日本のヨハネスブルグと呼ばれる米花町に転生し、前世の記憶を取り戻してから早くも数年が経過した。みなさんお察しの通り、真実はいつも一つ! でお馴染みである『名探偵コナン』の世界線だ。
千速さんがメインである今年の映画は、興行収入が百億を突破したという人気ぶり。まさかそのニュースを知った次の日に転生するだなんて思わなかったけれど、特に痛みやら後遺症やらもなかったのでよしとしよう。オタクとは順応する生き物なのである。
閑話休題。
はてさて、話は少し変わるが、事件遭遇率や犯罪発生率が尋常ではないこの町に生まれて、恐らく「死にたくない」と考える人が大半なのではないだろうか。死なないためにフィジカル面を鍛えて自分自身を強化したり、対爆スーツを開発して技術者としての頭角を現したり、主要キャラに関わらないように避けたりと、自分の身を守るために行動を起こす人は大勢いる。
しかし、私は違った。これは今抱える悩みの一つでもあるのだが──死にたくないではなく、殺したいと考えてしまうのだ。
米花町に生まれた所以か、成人に近づき始めた頃から、やたらと殺意が芽生えるようになったのである。
何を言っているのかわからないと首を傾げる人もいるだろう。だが事実そうなっているのだから仕方がない。
気づいたらふつふつと自分の中で殺意が煮えたぎっており、殺害計画を練ってしまっている。髪が茶髪だったからとかハンガーをぶつけられたから義経になりたかったからとか、転生する前はくだらないと感じる色んな動機はたくさんあったけれど、今の私には他人事として笑うことなんてできない。
なにせ、心当たりがありすぎる。恋心を好きだったクラスメイトに弄ばれたり、友達に約束を破られてハブられたりと、自分で言うのもなんだが同情できる部分がある理由も中にはある。
しかし、電車の中で大声で騒ぐ老人に朝から出くわしたり、同僚にイラっとする発言をされたりしたくらいで殺人という選択肢が脳内に浮かび上がるのはちょっと勘弁してほしい。
いやまあ、人間として腹が立つところまではまだわかるじゃん。でもイライラしてから急によし殺そう! なんてならなくないですか?
いつからこんな物騒な性格の人間になったんだっけ。それすら正確に掴めていないのが自分でも恐ろしい。
ただ、あくまでもこれは計画の段階で済んでおり、実行までは至っていない。なぜなら、米花町には迷宮なしの名探偵──江戸川コナンが存在するからである。
殺害計画を立て、実行しようと街を歩くたびに私は毎回コナンくんと会う。
事件現場に必ず彼が遭遇するように、ほんとに、意図してないのに会う。もはや仕組まれてるじゃないかとか、GPSや盗聴器を付けられているのではないかと疑うレベルである。
しかし、そんなものは付いていなかった。つまり、運命に私の行手が阻まれているのだ。
そうなれば私に実行するという選択肢は無くなるわけで、私は未だに殺人犯として生きることなく一般人として暮らすことができている。
なんでって、どうせ犯人バレるってわかってるのに殺す奴なんていないだろう、ふつう。いや、バレることを恐れてるならそもそも殺害計画なんて練るなという話になるのだけれど、この殺意は簡単に止められるものではないのだ。
私は死なないことではなく、憎い奴らを片っ端から排除することを目的に生きていた。
「よし、ここなら流石にコナンくんに会わないでしょ!」
コナンくん対策として、遠方に出かけることもある。出張を利用してセクハラ上司を殺そうとしたことだってあった。
だがしかし、私は爆速でフラグを回収するタイプの人間だったらしい。
毛利探偵やコナンくんに会わない日もあるのだが、そういう時に限って別の名探偵やら刑事たちに会う。
大阪に行った日には服部くんに、またほかの県に出かけたときには安室さんや高明さんを筆頭に、頭脳明晰な探偵たちと並ぶ推理力を持つ警察なんかにも会った。その結果、私は結局殺人を実行できたことがない。
もちろん、ありがたいとは思っている。
しかし、私としては実行したい殺人を何度も何度も未然に防がれるみたいなことを無意識にされているわけで。当然、それに伴いフラストレーションが溜まっていくのである。
まあ、現場には居合わせているので容疑者の一人にはなるのだけれど、実行はしてないから毎回事情聴取だけされるせいで高木刑事たちにも顔を覚えられてしまった。そんな人間はおそらく後にも先にも私だけだろう。
刑事である彼らに「今回も一応お話を……」と苦笑されながら毎回形式的なやり取りをされる私の気持ちを述べてみよ。最初はもちろんめちゃくちゃに怪しまれていたが、こう何度も巻き込まれては今では怪しく見えるだけの不憫な女性として扱われている。
だがしかし、私の殺意は本物なのである。殺したいと思ってるし、そのための計画だって毎回必死に立てている。
それなのに……!
「あっ、お姉さん! こんにちは」
後ろから声をかけられて、私は恐る恐る振り向いた。視線を目線よりも下にやると、そこには予想通り小さな名探偵の姿が。
「……こんにちは、コナンくん」
「ほんとにお姉さんとはよく会うね。どこかお出かけするの?」
「え? ああ、うん。これから買い物に行くところなの」
ほんとは今から毎日仕事を押し付けて結果だけ横取りしてくるクソみたいな同僚を殺しに行くんだよ、なんて口が裂けても言えるわけがない。そんなことを考えているなんて微塵も知らないコナンくんは「へぇ」と反応してなぜか口元に笑みを浮かべた。
「じゃあ、僕も付いて行っていい?」
「えっ」
なんで今の会話で付いて行っていいなんていう考えになる?
いつもこうだ。名探偵はこっちの気も知らないで、どんな時でも私の邪魔をする。それが仕事の一つであることも頭ではわかっているけれど、いいわけねーだろ! と叫びたくなるのを寸前で抑える。
おい、あざとく首を傾げながら「だめ?」とか言うんじゃない。ここで断ったら私が小学生虐めてる悪い大人みたいだろうが。実際悪い大人ではあるけども。
「も、もちろんいいよ、コナンくん」
「わーい! ありがとう、お姉さん!」
可愛らしく笑うコナンくんが憎たらしい。可愛さ余って憎さ百倍というやつだ。
今日も今日とて、なんでこうなるの〜!? と声には出さずに、コナンくんのペースに合わせてゆっくり歩く。
もう~~~!! 誰か早く私に殺させてよ~~~!!!(切実)
























