注意
・ローエン実装前の妄想です。
・ファルカも出てきます。
・世界観諸々適当です。
何でも許せる方だけどうぞ
夜も更けてきた頃、私はたき火の炎を見つめながらうとうとしていた。
「おい、そんなとこで寝たら風邪引くぞ。明日のために準備とかしなくていいのか?」
聞き慣れない声で目を開けると目の前に2人、男が座っていた。
「準備はいいかな。さっき剣も研いだし」
「いやいや、そういうことじゃなくってさ。心の準備だ」
「心の準備......? もうできてるよ」
「ずいぶん余裕だなぁ......羨ましいぜ」
1人は中年、1人は青年、私は......若い女。
一見すると謎の集団だが、明日の西風騎士団入団テストの受験者という貴重な共通点がある。
明日憧れの西風騎士になれるかどうかが決まる。
そのことがプレッシャーなのか、受験者たちは緊張しているようだ。
ファデュイの諜報員である私を除いて。
「聞いたか? 俺たちの試験官はあの、ローエン副隊長らしいぞ」
「クソッ、ハズレくじすぎるだろ!」
ローエン......私はその名前を、丸暗記しているファデュイの情報網からたどる。
遠距離小隊の副隊長。
おかしい、これしか情報がないなんて。
ファデュイとの接触が少ない人間なのか、あるいは、彼と出会ったファデュイが皆殺されているのか。
どちらにしろ私にとっては未入手の情報を集めるチャンスだ。明日の試験も気は抜けない。
しばらくローエンについて話す2人の会話にも耳を傾けていたが、どれも出どころの怪しい噂ばかりだったので、野原に仰向けになった。
今夜も闇に浮かぶ月が綺麗だ。たき火の温かさと夜風の緩急が心地よくて、また眠気が襲ってくる。
再びまぶたを閉じかけた、そのときだった。
糸のようにピンと張った冷たい殺気を、体が感じ取る。
防衛本能から頭で考えるよりも先に目を見開いてガバッと上体を起こした。
たき火の向こう側に、人間が1人、増えていた。
フードを深く被った少年。年は私と同じくらいに見える。
「こんばんは」
少年はこちらを見て、そう微笑みかけてきた。
一見無害そうな柔らかな笑み。でも殺気は完全には消えていない。
「あんた......誰?」
私の問いに対して、中年男が代弁するように答えた。
「何だ、今までずっと寝てたのか? こいつも明日の試験を受けるんだってよ」
「水筒にアップルサイダーを入れて持ってきたんだが、皆で乾杯しないか? 明日の試験への願掛けってやつだ」
私が寝ていた間にすっかり親睦を深めていたようで、青年のほうは馴れ馴れしく少年の肩に手を回した。
「おお! お前、若いのに気が利くなぁ」
少年がたき火の周りに置いていた4人分のコップにアップルサイダーを注いでいく様子を、私はじっと観察する。
怪しい。怪しすぎる。一旦口をつけるふりだけして警戒しよう。
短剣をハーフパンツのベルト部分に差し込み、いつでも構えられるようにした。
「明日を西風騎士団入団の記念日にできるよう! 乾杯っ!」
カンッとコップの軽やかな音が響く。
私は恐る恐るコップの中身を覗き込んだ。
乾杯の余韻でアップルサイダーが波打ったとき、かすかに紫の色彩が見えた。
「ちょっと、これ......」
異変を言葉にする前に、うめき声が耳に入った。
「うっ、げほっ......」
「だれ、が......ど、く、をっ......」
フードの少年以外の2人が苦しげな表情で地面に倒れ伏す。
「ん? お前は飲まねぇのか?」
少年の声はひどく愉快そうな声色だった。
いや、さっきとは打って変わって低い声で、もはや少年とはいえない。
外側は顔立ちの整った色男なのに、まとっている殺気がドス黒すぎる。
たき火の外周に沿って、ゆっくりと近づいてくる彼に、私は手持ちのアップルサイダーをぶちまけた。
コップを地面に落としたあとも、本能的な手の震えが止まらない。
「んーー......足りねぇな、もう一押しほしい」
任務云々を放り出してでも、今すぐ逃げるべきだ。
なのになぜか、好奇心が抑えられない。
今までもファデュイの諜報員として強者を相手取ることはあった。そんな私の経験に基づいて、本能が告げている。
この男は私よりも強いと。
短剣を抜き取って目の前を切り裂いた。まるで小さなうさぎが、獰猛な獅子に歯向かうように。
フードの切れ端が宙を舞い、静かに散った。彼の頬には血が一筋垂れる。
「お前から先に、手を出したな?」
男の瞳孔が開くと同時に背中からナイフを持った左手が出てきて、切っ先がこちらに向けられる。
「試験の妨害ってことで、やっても問題ねぇよなぁ?」
そこからは実に鮮やかな流れだった。
真正面からの攻撃に対しとっさにしゃがんで避けたと思ったら、横腹に蹴りがとんできた。
短刀で防御して勢いを殺したものの、立ち上がるまでの時間が惜しくて屈んだまま男の膝にタックルをかけた。
腕をまわしたときにはすでに彼の筋力を肌で感じて諦めがついていたが、かけていた全体重が突如前に移動した。
彼の体の上に重なるように倒れた私の首を、筋肉質な腕が固定する。
「ぅぎぎ......」
「まぁ、筋は悪くねぇか」
腕が離れ、咳き込む私をよそに、男は立ち上がって砂を払った。
「いったい何のつもり......? 殺さないの?」
「殺す? いやいや、俺は立場上殺せねぇよ」
「立場上? あんた何者?」
男は月を背にして、私に手を伸ばしてきた。
顔にはあの邪悪な笑みを浮かべて。
「俺はローエン。お前らの試験官だ。お前は俺のお眼鏡にかなって、無事に入団試験突破ってわけだな」
私は驚きのあまり、彼の差し出してきた手を無視して飛び上がってしまった。
「はぁ?! し、試験官?!」
彼、もといローエンは少し眉をひそめたあと、木に背中を預けて槍に飛び散った(私がぶちまけた)アップルサイダーをハンカチで拭い始めた。
「ああ。試験は明日と伝えてあったが、俺は試験を当日に実施することはまずない。こうやって前日に抜き打ちでやるのさ」
「これが、試験......? じゃあ、さっきのアップルサイダーは......」
倒れた2人に目をやると、すやすやと寝息を立てていた。
「あれは睡眠剤入り。あいつらは見知らぬ奴から受け取った飲み物を飲んじまった。ゆえに不合格。だが、お前は違った。その警戒心は西風騎士にとって必要なものだ」
ローエンの槍が月明かりに照らされて光る。
「しっかし、残念だな。受験者リストでお前が未成年だったから酒じゃなくてわざわざアップルサイダー買ってきてやったのに、肝心の標的が引っかからねぇとは」
先程の殺気と戦闘が嘘のように、飄々とした態度。
だからこそ掴みどころがなくて恐ろしい。
「あ、お前明日から俺の第5小隊配属だから。朝6時、訓練場に集合な」
「えっ......」
「がっつりしごいてやるから覚悟しとけよ」
モンドの情報をスネージナヤに持ち帰る任務だったはずなのに、どうやら別の厄介事を背負ってしまったようだ。
よし。仕事はほどほどにして、絶対生きて帰ろう。
ローエンの愉悦に満ちた表情を見て、そう静かに決意した。
時は、抜き打ち入団試験の2日前に遡る。
「これが今回の受験者リストだ、ローエン」
執務室の机に腰掛け、ファルカから受け取った紙をパラパラとめくっていく。
「ふーん......なんかもっと面白い奴来ないかねぇ」
「お前の言う面白い奴って何だ?」
「俺のおもちゃになってくれそうな奴」
「職権乱用したらジンの説教だぞ」
「代理団長もケチだよなぁ。頼んでも全然手合わせしてくれねぇんだよ」
「............ローエン。これから伝える面倒事をお前が引き受けてくれるなら、俺がジンに手合わせについて掛け合ってやろう」
いつになく重々しげに口を開いたファルカに、俺は思わず笑った。
「んだよ、それ。面倒事? 大団長の言う面倒事は相当なんだろうな」
「引き受けてくれるか?」
「内容次第だ」
ファルカはため息をついてから、俺の持っていた紙を指さした。
「そのリストの中に、どうやらファデュイの諜報員が紛れているらしい。デッドエージェントを尋問したときの情報だから、信頼できるかはわからんが」
「......へぇ?」
ファデュイという単語だけで実にそそられた。おまけに諜報員で、自らこっちの懐に入ってきてくれるとは。
遊びがいがありそうだ。
「お前、悪いこと考えてるな」
「そんなの聞いたら悪いことしか思いつかねぇだろ。で? 拷問すればいいのか?」
「違う! もしその諜報員らしき人物が入団試験に受かったら、お前の小隊に配属して監視してほしい」
「監視?」
「ああ。情報を持ち逃げされないようにな。あわよくば、モンドに寝返ってもらいたい」
「そううまくいくとは思えねぇが。『二兎を追う者は一兎をも得ず』って言葉、知ってっか? 大団長」
「そこはほら、お前の手腕でどうにか。お前は二兎を追えば二兎を確実に仕留める男だろ」
「仕留めるのはできるが、生きたまま獲物をモノにするのは専門外だぞ」
暴力で支配する俺より、あのお人好しの偵察騎士とかのほうが敵を絆すにはよっぽど向いている気がする。
「報酬はジンとの手合わせ。どうだ?」
「......その約束に加えて、諜報員を使って多少遊んでもいいなら、やってやる」
「多少? お前の『多少』は不安だが......まあ、倫理から外れたものでなければ許可しよう」
「成立だな」
俺は紙を机の上に置き、腕を組んでしばらく考える。
どうすれば野生の獲物を傷つけずに飼い慣らせるのか。
「お前がどんな方法を取るのか見物だ。期待してるぞ」
「あぁ。今ちょうど一つ、いい手がひらめいた」
「お? どんな手だ?」
「日中の訓練で死ぬほど疲れさせて、おねんねさせる。情報収集の暇を与えない。これ以上ない平和的な方法だと思わねぇか?」
ファルカは一瞬拍子抜けしたように間抜けな表情になったが、すぐに笑い声を上げた。
「何がおかしい? 要望に沿って真面目に考えたんだぞ」
「いやいや、普段のお前との落差が可笑しくてな。今回はその調子で平和にいってくれ」
「しかし、そもそもその諜報員さんとやらが入団試験を突破してくれねぇと俺も仕事ができねぇんだがな」
「確かになぁ。まあ、ファデュイの腕前を信じてみようじゃないか」
そんなやり取りを行った2日後、俺はいつもの入団試験用のフードを被って受験者の前に姿を現した。
睡眠剤を看破した奴を見て、確信した。
この女こそが今回のターゲットだと。
正直茶番をやめてすぐに剣を交わしたくて仕方がなかったが、こっちから手を出すと社会的な始末が面倒そうで、ぐっとこらえた。
だからこそ、あいつから短剣を振りかざしてきたときは心底興奮した。
短剣の扱い、身のかわし方からして戦闘員ではなく諜報員におあつらえ向きの身体能力を持っている。
なんて遊びやすそうな獲物だろうか。
決めた。
こいつは俺の最高の遊び相手になれるよう、しっかり躾けよう。
絶対に逃がしはしない。





















