Novel1 years ago · 8.7k chars · 1 pages

これが所謂、ヒーローは遅れてやってくるってやつ?

たんせんたんせん

瀬呂くんに成り代わった人間が、妹を守るためにどんどん成長していく話。 オリジナル設定とオリジナル妹がめちゃくちゃ出張る。本編中には腐向けにならない。 ※虐待表現あり アニメを飛び飛びでしか見てない作者による完全自己満足シリーズです。違和感や原作との設定違いは全てスルーしてください。▶ 現在原作読破済み。 10.26 タイトル修正、後書きにキャラ設定追加

にわか作者による自己満足原作沿いシリーズ。

 瀬呂くんの過去や家族構成など何もかもを捏造しています。
 全てを許せる人だけお読みください。

 ────ワ。おれ瀬呂くんじゃん。

 その事実に突然気がついた直後、ガンと頭を殴られて吹っ飛ばされた。

 ……いや、こういうのって普通衝撃食らった後に思い出すもんじゃない? 順序どうなってんのよ。

 ”私” について語ることは、特にない。

 平凡な社会人、オタクではあるがヒロアカはあんま知らない。初期の頃アニメをチラッと見たくらい。体育祭あたりか? ついでにツイッターTLの受動喫煙。TLには相澤先生オタクと爆豪オタクと荼毘オタクがいた。あとはあれ、鳥の人。イーグル? ホークス? そんな感じ。

 今世での名は瀬呂範太。原作の下の名前は覚えてないから同じか分からないけど、マルっとした肘のロール部分を見ればお察し。いや六年ほどはお察しもできなかったんだけども。
 マ、とにかく。鏡に映る自分の顔がアニメで見た瀬呂くんの面影……所謂しょうゆ顔? を強く感じさせるので。つまりはそう、成り代わりってヤツ。残念ながらストーリーの記憶はないため救済はできないが、今にも俺TUEEEE! な人生が始まりそうな予感────……

 …………なんてことがあったら良かったのになぁ!

「うわぁ。今日はまだいんのね」

 ボロアパートの外階段を登り切った先、外からでも僅かに聞こえる物音にゲンナリした。ここのアパートはボロい見た目の割に音を通さないのだが、それでもまぁまぁ聞こえる。
 発生源、ウチ。両隣は空き部屋なのでさもありなん。

「もう八時だってのになぁ」

 アパート前の街灯が点滅する。……小学生が出歩くには、いささか遅い時間だった。

 記憶を思い出したのが六歳のこと。あれから一年、齢七つになった俺がどうして人生イージーモードできてないかと言えば、シンプルに家庭環境がクソだからである。
 父は俺が自我を持つ前に亡くなったらしい。それに病み散らかした母は俺が五歳の折に再婚したが、その義父がDV虐待ネグレクトの役満クソ野郎だったのが間違いなく元凶だ。母さん、どうしてそんな男に引っかかっちまったの。我が親ながら哀れでならない。
 あの男と暮らし始めて早二年。出会い頭から殴られまくってるので、早々に記憶を思い出せたのは良かった。普通のガキだったらほんとヤバかったんじゃない? 虐待親としてニュースにならないことを俺に感謝するべき。てかもうなんか酔った勢いで暴行事件とか起こしてくんねぇかな、そんでヒーローに捕まってくれ。
 ヒーロー、リアルで会ったことないけど瀬呂範太が目指してたならそういう憧れエピソードとかあるはずだし。
 ちょっとくらい良いこと起きてくれたってよくない? 毎日必死こいて生きてる俺に……、いや。俺たちに。

「おにいちゃん、どうする……?」

 きゅっと力が込められた右手に視線を移す。不安げに揺れるまんまるの瞳と目が合った。

「だいじょーぶ。もうちょい時間潰してよっか、成実」

 真っ黒な自分のそれとは違う、日に当たると深緑の光沢を放つ滑らかな黒髪。今にも零れ落ちそうなまんまるな瞳も同じ色彩を持っていて、太陽の下だとより鮮やかな緑になるのが綺麗な子ども。
 瀬呂成実。あの男の連れ子で、血の繋がらない家族。三つ下で、先日四歳になったばかりの、俺の。いっとうかわいい妹。

「っと。成実、おくちチャックな」

 今しがた上がってきた階段を下ろうと踵を返した瞬間、ドアの向こうでくぐもった足音が鳴る。あの男がタイミング悪く出てこようとしているらしい。
 成実に一声かけて繋いでいた手を離した。そのまま左腕に抱きかかえ、右腕のテープを屋根の端っこにくっつける。少し助走して跳ぶのと同時に巻き取りを始めれば、軽い二人の身体は弧を描いて簡単に宙に浮くのだ。
 ほんの僅かばかり鳴った屋根への着地音は、乱暴に開けられたドアの音に掻き消される。腕の中の成実も身動ぎひとつしなかった。舌打ちをして己の不機嫌を隠しもしないあの男が、それこそ呼吸をするように息を殺す俺たちに気づくはずもない。

「…………よなか、かえってくるかな」
「いーや。見たとこ母さんの給料袋持ってたし、どうせそれ使ってパーッと遊んでくるね。今日は俺らゆっくり寝れるよ」

 アパートの敷地から出ていく背中を見送って、たっぷり数十秒。脅威が去ったのを確信してようやく音を取り戻す。小さな小さな、囁くような声。それでも自分の言葉を聞いてかわいい妹がほっとしたように表情を和らげるから、それだけでこっちまで嬉しくなる。

「……よし。成実」
「うん」
「家入ったら、まっすぐ部屋に行くんだよ」
「……うん」
「だいじょーぶ、すぐ行くから。寝ててもいいよ」
「うん」

 その顔がすぐ強ばってしまうのが心苦しい。はーヤダヤダ。四歳なんて騒いではしゃいで笑っててなんぼでしょうに。
 そんなん思ってても現実はどうにもならないので、さっさと通路に下りてさっさと家のドアを開ける。おっ、今日は軋む音しなかったな。ラッキー。扉を開けた先、寝室へ続く扉まで人影はない。めちゃくちゃラッキーすぎ。
 成実の背中をそっと押して寝室に入れる。「おやすみ」と音もなく紡いだ言葉はしっかり伝わっただろう。成実は小さく頷くと、部屋の隅へ避難して行った。いい子だなぁ、ああ言ってもきっと起きて待っててくれるんだろうし。成実があの男と血が繋がってるとは思えん。いやマジで。ほんとに。

 ────パンッ!

 軽い音の割に衝撃は強くて、ひょろい身体は簡単にバランスを崩す。

 寝室の扉を背にして、真正面にいたのは母だった。昔はもっとマトモな人だったろうな、と思う。だいぶ前に見たアルバムの中の母は幸せそうに笑っていたし。暴力を振るい慣れてないので殴られてもさほど痛くないし。ギャンッと喚き散らす甲高い声はほぼ泣き声だし。
 いやまぁ、立派な虐待親であることは事実だけども。あの男が常時の脅威だとするなら、母は情緒不安定時限定の時限爆弾だ。

 情緒の爆発を、身をできる限り小さくしてやりすごす。こうして被虐待児の仕草ばっかり上手くなっていくんだから、困ったもんだよ。
 ヒーロー、早く来てくんないかなぁ。

 あれから五年、瀬呂くんは小学六年生になりました。

 五年間のうちに救済? バカ言うな、救ってほしいのはこっちだわ。今日もヒーローは来ません。まぁ色々あってヒーローなりたいなぁとは思ってるけど、状況は好転しないまま、身長だけデカくなった。小学六年生にして一六八センチ、マジでデカい。栄養は足りないのでヒョロッヒョロだけどな!
 まぁ、状況は良くなってないが、特段悪くもなってない。妹がヒーロー嫌いになったくらい。まぁまぁまぁ、その程度なら全然いいでしょ。生きてて笑えてりゃオーケー。プラマイゼロ。ァいや、成実も小学校入って無事給食を食べられるようになったのでプラマイで見たらプラスかも。仲良い友だちもできたし。ありがとうハチくん、これからもよろしくな。

「あ」
「どうしたの?」
「やべ、今日給料日だ」
「あっ」
「まずいまずい、はよ帰らんと」
「お兄ちゃん筆箱!」
「っと、ナイス!」

 ひょいと放られた筆箱をランドセルに突っ込んで、成実と一緒に図書館を出る。ランドセルを背負っちゃいるが今は夏休み真っ只中だ。他にドリルとか入れられるカバンがないからしゃーない。小学生の雑な扱いに六年間耐えるランドセル様はマジで偉大。ちょっとばかり値は張るけど。
 外に出た瞬間、数時間ぶりの熱気が顔にぶち当たった。もう六時だってのにな、だから夏は嫌いなんだ。エアコンもない夜は寝苦しいし、夏休みは給食ないし、曜日感覚も日付感覚も鈍るし。だから母さんの給料日もすっかり忘れてた。

「間に合うかな」
「ぜぇったい間に合わせっから、任せなさい」

 なんてったって、あのクソ野郎が帰ってくる前にテーブルの上に置かれてる母の日雇いバイトの給料袋から生活費を頂戴しないといけない。もうあの人は俺たちとロクに関わってこないので、コソ泥みたいな事しても何も知らない振りをする。
 中身見たクソ野郎から「少ないなァ」って母が殴られている時もあるのはゴメンだけど、子どもってタダでは育たないんだわ。早くバイト始めてェ〜。中学生にならんと配達バイトもできん。

「成実、ちょっとダッシュするわ」
「うん」

 身長が伸びたおかげで抱えやすくなった成実をさっと持ち上げる。すっかり慣れたもんで、成実はすぐに安定したポジションに収まって見上げてきた。その瞳はどこか楽しげに煌めいていて、ひとつ笑ってから個性を使う。
 子ども二人分の体重は、大人もびっくりなスピードで飛んだ。

 個性 ”テープ”。もう十年もの付き合いになるこれは、随分と汎用性の高い力になった。

 肘のロール部分から出すテープの長さ、色、太さ、性質の調整は早々に身についた。さすがに薬剤入りの湿布とかにはできないけど、清潔な包帯と繊維状にしたテープは出し放題なので助かる。あと断熱性テープとかは冬の夜に重宝してる。ぐるぐる巻きにするとあったかいので。
 昔はこういう ”外部に出すテープ” としてしか使えなかったけど、この個性の真骨頂はここから。

 なんと、テープを体内にも出せるようになったのである。いえーい!

 これが本ッ当に強い。大助かり。テープを骨に直巻きにして骨強度アップ! 極細の繊維にしたテープを筋繊維に紛れ込ませて筋力アップ! 皮膚の下で編み込んで硬度アップ! チートかもしれん。
 おかげで殴られてもそう簡単に吹っ飛ばされなくなったし、蹴られても骨はあんま折れなくなった。ウーン、有用性が被虐待児のそれ。なんも間違ってはない。あのクソ野郎、トチ狂ったのか個性使ってくるようになったしな。これが無かったら絶対死んでた。やっぱ人間って状況に適応して進化する生き物なんだわ。

「っし、まだ帰ってきてなさげジャン」
「お兄ちゃん、あの人さっき向こうの通り歩いてた」
「マジ? 急げ急げ」

 外通路に着地して、念の為肘のロール部分を最小にする。そうするとあら不思議、普通の人間の肘になりましたとさ。いつの間にかできるようになっていたコレは案外使う頻度が多い。テープの個性は父譲りらしく、ロール肘を見ると悲しくなるのか苦しくなるのか時折母がヒステリーになるので。そんなら最初から思い出させないようにしよう!って進化したってワケ。人類の神秘。

 ぬるりと家の中に身を滑り込ませてベランダに向かう。やはり母は寝室で寝込んでるようだった。途中で誰もいないリビングに置いてある給料袋から札を二枚抜く。夏休みだしなぁ、もうちょい貰っとくかと中身を吟味して……辞めておく。また減ってるわ。母さん最近調子悪そうだもんな、しゃーなし。

「成実、ご飯食べ行こう」
「うん。くつ持ってきた」
「もうほんとえらい。いい子すぎ」
「えへへっ」

 はにかむ成実がかわいいのなんの。思わずその頭を撫でてベランダへ向かう。夜の街で目立つランドセルは端っこにほっぽって、誰のかも知らないキャップとオーバーサイズの上着を拝借。この格好にこの背丈で小学生には見えまい。
 ガチャ、と自分たちの時には鳴らないドアのラッチ音がしたと同時にベランダから飛び降りる。たかだか二階なので着地音もしなかった。

「よし、ファミレス行くかぁ」
「いいの?」
「だいじょーぶ。なんてったって給料日だからね」
「やったぁ!」

 騒がしくなった我が家を背に、アレが食べたいコレが食べたいと話しながら歩き出した。

 瀬呂くんって、こんなヘビーな人生送ってたんかなぁ。実は重要人物だったとか? もしくは ”私” が知らなかっただけで、ヒーロー科の子はみんな凄惨な過去でも持ってるのかもしれない。そこをヒーローに助けてもらって憧れるストーリーなのかも。今日は俺のエピソードの日じゃなかったってだけで。

 でもまぁ、別に。原作とか。もうあんまり関係ない。

 瀬呂範太は俺で、俺には大切な妹がいて、今日もヒーローは来なかった。ただそれだけ。

 三日後。
 間違いなくこの日は俺のエピソードだったのだろう。

 開館時間から図書館にやって来て、しばらく。ふと成実が「やろうと思ってたプリント忘れてきちゃった!」と言うので「じゃあ、取りに帰ろうか」と返して。けれど成実は一人で家へ向かった。喧嘩したとか、そんなんじゃない。ただ、あの子が「だいじょーぶ」と言ったから。その言い方が、歯を見せて笑いながら言う姿が、自分そっくりで。所謂お姉さん的振る舞いに憧れるお年頃かと。ちょっと微笑ましくなったものだから。
 昼間のウチはそこそこ平和だ。母は夜職なので昼間は寝てるし、クソ野郎はここ最近あまり帰ってこない。プリント一枚取ってくるくらいワケなかった。だから、いざとなったら個性使うんだよと言い含めて。「いってらっしゃい」と、あの子を送り出したのだ。

 ……送り出した、が。我慢ならなかったのは俺の方だった。なにしろ自他ともに認める重度のシスコンである。クラスメイトは成実が上級生の教室に来たらノータイムで俺を呼んでくれるようになったし、「成実ちゃん頑張ってマラソン走ってたよ」なんて教えてくれるようにもなった。俺は何気に友達が多いのである。こればっかりは生来のコミュ強に由来するかもしれない。
 そうして十分もしない内にソワソワしだした俺を見て、「荷物見とくからさっさと追っかけてきたら?」と言ってくれたのはハチくんだった。彼もよく図書館を利用していて、待ち合わせせずとも会うことが多い。
 彼は俺のシスコン具合を一番近くで見てきているので、成実を送り出した時点で呆れた顔をしていた。きっとこうなることが目に見えてたんだろう。

 そんな優しい友達に「サンキュ、すぐ戻ってくる」と言って図書館を出たのが、五分前。

「エェ? ンだよ、ガキィ。もう終わりかァ?」

 ドアを開けた瞬間立ち込める鉄の匂い。所々壊れた壁や家具。部屋中に張り巡らされたアサガオのツル。

 元々、我が家は物が散乱している。
 けれど、普段のソレとは比べ物にならないほど、目の前の景色は惨憺たる様相を呈していた。

 家に帰る途中に公園がある。
 大通りから少し外れた所にあって見通しが悪い。でも子供が遊ぶのにそんなこと気にする訳もなく、休日は複数の甲高い声が聞こえてくる公園。そこに人っ子一人見当たらなかった時点で違和感はあった。後々知ったことだが、小学校からのメール配信で凶悪ヴィランの注意喚起があったらしい。俺たちは携帯を持っていなかった。

「植物系かァ。ビンボーなガキの割にいい個性持ってんなァ」
「、」
「アァハハ。怖いか? 怖いなァ。ごめんなぁ、庇ってくれる親はなぁ、イッチバン最初に殺しちまったよォ」

 男がいた。知らない男だ。リビングの床にしゃがみ込んでいるソイツが何か言っていた。ドアのラッチ音を鳴らさなかった俺には気づいてない。右手には細い刀のような刃物。血がついていた。ヴィランだ。犯罪者だ。人の家に勝手に上がり込んで、部屋の中を鉄臭さで充満させる、直接的な悪人だ。
 この世間は、警察よりもヒーローを犯罪の抑止力として利用している。「ヴィランに遭遇したらヒーローを呼びましょう」「危ないことがあったらヒーローに助けを求めましょう」。小学校でよく言われるセリフ。だから、ヴィランに遭遇して、危ないことになっている今。意外にも優等生な瀬呂範太がすべきなのは、走って助けを呼びに行くことだった。

「ンン。オイ。ガキ。お前いィ〜目ぇしてんなぁ。キメェ金持ちが好きそォな目だ。ンンンン。売れそォだ。売れるだろぉなァ」

 男は、しゃがんで。こちらに背を向けていた。未だに気がつく様子もない。随分とマヌケで、きっと今すぐ踵を返して駆け出したって気づかない。なにやらずっと、しゃがんで、ぶつぶつ呟いて、? ……違うな。独り言、じゃない。押さえつけてるんだ。左手で。刃物を持っているのとは逆の手で。その手、には。床に押さえつけている。のは?

 瞬間、最愛の深緑と目が合った。

『おにッ、おにぃちゃん、ごめんっ、ごめんなさぃ、』

『ヒーロー、たすけてくれなかった……っ!』

 ああ、そうだ。
 あの日、ヒーローが助けてくれなかったと泣いて。

「まァ、ガキ自体はいらねェからなぁ。目ん玉だけくり抜いてやろうなァ!」

 それからこの子は、助けてと声に出すのを辞めたんだった。

 ──────バキッ、

 気がついた時には、男はベランダの方に吹っ飛んで、俺の右足は折れていた。

 じわりと広がる痛みに純粋に驚く。それなりに骨強度上げて蹴ったと思うんだけど。筋力最大まで上げてたからスピードが乗りすぎたかな?
 今まで暴力に耐える側でしか使ってこなかったから、いざ振るう側になると加減が難しい。蹴る側にもダメージ入るんだなぁ、と学んだところで、体内テープで折れた骨をギュッと固定する。同時に着地。この間一秒も満たない。

 すぐさま肉薄。頭に当てた蹴りで脳が揺れたらしい。壁に背をつけてへたり込んでいる男は、けれど右手を前に突き出してきた。その手のひらからカッター刃のような刃物が飛び出してくる。なんだ、個性だったのか。偶然か執念か、まっすぐ額に向かって伸びてくるソレを左の前腕で受けた。狙い通りのところに暴力を受けるのは得意なんだよ、ずーっとやってきたからね。
 刃を通じて繋がった部分を元に、男の身体へテープを伸ばす。逃れようと暴れるそれを丁寧に拘束する時間も惜しい。テープを伸ばして、切って、くっ付けて、伸ばして、引っ張って、くっつけて、切って、伸ばして、伸ばして、折って、絞めて、引っ張って、伸ばして、絞めて、絞めて、絞めて、絞めて。わめくうるさい口を封じて。

 蜘蛛の巣に引っかかる、ミイラ男の完成。

「、なるみ」

 静寂を取り戻した部屋の中。すぐさま振り返り、仰向けで倒れ伏す成実を抱え上げる。目は開いていた。呼吸もしていた。ふくらはぎから血は出ていたけれど、そこまで深くはなさそうだった。テープの止血で間に合う程度の切創だった。
 だからこれはきっと、情動の鈍麻。被虐待児がよくやる防衛行動。こうなると中々戻ってこない。

「なるみ。成実、ごめんな。遅くなった。もうだいじょーぶ。怖くないよ」

 その頬に触れようとして、左腕には未だに刃が貫通していることを思い出す。根本から折ったから自由に動かせるし、そのまんまテーピングで固定してるので出血もない。ただ、その刃がかわいい妹の顔に掠りでもしたら危ないから。ロール部分がキリリと鳴る。慌てて背の後ろに隠した。
 ぼんやりと宙ぶらりんな瞳が、ゆぅっくりこちらを見た。その黒に笑っている自分が反射する。

「なるみ、兄ちゃんだよ。もう大丈夫だからな」

 ぎちり。後ろ背に隠したロールがまた鳴った。

「個性使えてえらいな。ちゃんと抵抗できて、えらかった」

 バキッ。少し前に自分の右足から鳴ったのと似た音がした。テープ越しにその振動も伝わる。

「おかげで間に合った。ありがとね」

 ぎち、ギリ、グググ。それでもロールがずうっと巻き取りを続けている。

「大丈夫、大丈夫。あとは俺が、なんとかするから」

 なんだかくぐもった悲鳴もした。耳障りだった。出処はどこだろな、と自分の腕から伸びるテープを辿った先。

「……だいじょーぶ。怖いのは全部、無くなるから。ネ」

 蜘蛛の巣のモニュメントにしたミイラ男が、絞まり続ける拘束に全身の骨を砕かれようとしている所だった。

「────ヒーローだ。通報があってきた。その手を離せ」

 えぇ、マジぃ?

「今さら、なにを助けに来たの?」

瀬呂兄
 瀬呂範太に成り代わった人。元の瀬呂くんの人格が……とか思ってる暇もないハードモード人生を送っている。そのおかげで色々できるようになった。
 重度のシスコン。妹のためなら人生(自他を問わない)とか賭けれる。

瀬呂妹
 完全なるオリジナルキャラ。これからも出張っていく。
 平均身長超過の兄とは違ってクラスの中で一番小さい。私服の兄に抱えられると本当に親子に見える。

父親
 DV虐待ネグレクトの役満。
 後から色々出てくるけど、とりあえず瀬呂兄に狂わされちゃった人。

母親
 幸せ絶頂期に夫をなくして病み散らかした。
 かわいそうではある。子どもの親になるのはまだ早かった。

ヒーロー
 ギリギリ間に合ったと言ってもいいかもしれない。人の個性を消せる。

— End —

Comments 29

徘徊者1 个月前
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あた5 个月前

…?、??、テープを体内にも出せるようになったっ????! やっっっっっっば!!すっっっっげ!!! さらっとヤベーこと言ってるんだけど????? なんだよ体内で骨強化できるって…引 ヒロアカ成り代わり好きで、腐要素につられて今読んでるけどめっちゃ面白い最高ですありがとうございます

カゲロウ(旧名:鏡 ユウ)8 个月前

相澤先生…

ばんそーこ9 个月前
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11 个月前

助けて相澤先生ェ!!!!(泣)

朔夜1 年前

SEKAI NO OWARI のANTI HERO 聴きました。僕は正義なんかなる気はないなっていう部分とか僕には守らなくちゃいけないやつがいる邪魔するやつは容赦しないっていう部分とかが本当にマッチしててぐっときました。ありがとうございました。

蒼星ノ月夜1 年前
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1 年前
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すてら1 年前
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ガルネーレ1 年前
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安吾1 年前
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める1 年前
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Sakuria
Where every work blooms
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