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「セーシル・ジャン・ミシェル。判決の結果、君を本国から永久追放とする」
──とんだ茶番劇だ、と思う。
仕組まれた裁判。わかりきっていた結末。仕方がないと言えばそれまでだ。だから、私はにっこりと笑顔を貼り付けて、この判決に頷いた。無駄に反抗して決闘人と決闘したところで、私に勝ち目などないのだから。
「うそつき」
カーテシーで敬意を示し、その場から立ち去ろうとした時。不意に彼女の、薄付きのグロスで彩られた唇が音もなく言葉を紡いだのが映る。
普段、虚しいほどに明るい彼女からは想像できないほどに何の感情も乗っていない瞳の色が、ひどく胸に刺さった。
「ふりーな、さま」
「セーシル・ジェン・ミシェル。目障りだ。……さっさと、僕の目の前から消えてくれ」
彼女の言葉が本心ではないと私は知っている。されど、彼女にそんな言葉を吐かせたのは紛れもなく私自身だということもわかっていた。
(ごめんなさい。ごめんなさい、フリーナさま)
「………失礼致します」
──水神の眷属として産み落とされた私は、ヒトの形をしているけれど、決してヒトではない。
『私は、あなたさまの眷属です。……フォカロルスさま。あなたさまが私を要らないと申すまでは、一生あなたさまのそばにいると誓いましょう』
四百九十年と少し前のあの日。私はそう、彼女と約束をした。
あの約束は、私の生きる意味でもあった。水神になられて間もない彼女は初々しく──本当にわたしを産み落とした神なのかと疑問に持つことも少なくはなかったけれど、それでも私にとって彼女以上に大切な人などいなかったのに。そんな彼女を傷つけたのは、紛れもなく私だ。
(──それでも)
たとえ、この決断が今の彼女を傷つけたとしても。私がこの国を去ることが間接的に彼女を救うのならば、それでいいのだと思ったのだ。
歌劇場を出てしまえば、裁判を娯楽にしている人々からの視線は気にならなくなる。貼り付けていた笑顔を取り外し、これからどうしようかな、なんてどうでもいいことを考えた。
ローデシアさまたちのように前水神の眷属ではない私が、他のあねさまたちの元に行くのは、何か違う気がした。そも、行ったところでウマも合わないだろう。それに、今の悲しみと憎悪に満ち溢れたフォンテーヌの水に適応できている時点で、私が生粋の純粋精霊か、と問われても肯とは言えなかった。
『──行く場所に困ったなら、ナド・クライに行くといい』
(…………ナド・クライ)
不意に、裁判前、最後に審判官さまと会話した時のことを思い出す。
ナド・クライ。たしか、どこかの文献ではスネージナヤの領土とされていたはずだ。ずっと──そりゃあ、四六時中ではないけど──フリーナさまのおそばに居たから他国の詳しいことは知らないけれど。スネージナヤは、雪国だったはず。雪国……雪国、かぁ。
雪国であれば、水源はあるだろう。雪は、いずれ溶けるものだから。……ただ、同時に寒い国ということは水よりも体、を温めるアルコールの方が主流だろうけど。
(審判官さまはどうして私にナド・クライを勧めたのだろう)
審判官さまは私の体質を知っている。私は、怨みと悲しみの溶けた水しか受け付けられない。……ナド・クライは誰かの怨みや悲しみがある場所なのだろうか。
「──セーシルさん!」
「…………リネ?」
暖かいヒトの手に手を取られ、反射的に振り向く。彼とは──正確には、彼ら兄妹とは浅からぬ縁があった。私が水幻で遊んでいた時に、それをマジックだと思い込んで飛び出してきた子どもたち。昔は私の腰くらいまでしか背がなかったのに、今では私よりも大きくなった子どもになんだが懐かしさのような、よくわからない感情が浮かんでくる。
「セー、シルさん」
「なぁに、リネ」
「あなたが、フォンテーヌを去ると聞いて。その、本当なんですか?」
何かの間違いじゃ、と口を動かす彼に私はどう答えるのが正解かわからなかった。
事実として、私は今日フォンテーヌを去らなければならない。それを隠したところでなんの意味もないのに、どうにも正直に答えることが憚られた。
でも、やっぱり彼に嘘はつけなくて。私はゆっくりと頷いて口を開く。
「本当だよ」
「どうして」
「どうしてもなにも、そう判決が出たから」
「あなたほど、水神さまに尽くしていた人もいないでしょう……!?」
「………それは、どうなのだろう」
フリーナさまは決して私の前で泣かれることはなかった。あの方がどんな思いで私の前に立たれていたのか、私はついぞ、知ることなどなかったのだから。そんな、役立たずの私が。ただ、水幻でショーの真似事しかできなかった私が。彼女に尽くしたのだとは言えない気がした。
「行くあては、あるんですか?」
「ないけれど。審判官さまは、行くあてがなければナド・クライに行くといいと仰っていた。だから、ナド・クライに行こうと思うよ」
「ナド・クライ…………。確かに、ナド・クライは島国だからセーシルさんの性に合ってるのかも。ただ……」
「ただ?」
「……ナド・クライはワイルドハントが活発なんです」
「私、そんなに弱くないよ?」
「あなたが弱くないことは知っていますよ。でも、ナド・クライのワイルドハントは特殊だとお父様から聞き齧ったことがあって……」
「……リネ、もしかして私のことを心配してくれてるの?」
「……するに決まってる。あなたは、僕たちの大切な友人なんだから」
きっと、今の私は鳥が豆鉄砲を喰らったような顔をしていることだろう。友人。私が、彼らの。
「…………」
「セーシルさん?」
リネの気遣いも今だけは憎らしい。自分でもわかるくらい、頬が紅潮しているのがわかる。……こんなの、初めてだ。
「……ありがとう、リネ。リネットとフレミネにもよろしく伝えてくれると嬉しい。いつか、また会えたら、その時も私を友と呼んでくれる?」
「……もちろん。さようなら、セーシルさん。また、いつか」
「うん。………また、いつか」
心残りがないとは言えない。フォンテーヌの予言もそうだけど、それ以上にフリーナさまが心配だ。……それに、私を友人だと言ってくれた彼が、彼らが予言に沈むのは見たくない。
それでも、私は今日この地を去らなければならないから。後ろ髪を引かれるような思いがしても、気づかないフリをしてこの場を後にするほか、私にできることはなにもなかった。
(………ここが、ナド・クライ)
なんだか想像していたよりも雰囲気が、そう。フォンテーヌみたいだ。
視界に入る風景が似ているわけではない。ただ、なんというか………纏う、空気が。同じ手触りと言えばいいのだろうか。感覚的な話だけれど。
(今私がいるのは………ナシャタウン?)
事前に入手した地図によれば、ナド・クライと呼ばれる地域は主に三つの島が中心となってできている、らしい。……この地図自体、ボロボロになっていて詳しいことまでわからないのだけど。
とりあえず、この地域の魔物は一度目にしておきたいけれど、集落の近くはよくてもヒルチャールかスライム程度だろうし。ファデュイは……人をいたぶる趣味は私にはないし。
そうなると、スタービーチという場所は適度に土地特有の魔物がいるだろう。あわよくば、リネの言っていた特殊なワイルドハントもお目にかかりたいところだ。
「…………セーシル様!?」
「ん………あなたは………、フォンテーヌの民?」
「っええ!はい!その通りでございます」
「なんでナド・クライに」
「それはこちらのセリフですわ!貴方様のような………水神様もご一緒ですか?」
「ううん、私だけだよ。……フリーナさまがフォンテーヌを離れるわけがないでしょう。それから、私のことは様付けしなくていいから。……ここ、フォンテーヌじゃないし」
「そっ、うですよね!申し訳ありません!……それで、その」
「──あ、そうだ。ねぇ貴女、ここってレンポ島で合ってる?」
「合っておりますが………?」
「この島でワイルドハントが一番いるのってどこ?」
「ワッ……な、なぜそのようなことを」
「友達がね、ココのワイルドハントは他の国のものとは違うって言っていたからどれくらい強いのかなって思って。ちょっと戦ってみようかと──」
「……ナド・クライでは、ワイルドハントはライトキーパーと呼ばれる人々が討伐するのです。無闇矢鱈に、それこそセーシルさ、んのような旅人が倒すものではありませんわ」
「へぇ。………ねぇ、ライトキーパーって誰でもなれるの?」
「え!?いや、その」
「私、今日からこの国に住むことになってるの。仕事、ないとダメじゃない?」
「そ、うですね………?」
「だから…………どこに行けばライトキーパーになれるのか、教えて?」
たまたま、ナド・クライについて初めて会った現地人がフォンテーヌの民でよかった。そっと、彼女の頬に手を当てて微笑んでみる。フリーナさまの眷属、という印象があるからか、フォンテーヌの民たちは私のことさえも偉い人かのように扱う。……そんな大したものじゃ、ないのにね。
「──と、まぁ。このような経緯で私はライトキーパーになったのです。……満足ですか?キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズさま」
「……貴女は、同期に対してもそのような態度なんですね。チュードミロヴィッチかフリンズでいいと何回言っても聞き耳を持ってくださらないのは貴女くらいのものです」
「………貴方が、急に、『セーシルさんはなぜライトキーパーに?』なんて戦闘中に聞いてきたのが悪いんでしょう」
なんでそんなこと、急に聞いてきたんですか。
ランプの付いた片手剣で最後のワイルドハントにトドメを刺し、そのまま地に突き刺さったままの剣に体を委ねながら彼を睨む。
キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズ。私と同時期に入隊し、その強さと対ワイルドハントにおいてライトキーパーの中でも五本の指に入るくらいには容赦のない男。……どこはかとなく、彼は審判官さまに似ていて、苦手だ。
「貴女は、決して強くないでしょう」
「弱くもないですけどね」
「それは………えぇ、まあ」
「………ふん。貴方に比べたら誰だって弱いでしょうに、嫌味な人」
「別に嫌味のつもりはないんですけどね。……セーシルさんは、立ち振る舞いが社交慣れしているようでしたから。何処ぞの国のお姫様かと」
「……………」
「おや。どうしてそのような目で見るのですか」
嫌味にしか聞こえないからよ。と、口には出さずにごちる。
お姫様なんて、この時代には居ないんじゃないの。とか、そういうのは好きな女性に言うべきでしょう。とか、言いたいことは山ほどあったけれど、この数ヶ月で案外この男はなにも考えていないと言うことを知っているからわざわざ言葉にするようなことはしなかった。
「別に、面白くもなんともない話ですよ。本当に」
どうしてフォンテーヌから追放されたのか。ずっとお慕いしていた彼女の名前、私を友と呼んでくれた少年の話。そういったことは隠して、それでも彼に私がこの国に来た経緯を話してしまったのは、彼が私のことをなんとも思っていないだろうと思うからだった。
「面白くないかを決めるのは僕です」
「………そーですか」
「はい」
「……………そんなに聞きたいなら、仕事終わりにお酒でも付き合ってくださいよ。貴方、同僚との食事にすら来ないんですから」
「いいんですか?セーシルさんよりはお酒に強いと思いますよ、僕」
「口だけならなんとでも言えるんですよ?フリンズ」
「………いま」
「さぁ、さっさと任務を終わらせて本部に戻りましょうか。負けた方が奢りということで」
「……いいでしょう」
フリンズの言葉と同時に、湧いてきたワイルドハントを貫く。同時に水幻で水元素を付着させれば、彼の雷が敵を引き裂く。フリーナさまとお揃いの元素が、よもやこの仕事で役に立つとは思わなかったけれど。
(………少しだけ嬉しいなんて、絶対、ない)
彼の隣で戦うのは久しぶりだった。彼は強いから、同じ式に入隊したというのにいつのまにか私の先を歩いている。だから、彼とはあまり話さないし、こちらから話しかけることもない。
(──まあ、でも)
フリーナさまの次の次には、大切なのだ。五百年近く生きていて初めて、同期というものができた。国の子たちは──リネ達はそうでもないけれど──基本的に私を遠巻きにしているし、審判官さまはなにを考えているのか全くわからないし。
シグウィン婦長さまは少し……多少………だいぶ、味覚が合わないし。彼女の働いているところのトップの人はなんか怖いし。
だからというわけではないけれど、彼とのコミュニケーションをほんの少し、本当に少しだけ楽しんでいたのもまた事実。
柄にもなく、私はほんの一瞬の口約束に浮かれているらしい。
「───はは」
私は、別に戦闘そのものが好きなわけではないし、この魔法のような力だって無闇矢鱈に使いたいわけではないけれど。あの日、半ば自暴自棄になって魔物を殺そうとした自分に今だけは感謝するしかない。
だって、こんなにも、今、私は──。
「ふりーなさまぁ…………。どうして、どうしてなのですかぁ…………!あんなおとこよりわたしのほうがっ、わたしのほうが!あなたさまのことをあいしていますのに…………っ!」
「…………………………」
目の前で泣き崩れながら酒を飲み続ける同僚──セーシル・ジャン・ミシェルという少女を見下ろしながらフリンズは一杯、また一杯とワインを喉へと通す。
濃い青色に溶けるように薄い桜色がかかった不思議な色合いの瞳からはらはらと落ちる涙が不謹慎ながらもフリンズは嫌いではなかった。
彼女とこうして仕事終わりに飲みをするようになったのは、まだ彼女と出会って間もない頃、フリンズが「なぜライトキーパーになったのか」と彼女に問うたのがことの始まりだったと記憶している。
啖呵を切った割に、彼女はあまり酒に強くはなかった。……自分が、人よりも強すぎるというのはあるかもしれないが、それにしても、だ。
「セーシルさん」
「ひっぐ………ふりーなさま、うぅ……」
「セーシルさん、飲み過ぎですよ」
「ぅ……………?」
焦点の合っていない彼女の瞳が、フリンズを見上げる。潤みきって蕩けた瞳、紅潮した頬。それに対してドクリと、心臓のある位置が少しだけ音を鳴らした。
「……きぃう」
「え」
不意の言葉に、彼女からグラスを取り上げようとしていた手が止まる。最初こそ、己をフルネームで呼んでいた彼女だったが、いつのまにか「フリンズ」呼びになっていたのでファーストネームで呼ばれるのは些か……衝撃があった。
「ちゅう……」
「………………はぁ!?」
思わず立ち上がってしまった自分は、絶対に悪くない。
先よりも激しく打ち鳴らす鼓動に落ち着けと念じながらフリンズは彼女を揺するべく手を伸ばし──その手が彼女の肩へと到達する前にはた、と止まる。
「……ど、みろいっち、ふいんず………」
「…………………………紛らわしい。なんですか、セーシル・ジャン・ミシェルさん」
──そうだ、この女はそういう人間だった。
おそらく、ライトキーパーの中で一番彼女のことを知っているのはフリンズだ。だから彼女がフリーナ──最近退陣したという水神に想いを寄せていることも、自分が眼中にないことも知っている。
……いつからだろうか。自分が彼女を好ましいと感じるようになったのは。
初めは、そう。好奇心で彼女に近づいた。同期、というのもあるが、彼女は弱かった。それこそ、ライトキーパーなんか向いてないと思ってしまうくらいには。
水色のメッシュが入った白髪を、後ろでお団子にして片手剣を振り回す少女。体の動かし方はぎこちないし、ほとんどの戦闘で元素力を使ってワイルドハントに向かって行く彼女を見れば彼女が戦慣れしていないのはすぐに見て取れた。
きっと、何処ぞの貴族か、はたまた良いところのお嬢様だろう。きっとすぐに辞めてしまう。そう思っていたのだが、彼女は案外勇ましく、結局片手で数えられるくらいになった同期の中でも──フリンズ自身を除いて──それなりにこの実力社会の中で生き残っていた。
それでもやはり彼女は華奢な体躯をしていたし、任務後の書類だって書くのに一苦労していたのだから、ライトキーパーが向いているか、と言われたらそうではないのだろう。だから、というわけではないがフリンズはあの日、ふと頭に浮かんだ「どうしてライトキーパーになったのか」などという言葉を聞いてしまったのだった。
彼女は祖国を追われたらしく、たまたま仕事を求めていた際にライトキーパーという職を聞き入隊したのだと言った。その生い立ちの全てを聞いたわけではないし、結局のところ酒の弱かった彼女からそれ以上のことは聞き出せず、譫言のように「ふりーなさま」と泣き続ける彼女を慰めるべく立ち回ったのも記憶に新しい。
それから、二人が同じ任務にあたるたびに任務の後は酒を浴び、彼女の泣き言を聞き、そうして別れることがルーティンと化したある日、思ったのだ。
もし、仮に。彼女が自分以外の──それこそ、いつ引っ掛けたのかもわからないモンドの大団長や、イルーガ坊ちゃんであったり、はたまた最近ナド・クライに訪れたあの金髪の旅人であったり。他の男達が彼女のこのような姿を見るのは面白くないなと、そう、思ってしまったのだった。
不貞腐れて自分を睨む表情も、酒に酔って、まるで恋人を見つめるかのような蕩けた瞳を晒す刹那も、ワイルドハントに対して技を繰り出す際の凛々しい視線も、小動物を目にした際の頬の緩みも、全て。……自分だけに向けられたら良いのにと思わずにはいられないのだ。恋などという感情は抱いたことがないが、これが恋だというのならばファーストネームを呼ばれただけで跳ねる鼓動も、キスをねだられたのかと錯覚して動揺することも仕方がないと思わずにはいられない。
「………あなた、まえに、わたしのめはめずらしいと、いったでしょう」
「…………ええ、まあ」
フリンズは随分と前に話した世間話を、彼女が覚えていたことに対する驚きで若干言葉を言い淀んだ。そこに喜びがないとは言わないが、それよりもずっと、自分だけの思い出になっていないことへの驚きの方が大きかった。
「………もし、わたしがしんだら」
ぽつり、彼女が言葉を落とす。理解し難い言葉の羅列。騒がしい店内の音が一気に耳から消え失せて、世界に自分と彼女の二人になったかのような錯覚がした。
「……滅多なこと、言わないでください。貴女が弱いとはいえ、そう簡単に殺される珠じゃあないでしょう」
「いいから、だまってきいて」
「……………はい」
「もし、わたしが、しんだら。わたしのめ、あなたにあげる」
は、と声にならない声が己の喉から迫り上げて、宙に溶けた。
酔っ払いの戯言だ。そう、言い切れたならよかったのに、なぜだか彼女の言葉には熱に浮いた声をしているくせに冗談の気配が一切ない。
「……ふふ、なんてかおしてるの」
「……貴女が滅多なことを言うからでしょう」
「あなた、そんなかおもできるのね」
「どんな顔ですか」
「──、おしえない。冗談だから、そんな顔しないでくださいな」
「笑えない冗談は好みません」
「ごめんってば」
段々と酔いが覚めてきたのだろう。先よりもハッキリとした言葉で「冗談だ」と宣った彼女にほんの少しだけ安堵の息を吐く。
タチの悪い冗談だ。到底、冗談とは思えなかったのが尚更。
「モラ、置いておきます」
「送りますよ」
「いい。ここから家までそんなに遠くないですから」
「こんな遅くに女性を一人見送るわけには」
「本当に大丈夫ですから。──さようなら、フリンズ。また、ね」
「………えぇ、また」
彼女の言い回しに多少の違和感はあれだ、二度断られてしまえばそのあとを追うことなどできない。そのため、きっかり彼女が飲んだ分が置かれたモラを持ってスタッフの元へと足を進める。それが、後々の後悔につながることなどつゆ知らず。
「───フリンズ!大変だ!」
「………なんですか?」
「ミシェルがっ、ミシェルが失踪した!!」
「──は?」
愛した花は、春嵐のように突然に、姿を消した。
セーシル・ジャン・ミシェル
名前のない盲目の少女
フリーナの眷属ではなく、フォカロルスの眷属。つまり、彼女がいなくなった今存在することは奇跡が起きない限り叶わない。
いつからか恋をしていたけれど、ついぞ、伝えることはできなかった。──だって、例え話ですら悲しそうな顔をするのだから。言えるわけがなかった。
フリーナが好き。でも、同じくらいフリンズを好きになった。好きにならなきゃ、苦しくなんてならなかったのにね。
フリンズ
ミドルネームが「ねっちゅうしょう」パロをせざるを得ない名前でした。後悔はしてません。
恋を形取った女を探してる。
おまけ情報
①セーシルはフリンズからもらった髪留めをしていたよ。失踪後、武器と隊服は部屋に残っていたけどその髪留めだけはなくなっていたよ。
②ライトキーパーで「セシル」呼びしてるのはフリンズだけだ。
ファルカさんとは一人で飲んでる時に出会って意気投合したよ、最初はセシルさん呼びだったけどたまたま仕事中の二人に「セーシルさん」って話しかけたら隣のンズにすごい顔で見られたからミシェル呼びになったよ。


























とても続きが欲しいです!!フリーナ様もヌヴィレットもどんなこと考えてたの?!主人公とフリンズのこれからもぜひ見てみたいです!