ハッと意識が覚醒した瞬間、自分の服が見覚えのないファンタジー要素マシマシ衣服に変わっていたことにまず身構えた。お前をもとの世界に帰すことはできない、とか、世界を救え、とか言われそう。無理です。断固拒否の姿勢を貫きたい。龍の鱗のような模様が入ってるスカート部分を摘む。アオザイやチャイナ服に似ているシルエットだ、動きやすいスリットが入っているが、下はパンツスタイルなので足を上げても中が見えることはない。黒や濃い茶色というのか、ところどころ白い部分もあり、色が奇抜なものではないので気品や優雅さを感じられて何だか中身までお淑やかになれた気がする。これがおしゃれの力。鏡がそこにあれば、これが……私……?をしたかったが、ないので心の中で喜んでおく。触り心地がなめらかで、安くないことだけはなんとなくわかった。汚さないようにしよ。
異世界トリップ、候補は女王、神子、救世主に聖女に魔女。何だ、あと何があった。キスよりすごい音楽、アイドル育成、は違うか。吸血鬼もあった気がするがそれは異世界トリップではない。悪魔な執事たちの方、幕末に飛ぶのもあったかな。
召喚された場所が何者かを模した塔、もしくは石像の近くであったのに、違和感が芽生える。不安ともいう。この世界を説明してくれる主要キャラクターがいない。最近流行りのあれですか、間違って召喚したパターンかな。己の力で生き抜いて行かなきゃいけない場合多分すぐ死ぬ。現代人に魔物がいそうな広大な世界、難しい。地図をくれ、文明の利器でも良い。サバイバルに役立つ知識を検索したい。火の付け方を必死に思い出しています、そこらへんの水をそのまま飲んだら危なかった気がする。
「所持品……?」
足元に落ちていた革でできた旅行鞄を手に取る。自分のものなのかの確信がないが、とりあえず触れてみる。その鞄、見覚えがある。鍵らしき部分にはいくつか切り替えのボタンが付いている。開いて、入る、例の、鞄じゃないか。よいしょと梯子を降りていき、ドキドキしつつ覗いてみれば小屋ではなく一軒家で、庭もあり、野菜が実っていた。水道も、使えそうだ。空中に浮かんでいる島に家は建っているようで、いくつもの島がありそうだ。開拓しがいがある。この鞄、中身はちょっと違うが、中が生活空間になっていて魔法生物がたくさん入る某映画の便利アイテムにとても似て、待てよ。
「これで勝てる」
野宿しなくて良い。ここはまさかマグルと魔法使いでドンパチやってる、あの世界なのか。それとも入学許可証が届いて魔法を学ぶために行く魔法学校があったりするのか。オラわくわくすっぞ。
頼もしすぎるアイテム、見た目よりも随分軽い革の旅行鞄を足元に置き、不思議な何者かを模した石像を眺め、とりあえず手を合わせておいた。信仰対象な気がする。郷に入っては郷に従え。なんか良いことありますように。人里に辿り着けますように。魔物がいるとしたら襲われませんように。誰かお助けキャラが現れてくれますように。ついでにありあまる富が欲しい。地位と名声と権力はなくてもいいので5000兆円欲しい。
清々しい気持ちで自然と閉じていた目を開いた私はこちらへと近づいてくる人物と目があった。
「こんにちは!」
「こんにちは!こんなとこで何してるんだ?」
浮いてるちいさないのちがしゃべってる。妖精さんかもしれない。ナビィやミドナみたいで羨ましい。
「実は迷子なんですが、近くに町はありますか」
「おいらたちもここら辺は詳しくないけど、どうする旅人?」
同じように異世界から来たが最初の国でなんやかんやあり名誉騎士となった旅人と非常食のパイモンが、とりあえず人がいる町まで行こう、と口にしてくれた。神か、拝んでしまった。戦闘能力があるのが頼もしすぎて料理だけでも手伝わないと、めちゃくちゃ張り切ってしまう。
「スライムは隠し味で入れないの?」
「おいらだってスライムは食べないぞ〜!」
「スライムは食べられないんだ」
スライムは食べられない、私、覚えた。いけそうなのに、残念だ。
七国、七神、テイワット大陸。幾つもある元素に、元素の力を扱えるようになる神の目。新情報の嵐に何とか食らいつく。トリップした初めは、どうして覚えることが多いのだろう。メモを取らせてほしい。もしくは見直せる機能、必要だと思います。時折出てくるスライムやヒルチャール、という魔物に片手剣で立ち向かう旅人が普通に強い。後ろでパイモンと見守っていた。ドラゴンに勝ったこともあるとか、そのドラゴン、もしかして私を呼んだ神様じゃない?死んでない?元気に生きてるの?一度会いに行きたい。違うとしても、生でドラゴンは見たい。野次馬根性丸出しでモンド観光をしたい。フランスやイタリアに似ていそうな風土は観光に丁度良い、魔物だけ何とかできたら楽しそう。自由を愛する風神にも会いたい、自由に生きられるなんて、どれだけすごい神様なんだろう。そんなことを言ったところ、旅人とパイモンに絶対会わない方がいい、と本気の目で言われた。チラッと酒を浴びるように呑む飲んだくれとか聞こえたけど気のせいかな。
望舒旅館に辿り着き、ちょっと見てくると言いながら道なき道をジャンプして登り始めたのを唖然と見送った。運動能力とコミュ力が鬼高い。あと優しい。旅人には探している兄妹がいるらしい、出会えると良いな、自然と思える程度には凄く良い人だ。運動能力がそこまで高くないので私は下で待つことにする。上は上でかなり気になるが、下も面白そうだ。
そう遠くはないところ、黒い霧のような、明らかに穢れ、瘴気っぽい何かが纏わりついている魔物がいた。凄まじく見なかったことにしたい。旅行鞄一つで勝てる気がしない。旅行鞄で戦う異世界トリップは斬新すぎる。目に見える、穢れ。まさかここは、遙かシリーズの世界か。龍神と意志を交わせる神子に突然選ばれ、異世界に召喚されるゲーム。何かしらの役目を果たさないと帰れないパターン。龍神は二柱いる、陽を司る白龍と陰を司る黒龍が。
どの時期に私が呼ばれたかわからないが、世界の危機に龍神や、龍神と神子に仕える星の一族が神子を召喚することもある。
黒龍の神子の場合は怨霊を呼び寄せる招霊と怨霊を操る使役の能力、穢れに強い面を持ち、白龍の神子は穢れに弱く補佐として八葉がつけられ、五行の力を借りて怨霊を浄化し封印する能力を持つ。
「巡れ天の声、響け地の声、彼の者を……封ぜよ」
恐る恐るにも程があったが、反応はない。滑った気がする。ウッ頭が。ちゅうにのこころが騒ぎ出す。
脳内にふと、美しい琥珀色の目が過ぎった。人とは異なる、蛇のような、龍のような、人外の目。私を見ている。“口にするべきはその言葉ではない”、と耳元で囁かれているようで普段使ったことのない言葉は紡がれる。使い慣れたもののように、なめらかに。
「──── けんにょばんじゃく」
堅如盤石。脳内できちんと変換されるよりはやく、向けた手のひらの先で柱が生まれ振動する。ヒルチャールは消し飛んだ。おっとこれは龍神の神子説が濃厚。私の知ってる神子と何かが違う気もするが多分神子(仮)であっている。
「岩山破蓄!」
試しに浮かんだ言葉をそのままなぞり、手を向けたところ、また岩の柱が生えてきた。これは強い。シールドのようなものが自分の周りにできている。色は金だ。やけに神々しい。ちょっと楽しい。次から次へと柱を生み出せそう。何気なく、瞬きをするついでに目を閉じると耳元でふ、と笑った誰かの気配。私の龍神様なのかな、期待を寄せてみると、“楽しいのか、それは何よりだ“、”こういうのもあるぞ“ともう一つ、教えてくれる。使ってみろ、と言わんばかりだった。また柱でも生えるのだろう、なんて軽い気持ちで。
「てんどう……天動万象!」
隕石が降ってきた。敵は石化し粉々になった。
私はシールドで無傷だ。何かが絶対におかしいよ。
立ち尽くす事しかできない私のもとに緑の光を纏って現れた少年が目を伏せて、片膝をついてから立ち上がった。
「申し訳ありません鍾離様、我の……」
言葉が途切れる。私も知り合いではないのでかける言葉に悩む、しかも隕石を落とす現場を見られたので黙り込んでもしまう。あれは違うんです、えいってやったら出たんです。誰も信じてくれなさそう。
食い入るように見つめられているので、素直にお喋りできない。上から下まで見られているが、性的な一切を感じないので平然としていられた。だがあまりにも鋭い視線に一歩引きそうになる。
「貴女は、我の恩人である御方によく……似ている」
悩みに悩んでいる言葉の選び方だった。話しながらも失礼がないか恐れているような。そこまで身分が高いわけではないので、話しにくくなる。人違いをされているのかもしれない。
「あなたの恩人がどなたかは存じ上げませんが私はここに知り合いがいないので、思い違いかと。」
「……そう、ですか。」
いま言ったことを信じていません。そういう目をしないで欲しい。嘘はついていない。真実しか述べていない。その顔は確実に訝しんでいる。そんなにも似ているのだろうか、その、恩人の方に。
「貴女は何故、ここに?」
意味ありげな人物だ。敵か、もしくは八葉。ありそう。実は終盤で味方になるタイプの八葉。ルート分岐が難しい奴。攻略サイト見ないでやるのが好きな人は手こずる奴だ。ワンチャン選択肢をミスると死んでしまう。大丈夫か私の対応、生きていてほしい。心底願う。顔と声となんか滲み出るもの全てがタイプです。ゲームなら沼ってた。
「実はあまりこの辺に詳しくなくて、旅に慣れた方に案内してもらっているんです。戦いにも不慣れなもので、助かっていて。」
「では我が、いえ、」
何かを言いかけた彼は口を閉じた。このまま話していれば、隕石を落としたとんでもない場面を流せそうなので続けることにする。
「あの、私に似た恩人の方というのは、」
目の前に現れた時のように、突然消え去った彼にギョッとする。
「こんなとこにいた、探したんだぞ!何してたんだ?」
「パイモンに旅人も!景色を楽しんでたよ!」
二人は思う存分、探索してきたようだ。お宝まっしぐらなパイモンに付き合いながらもわくわくしている旅人、宝箱を開ける楽しみはよく分かる。
名前も知らない、人間らしくない消え方をした少年、もし麒麟や四神だった場合、後で遭遇するのだろうか。四神ルートや麒麟落ちも好きだったから精一杯頑張ろうと思う。しかし目指すのはノーマルエンド。絶対にだ。誰にも落ちないが世界を救って帰りたい。遙かシリーズの場合に限る。私はいま切実に龍神か星の一族に会いたい。説明が欲しい。
「旅人、パイモン、見て欲しいものがあるの」
「何だ?」
「よくわからないけど、シールドを張れるようになりました」
実際にやってみせたところ両手を掴まれ、これで戦闘が楽になると叫ばれた。味方にまで張れるかわからないよ、と伝えてみたが実践形式で確かめると、シールドを張れました。シールドを張るのと隕石しか落とせないが即戦力のようだ。
「俺が私がパイモンが幸せにする、ずっと一緒にいよう。」
「おいらもか!?」
「おっと?」
旅人&パイモンルートがあるとは聞いてない。
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恩人である彼と同じ目をしていた。魈は遠ざかる女の背を落ち着かない様子で眺めていた。戦いの心得はないという、彼と同じ技を使い、気配もそうだ、滲み出る力も、間違えようがない。というのに、戦えないのだと、口にした。偽りはなかったように思える。何かを隠していたが、気に障るほどのものではなかった。
戦いの神と恐れられた、あの琥珀色に輝く龍の如き目が魈に向けられた時も、膝を折ることに戸惑いは覚えずその目が漆黒に変化した事で、ようやく別の“何か”なのだと察した。
彼は状況に応じて姿を変えると伝えられているが、どのような姿であろうと明るい琥珀色の目をしている。
彼とよく似た衣服に身を包む、人間の女。
あれは、何だ。
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この璃月という国で一番、人がいる町にたどり着いた時、文明を感じて感動を覚えた。旅人とパイモンは岩神モラクスに会うために訪れたという、その神に会える一年に一度の儀式があるらしく。
「神様が、人間の前に現れる?」
「おう!」
ファンタジー要素が強く心躍る。パイモンにどうするかを聞かれ、そういえば、私は迷子で近くの町にとりあえず行きたい、とお願いしたことを思い出した。ここまで来たのだから、旅人とともにその儀式を見に行くことにした。様々な話を聞く、この国で生まれ育ったが一度も見に行っていない者がいれば、専門家の人は商売にとても大切なことなのだと専門用語を挟みながら力説していて、温度差を感じた。
前へ行こうと声をかけてくるパイモン、旅人が前を進んでくれるので、その背中に続く。
香炉に宝石のような力が注がれ、琥珀色の柱は空へ伸びる。空から、岩の神が来るのだろうか、と頭上を仰ぎ見て、ふと、胸がざわつく。なにかが、おちてくる。
咄嗟に旅人と自分をシールドで覆おうとしたが、上げかけた手を下げた。目の前に降ってきたのは、龍だ。
琥珀色の目をした、龍が、死んでいる。
胸がざわめく。足に力が入らない、考えるより先に涙が落ちた。騒ぎが遠い。旅人とパイモンが声をかけてくる、どうしたんだ、と。
私の龍神が死ん……?
「ぁ」
口を両手で覆い隠す。ほんのすこしだけ息の仕方を忘れた。
遙かシリーズ、あまりにも路線変更がすぎる。まさかどこかで選択肢を間違えた?それとも私が探偵ですか?場所イギリス辺りにしない?八葉にシャーロック・ホームズがいる可能性出てきたな。ありよりのありです。とりあえず、落ち着いていこう、クールにね。作品によっては黒龍もしくは白龍の神子のパターンがあったが、別の龍神のパターンもあるのかも。新作かな。ようやく会えたと安心したところで、亡骸を見せつけられるのあまりにもクレイジー。心を折っていくスタイルね、把握した。そういうところあるよね。
殺されたという龍の名前を何度も群衆の中で聞く。立ち尽くして、途方に暮れて、目の前が真っ暗になる。ていくん、ていくんが殺された。
「がんおう、ていくん……。」
話すことはもちろん、触れることすら、かなわない。それはとても、悲しい。私は何故か会ったこともない神様にちゃんと会えなかったことで、泣いている。悔やんでいる、もうすこしはやく、来ていれば。
でも一言、物申したい。
がんおうていくんの神子は語呂が悪すぎる。
せめて二文字にして欲しい。黒龍か白龍、龍神のように。
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ファデュイ、公子、タルタリヤ。新しい情報をぼんやりと聞きながら、旅人と関係がありそうな話を流している。龍神の亡骸ショックがひどいのだ。
「随分泣いてるけど、大丈夫かい?彼女」
「大丈夫だ。」
しくしく泣く私を庇ってくれている旅人の後ろに隠れる。情緒がどうにか落ち着いて欲しい。神子としての私が子供のように泣き崩れたいのを、人間の私が抑え込んでいる、意地で。誰もいなければわんわん泣いてしまいたい。龍神が死ぬとこんなにメンタルに来るのか。しんどい。不摂生しまくったあとの低気圧と生理痛のタブルパンチぐらいしんどい。
真相を探る旅人とパイモンの遠出についていける気もしないので、璃月で待つことにした。視線を突き刺してくるタルタリヤさんが苦手なので、あまり深く知り合いたくない。チラ見でもしようものならすごい勢いで話しかけてきそうで一切そちらを見ないことにした。旅人とパイモンもめちゃくちゃ心配していた。人がいるところにいるように念を押される。宿がなくても鞄があれば寝泊まりはできるので、どこか安全な場所を探して、鞄の中の不思議な空間で休もうとした。
ぼんやりと歩いていると、その人に会った。何だか話しやすく、親身になってくれる人なので気を許してしまう。幸せになる壺を買う心理ってこういうことなのだろうか。どんな病気も治す怪しい水でも買いそう。
ぶつかりかけた人間に嫌な顔をせず、ぱちくりと瞬きを何度かしていたが、僅かに笑みを浮かべていた。
「何か、困りごとか?」
はくり、と息を吐く。親しげな雰囲気の男性に覚えはなく、ないはずなのだが、親戚であった気すらしてくる。なんだこの能力。旅人のコミュ力と似て非なるものを感じる。違和感がなく、近くにいるとひどく落ち着く。気づけば椅子に座り、仕事を無くしたサラリーマンのような憂いを背負い項垂れていた。そんな私の横には背筋がピンと伸びたその人がいる。往生堂の客卿、そう名乗った鍾離さんが。
「私、じぶんが、神子だと思ってたんです……」
変なことを言い出す自分があまりにも痛い。きっと彼には意味なんてわからないだろう。だが帰れないどころか、何故自分があのよくわからない場所にいたのかすら知ることができない可能性に震えているので、今だけは泣かせてほしい。あの石像、いったい誰なの。なぜ私はこの世界に呼ばれたんだ。聞き流してくれるだけでマシになる気がした。
目的がない旅って何。指輪を火口に捨てに行くとか、闇の帝王を倒すとか、米を育てるとか、インクで世界を塗り替えるとか、マスターソードを抜いて魔王を倒すとか、姫を助けに行くとか、なんかあるでしょ。あってもいいでしょ。旅人もいつまで璃月にいてくれるのか、私も旅について行こうか、それとも冒険者にでもなるべきか。まともに戦えないけど。シールドしか張れず隕石しか落とせないけど。
「龍が、しんで、」
もらくす、がんおうていくん、よくわからない存在でしかないのに、あれは、私と無関係ではないのだと私の何かが叫んでいる。手離すな、この糸を。引っ掛かりを手繰り寄せろ、と。考えることをやめたら、ダメなのだ。動けなくなる。考えすぎて、頭も痛くなる。これは前進ではなく、深みにハマっているからだ。ただ悲しむという行為は、時に怒るよりも疲れ果てる。
でも、とめかたがわからない。ほんとうにかなしいんだ。かみさまだという、彼は。あの龍を暗殺した者を探している七星という彼らにとって、岩神は、どんな存在だったのだろう。泣く人はいないの、死に様を見て、死を惜しむ人は、いないのだろうか。突然すぎて、実感がないだけなら良い。
一度も彼に会ったことがない私が、こんなにも悲しいのだから、彼ととても長い年月を過ごしたはずのこの国が悲しんでくれないと、嫌だ、なんて、自分勝手な思いが湧いている。
「何故、泣くんだ。どうか、泣き止んでくれ。」
人の心がわからないような物言いに少し笑う。突然意味不明なことを言い出した人間には、優しすぎる対応だ。私の涙を拭う彼の顔面力と声が強すぎて確実に主要キャラクターだと唐突に理解させられた。あまり頼るべきではない嫌な予感がする。止まれ涙。ぐい、と目元を擦った。
「……強く、擦ってはいけない」
やんわりと触れる指先が初対面の相手にする仕草ではない。尊いものにでも、触れるように。反射的に払おうとした手をやんわりと掴まれる。その目から、にげられない。不思議な目をしている。
「お前の肌が赤くなってしまう。」
目元以前に私の顔面が赤くなるわ。下唇を噛むことで耐えました。虚空を見つめるネコチャン顔をするしかない。こういう時、どんな顔をすればいいかわからないの。
「どこを見ている、俺を見てくれ。」
乙女ゲーム始まったのか。なにかがおかしい。違和感しかない。距離感。
「あの、」
「何だ?」
「かなり、近いです」
「……ああ、すまない。」
ふ、と笑われたのがいやで、そっぽを向いた。
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まだ数日しかいない、この璃月という国をよく知らないのにもう好きになっている私がいる。仙人と人間が築いた国。岩神が、守り抜いた土地。いまだ仙人が息づいていて、人とどう生きていったものか悩んでいる、“生きている国”だ。悩みは、進んでいる証拠だ。それは後退ではなく、停滞でもない。
旅人とパイモン、鍾離さんとともに、岩神を送りだす儀式を手伝っていたのだが、彼の亡骸を見ることになるとは。それも、神の心を奪うために仕組んでいたと断言した公子と戦うなんて思いもしなかった。相変わらず攻撃の一切を通さないシールドを張り続け、旅人をサポートする。戦闘が終わり、神の心が奪われそうになったその時。その亡骸の中に、心はなかった。偽物。
「────がんおうていくんが、死んで、ない?」
面白そうなタルタリヤさん、いやもうタルタリヤ呼びでいいと思う。渦の魔神を復活させた男はそう呼んでやる。この国の人と溺死するつもりならとめないけど、と言い出した。キレそう。許すまじタルタリヤ。今度会ったら遠慮なく隕石を落とそう。
渦の魔神から璃月を守るため、旅人とともに行こうとした私に、どこからか飛んできた黄金の輝きが当たった。ぐわんと世界が切り替わる。旅人、と声をかけるより早く、私の目の前には、何故か鍾離さんがいた。私は、どうしてこんなところにいるのだろう、近くに旅人の姿はない。空間転移、そんなこと、いったい誰が。
「ここは……?私、戻らないと」
「お前は行かなくても良いだろう。」
「どうしてそんなこと、言うんですか」
「戦えない者が戦場に行くべきではない。」
戦場、そうだ、戦場になるのだ。まだ、津波は来ていない。あのでかい魔神もまだ港に来ていない。目の前の人や他の人たちも逃げる時間がある。
「っ鍾離さんは、逃げてください!」
「何を言っている」
「渦の魔神がもうすぐ来るんです!今、旅人が前線にいて、それで、」
神の目を持たない私の力は、何の力かわからないのに、旅人は心強いと言ってくれた。このシールドは、安心すると。私も、そうだ。私の力ではないのだろう。このシールドも隕石も。安心するのはとてもよくわかる。私もこの琥珀色の光に包まれている時は、絶対に大丈夫だと思えるから。
「時間を稼ぎます、私」
「待て」
「護らなきゃ」
世の塵を払い、璃月の民を、護らなくては。だって契約を、したのだ。遠い昔に、護ると。
「天道、ここにあり。」
目が熱い。もっと深く、もっと、広く。私だけ守っても意味がない、鍾離さんだけ守れても意味がない。だって彼は、岩の神はきっと、民を護りたいはずだ。立派な町だけ守れても意味がなくて、国は民がなくては成り立たないもので、でも叶うならどちらも、守り抜きたいはずなんだ。だってこんなにも、素敵な町だ、素晴らしい国だ、こんなにも、“生きている”。活気付いて、住んでいる人が皆、生き生きとしている。
「────天理長駆、天動万象、堅如磐石、」
強い言葉だ。そうなのだと疑いもせずに信じてしまうほど、強い力が込められた言葉たちだった。私は、彼の力を信じている。死んでなんていない、あなたをこんなにも求めてる。爆発しそうな力を溜めに溜めて、一つに束ねていく。
「揺らぐことはなし!」
あなたが生きていてくれるなら、何だってできる。地を通じて全てと繋がった感覚があった。ゾワゾワとした慣れない感覚と、生きている民の、無数とも思えるほどの民すべてに、いま、護りをかける。魔神の攻撃を受けようと一度や二度じゃ破れないシールドを。護り切ることは無理でも、逃げれるだけの、盾を。きっと今なら、目の前にいない旅人にも届く。
ここにいま、生きようとしているものたちが、璃月の民だ。仙人も人間も等しく、生きていてくれるなら。
「これほど、使い熟すとはな……時に人間は神の予想を遥かに超えてくれる。」
目を覆われる。視界が真っ暗になる。耳元でする声はどこかで聞いたことがある。ふ、と嬉しそうに笑う彼がいる。
「少し眠っていてくれ。」
力が抜ける、急激に失われていく何かがある。揺籠のような腕に抱き留められた気がした。
「今の璃月にお前がいては差し支える。」
琥珀色の龍の目を見た。それが、意識がはっきりとしていた、最後の記憶。
───────────────────
璃月、仙人、人間。己の責務を果たしたか。喋っているその人を、ただ見つめている。私の姿を目にしホッとした顔の旅人に近づいた。そんな私に何も言わず、一度視線を向けたが、すぐ話に戻った彼の言葉を、聞いている。
ファデュイがいたからか、言葉を交わすことはなく旅人についていく。物言いたげな視線を背中と旅人、パイモンから感じたがスルーする。神を送る儀式に参加しよう。
そうして、神から人の手に璃月は渡った。
3700年の重みをおろした彼はずいぶん気楽そうで、楽しげだった。様々なことがあったのだが、目の前にいるその人をとても冷たい目で見てしまっている気がする。
「黙っていてすまなかった、俺の神子。」
チベスナ顔を許してほしい。あの時の涙を返して。
「あなたが、私の……」
私のがんおうていくん(龍のすがた)を返して欲しい。鍾離さんの馬鹿。もう誰も信じられねぇ、私は帰るぞ。帰らせてくれ。
「俺は凡人になったが、それでも俺の神子でいてほしい。」
凡人って何だっけ。なんだこの神様、私の知ってる龍神と違う。凡人(笑)がとんでもないこと言ってるのだけはよくわかる。凡人の神子なんて聞いたことがない。語呂はいいけどよく分からない。あなたが死んだと思い泣いていた私をどんな気持ちでこの人見ていたのだろう、マジで人の心がわからない神様だとしたら少しの間、距離を置きたい。この怒りがおさまるまで。
「ちょっとよくわからないので私このまま稲妻に行きます」
「何故」
とてもいい笑顔で旅人にくっついた。喜んでくれる旅人&パイモンルート、入ります。動揺している鍾離さんを見ないようそっぽを向けば、何とか視界に入ろうとしてくる凡人がいた。
嗚呼、確かに、その慌てぶりは凡人っぽい。
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ある本を読んだ。
龍神という神と、その神と在る神子の話だ。
様々な時代、どのような状況であろうと、龍神は神子の声に応え、神子もまた、時代が異なり空間の向こう側にいようとも応えるという。
俺はそれを読んだ時、こう思った。
俺にも神子がいるのだろうか、と。
俺が助けて欲しい時に応える声があるだろうか。
臣下とも友とも違う、神子。契約と似ているが相容れないものでもあろうその関係性を。
契約がなくとも神の願いを叶えようとする人間。そんな人間が果たして存在するだろうか。
ただ一つ、己の神の為だけに存在し、身が果てようともその神を愛するような、人間が。
俺は、忘れられなかった。一度読んだだけだというのに。
ただ、それだけの話だ。
帝君の神子であり凡人の神子。not旅人。
がんおうていくん(龍)の神子でいたい(願望)。
その後、帝君から少年仙人に紹介されたりもする。その後の後、ていくんのことがわからなさすぎて度々少年仙人の元に逃げ込む未来もある。凡人(笑)パワーの空間転移で稲妻キャンセルされた。許してない。
凡人(笑)
手離すつもりはない。王道ルート。ルート変更不可。
少年仙人
互いにぎこちなく親交を重ねていく。敬語が取れて歓談する未来があったりもするのだが、その時でさえおそらく神子と凡人()の間には理解しきれない壁がある。これは凡人()夢だが少年仙人との方が話しやすい未来が見える。何なら少年仙人ルートもある。
旅人&パイモン
旅人の性別は固定していない。ルートは存在する。
タルタリヤ
隕石が落ちてくる未来が待っている。ルートがあったりなかったりする。


























つまり倚岩殿は神泉苑だった…?大好きな作品同士の親和性に目から鱗でした。 先生のThe・神!といった人間の心の機微に疎い姿も最高です。 素敵な作品をありがとうございます!!!!