こちら二次創作になりますのでご本家様とは全く関係のない作品となります
パクリ、無断転載はおやめ下さい
私は好き勝手に書きますので、よく修羅場になります
以上のことがダメな方、引っかかる方は非推奨
休日の午後、モンドの都市では穏やかな風が吹いていた。噴水から水が流れる音が聞こえる場所を、旅人の蛍とパイモンがを歩いている。
そんな時、二人の視界に知った後ろ姿が二つ映った。
「あ、ローエンがいるぞ!あいさつでもしてこうぜ!」
「待って、レイナといる…デートかもしれない」
「デ……!?!?」
蛍は急いでパイモンの口を塞いだ。パイモンはすぐに落ち着き、それから解放される。二人は物陰に隠れながら、ローエンとレイナの後をつけた。
階段の前に来た時、ローエンは1段早く階段を下り、レイナに手を差し出した。その時の彼の行動と表情からして、狂人ではなく、紳士的な好青年にしか見えなかった。彼女の表情までは確認できなかった。
「どっちも騎士団だよね?階段くらい…」
「レイナは情報部門だからじゃないか?」
「た、確かに……?でも普通に戦闘も強いよね。逆に手が塞がって嫌じゃない?」
「そんなことより、ローエンだろ!」
互いに目を合わせ、唾を飲み込む。ローエンだけが、あまりにも行動と表情がおかしいことに、二人は気がついていた。
「あいつ、偽物か…?」
「私もそんな気がしてきた」
蛍は偽物ローエンを捕まえることを決め、剣を抜いて走った。
最近気になっている男性がいる。
彼はナド・クライへの遠征から、半年ほど前にモンドへ帰って来たばかりだ。私は一年前にモンドへ来て住み始めたばかりなので、その時に騎士団本部で初めて出会った。暗紅色の虹彩の中心に真っ黒なコーヒー豆を思い出させる瞳、スモーキーなブルーグリーンの髪に、整った顔立ち。
二人で出かける時は送り迎えをしてくれるし、沢山の細かいことにも気を遣ってくれる。面白いことがあったら話しかけに来るし、私の話を優しく聞いてくれる。
どうして今まで、このような人を皆が放っておいていたのだろうか。行動は紳士的だし、たまに口がいたずらっぽいところもあるかもしれないが、線越えの発言は無い。他に指摘されるようなところもない。
今日は、昼過ぎに二人の家の間にある噴水で待ち合わせた。彼は私が来る方向を見ながら待っていた。目を合わせた彼が笑顔で手を振ってきたので、私も振り返す。私は彼のもとに、ほんの小走りで近寄った。
「ごめん、待った?」
「全然。ほら、行くぞ」
ローエンは前に進むと、1段階段を下りて私に手を差し出した。高鳴る胸を悟られないように、私はそれに応えた。私たちは恋人同士ではないが、そうなることを望んで行動しているとは思う。
そんなふわふわとした気持ちで歩いている私の前に…
突然、突然栄誉騎士が表れた。
彼女の表情は険しく、今の雰囲気までも変えてしまう。栄誉騎士が剣を向けたことで、ただ事ではないことにやっと気がついた。そして、低い声で彼女は言った。
「レイナから離れて」
意味の分からないことを言い出す栄誉騎士に、不安を覚える。彼女がローエンの恋人であり、私は浮気相手になってしまっているのではないかと疑った。
「そいつは偽物だ!レイナ、早く離れろ!」
「え」
*
「ごめんなさい」
蛍が手を合わせ、瞼を伏せた状態で顔を下に向ける。二人はローエンを偽物だと思ってしまったらしい。ナド・クライで知り合いにそっくりな偽物が現れてから、変に疑ってしまうのだそう。
二人からの説明を聞いた私は胸を撫で下ろし、笑いながら許した。
そして栄誉騎士が去った後は、すぐに目的地であるキャッツテールに向かった。二人でドリンクを頼み、七聖召喚をした。
「そういえば、この前野良猫が勝手に玄関に住み着いた話したじゃん?」
「まだ諦めてねぇのか?」
「うん、飼い方分からないし」
「だったら、一緒に図書室で調べようぜ」
「飼わないって…あーー!行秋が死んじゃった…」
「フッ、次で終わりだな」
「待って、まだ巻き返せる」
「もう詰んでんだろ、とっとと諦めた方がいいぜ」
ローエンは愉快そうに目を細め、ニヤリと笑う。
私はまだ諦めないとダイスを振り、出た元素に頭を抱えた。持ち札も弱いので、勝ち目は完全に消えてしまう。
「うーん、負けたよ…何の話してたっけ」
「猫を飼った話だろ?」
「飼ってないって」
今日は珍しく、私をからかってくる。偶にしか見ることのできる、いたずらローエンだと思った。
彼はなかなか手強く、私はあまり勝てない。他愛のない会話をしながらカードとにらめっこをし、五回戦目でようやく勝つことができた。ローエンはそんな私を見て、目を細めて笑う。そして、飲み終わっていたドリンクを追加で注文してくれていた。
その後は他の人とも戦ったが、最後にもう一度ローエンと戦ってから店を出た。
時間はあっという間で、日が落ちかけていた。私はローエンに家まで送ってもらい、お礼を伝えてから扉と鍵を閉めた。部屋の明かりをつけ、カーテンを開け、街灯の明かりで見やすいままの彼の後ろ姿を眺める。彼は振り返り、手を振ってくれた。
彼の姿が見えなくなったことを確認し、私は家の中で反側にある窓の方へ歩いた。ここは隣の家がすぐ側にある。人がひとり通れるくらいの距離しか空いていない。
窓の端に、小さな封筒が貼られていた。私は窓を少しだけ開け、それを取った。小さな風をまた塞ぎ、中身を確認する。
報酬と手紙が入っていた。
前回送った情報が役に立ったのか、報酬は少し多めだ。モンドの情報を引き続き集めるようにといった内容が、手紙には書いてあった。
私の出身地はスネーナジヤであり、本職はファデュイ所属のスパイだ。
スパイなのに、潜入先の人と恋仲になっても良いのかなんて、誰も言わない。男女関係なく、情報を集める方法として使っている方法だからだ。
でも、本気で愛している人は少数かもしれない。本気になる場合、騙しと愛が両立してしまうことになるからだ。私はそれでもいいと思っているから、こうなっているわけだけど。
「私の可愛い娘が、サイコパスで血みどろな男に惑わされないか心配です……すごい表現」
偶に、上司からこの様に冗談を言われることがある。ただ単にモンドの騎士が嫌いだと言っているのか、私と結ばれそうな男性を全てその様に表現するのか、はたまた両方を言っているのかまでは分からない。
読み終えた私は、ろうそくに火をつける。そして、手紙を角からゆっくり落とし、灰にした。
ローエンは第5小隊の副隊長であり、大団長のファルカとも仲が良い。彼と上手く行けば、良い情報が引き出せるかもしれない。優しい彼に酷い思いをさせたくはないので、私の正体は死んでも隠し続けるつもりだ。
ローエンと出かけてから五日が経過していた。窓の外では夕焼けが始まり、空が朱と金に染まってる。
騎士団の情報担当が集まる部屋の隅で、私は机と書類を前に座っていた。今日に提出された報告書を全て確認し終えたところだった。私は席を立つと、小隊長のところに歩いて近づいた。
「先程の報告書に問題は見当たりませんでした」
「今日も収穫ゼロ……ですね」
西風騎士団にスパイがいるとの情報が入った。この国にいるスパイは私一人ではないため、誰のことを言っているのかは知らない。
この情報が何故入ったのか。それは、モンド人も数人がファデュイに潜入しているから…もしくは二重スパイだ。スパイはコードネームで呼ばれているため、それらの正体をスネージナヤに報告することはできない。
「はい…いかにも怪しい動きをしてくれれば助かるのですが」
「そんなスパイがいてたまりますか」
「リストにある人達、もっと踏み込んでみますか」
「いや、そこまではしなくていいです。人数が多すぎます」
「……ですよね」
「今日はもう帰っていいですよ」
「はい。お疲れ様です」
作業していた机に戻り、荷物をまとめると部屋を出た。階段を下りて騎士団本部出口近くまで行くと、栄誉騎士の蛍とパイモンの二人が図書館から出てきたところだった。
「レイナ!先週ぶり」
「また会ったね!今日はどうしたの?」
「ファルカに話があっただけだよ。それより、先週はごめん。まさか偽物でもなければ、デート中だとも思わなくて」
「大丈夫だよ。ローエンも面白がってたし」
「本当?よかった」
二人は胸を撫で下ろすと、いつもより距離を詰めた。そして、パイモンが小声で私に問いかける。
「で、実際のところどうなんだ?」
「どうとは…」
「今日はローエンいるか?」
「いないよ」
小声で話しても、この場所にいる人には聞こえてしまう。それでも、ローエンは外にいることが分かっているため、無理に話をそらす必要はない。私たち二人がそれっぽい雰囲気になっていることは、騎士団中にバレているから。
それを分かっているであろう栄誉騎士は、普通の声量で話し始めた。
「ローエンのこと好き?」
「うん」
「異性として」
じっと見つめながら言葉を全く濁さない栄誉騎士に、私は目を逸らした。
「気になってる…かな」
見なくても、二人の表情がパッと明るくなるのが分かった。二人とも一般的な女性と同様で、恋バナというものが好きらしい。
「告白はまだしてないよね?」
「うん、告白ってどうやったらされるの?」
「え?レイナがすればいいんだよ」
「私から告白?」
「うん」
栄誉騎士にパイモン、私の順で小首を傾げた。
恋愛物語を数冊だけ読んだことがある。それでは全て、告白は男性からしていた。だからそういうものだと思っていたけど、どうやら違うみたいだった。
「じゃあ、次出かける時に告白してみようかな」
「は!?え!!いきなり決めんなよ!驚くだろ!」
「告白を急かした訳じゃないよ」
「わかってるよ?」
「互いに恋愛初心者か……心配になってきたぞ」
「ローエンに彼女いたことないの?」
「絶対そうだよ。話したら分かる」
「なるほどな!だから二人とも変なことばっかりして目立つのか」
「変なこと…?」
「一部の偏りのある恋愛物語のように王道なことばかりするから目立つって意味だよ…パイモン、余計なことは言わないで。それで、ローエンについてなんだけど」
物語と現実が違うことはわかるのだけど、恋愛初心者であることがバレる程だろうか。目立つほどの行動もしたつもりはない。
これはまだまだ話が長引きそうだなと思ったところで、後ろから大団長の声がした。
「あいつはやめておけ」
「ファルカ!今は女の子だけで恋バナ中だぞ!」
「騎士団本部の入口でこんな話をしているのに、入るなって方が無理だろう。俺はそこの部屋にいたんだ。それよりも…レイナ、あいつを好きになるのだけはやめておいた方がいい」
大団長はからかいに来たものだと思っていたけど、違うようだった。私は不思議に思い、小首を傾げた。二人の仲も良さそうなのに、何故止めようとするのだろう。
「何故でしょうか?」
「性格で分かるだろ」
「え?」
「ファルカ、言い過ぎたよ。もうどうしようもないんだから、二人が上手くいく方法を考えた方がいいよ」
「どういうこと?」
「……ああいう男を好きになる女性は少なくはないが、全員ろくなことにはならない」
ああいう男というのは、ローエンの様な男性…つまりは優しい人を指すのだろう。つまるところ…
「優しい男は飽きるとか、他の女性の頼みを断りきれないとか……そういう話ですか?」
3人の目線がしっかりとこちらを向いており、瞳が大きく開いていた。何故か誰も声を出さず、まるで空気が止まったように感じた。
「「「は?」」」
三人の声がやっと出たと思えば、その後も停止していた。
優しいから大変という予想は外れたらしい。それならば、もうひとつは顔だ。
「モテて大変ってことですか?」
「ローエンの話だよな?」
「そうですけど…」
「オイラ、この前コテンパンに七聖召喚で負かされたって聞いたぞ」
「そういう話じゃなくて…何で知っているの?」
「私も知っているよ。しかも猫の話で遊ばれていたみたいだし」
「行動の話!それに本当に嫌なことは言わないでしょ。それより何で知っているの?」
「偶然だよ。レイナにとってローエンはどんな人?」
理由が知りたいのに、何故か3人は早く話してくれない。それどころか、何故か私にローエンのことを聞いてきた。仕方が無いので、パッと思いついたことを適当に上げる。
「優しくて気遣いができるし、安定感があって、頼れるよね。あ、たまにいたずらっぽいこと言うのがいいポイントかも…ん?どうしたの?」
私の言葉に、3人はまた黙ってしまった。それどころか、パイモンは頭を抱えている。そんな様子にまたまた小首を傾げた私を見て、栄誉騎士がようやく口を開いた。
「私たちにいたずらっぽいのは常にだよ。それ以外はさすがに、ローエンに騙…」
「待て」
話している途中の栄誉騎士を大団長が止め、その瞬間に騎士団本部入口の扉が開く。そこで現れた人により、全員が息を飲んだ。
そしてすぐさま、誤魔化すようにパイモンが話し始めた。
「うわ!!ローエンじゃないか!」
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
「今の話聞いていないよな?」
「聞かれたらいけない話を、ここでしていたのか?」
「うっ…………」
ローエンはパイモンと話しながら中へ入り、扉を閉めた。そしてやり取りが終わると、彼は私の方を向いた。
「俺はモンド城外の調査が終わったところだ。レイナ、この後一緒に飲みにいかねぇ?」
「いいよ」
さっきまでローエンはやめた方がいいと言っていた3人は、気まずそうに視線を壁の方へと逸らした。その後パイモンが小声で謝ってきたのも、変な話をして悪かったという意味だと思う。
ローエンと私はそんな三人を背に、エンジェルズシェアに向かった。
その後の三人が、不穏な会話をしていたとも知らずに。
「オイラが思っていたよりも、酷い気がしてきたぞ……」
「俺もそう思った。誘いのための流れも作らなかったな…ローエンに恋愛は早い気がしないか?」
「手順をすっとばしているよね」
「「あ」」
ローエンと出かけると毎回、やけに騎士団員からの視線を感じる。彼も私も団員だ。知り合いが男女二人ていたら見てしまうのは分かる。職場恋愛をする人は少数派だから仕方がないのかもしれないけど、ありえないくらいに凝視してくる人が多いので少し怖い。
エンジェルズシェアの扉を開けて中へ入ると、その時点で今までよりも強い視線を感じた。カウンターの向こうにいるディルックも私たちに動揺したのか、グラスを滑らせて落としそうになっていた。
角にあるテーブルを挟むように二人で座り、まずは二種類の飲み物と松茸の肉巻き、モンド風焼き魚を頼む。
飲み物はすぐに運ばれてきた。その後の店内は、いつもより静かに、それでもざわついており、視線を感じた。ローエンは気にした様子もなく、アップルサイダーを持っていたけれど、私は少し居心地が悪かった。
ふと、ローエン以外と目が合った。明らかに不自然な動きでこちらに近づいてくる騎士団の1人である男性だった。こういったお酒の場では、変に絡んでくる人がいる。
彼がローエンの後ろに来たところで、知り合いかどうか尋ねた。彼は横に首を振った。すると、男性は私に話しかけてきた。
「嬢ちゃん、そいつに気をつけろよ。男はみんな狼なんだからな」
「大丈夫ですよ〜。とっても紳士的な人ですから」
「紳士的?へ、へぇー…そ、そうか」
男性の少し不自然な動きが、操られている壊れた人形みたいに変わる。流石に酔すぎだから帰った方が良いが、それを勧める者はこの国だと少数派だ。
「ちょっと、お手洗いにいってくるね」
「うん」
私は席を離れて、お手洗いに向かった。
用を済ませた後は手を洗い、鏡の自分と目を合わせる。私は気持ちを切替えるように、髪を整えた。
「ん、バッチリ」
私は扉へ手をかけ、再び席へと向かった。
すると、落とされて割れている私のグラスが視界に入った。
さっき絡んできた男性とは違う男性がそこには立っていて、私を真剣な表情で見つめてきた。状況が理解できない私は立ったまま、ローエンに説明を求めた。
「ど、どうしたの?」
「ただの酔っ払いだ。そこ、破片落ちているから気をつけろよ」
「おい、そこの女。ローエンをあまり信じない方がいいぞ」
「え?」
話に割り込んで入ってきたのは、割れたグラスの傍に立っていた男性だった。意味の分からないことを口走る彼に、ローエンが睨んだ。
そしてすぐさま、男性の仲間であろう人達が後ろから掴んで引っ張っていこうとした。
「こ!これは俺の酒だ!ここに、俺の酒が」
「……それは私のお酒ですね」
「全部飲むな!全部俺のだ!!飲むな飲むな飲むな!」
酔っ払いは大きな声で叫びながら、暴れる。仲間たちはそれの口を塞ぎ、自分たちの席に引きずり戻した。
割れたグラスが片付けられ、騒動が収まっても、周りからの注目度は凄まじかった。まるで見張られているような視線だ。そんな状態でも、やはりローエンは何も変わらない。
「いつも思うけど、レイナはお酒に強いよな。酔ったことあるのか?」
「んー、あるけど…ほとんどが家飲みかな?外では酔うほど飲まないようにしてる」
「へぇ……俺と飲む時は気にしなくてもいいぜ。家まで送ってやるから」
ローエンの口元が緩んだ。まるで、恋人の寝顔を見つめるときのような、そんな表情だった。私は恥ずかしくなり、目を逸らしてしまった。
やっぱり、これが恋なのだと思う。そうでなかったら、私は恋がわからない。
栄誉騎士に、次出かけた時に告白すると私は言った。その「次」というのは、今だ。飲みの途中で伝えようか、帰り際に言ってしまおうか、それとも今?
私は告白のタイミングで頭を悩ませていた。
そんな時、ふと視線を感じた。
さっきの男性がこちらを見ていた。酒に酔って面倒になった男性だと思っていたが、元からおかしい人だったのかもしれない。
ローエンが席を離れるのを狙って、近づかれたらどうしようと不安になった。
しかし、すぐにそれが勘違いだったことが分かる。
くすりもられる。かえれ
と殴り書きされている紙が、ローエンの後ろから見えた。恐らく男性も私と同じで、スパイだったのだろう。咄嗟に私は視線を戻し、彼ににそれっぽく返す。
「レイナ?どうしたんだ」
「…………あ、ごめん」
「大丈夫か?」
「ちょっと調子、変かも」
グラスが割られてからは、まだ飲み物が運ばれて来ていない。だから、まだ「くすり」を身体に取り込んではいない。
恐らく、「くすり」盛るのはディルックだろう。ローエンがこんな視線が集まっている場所で、堂々と薬を盛ることが出来るわけないのだから。
あの人は騎士団とは違う情報網がある。私をスパイだと見抜いているか、疑っているのかもしれない。
自白剤を盛られてしまえば、自白をするだけではなく、自分で何を喋っているのか分からなくなってしまう。情報を漏らすことは最悪な事だし、何処まで話したかも分からないとなれば私は終わりでしかない。
「帰ろうぜ」
「うん、ごめん」
「レイナの体調の方が大事だろ」
頼んだ後にまだ来ていない食べ物は、他のテーブルにいる欲しい人にあげることになり、会計を済ませて二人で店を出た。
そこまで時間は経っていないはずだったけど、空は暗くなっていた。
ローエンは家まで私に付き添ってくれることになった。心配そうに私を見てくる彼の表情に、罪悪感で少し胸が痛かった。
「本当に大丈夫か?俺に何が用意できそうか教えろ」
「大丈夫、家にまだ食べやすい物とかもあるから」
「手伝えることはあるか?」
「大丈夫、もう今日は早く寝るよ」
このやり取り以降、無言で歩いた。家の扉の前まで来て、またローエンが私に声をかけた。
「何かあったら、すぐに連絡しろよ」
「うん、ありがとう。ローエンのこと、好きだよ」
「…そうか」
「恋とか、異性としてとかの好きだよ?」
「は?いま言うか?」
「変だった?」
「相当体調悪いみたいだな…やっぱり俺が看病を」
「大丈夫だよ。じゃあね」
「待て」
「だから大丈夫だって」
ローエンは溜息をつきながら、目を閉じた。何かを諦めたような、そんな表情だった。
「お前が元気になったら、俺からも伝えるから」
頷いた私を見て、ローエンは扉を閉めた。私が鍵を閉めると、足音が聞こえ、離れていった。
窓から外をこっそり覗き、ローエンが見えなくなるまで待つ。
その後、私は夕食を作り始めた。もちろん、体調は悪くないので好みのガッツリした肉ものだ。
「戻ってきたらどうしよう……ないか。寝てるかもしれないのに来ないよね。てか、そんなにタイミング変だったかな?」
夕食を食べ終えた私は、反対側の窓に向かった。
新しく挟まれている手紙があったので、すぐにそれを開いた。
ローエンに騙されています。彼とはあまり関わらないように。国をいつでも出られるように、手配は済んであります。
と、書いてあった。私は小首を傾げ、もう一度読み返してから暗号として他の文が隠されていないかも確認する。
薬を盛られそうになった話のことを指すのであれば、人が違う。
「はっきり言うタイプの冗談は珍しいかも…?」
前回と同様、私の可愛い娘が!的 な意味合いだろう。私の上司は結構微妙なジョークを言うので、本気の警告と区別が付きにくい。
ろうそくの火で手紙をゆっくり燃やしていく。もっと簡単な方法で燃やす人が多いが、私はこの方法が好き。
私は紙を燃やし終えた後、机の引き出しから便箋を取り、ペンを手にした。
もし彼がその気であるなら、利用してみせます。
と、手紙に書き込んでいく。ジョークにはジョークで返すものだ。ローエンとのことは本気で考えているし、スパイとして利用したいとも思っている。だから今の文は嘘であり、本当にもなるもの。
「…よし!これでOK」
しっかり封まで終えた手紙を前に、私は小さく息を吐いた。そして気持ちを切り替え、明日のことを考えながら寝支度を進める。
様々な違和感を無視したことが、後悔に繋がるとも知らずに。
レイナ
ファデュイ所属の仕事だけは出来るスパイで、一年前からモンドに潜入中。死ぬまでモンドでスパイを続けるつもりで、みんなのことは嫌いではない。まあまあ常識知らずで、スパイ仲間には心配されている。蛍のことを、心の中では「栄誉騎士」呼びしている。蛍に友達だと思われていることには、気がついていない。ローエンのことが結構好き。騙すことにはなるけど、愛するつもりでもある。恋愛について知識なさすぎる。
ローエン
恋愛について知識なさすぎる。初恋であるレイナの前では大人しくなる。彼女と似合わないとか、初恋は叶わないだとか、周りの目なんかどうでもいい。しかし、レイナがスパイだと知ったら発狂する。そして、そのころにはレイナがモンドにいるわけがない。
レイナが送った手紙は、ローエンが襲撃したファデュイから見つかる。




















