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横溝警部のことが好きな私は松田陣平と協力関係にあるはずだった

カグラザメカグラザメ

いつもより糖度高めなのを書いた気がします。普段は書くのが遅いのに今回は信じられないほど筆が進みました。 ところで明後日は職場から受けてこいと言われた試験があります。ほぼ勉強してません。小説書くの楽しかったです。対戦ありがとうございました(遺言)。 勢いで書いたので後日サイレント修正するかもです。

!アテンション!
・名探偵コナンの二次創作作品です。
・コナン知識は主にアニメと映画から。
・警察組織についての深刻な知識不足。
・捏造満載。
・解釈違い、キャラ崩壊の可能性あり。
・救済あり。
・ハイウェイの堕天使の内容に触れます。
・誤字脱字注意。
・読んでからの誹謗中傷はお控えください。

それでも大丈夫な方はどうぞ。

空から眩いばかりの光が降り注いでいる。照らされているのは私の想い人と、尊敬もしている恋敵。まるでここが舞台の真ん中だとでも言うかのように照らし出される二人の姿を見て、そのあまりの眩しさに私は思わず離れた場所から目を細めた。

あーぁ。私にはお姫様だっこしてくれたことなんて、一度だってなかったのにな。

「やっぱ、かなわないなぁ……」

零した言葉は誰にも拾われることなく夜に溶けては消えていく。

光の中で皆に囲まれる二人は物語の主人公とヒロインのよう。

そしてそんな輪の中に入れもせず、遠くから眺めることしかできない私はきっとただの脇役だった。

***

「もう! 本当に!! どうかしてると思います!!」

怒気の込もった私の声に、すれ違った何人かが振り返る。
場所は神奈川県警察本部。リノリウムの床を勢いよく踏みしめながら、それでも周りの視線なんか気にしてられない私は目的地までズンズンと足を進めていた。

私、秋庭真琴は警察官だ。警察学校はつい数ヶ月前に卒業したばかり。今は交番勤務の、れっきとした新米お巡りさんである。

では、そんな新人警察官の私が総本山たる神奈川県警で何をそんなに怒っているのかというとそれは数時間前まで遡る。

私は今日、本当は非番のはずだった。
警察官という職業はハード極まりない。さらにそこにまだ仕事に慣れないペーペーという要素が加わるとそのキツさは想像以上のものである。
さて、そんな訳であるからして。今の私からすると非番という存在はさながら彷徨い続けた砂漠でやっと見つけたオアシス……、それくらいの意味を持っている。
しかもだ。何ともタイミングのいいことに昔からの親友とも休みが重なっていた。こちらの休みが不定期なのと同じように友だちも休みは不定期な仕事。まさに今日という日は奇跡とも言える1日だった。

……と、なればやることは一つしかない。女子会だ。しばらく会えていないから話したいことも遊びたいこともたくさんある。久しぶりに警察官らしいフォーマルさをかなぐり捨てた可愛い系のメイクをし、服は一目惚れして買った卸したてのものを着て。お昼は何を食べようだとか、新しく出来たあの店に行きたいだとか、今日はいっぱい遊ぶぞー、なんて、テンション高く集合予定の友だちの住むマンションにルンルンと向かったところで何とびっくり。爆弾を見つけてしまった訳である。どうやらオアシスなんてものは蜃気楼だったらしい。無念。

爆弾。つまりは爆発すると大変な代物である。流石東都は事件が多いなぁとドン引きながら通報すれば、これまた事件の多さ故か想定よりも素早く到着した警察に二度目のドン引き。まぁそんなことがありながらもその後は到着した警察官に軽く事情を説明して、管轄違いとは言えどもこの一大事だ、野次馬の規制だったりをお手伝いさせてもらっていた。

違和感に気づいたのはマンション内の住人たちの避難誘導をしている時。一通り住民の避難が済んだはずなのに、どこを見渡しても今日遊ぶ予定の親友の姿が見つけられなかったのだ。いやいやこの騒ぎで気づかないワケ……、という気持ちと、長い付き合いだからこその親友の寝起きの悪さへの嫌な信頼がぶつかり合う。そこにそう言えば繁忙期で毎日終電間際だって言ってたな、なんて記憶が蘇れば疑念が確信に変わるのは一瞬だった。

「〜っ、中にまだ住民が取り残されている可能性があります!!」
「何?」

今になって冷静になって考えてみれば中にはもう機動隊の爆発物処理班の人達がいたんだし、彼らにもう一度見回りしてもらえば良かったんだろうけど。残念ながら親友が取り残されているかもしれないという私の焦りと、それに当てられた所轄の警察官は冷静さを大分欠いていたらしい。終了間際とは言えまだその他の住民の避難誘導中だったことと、爆発予定時刻まで余裕があったこと。そのせいで幸か不幸か、避難誘導の延長線上のように、マンション内に立ち入る権利をゲットしてしまったのである。

斯くしてマンション内に舞い戻った私は予想通り、部屋で時間も気にせずぐっっっすり寝こけている親友を叩き起して無事連れ出すことが出来たのだけれども。避難の最中、それはそれはとんでもないものを目にしてしまった。
--- そう、全裸解体男を……。

……いや、流石にこれは過言かもしれないけど。でも気持ち的にはまさにこれ。
だってその彼、爆弾を目の前にしているというのに対爆スーツを着ていなかったのだ。それどころかヘルメットすらもない。ギョッとした私の視線の先に気づいたのか、それまで爆弾に怯えていた親友ですら件の彼の姿を見て「そんな装備で大丈夫か?」とスン……な顔で言っていたんだからその有り得なさは推して測るべし、だ。

え、スーパーベイカ人だと爆弾1個程度には対爆スーツもいらない系? いんや、前見かけた爆弾処理の人はちゃんと着てたよ。人生でそんな何度も爆処の人間見かけることなんてある……? 米花町周辺の魔境具合にさらにドン引きしつつ、そんな軽装備で現場に出した周りにも加点ドン引き。

それでその後どうしたのかというと、警察学校出たての青い正義感というか、なんと言うか。私服姿でどう見ても一般人にしか見えない私の登場に驚く爆弾処理班の人達に、ピッカピカの警察手帳を見せて全裸男……、もとい萩原さんを強制連行させていただいたという流れである。同じ警察官とは言え他県の警察官。服務規程を無視してる場面を見られるのはやっぱり都合が宜しくないらしかった。まぁ、私もそれを狙ったワケだけど。

初めこそ萩原さんもバツの悪そうな、半ば強引な形で連れ出されたことに納得いかなそうな、何とも言えない表情を浮かべていたり、Wエースって呼ばれてるから、なんてヘラヘラしていたけれどその余裕が突き崩れたのはその割とすぐ後で。数階降りた辺りでわかに騒がしくなった上階と、次いで感じた足元から揺らすような衝撃に、あのままあの場で作業を続けていたらと想像してしまったんだろう。気の毒なくらい真っ青な顔色で呆然としていた。

結果としては警察内に怪我人こそ出してしまったものの死者はゼロ。私の親友も萩原さんを爆弾解体から回収する際に先に降りてもらっていたから何事もなくて、騒動は一旦丸く納まった……かに見えたんだけれども、そうは問屋は卸さなかった。
どうやら今回の一件はニュースになるほどの大きな事件だったらしく。人命は助けたものの私の動きがちょっとばかし問題になってしまったのである……!
出動していた警視庁機動隊の編成への干渉と、要救助者(親友)の避難に際して爆弾の危機が去っていないにも関わらず単独で行動させたこと。というかそもそも管轄外なのに大きく動きすぎたこと。……うん、客観的に聞くと結構割とやらかしだな?
お咎めこそなかったし、何だったら防護服を着ようとしない萩原さんに頭を悩ませていたらしい爆処の人達からはめちゃくちゃ感謝されたけど。でもそれはそれだしこれはこれ。その辺ちゃんとしておこうねということで。

……で現在。交番の直属の上司への報告をした上で、さらに。神奈川県警のお偉いさんの所にも報告行って来いと言われて報告行脚をしているというわけだ。非番? 女子会? パァですが、何か?

「うぅ……。萩原さんが防護服さえ着ていれば……!」
「悪かったな、アイツのことはアンタの分まで後でぶん殴っとくからよ」

いつまでも恨めしげに嘆く私にそう声を掛けるのは警視庁の機動隊に所属している松田さん。何でも萩原さんの幼馴染かつ親友で、あの時もう一つの場所に仕掛けられていた爆弾を解体したのもこの人らしい。萩原さんが言ってたWエースの片割れの人でもある。
そんな松田さんは結果的に萩原さんを助けた形になった私に恩義を感じてるらしく、警視庁側の当事者として私の報告行脚に付き合ってくれていた。

「いえ、お気持ちだけで十分です。それにやるなら自分の手でやらないと意味ないっていうか」
「見かけによらず物騒だなアンタ」

グッと拳を握って重々しい口調で言った私に松田さんが軽く笑う。笑うんじゃない。こっちの怨みは深いんだぞ。なお、そもそも犯人が悪いんだろっていうのは置いておく。

そんなやり取りで松田さんとちょっと打ち解けながら、それでもテンションは低空飛行。
だけど足を進めた廊下の先にいた人物を見て私の体温と機嫌がグンと上がったのが自分でもよく分かった。

「重悟君だ……!!」

横溝重悟。神奈川県警捜査一課に所属する刑事で、私の幼馴染であり初恋の人であり今も絶賛片想い中の人である。あっちは背を向けているから私にまだ気づいていないようだったけれど、あの坊主頭にイカつい身長は間違いない。

重悟君に会ったのは警察学校の卒業式の日以来。参悟兄ちゃんと一緒にお祝いに来てくれて、それっきりだった。参悟兄ちゃんは野良猫とか美味しいご飯とか、そういうちょっとしたことでもよくメールをくれるけど重悟君はこっちがしない限り滅多なことでは連絡もない。お互い忙しいのはわかっているのだししょうがないとはいえ寂しかったのは間違いない。

さては今日って超ラッキーな日なのでは……? なんてさっきまでの不機嫌はどこへやら。手の平返しを見せて重悟君に近づこうとしたその時だった。

重悟君の向こう側。広い背中に隠されていた先に揺れる亜麻色が見えた。

その人はとても美人な人だった。タレ目がちな目はともすれば柔和な印象を与えがちなのに、彼女の瞳は意思の強さが窺えるような強気な色を宿していてキリリとしている。離れているというのにそこから覗く青は澄んでいて空の色をそのまま写し取ったのかと思うほどで。今浮かべている不機嫌そうな表情すら彼女の魅力を引き出す為の要素だと、そう思えてしまうほど整ったその造形には圧倒的な説得力があった。
交通機動隊の所属なんだろう、制服の上からでも分かる長くしなやかな手足はスラリとしていて場所が県警本部じゃなければモデルとだって見紛ったに違いない。それほどまでに美しい人だった。

そんな同じ女ですら見とれるような人が重悟君と話している。仕事の話とは言えいい気はしない。……それに何か……、何か女の勘とでも言うべきものが働くのか嫌な予感がめちゃくちゃする。

「ハァ……。こりゃ心配するだけ無駄だったな」
「何だ、見ず知らずの奴相手にそんな心配してくれてたのか」
「ぶつけて止めたってバイクが散々な壊れ方してたからな。……だがまぁ、壊した本人がこの様子じゃバイクの方が浮かばれねぇな」
「はは、犯人逮捕に一役買ったんだ、よくやってくれたよ。それにしてもそれでわざわざ声掛けにきてくれるとは。重悟って言ったか。お前良い奴だな!」
「いきなり名前呼びかよ……」
「私のことも萩原じゃなく千速呼びでいいぞ!」

「「はぁ?」」

聞こえてきた二人のやり取りに声が上がる。
え? だって初対面みたいなやり取りしてじゃん。何か距離縮まるの早くない?

思わず眉間に皺を寄せていれば隣からも何かブツブツという声が聞こえてきた。耳を澄ませば、今朝の電話の、あんニャロウ……、なんて言葉が聴こえてくる。

そう言えば思わず声が出た時、二重に聞こえたよな。そう思って改めて音の発信源だった隣を見たら、松田さんもこっちを見ていた。めちゃくちゃ据わった目をしてる。きっと私も同じ表情をしているに違いない。

彼女の言葉を反芻する。萩原千速。確かに言われてみれば今日マンションで見かけた顔にそっくりだ。おそらく姉かなんかなんだろう。そして松田さん曰く爆処の相棒とは幼馴染だと言っていた。当然、姉と面識くらいあるだろう。

なるほど。さては松田さん、私と同じだな?

私は重悟君が好き。松田さんは彼女……、千速さんが好き。そこの二人がくっつくのは私たちにとって面白くないワケでして。

「「………………。」」

無言のアイコンタクト、からの堅い握手。
そうしてここに、『重悟×千速断固阻止の会』共同戦線が組まれたのであった。

私が重悟君と参悟兄ちゃんと出会ったのは、私が小学校に上がる頃の出来事だった。

父の転勤で新年度が変わるタイミングで引っ越しをした、その引っ越し先の隣の家が横溝家という、そんなよくある出会い方だった。
年齢差にして六歳。私が小学一年生ということはあちらは中学生。なおかつ男女の性差があれば年下の女の子なんて扱いづらかっただろうに、鍵っ子な私を心配した二人がよく面倒を見てくれていたのをよく覚えている。

今でこそ重悟君重悟君と言っている私だけど、実を言うと当時懐いていたのは参悟兄ちゃんの方だった。いつも笑顔で子どものテンションにも着いてきてくれる参悟兄ちゃんと、顰めっ面がデフォルトでぶっきらぼうな重悟君。この二択だったらそりゃそうと言うか、後者を選ぶ子どもがいたらお会いしてみたいと思う。

重悟君に声を掛ける時は専ら参悟兄ちゃんの後ろから。そんな状態が変わったのは段々と夏の気配の近づく6月辺りのことだった。

その日は相も変わらずうちは両親ともに帰ってくるのが遅くて、参悟兄ちゃんも重悟君も部活で都合がつかづに見に来れないと言われていた日だった。

真っ直ぐ帰れば家に着くのは夕方にもならない時間。早く帰って大人しくしていれば危険なんてないだろうと周りの心配を他所に私は大丈夫だと元気よく答えて、そうして長い留守番は始まった。

途中までは順調だった。小学一年生の下校時間なんて寄り道をしなければおやつの時間にも差し掛からないくらいだ。早々に帰宅して読書でもしていれば一人でも案外時間は潰せるし、今まで周りに人が常にいた分、一人で留守番という状況になんだお姉さんになった気分がしてひっそりドキドキなんかもしていた。

だけどその『お姉さんになった気分』が仇になってしまった。
一通りやりたいことが終わって勉強でもしようかとランドセルを開けた時。 明日提出予定の宿題を忘れてきてしまったことに気づいてしまったのである。なまじ今まで提出物忘れや忘れ物をしたことがなかった私はだからこそそこで焦ってしまった。
パッと時計を見あげれば午後4時半。日は大分長くなっていたし、外を見れば同じ年頃の子達もまだ出歩いている時間だ。

学校までは歩いて30分ほど。戻ってくる時刻を考えれば出歩くのを一瞬躊躇ってしまう時間だったけれど、『私だってもうお姉さんになったんだし』。そんな自負が私の背中を押してしまった。

行きはよいよい、帰りは怖い。そんな歌詞があるように、行きの順調さとは裏腹に、問題は帰りに起きた。

ハァハァと上がりそうになる息を口元に手を当てることで抑え込む。体を小さく縮こませて、どうか見つからないでと僅かな隙間にねじ込んだ。

初めは何処にでもいるようなオジサンに見えた。車から降りてキョロキョロと辺りを見回していて、私を見つけるとホッとしたような顔を見せた。良かった、道に迷ってしまって。交番に行きたいんだけど何処か分かるかな? そう言う言葉に嘘は見えなくて、うっかり相手をしてしまった。
目立つ目印が無いとは交番まではそう遠くない。それなのにどう説明しても相手はよく分からないなと首を傾げるばかりで進まない。それなのにオジサンは何故か少しニコニコしてて、もしかして悪い人なんじゃと足を引いたのとオジサンが一緒に来てよと腕を伸ばしてきたのは奇しくも同じタイミングだった。

咄嗟に逃げて近くの空き家に隠れたけれど子供と大人では脚の長さが違う。オマケに近くに隠れられるような場所と言えばここくらいしかない。見つかるのは時間の問題だと言うのは自分が一番よく分かっていた。
助けを呼ぼうにも当時は携帯なんて持ってるはずもなかったし、季節柄らしく急に悪くなった天気と思ったよりも時間がかかってしまったせいで私たち以外に周りに人はいなかったという絶望的状況。

そうこうしてるうちに入口辺りからわざと音を立てながら入ってくる妙に猫撫で声のオジサンの声が聞こえてきて、私の緊張は最高点にまで達していた。
甲高い耳鳴りがうるさくて、でもそれを割ってでも聴こえてくる足音、息遣い。心臓が爆発してしまうんじゃないかと言うくらいドキドキしていて、それなのに手足からは感覚がなくなるほどに血の気が引いている。

そしてついに私が隠れている部屋の前で足音が止まった。私が隠れたのは入口から見て一番奥にあった部屋だ。相手だってここに私が隠れているのなんてもう分かりきってるだろうに、まるで焦らしかのようなゆったりとした動きでドアノブに手が掛けられたのがドア越しにも分かった。
ガチャリ、キィ。扉が薄く開かれる。悲鳴のような軋む音に、ついに堪えていた涙が零れ落ちた、その瞬間だった。

「おいアンタ!! そこで何してやがる!!」

耳に馴染んだ声が耳朶を打った。

物陰に隠れている上にドアは完全に開ききっていないから向こう側で何が起きているのかは分からない。けれど何か言い争う音とドタバタと騒がしい音が聞こえてきて、見る勇気もなかった私はただ身を竦ませて音がなり止むのを待つことしか出来なかった。
一瞬にも永遠にも感じる時間。そうして静かになった向こう側から開けるぞ、と声がして。ゆっくりだけどさっきのオジサンの開け方とは違う、こちらを気遣った優しい開け方に、気づけば思わず駆け出していた。

「重悟お兄ちゃん……!!」

扉の向こう側にいた重悟君は揉みあったせいか制服はヨレて汚れていて、顔にはぶつけられた跡もあった。私がちゃんと留守番していなかったせいだ。私のせいだ。私のせいで重悟お兄ちゃんが怪我をした。助かったという安心感と重悟君への申し訳なさでぐちゃぐちゃになりながら駆け寄る。
きっと怒られると思っていた。どうしてちゃんと留守番していなかったんだと。だけど駆け寄ってきた私を受け止めた重悟君はいつものしかめっ面を心底ホッとしたような顔に変えてよく頑張ったなと、そう言って泣きじゃくる私の頭を優しく撫でてくれたから。

その瞬間から、私の長い長い初恋は始まってしまったのである。

***

「だからですねぇ? 何が言いたいかって言うとぉ、重悟君ってば本当に、本っ当にカッコイイんですよぉ!!」
「分かった、分かったってェの。お前何回その話すんだよ」
「一生します!!」

ドンと飲みきったジョッキをテーブルに叩きつけながら自信満々に答える。

神奈川県某所、居酒屋にて。私は松田さん……、改めて松田君と呑みながらかつての重悟君エピソードを語っていた。

この松田君との奇妙な交流も七年目だ。重悟君に恋する私と千速さんに恋する松田君。意中の二人の仲が進展しないよう目を光らせるという傍から見ればため息必至の共同戦線は、時たま情報交換と銘打ってサシ飲み形式で以って行われていた。
ウエディングドレス姿の千速さんをお姫様抱っこするのは俺、なんて言うだけあって案外ロマンチックな所がある松田君と、大きくなったら重悟君と結婚するー!と幼少期に宣言していた私。これが案外話が合って、29にもなって恋バナで盛り上がれるんだから全く困った大人たちである。

「ホント、本当に重悟君ってカッコイイんですよ……。あの日だって部活あったのに心配だからって早めに切り上げてきてくれたって……。私の目撃情報追ってあそこまで来てくれて……。重悟君だってまだ中学生だったのに……。ううぅ、申し訳なさとカッコ良さがぁ……」
「へーへー。それで? 恋すると同時に憧れもして? 警察官目指そうとしたんだったか」
「そうですそうです。これでも頑張ったんですよ。おかげさまで私も捜査一課の一員なんですから」

えへん、と胸を張る。そう、本当に頑張ったのだ。あの日重悟君に助けられて、私も誰かを助けられるような人になりたいと思った。先に警察官になった二人の背中を追うように頑張って頑張って。数年前には捜査一課にだって移動になった。重悟君とは班は違うけど顔を合わせる機械は増えて、恋に仕事に大充実。……に、なれば良かったんだけれども。

「……はぁ……。」

恋の方は絶賛苦戦中である。

「ンだよ、でけぇため息ついて」

怪訝そうな顔をする松田君にじとりとした目を向ける。

「むしろ私はどうして松田君がそんなに平然としてられるのか聞きたいです」
「あ?」
「婚活パーティー」
「あぁ、あれか」

事も無げに返した松田君にイラッとしつつ、彼の皿から横取りした唐揚げを頬張った。

事の発端はつい先日。何と重悟君、私という存在がありながら婚活パーティーに行っちまいやがったのだ。なんでもおばさんやら参悟兄ちゃんやらの勧めがあって断れなかったらしい。
しかもだ。何とその場に千速さんもいたって言うのだから心穏やかに居られるはずもない。彼女の方は参加費無料で食べ物に釣られたらしいし、途中で事件が起きたからそれどこじゃなったらしいけれど、重要なのは同じ婚活パーティーに重悟君と千速さんがいた、それが私にとっては重大だった。

「重悟君め……。お見合い避けでもいいから私を彼女だって言ってくれれば良かったのに……」
「無理だろ。アイツ、お前のこと妹分としか見てねぇみたいだし」
「ストレート打つのやめてくださいよ……」

ガックリと項垂れる。
そんなこと言われなくたって自分が一番よく分かっていた。

「『参悟兄ちゃん』に『重悟君』、ねぇ……」
「……私がどんな想いで『重悟君』って呼んでるのか、知ってるくせに……」

参悟兄ちゃんの妹では良くても、重悟君の妹ではいたくない。あの事件の次の日から重悟君のことをお兄ちゃんと呼ぶのは止めた。大雑把に見えてその辺りの細かい機微に気付けない重悟君ではない。私の気持ちはとっくに分かってるだろうに。

じわり。お酒のせいもあって感情のコントロールが効きづらくなっている。滲んだ涙を隠そうと俯いたままでいれば、その頭に男の人にしては繊細な指先をした手がポンと置かれてそのまま撫でられた。

「まぁその、なんだ。憎からずは思われてんだし大切にされてんだろ」

舌打ちをしながらこういうのは苦手なんだよという松田君に驚いて顔を上げる。

「……松田君って人の心に寄り添うとか慰めるとか、そういうの出来たんですね……」
「ケンカ売ってんのかテメェ」

途端に青筋を浮かべた彼に思わずフッと笑いが込み上げた。

「ごめんなさい。……でもそうですね、大切にされてる自信はありますから。まだまだ諦めませんよ。それに私が諦めたら松田君も困りますもんね」

そう言いながら涙を拭う。

私の重悟君への想いもなかなかなものだと思うけど、松田君の千速さんに対する熱量なかなかのものだった。あっちが私の初恋エピソードを丸暗記してるように、私だって彼の初恋エピソードは何度も聞かされたおかげで完全網羅している。話に聞く千速さんはそれはそれはカッコよかったし、実際捜査一課に移動してから関わりの多くなった彼女は懐が深くて美しくて、恋敵ではあれども尊敬する人物になっていた。だけど私が重悟君を諦めてしまえば壁が一つ無くなってしまう訳だし、それだと松田君も困るだろう。以前はよくさっさとあの野郎をオトして来い! 出来たら苦労してない!! なんてやり取りもしていたし、それもあって出た言葉だった。だけど。

「あー……、まぁ、そうだな……」

返ってきた言葉はなんだか歯切れが悪くて。言いたいことがあればその場でハッキリさせる彼にしては何だか珍しい。

どうかしたのかと聞けば何でもないと返す彼の目は、けれどやっぱりどこか複雑そうな色をしていて、私は酔いも飛んで首を傾げたのだった。

「私、重悟君を諦めようと思います」

そう宣言した私に目の前の松田君は咥えていた煙草をポトリと落とした。

横浜と東都の警察官をも巻き込んだエンジェル騒動が落ち着いて早ひと月。事件の後始末も片付いてきた今日この頃、ようやく休みが取れた私は久しぶりに松田君と飲みに来ていた。
場所は以前にも一緒に飲んだことがある居酒屋。周りは既に出来上がった客たちがいっぱいで騒々しいはずなのに、その言葉を告げた瞬間は音が遠のいたような不思議な感覚がした。

「………………いきなりどうしたんだよ」

煙草の火を消して眉間を一揉み。それから一呼吸置いてやっと覚悟を決めたように口を開いた松田君を見て、こんなに混乱するとは想像しておらず思わず肩から力が抜けた。

正直、話し始めるまではもっと辛くなるかもしれないと思っていた。だけど自分以上に取り乱している彼を見て落ち着くと共に、自分でも本当はもう分かっていたんじゃないかと妙な納得すら湧き上がった。

「先日のエンジェル騒動、ありましたよね」
「あぁ」
「……あれで、色々と思うところがありまして。なんというかまぁ……、敵わないなぁ、っていうか、そんな感じです」

自分でもまだ整理しきれていない言葉は途切れ途切れで。それでも急かすでもなく黙って聞いてくれる松田君に感謝しながら、多分もうこれで最後になる重悟君への想いの丈を晒していく。

「でも諦めるって言いましたけど、全然、マイナスな意味ではないんです。ずっと好きだったし、今でも好きですけど、何だろ……。気持ちを昇華することが出来たっていうのが近いんだと思います」

いや、どちらかと言えばそうなりたいという願望なのかもしれない。未練が全くないと言えば嘘になる。だって今までの人生ほとんどをかけて重悟君を見てきた。今の私があるのも重悟君の影響が大きい。そもそも諦められなかったからここまで来たわけであって、そう簡単に手放せるほど軽い想いなはずがなかった。

だけど、あの時。
ヘリから降り注ぐライトに照らされて、まるで世界からそこだけ切り取られたかのような二人の姿を見た瞬間、私の恋は叶わないのだと悟った。悟ってしまった。
重悟君の目に写っているのは千速さんだけで、私は結局端から彼に選んでもらえる為の舞台にすら上がれていなかった。それに目を瞑って気付かないふりをして。でもそれももう、ここらが潮時だったんだろう。

「アンタはそれで後悔しねぇのか?」
「やれることはやり尽くしましたから」

松田君の問に肩を竦めながら答える。それを聞いて考え込むかのように黙り込んだ松田君。私たちの間に沈黙が落ちる。湿っぽくなった空気を変えようとわざとらしく私は声を張り上げた。

「あ、でも! 私は一抜けしちゃいましたけど松田君のことはこれからも応援し続けますからね!」
「……あ?」
「あ? じゃないですよ。『重悟×千速断固阻止の会』! 私たちその為に今まで会ってたんでしょうが。私は重悟君とくっつくのは諦めましたけど、だからと言って松田君のことを応援しない理由にはなりませんから! むしろ私の分まで恋愛成就を叶えて欲しいと思ってますからね!」

ファイト!と拳を握り込めながら松田君を見やれば彼はふと思い出したように、あーそんな会もあったっけなと零した。何を他人事のように。その為に集まってないというなら何のために今まで一緒に過ごしてきたと言うんだか。

「……一つ確認してぇんだがよ」
「? 何ですか?」

ふいに、それまで何かに悩んでいた様子だった松田君が真剣な目をして私に視線を投げてきた。塗り替えられた雰囲気に内心小首を傾げつつ、私は次の言葉を待つ。

「アンタは俺に『自分の分まで俺の恋を叶えて欲しい』、そう言ってるんだよな?」
「そう、ですけど……?」

私の言葉を繰り返すような念押しの確認。一体何の確認だろうか。先の読めない問いかけに恐る恐る答えれば、彼はいい事聞いたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべて机に置いていた私の手をおもむろに掬いあげた。

「じゃあ、俺と付き合ってくれや」

「………………へ?」

付き合う? 誰と、誰が?
状況が理解できなくて唖然とする私を置いて、松田君はどんどん話を進める。

「アンタさっき『一抜けした』っつってたけどよ、悪いが一抜けしてたのは俺のが先なんだわ」

会う理由なんて、とっくにお前だ。そう言って、彼が笑った。

「え、な、何で……? 松田君が好きなのは、ち、千速さんじゃなかったんですか……? そんな、何でぇ……? そ、その、私のこと……本当に……?」

「あぁ、好きだぜ?」

好きなんですか。自意識過剰みたいで飲み込んだ言葉が事も無げに告げられた。

松田君は頬杖をつきながら、なおも掬い取った左手の甲を親指で器用に撫ぜてくる。私を見つめる目には確かに熱が籠っていてその言葉に嘘はないのが見て取れた。

「い、一体いつから……?」
「さぁ? いつからだろうなぁ」

混乱する私を見て、松田君は愉快そうに目を細めて笑う。

「それで? 俺の恋、応援してくれるんだよな?」

逃がさないと言うかのように握る手に力を込められて、私は口をただはくはくと開けたり閉めたりする他にないのであった。

〇登場人物紹介
・秋庭真琴
…交番勤務のお巡りさん→神奈川県警捜査一課所属。横溝兄弟の年下幼馴染。人生のほとんどを横溝重悟に恋をして生きてきた。重悟の影響がデカすぎて咄嗟だったり余裕が無い時などに口調が荒くなるという活かしきれなかった設定がある。可愛い系の顔立ち。千速さんのことは恋敵な反面、しっかり尊敬もしている。
ハイウェイの堕天使ラストの千速と重悟のシーンを見てようやく長い長い初恋に諦めがついた。その事を松田陣平に報告した結果彼から追われることになる。ずっと追う側だったから追われることに慣れておらずタジタジになる未来が待っている。

・松田陣平
…偶然とは言え萩原を助けられて恩義を感じていたし好感度高めでスタート。重悟のことしか目に入ってないおかげで自分の顔に騒がれることがないし、阻止の会がなくても付き合いやすくていい友人認識だった。一緒に過ごしていくうちにただ一人をひたすら想っている姿に無意識にもいいなと思うように。今回描ききれなかった3年前の爆弾事件の際、これまた巻き込まれていた真琴の手厳しい一喝によって生還。そこで一気に落ちてしまった。
その後は阻止の会を言い訳に会いに行っていた策士。重悟一筋な彼女を前に自重していたがこの度重悟諦める発言&恋愛応援してる発言を聞いてアクセルベタ踏みの全力スタートを切った。

・横溝重悟
…サバサバ系美女と年下可愛い系幼馴染に挟まれるというラノベ主人公もかくやな設定を背負わされた男。真琴からは何度も告白されているし気持ちもわかっている。大切に想っているもののどうしたって妹分という認識。
松田からは千速に近づくなと言われたりその気がねぇならさっさと真琴を手放せと言われたり散々だった様子。

萩原千速
…真琴のことは面白くて可愛い後輩だなと思っているし、結果的にとは言え弟を助けてもらったことに恩義を感じて目をかけている。映画本当にカッコよかったです。カッコよすぎて冒頭シーンちょっと泣きました。ファンです。サインください。

・萩原研二
…爆死を免れた。真琴ちゃんありがとぉ!! でもその阻止の会はどうかと思うぜ!!
松田と真琴を見てそことそこくっつくのぉ!?と叫ぶ未来が待っている。

・『重悟×千速断固阻止の会』
…その名の通り横溝重悟と萩原千速がいい感じになるのを何としてでも阻止しようという目標を掲げ設立された会。活動内容は二人の動向報告や二人きりでの外出の阻止など。なお途中からまともに活動していたのは一人だけだった模様。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

— End —

Comments 3

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コロコロ2 天前
Sticker
やさか3 天前
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Sakuria
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