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松田先輩にからかわれる

まむまむ

捜査一課で働く松田と後輩ちゃんのお話 ※あらすじにて二人の設定の説明あり

昼下がりの警視庁。捜査一課の慌ただしさが嘘のように、奥まった場所にある資料室は静まり返っていた。窓から差し込む西日が、埃の舞う空気の中に黄金色の筋を作っている。

「……あと、もうちょっと……っ!」

🌸は、壁際まで高くそびえ立つ資料棚の最上段を見上げ、必死に手を伸ばしていた。 普段はどんな仕事も卒なく、笑顔でこなす🌸だが、この「身長の壁」だけはどうにもならない。つま先立ちになり、指先を限界まで伸ばして、青いファイルの端に爪を立てる。だが、必死に掻き寄せようとするたび、ファイルは無情にも少しずつ奥へと押し込まれていく。

(あと三センチ……いや、せめてあと五センチあれば……!)

眉間にシワを寄せ、うなり声を上げながら格闘すること数分。もう一度、大きく背伸びをしようと息を吸い込んだ、その時だった。
背後から、ふわりと聞き慣れた香りが漂うふんわり纏うたばこの匂いと、微かに混ざった洗練された香水の匂い。

「おい。何してんだ。資料室でダンスの特訓か?」

耳元で、低く、少し楽しげな声が響いた。 同時に🌸の頭上から長い腕が迷いなく伸びる。🌸があんなに苦労していたファイルを、大きな手がひょいっと軽々と掴み取った。

「ん、これだろ」
「あ……ありがとうございます、松田さん」

差し出されたファイルを受け取ろうと振り返ると、そこにはすぐ近くに松田の胸元があった。 慌てて一歩下がろうとするが、背後には棚がある。資料棚と、目の前の大きな体に挟まれるような形になり、一瞬で逃げ場を失った。
松田はファイルを🌸の手に握らせたまま、腕を引こうとはしなかった。 それどころか、空いた方の手を🌸の耳の横にある棚に突き、退路を断つように顔を下げてくる。

「……松田、さん?」
「お前、さっきから見てて飽きねーわ。その、届きそうで届かねー時に必死になってる顔」
「……えっ。見てたんですか?」
「ああ。五分くらいな。応援呼ぶかと思ったら、ムキになってぴょんぴょん跳ねてっからよ」

松田は意地悪く口角を上げると、サングラスを少しずらして、じっと🌸の目を見つめた。 近すぎる距離に、🌸の心臓は警報のような鼓動を刻み始める。 見上げれば、整った顔立ち、鋭いけれど今はどこか柔らかい瞳、そして自分よりずっと高い位置にある肩。 いつもは同じ職場の先輩として接しているけれど、こうして至近距離で対峙すると、圧倒的な「男の人」としての体格差を突きつけられる。
その当たり前すぎる格好良さを、無防備な至近距離で食らってしまい、🌸は直視できずに視線を泳がせた。

「……なんだよ、その顔」

松田が少し声を低くして、わざと🌸の耳元に顔を寄せる。

「その……松田さん、やっぱり背が高いんだなって、あらためて思っただけです。……ずるいです」
「……ふーん? ずるい、ねぇ」

松田はわざとらしく鼻を鳴らすと、空いている方の手で、🌸の頬を指先でツンと突いた。

「っつうか、なにずっと見てんだよ。……もしかして、惚れ直したか?」

そう言って、彼は子供がいたずらに成功したときのような、無邪気で自信満々な笑みを浮かべる。 三係のエースとして恐れられるクールな刑事なのに、二人きりになると時折見せる、この子供っぽくて、それでいて独占欲の強い表情。それがたまらなく魅力的で、🌸は胸の奥が熱くなるのを感じた。

「……っ、そんなわけないじゃないですか! ほら、仕事戻りますよ!」

🌸は真っ赤になった顔を隠すように、ファイルを抱えて彼の腕の下を潜り抜けようとした。 だが、それよりも早く、松田の大きな手が🌸の腰をぐいと引き寄せた。

「おっと。逃げんのか? まだ答え聞いてねーぞ」
「ちょ……松田さん、ここは会社ですっ! 誰か来たらどうするんですか」
「誰も来ねーよ、今は。……ほら、言えよ。惚れ直したのか、そうじゃねーのか」

松田は🌸の首筋に鼻先を寄せ、深く息を吸い込む。 職場モードの「松田さん」から、独占欲を隠さない「陣平さん」へのスイッチが完全に入っていた。 翻弄されているのは自分だと分かっていながら、🌸は彼の腕の中で、どうしても彼を拒むことができなかった。

「……言わないと、ここから出さないからな」

耳たぶを甘く噛むように囁かれ、🌸はついに降参した。

「……はい、そうです! 惚れ直しましたよ、もう! だから離してくださいっ」

投げやり気味に、けれど精一杯の愛を込めて叫ぶと、松田は心底楽しそうに「ははっ!」と声を上げて笑い、ようやく腕の力を緩めた。

「素直でよろしい」

彼は最後にもう一度だけ🌸の頭を乱暴にかき回すと、先に資料室のドアを開けて、何事もなかったかのような「松田刑事」の顔で歩き出した。

「じゃあな、🌸。残りの仕事、がんばれよ」

ヒラヒラと手を振りながら何事もなかったかのように、颯爽と去っていく松田。真っ赤な顔のまま取り残された🌸は、抱えたファイルをぎゅっと抱きしめ、いつまでも収まらない心臓の音を必死に宥めていた。

(……本当に、ずるい。あんな顔、ズルすぎる……)

西日の差し込む静かな資料室で、🌸は一人、彼がついた棚の感触と、耳元に残る低い声の余韻に浸っていた。

— End —

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