復縁してから一週間。
「あんた分かりやすすぎ」
杏奈が笑う。
「何が」
「幸せそうな顔」
舞香が顔をしかめる。
「ほんと分かりやすい」
「やめて」
「無理」
完全に面白がられている。
その時だった。
「あ、衣織ー!」
少し離れた場所で瞳が衣織に声を掛ける。
衣織が笑顔で近付いていく。
二人は普通に話しているだけだった。
本当にそれだけ。
舞香は無意識にそちらを見ていた。
杏奈は見逃さない。
「なに見てんの」
「別に」
「瞳に嫉妬?」
「してない」
即答。
「してるじゃん」
「してない」
「めちゃくちゃ見てたけど」
舞香は顔をしかめる。
杏奈は楽しそうだった。
「復縁した途端それ?」
「うるさい」
「重症だな」
耐えられなくなった舞香は視線を逸らす。
そして近くにいた樹愛羅へ向かった。
「樹愛羅ー」
逃げるように声をかけた。
「ん?」
近くにいた樹愛羅が振り返った。
「杏奈がいじめる」
樹愛羅が笑う。
「助けて」
そう言いながら肩に額を預ける。
樹愛羅は楽しそうに笑った。
「舞香ちゃん甘えん坊じゃん」
「うるさい」
そのやり取りを、
少し離れた場所から衣織が見ていた。
「どうしたの?」
瞳が不思議そうに聞く。
「いや」
衣織は視線を逸らした。
そう言うわりに視線は、
樹愛羅と舞香に向いている。
瞳は少し笑った。
「へぇ」
「何」
「なんでもない」
その顔は完全に分かっていた。
その日の夜、
帰宅して夕飯を食べ終えた後。
二人はソファに並んで座っていた。
自然と肩が触れる距離。
テレビを見ていると、
「ねえ」
衣織が口を開く。
「ん?」
「今日さ」
少し言いづらそうに視線を逸らす。
「樹愛羅に甘えてたよね」
舞香が瞬きをする。
「甘えてたね」
「認めるんだ」
「事実だし」
衣織は少し黙った。
その様子を見て舞香は気付く。
「もしかして」
衣織が視線を逸らす。
図星だった。
舞香は思わず笑った。
衣織が眉をひそめた。
「なに」
「いや」
「なに」
「ちょっと可愛いなって」
「は?」
衣織の耳が少し赤くなる。
舞香は笑いを堪えた。
「やきもちでしょ?」
「……別に」
分かりやすい。
舞香はますます笑った。
「だって」
少しだけ拗ねた声。
「私の前ではあんまり甘えてくれないのに」
舞香が固まる。
予想外だった。
衣織は恥ずかしそうに言う。
「樹愛羅には普通に抱きつくじゃん」
「でも、樹愛羅だよ?」
「分かってる」
衣織は頷く。
「分かってるけど」
少しだけ間を置く。
「羨ましかった」
舞香は思わず吹き出した。
「何で笑うの」
「ごめん」
全然悪びれない。
だって、
昔の衣織なら絶対言わなかった。
「我慢しないんじゃなかった?」
舞香が言う。
衣織は少し恥ずかしそうに笑った。
「だから言った」
その言葉だけで胸がいっぱいになる。
舞香は腕を広げた。
「おいで」
「子供じゃない」
「わかってる、恋人でしょ」
舞香があまりに優しい目でそう言うから、
衣織は固まってしまった。
「ほーら、おいで」
衣織は少し迷う。
それでも結局、そっと隣へ寄った。
舞香は肩を抱き寄せる。
衣織が小さく笑う。
「満足?」
「かなり」
「ばか」
そう言いながら。
衣織は自分から舞香の肩へ頭を預けた。
少し経って衣織は恥ずかしくなり、
話を逸らすように呟いた。
「そういえば樹愛羅のとこ行くまで、
なんでちょっと機嫌悪そうだったの?」
衣織が聞く。
「え?」
「今日」
衣織がじっと見つめる。
舞香が止まる。
「……衣織が瞳と仲良さそうだったから」
観念したように舞香が答える。
「え?」
衣織は目を丸くした。
「それだけ?」
「それだけ」
「なんで?」
「なんでって…衣織と一緒でしょ」
衣織は驚いて顔を上げる。
舞香を見ると、耳まで赤い。
付き合っていた頃、舞香が嫉妬している姿なんて一度も見たことがなかった。
衣織はしばらく黙っていた。
そして、
「ふふっ」
突然笑い出す。
「なに」
舞香が眉をひそめる。
「いや」
衣織は口元を押さえた。
「舞香も嫉妬するんだなって」
「するよ」
「へぇ」
その返事が予想以上に素直で、
衣織はまた笑った。
舞香は少し気まずそうに視線を逸らす。
「前までは必死に隠してたんだけど…」
「最近はもういいかなって」
その姿を見て、
衣織の胸が妙にざわついた。
可愛い。
思わずそう思う。
付き合っていた頃も、
舞香がこんな顔を見せることはほとんどなかった。
いつも余裕そうで、
何を考えているのか分からなくて。
なのに今は違う。
嫉妬していたことも、
照れていることも、
全部分かる。
それがたまらなく愛おしい。
「ねえ」
「なに」
「私、瞳と何分話してた?」
舞香が怪訝そうな顔をする。
「知らない、三分くらい?」
「その三分で嫉妬したの?」
「……」
衣織は吹き出した。
図星だ。
「舞香かわいい」
「やめて」
即答。
でも耳はもっと赤くなる。
衣織は肩を震わせた。
「かわいい」
「やめてって」
「かわいい」
「衣織」
少し低い声。
けれど全然怖くない。
むしろ照れているのが分かってしまう。
衣織はますます楽しくなった。
舞香が顔を覆う。
「最悪」
完全におもちゃにされている。
「私だけかと思ってた」
舞香が顔を上げる。
衣織は照れたように笑った。
「嫉妬してるの、私ばっかりだったから」
空気が柔らかくなる。
「そんな可愛い顔するならもっと早く知りたかった」
「知らないよ」
「もったいないことしたなぁ…
こんなに可愛い舞香が見れるなんて」
「もーいいから!恥ずかしい。」
嬉しかった。
嫉妬してくれたことも。
こんな顔を見せてくれたことも。
だから少しだけ意地悪をしたくなる。
「今度瞳と話す時、
舞香のこと見ながら話そうかな」
「やめて」
即答。
今度は衣織が吹き出した。
舞香は諦めたようにため息をつく。
その姿すら可愛くて。
衣織は笑いが止まらなかった。
その笑顔が可愛くて、
舞香も結局笑ってしまった。
ひとしきり笑ったあと、
衣織は舞香の肩に頭を預ける。
「ねえ」
「ん?」
「嫉妬したら全部言うから」
舞香は少し目を見開いた。
「うん」
「舞香も」
「うん」
「隠さない?」
舞香は少し考えてから笑う。
「努力する」
「努力じゃなくて」
衣織が顔を上げる。
真っ直ぐ見つめてくる。
「約束」
舞香は少し困ったように笑った。
そして頷く。
「約束」
その返事を聞いた瞬間、
衣織は満足そうに笑った。
その笑顔が可愛くて、愛しくて。
舞香は思わず腕を引いた。
「わっ」
軽く唇が重なる。
短いキス。
離れても距離は近いまま。
「好き」
舞香が小さく呟く。
衣織は少し照れながら笑った。
「知ってる」
舞香もつられて笑う。
「衣織は?」
衣織は少しだけ目を細めた。
「大好き」
そう言って、もう一度キスをする。
今度は少しだけ長く。
唇が離れたあとも、
どちらも離れようとはしなかった。
遠回りばかりした。
傷付けもした。
傷付けられもした。
それでも、
もう一度ここに戻ってこられた。
だから今度こそ。
二人で歩いていく。
同じ未来を。
そんな当たり前の幸せを噛み締めながら、
二人は静かに寄り添っていた。

















この作品は作者によりコメントがオフにされています。コメントや返信を行っても反映されません。