放課後、周りはあっという間に暗くなり街灯がチカチカと点滅していた。いつもなら迷わず家に直帰しているが、今日は本を買いに街に出ている。本とはいっても、この世界にはあまり娯楽用の本はあまり布教されておらず、殆どが歴史だったり剣術のことだったりと寂しい内容ばかりだ。元いた世界の本が恋しくなる。一時期は俺が書いた方が面白いんじゃね?と調子に乗り出版していたこともあったものだ。軽い黒歴史。
本を買い少しテンションが上がり浮足立っていると、どこからか金属同士がぶつかる音がする。
「街中で誰だよ......」
この世界では随分と聞き馴染みのある、剣での打ち合っている音だった。正直放置でもよかったし早く帰って本が読みたかったが、なんとなく気になってしまいそのまま音のする方へ建物の屋根を走りながら向かう。この辺りは道が入り組んでおり、遠回りになることを避けたのだ。決して途中で迷うのが怖かったわけじゃない。
音のした場所につく。すると、そこには黒ずくめのいかにも怪しいですと自供している格好の奴、そして義姉であるアレクシアが剣を握っていた。あいつまた変なのに絡まれてんな。
「もう諦めなさい。あなたでは私に勝てないわ、”シャドウガーデン”」
「?」
あれがシャドウガーデン?俺の知ってるシャドウガーデンと色々と違う気がするんだが。別部隊的なやつ?いや、どう考えても偽物か。
「我らはシャドウガーデン」
「さっきからそればかりね。罪のない人まで襲ってどういうつもり?」
弟を剣の実験体にする義理の姉は罪じゃないんですか! えっ?姉弟のじゃれ合いだろって? まぁ一理ある。姉弟の愛情表現はそれぞれだよね。そう、アレクシアとアイリスの俺に対する愛情表現、小町に対する俺の愛情表現なんて全くの別物だ。あぁ、なんか小町を思い出してちょっと寂しくなってきた。彼氏とか出来たりしてないよな小町のやつ。お兄ちゃん許しませんよ!
「それがシャドウという男の意思なの? あなた達の目的は何!?」
ここでまたもや新ワード。シャドウとかいう人物の名。まぁ流れからしてシャドウガーデンのトップだろう。てことは道案内金髪エルフの上司的存在か。俺と似ていると言われた存在......つまりボッチか?
そんなくだらないことを考えていると、アレクシアの背後に2つの影が現れる。そして、一人から脇腹に一太刀を受け血が吹き出し痛みで怯む。そしてもう一人が体勢を崩したアレクシアに剣を振りかぶる。
「お願いやめて。殺さないでぇ!!」
なんだそのわざとらしい命乞いは。早く帰りたいし、そろそろ降りるか。
屋根から勢いを付けながら飛び降り、アレクシアに迫っていた一人の頭を踏む。グシャッ!と大きな音を立て、地面にヒビを付けながら着地する。......死んでないよね?
「ハチマン!?」
「よう。随分モテモテだなアレクシア。なに、こいつらお前の婚約者候補?」
「なわけ無いでしょう」
座り込んでいるアレクシアを起こそうと数歩進み手を伸ばす。すると、踏みつけた奴が立ち上がり力任せにこちらに反撃しようとしていた。死んでなかったのね、随分と頑丈だ。
「まぁ、どっちでも良いけど」
伸ばした腕でアレクシアの剣を奪い取り、男の胴と足を分断する。剣を振り上げたままの上半身が前に、下半身は後ろに倒れ血溜まりが出来る。清掃が大変だなこれは。
「で、お前ら誰」
「......我らはシャドウガーデン」
「聞くだけ無駄よ。こいつらそれしか言わないの」
「ほ〜ん。随分なりきるのに忙しいんだな」
「? それってどういう......」
姉弟仲良く話そうとすると、偽物のシャドウガーデンの後ろから更に3つの影が現れる。まぁ、偽物を一匹見つけたら十匹はいると思えって言うもんな。面倒くさがりながらも剣を構える。が、その必要はどうやらなかったらしい。
「シャドウガーデンの名を騙る愚者よ.......。その罪、命で償うが良い」
「......シャドウ」
突如として現れ複数の影を薙ぎ払った一つの陰。そいつは、アレクシアが今お熱だというシャドウガーデンのトップである、シャドウだった。シャドウを見るやいなや、挟まれていた偽物は屋根に飛びそのまま逃げる。そしてシャドウもまた、そいつらを追おうと靴を鳴らしながら歩く。やっと......
「まっ、待ちなさい、シャドウ!」
これで帰れると思っていたのに。あの、アレクシアさん、やめましょ?貴方怪我してるしおれも帰りたいんだよ。もう首突っ込まないで大人しくしよ?
「あれから、ずっと貴方を探してたの。行く前に答えなさい。貴方の目的は何? その強大な力を何のために振るっているの!?」
「関わるな。何も知らないほうが幸せだ」
「国のためにも知って置かなければいけないの! 貴方は味方なのか、それとも......!」
「敵だと言ったら、どうする?」
シャドウは殺気を込めながらギロリとこちらを睨む。アレクシアは少し怯むが、片手を胸に当てながら一歩踏み出した。
「たっ、戦うわ! 今は敵わなくても。アイリス姉様と、ハチマンの危険になるというなら必ず私が!!」
なんともまぁ、王女らしくもない回答である。そこは嘘でも国民のためと言うのが定石ではないだろうか。シャドウはそんなアレクシアに目もくれず、立ち去ろうとしていた。
「あっ、シャドウ......さん? もしアルファって人知ってたら、お礼言っといてください」
「......貴様は」
「ハチマン・ミドガル。一応ミドガル国の王子ってことになってます。拾われで落ちこぼれですが」
「......ハチマン・ミドガル。貴様は光と陰、どちらにもなり得るだろう」
それだけ言い、シャドウは最初からそこにいなかったかのように、静かに消えた。
「震えが、止まらないわ。シャドウ、貴方は本当に、何者なの......?」
興奮状態から覚めたアレクシアは手を震わせ、月を見上げていた。
「アレクシア、剣」
「えぇ......」
どこか上の空のアレクシアを連れ、家へと帰る。
「......なぁ、アレクシア」
「なに?」
「道、分かるか?」
「......180度回転することをおすすめするわ」
数日が経ち、アレクシアは未だ完治していなかったが、それでも私生活には特に支障はなかった。だが本人は剣が振るいたいと暴れる。
だが、それには理由があったのだ。それは......。
「さぁ、今年もブシン祭選抜大会が始まりました。エントリーされた皆さん、魔剣士として礼節を守り力を尽くしましょう。どうか......どうか皆怪我の無いように」
この学校の恒例行事、ブシン祭への出場を賭けたトーナメント大会の存在だ。ブシン祭とは2年に1度、国内外問わず腕利きの魔剣士が集まる剣術大会であり、これは学園から誰が出るかを決める為の試合なのだ。相変わらずの猫かぶりを披露し演説するアレクシア。これは家に帰ったら愚痴を聞かされるな。てか八つ当たりされるだろうな。
「準決勝! 2年生クレア・カゲノー対1年生ハチマン・ミドガル!」
義姉を差し置いて、義弟の俺が出場してるんだから。えっ、ここまでの試合見てねえぞって? なんか、対戦相手全員欠席してたんだよね。つまりここまで不戦勝で来た。そのたびに降り注ぐ観客からのブーイングと怒りのオーラを出すアレクシア。試合してたほうが苦労は少なかった気がするが、まぁいい。
そして準決勝の対戦相手は天才と持て囃されているシドの姉、クレアさんだ。初戦から重い、重すぎる。あいや体重じゃないよ? だから心読んでこっち睨むのやめてください。
ちなみにシドも出場してたが一回戦で生徒会長でありアイリスに次ぐ腕前の持ち主であるローズにボコボコにされてた。
「久しぶりね、ハチマン君」
「......どうも」
「あれから、剣の腕は上達したのかしら?」
「まぁ、そこそこですかね」
「シドとは仲良くしているかしら?」
「まぁ、そこそこですかね」
「......あなた、真面目に聞いてる?」
「まぁ、そこそこですかね」
「......はぁ。まるでシドみたいね」
「剣の腕は義姉の助けもありだいぶ上達しました。シドとは放課後、お互いの姉たちのことを語り合うほど深まっております!」
「そんなにシドといっしょにされるのが嫌かしら.....?」
嫌に決まってんだろ。とは口が避けても言えない。言った瞬間頭と体が分かれることになる。一応剣は刃を潰されて切れ味が悪くなっているが、この人ならやってのけそうだ。後、アレクシアの視線が痛い。さっさと終わらせろと言わんばかりの目だ。そのうち噛みついてきそう。
「話はこのくらいにしましょうか。貴方の姉がいつ限界を迎えるかわからないし」
「うっす」
お互いに剣を構えると、先程まで騒いでいたギャラリー達が静かになる。
「行くわよ」
最初に仕掛けたのはクレアさんだった。地面が凹むほどのに強化し踏み込んだ速度は、殆どの生徒が目で追うのがやっとだろう。その速度を最後まで保ちながら俺の胸に剣を突き立てようとする。だが......
「よく止めたわね」
「目は良い方ですので」
キィンッと刃が振動し会場に響く。足に魔力を集中し腕への魔力が疎かになっていたから受けれたが、そうじゃなかったら俺の剣が折れていた。
「なら、これはどうかしら!」
クレアさんは、俺の剣に滑らせるようにし剣を持ち方を整え、そのまま打ち合いに持っていく。縦、横、斜め、あらゆる方向からの斬撃を放ってくるクレアさんはとても楽しそうな表情をしていた。ペースが上がってくるに連れ観客達も盛り上がる。先程まで睨みを聞かせていたアレクシアもじっと試合を見ていた。
「あなた、受けるばかりでまるで攻めてこないわね」
「受けるので手一杯なんですよ」
「そんな涼しそうな表情をしてよく言うわ、ね!」
クレアさんは剣を振り下ろした為剣を横にして受けようとした。だが、それはフェイク。掛かったと顔に出しながらクレアさんは身を屈め魔力で強化した足で俺の足を払う。体に浮遊感が訪れるが、それだけじゃない。上からクレアさんの渾身の一太刀が迫る。このままでは入院コースまっしぐらだろう。審判は焦り口を開き終了の合図をしようとしていた。
が、それよりも早く俺は動く。まず剣を逆手に持ち床に刺し、それを支えにし迫りくる一太刀に回し蹴りを繰り出た。まっすぐに振られた剣は横からの衝撃に耐えることは出来ず、一振りを終える前に刀身は砕け空振りに終わる。俺は回し蹴りの勢いのままクルリと回転し、刺さっていた剣を抜きクレアさんの首に添える。
「.....まさか、最初からこれを狙って」
「たまたまですよ、たまたま」
「はぁ......。私の負けね。審判」
この人ならば剣が折れてもなんとか噛みついてきそうなものなのにあっさりと敗北を認めたのは少し意外だ。呆気に取られていた審判に声をかけ、準決勝は終わった。
決勝戦。出場者は王家に拾われた落ちこぼれの1年生、ハチマン・ミドガル。相手は、現在この国に留学中であり学園の生徒会長、そしてアイリスに次ぐ天才と言われたローズ・オリアナ。ハチマンは準決勝にて実力者であるクレア・カゲノーを倒した異端者。だが、相手はが悪い。そのクレアをも超える才能の持ち主であるローズの勝利に終わるだろうと、誰もがそう思っていた。
決勝戦開始の合図が鳴ると同時に大きな金属音が響く。そして、その音が止む頃には......
「......参りました」
もう、試合は終わっていた。誰もが目を疑っただろう、この光景を。
無抵抗のまま剣を弾かれ首に剣を当てられているローズの姿を。
「ハチマンってあんなに強かったかしら......?」
今日の試合を思い出しながらアレクシアは素振りを行っている。最近は毎日のように自分と打ち合いをしている義弟にそれほどの実力があったことをその時まで知らなかった。調子が良かっただけ? それとも隠していた? なんのために? 今抱いているこの感情は? 怒り? 嫉妬? 答えは、歓喜だった。様々な疑問が押し寄せる中、一番に出たのは喜びの感情。それと同時に誇らしかった。周りから落ちこぼれだと、拾われ子の分際でと言われ続けた義弟が今日、次々に天才達を上回ったのだ。今の時代にはそぐわない、古臭く、ただ努力の積み重ねである、落ちこぼれと言われた自分と同じ剣で。
「ふふっ」
「えっ、怖っ。なに急に笑ってんの?」
「あら、いつからいたの? もう待ちくたびれたわ」
「飲み物とタオル持ってきたんだよ。ほれ、アレクシアの」
「随分気が利くじゃない」
「これも専業主夫になるための一歩だ」
「私の?」
「そいやそんな話あったな......」
つい最近の出来事のはずなのに、妙に懐かしさを感じる二人。無理もない。王都襲撃にアレクシア誘拐など、色々な出来事が起こりすぎていたのだ。
「そういえば、あなた魔力使えたのね」
「......まあな」
汗を拭き水を飲みながらアレクシアは気になったことを聞く。ハチマンは今まで魔力を使わなかったのだ。訓練時でも、試合でも、人前でそれを晒すことは一切なかった。それを決勝戦にて使ったのだ。長期的に魔力を使わなかったとは思えない練度で。
「ねぇ、なんで勝ち進んだの?」
「剣術大会にでたかっt「嘘ね」おい、早えよ」
「面倒くさがりな貴方がわざわざそんなことするわけないじゃない」
「いや、まぁ否定はしないけど」
どこか言いにくそうなハチマン。追求したい。でも、それ以上に今は剣を振りたかった。アレクシアの望みはこの古臭い剣術を極めること。その近道となるのはハチマンの存在であると確信しているのだ。
「まっ、言いたくないならいいけど。ほらさっさとやるわよ」
「今日はもう疲れたんだけど......?」
「今まで手抜いてた罰よ」
「......わぁったよ」
意気揚々と剣を構えるアレクシアに気だるそうに剣と目線を向けるハチマン。そして、義姉弟は剣を合わせる。開始の合図は、必要なかった。





















