⚠注意
実装前の幻想です
名前あり、癖強の夢主です
詳細は捏造してます
合わないとおもった方はまわれ右
私はネコである。嘘。黒ネコの獣人である。数の少ない獣人の中でもほんのちょっとネコとしての本能が強いだけの。ヒトである。幼少期は故郷の清泉町でのびのび過ごし、そこそこの年齢のときにネコのように気ままに過ごしていたところを、大団長に首根っこ掴まれ騎士団に入団させられた。いい感じにお給金がもらえ、適度な運動ができるこの環境を私は結構気に入っている。
第五小隊にはネコがいる。正確にはネコのようなネコの獣人がいる。
仕事をする姿よりも、日に当たりながらお昼寝をする姿や、美しい黒い髪をクシでとかしている様子のほうがよく見られる、ルーエという名のれっきとした遠距離小隊の隊員である、らしい。
副隊長であるローエンはこの女のことをよく知らない。最近騎士団にはいり、異例の早さでいまの地位まで上り詰めたローエンはファルカから渡された書面を見ながらほんの少し眉間にシワを寄せる。
「気味悪ぃ。」
この言葉はなにもルーエに向けられた言葉ではない。書面に記されたこれまでの功績。第五小隊の連中が語る内容。他の騎士団員から聞いた彼女の印象。そしてつい先程この書類を渡しながらどこか含みを持たせていた大団長。全部似たような内容ならよかった。そうすれば、使えるやつか使えないやつかの判断だってしやすい。しかし、どれもこれもチグハグなのだ。そんな現状に対してどこか薄気味悪さを感じるのだ。
書類は語る、彼女はなんの変哲もない少女だと。田舎で生まれ、猟師の父をもつが、それだけ。彼女自身が猟師だった過去も、冒険者をしていた過去もない。
自身の部下が熱弁する。彼女は本当に最高のハンターなのだと。どんなに不安定な足場であったとしても彼女の矢は確実に的に当たる。性に合っているから、と銃ではなく弓を扱う彼女の黄金の瞳は、例え狼でさえ動かないような暗い闇夜のなかでも正確に獲物を捉える。
別の小隊の隊員はぼやく。彼女はネコのように気ままだと。彼女が任務に赴くところをほとんど見たことがない。いつも寝てばかりで書類を持っているところすら見たことがない。あんなやつが自分よりも給料をもらっていることに納得がいかない。最後はほとんど愚痴のようになりながら話し、すっかり酔いつぶれた男を視界のはしにローエンは件の彼女について思考を巡らせながら店を出て騎士団本部に向かって歩く。
あの書類を受け取ってから、いくらか追加で調べたが、手に入った新しい情報といえば、せいぜい彼女のお気に入りのお昼寝スペースが昼下がりの図書館だということくらいなものだった。彼女だってローエンの部下の一人なのだから本人に聞けば話がはやいのだけれど、あいにくと間が悪いことに彼女は遠征中である。けっして規模の大きいものではないのだが、彼女がいた数週間前は逆にローエンが就任だの引き継ぎだの現状把握だので忙しく、彼女に会うことはなかった。大規模遠征の試験官としても、ぜひとも彼女の情報が多くほしいものだ。
件のの彼女が帰るまであと3日。なんとも信憑性に欠ける情報しか集まらない。残りの情報源としては、あのなんともまあ腹の立つ意味深な顔を向けてきた大団長がいるが、ここまで来たら本人を待つのもいいかもしれない。他の奴らと同じように篩にかけて、自分自身の目で使えるやつか見極めればいい。そう考えればなんとなく楽しみに思えてくる。さて、自身の部下であるとういうチグハグネコちゃんは自分に面白いものを見せてくれるのだろうか。
その日、本部前で警備にあたっていた騎士は顔色を青ざめながら語った、あのときのローエン副隊長は獲物を見つけた飢えた獣のような目をしていたと。
仕事が入った。遠征から帰ったその日のうちに、である。とてもひどいと思う。それを伝えてきた大団長を軽く睨んだ。
しかし、どれだけイヤでも仕事である以上は遂行しなければならない。そこの分別は非常に大切である。自分のようにできる限り自由気ままに生きたいというのならばなおさら、自由には責任が伴うものなので。
伝えられた仕事内容はとても簡単なもので、同じ第五小隊のメンバーと囁きの森にできたという小さなスライムの群れを討伐すること。なんでもシードル湖沿いに群れができてしまったらしく、近距離で戦うと水が邪魔になり、遠距離のほうが安全だと踏んだらしい。
作戦実施は今夜。現在巡回をしている他のメンバー全員が揃い次第移動する。囁きの森ならすぐ近くだと余裕を持っていくべきではない。なぜならあそこの地形はどっかの爆弾魔のお陰で頻繁に地形が変わるから、ちょうどいい狙撃ポイントを見つけ直す必要があるのだ。自分はどこでもよくても、銃を扱う仲間たちは下手な足場で銃を打つと反動で怪我をする可能性もある。狙撃ポイントを見つける歯間が必要な以上時間が遅くなりすぎると日付が変わる前に終わることができなくなってしまう。
それはそれとして、
「…なに企んでるの。」
「企んでるだなんて人聞きの悪い。俺はただ、夜間任務に慣れている遠距離小隊のメンバーとしてお前を選んだだけだ。」
「今日は快晴。例え夜になっても月の光で今夜は明るい。よほどの素人でなければ十分当てられる。むしろ当てられないやつは鍛え直し。」
わざわざ本日帰還したばかりの私が仕事に当たる必要はない。
…ニマニマと気持ち悪く笑う眼の前の大男はなにも言うつもりはないいらしい。父の友人であるこの男はルーエのことを幼少期のころから見てきたせいなのか、いらない目をかけてくることがある。基本的にはただの優男なのだが時折はいる面倒くさいオヤジスイッチが非常にやっかいである。
「仕事はきちんとこなす、けど、面倒事もってきたら家に保管してある秘蔵酒コレクションは私が貰う。」
「えっ」
「失礼しました。」
後ろから、ちょっ待て待て待て、と聞こえるが知ったこっちゃない。
父とファルカの共同資産だとのたまうあの酒たちは現在ルーエの母の手によって管理されている。酒によった勢いで開けてカパカパと飲んでいいほど、やすい酒ではないのだ。誰かの誕生日とか、おめでたい日に一本ずつ開けて珍しく味わいながら飲んでいるのを見たことがある。
あいにくと私には酒の良さはあんまり理解できない。そうとう酒に強いらしいルーエは心地良い酩酊感などは一切感じることができず、それならば甘いリンゴジュースを飲んでいる方がいいと、めったに酒を飲まなくなった。苦みの強い酒はそもそも好みの味ではない。
現在時刻はお昼少し過ぎ。お昼ごはんは戻ってくる途中で済ませた。報告書は後で適当に書けば良い。今回の遠征では特にこれと言って問題は起きていない。手を抜いて良いラインはちゃんと見極めている。書類を仕事の一種なので。
「あ、聞くの忘れてた。」
新しい上司について。はたからみれば短気な小隊らしい我が第五小隊は、最近新たな副隊長を迎えた。私はすれ違いが続き会ったことがないが。異常といってもいいほどの早さで自身の上司となった男のことは噂でしか知らない。
遠距離小隊の副隊長になっておきながら前線で敵を殲滅するとか、見た目は愛くるしい少年であるとか、実は大団長の隠し子であるとか、ドラゴンスパインに単身で任務に赴いたとか。色々ツッコミどころが多い噂だが、後ろ2つは特にヤバい。3つ目が事実の場合リリーは昔から付き合いのある近所のおじさんに対する対応を考え直さなければならない。先程あった様子を見るに十中八九、噂が間違っているのだろうけれど。
そして最後、ドラゴンスパイン単騎はなかなか理解できない。あの寒さはネコの獣人であるルーエにとって厳しいものである。あの雪山にはできる限り行きたくはない。炎元素の神の目を持っているという話は聞かない、噂では氷元素を操っていたらしいが、さてはて、これらの噂はどこまで当てになるのやら。思考を巡らせてはみたが、百聞は一見に如かず。同じ小隊の上司である以上近いうちに顔を合わせることになるだろう。でどころも正確さもあてにならない情報は信用しないに限る。とりあえずはお昼寝が最優先だと、尻尾をゆらりとゆらし図書館に足を向けた。
夕方、本日の作戦にあたるメンバーが揃い囁きの森に向かう。つい昨日までともに行動をともにした騎士はひとりもいない。ようするに遠征からの夜間任務なんて苦行を強いられているのは私だけである。他のメンバーは4人。内3人は自分よりもいくらか年が上の先輩団員。最後の1人は知らない顔だった。
「紹介するぞ、ルーエ。今回の作戦に加わる新入団員、ローエンだ。」
「はじめまして先輩。ローエンだ。よろしく頼む。」
新入団員だという少年が挨拶とともに差し出してくる手を視界に、右手を胸に、左手を後ろに回し軽く腰を曲げる。
「はじめまして、ローエンさん。私はルーエ。以後お見知りおきを。」
盛大な猫かぶりに普段のルーエを知る面々は面食らう。依頼人や護衛対象以外にこれほどまでに丁寧に対応する彼女は見たことがない。もしや自分たちの今回の本当の目的がバレてしまっているのではないかと冷や汗をながす。
「今回の討伐対象は?私早く帰って寝たい。」
「お前まだ寝るのか…」
挨拶を終え通常運転に戻ったルーエに人知れず安堵しながら話を戻す。
「事前の情報では、大型の水スライムが大量に氷スライムも混ざっているらしい。ああ、あとそれからヒルチャールも。」
「その情報本当にあってる?数が多いうえに種族も違う。確実にこれだけの人数で請け負うべき仕事じゃない。スライムとヒルチャールが一緒にいることも珍しくないけど、大型のスライムが大量、それに後付で追加される程度のヒルチャールの数とか、あまりにもバランスが取れてない。異常。」
これが本当だった場合は新たに調査が必要なレベルだ。嘘だったら偵察したやつを見つけ出さなければならない。偵察の重要性を舐めてもらっては困るのだ。まあ今回の本当の目的が、私が予想している通りならどちらの心配もいらないのだろうけど。私の後ろでやっちまったという顔をしている先輩騎士を盗み見る。
「いいや、見てみないことにはわからない。シードル湖沿いだったよね、見てくる。」
本当にそれだけの魔物がいるなら遠目での観察でも十分わかる。スルスルと近くにあった木に登り、湖に向かって木の上を走る。
ちらりと他のメンバーを見ると、なんともまあ分かりやすい。明らかにヤバいという顔をした先輩たち、口のはしを釣り上げた新入団員だという少年。私の推測が間違っていなければ、確かに新入団員ではある。もう私よりも地位が上ではあるが。事前に教えられていた討伐対象がいるはずの場所を視認する。
やはりというか、なにもない。
いや、なにもというわけでは無い。ちょうど魔物がいるはずだった場所の少し手前に大きめの落とし穴がある。いくら月の光で見えていたとしても随分と精巧につくられたその穴を見つけることは難しいだろう。並の人間なら。しかし、あいにくと私はネコの獣人である。瞳孔が開いているのであろう私の目には明らかな違和感としてその地面は映っている。
「ファルカが持ってきた仕事な時点で確実に全員グル…」
木の上から後ろを追いかけてきた他の面々を見つめる。なにかしら私を試すか、騙すかしたいのだろうが、私はどうすればこの茶番を終われるのか。
「遅い、見ての通りなにもいない、生き物は。」
「そ、そうだな。でもほらもしかしたら近よったら魔物が出てきたりとかするかも…」
なにか期待するような目でこちらを見る先輩には悪いが、弓を引いて落とし穴の部分を撃ち抜く。そこそこの威力をもってひかれた矢は何かを貫き地面の中に消えていき、そのまま穴の中で着弾し、爆発する。
どこかの誰かさんのせいで爆弾にはいい思い出はあまりないが、時と場合によって爆破という手段は非常に有効である。
爆発によってあらわになった穴は、予想していたよりも大分大きなものだった。きっと別の部隊の連中も同じ方法でだまされたのであろう。小部隊1 つ分くらいの人数ならゆうに落ちることができるであろうこの穴をほるのに、一体どれほどの時間がかかったのだろうか。
「大変だ先輩。こんな明らかに誰かが仕掛けた罠がある。今回の偵察は誰?仕事を舐めてる?それとも裏切り者?大変大変捕まえなきゃ。それともこの仕事を任務だといって渡してきた大団長に責を負わせる?」
表情は変えないまま珍しいくらい饒舌に話すルーエとは対象的に、先輩3人は口をつぐみ冷や汗をダラダラと滝のように流している。その視線はチラチラと自分たちよりも小さい彼に向けられる。
「…合格だ。」
私は知らない間になにかの試験を受けていたらしい。ローエンから放たれたその言葉にやはりかと、ため息をつく。
「何に合格したのかは分かりませんが、やるにしても今日でなくていいと思うのですけど、ローエン副隊長。」
敬称をつけ、やけに丁寧な言葉で返す私にローエン副隊長は楽しそうに笑う。
「へえ、もうそこまでわかったのか。」
「新調されていたデスクと匂いが一緒だったので。」
自分の感覚には絶対的な信頼をおいている。彼が動くたびになる音だって明らかに素人じゃない。足音は小さいし、装飾の割には音がしない。
握手を求めてきていたあの時だって、差し出されていない方の手には短剣かなにかが握られていたのだろう。かすかに金属の音と匂いがした。手をわざとらしく後手に回していたのも見えている。
「ふうん。目だけじゃなくて鼻もいいのか。便利だな。」
「私もそう思います。…ちなみにもう帰って良かったりしますか?」
試験は終わり、敬語を使うのにも疲れてきた。なによりも寝たい。眠いわけではない。寝たいのだ。ネコとしての本能が寝るという行為を求めている。
「ああ帰っていいぞ。あと、その敬語も無しだ。こいつらと同じ話し方で良い。」
「ん、わかった。じゃ」
許可が出たのでそそくさと帰路をたどることにする。仕掛け人であった先輩たちに手を振られたので、彼らはまだ仕事があるのだろう。可哀想に。
その日、久しぶりに最高な環境にととのえてある自分の寝床で眠りについた私は知る由もないのだ。適度をはるかに超えた運動量が約束されている、ネコのようにのんきに昼寝なんてそうそうできない大遠征のメンバー一覧に、自分の名前が追加されたことなんて。
私にとって「仕事」は自分に課した枷である。
初めて騎士として任務に赴いたあの日から、きっと私はヒトから少し離れた。
もともと並の獣人よりネコとしての習性が強く出ている自覚はあった。清泉町には私と父以外にもネコの獣人がいたから、より私との違いが顕著にみえる。
他の人は、私のように寝ることに対してここまで執着しない。毛づくろいをするように執拗にクシで髪を梳かしたりもしない。ここまでなら個人差というか、個人の趣味で片付けられた。
しかし、私のように闇夜のなかでも昼のように見えてるヒトはいなかった。私のように、高所から落ちても、自らの体だけで滑らかに着地するヒトはいなかった、私のように、ヒトである体をネコのように扱うヒトはいなかった。
私のように、ネコとしての狩猟本能に意識を乗っ取られるヒトはいなかった。
初めて騎士として任務に赴いたあの夜。私は神の目を得た。
新人を引き連れて行われたその任務の引率はファルカだった。本当の戦闘の経験を積ませつつ、遠距離からのサポートについても指導する予定だったのだろう。
愛用している弓を手に木の上に登る。ネコの獣人である私にとって夜と昼の視界に大差はない。標的を視界に捉える。生き物に対して矢を向けることは初めてだった。父から弓の使い方を教わり、騎士団で訓練もした。でも、逃げる的に当てるのは初めてだった。剣をもった騎士が、標的である宝盗団に近づき、夜なこともあり上手く包囲することが出来ず何人か逃亡する。
背をむけて逃る標的に対して、これ以上無いというほど本能がくすぐられた。歯がうずく、腕が震える、彼らから目が離せない。
狩らなければ、仕留めなければ、捕まえて、それで…。
多分このときだったと思う。優秀な私の耳が私の傍から金属音を拾ったのは。
ある程度本能より、理性が打ち勝ってきたときには、標的であった宝盗団の肩には私の矢。夜であるというのに、明らかに明るく見える視界。あの時の私は瞳孔が開ききっていたのだろう。
「ルーエ、降りてこい。」
ファルカの声だった。冷めるのに時間がかかりそうな高揚感をそのままに大人しく木の上からおりる。私の目線よりはるか上から見下ろすファルカの瞳は、いつもの明るくやかましい色をしていない。
引率として、騎士団の責任者として、このときの私をどうするか悩んでいたのだろう。なにせ、本来なら牽制をすることだけを命じられていたのに、本人の独断によって人を打った。十分問題児だ。
宝盗団は全員捕らえ、誰一人としてケガなく帰還。初めての任務にしては上々だろう。私はしばらくの謹慎を命じられた。同じ任務に同行した何人かの同期は、おかしいと声を上げたが、私が行った行為は紛うことなく命令違反である。清泉町にある自室でぼんやりと考える。
怖かった。いままでのんびりと、共にあった私の本能が私に牙をむいたのが。
でも、それ以上に「使えるな」と思ったのだ。あの瞬間私はネコだった。生きるために獲物を狩り捕るネコだった。
瞳孔の開いた瞳は今まで以上に相手の細い動きまで見切った、前を向いた三角の耳は相手と自分の位置をとらえた、鋭敏になった嗅覚は相手が火薬のような、射ってまったら危険なものはないと教える。
これを支配下におけたら、どれだけ心強い武器になるだろうか。
謹慎期間である3日間、弓を片手にイノシシを相手にし続けた。狩るわけじゃない、ただ追い詰める。決して命を取らないように自身の本能を押さえつけるのは楽じゃない。空腹の状態で目の前にごちそうが並んでいるのだ。手を伸ばしたくもなるだろう。
でも、ひたすら耐えた。これからヒトの中で生きていくためには必要だと思ったから。昔からよくしてくれたあの人や、このポヤポヤを育ててくれた両親に報いるために、必要だったから。
だから自分に言い聞かせて、染み込ませた。
「狩り」ではない。これは「仕事」だ。
責任を持って成し遂げなければならない。騎士として、無辜の民を守らなければならない。騎士団という群れの1人なら、上の命令は聞かなければならない。戦場にたつのなら、自分の使えるもの全部使って最善を尽くさなければならない。
言い聞かせて、染み込ませて、謹慎が終わり通常業務にもどって半年ほどでようやく、理性が勝った。感覚はそのままに、冷静に戦場を見極めて。
難しい仕事がたくさん来るようになった。女で獣人のくせにと、面倒くさいやっかみを受けるようになった。前より見えるようになった目を使って、人の死角を歩くことにした。仕事も、普通の人なら不利になる夜間のものを多くしてもらった。
今までの私に仕事が加わっただけだから、お昼寝も毛づくろいも好きだ。のんびりして、仕事もして、ときおり司書さんや仲の良い先輩に可愛がってもらう。こうやって残りの人生も過ごしたいと思っていた。
ここまでは前提である。要するに私は仕事のときは割と気を張っているということを伝えたいのだ。
「お前、大遠征ついてこいよ。」
大遠征の試験官だったという自分の上司。噂に違わず戦闘狂ではあったが、ファルカの隠し子ではなかった。信じてはいなかったが、一安心である。ていうか、隠し子だとしたらファルカの遺伝子が仕事しなさ過ぎ。
思考がそれた。
「…拒否権」
「ねぇな」
絶望するしかない。そもそも遠征というものは嫌いだ。帰還するまでがずっと「仕事」である。地獄か。お昼寝も毛づくろいもそうそう出来ない。自分の寝床に戻ることも出来ない。
「そんなに嫌か…?」
よほど酷い顔をしていたらしい。椅子に座りながらこちらを見あげているローエンが聞いてくる。
「やだ。お昼寝、毛づくろい、私の寝床。なにもない。」
「あぁ、なるほどな。」
納得したように頷く。騎士団にいれば私がお昼寝をしているところは一回は見ることになるし、部下の情報はある程度共有されているのだろう。
「お前、遠征中は何判定になるんだ?仕事?」
「仕事」
「そりゃいやか〜。」
私は仕事とそれ以外で気の張り詰め方が全く違う。目の前の彼もそれをわかって聞いてきたのだろう。このまま行かないという方向性で押し通せないだろうか。
「いや、お前がどれだけ嫌がろうとも連れては行くんだが。」
悪魔か。軽く口の端を持ち上げて彼は楽しそうに口を開く。
「当たり前だろ?偵察も戦闘もできて、毒は鼻で見つける、夜だろうと見える、遠くても聞こえる。こんな便利なやつ連れて行かねえ理由がねぇ。」
項垂れるしかない。眉間にしわをよせ、全力で嫌だということを伝えてくるルーエに対し、ローエンは笑顔のままである。
「安心しろ、お前の性質はわかってるつもりだ。移動中の何時間かは物資の荷車にでも乗せてもらえるよう交渉くらいはしてやる。なんだったらおぶってやろうか?」
「いざとなったらお願い…」
「冗談だ。断れよ。」
お昼寝は大事だ。そのためなら多少の羞恥は飲み込もう。
この副隊長はルーエに対して多少の融通を利かせてくれる。仕事ができるので。
自分がついてこいと言ったらどんなヤバい敵がいようとついてくる。射抜けと言えば、どんなに視界が悪くても、足場が不安定でも必ず仕留める。ローエンが1人で暴れようと、止めるわけでもなく安全圏から戦闘が終わるまで見届ける。
そんなルーエをローエンは気に入っている。立場上、上司と部下にあたるため、あからさまな贔屓はしないが、こうして普通の団員なら一笑して議論にすら上がらない要望を聞くくらいならしてくれる。
周りの隊員はそれを若干羨ましく思いながらも、そうなりたいとは思わない。なぜなら彼に気に入られるということはヤバい戦場に連れて行かれるのと同義なので。誰だって命は惜しいのだ。
「…お昼寝の時間の確保、業務時間の確定。」
「へいへい、遠征中にお昼寝をとるなんざ聞いたことねぇよ。特別待遇を望むならそれなりに働けよ。」
「仕事はちゃんとする。」
決して信頼が深いわけではない。まだ会ってからの日だって浅く、性質は理解していても、人となりを掴みきったわけではない。信用しきるにはまだ2人には時間が足りない。
それでも、少し普通と呼ばれている人からは離れた自分たちが穏やかに過ごせる。自分が自分であるまま、気ままに、獰猛、そのままの状態でも相手は決して遠慮もしないし、壊れない。
隣にいても気にならないというのは、警戒心が非常に強い黒ネコとウサギが互いにそれなり相性がいいと云う証拠なのである。それを理解しているのは2匹をひき合わせた大団長ただ1人だけ。
ちなみに、ローエンの交渉の結果、遠征の荷車にはルーエお気に入りの毛布が積まれた。
遠征中、何度かフワフワの毛布に包まれたネコとウサギの姿が目撃されたそうな。
























