「聡実くんとのことをずっと考えててんけど、どうやってもええ答えが出せへんねん」
晩御飯となった豚まんのにおいが充満する四畳半。
あせた畳の上でふてぶてしく胡坐を組んだ男は、そう切り出した。
「それは狂児がヤクザで、僕がただの大学生やからか」
「うん」
そんなことが理由で、となじりたい。これで狂児が聡実に特別な思いを向けていないのなら、ただ振られただけの話だ。でも明らかに男は聡実を特別な位置に据えていた。二人の境界線だけが最後の関門だったのに。
聡実は膝の上でこぶしを握り締める。
「聡実くんとずっと一緒におりたいけど、メリットとか色々なあ……」
「……狂児さんの言うメリットってなんですか。名義とか口座とか、そういうもんでも渡したらええんですか」
途端に男は眉根を寄せ、保護者みたいな面をする。
「聡実くん、これだけは覚えてて欲しいんやけど、ヤクザに名義とか口座貸したりしたらあかんよ。人生詰むからな」
「せえへんわ! でもお前がメリットとか言うたからやろ!」
「やって、俺が何の利用価値もない大学生と付き合うてどうすんの!」
一瞬で、体温が下がる。
しばらく呼吸も出来ないまま、その衝撃を受け止めた。
「最低やな、お前」
それだけをなんとか絞り出す。
狂児から向けられる感情とは――夢見がちに言えば――もっと純粋なもので出来ていると思っていた。思い上がりだったと、いま突きつけられたが。
狂児が懐にいれるには、聡実は旨味も何もない、ちっぽけな存在だったのだ。
それはそうだろうとも。先ほど自分でも言ったように、聡実はただの大学生だ。この男に与えてやれるものなど限られている。若さと時間など、女に苦労しないヤクザの幹部にとってはさしたる価値もない。
だとしても。これまで二人で培ってきたものを、こんなにあっさりゴミのように捨てられるとは。
思わず滲みかけた涙を瞬きで散らした。こんなことで泣いてやるものか。いや泣きたい。でもこのゴミ虫野郎の前では絶対に泣いてやらない。
矜持にかけて堪えた涙が、狂児にどれだけの威力になったかなど、聡実にはもちろんわかっていない。
狂児は息を飲み、そして慌てて聡実の前に身を乗り出した。
「ちゃ、ちゃうって! ヤクザはそう考えるってことやねん!」
「ヤクザのお前はそう考えるってことやんな。死んでください。死ね」
「やから~! 俺やのうて~っ!」
狂児が、聡実の手首を掴んで拘束する。無意識下で男の生業が顔を見せていた。
「俺の周りを嗅ぎ回る奴は、俺と聡実くんの関係にそういう利点が無かったらおかしいって思うねん!」
「はあ?」
聡実が眉を顰めたことは、男を焦らせたようだ。
「あんな! 俺が損得も無しに、ただ聡実くんと居たいってことがバレてもうたら大変やろ! 聡実くんが俺の弱みって知られてまうねん。そしたら俺を恨み辛みがある奴は君をどうにかしよ、ってなるかもしれへん。危ないねん。せやから、俺が君を利用しようとして付き合うてるって形が一番ええんよ」
つらつらと続けられる言い訳に、聡実は呆気に取られる。
なんじゃそりゃ。
「つまるところ、狂児さんは僕をイロにしときたいってことですか?」
「アホ抜かせ! そんなもんにしてたまるか!」
手首の拘束が強まる。かなり痛い。男が聡実にこんな力を行使するのは初めてだった。
「……聡実くんは、イロなんかやない。したない。でもそういう理由が……俺がそばにいる理由がなかったら、絶対に危ない。やけどこんな大事な子をイロなんかにできるかい」
恨みがましく吐き出される言葉に、凍っていた心がゆっくりと溶けていく。
なんという馬鹿だろう。なんという間抜けだろう。そしてなんと愛おしいのだろう。
「アホやな。理由なんてすぐにでも作れるやん」
「え、なに?」
本気でわかっていない狂児に、聡実は呆れかえる。
「お歌の先生。やったげますよ」
そもそもの出会いがそれなのだ。原点回帰。問題なんて何もないではないか。
「カラオケ大好き組長の率いる祭林組の成田狂児。そのお歌の先生なら、外でも通じる理由やろ」
「……いや、でも」
「問題ないわ。何に文句があんねん」
しばらく、あーだか、うーだか唸っていた男は、拗ねたように唇を突き出して理由を告げた。
「俺がいやや。聡実くんと付き合うのに利用するとか考えたない」
「……は?」
「聡実くんは、聡実くんってだけで価値があんねん。お歌の先生は、それはそれとしてやって欲しいで。でもそれが理由で付き合ってるとか勘違いされるのは、むかっ腹たつやんけ~!」
「はあ?」
聡実は二の句が継げない。
さっきはメリットがないと駄目だと言っていたくせに、いまは拒否反応を示す。言っていることがめちゃくちゃだ。
もしかしたら何か深い事情でもあるのだろうか、としばらく考えたが聡実の出した結論はこれだ。
「お前のわけのわからんこだわりはなんやねん! そんなん僕が知るか!」
「だ、大事なこだわりやもん……」
「大事ちゃうわボケ! なんで両想いやのに、お前のわがままに付き合って僕が宙ぶらりんで放置されなあかんねん! 僕のハタチの青春は有限や! 若者の貴重な時間の価値を舐めとんちゃうぞっ!」
ぶちかませば、男は性懲りもなく首を振っていやいやをする。
自分の歳考えろ! 顔がええからそんな仕草まで見栄えしてまうけど、普通なら横っ面ひっぱたく不様さやぞ! と聡実は腹の中で怒鳴った。しかし、こいつにおねだりされたら、腹を立てながらも許してしまいそうな自分がいる。惚れた弱みだとしても、弱すぎる。
「イロに見られへんくて、そんでも、聡実くんが利用価値あるように見えて……でも、絶対に俺が君のそばにおれる方法を、合法でなんとか見つけるから、それまで待っ」
「待たんわ、ボケ」
第一、合法とか言ってる時点で終わってる。本当になんという相手を好きになってしまったのか。
それでも、ようやく届いたこの手を放したくはない。
「今、決めて。僕と付き合うか、付き合わんねやったらLINEから何から何まで全部消して」
「……それは」
「考える時間はあげます」
「聡実くん……」
「狂児さんが考えてる間に、僕のスマホに仕込んでる監視アプリを削除しとくし、部屋の盗聴器も片付けとくから」
スマホを取り出そうとして、手首を拘束されたままなことに気づいた。
手を放してもらおうと顔を上げれば、そこには瞬きをしない黒々した瞳が、聡実を見つめていた。
「……聡実くん。部屋の……気づいてたん?」
「うわ。ほんまに部屋にまで仕込んでたんか。最悪やな」
「カマかけよった! この子!」
「仕込んでる方が悪いやろ!」
盗聴器は確証がなかったが、スマホは早い時期に気づいた。おかげで自己処理をする時に、ネットでオカズを得るわけにもいかずしばらくは困ったものだ。
途中から、これはもう男を覚悟させてやると開き直って、スマホでエロ動画を漁ったし、それをオカズに抜きもした。イクときに、狂児の名前を呼ぶ聡実の姿に、この男がどう煽られたかなど知ったことでは無い。
聞かれてながら自身を弄ることに羞恥しつつも感じるようになってしまったのは、全てこいつの責任だ。
それも合わせて、成田狂児は岡聡実に責任を取らねばならない。
「……ほぉん。……ほな、アレって聞かれてるのわかっててやってたんか」
狂児も聡実の痴態の意味に気付いたようだ。手首にかかる圧が増した。
「僕の覚悟、わかりましたか?」
「……えぐいくらいにわかったわ! あと聡実くんのエロい声、俺もオカズにしとったよ♡」
「その報告はいらん!」
赤くなって叫ぶ。
アプリ越しには大胆になれたが、リアルでの経験値はゼロだ。聡実の羞恥になにを感じたのか、狂児はようやく拘束を解くと今度こそ柔らかく手を握ってきた。
「聡実くん。君が大事で、大好きで、ちょっと頭おかしくなっとるオッサンで……そのしょうもないヤクザやけど、絶対に君を守る。やから、これからずっと一緒におってくれるか?」
「望むところです。僕も……その、狂児さんのこと、好きですし」
「ここで真っ赤になって照れるんや〜〜〜、あ〜〜〜めっちゃ可愛い……っ」
あかん、可愛いすぎて俺が手ェだしたら汚してまいそう……とか、呟いた声には呆れ果てるが。どうやらここはしっかり〆なければいけないタイミングのようだ。
「僕のこと守ろうと思ってくれたことは嬉しかったですよ。だからお歌の先生もほんまにしてあげます」
「え! また俺に歌教えてくれるん?」
「ただしラブホでな。あるやろカラオケ」
逃がさないとばかりに、狂児の手をぎゅっと握り返した。案の定、ぎょっとした男は動揺もあらわにする。
「ちょ! なんで聡実くんがラブホのことなんて詳しく知ってんねん!」
そんな位置情報、出たことないぞ! と言うセリフに鼻を鳴らす。
「大学生の好奇心舐めんなよ。みんなでツアーしたったわ」
「はぁ~~~~っ!?」
童貞男子大学生たちが徒党を組んで、いざというときに備えたいと願った行動力の結果だ。
もちろん聡実は監視アプリ対策として、スマホの電源は充電切れにしてから行った。当然である。
「ちゃんとパーティープランで申し込んだんで、正規の形でのラブホ利用です。何人もで行ったから2人きりとかちゃいますよ」
「はあああっ~~~~!?」
聡実の告白に目をひんむいて、驚きの声ばかりを上げる狂児に胸がすく。
いつも余裕ばかりを見せて聡実を振り回す男が形無しだった。
このことで狂児を不機嫌にさせようが、嫉妬心で攻撃的になられようが、聡実にその感情を向けるのであれば、望むところだ。どんな感情であれ、狂児から向けられる強い思いは聡実にとってご褒美なのである。
「悠長に構えとったら、お前が欲しい僕の真っ白なところ。全部、先に染めたるからな」
「……なんちゅう子や」
ふり絞るような声を出す狂児の胸倉をつかみ、まずはその唇でも奪ってやろう。
思いが通じ合ったならば、これは正当な恋人同士のキスなのだから。
***
後日。祭林組事務所にて。
「はあ? 聡実先生の利用価値ぃ?」
昔から面倒見ている弟分の泣きつきに、小林は呆れ返りながら、そちらを向いた。
「俺がそばに置いとく理由を捏造したいんですわ。一応、お歌の先生ってのを前面に出してこ思うんやけど、もうちょっと補強したいねん。俺の大事ってバレへんようなカモフラージュ案ないですか?」
「いや~……。あの子、法学部やろ? 弁護士になりそうな学生の青田刈りとかでええやんけ」
「あかん! そんなんしたら、公務員になるかもしれへんあの子の将来の邪魔になりますやん!」
面倒くさいことを言い出した。
それでも小林は会話を続けてやる。
「とりあえずのごまかしの理由やろが。別にならんでもええやんけ。いや、なってくれたら助かるで。このご時世、組の顧問弁護士なってくれる若者なんぞ、喉から手が出るほど欲しいわ」
「……せやからアカンて言うてますねん。あの子は恐ろしいほど普通の子やから、俺らが欲しがってもそんなんに引っ張られんで、自分の『普通』をしれっと歩いていくと思いますけど」
「ヤクザのオッサンと付き合ってて、普通て」
それを言えば、中坊の頃からもう普通ではなかったのだろう。
普通に見えて、普通ではない。そのアンバランスさは、あの少年――青年の魅力だ。
「万が一でも、俺のためにこっちに来よ〜とかしたらアカンですやん。せやから、自分の法学部の身の上については考えさせたないんです~」
「口とがらせんな。……ほんま40過ぎてかわいこちゃんぶるのが通じると思うなよ」
「聡実くんには通じるんで、問題ないですわ」
「はいはいはいはい」
残念ながら、この弟分の末っ子気質のかわい子ちゃんぶりは、組でも、店でも、なんなら他の組にも通じてしまうのだ。
それで道を踏み外すものも少なくない。
小林にとっては手のかかる弟分でしかないが、それでも可愛がっていなければ自分よりも役職が上になった男の面倒をこうも見てやりはしない。
「話戻すぞ。聡実先生のことやったな。あ~~……ほな、腕の『聡実』のカモフラージュやとか言うんはどうや」
「…………」
「不服そうな顔すんな。お前が、腕の『聡実』のこと嬢らに聞かれて困る~言うてたんやろが。死んだ『聡実ちゃん』を想って墨入れたけど、同じ名前の男の子が居ったから、感傷でそばに置いとる、とかなんとか……って、うわ、お前兄貴に向ける顔ちゃうぞ」
「……兄貴がけたくそ悪い話するからですやん」
恨みがましい目で見てくるが、呆れ返るだけだ。
「キタとミナミの総取りナリタとか言われて、どっちの街でも女らの股を洪水にさせとった成田狂児君はどこ行ってん。ちんちんから生まれたようなイケイケのヤクザの口八丁手八丁はどないしたんや~?」
「俺のオカン、赤ん坊の俺をちんちん先行で産んだんですか~、すごいな~。あとその変なあだ名、絶対に聡実くんに教えんといてくださいよ! ね! ね!」
グイグイと顔を寄せてくる男を、手のひらで押し返す。顔が強くてうっとおしい。
「はいはい。ほな、この話終わりな~」
「待ってって~。もう少し知恵貸してくださいて~!」
スーツの端を掴んでくる、45才児に小林は心底疲れを覚える。
「……面倒いのう。ほんなら、いっそこんなんはどうや――」
***
四畳半にて、狂児は可愛い可愛い可愛い可愛い恋人に膝枕をしていた。
されているのでは無い、しているのだ。
幸福を感じながら、狂児は先日たてた素敵な計画を提案する。
「聡実くん。あんな。今度の夏休み、帰省した時にカラオケの先生してくれへん?」
「いいですよ。約束したし」
「えーっと、俺だけやのうてうちの組のもんがそろった添削大会やねんけど」
聡実がカッと目を見開く。
「中学の時のアレか! いやや!」
「名目だけでええねん! 一回でええから、『俺ら』のお歌の先生やってくれたら、ええ感じでまとまるねん! 50人くらいやから!」
「人数おかしいやろ!!!」
聡実が身を起そうとするが、それは上から押さえ込む。ここで逃すわけにはいかないのだ。
「希望者が多すぎてん」
「いやや!」
「ほ、ほな、半分くらいにするから」
「そんでもあん時の倍以上やん!」
それはそうである。しかし聡実の逸話はすでに伝説になっており、人気がすごい。
「そしたら、前の時のメンツだけならどうや? あ、あと小林の兄貴って俺が長いこと世話になってる人とか、ほかに数人だけ増えるけど。15人くらいに減らすから!」
狂児が困ったよう手を合わせれば、だいたいの人間は望みを叶えてくれる。
だが聡実は非常に不快そうに、鼻を鳴らした。
「その顔やめろ。言っときますけど、狂児のおねだりやから聞いてやるんちゃうぞ。僕はお前の彼氏やから、お前にいいとこ見せて今以上に惚れさせて、離れられんようにするためにやるんや!」
「ありがとう〜〜〜!」
正直なにが違うのかよくわからないが、聡実の原動力が狂児への愛であることは確かである。それならなんでもいいのだ。
「そしたら、お礼はこの体で払います〜」
「……そうしてください」
聡実が下から伸ばした腕を引き寄せ、狂児は可愛い恋人と体の会話を始めるため、ゆっくりとのしかかった。
***
大阪。ミナミのとあるキャバクラのバックルームでは、開店前の騒がしさに塗れていた。
流歌はこのキャバクラに勤めて9ヶ月ほど。ヤクザの関わる店にしては、アコギなピンハネはされていない。借金はまだ全然返しきれていないが。
「ねぇねぇ流歌ちゃん、最近面白いことあったぁ〜?」
声をかけてきたのは同僚のキャバ嬢だ。くるくると巻いた髪先を指でいじっている。
「ん〜。そうやなぁ。……あ、知ってる? 成田さんのこと」
「なになに?」
同僚が身を乗り出す。
「なんか本命できたんちゃうかとか噂なってたやん」
「なんかわかったん?」
「あれ本命やなくて、ほら祭林のカラオケのさぁ。歌のレッスンしてくれてる人らしいわ」
戸惑った顔を見せた同僚だが、すぐに思い出したらしい。
「あ、ああ~! カラオケ大会! あの刺青の!」
「それそれ。普段は成田さんが囲い込んでる先生らしいけど、こないだみなさんも頼み込んで一回だけ全体でレッスンしてもろたんやて~。ほらノリ系歌う人。あの人が話してはってん。めっちゃ辛辣で毒舌に批評するから、身が引き締まった〜って言うてはったわ」
「組の人らに毒舌で批評するん? ……なに、そのおっそろしい所業」
本当にその通りである。店ではにこやかにしてくれているが、それでもところどころで彼らの商売である暴力や苛烈の片鱗を見ることはある。彼らは恐ろしい男たちなのだ。
「でも、そうなんかぁ。……うち、てっきり成田さんに特別な人ができたとばっかり……」
「話聞いたら全然ちゃうかったわ~。でも、歌の先生は貴重やって言うて、組の人らも上にも下にもおかん扱いやって。あんたも歌の勉強して、教えられるくらいになったら成田さんにワンチャンあるかもしれへんよ。当たって砕けても、ヤマハの先生とかに転職したらええんやし」
「そ、そうやね。……まぁ考えとくわ」
同僚は少しだけ引き攣った笑いを浮かべ、そそくさと自分のロッカーに向かった。
その後ろ姿にため息をつきそうになったが、流歌は無言で飲み込んだ。
閉店後、店の事務所で流歌は本日の報告をしていた。
「こんな感じでよかったですか?」
「うんうん、ええ感じヨ。その調子で、俺の本命って噂されとったんは、ただの歌の先生で、他の組員たちからも毒舌批評がうけて大好評! みたいに回しといて~」
ピシリと前髪を撫で付けた男は、ニカリと笑う。
「わかりました。……紗季ちゃんは、西岡の組の人とつながってるし、そっから漏れるはずです。……あと、クラブディーダの美玖ちゃんとは友だちなんで、噂話で回せます。……あそこ口の軽くて顔の広い嬢が何人かおりますし」
「うんうん。ホンマに流歌ちゃんは気が利いてエエ子やね。約束通り元金の九割は帳消しにしといたるわ。君、頭もええし、可愛ええし、そんでおっぱいも大きい。ナンバーにも何回も入っとるよね。筋がええから、借金返し終わっても、このままうちの店で頑張ってくれたら嬉しいんやけどね~」
「……ありがとうございます」
借金がほとんど消えれば、欲しいバックを買う余裕ができる。あのブランドの新作ジュエリーだって買える。気持ちが高ぶった。
「でも、俺が君にしかしてへん話が外に回ったりしたら、追い込みかけなあかんようになるから気を付けるように、ネ! 徳島のご両親も、広島の妹さんも困ってまうヨ!」
「もち、ろんです……。あの、絶対に何も言いません。私は、何も知りませんから……っ」
逆らってはいけない相手の見極めを間違えなければ、流歌はこれからも楽しく暮らしていける。そういうことだ。
「エエ子やね~。ほな、ゆっくりと噂回しといて~」
成田狂児がタバコに火をつける。煙のにおいは流歌にまとわりついて、そのあともしばらく残り続けた。

























初めまして。啖呵切る聡実君も、聡実君以外には怖いおじさんな成田さんも、狂聡に巻き込まれる兄貴さんもみんな好きです。