平穏無事に大学を卒業して就職した。しかし、その先は新月の夜の墓場よりも真っ黒なブラック企業。週7勤務のほぼ残業。6時出勤23時退勤プラス残業。おかげで人間ドックにかかれば全てが危険判定。それでも問答無用に働かせる会社ってばほんっと滅びろ。
こんなことなら雪ノ下建設にすりゃ良かった…悪寒がしたからやめたけど、今では後悔してる。心の底から。転職してやろうかしら…
かと言ってやめようとすれば無茶な仕事を余計に増やされ有耶無耶にされる。どないすればええねん。そんなこんなで28歳。良くもまぁここまで生きれたもんだ。深夜2時に帰るに帰れず今日も今日とて会社に寝泊まり。もはや会社に住んでると言っても過言では無い。毛布を被って敷いたダンボールに寝転べば襲ってくる眠気。
あー、疲れた…もうヤダこんなの…
《確認しました。疲労耐性スキル獲得。成功しました》
今日は12月25日。リア充共はキャッキャウフフと楽しんでるだろうな……砕け散ればいいのに
《確認しました。ユニークスキル『破砕者』獲得。成功しました》
暖房も止められて、クソ寒いし夏場はクソ暑い…我ながらなんでこんなとこで働いてるの?オラもうこんなのは嫌だァ!
《確認しました。対熱耐性を獲得、成功しました。続けて対寒耐性を獲得、成功しました。両スキルを獲得したことにより熱変動耐性を獲得、成功しました》
ってか何が悲しくて年下からアンデッドだなんだと揶揄されなきゃならんのだ。お前らだって立派な死体だろうに…アンデッド歴は俺の方が上だけどな!
《確認しました。アンデッドの身体を構築、成功しました。上位アンデッド、アークヴァンパイアの身体の構築に成功しました。それに伴いエクストラスキル『吸血』『血液操作』『霧化』『眷属作成』『自己再生』を獲得しました》
(会社に)引きこもりだからって日光に弱いとか笑ってんじゃねぇよ。帰れるだけお前らマシだと思いやがれってんだ。銀髪ショートヘアおとこの娘と眩しい太陽の下でテニスしたい……はっ?!なんだ今の…
《確認しました。日光耐性を獲得、成功しました。日光耐性獲得に伴いアークヴァンパイアからデイウォーカーに進化します。成功しました。それに伴い『自己再生』をエクストラスキル『超速再生』に進化します。成功しました。続けてエクストラスキル『痛覚無効』を獲得、成功しました》
というかさっきからうるさいんだが?寝させてくれよ…抑揚のない自動音声みたいな…AIなの?脳にAI飼ってるとかなんてアニメ?
《告、AIに該当するスキルが確認できませんでした。代行措置としてミズガルズの記録に接続し、スキルを作成します。成功しました。ユニークスキル『大司書』を獲得しました》
あっ……急に眠気が…おや( ˘ω˘ ) スヤァ…
《『大司書』よりーーーーへ、個体名『比企谷八幡』の記憶を参照しユニークスキル『強欲者』の取得を申請》
《ーーーーより『大司書』へ。当該申請を受諾、ユニークスキル『強欲者』の獲得…成功しました。並びに精神干渉耐性を取得、成功しました》
「ふんふんふーん♪…ん?なんじゃこやつは?おい、起きんか。おい、おい…起きろと言うておろうが!」
「んがっ……はっ!?ここは誰!?私はどこ!?」
「落ち着かんかたわけ」
「カタストロフッ」
急なことに混乱したら銀髪美女にはたかれた件
「同胞よ、ここを妾の寝所と知っての狼藉か?」
見渡せば豪華絢爛な広い部屋。俺はその部屋にあるどデカいベッドに座っていた。マジで訳が分からん。なんでぇ?
「えっと…き、気づいたらここにいて自分でも何がなんだかわからないです、はい…」
「ふむ…」
考え込むように顎に手を当て無言になる銀髪美女。絵になるなぁ…マジでここどこ?
《告、ここは夜薔薇宮と呼ばれる吸血鬼の都です》
びっ……くりしたぁ…なに?なんで音声が頭の中で再生されるのん?
《私はユニークスキル『大司書』としてマスターである種族名デイウォーカーに必要な情報を提供しています》
お、おう…よろしく頼む
「その様子から察するにお主は生まれたばかりとみた」
「生まれたばかり?このなりで?」
「…それに転生者か、厄介な」
「転生者…?んな訳ないだろ。俺は仕事に次ぐ仕事で疲れて仮眠とるために寝て変な夢を見て…起きたら……え、過労死?自覚ないんだが?」
「その、なんじゃ。よく頑張ったのう」
「…………頭撫でないでくんない?泣いちゃうから」
いや、マジで。労働環境から人間関係に生活環境まで全部がクソの掃き溜めみたいな感じだったから。誰かに優しくされようものなら確実に泣く
「今日のことはただの偶然である。よって妾は何も見ていない。そうじゃな、迷い込んだ野良猫を可愛がっただけじゃ」
「でかい野良猫がいたもんだな」
「ふふっ…ついでに野良猫には名前をつけて飼い猫にしようかの」
「名前?」
「そうじゃ。この世界では上位存在が名付けをすることでその存在の系譜にギフトを与えるのじゃ。妾クラスの魔王ならなおさらの」
「へぇ…そういや名前聞いてなかったな」
「ルミナス・バレンタイン、真血魔霊姫にしてここ夜薔薇宮の女王である」
「は、はぁ…」
「ではお主に名前を授ける。そうさな、ルナティックでどうじゃ?」
「いつから俺は難易度になったんだよ。なかなか聞かないぞ…つか、名前付けてくれとは言ってねぇだろ」
「不満かえ?」
「俺は養われる気はあっても施しを受ける気は無い」
「それになんの違いがあるんじゃ…時に人間の間ではミドルネームなるものをつけることがあるそうじゃな」
「え、あぁ。まぁな」
「ではお主はそれを妾に、妾はお主に名前を授ける。それでどうじゃ?」
「……それなら、まぁ…いいけど」
「ではお主は今を持って『ドルス・バレンタイン』と名付ける」
「ルミナス・アルジェント・バレンタイン、でどうだ?」
「アルジェント、か…気に入った」
「元いた世界の言葉で銀を意味するんだよ」
「妾にピッタリ…じゃ、な……」
バタリとベッドに倒れるバレンタイン。慌てて手を伸ばそうとするが力が抜けて俺も倒れてしまった。なんですかこれ……再度、眠気に抗えず意識は闇に落ちていった
「おい、ドルス。起きんか…さっさと起きんかたわけっ」
「アポカリプスッ」
「全く、2度に渡り妾のベッドで眠りこけるとは肝が据わってるのか単なる阿呆なのかわからんの」
「あんたのせいだろ…名前もらってから急に眠くなったんだが?」
「妾も名付けにあそこまで魔素を持っていかれるとは思わなんだ。それにお主は進化もしたようだしのう」
「進化…?」
《告、個体名『ドルス・バレンタイン』は上位アンデッド、デイウォーカーから血王に進化しました》
「……うん、なんで?」
「どうしたのじゃ?」
「いや、その……なんか進化したっぽいです」
「この妾が名付けをしたんじゃ、当然であろう。して、何になったのじゃ?進化する前は至って普通のヴァンパイアだったようじゃが」
「デイウォーカーからに血王なりました」
「血王、か。魔王にでもなれば妾より少し下くらいにはなりそうじゃな」
「そういやアンタも魔王って言ってたな。魔王って何?」
「永く生きていればいずれなれるものだ。気にすることはない。それに妾以外にも魔王はいる。入れ替わりや寿命で欠けることもあるがさほど珍しくもない」
これ絶対非常識だ。魔王って珍しいし人類種からすごい敵対されてそうで怖い。
「とりあえずは…我が都を見て回ると良い。吸血鬼故、喉が少し乾きこそすれ空腹になることはないだろうからの」
「お、おう…」
それからルミナスの部下による案内で、都市を見て回る。生前ほどではないが活気があり誰もが楽しそうにしている。強いて挙げるならば人間が多い印象だ。今が夜ということもあり吸血鬼もちらほらいるがさほど目立つこともなく、人に紛れ込んで食事をしたり談笑している。どこの喰種だよ。ちなみに味覚は人間の時と同じで安心した
それからというもの、ルミナス直々に万能感知等々のエクストラスキルやスキルの使用方法について学んだり。俺が吸血鬼でありながらデメリットなく、日の下を歩けるということもあり店のアルバイトをして日銭を稼いだりとそこそこ楽しく過ごした。
日本よりも不便なことは多い。しかし、それ以上に楽しいのだ。奴隷のように扱われることもなく、転生しても治らなかった腐り目も特徴のひとつと受け入れられ不都合ない生活。大仰な言い方だが、俺はこっちの世界に来て早々に今の生活を尊ぶようになった。
いつどこで誰がどんな理由で死ぬかも分からない物騒な世界。だからこそ、お互いを大切に思いあい友人や家族として大切にする。当たり前のことを当然のように行えるここの人たちが俺は好きだ。
しかし、その平穏は唐突に終わりを告げた。
夫婦仲の良いパン屋があった。それは木の支柱だけが炭となり残る無惨な姿となった。
吸血鬼と人間の恋人が住まう家があった。塵も残らず焼失している。
俺を義理の息子と呼び可愛がってくれる老夫婦がいた。お互いの手を握る腕だけが残り、あとは轢き潰された血肉だけだった。
美しい街並みの都市があった。今では見る影もなく、1匹の理不尽な竜種により地獄のような惨状である。
「なんで…」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてーーーーーーーーーーー
「大司書!生き残っている人達の探知!救助とあの竜の足止めをする!」
《万能感知の範囲を夜薔薇宮全体に設定します。並びに近距離の生体反応へのナビゲートを随時実行します》
頭が割れるように痛い。だがそんなことを気にしてる暇は無い
《告、多大な量の情報処理により並列思考を獲得しました。》
痛みが和らぎ、やがて消える。同時に周りのことが手に取るようにわかる。そしてルミナスとの訓練により身につけた某呪術な廻戦のお兄ちゃんのように自身の魔素を血液へと変換し、濁流の如く垂れ流し逃げ遅れた人たちを捕まえルミナスの元へ押し流していく。
こうも派手に動けば当然竜にもバレる。竜の頭がこちらを向き口を広げて火炎を吐き出す。俺は血液操作のため、回避も防御もできない。転生して短い命だったな…だが、それでも。意地でも生き残りを全てルミナスの元へ届けてから死ぬ。それだけは譲れない
「ぐっ…!うおおぉぉぉおおおおおお!!」
《告、熱変動耐性により凍結や火炎による攻撃は無効化されています》
「…へぁ?」
《はぁ…》
おいコラ、お前ため息ついたろ?
《気のせいです》
こいつっ…しかし、いいことを聞いた。炎に耐性あるならこのまま逃がし切れるな。
なんて思った矢先にブレスは止まり、代わりに尻尾の薙ぎ払いが飛んできた。咄嗟に体を霧化させて物理攻撃を回避すると、羽を生やして飛んで距離をとる
「っぶねぇ…!」
《告、生存者の全員をルミナスの元へ集結したことを確認。魔素による血液生成および血液操作を停止します》
良かった。何人を助けられたのかは分からないがあとは、皆が逃げ切れるだけの時間を稼ぐだけだ
「来いよ、ノロマ。鱗の1枚2枚でも剥ぎ取って飾りにしてやるよ」
竜は咆哮し、翼を翔かせて空へ舞う。ここからは凄まじい速度の空中戦である。機動力はこちらが上。しかし、あの巨体に似合わない速さと見た目通りの膂力から振るわれる理不尽には対抗しきれない。
大きく翼をはばたかせて突風を生み出されこちらはあっけなくバランスを崩す。続けて太く長い尻尾を叩きつけられ、地面に衝突し威力は止まらず体の肉を削られながら転がりやっと止まる。その頃には半身が挽肉となっていたが超速再生ですぐに元に戻る。痛みも痛覚無効により特にない
「ぷっ…くそっ」
口に溜まった血を吐き捨て悪態をつく
《告、ルミナスの接近を確認》
「はぁ!?あんのお人好しめっ」
大司書からの報告に舌打ちをして、再び空へと飛び上がる。彼方から凄まじい速さで近づいてくるルミナス。
「大司書…完璧に安全な転移魔法を作り出せるか」
《可能です。ルミナス・アルジェント・バレンタインに対して転移魔法を使用しますか?》
「ルミナスと生き残った皆を安全なところへ転移させてくれ」
《了、これより転移をはじめます》
ルミナスを魔素から生成した血液で捕縛する。彼女の足元と、遠くの町外れから微かな光が見える
「よせドルス!妾の元から離れることは許さんぞ!」
「…短い期間でそこまで言ってくれることが嬉しいよ。他者不信でどうしようもないクズな俺を見捨てないでくれてありがとな。だからこそ、お前は生きてその優しさを多くの人に向けてやってくれ。それで救われる奴らがいるから」
おそらく俺は晴れやかな顔をしているのだろう。つい何かを期待して押し付けてしまう。優しいから大丈夫だ、優しいからあんなことはしないはずだ。そんな期待ばかりを押し付けて甘えてしまう自分が嫌いだ。
「いい思い出をありがとう。お前に言うのは変な気分だが…風邪、ひくなよ」
「まっ…」
光の粒子となりルミナスと夜薔薇宮の生き残りは全て転移した。これで何も気負わずに戦える
「さて、クソトカゲ。よくも綺麗な街並みを地獄へと変えてくれたな。ただで済むと思うなよ」
今までよりも速く鋭く竜へと接近し、魔素から生成した血液を極限まで凝固させ剣として片目を抉る。凄まじい痛みにまみれた咆哮をあげのたうちながら落下する竜を追って、自身も下降していく。竜は無事な方の目を開き、今までとは違う赤紫のブレスを溜め込み始めた
《告、あのブレスは精神体にダメージを与えるものです。回避を推奨します》
大司書からの通達と同時に吐き出された赤紫のブレス。間一髪で回避した矢先にブレスは光弾となり追尾してきた。感知はできても避けきれず被弾し、光弾は炸裂した。無いはずの痛みに俺は絶叫し先程の竜と同様、のたうち回ることしかできない
『矮小なる吸血鬼よ。我の片目を抉ったことを誇るが良い。そして、そのまま塵となれ』
痛みに悶え、動くことができない。だがそれでいい。2度目の命を与えてくれたルミナス。生きていてもいいと、生きる活力をくれた街の皆を逃がすことができた。後悔はない。やれることをやった。だから十分だろ…
嘘だ。嫌だ、死にたくない。もっと色んなことを教えて欲しかった。もっとみんなと様々な時間を共有したかった。どうしようもないクソみたいな前世を引きずり、ちゃんと生きていなかった俺を支えてくれたみんなと一緒にいたい。死にたくない…死にたくないっ…死にたくない!
「俺はっ…!もっと、皆と生きt
《ユニークスキル強欲者を発動。霧散したマスター「ドルス・バレンタイン」の魂を補完、完了しました。続けて絶命した夜薔薇宮の住民たちの申請を受諾、マスターに彼らの魂を捕食させます。成功しました。この行為により魔王種を獲得しました。現在、ヨウブンとして8629の魂を捕食しています。残り1371の魂を捕食することで魔王への覚醒を可能となります》
《告、マスター「ドルス・バレンタイン」の肉体の確認ができません。代替となる肉体を確認できるまで魂の保管およびこの近辺で死した者の魂の捕食を継続します》






















続き期待してます