人との繋がりを切りたくなくて警察官になろうと思ったの……でも研二があんな事になってもう無理だと思った。私は陣平のように強くないから」

「……俺が堪えてんのにお前が何でもない訳ねえよな……気付けなくて悪かった」

「別にいいよ、お互いに自分の事で精一杯だったんだし」

私の頭にポンと手を乗せ器用に撫でた陣平が上手くやれよと力なく笑うから私はまた何も言えなくなってしまう
去っていく背中を見つめながら込み上げる吐き気を堪え踵を返し歩き出す

これでもう、私は彼を支える添え木の役割さえ出来なくなった
逃げた自分に出来ることなんてもう何ひとつ無かった

「……ごめんね」

そして警察官を辞めた私に新たな厄災が降り掛かる

__事が起きたのは研二が巻き込まれた3年後。

この時にはリハビリを頑張った研二が無事に職務復帰していてあいつから陣平の様子について聞いていた

そして全てを聞いたのも終わった後、切羽詰まった様子の研二からの連絡だった

「陣平ちゃんが巻き込まれて病院に運ばれた。」

迎えに行くから一緒に病院に行こうと言われ電話を繋いだまま慌てて用意をする

陣平と研二は大観覧車と米花中央病院という別の場所で爆弾の解体に当たっていたという。
研二と電話を繋ぎ互いに状況を報告しながら作業に当たっていたが陣平が解体していた爆弾が不審な動作を始め慌てて爆弾を外に投げたが爆風の衝撃でゴンドラが大きく揺れた事でバランスを崩し頭を強打し意識を失ったんだそうだ

「陣平……」

「大丈夫だよ、頭を打ったって言ってたけどそれ以外の外傷はないらしいしあいつしぶといだろ?」

「そうだけど……」

励ましてくれる研二の言葉に受け答えしながら病室の扉を開き中に入る

そこで陣平が放ったのは

「おうハギ、悪いな……そいつお前の連れか?」

私の心を切り裂くには容易な言葉だった
理解出来てしまった。
頭を打った、私に対する言葉、まるで初めて会ったかのような眼差し

ああ……彼の中に私はいない。

「陣平ちゃん何言って__」

「初めましてではないんだよね、私達ね警察学校の同期だったの。同期だからって萩原が連絡くれたからお見舞いに来たんだけど2人にした方がいいよね?萩原、私1人で帰るから気にしないで」

「あ、……ちょっと待って、!」

「それじゃ松田、お大事にね」

もうダメだ。耐えられない。
研二の言葉を無視して病室を飛び出し早足で病院を出て走る

あの2人の輪に入る事なんて出来ない事なんて分かりきっていたじゃないか。陣平の目に止まる可能性なんてゼロだって……身に染みて理解してただろうに

「ままならないなぁ…」

ポロポロとこぼれ落ちる涙をそのままに足を止めることなく走り続け自宅に逃げ帰ってきた1時間後、悲しそうな顔で研二がやってきた

「……陣平ちゃん、お前の記憶だけがすっぽり抜けてた」

「……そう。」

「おかしいだろ……何で付き合いが長いお前の記憶が無くなって他のどうでもいいヤツらの記憶は残ってるんだよ」

「研二、私はだいじょ、」

「大丈夫な訳ないだろっ!!」

あの研二が私の為に怒っている。何処にぶつけたらいいか分からない怒りに震えて一心不乱に声を荒らげる研二は綺麗にセットされた髪をぐしゃぐしゃと乱しながら呟く

「どうしてお前ばっかりなんだよ……俺達で守るって決めたんだ、もう諦めさせないってあいつと約束したんだよ……なのに……っ、!」

「……研二、もういいよ」

もう、いいから

「ありがと、そんな風に思ってくれてるの知らなかった。……でももういいよ」

私はもう迷ってないから

「陣平の事、よろしくね__ゴホッ……ッ!、」

咄嗟に手で抑えたけど隙間からこぼれ落ちた花びらに研二は目を見開く
吐き出したのは儚い希望、恋の苦しみの花言葉を持つアネモネの花だった

「それ、」

「ゴホゴホッ……さわら、ないで……ね」

うつる……と何とか振り絞って声にしてフラフラとしながら立ち上がり近くに置いてある袋を取り花びらを詰めていく

「……いつから、?」

「……3年前」

「3年前…って俺の」

「正確にはもう少し後だけど…私が退職届を出したのもこれがきっかけ」

「そっか…伝えないの?」

「言わないよ。今のあいつは何も知らないんだから」

付き合いが長いからきっと私の恋心に気付いていたんだろう。誰、と名前は出さず出された問いに否を唱えると研二は寂しそうに目を細めた

「何かあったら言って。陣平ちゃんも大切だけどお前も大切な幼馴染だから」

「ありがとう」

繋がりを切りたくないと縋り続けたのは私だけど今は何もかも捨ててしまいたかった
きっと研二はそれも気付いている。だけど研二は繋がりが切れるのを拒んだ

私はどうしたらいいんだろう

日に日に増えていく花びらに慣れてきてしまっていた。花吐き病は両思いになると白銀の百合を吐き出し、報われないと窒息死してしまう

増え続ける花びらを前に限界が近い事を悟った私は最後だから自由に生きようと決めた

まずは断捨離。死んでしまったら持っていく物はないのだからと最小限の物だけ残して全て捨ててしまった

次に一眼レフのカメラを買った
もう見られない景色を写真に残そうと思った。
何度か研二に一緒に写ろうと誘われたけど私が撮りたいのは人物じゃなくて景色だからと断った

色々あって死にかけた班長に焦ったナタリーさんが逆プロポーズしたと聞いて驚いたしトントン拍子で話が進んで班長が事故にあった1年後には結婚式が開かれ私はフォトプランナーとして写真を撮らせて貰った。懐かしい顔が揃う結婚式の写真を撮らせて貰えたのは何よりも嬉しかった

消息不明だった降谷と諸伏はそれぞれ偽名を名乗り行動していて可愛がっていた後輩の美和子ちゃんや目暮警部、もちろん研二と陣平もいた
研二がヒラヒラと手を振ってくる隣で陣平は何の興味も示さず美和子ちゃんと高木くんという後輩と話していたのを覚えている

やっぱり覚えてないんだと感じさせられてしまって込み上げる吐き気を感じ慌ててトイレに駆け込みひとしきり吐き出してから戻ろうと廊下を歩いていると今まで出会う事がなかった同期に声を掛けられた

「……萩原から聞いたよ」

「相変わらずお喋りだね研二」

声を掛けてきた降谷は安室透という名前でウエイトレスに扮していた
卒業後に消息不明になった事と今の状況から恐らく公安に配属になった事は理解出来た
ヒロも向こうの人間だと話す降谷にそう、と返せば会話に困ったのか少し考えた後降谷が口を開いた

「……もう限界が近いんだろう」

「まあね」

「あいつらを置いて逝くのか」

「仕方ないよ」

「記憶喪失になった人は何かしらの刺激によって記憶を取り戻す事があるそうだ」

「だから話せって?嫌よ」

「やってみないと分からないだろ」

「そうじゃない。もし思い出さなかったら私はどうなるの?今のあいつにとって私はただの同期。幼馴染ですらないんだよ」

あいつの関心のない無機質な瞳で見つめられる事がどれだけ苦痛か分かる?

窓の外を眺めながら言えば降谷は口を閉ざした

「最初から分かってたよ、あいつの中にあるのは研二と家族の事だけ。警察学校に入って同期という存在が増えたけど私は輪の中にいない。」

「そんな事、」

「私は欲張りだから」

あいつの唯一になりたかった。なりたいと思ってしまったから駄目なんだと

「私じゃあいつのブレーキになれないから……見守ってやってよ、うちのバカ共のこと」

「……ああ、分かった」

「ありがと」

ごめんね降谷。あいつらの輪には入っていなくても降谷と諸伏が気にかけてくれていた事、班長が支えてくれていた事はちゃんと気付いてるから

今日くらい最高の姿で送り出したいんだ

結婚式が無事終わりお世話になった警察関係者達に挨拶を済ませ班長達の所に行くとナタリーさんが嬉しそうに写真撮ってくれてありがとうと笑うからつられて微笑みこちらこそ、と言っておく

「私は着替えがあるからごめんなさい」

「ううん、行ってらっしゃい」

ナタリーさんが抜けて班長と研二と陣平が残されたこの場の空気は少し重苦しい

「まさか逆プロポーズするなんてナタリーさんもやるね?」

「男としては面目丸潰れだがな…でも嬉しかったよ、それだけ想われてるって事だろ?」

「はいはいご馳走様です」

「あの班長から惚気が聞けるとはな〜?感慨深いよな」

「あんたもそろそろ身を固めた方がいいと思うけど?いい加減にしないと刺されるわよ」

「最近は仕事一筋ですー」

「え、あんたが?」

「そんな意外そうな顔しなくてもいいだろー?俺にだって色々あんの」

「むぅ……ん"ー!」

「ふはっ!!すっげえ声出すじゃん」

私の頬をつまんで遊ぶ研二に怒れば笑われて班長にやめとけと止められた
研二の隣にいる陣平は話さない

「陣平ちゃんどうした?疲れてる?」

「……まあな」

「ふーん?」

上の空の陣平は何を考えているのか分からないがきっと私には関係ない事だ

「それじゃ私は帰るね」

「送ってこうか?」

「タクシー捕まえるから大丈夫」

私が1人で帰りたいのを察したのか研二はそれ以上何も言ってこずそっか、とだけ返し班長も気を付けて帰れよと一言

「またね」

カメラが入ったバッグを肩にかけ会場を後にした私の姿を陣平が目で追っていたなんて知らず私はその足で次の目的地に向かっていた

ずっと、何かが足りないと思っていた

観覧車に設置された爆弾が不審な動作をして解体出来ないと悟った俺は咄嗟に爆弾を外に放り投げた
その結果爆風でゴンドラが揺れ立っている事がままならず体勢を崩し頭を強打し病院に運ばれたと聞いたのは事件から2日後に目を覚ましたからだった

俺の見舞いに来たハギが連れていた女に見覚えがなかった。だから連れかと聞けば揃って変な顔をするから何だと聞こうと口を開こうとして遮られた

女は俺達と同じ警察学校に通っていた同期でハギから連絡が来て一緒に来たと言った

おかしいと思った。ハギは確かに人あたりがいいが同期だからと連絡を取ったり俺の所に連れてきたりしない。その事を聞こうとする前に出ていってしまった女の背中をハギは辛そうに見送ってから俺に聞いてきた

「あの子の事覚えてないのか?」

覚えている以前に知らないと返せばあいつは言葉を詰まらせた
その後に来た班長や目暮警部達にハギは俺が記憶喪失であると告げた

俺はあの女と何かしらの関係があったらしいが俺はすっぽりとあの女に関する記憶を失っている。
全員が言葉を失っていて何も分からない俺だけが残されていた

ハギは医者にこの事を伝えそれ以降女が病室に来る事もあいつらが女の話題を出す事も無くなった

記憶が一部ないということを除いて万全な状態に回復した俺は職場に復帰した。
勝手に突っ走った事で軽くだが処分が下り暫くは内勤仕事しかしていなかった俺は少しずつ違和感を覚えるようになった

ハギと2人で話しているとふとした時に足りないと思うようになった

飯を食っていると俺の好きな料理が口に合わなかった。好きな料理だしいつも食っていたはずなのにこれじゃないと思う事があった

時々自分でも分からないが何かを探していた
ふと我に返って何をしているのかと自問自答するが答えが返ってくる事はなかった
欠けたピースを探し続けて時間だけが過ぎていく
どれだけの時間が経っても探すことを止められなかったのは忘れちゃいけないものだったんだと分かっていたから。だから何としても思い出さなきゃなならなかった
それでも思い出せないまま迎えた班長の結婚式には懐かしい顔があった

安室透と緑川唯の偽名を名乗る降谷と諸伏はウエイトレスとして会場にいて、ハギが手を振る先に入院していた時一度だけ見舞いに来た同期の女が立っていた

綺麗に着飾った同期は目暮警部や佐藤達と仲が良さそうに話しているのを見てやっぱり俺の記憶から消えたこいつはただの同期ではないと感じていた
警察学校の同期と言いながらこいつは警察官になっていない。それなのに同僚達との距離は知り合いと呼ぶには近すぎて

「煙草吸ってくる」

ヒントは散らばっているのに正解を見つけられない焦りに支配されそうなのを押し殺し隣にいるハギに声を掛けて会場から出てきた

「……クソッ」

今日は班長と嫁さんの結婚式だ、それだけを考えろと煙草を吸い無理矢理気持ちを落ち着かせ何もないフリをして会場に戻った
まあ同期の奴らは気付いていただろうが気を使って声を掛けてこなかった

結婚式が無事に終わって招待客がまばらになってきた頃、嫁さんが着替えに行って1人になった女が俺達の輪に入ってきた

「まさか逆プロポーズするなんてナタリーさんもやるね?」

「男としては面目丸潰れだがな…でも嬉しかったよ、それだけ想われてるって事だろ?」

「はいはいご馳走様です」

「あの班長から惚気が聞けるとはな〜?感慨深いよな」

ポンポンとテンポ良く交わされる会話に安心感がある
長い付き合いじゃないと此処まで会話が弾む訳がない

「あんたもそろそろ身を固めた方がいいと思うけど?いい加減にしないと刺されるわよ」

「最近は仕事一筋ですー」

「え、あんたが?」

「そんな意外そうな顔しなくてもいいだろー?俺にだって色々あんの」

「むぅ……ん"ー!」

「ふはっ!!すっげえ声出すじゃん」

人あたりはいいが俺達以外にはさりげなく壁を作るハギが女の頬を摘んで面白おかしく笑っている
こいつは絶妙なラインを見極めるのが上手いから女に軽々しく触れるような奴じゃない。
俺や千速に見せるのと変わらない表情のハギとやれやれといった表情を見せる班長

あぁやっぱりこの女はただの同期じゃない

あれこれ考えて口数が減っていた俺に疲れたのかと聞くハギに適当に返事をした所で同期が自分は帰ると言いハギに送って行こうかと言われたのを断り軽く挨拶をして背中を向けた

__その背中がいつかの光景と重なった気がした

「__ッ、!!」

突然やってきた痛みに膝を突いた
俺が崩れ落ちた事で周りが騒がしくなるが今の自分は気にしている余裕なんてなかった

無理矢理詰め込まれる記憶に呼吸が詰まりそうになるが何とか酸素を取り込み循環させる
そしてやっと頭痛が治まった頃、俺は泣いていた

「陣平ちゃん!」

「………はは、」

「松田……?」

「……全て失ってこの世を諦めた顔したあいつに二度とそんな顔して欲しくなくてハギと約束したんだ」

「陣平ちゃんまさか、」

「それなのに俺があいつに諦めさせた。………何してんだよ俺は」

俺とハギとアイツはずっと一緒だった
家族を失って、今まで遊んでいた友達が皆離れていってアイツは絶望して、諦めた

幼いながらに俺達はこのままじゃアイツが死んじまうと感じて傍にいた
それでもアイツはいつも何かを諦めていた
警察学校に入ってからアイツはより一層分厚く壁を作り取り繕うようになった

「俺は、」

ハギが死にかけてからアイツは俺の事を気にかけてくれていた。自分だって辛かっただろうに一切の弱音も吐かず犯人を追う俺と入院しているハギを繋いでくれていた

「なあハギ……俺がアイツの事忘れてからアイツが泣いた所見た事あるか」

「……あの子が泣けないのお前だって知ってるだろ」

「知ってるよ、アイツの一番近い所にいたのは俺達なんだから………知ってたのに」

アイツが何も言わないのをいい事に俺は自分の気持ちだけを押し付けてきた
だからアイツが突然警察官を辞めると噂で聞いた時、安心したんだ
……やっとアイツは自分の事を大切にするようになったんだなって

「……アイツは何を隠してる?」

「……やっぱり気付くよなぁ」

「お前なら知ってるんだろ、ハギ」

「知ってるよ、でもお前に教えてやる通りはない」

「何で、!」

「記憶を失ったお前も被害者だけどさ俺はあの子の味方だから……記憶が無いお前はあの日、病室であの子になんて声を掛けたか覚えてる?」

「あの日…?」

「"お前の連れか?"って……お前はあの日あの子にこう言ったんだよ」

「……ッ」

「覚えていないとはいえお前が関心のない無機質な目であんな事を言うからあの子は何も言わなくなった。俺や班長達と距離を取るようになった」

俺は悪くないとハギは言う。班長達も寄り添おうとしてくれる
でも俺は自分の事が許せなかった
自分がアイツの立場だったら俺は怒っていただろうから
どうして忘れてしまったんだと、そんなに薄い関係だったのかと声を荒らげていた筈だ

「松田さん」

安室の顔を貼り付けた降谷は俺にタオルを渡し萩原から俺達の関係について聞いていたと前置きをして話始めた

「先程彼女とたまたまお会いした時に浮かない顔をしていたので声を掛けたんですが彼女、何て言ったと思います?」

最初から俺の中にあるのはハギと家族の事だけ。警察学校に入って同期という存在が増えたけど自分は輪の中にいない

「そんな事はないと言ったんですが……自分では貴方のブレーキにはなれないのだと辛そうにしていました」

その言葉を聞き腹の中で暴れ回る感情を抑えつけながら会場を飛び出した

俺はアイツを守りたいだけだった
危険から遠ざけたくて……アイツが笑顔で過ごせるようになったら、もう二度と濁った瞳で全てを諦めた表情をしなくなればと思っていた

アイツとハギが傍にいてくれるならそれで良かった
警察学校に入って同期が出来て、降谷と諸伏と班長の存在が大きくなった
それでも俺にとっての一番は2人の幼馴染だ

ハギが死にかけてから事件を追う中で涙を流さず弱音を吐かないアイツに勝手に大丈夫だと決めつけて………結果追い込んだのは俺だ

「__待て、ッ!!」

元には戻らないだろう。俺がお前に付けた傷は簡単に治るものじゃない
それでも、もう一度チャンスをくれるなら

「悪かった。……全部思い出した」

俺はまだ

「酷い事をした、許されるなんて思ってねえ。………これだけ聞いてくれ」

お前の隣にいたいんだ

「お前を想う気持ちは嘘じゃない。…ずっと好きだった」

やっと捕まえた幼馴染は震えていた

会場を出てトボトボと歩く
最後まで陣平は変わらなかった
時々何か考えていたけどどうせ事件の事だろう

「良かった、一目見れて」

何となく自分の限界を察していた
だから班長とナタリーさんの結婚式が終わったら全て断ち切ろうと決めていた
お世話になった人達に何も言わずにというのは申し訳ないがもう充分頑張ったよ
スマホを開きデータを初期化しようとした所で画面が変わり電話に出る

[良かった繋がった]

「……なあに」

[最後に話がしたかったんだ]

ほら、俺は君と話せなかったから
不貞腐れたような声色で話す諸伏はゼロとは話したみたいだしと少し怒っている

[君に伝えたい事が沢山あるんだ]

「沢山?」

[詳しくは話せないけど俺、一度死にかけたんだよ。その時に警察学校に通っていた時に君が言った言葉を思い出して頑張って逃げてきたんだ]

「私何かした?」

[覚えてない?教官が危なかった射撃訓練の日]

「その日の事は覚えてるけど……」

[あの日記念にって弾をくすねようとした奴がいただろ?しかも松田のせいにしてさ、そいつに君が言った言葉だよ]

"陣平に罪を擦り付けようとするの止めて。見てたよアンタが左ポケットに弾入れたの。警察になりたくて此処に来たんじゃないの?遊びに来たなら帰れよ、真剣に夢を追ってる奴に失礼だし生半可な覚悟の奴に守られて誰が嬉しいって言うの?そもそもそんな奴が市民を守れる訳なくない?共倒れでおしまいだよ"

「よく覚えてるね……」

[俺が踏みとどまったのはこの後]

"アンタみたいな窃盗犯でも正義の味方になれちゃうんだから不思議ね。正義の為に汗水垂らして身を削ってる人が馬鹿みたいじゃん"

[あの日嫌味で言った言葉だけど思い出してから俺は嬉しかったよ……許された気がしたんだ]

緑川唯の偽名を名乗る諸伏に大体の予想はしていた。今は諸伏景光の名を名乗れなくて、名乗れない理由の中に自分の身を削る何かがあったんだろう

「……アンタ達に会えて嬉しかったよ、どんな姿でも元気そうだったから」

[お陰様で元気にやってるよ…またね]

最後に、と言いながらまたねと電話を切るんだから諸伏も嫌な奴だ

真っ暗な画面を見つめ決心した私は今度こそデータを初期化して鞄に突っ込む

今後の短い余生をどう過ごそうか考えていると後ろから荒々しい足音がして端に避ける前に聞き覚えのある声で制止を促され腕を掴まれた私は反射的に相手の顔を見て声を失った

「悪かった。……全部思い出した」

汗を流し髪が乱れ頬が赤くなっている陣平が迷子みたいに視線を彷徨わせていた

「酷い事をした、許されるなんて思ってねえ。………でも、これだけ聞いてくれ」

突然の出来事に頭がパンクしそうだ
思い出した?何をきっかけに?何を言おうとしているの

「お前を想う気持ちは嘘じゃない。…ずっと好きだった」

久しぶりに見た顔は後悔と決意が滲んでいた

「ほんとに……思い出したの?」

「おう」

「……なんで」

「散々傷つけておいて虫がいいのは分かってる。でも俺がお前を離したくないんだ……だから俺の隣にいて欲しい」

嬉しい筈なのに上手く言葉が出ない
また忘れられるんじゃないか、私はいつも蚊帳の外だから

そんなマイナスな考えばかりよぎってせり上がってくる吐き気を抑えられず吐き出す

「お前……」

「ゴホッ……、!!?」

吐き出したのは白銀の百合。つまりは両想いだったという訳で
頭ではマイナスな考えばかりなのに吐き出された花が真実を突きつけてきて理解するまでに時間が掛かった

やっと落ち着いた頃に陣平が私を抱き締めていた事に気付きオロオロしていると低い声で家、と一言発して黙られてしまい花を広い袋に詰めてから仕方なくマンションに連れて帰る
リビングの扉を開けて陣平を入れると部屋の中を見て言葉を失っていた

「お前……ギリギリだったのか」

「……。」

「頼む、教えてくれ…」

「……今日が終わったら出ていくつもりだった。誰とも会わずに死んでいくんだろうなって」

「……ハァ……良かった…、」

陣平は鈍感な部分はあれど頭はいいから私が百合を吐き出した時点で私が陣平を想っていた事と実った事に気付いたんだろう。そしてこの殺風景な部屋を見て私の限界が近かった事を理解したんだと思う

「ハギが生きててもお前がいなきゃ意味ねーんだよ……、」

「忘れてた癖に」

「うっ……」

「……良かった」

「!……怒っていいんだぞ。俺はお前に散々酷い事したんだ」

「怒らないよ」

「じゃあ言い方を変える。俺の為に泣いてくれ」

「……!」

私をすっぽり抱き込んだ陣平は何も言わずポンポンとあやすように背中を叩く
陣平の体温と鼓動に安心して涙が零れ落ちそうになるのを堪え下を向く

「何でもいい、言ってくれ」

「っ……ばか」

一度堰を切ってしまえば止まらない

どうして私だったの?

何で覚えてないの?

私を消さないで

お願い、そんな目で見ないで

「わたしをひとりにしないで」

両親を失ってから私はひとりぼっちだった。友達が離れていって大人達から白い目で見られていた
私にとって陣平と研二と2人の家族が全てだった

「俺達はずっとお前を見てたよ、そしてこれからもお前の傍にいる」

「じんぺい」

「もう我慢しなくていい。お前は俺達の幼馴染だろ、壁を作るのはもう止めてくれ」

「……ん、」

顎を掬われて上を向くと研二や千速ちゃんにも見せた事のない顔で陣平が私を見ていた

「俺はお前の言葉で聞きたい……なあ、教えてくれ」

「……う」

「お前の事が好きだ。お前は?」

「……すき」

か細く振り絞った声で呟いた言葉を拾った陣平が嬉しそうに笑うからいたたまれない
そんな顔すると思わないじゃん

「傷つけた分以上に幸せにしてやるから」

「プロポーズみたい……」

「そのつもりだけど」

「え」

「こんな状態で生活出来んのか?」

「そ、れは……」

「無理だろ。だから家来いよ、俺だってお前と離れたくねーし」

そう言って私の涙を拭った陣平は私が何か言う前に優しく唇を奪っていった

— End —

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Sakuria
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