Novel2 years ago · 1.2w chars · 1 pages

ふたつ足のお茶会

ネギトロねぎとろネギトロねぎとろ

※捏造ならびに魔神任務や伝説任務のネタバレたっぷり。なんでも許せる方向け。 ふたつ足の尾ひれ、お茶会愛好家。 某メリュジーヌが可愛すぎる件について。今回ちょっと不思議な書き方をしてみました。書きたいとこだけ急ぎで。走り書きです生放送後にちょいちょい直します。 フリーナちゃんガチャ祈願のお茶会!!! キャラクターの解釈が確定していないので、ゲーム本編更新、内容によりマイピクに突っ込みます。 前回までのコメント、スタンプ、タグにいいねにブクマなどなどありがとうございます!糧です。 誤字脱字気が付いた時に直します。 「君はお菓子みたいだ。」 フリーナちゃんに言われたいんですよ私は。着席。正気を保っています。そこまで辿り着かなかったちょっと生放送見てきます!!! 追記 なまほうそうみてきたので ふやしたり なおしたり よみやすくしたり します したい。すくいは あります。

週にときどき、月にほんの数回。気まぐれなお茶会は行われます。ふたつ足を持つ尾ひれとお菓子好きの水神が主催のお茶の時間を止められるものは、この国ではひとりしかおりませんでした。

フリーナにとって彼女は、ともだちと言ってしまえば、たしかにともだちであるのでしょう。お茶にしよう、とどちらかが声をかければそこがどのような場所であろうと、何をしていようとも、時間すら問わず、喜んでお茶の時間を楽しむ仲であったのですから、そんな気まぐれな関係を友と呼んで良いのなら、友でありました。ふたりのお茶の時間には、お行儀が良すぎる作法もなければ、肩肘張ったこだわりなどもあまりなく。あえて譲れないこだわりはふたつだけ、フリーナは美味しいお菓子がないのをお茶会だとは認めないと主張し、ふたつ足を持つ尾ひれの主は美味しいお茶がなければお茶会じゃないと断言するところぐらいでしょう。

「おはようございます!フリーナ様。」
「ごきげんよう、フリーナ様。」

最近まったく見かけなかったちいさな彼女を引き連れたのは、ふたつ足の彼女です。フリーナの友である彼女たちがお茶菓子らしきもの片手に現れたので、これには公務に疲れていたフリーナもにっこりしました。

「ごきげんよう!ラーヴァ、カロレ。そんなところにいないで入ってくれて構わないよ。」

ふしぎなことに、今日はもう無理だ限界だと思った時に限って現れる彼女たちがいるのです。これは書類に目を通している場合ではないぞ、と机に広がっていた書類の束をささっと纏めてしまいます。

「最近見かけなかったからついに移住してしまったのかと思ったよ!」
「ここの水ほど落ち着くところはありません。スメールのオアシスも、璃月の軽策荘に、モンドの湖も良いところではありますが。」
「ラーヴァ様、気に入ってましたもんね。オアシスではのびのび泳いでもいましたし、それに璃月の……」
「聞き捨てならない地名がいくつか聞こえた気がするな」
「しー、よ、カロレ。」
「これは内緒でした、すみません。」

フリーナは椅子から立ち上がりました。お茶会を始めるよりも先にすることがありましたので、ふたつ足で立っている彼女の元へ駆け寄ります。

「ほら手を貸してごらん、ソファーまで連れて行ってあげよう。」

はずんだ足取りは喜びを隠さず、そうして差し出された手を見下ろしたラーヴァは微笑ましそうに淡紫の目を細めては、そのエスコートを受け入れます。手袋越しのフリーナの手はいつも、あたたかいものでした。ラーヴァは水神らしく振る舞うフリーナも、甘えたがりでお菓子をお腹いっぱい食べるフリーナも、どちらも大好きなのです。
いつまでたっても歩くのが下手なラーヴァの手を引いてくれる紳士がフォンテーヌにはたくさんいたので、ラーヴァは杖を選ぶ必要がありませんでした。もともと彼女は歩く必要がない生き物でしたので、杖を選ぶ考えも思いつかなかったのですが、並んで朝ごはんを作っている最中に気の良い同居人であるカロレとあれば便利なものを互いにあげていく中、歩きにくければ杖を使う、という考えを知りました。尾ひれを持ちながらふたつ足で身を着飾るラーヴァは、たしかに、杖があれば便利そうとは思いましたがフォンテーヌの紳士たちの手をかしてもらう理由がなくなってしまうのは惜しいものでしたから、杖を探すことはしませんでした。

「もちろん、この僕に相応しいお土産はあるんだろうね?」
「お土産は旅先から送ってしまったので後日届けにきますね。」
「楽しみにしておくとも!君はいつも僕に小さな驚きをたくさんくれるから。」
「今回は私も選んだんですよ、フリーナ様!」
「カロレが?楽しみが増えてしまったな。」

ラーヴァの同居人であるメリュジーヌのカロレはむかし、ヌヴィレットの下で働く敏腕メリュジーヌでしたので、ふたつ足の彼女の近くで年季の入ったトランクケースを大事に抱えておりました。古ぼけているが古臭く見えないのは、旅に適した革の鞄が大事にされていたからでしょう。カロレはメリュジーヌが持つには十分な大きさのトランクケースを両手でしっかりと持っていましたので、ふたつ足の秘書としての役目を立派にこなしているようでした。人の役に立つのはよいことだね、とフリーナは現在自分の部下ではなくなったカロレを誇らしく思いました。はたして自国に住み着いておらず、人らしい仕事もしていないふたつ足の彼女に秘書が必要か否かは、置いておくとして。
ゆったりとした大きなソファーに腰掛けたラーヴァがフリーナの手を離します。フリーナに預けていなかった方の手には、白い箱がありました。

「ところで、その手に持っているのは」
「想像通りの品ですよ。お茶にしましょう。」

ラーヴァが持ち上げた白い箱、目に入ってしまうのはとあるショップの青の刻印。新作のフェアリーケーキが有名なお店のものです。開店時間を決めていない気まぐれな店主のいたずら心によって、水神でさえ味わうことが叶わないめずらしいケーキでした。

「そ、それは、まさかあそこの!?ああ、いや、こほん、買えたのか、とても喜ばしいことだとも、早速僕に見せてくれないか。」

面倒な仕事は暫し置いておこう、と近くの机から部屋の隅の机にぺぺっと書類たちを退けた愛する水神に微笑み、ラズベリーにザイトゥン桃、さまざまなフルーツを使った愛らしいフェアリーケーキをソファーの前の長い机に並べていきます。ソファーに腰掛けたふたつ足の彼女の指先に合わせ、水元素のウツボたちがせっせと働き、カロレもふわふわの手でお茶の準備を始めました。カロレも慣れたもので、もはや職人のようです。両手に持っていたトランクケースはこの為にありました。これには、ふたつ足の彼女が愛するお茶会のひみつ道具がたくさん、たくさん、入っています。
何種類ものティーポットに、ティーカップにソーサー、ポットウォーマーもありましたし各国に行くたび増えてしまうコースターもあります、ティースプーンも気づいたら増えていましたが、いま数えてみると砂時計も多くなっているような。茶葉の入った缶も、おかしなことに、カロレが目を離した隙に。このロゴは璃月のお話が上手なお兄さんと盛り上がっていた茶葉のような。カロレはチラリとトランクケースの主を見つめますが、にっこりと微笑みを返されるだけでした。いつものことです。見た目よりも“たくさんしまえる“トランクケースも、いつものことでした。出会ったばかりの頃、このちいさな鞄からたくさんものが出てくるのはどうしてですか?と尋ねたカロレにラーヴァはひみつのトランクケースだから、としか教えてくれませんでした。いま尋ねても同じ答えが返されるのでしょう。

今回必要なものを必要なだけ取り出します。三人分ですが、もしかしたら一つ多めに。一つは主人のもの、一つはカロレ自身のもの、もう一つは水神専用のものを用意します。あとのひとつは特別なものを。完全に職人の手つきでした。ティーセットを選ぶふわふわの手に迷いはありません。

フォンテーヌに帰ってきた彼女たちがたまたまであった美味しそうなフェアリーケーキでしたが、机に並べられたフルーツやジャムで着飾ったちいさな宝石たちは目だけではなくお腹と心を満たしてくれるので、此度のお茶の席には必須であったのかもしれません。

「わぁ〜〜〜!最高じゃないか!僕は何個食べて良いんだい?」
「いくらでも。ヌヴィレット様に怒られるかもしれませんがあとで一緒に怒られましょう。フリーナ様はどれから食べますか?」
「王冠が乗ったやつにしよう!君が怒られそうになったら僕が守ってあげるとも!それと、あれもいいな、どれにしようか悩んでしまう……。」

一口入れてううーん!と美味しさに唸っているフリーナに彼女の笑顔は絶えず。ふふふ、とご機嫌な様子で紅茶を淹れます。トランクケースからカロレが出してくれた茶葉の缶を開け、すん、と匂いを確かめてから数秒悩み、視線を向ければカロレは別の缶を取り出し、また匂いを確かめ、こっちが良いと決めたようです。膝上でとん、とんとんと鍵盤を叩く動きをしていましたが、今度は開いた手のひらで水ウツボを撫でてから指を鳴らして水を沸かせ、お気に入りのティーポットを満たし、時間通り蒸らし、美味しく淹れられた紅茶を水ウツボたちは器用に水神の元へと届け終えます。自分の前とカロレの前にも。メリュジーヌの味覚は人間のものと少しちがいましたので、カロレ専用のものを。

「こら、君たちも楽にしてくれ。僕だけがお茶とお菓子を楽しむのは素晴らしいティータイムとは呼べないだろう。」

ぺりぺりと、別のフェアリーケーキの包み紙を剥がしたフリーナの視線に彼女は眉を下げ、そっと自身の足をスカートの上から撫でました。くるぶしまで覆い隠すスカートからは、踵の高い小洒落た靴との間に少しばかり肌色が見えていますが、ラーヴァにとって足とは、着飾るものでした。スカートはきちんとした布なのですが、人間のような肌も、ふたつ足も、そして町中を眺めては変えてみる靴も、これが良いと定めた彼女自身が着飾っている、まぼろしでしかありません。なので心ひとつで、ラーヴァはふたつ足を尾ひれに、尾ひれをふたつ足に、そのように見せることができました。
どこぞの青い猫型ロボットのように、ほんのすこーしだけ、ラーヴァは浮いていますので、本来であれば尾ひれのまま移動していることになります。便利そうですが疲れないわけではないので、ときどき紳士の手をかりたくもなります。尾ひれのものが陸を移動するのは楽ではなかったのです。

「それでは人が来るまで、少しだけ。」

透明な波は揺らぎ、スカートから覗く足が輪郭を変えていきます。まるで、魔法を目にしているようでした。フリーナは恍惚とした吐息を溢しては、美味しい宝石を一口、一口といただくのです。

「ラズベリー、いただきますね。」

水ウツボがフェアリケーキを頭の上に乗せ、ふたつ足ではなくなった尾ひれの彼女の手元に運びます。カロレのもとにはメリュジーヌ用にと、尾ひれの彼女が作ったスコーンがトランクケースの中から。虹色のクリームが乗っている可愛らしいスコーンはカロレの好きなものでした。

「ありがとうございます、ラーヴァ様」
「今回は美味しくできたと思いますよ。ぜひ召し上がって、カロレ。」

彼女が言葉と美味しい贈り物をくれるたび、カロレはいつも不思議に思います。ラーヴァが作ってくれる食べ物は、味覚が人と異なるメリュジーヌであってもいつも美味しいものなので。

隠されていた尾ひれは彼女の腰から下に、姿を現しておりました。室内に差し込むわずかな太陽光が鱗のひとつひとつをきらきらと輝かせていたのです。
魔法が解けるような、魔法をかけられたような、どちらにも見えるそのさまは、お菓子の包み紙を剥がすようでフリーナは気に入っています。フリーナが声をかけてようやく見せてくれる慎ましやかな尾ひれは、他の何よりも特別なのものですので。それこそ、彼女はこの国の、それも水神の、いや何よりも、この僕のものである、と法で定めてしまいたいぐらいには。ラーヴァはとても美しいいきものなのですが、彼女の生命は彼女だけのものであり、他の誰かが所有していいものではありません。着飾ったふたつ足を暴いては尾びれを鑑賞する、そのように彼女を所有しかけたフリーナをたしなめたヌヴィレットは、いつにもましてキレッキレでしたので、水神として振る舞うフリーナであっても、我慢するしかありませんでした。人ではない彼女は目を離した隙に他の誰かに奪われてしまうかも、と不安がるフリーナとお茶をしてくれるラーヴァはこうして何度もフリーナの元に来てくれるので、湧き上がる不安は湧いては消え、湧いては消えるものでした。
彼女を初めて目にしたとき、美しい生き物だね君は、と惚れ惚れしたフリーナは尾ひれを撫で回してしまったのですが、彼女は困り顔で、薄らと頬を染めてもおりました。はじらい、青い爪を揃えた指先はふるえるくちびるを押さえては、溢れてしまう息をごまかすためか、なんであったのか。「それは性的嫌がらせに当たるのではないかね、フリーナ殿。」というヌヴィレットの言い草にフリーナは「ぼ、ぼぼ僕はそんなつもりはないぞ!」と両手を天に突き上げ慌てて叫んだのでした。尾ひれを撫で回されたことなどなかった彼女は身を暴かれた乙女の如きありさまで、力が抜け陸に転がってしまったのですが、そんな尾ひれの主を見下ろし「責任は取るべきだと思うのだが、フリーナ殿」などと微かに愉悦が滲む笑い方をしたヌヴィレットはどこか、面白がっていたようです。フリーナが彼女に仕事を与えたのも、そのときでした。

ラーヴァはフリーナが見やすいようにとスカートを少々持ち上げてくれたので、どこにどうやって隠していたのか、ひみつの尾ひれは大輪の花に勝り、のびのびと陸を染め上げました。部屋の床を覆ってしまうことはありませんが、実際のところどれほど大きいものなのかを彼女が教えてくれたことはいちどもありません。
ひみつの尾ひれは、いままさに、海から陸へと姿を現したかのような、濡れている青さはちょっぴり艶かしく、色の濃さと淡さが混ざってもいた、それは彼女が常に水元素を操っているせいなのですがフリーナには何だか美味しそうにも見えてしまいます。

人魚は、海ばかりに棲んでいるわけではありません。川を好むものもいれば、町の中に住んでもいたのです。
彼女以外の人魚を目にしたことがフリーナはありませんが、特にここテイワットにあるフォンテーヌと呼ばれる国ではふたつ足を好み、人々やメリュジーヌとも呼ばれる彼女たちと暮らしておりました。

ふたつ足で着飾る彼女の名をラーヴァ。尾ひれのように長く広がりやすい髪の毛は胸の辺りで緩く束ねられ、そのリボンには水の神の目が。人の目を誤魔化す贋物ではありますが、いらぬ争いを防ぐ効果もありますので、ラーヴァは持ち歩くようにしています。

ラーヴァに近しい純水精霊は元素視覚を使うと水元素を纏っており元素生物であることがわかるので、ラーヴァもまた同じように、神の目を持ったものや七神は一目でラーヴァが人と異なる生き物だと知ることが可能でした。足に集中している水元素は異質で、彼女は常に水元素を用い、器用に尾ひれの形を変えています。
スカートしか履けない彼女のためにフリーナは、彼女が安らげるようにと大きめのソファーを置いています。ふたつ足の彼女は行儀が良いので時折ソファーで横たわるフリーナと違い、人前で横になったことはないものの、準備とはしておくべきものです。それに、こうして尾ひれを見せてくれるぐらいには仲良くなれていると自負しているので、いつの日か皿の上に横たわるデザートのような無防備さを見せてくれるのではと待ち焦がれてもいました。
新作のお菓子を手に会いに来てくれる友をフリーナは愛でておりまして、彼女もまた、先代と違い至らないフリーナを愛でてもいるのでしょう。

「それで、最近はどこにいたんだ?スメールに璃月だって?」
「数日前は、スメールに足を運びましたよ。」
「君が運ぶのは尾びれだろうに、何か新しい出会いでもあったのかい?」
「町中でぶつかってしまった男性が草の神の目の持ち主で、開花反応を少々。」
「それって、爆発……したのか……町中で?まさか……」
「かなり派手に。すぐ逃げましたね、カロレと。」
「あれはすごく困りました。治療費になるモラも投げておきました。きっと役に立ったと思います。」
「まぁ……君たちが無事で何よりだよ。」

相変わらずの珍道中。人と道理が異なるメリュジーヌとふたつ足の尾ひれの旅は、いつもそれなりに愉快なものでした。

和気藹々と旅の土産話を聞き、いつもより美味しいお菓子を満喫していると、このお茶の時間を止められる唯一のひとが部屋のドアを叩きました。

「入って構わないよ。」
「やはり此処か。」
「こんにちは、ヌヴィレット様!」
「ごきげんよう、ヌヴィレット様」
「ごきげんよう。ラーヴァ殿、カロレ。」

壁際の机に退けられた書類を横目に、呑気にお茶をしている彼女らを見つめ、ヌヴィレットは口を開きました。

「ラーヴァ殿、フリーナ殿を甘やかすのはやめていただきたい」
「あら、怒られちゃいましたね。」
「僕は甘やかされてなんかいないぞ!」
「ヌヴィレット様、お土産です!今回はとても高い山も登ったんです、凄く綺麗な景色でしたよ。」
「カロレ、元気そうで何よりだ。会えて嬉しく思う、これも、ありがたくいただくとしよう。その話はまた後で聞かせてもらおう。」

カロレがすかさずトランクケースから取り出したものは透明な瓶、中に入っている液体を見下ろし、ヌヴィレットはカロレからそれを受け取りました。賄賂に当たるものは受け取れませんが、お土産であれば受けとってもらえることを知ったラーヴァはカロレを通じて渡すようになったのです。各国の珍しい水を。

「これは、仕事中か。ラーヴァ殿。」
「はい、お仕事中ですよ、ヌヴィレット様。」

尾ひれを持った彼女には、フォンテーヌの水神にお菓子を届けるという大切な仕事がありました。耳にした人間が聞き返してしまうであろう、驚いてもしまいそうな内容の仕事です。ですがラーヴァはその仕事を誇らしく思っておりました、あの最高審判官のヌヴィレットも彼女の仕事の大切さを理解しています。水神の公務への意気込みがかなり変わる大事な仕事でしたので、お茶会を邪魔しに来る誰かに対し仕事ですと言えば、内容を詳しく知らされていない周りは、そうか、と引かざるおえない程度には。自信満々かつ、優雅に堂々と。内容を知るヌヴィレットは長すぎるお茶会を止めに来るたったひとりでしたので、止めようと思えば止められたのですが、手に持たされた瓶を静かに見つめます。すでに、受け取ってしまった品を。

「ヌヴィレット様も、少し飲んでいかれては?」
「いや私は、」

カロレのキラキラとした嬉しそうな雰囲気に気づいてしまったヌヴィレットは断ろうとした言葉をすぐさま飲み込み、時間がどれほど確保できるか計算し、頷いた。

「いただくとしよう。次の予定があるので、少しだけ。」
「ティーカップ一杯分のお時間でも十分です!続きのお話をしてもいいでしょうかヌヴィレット様。」
「もちろん、構わない。私も聞きたい思っていたところだ。それぐらいの時間はあるだろう。」

カロレがお茶の準備をするのを眺めているラーヴァは、突き刺さるヌヴィレットの視線を受け止め、苦笑いをしました。そこまで危険な目に合わせていないので許してくれませんか、と思いながら。

愛する水神に、ささやかなお菓子のささげものを。

ついでに、頑張りやさんで尾ひれはないふたつ足の彼にも、素晴らしい一杯を。

そして、優れた秘書の彼女にも、新たなお菓子とお茶を。

「ラーヴァ様は座っていてください、洗い物が増えます。」
「あら、ごめんなさい。座っていますね。」

トランクケースから水ウツボが出しかけたティーポットをしまい、お菓子だけを引っ張り出しカロレの近くに置いたのでカロレは仕方がなさそうに、けれど嬉しそうに笑いました。フリーナは、いつも仲が良いな君たちはと笑いながら呆れたように声をかけ、ヌヴィレットは微笑ましそうに、穏やかな笑みを浮かべて。

───────────────────

優れた秘書との出会い

命を断つ覚悟をしたカロレの姿を世界から隠した青のベールは、どこまでも美しく、それなのに、人々の目には見えないようでした。ゆらぎ、ゆらめく、波のよう。これは、おかしなことでした。此処は海ではなく、陸であったのです。陸を海とした主は、ふたつ足の尾ひれ。
広場を覆うどころか、天さえも覆い、むしろ、とぐろをまいている、とんでもない大きさの、青。

「なんて素敵なふたつ足。」

そんな言葉をかけられたカロレはキョトンとしてしまいました。かけられたことのない、言葉でした。民衆の喧騒は遠く、姿を消したメリュジーヌを探せと怒鳴る声も、だんだんと遠ざかっていきました。

「お嬢さん、どうしたの、そんな顔をして」
「私、どんな顔を、」

カロレは、人々が住まう町に来てから化け物やメリュジーヌと呼ばれることはありましたが、こんなにも柔らかく、レディ扱いをされたことはなかったので驚いてしまいました。石を投げられたことはあっても、傘をさしてもらえたことなど、ありません。メリュジーヌなど信用できない、共存など無理だと、出て行けとも、言われました。胸の奥がずっと、うるさいぐらいに鳴っています。けれどもそれは恐れでもなければ、怒りでもないようでした。もちろん、先ほどまでカロレの中に住み着いてしまった悲しみとも、違うような気がいたしました。

「ねえ、お嬢さん、お茶は好き?」
「お茶、ですか?わかりません。私たちメリュジーヌの味覚は、人と違う、そうです。なので私は、」
「では、一口だけでも飲んでみて。いやだったらやめてかまわない。ただ、私の好きなものを、すてきなふたつ足のあなたにも知ってもらいたいの。」

ものを見つけることが得意なメリュジーヌの目には、彼女の本当の姿が少しだけ、見えています。人でもなければメリュジーヌでもない。人のふりが上手な何か。尾ひれを波の向こうに隠した彼女はカロレの手を引きました。カロレはこれから、どこに行くのでしょう。此処ではないどこかなら、どこへなりとも、行ってしまっても良いとカロレは、本気で思っておりました。いなくなってしまいたかったのです。全て放り出して、でも逃げる勇気はなかったので、手を引く彼女が魔法使いのようにすら見えていました。
カフェのように見えるお家にお邪魔して、椅子を勧められて、お菓子にお茶にと、目の前に並べられたそれらにカロレは戸惑ってばかりでした。きちんとした礼儀作法がわからないからでしょうか、何をしても人に笑われそうで怖いからでしょうか。実は毒が入っているのではと怪しんでいるわけでも、ないのです。そのどれでもありません。カロレはお茶をしている気分ではなかったのです。いま、とても苦しくて、辛くて、美味しくものを食べることも、時間を楽しむこともできなかったのです。

「何に悩んでいるかはわからないけれど、すてきなお嬢さん。成し遂げようと決めた志を、たった一度の敗北によって捨ててはいけないわ。」

尾ひれを隠しているふたつ足の彼女は、カロレの行動を、人々に広がる疑いと罪の深さを、人と人ではないものとが共存しようと足掻くさまも、全てを見ていたのでしょうか。いったい、どこから、どこまで。カロレの行いは、敗北だったのでしょうか。カロレにはわかりません、メリュジーヌであるカロレには、何が勝ちで、何が負けかなど、考えたことがなかったのです。人の役に立ちたい、より良くしたいと思ったことはあれど、勝ったか、負けたか、なんて。

「これは私がむかし聞いた、誰かの素敵な言葉なのだけど、どうかしら。」
「私の今の現状が敗北であるのかが、私には分かりません、でも私のせいで、皆さんが、ヌヴィレット様が、それに、」

最後にころんと転がり落ちなかった、ある男の名前を飲み込んでカロレは目を覆い隠します。ふわふわの手が、しっとりとなってしまうのかは、カロレにしか分かりません。それを見て、ふたつ足の尾ひれもまた、眉を下げました。
カロレが、最初は嫌なやつだと思っていた彼が、カロレの行動は正しいことだと、間違ってはいないのだと、信じてくれていたのを思い出せたからです。明確な言葉など、なかった、それでも、カロレには分かるのです。石を投げられてもメリュジーヌたちがいる村に逃げ帰らなかったのは、もちろん親愛なるヌヴィレットがいることが支えでもありましたし、人々のために何かをしたいと思ったのも確かなのですが、カロレを試すように見つめる、彼がいたからなのかもしれません。きっと、不器用な言葉遣いは互いに、歩み寄ろうとしたのも同じでしたから、相棒らしく感情を擦り合わせて、仕事中に目があった瞬間なんて、意思疎通が叶った言語の異なる生き物並みに、喜んでいたのかもしれません。同じ目的に向かい、同じように、分かり合おうとして、分かち合おうとした、歩んでいる感覚が、あったから。

「わたしはあなたを救ってはあげられないけれど、一緒にお茶を飲むことはできるの。いつまでも、いつまででも。」

カロレにずっと優しい、名も知れぬ尾ひれの主はそう言って、カロレにハンカチを差し出すのです。
きっと、彼女は知らないのでしょう。メリュジーヌを覆い隠した青のベールが雨から庇う傘のように、カロレが美味しいと感じられるかもわからないお茶をわざわざ淹れてくれるのも、きれいな白いハンカチも、お菓子はいかが?と次々机に増えていく、お菓子だって、救いとなる可能性があることを、尾ひれの彼女は、知らないのでしょう。
真実、カロレを救えるのはカロレだけなのですが、救いに導くものは幾らでも転がっていたことをカロレはふと、気づくことができました。それは、お茶を一杯飲む余裕がなければ気づけないことであったのかもしれませんし、話を聞いてくれる誰かがいたからこそ、辿り着けた結論であったのかもしれません。

「お嬢さん、あなたはどうしたいのかしら。」
「ご迷惑でなければ、もうすこしお茶を飲みたいです」

カロレが思い切って口をつけてみたお茶は、人が飲んでいるもののように見えたのに、美味しかった。驚き顔を上げれば、ふたつ足の尾ひれの彼女が得意げな顔で机を指先で叩いては、水のウツボは悠々と泳ぎだしました。陸の上であろうと我が物顔で。

「美味しいです!どうしてですか?」
「ひみつがたくさん入っているの。おひとついかが?」

水ウツボがシュガーポットを差し出してくれました。シュガーポットの中は虹色の角砂糖がたくさん入っていましたので、ひとつだけティーカップの中に落とします。さらに美味しくなりました、あとふたつほど入れてみました。カロレは魔法の角砂糖を入れれば入れるほど美味しくなると本気で思ったので、たくさん入れてしまいたくなったのです。

「お嬢さん」
「私はカロレです、ぜひ、カロレと呼んでください」
「カロレ、ひとつ、提案があるの。」

こうして始まったお茶会は長く、ゆっくりと続きました。このお茶会を止められるものが近くには誰もおりませんでしたので、それはもう長く、長く、ゆっくりと。人ではないメリュジーヌと、人ではない尾ひれの主が満足するまで、それなりに、長い時間をかけて、ふたりはゆっくりとお茶を楽しむことにしたのです。

愛らしいふたつ足に尾ひれを絡めた彼女は嬉しさも隠さず尾ひれを揺らし、ぐるりと空間を覆う青に、わあ、とカロレは声を上げながら。

姿を消したメリュジーヌは、殺されたとも、自殺したとも。

そうして人は罪を犯し、海の底に。

ようやく見つけたヌヴィレットがかけた第一声はふたつ足の尾ひれには心外なもので。

「彼女を食べることはこの私が許さない」
「食べませんが」

このフォンテーヌで、ヌヴィレットの元からメリュジーヌをひとり隠し通した尾ひれの主は不満そうに机を叩く。青い爪先は鋭く、ぬるりとした尾ひれは長く、長い。

「とりこぼしかけたふたつ足を一つ、トランクケースにしまっておいただけのこと。怖い顔をしないで。」
「食べてはいなかったと?」
「お腹の中にしまっておいただけで、食べたと思われるのは心外です。」
「それはもう、食べているのでは?」
「食べてはいません。ここがいちばん、安全でしたから。」

バチバチと目で牽制し合う二人を交互に見つめるカロレは、自己を主張するように割り入って、事情を話したのです。

その後、彼女がどうやってラーヴァの秘書となったかは、今は語られない、別のお話。

ふたつ足で着飾る尾ひれ、ラーヴァ。
ふたつ足とお茶会をこよなく愛するもの。海底の魚よろしく目が悪いわけではない。ふたつ足の判定がガバガバとは言ってはいけない。
フリーナもヌヴィレットも、何ならメリュジーヌたちも、ふたつ足。スメールのふたつ足のアランナラに誘われてお茶会をすることもあれば、璃月の仙人たちとお茶を飲んでいることもある、だって鳥もふたつ足。見た目鹿は、よつ足なのでスルーしかけたが紳士であったのでお茶をしたこともある。紳士も好き。少女漫画展開を巻き起こしたり、しなかったり。とある監獄要塞の主とは……?

敏腕秘書カロレ。
とんでもねぇところで毎度お茶会をしているラーヴァの回収及び後始末を担っている。メリュジーヌが奇異の目に晒されぬようにと、外の国を旅する時はラーヴァに人の姿に見えるようなまぼろしを被せてもらっている。
ヌヴィレットの手でラーヴァの元から救出されたが尾ひれの主を忘れられず、自分がいた頃よりも人とメリュジーヌの距離が少しずつ近づいている大きな要因はヌヴィレットにあると察し、自分は表舞台から退くことを決め、ラーヴァの元に行きたい、何ができるかわからないが彼女の手伝いをしたいとヌヴィレットに申し出る。ヌヴィレットは娘を嫁に出す気分で、しぶしぶ、許可を出した。正直出したくなかったが、許した。悪い尾ひれではなさそうであった。監視はしている。
実は、罪を犯してしまった彼と再会していたりする。面会後、償うことを決めていた模範囚の彼は一生を終えるまで数回、カロレと会う機会が与えられた。カロレの恩人であるふたつ足の尾ひれのお茶会はその時代の監獄でも繰り広げられていたとか。

— End —

Comments 6

鈍琥珀2 年前
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2 年前
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コブタちゃん2 年前
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ニア2 年前
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ニア2 年前

大好きです!!!!!!!

朱里2 年前
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Sakuria
Where every work blooms
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