次も長旅になると教えてくれた旅人は璃月で気になる場所があるようで、直ぐには稲妻に向かわないらしい。稲妻に行く時は教えてねと頼んでみた。ずっとついていくことは難しくとも私の知る世界、故郷によく似た稲妻を見てみたい。
それに此処は未知の世界だ。行ったことのない土地、知らない文化に種族や人。テイワットには各地に眠る伝説と神々の話が散らばっている。思いもよらない宝物も眠っているんだろう。でも一番は、ドラゴン。竜がいるなんて信じられない。そういえばモンドの方にも足を伸ばしたいな、シールドを張れるようになったし隕石も落とせる。いつでもどこでも休める謎の鞄があるのでちょっとした遠出ぐらい出来そう。風神バルバトスと東風の龍トワリン、自由の都モンドは見応えがありそうだ。アカツキワイナリーのブドウ畑、清泉町の新鮮な肉料理、シードル湖にモンド城。旅の楽しみは尽きない。
旅人といると、話をしているだけでも胸が高鳴ってばかりだ。新たな発見があると楽しい。旅人がしてくれた冒険の話を思い出しながら、切り替えボタンを押すたび収納スペースや、旅人に教えてもらった洞天という空間に変わる便利な革の鞄を開き整理している。稲妻に行くまでに準備しておきたいものは幾つかあった、まずはモラが必要。冒険者教会で冒険者として登録をし簡単な依頼をいくつかもらって小遣い稼ぎをしている。
シールドを張ると戦闘がかなり楽そう。見ているだけだが、そう感じて呟いた私に旅人は、“心強い”、“安心する”と言ってくれた。神の目を持たず、あの時はよくわからない力であったのに。旅人自身も複数の元素の力を使えるからかあまり気にしていなかったし。これは、岩王帝君であり岩神モラクス、鍾離さんの力の一部のようだ。
ある日、私は凄いことに気づいてしまった。
柱を生やすこの技、鶏肉と魚肉にも困らないがあらゆる鉱石を秒で取れるのだ。ピッケルいらず。需要が高い鉄に白鉄に水晶は勿論、夜泊石に石珀と呼ばれる綺麗な鉱石たちには高値がつく。鉱石の種類によって鍛冶屋や冒険者教会で買い取ってくれる。
貿易の都で人々が交換するのは金銭と商品だけではなく知識や記憶、目利き、それから身分、役割と生活の交換もあるようだ。鉱石に関しては特に実感している、港に足を運ぶと商人にどうしても譲ってほしいと頭を下げられる事がある。生きてきた中で見たことがないほど美しい、もしくは珍しい鉱石を手にしている時があるらしい。私は目利きは出来ないが人の表情はよく見るようにしているので、変に買い叩こうとしているかはわかる。
相手の雰囲気と事情をよく見て、順当だと思う価格で取引をする。璃月の商人たちに言わせるとそれでも安い、良心的、だとか。
夢は5000兆円だが野望は秘めるものであり、人を貶めてまで5000兆円が欲しいわけではないので必要な分はこつこつ真面目に稼いでいる。
黙々とした作業は嫌いではない。キリの良い数字で保管しておきたいので、水晶を集めすぎてしまうたび、モラに変える以外の余り、今回は148個ほど纏めて旅人に渡したところものすごく喜ばれた。ありあまるほど欲しいらしい。
水晶のお礼にと、旅人が持っていた武器をいくつか試させてくれた。使い慣れているもののように扱えてしまう武器が多い。謎の神子パワーたすかる。大剣は大きすぎて、わりと振り回されてしまう。片手剣と弓は練習が必要そうだけど使える、やけに槍が手に馴染むのは気のせいだろうと意識を逸らした。法器は持った瞬間しっくりきたので相性が良い。金珀・試作、という武器を旅人からもらってしまった。生き物のようでかわいい、宙に浮く謎物体、しかも強い。回復もできる。お礼のお礼にはあまりならないが、料理を一緒に作りながらレシピを幾つか教えた。今度また面白いものを見つけたら旅人にあげたい。鉱石が取れる場所に、時間を忘れるほど綺麗な景色も。
そうしてモラをコツコツ稼ぎ、保存が効く食糧も買いだめ、洞天を豊かに改築し、畑を整え、ちょっとしたお茶を飲めるスペースなどを作り終えたところで想像以上に異世界を満喫している自分に気づく。ちなみに、鍾離さんとはあれっきりだ。稲妻に行きます宣言から遭遇していない。遠目に見かけることはあるがこちらから近づかなければ、向こうから近づいてくることはない。
「旅人!」
「元気そうだな〜!」
パイモンとハイタッチ。旅人にも手を差し出したところ、ハイタッチしてくれた。にっこり。稲妻へ行ける、という話を旅人に聞き、私のことを乗せてもらえるかは分からないが向かった先は璃月の港、随分と大きな船であった。
「船旅」
「アタシの船が気に入らないなら……」
「めっちゃ素敵な船ですね!ワクワクします!これつまらなくないものです。どうぞ」
「あんた、ずいぶんと話がわかるじゃないか。」
璃月の商人には決して譲らなかった老石を挨拶に渡す。笑顔で頷かれた。握手を交わした北斗船長が南十字艦隊、死兆星と高らかに告げたその船を見上げる。旅をするファンタジーなゲームはいくつかしていたが、どうしてこうワクワクしてしまうのだろう。楓原さん、という浪人の方にも出会った、独特の雰囲気があり話しかけにくい。のんびりしているが、かなり芯がある感じだ。挨拶をするときに軽く頭を下げると首を傾げられた。そういえばぺこりと頭を下げる挨拶は日本人特有、この世界では稲妻人特有なのだろうか。
旅人やパイモンに、稲妻に着いたらどうするんだ?なんて尋ねられ、実は学びたいことがある、とはっきり口にした。
「稲妻には神社があると聞いたの、そこでもし叶うなら、知りたいことがあって。」
璃月はテイワット一の貿易の港、あらゆる情報が揃う。稲妻は鎖国していたが、ちらほら、稲妻がどのような国かを探っていた。神社があると知った、龍神の神子の話があったりしないだろうか。
「お願いごとでござるか?」
可愛らしい言い方に思わずそちらを見やる。
「立ち聞きをするつもりはなかったのだが、これを落としていたのでな」
その手にある耳飾りを見て、パッと左耳に触れる。この世界にいた時からつけていた耳飾りだ。とある凡人と同じもので、最初から付けていたせいかつけてないと落ち着かない。自分の服がどこか凡人()の方と雰囲気が似ていることに、つい最近気がついた。
「楓原さん、拾ってくださりありがとうございます。」
「礼を言われるほどのことではござらぬ。」
左耳に付け直し、軽く首を振り落ちないことを確かめる。激しい動きをしても落ちない耳飾りがどうして落ちたのか、かなり不思議だ。何かに引っかかった記憶もない。
「お願い事というより、習い事、ですかね。知りたいこともありますが」
私の龍に神楽を奉納したい。遙かではおそらくメインイベント。テイワットでは私の伝説任務、って私はいったい何を言っているんだ。何はともあれ、璃月の神を降りた岩王帝君(龍)を労いたい、その一心だ。そのために稲妻に修行に行きたい。巫女修行に。
「学びのための旅でござるか」
「はい」
鎖国している稲妻まで行くとはよほど強い思いが。そんな目を向けられている気がしないでもないが、この心は強い。がんおうていくんはかわいい、ただし龍の姿に限る。
歓談している最中、バッと天を見上げる。何かに反応した私に旅人がまず警戒し、楓原さんは同じように上を見た。楓原さんは何気なく刀に手をかけていて、すぐに抜刀できる姿勢を保っていた。かなり強そう。
「ごめん、旅人。」
目を細めて、旅人を見つめる。歩いて話をしていたせいか人気の少ない場所にちょうどいる。いま、この場にいるのは旅人、パイモン、楓原さんだ。
何かに当たったように船が大きく揺れる。北斗船長が指示を出す声と、楓原さんが声がする方へ視線をずらし、物言いたげな様子ではあったがこの場からいなくなる。
旅人の視線だけがある、瞬間、黄金の光にあたる。その力に覚えがある。
「っ旅人、気にしないで」
今度はきちんと声をかけられた。手を伸ばそうとしてくれた旅人の旅を邪魔してはいけない、数歩後ろに下がる。これは私と私の神の問題だ。
「必ずまた!」
「おいらも会えるのを楽しみにしてるんだからな!」
いつか再会するために。そのための別れだと、誰かが言っていた気がする。そうでありますようにと私は願おう。旅人が大切な家族にも会えますように。凡人()の神子にどれほどのご利益があるかわからないけど。
「あなたたちの旅路が明るいものであることを、どこにいても祈るよっ!」
世界が揺れる。空間転移だ。きっと次に瞼を開けた時、そこには私の神がいる。
凡人として生きて行くと言ってたのに、どうして私を引き戻すのか。璃月はきっともう、大丈夫。何か心配事があるなら助けにはなりたいが私は少し、もう少しだけ時間が欲しかった。
「北斗船長と楓原さんに御礼と詫びを!突然いなくなってごめんなさい気にしないでくださいって!あとまた水晶集めたら届けに行くねッ次は300個目指すから詫び石!」
「ありがとう!!!!!!」
力強い感謝の言葉をもらった。
◇ ◇ ◇
璃月は、これからが楽しい。人の世になる。神の手を離れるが、神の手から転がり落ちたわけではない。神が望んで手放した治世。人々が望んだ、平和にしようと尽力する時代だ。
神の心を手放し、岩王帝君ではなく凡人の鍾離となった岩神モラクス。だが、岩王帝君の神子がこの先の世界に必要とされるかは神しか知り得ないだろう。
彼女は人民の為の神子ではなく岩神の為の神子であるから。
強制的に璃月と繋げる力技にどれほど彼女の魂が疲弊したことか。元から長くはない人の命を削りもしただろうに。璃月の神ではなくなった岩神の神子に、これからもどのような変化や異常が起きるのか。
前例のない存在を手の届きにくい他国へ送り出せるほど、凡人はできていない。目の届く範囲にいて欲しかっただけなのだが何が気に食わないのか、彼女に随分と距離を置かれている。岩王帝君の姿をやけに気に入っていたが、凡人の姿は彼女のお気に召さないようだった。
黄金の光を纏い現れたのは俺の神子だ。前回のように慌てる様子はなく、強い眼差しをしていた。
「本当に、稲妻に行こうとするとはな」
微かに笑みが混じりもする。彼女の信仰は眩しい。そこには璃月への愛があった。民も町も護ろうと行動したあの姿、神子らしいさまがたまらなかった。荒々しい原石にも似た姿だ。ただひたすらに何事かを貫かんとする意志は神の心を揺らす。
璃月より稲妻が良いと言うのか、彼女という存在は俺の為の神子だろうに、離れようとする真意は何だ。
「この目で見たかったんです。稲妻にも神がいると聞いて、モンドでも構わなかったけど稲妻は私の故郷にとても似ているので。」
「そうか、だが、直ぐに発つ必要はないだろう。旅は急ぐものではない。」
「……私は、璃月から出たら行けないんですか?」
「いいや。俺の神子であるならば、どこに行こうと構わない。」
隣神の役割を借りるわけではないが、人の身である彼女は自由でなければならない。自由であったからこそ成し得た事実があり残した結果がある。どこに行こうと構わないと言う癖に手放せない、一見矛盾した俺の目を見つめ、彼女が重たい口を開いた。
「私はあなたが死んだと思ったら、すごく悲しくて。」
璃月とそこに生きる民の為にとった行動の結果にまだ、納得がいっていないのか。腕を組み、無言で続きを待つ俺に彼女は続きを述べた。
実は死んでいないひとの死を惜しむ、その様は哀れであったか、いなくて悲しいと泣く姿を見て、感情は動かなかったか。六千年も生きてしまうと、そうもなるのか。
ぽつりぽつり、刺々しい物言いを向けてくる神子を見下ろしていた。
理解しようとしているわけではない、理解できるものでもないからだ。ただ、聞く耳を持たないのは別の話で、理解できずとも向き合う姿勢というものは対話において非常に重要だ。表情を変えず話を聞いている俺の目を見て、彼女は何だか、仕方がなさそうな顔で笑った。六千年生きて来た中で幾度も見た人間たちと同じような顔で、その人間たちが決して言わなかったことを口にする。
「いないのは、さみしいんですよ。」
俺がいないとさみしい、と神子は神に言う。
理解できないことは、ありすぎるのだろう。生命が命を喪うのは当然だ、幾度も見届けたのは寿命が違いすぎるからだ。頑丈さも異なる。当然の理に納得がいかないのは人間特有か。俺が理解しないと知っている様子だ、それでも対話を諦めない姿勢に好感を持っている。
「単純な損得や利害ではなくて。動く気配、そのひとのにおい、笑った顔に、何かを話すのもそう、同じ時間を過ごすのも。璃月の人たちがていくんを惜しんでいると知って、嬉しかった。璃月のことをあまり知らない外から来た人間なのに。」
消えてしまいそうな笑顔のまま。彼女がいなくなれば、俺はさみしいのだろう、と素直に考えてみることもできた。寂しいの度合いがかなり違うが。手放すつもりはない、また生まれてくるのを待っていれば良い。俺は彼女の訪れを六千年だろうと待てる。嗚呼、そうか、俺は寂しかったのか、気づくには遅い。喪ったものがありすぎた。多くの友も、そうだ。
「がんおうていくんがしんじゃったのが、かなしい。璃月の人々が惜しんでいるように、私も何だか、さみしい。」
「俺は死んでいないが、悲しいのか。」
「あなたはこの先を生きるけど、岩王帝君は死んだのでしょう。」
それはやはり、悲しいことなのだと思っている。神様がいらない人の世は、ちょっぴり切ない。まだ全然、立ち直れる気がしない。
言葉にせずとも、彼女の内側に立て続けに浮かんでくる思いは随分と熱烈で、やはり、目の前の生き物は俺のためのものなのだろう、と目を向けてしまう。
「……見過ぎです、鍾離さん。」
「そうだろうか。瞬きの間だろうと見逃したくないものがあれば人は、それを見続けるものだと思うが」
「そ、そうですか。」
“やはりこの凡人()にとって、私たちは瞬きの間の生き物なんだ。”手に取るように伝わってきた子供のような感情に、ふ、と笑った。お前だから俺は手放したくないのだが、そこはどうやら彼女に伝わってはいないようだった。
「今度は泣かないのか」
「私はたくさん泣いたのでもう泣きません……鍾離さんは私に泣いてほしいんですか」
「お前が泣けば、」
腕を伸ばす。囲うわけではなく、触れる為に。慰めが欲しいなら与えてやりたいと思う、甘やかして欲しいならとことん甘やかしてやろうとも思う。
「肌に触れることが叶うだろう?」
「叶わないです」
“この凡人()、かなり距離が近い。”心の中であろうとバッサリ切り捨ててくる神子に、ははっ、と声を上げて笑った。
◯ ◯ ◯
「これをつけておくと良い。」
贋作といっても精巧に作られた神の目、装飾品を渡される。どこにつけたものか、悩んでいればそこが良い、とつけられる。しゃらりと涼やかな音が鳴る、深いスリットが入ったスカート部分の背中側、腰の近く。落としたら気づきにくいやつです。
「岩王帝君の神子は何が出来るんですか?」
黒龍の神子であれば穢れに強く、怨霊の招霊や使役。
白龍の神子であれば穢れに弱いが、浄化や封印。
岩王帝君の神子は何が得意なのか、何気なく聞いてみただけだった。数秒、私の視線に何を思ったのか。鍾離さんは腕を組んだ。
「大抵のことはできるぞ、6000年も生きていると。」
私の龍神が凡人……?
何でもないことのように口にする凡人がどこにいる。ここにいます。
「大抵のこと」
「思いつかないか?例えば、」
「いえ大丈夫です大人しくシールドと隕石で満足しておきます。」
「そうか……だがその方が凡人の神子らしいか。」
「凡人の神子であっても出来ることが凡人じゃないッ!」
私の知っている凡人と何かが違うよ。
「お前が武器を欲していると人伝に聞いた。」
「はい」
なぜ知ってるんだろう。大したことじゃ驚かない姿勢でいたい。旅人にもらった金珀・試作は鍛造武器で、鍛造武器の作り方は少し特殊らしく、今度素材集めを手伝うよ、と声をかけると神様!と手を掴み叫ばれた。神子です。
「槍が欲しいそうだな。」
「……はい。」
使えそうな武器を一通り集めようと思い、集めていた。法器は旅人にもらったので、あとは槍か、片手剣か、弓。
「なぜ槍を欲しているかは聞かない。」
もちろんわかっているぞ、と言わんばかりの嬉しそうな声色に、そういえば鍾離さんの武器は槍だったか、と思い出した。お揃いが欲しかったわけではないのですが。戦ったことがないのに何故かしっくり来ただけです。
「使うといい。」
「あ、ありがとうござい………………ます。」
どこからともなく槍を取り出した。その槍は、見るからにレアリティが高そうな赤い槍である。
「護摩の杖、という槍だ。その手によく馴染むことだろう。」
普通に手に入らないであろう槍を受け取りたくないが、無言で見つめると無言で見つめ返されたので受け取る。たぶんこの槍、あまり戦わない神子が持っていいものじゃない。
旅人と行動していて、ほんの少し璃月を冒険して、気づいたことはたくさんあった。
「たくさんの贈り物も、ありがとうございます」
「何のことだ?」
「この鞄に、洞天、槍も。神子としての力も。」
「上手く使えるならそれで良い。相応しい者の手にあるのが最も良いと思っただけだ。」
気づいた、私の神様かなり過保護だ。ペロッ、これはセコム。岩神クオリティ。
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幕間『がんおうていくんと神子』
麒麟と龍を思わせる、尊くて美しい私の龍。
産まれてすぐの赤ちゃんが、天にか、両親にか、両手を伸ばすように。ずっと会えなかった大切なひとにやっと巡り会えたように。気づけばもう、近くにいたいと、あなたのそばがいいと走りだしている。
がんおうていくんだ。
『……愛らしいものだな。』
感慨にひたる吐息だった。しみじみと感じいっている、おおきな龍神に抱き付いている。走りだして突っ込んできた私を見て、目を見開いて驚かれてもいた。でも離れたくない。彼が、生きてる。こんなにそばで息づかいを感じる。下手に動かない龍の体は何だか、私をあやすようだった。機嫌なんて悪くないのに、なだめられている。私べつに、怒ってはいない。神がすることにいちいち腹を立てていたらきっと人間は上手く生きてなんていけない。でも、納得のできないことが多々あって、不服な気持ちが私の中に芽生えてしまって持て余しているだけ。他の誰かにぶつけていいものじゃない、この嫌な気持ちを噛み砕けば単純すぎる。はじまりは、そうだ。あなたに、会えなかったこと。会えたと安堵したら、死んでいたこと、実際には死んでなかったけど。
腕を回しきれない岩のような体も、何だか生きていた。そう感じられる。
驚いていた琥珀色の目は、死んでいなかった!
その喜びといったら言葉では表せない。胸の奥がぽかぽかして世界が涙で滲む。だってあなたいま、いきている。
『俺にお前の顔を見せてはくれないのか?』
くすぐったそうな声、手と体を少し離すとようやく下げられた、というような頭、琥珀色の目と、目が合う。あの日、初めて会ったあの体がぴくりとも動かないのは嘘だったのだ。こんなにも生々しく物事をうんと考え込んでいる目をしている。
彼は死んでない。璃月に岩神あり、と。その通りだった。つぶった目からほろほろ涙が出てくる。何故泣いちゃったの、私はいま嬉しいのか、悲しいのか。やっと会えて、触れられて、どうしたら良いのか分からなくなっているのは確かだ。
「がんおうていくんだ……!」
『叫ばずとも、……たとえ声に出さずともお前の声はよく聞こえている。』
胴体と尾、ぐるりと私を囲うように動かしたのか、包まれている。両手で龍の顔に触れてそのまま思いきって擦り寄る。地面がわずかに揺れたが気のせいだろう。背中側で何かが叩きつけられた気もした。尻尾が暴れ狂うとか、ないよね。うん、龍であって犬ではないはず。くっついているとやわらかくなんてないのに落ち着く。
『あまり泣いていては目が蜜のようにとけてしまうぞ、俺の神子』
「とめるからちょっとまって、私の、岩王帝君……ううん、私の龍神」
璃月あってこその、璃月のために在った岩王帝君だから、こちらの言い方が解釈違いを起こさないな、といつもの頭が戻ってきた。私の、龍。健やかでいて欲しい。
私は知っているんだ、遙かシリーズ、普通に神様も死ぬから。龍神も死ぬ。おそろしい。世界が壊れる音がする。あんなの絶望がすぎる。攻略しながらなんだこれ救いようがねぇクソッと床を叩いたこともある。死亡エンドは嫌だ死亡エンドは嫌だ。でもだいたい神子か龍神が何とかしてくれる、安心感が凄い。乙女ゲームなのに神子が一番男前の時もある。たまに一つの作品だけに出てくる神様もいた、それが世界に危機をもたらす元凶になったりも、人外が恋しちゃう四神エンドに歓喜したりもした。
『神子』
目を閉じた龍に擦り寄られている。
『お前の、か。そうか……そうだな。』
とても可愛いことしかわからない。甘えられていることはわかる。
『……お前の目から見て俺は、俺自身の責務を果たせただろうか。』
「勿論、いまの璃月を見たら分かります。」
『断言できると?』
「できます。私は人です。そこに住む人たちの居心地が良いか悪いかだって中に紛れて見ればよく分かる。人間って、そういうものです。」
なにを悩んでいるの。どうして気づかないの。そんな不安そうな顔をする意味が、もしかしたら、この世界にはあるのかも。それでも、この国だけで見たならば、あなたが護った民が、続いている国の現在が、すべてだ。
魔神たちの戦争があったと聞く。自分の人生を生きられない人がたくさんいたはずだ。寝るところや食べるものに困り、お金なんて意味もなくて、お金という物が存在すらしなくて、命が簡単に奪われていって。尊厳どうこう言えなかった時代があったんでしょう。
今の国を見て、あなたが選んだ先が、続いていく。そうであればいいと託した想いがある。今の人たちには、幾つかの選択肢がある、どうすればいいだろうと悩むことができる。自分に何ができるだろう、と見渡すこともできる。それがどれだけ恵まれているのか。個々の悩みは生きていく上でどうしても尽きなくて、それでも、だった。
彼が、彼らが、神や仙人や英雄たちが、礎を築いた璃月は、此処にある。
よく知らない私の目から見ても、璃月は美しい国だったんだよ、岩王帝君。
「あなたがすごいと思うし、あなたはとても偉いと思うし、あなたはたくさん頑張ったからもっと身軽に、好きに生きて欲しいと思ったのも、ほんとう。」
神子としての私と、ひととしての私がうまく、噛み合わない。それでも言葉にしないと伝わらないものもあるだろう。
この世界で長く生きるものたちが逃れられぬ摩耗、その現象を私はよく知らないが、疲れたならきちんと休まないと。報われるべきことを彼は成し遂げたのだから、余計に。
「私、あなたを愛してる。だから、こんなことを思うよ。」
璃月を愛しているあなたを、愛したい。この国のかみさまは、かわいい。がんおうていくん愛されるべき。いつくしみたい、かわいがり大事にしたい。慕っていて、大切だと思っている。他でもないあなたのしあわせを願う。あなたにしあわせに、なってほしいよ。あなたの幸せが何かも私は分からないのに。
私は、何故かたじろいだ龍を見る。
『……愛、』
地面を抉ったような音、龍の尾が這いずり回ってる、気のせいにしておけない変な音が背後からしている。神が困惑している。岩王帝君は見た目も整っていて優しくて凄まじく強いひとだ。言われたことはありそうなのにどうして体を揺らすほど動揺してるんだろう。私がまだ抱きついているので、彼はそこまで大きく動かずにいて。
『……おれを、愛、して、いる?』
おぼつかない声が呟いている。そういえば“声に出さずとも聞こえている”、と言っていたがどこまで聞こえてるんだろう。まさか心の中の声まで聞こえていたり、しないよね。プライバシーの侵害。セクハラ。私の龍のえっち。彼の体が大きく揺れた。心の中までバレているかもしれない。
「これは夢の中?」
遙かあるある、便利な空間。神様なら夢を見せるのも容易いだろう。
『お前はどちらが良い。』
「……夢が良い。」
鍾離さんに会わせる顔がない。龍の姿なら素直に言えるけど、人の姿だとめちゃくちゃ悩んでしまう。凡人で生きるのだと喜んでいた彼に、なら私は、龍神の神子らしき私なんて必要ないじゃない、って思う心が落ち着かなくて。
『凡人の俺にも会ってやってくれ。』
ぎゅっ、と抱き付く。返事をできない私の頭に、すり、と擦り寄る龍がいる。
『いつ、いかなるときも、ともにある。俺の神子。』
人の目には見えない位置、私の龍神がいる。一息ついて笑ってくれている、見えなくてもわかるよ、きっと優しい顔をしてる。
「私の龍神、ずっと愛してます」
おさわりOKていくんセラピー、毎日受けたい。大きすぎるくまちゃんに抱きついているような安心感。人をダメにするクッションの如し。
『……そうか、……ずっと?』
何かに引っ掛かりを覚えた声を、夢から現実へ浮上する意識が聞いていた。
『待ちなさい、ずっと、とはお前の生命が尽きるまでなのかお前の魂が消え去るまでなのかを正確に────』
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美しの荻花洲
蒼く澄んだ水面が空を映し、咲き誇る花は海にも勝る、荻花洲。
紹介しておきたいものがいる、と。散歩が楽しくて仕方がなさそうな足取りの鍾離さんが連れて来てくれた地は望舒旅館。いつぞや私が隕石を落としてしまった近くの場所。
いつの間にかエレベーターのようなものができていたり、階段が直っていた。ゆっくりと上がっていき、受付を通り過ぎたさらに上。辺りを一望できるすごく眺めがいいところ。旅人と来たときはこんなに上から見ることが出来なくて、見事な景色に思わずため息が漏れる。
「凄い」
手すりに掴まり景色に魅入る私の横、満足げな鍾離さんが口を開く。
「彼女は俺の神子だ。」
「御子」
振り返ると、そこには隕石を初めて落とした時に遭遇した少年がいた。人間ではなさそう、と思っていたのだが鍾離さんの知り合いだったのか。少年の尊いものを仰ぎ見る眼差しに、何かを勘違いされている気がしたので鍾離さんに話しかける。
「がんおうていくんの神子、ですよね。役目のために異世界から召喚される。」
「ああ。」
「ではその方は人間なのですか。」
「そうだ、だが……俺の為に存在する神子だ。」
目が合うと仰ぎ見る眼差しに変化はあったが、何を考えているかまでは分からなかった。鍾離さんが私を見下ろしてから少年を見る。視線の意味を理解したのか、少年は目を伏せている。礼を尽くされている気がして自然と背筋が伸びた。
「は、王難、賊難、火難、水難、羅刹難、荼枳尼鬼難、毒薬難の際は我が名を呼びたまえ。三眼五顕仙人、魈は此処に。」
「魈、く……さん。」
「我が身に敬称は不要です。」
少年の見た目に引き摺られ、くんづけで呼びかけるも、仙人、の響きに、さんをつける。けれど敬称はいらない、と言われてしまえばそうした方が良いのだろう。
「何かあれば、この魈を頼ると良い。」
鍾離さん、魈がそんなことは聞いていませんという顔をしてるんですが。頼るに頼れないやつですかこれ。
「……帝君の命とあれば。何かあれば我が名をお呼びください、疾く駆けつけましょう。憂いを絶ち、その身をお守りいたします。」
めちゃくちゃ強いシールドを張れる凡人()パワーがあるので頼ることはあまりなさそうだが、仲良くなりたい気持ちはとてもある。仙人、夜叉、興味があるのは勿論だが、何よりは岩王帝君を好きな仲間、同担の気配がぷんぷんするぜ。目を伏せて、此方も礼をする。頭を下げるのはやめておく。きっと嫌がるだろう。この数分でも分かった。
ぱちり、と人ではない彼の金目と目が合うと、眩しいものを見たような顔をするのが印象的で、やっぱり、もっとちゃんと話をしてみたい、と思うのだった。
◇ ◯ ◇
話が終わると魈はすぐにいなくなってしまった。彼から滲む黒い澱みが気になっている。璃月のあちこちにいた魔物にも時折、ああいった黒いのを纏うものがいた。
「不思議なひとです、魈。礼を尽くしすぎてる……この表現は変なのかな。」
そういえば、初めて会ったときに恩人である御方によく似ている、そう言われた。それってもしかしなくても、鍾離さんのこと、だったのだろうか。チラ見する。
「……彼は、此方の気遣いにたいそうな恩を感じ、返さねばならないものだと思うからな。」
「帝君は神様であるから恐れ多いのかも、しれません。」
「そういうものか。」
「そういうものです。」
魔物から滲む黒いものを封印したりはできなかった。私は黒龍や白龍といった龍神の神子ではなく、岩神の神子、今は凡人()の神子だからだろう。でも私が今も、帝君の神子であるなら。あの美しい龍の神子であれるなら。
「……私になにか、できませんか。」
向けられた視線は、たしなめるものではなかった。僅かに伏せられた琥珀色が憂いを帯びている。鍾離さんが教えてくれるのは、魈に纏わりついている黒いもやの正体。あれは、業障。殺生を重ねた行いの結果。ある意味、それは罪だとか、そういう表現をする宗教もありそうだ。神道で考えるとしたならば、つみ、けがれに分類されるだろう。神道において祓い浄める行為はとても重要視された。知らず知らずに犯した罪や積もり積もった心身の穢れ、悲しみや怒りに行いも、生きているうちにどうしても重ねていくものだから、定期的にそれを禊祓い、本来の姿を取り戻すための祭祀がある、とか何とか。そんな考えをどこかで見かけたような。冊子であったかそれとも小説の中か。
「お前は神子だ。神にできなくとも、人間にできることをすれば良い。」
「それって、別に、帝君が出来ないんじゃなくて、しないんでしょう?」
「お前はそう思うのか」
「出来ても、してはいけないことの方が神様には多い気がします。」
世界にはたぶん、面倒くさいルールがたくさんあって、人間が想像するより不自由なのが神だ。奇跡は起こせても万能ではない。私はそう思う。人間よりもたくさんのものが見えているから、人間よりもずっと考える事が多そう。
「たとえば、なんですけど、私たちの扱う言葉には力があるんです。」
「ほお」
「私の生まれ育った国は呼称がたくさんあって、日出処、葦原の中つ国、豊葦原之千秋長五百秋之水穂国。」
私はそれらの呼称を知ったとき、きれいな名前だと思った。何だか、嬉しかった。異世界に来ても胸の内に残っている、私の国。鍾離さんの目が細められたので、しんみりと思い出しそうなのをやめ、言葉を続けた。
「言霊の幸わう国。……語り継ぎ、言ひ継がひけり。力をも入れずして、天地を動かし、目に見えぬ鬼神をも、あはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、猛き武士の心をもなぐさむるは歌なり。」
こほん、咳払いをして自慢げに人差し指を立てる。
「私はもう、人世を言祝ぐ音の数々を知っているものでして」
私の知る言葉たちが神子と相性がよければ、きっと奇跡も起こせるだろう。目がきらきらしているであろう、わくわくを隠しきれない私に目の前の彼はふ、と笑い。
「お前がしたいように、やってみなさい。」
私の龍神が、そう言ったのだ。それはできない、と言わないのが岩神の答えだったのだろう。
◇ ◯ ◇
何処にいるのかが、何故か何と無く分かってしまった。隠れるように木にもたれかかっている。周りの空気が澱んでいた、彼から滲む黒いもやのようなものが見える。目の奥が熱い。体の奥から、抑えきれない何かが溢れてくる。
「魈」
どうか逃げないで、彼を目にした途端、そればかり考えている。伸ばした右手に金色の光が溢れるのがわかる。慌てて、両手を合わせて器を作る。神として信仰を得ているのなら、浄化を、出来るはず。この世界がどのような仕組みで成り立っているかはわからないけれど、私の知る龍神は出来ていたから、帝君にも出来るはず。龍とはそういう生き物だ。岩王帝君にできないことだとしても私が神を、浄化できる存在だと認識さえすれば、できるかもしれない。
「神子。」
人ではない彼の金の目は、私の愛した神と似ている。死んでほしくない、そう思えばきっと奇跡も起こせるよ。光は溢れて、どうしようもない。手で作った器は満ちる。
彼の安寧を言祝ぐなら。祝いの言葉を述べて幸運を祈るならば、これが良い。
「四海波静かにて、国も治まる時つ風。枝を鳴らさぬ御代なれや、あひに相生の松こそめでたかれ。げにや仰ぎても、事もおろかや。かかる代に、住める民とて豊かなる。君の恵みぞありがたき、君の恵みぞありがたき。」
彼らが護る璃月が平和であるという事。今までの先人たちにも、目に見えぬものたちにも、思いや思い出にも、誰かが残した何かにも、たくさんの感謝を。豊かさをどう考えるかにもよるし、人それぞれの形があるから何とも難しいけれど。これから先も共にあれますように、どうかそうでありますように、そういう祈りを込めて。
想いと意志は星屑のように溢れていた。手の上には黄金の光が満ちている。傾けてみると、座り込み、木にもたれかかっていた魈に降り注いでいく。見上げる彼の瞳の奥で光がチラついている。何だか祝福のようでもある。吸い込まれるように消えてしまう光は、いったいなんなのだろう。
「痛くは、ないですか?」
「なぜそのような不安げな顔をなさるのですか。」
ふ、と微かに笑われた。人ではないものがする尊大な視線、含みがあるような笑い方だ。
「……痛みはひきました。」
緩やかに垂れた頭に、私がすごいわけではなくて私の龍神のおかげなのだけども、と言おうとしたが、飲み込んだ。
命は等価ではないから、何かを殺して別の何かを生かしても、釣り合いが取れるわけがない。一は一だが、人により価値が異なる。犯した罪は悪業でしかない、成した善き行いは善行でしかない。彼を救いたくて彼の行いを否定することは、そこに救われた数多の命を否定することにも繋がる。それがすごく難しい。でもこの世には信仰があって、救済措置があって、祈りがある。
「魈の事もだけど、魈の先を祈ります。」
「我と、我の先を……?」
「あなたが守った者が紡いでいく物語を、あなたたちが護った国が描いていく未来の平穏を祈ってやまない」
どうしてそんな眩しそうな顔をするのだろう。あなたが成した行いが、返ってきているだけだろうに。ねえ、誰も感謝を捧げなかったの。そんなことはないはずなのに。こんな優しい夜叉に、誰かは祈りを捧げたはずでしょう。そうじゃないとあまりにも、救われない。見返りが欲しくてやった行いではないとしても、何かしらの対価がなくては緩やかに潰れるようにできている。
「私が語ったそれらはあらゆる先人が願ったもので、きっと未来に託した想いも、救いと言うんでしょう。」
岩王帝君が愛した璃月を、そこで生きる人々と仙人たちを。慈しんで何が悪い。開き直ってやろうじゃないか。彼の背負う苦しみが、死するそのときまで、少しでも、その運命を苛みませんようにと願って止まないのだ。
私の揺るがない視線に、彼は身じろいでから目を泳がしている。
「神子、帝君の姿が見えないのですが。」
「待ってもらっています」
機嫌良く茶でも飲んでいることだろう。彼の凡人は。行ってくるといい、そう送り出してくれた鍾離さんは真っ直ぐ屋台に向かっていた。鍾離さんは凡人ライフをかなり満喫している。
「我ではなく、どうか帝君の側に。」
「……すぐ戻ります、でも一つだけ、魈」
「────はい。」
「私の声は、どこまで届きますか。あなたの耳を揺らすのは、どの程度の距離でしょう。」
「璃月であれば、どこであろうと。我が耳が聞き逃すことはなく。……そのような言葉遣いも不要です。我は、そのように敬われるものではありません。」
「これだけ言っても通じていない……だと!?」
「……は?」
「とてもリスペクト、仙人も、帝君も、尊敬している気持ちを込めたんだけど通じてない?」
「……いえ、そのようなことは。」
また、垂れた。少年仙人の頭を撫で回したくなってきた。
「身に余るお言葉ばかりです。貴女の声も、我には過ぎたるもの。」
緩んだ雰囲気は最初よりもずっとマシだ。けれどまだ、全然、足りていない。岩王帝君といい護法夜叉といい働きすぎの可能性あるな。
やっぱりちょっと、仲良くなりたいとまでは言わないけど暫く感謝を捧げたい。ここに寺院を築こう。そんな気持ちなんだわ。
「呼んだら、すぐ来てくれる?」
「必ず。」
「私の洞天でも?」
「……帝君の赦しをいただければ。」
何故そんなところに、そう言う顔をされたが、気にしない。今度、洞天に温泉と滝、もしくは泉、仙人や神が休められる場所でも作ろうと決意した。凡人()パワーフル活用で作ろう。めっちゃ清いの作ろう。神々が休まる温泉ってそれつまり、一瞬脳裏を過った某映画ににっこりした。
仙人にもよく効く、薬草でも探す旅にでも出よう。薬草風呂っていいよね、ハーブの力。ぱわぁ。気軽に旅に出れるのがテイワットのいいところだ。冒険者という便利な肩書きもあることだしモンドにでも行ってみようかな、鎖国中の稲妻に近づけたくなさそうな鍾離さんの気持ちを汲もう。
「魈は璃月から出られる?」
「……我は璃月を離れることはできません……基本的には。」
「つまり、彼の許しがあれば良いってことだ。」
目が合うと、金の目は僅かに緩んだ。動物めいている返答に、頷く。
「手始めに璃月のあちこちに行きたくて、何かあったらすぐ呼ぶね。」
「はい。」
そろそろ魈を解放しよう。離れて鍾離さんがいる方へ向かおうとする私の数歩後ろを、ついてきている。振り返ると、不思議そうに首を傾げられた。
「神子は帝君の元に帰られるのでしょう。」
「うん」
「我が護衛を」
いやすぐそこ。数歩そこ。魔物に出会いようもない距離で着く。ツッコミを入れたい気持ちは、どこにも消える気のない少年仙人の目を見て、まあ、お願いしようかな、と思った。懐かれた気が薄っすら。


























やってくださるか教えて下さい。やってくださるなら色々妄想したやつ書きます