Novel13 days ago · 3.5k chars · 1 pages

恋なんて考えられない、

ちえり/しののめちえり/しののめ

なぜならおもしれ〜幼なじみがふたりもいるので。 までが正式タイトル。すみません少女漫画みたいな展開を期待なさると何も出てきません。 * ネームレス * ぜんぜん甘さはない。  恋愛の話はしていますが甘さはない。 * 簡単に言うとローエンと幼なじみである女がふたり出て、酒飲んで喋って、あいつって好きな子とかいるの?的な質問をぶつけるだけのお話です。

「幼なじみってポジションは恋愛に発展する基本中の基本だと思ってたんだけど、今日まで何一つ浮ついた話を聞かないのはシンプル魅力がないってことじゃない?」
「うん開口一番に人の事メキョメキョに貶すのやめない?」
「誰かと死合うのを生きがいにしてる青年が幼なじみだけに優しいのって少女漫画の鉄板なのよ。なんっっでそういうのがないわけ」
「えっ……普通にお互い色恋の感情がない、から?」
「あれよ!!」
「あれよ!?」

 エンジェルズシェアの奥まった2階。ダァンッ!と樽ジョッキの音を立てながら目の前にいる私を凄む存在は、場所によってはかなり周りから顰蹙を買う行動だったがここは酒が舞うところ。今宵も飲んだくれが騒いでいるだけだと客たちは己の話の花を勝手に咲かせていき、困った表情を浮かべるもうひとりの女に目もくれず。
 とんでもない無茶振りが飛んできた時点で呷るのをやめさせたかったが、時すでに遅し。合計で4個の樽ジョッキの底がついた。あと死合うのではなく、死の淵をなぞりながら皮膚がびりびりする戦いが好きなだけ───とはもう聞こえていない。

「なんか……定期的に思い出したかのように恋愛感情もたせようとするのやめよう。生まれてこの方あの子をそういう目で見たことがないってば」
「あの子呼びかわい〜〜〜っ!!」
「うん話聞いてる?」

 会話の応酬がもはや機能しない友人の言動に頭を抱えながら、手遅れだろうが残りのお酒を脇に追いやる。手が伸びたら叩き落とす動作は朝飯前だ。

「……ローエン、すごい今楽しそうなんだよね」
「好きってこと?」
「飛躍しすぎてここナタかと思った。いや飛躍しすぎる。
……そうじゃなくて、身を置いてる環境がいいんだろうね。頻繁に生命の危機に襲われるのは心配するからやめてほしいけれど」

 不満げにしつついい感じに酔いがまわってきたのか、「彼氏欲しい〜……」と恐らく一番の本音だろう言葉を呟くなり寝入ってしまった。その様子に今日は帰り支度した方が吉だな、とそっとぐすぐすと子どもみたいに泣きべそをかいている友人の鞄から財布を取りだし、モラを並べる。元よりここの持ちは自分だと言っていたから問題はないだろう。
 まだまだ宴のざわめきが収まらない2階から降りて静かにカクテルを準備するバーテンダーに声をかける。「ディルックさん」

「ご馳走様でした。また来ますね」
「お口にあって何よりだよ。……お連れさまはまた?」
「ええ、はい。また」
「…………、次は最初からジュースに変えるかい」

 気遣いから来る言葉に一瞬頷きかけるも、ううん、と悩む。確かに彼女はそこそこしか耐性がないのに場の勢いや雰囲気に流されて、結構な速度で酒を呷る。そうしてべろんべろんとまではいかずとも軽い酩酊状態に陥り、やや足元がおぼつかなくなることが多い。モンドは風と自由を愛する国。治安はよそと比べると悪くはないといっても、仮にも成人した女性を同じ女性が家に導くくのは、いささかこう、引きずってしまうのは許してもらえるとありがたかった。……いや、そこら辺の道に見捨ててないだけマシだから私が許しをもらう必要性はない、かも。
 それからエンジェルズシェアで近況を報告しあうのは、これが初めてじゃない。
 なので、表情の読めないディルックさんもどちらかといえば通過儀礼のように提案しただけで、彼もまた断るのを承知した上での発言だ。
 つつがなくモラを渡し、テーブルに戻れば件の相手はどうやらうとうとからスヤスヤに移行したらしく、微かな寝息を立てて眠っていた。
 おや。

「これは、困ったな」

 いつもならへらっと赤ら顔でもある程度の歩行は見込めるから肩を貸すだけでどうにかなっていた。しかし意識が夢と現実を行き来している際は話は別になる。
 意識がない人間の重さは計り知れず、穏やかな気性なモンドの往来でも、両者ともに崩れ落ちるシーンはちょっと、かなり恥ずかしい。
 ……仕方がない、ほんの少しの時間で起きると信じて新しくワインを注文して飲み直そうかな。

 そう結論づけて再び席を立てば、視界にふと目に優しい色がうつり、咄嗟に口が開いた。

「ローエン!」
「あ?」
「ガラわるッ!いつものことだけどさ……」

 本当に騎士団なんだよね?態度、というか口調がたまに見かける不良そのもの。小さい頃からずっとこんな感じだったから私たちは慣れた日常ゆえにイラついたりはしないけども。
 それにしてもいまいいところに現れてくれた。見る限り一緒に飲みに来た人もいなければ、まだ来店したばかり。よしこれならばいける。
 あのねぇ、と視線を横で健やかに眠る人に向ければ、ローエンのうつくしい色が彩る双眸も追随し、「ウワ」露骨に嫌な声をこぼした。これはね、幼なじみだからこそ寄りかかれるお願いだった。

「え、まさか俺に手伝えって言ってんのか?」
「普段そこまで察し悪くないのに、途端に鈍くなるのわざとらしい。お願い〜〜」
「やだよ、こいつ途中で目ぇ覚めるとめんどくせぇから」
「なにかされるの?」
「稲妻から取り寄せたっつー小説の朗読に付き合わされる」
「ウワァ……」

 思ったよりめんどくさい絡まれ方だった。
 気づいた時には本の虫だった彼女が八重堂に行き着くのは時間の問題だったが、十中八九特異な設定と切り口から描かれるかの小説たちには多大な魅力があったらしく、とくにお気に入りなのはもっぱら恋愛絡みの作品でありそこから冒頭の幼なじみとの色恋沙汰に繋がっている。

 ───というか、私とローエンで幼なじみの恋愛を期待しているのは百万歩譲って良しとして。全然良くはないが話が進まないのでまあ、まあ良しとして。良くはないんだけども!

「つうか水くせぇな、幼なじみの飲みに俺も誘えよ」

 彼女もまた、ローエンと幼なじみなのに。

「声をかけようとはしたよ?でも喜色満面に槍携えてどっか行ったじゃん」
「あ〜……遺跡守衛狩りにいってた」
「出た。寝てる子を起こすやつ」

 口ではぶつくさ文句を言いながら、自分の上衣をもうひとりの幼なじみにかける姿は優しい。表立ってやることが少ないだけで、ローエンは昔から優しかった。これが彼女の言う幼なじみに対してだけ向けるもの判定に含まれるかはともかく、言葉遣いが荒いどころか焼け野原の如くめちゃくちゃなだけで、根は真面目だ。

「で、今日の話題は」
「笑えるんだけど、幼なじみの恋愛事についてだった。ちなみに当事者は私とローエンね」
「ハッ、またトンチキな」
「実際すごかった。以前水スライムから抽出される水でつくられる飲み物をローエンに出して気づくかどうかを試そうと張り切ってた時みたいな勢いだったよ」
「ガチじゃん、マジかよ」

 その検証をされた日を思い出したのか眉を顰めたローエンには申し訳ないが、本気度合いを伝えるにはちょうどいい出来事だったからね。しょうがないね。
 取り留めない話をしながら手早く荷物を片付けて、ローエンが彼女を背におぶる。ほら、やっぱり優しい。

 エンジェルズシェアを出て道なりをまっすぐに歩けば彼女自宅はすぐそこだ。行き交う人々も楽しそうに誰かと会話をしながら、風をまとって歩いている。
 ちょっと私も酔ったかもしれない。
 彼女がまくしたてた幼なじみ同士の恋愛ではないものの、隣を歩くこの子の“そういう話”は言われてみれば聞いたことがなかった。だから気になってしまった。私たちの間柄で躊躇いの文字は時点に存在せず、直球に、言葉に詰まらず。

「ローエンって、好きな子とかいるの?」

 そう聞いた。
 騎士団には美人がそれはそれはたくさんいる。
 ジンさんもリサさんもアンバーちゃんも、綺麗で可愛くて美しい。ただローエンが職場恋愛を好むかどうかは、好まないに転ぶかなぁといったところだった。
 街の外にいるヒルチャールやスライムを標的に様々な戦い方を休む暇なく食らわせ続けてきたローエンに、情緒的な発達があるかの疑問は道端のヒルチャールに食べさせて、果たしてどうだろうと思う。

「お前はどう思う?」

 おっとこの返しは想定していなかった。

「えぇ〜……いる、かも、しれない?」
「どっちだよ」

 はは、と気安く笑ったローエンは背後で身じろぐ幼なじみの姿勢を整えてやって、私たちのよく知る笑顔で、再び笑った。

「───お前たちが面白いから、他に目をやる隙間もねぇよ」

 ローエンは、いたずらっ子のようにそう言ったのだった。

— End —

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