彩葉『添い寝屋いろP開店です』かぐヤチ『ヘビーリピーター確定!』
添い寝屋さん、なんて聞くと、いかがわしい何かを想像する人が多いかと思う。無理もない、と言うか当然と言うかなんと言うか。赤の他人に添い寝することを生業にしてるのだ。いかがわしい想像をするなと言う方が難しいかもしれない。
切っ掛けは、母への愛情の飢えだったように思う。私の幼少期の頃に父が亡くなり、それ以来母はめっきり厳しくなってしまった。どれだけしても認めてはくれないし、どれだけ言っても認めてはくれないし、一人が寂しいよと泣いても『甘えるな』の一喝。そりゃ愛情にも飢えると言うものではなかろうか?しかしながらかつての私は所謂引っ込み思案であった。それを表立って口にすることなど出来ず、結局ずるずると此処まで来てしまった。結果、愛情に飢えた大人の完成である。そしてその飢えを乾かすように、満たすように、そんな想いで生み出してしまったのがこの『添い寝屋いろP』だ。開店して5年ほどになるが固定客もそこそこいたりする。
一応、これが本業ではない。私はこれでもそこそこ優秀な義肢及び機械義肢……要は『義体』なんて呼ばれる類いのそれの研究所所長としても名を馳せていたりするわけで。添い寝屋はあくまでも、人恋しい時に一夜を健全に共にする、同じように人恋しくなっている誰かを募集するお仕事であった。
─────
「いかん、二徹してしまった。太陽が暴力的に眼に痛い」
研究所の私室に入り込む朝日の光に思わず眉間にしわが寄る。現在時刻は午前8時……二日前に出勤した時刻とほぼ同じ時間になっている。そりゃ眼も痛くなろうと言うものだ。いやはや慣れと言うか集中と言うか、自分で自分に軽く引くねほんと。もう28歳なんだし、無理は出来んよほんと。
「みんなごめ~ん。ちょっと今日はもう帰る~。悪いけれど後宜しくね~」
皆が作業準備を始めようとしているタイミングでこの発言。普通ならちょっとした炎上と言うか、愚痴と言うか、そう言う言葉が出る筈なのだろうが。
「所長がやっと帰るぞ~!」
「はよ帰れこのアホたれ~!」
「お前ちゃんと二日休めよ?いいか、二日だぞ?間違っても一日休みとかすんなよ?」
「明日、明後日が休みですからね?明後日出勤したら入り口閉鎖して追い返しますからね?」
私ってこの研究所の所長だよね?何という言われようか……まぁ心配してくれているのが分かるので大丈夫だが。
「ありがと。それじゃあ」
それだけ言って、皆の気を付けて帰れよ~というありがたいお言葉を背に受けつつ研究所を後に。二連休かぁ……そう言えば暫く『あっち』はしていなかったし、久々に予約確認して連絡取ってみようかな?しかしこんな朝っぱらからで繋がるかは不明だが。
「前回のお客さんは確かオタ公ちゃんだったよね……今の予約状況は……お、一番予約はかぐやちゃん、二番予約はヤチヨちゃんか。姉妹揃って予約とは。リピーターってやつかな?」
なんて言いながら、早速メールにて『開店報告』を送信する。
「え~……『本日、『添い寝屋いろP』開店します。もしお時間あるようでしたら、一時間後にお店への来店をお願いします。なお、10分以内に返信が無い場合、次の予約客へ連絡となります。ご了承ください』っと……」
かぐやちゃんは高校生さんなので連絡がこない可能性が高い気がするが、ちゃんと予約順番なのでメールは送信する。10分以内に返ってこなかったらヤチヨちゃんに、と言ってもヤチヨちゃんも高校生さんだが。それも返ってこなかったら次のお客さんに。それがルールである。
ぴぽんっ♪
「うぉ、早いなおい」
物の数十秒で返信メールが返って来た。いや、時間的に考えて今って高校生は授業中じゃないの?大丈夫かよ?
『メール確認行いました!一時間後、お店に向かわせていただきます!よろしくお願いします!』
「すげぇなおい。ひょっとして私は不良学生を作り出しているのではなかろうか……?」
まぁ今更だが。こんなお店に顔を出させるようにしてしまった時点で不良学生の量産成功なのだし。
「さて、取り合えずお風呂入って綺麗にしとかないとね。流石に二徹の格好のままで添い寝なんて出来んし」
そうと決まれば私も店舗の方へ向かおう。そう考えて行き先を自宅から変更するのだった。
─────
「……そろそろかな……?」
身支度を済ませて待つこと数十分。向こうが準備出来ているならそろそろ到着する頃かと思われるが……?」
カランカランカラン♪
「お、お待たせ~!来たよいろP~!」
ぜぇぜぇと息を切らして店の中に突入してきたるは、金髪の美少女。10人が見て10人とも『か、わ、い、す、ぎ、るっ!』となること請け合いの美貌の少女である『月見かぐや』ちゃんのご来店である。
「そんな急がんでもまだ大丈夫だよ?まずは呼吸落ち着けなさいな、かぐやちゃん?」
「はぁ、はぁ……だ、だって待ちきれなかったんだも~んっ!前回の添い寝から一か月くらい経過しているよ~!?」
はて、そうだったか……なんて。ちゃんと覚えているよかぐやちゃん。だからそんな頬膨らませないで。可愛いが更に可愛いになるだけだからね?
「じゃあ、今日のコースは?」
「勿論っ!『松の120分コース』でっ!」
「承りました。お風呂を済ませたらどうぞこちらの部屋に」
「はぁいっ!」
元気いいなぁ。勢いそのままにお風呂場に駆け出して行く彼女を見てそんな感想が胸中をよぎる。と。
カランカランカラン♪
「ふぅ~っ、ふぅ~っ……いろPさん……」
「あらら、ヤチヨちゃん。どしたの?」
寝室の準備を進めようとしていたら、更なる来客。これまた来店したるは銀髪の美少女。10人が見て10人とも『キェェェッ!』っとなって発狂する可愛さの少女、『月見ヤチヨ』ちゃんのご来店。名字から分かる通りかぐやちゃんの双子姉妹だ。ヤチヨちゃんが姉でかぐやちゃんが妹である。
「かぐやが、授業中に、『どうしても外せない用事が出来たので帰ります』とか言って教室を爆速で抜け出して行ったから、多分そうだろうと思ってっ!か、かぐやの次、ヤッチョの予約だよねっ!?今日、何人と添い寝予定っ!?」
「え?いや、まだ決めてないけれど……」
このお店は完全に私の気分と言うか、その時の状況と言うか、そんな感じの趣味のお店だ。なので営業時間も未定だし、一日の実施お客数も未定だ。全て私の気分で成り立っている。普通のお店を営んでいる人が聞いたらガチ説教されそうだなぁ……
「じゃ、じゃあ、此処で待つっ!ヤッチョも添い寝欲しいっ!松コースっ!」
「と言ってもなぁ……かぐやちゃんで満足しちゃったらそれで店じまいの予定だけども……」
「おねがぁい♡ヤッチョの事も添い寝してぇ♡」
上目遣い&魅惑の笑み。くっそ、顔が良いなぁ。これは高校の同級生さんたちはきっとかなり惑わされていることだろうなぁ……
「う~ん……仕方ないなぁ。でも、かぐやちゃんも松コースだから二時間待ちだけど、大丈夫?」
「だいじょ~ぶ♪出席日数はきちんと確保しているし、普段はきっちり優等生だから偶にサボっても全然無問題♪」
逆に問題視されてこの店が摘発されてしまわないだろうか。それはそれで心配であったりする。
「上がったよいろP……あぁぁぁっ!?ヤチヨ姉ぇ、何で来てんのっ!?今はかぐやの時間だよっ!?」
「へへ~ん♪次の予約がヤッチョだからだよ~♪ここで待たせてもらうことにしたの~♪」
「なにぃっ!?いろPっ!どういう事っ!かぐやと言うものがありながらっ!ヤチヨ姉ぇに浮気なのっ!?」
「浮気言うなし。普通に次のお客さんなだけだよ」
がるると威嚇しあう二人を宥めつつ苦笑してしまう。初めて会った時と比べれば、この二人もすっかり自分を出せるようになったな。
─────
名家である『月見家』の直系姉妹であるが故の重圧。
毎日毎日自宅と学校と習い事の往復。
自由なんてほとんどない生活。
次第に擦り減っていく自身の心。
『……はぁ……』
『……ふぅ……』
私が初めて会った時の二人は、そんな色々のせいで酷く煤けていると言うか、潰れてしまいそうと言うか、なんか過去の私をそのまんま見せつけられているような気分だった。
『もし、そこの綺麗なお嬢さん二人。ため息ばかりで大丈夫かな?』
『……あ、かぐやたちのこと……?』
『……知らない人と喋っちゃいけないって、色んな人から言われているので……』
小学生にして何とも擦れたお返事ありがとうございます。しかし何故かほっとけない。お店が開店したばかりの私ではあったが、この二人を抱っこして寝たらさぞ安眠できるだろうななんて言う割と案件染みたことを本気で考えてしまった。
『ねぇ二人とも。添い寝していかない?』
『……はぁ……?』
『……何言ってんですか……?』
そして口に出してしまった。通報されなかったのは正に奇跡であっただろう。
『いやなに、小学生の割には酷く隈が濃いしさ。眠れてないでしょ、それ。私も同じなんだよね。で、さ。私は添い寝屋って言う仕事を開店し始めたばっかりなんだけれど、お二人さえ良ければ初客になんない?初回サービスで無料で良いよ?』
『……馬鹿にしている……?』
『……ふざけてますか……?』
『ちゃうって。いかがわしい奴じゃないの。普通に添い寝するだけ。どうかな?』
何という勧誘方法だろうか。もう一度言おう。通報されなかったのは二人が限界ギリギリ一杯だったからで正に奇跡でしかない。
『……良いよ。もう別に何かどうでも良いや……』
『添い寝?したいのならどうぞ好きなだけ』
『お、本当?初客様だ。どうぞ、お店に』
で、本当に疲労限界だった二人をお風呂に突っ込んで、アワアワじゃぶじゃぶで綺麗にしてあげて、ベッドで二人を抱き締めて添い寝して上げたわけだ。
『……あ、あれ……なんか、変なことするんじゃないの……?』
『しないって。添い寝だけだよ』
『お姉さん、変態さんじゃないの?』
『地味に否定し辛いな……ただ単に一人寝が寂しくて、同じような人と温もり共有したいだけ。この『添い寝屋いろP』はそれが目的のお店。いかがわしいのはNGだよ』
無駄口を叩いていたら次第に眠気。この時の私はまだ一般研究員だったので、開店準備と研究所の色々が重なって結構寝不足だった。其処に来て子供体温の二人を抱っこしていたものだったからすぐさま眠れそうだった。
『ふわぁ……ほら、二人とも寝よう。大丈夫、親御さんには後で説明しといてあげるから』
『……うん……ねるぅ……』
『おやしゅみぃ……』
そうして三人抱っこしたまま眠ること、一番上のコースの松の設定時間である二時間。アラーム音で目を覚ますとこれまた快調な目覚めだった。思ったより効果があったようで自分的には大満足だ。二人もぐっすりだったし。
『ふわぁ……おはようございます……』
『……うそ……こんなにぐっすり眠れたなんて……』
二人とも自分がぐっすりと眠れたことに驚いていたみたいだった。隈も大分薄くなっていたし。良かった良かった。
『……お姉さん。ここ、添い寝屋なんだよね……?』
『ん?うん、そうだよ』
『……じゃあ、お金を祓ったら、また利用できるんだよね……?』
『まぁ、これはあくまでも私の余裕があるときに開店する副業と言うか趣味業だから。毎日とかはやらないけれど』
『『次回予約で』』
『……おお?』
こうして私の初リピーターが完成した訳である。
─────
かつてを思い出ししみじみ。あの後、二人の親御さんにご挨拶に訪れたら、其処が『月見家』だと知って『オワタ』したのも懐かしい。正直死を覚悟したよね。でも二人のお父さんの『ボサツ』さんは。
『害が無ければ別にどうでも』
だとよ。割とプッツンしそうだったのを何とか堪えた私は褒められても良いんじゃなかろうか?この親じゃあ何も休まらないだろうなぁ……と言う事で、かぐやとヤチヨをお店の常連客認定をしてあげたわけだ。それが今の今まで続いているとは中々驚きだ。
それからもう5年だ。今やこの店も中々に知る人ぞ知る的なことになり、色んなお客さんがリピートしてくれている。偶にいかがわしいことをしようとしてくるアホも居るが、そう言うのは他の純粋なリピーターさんにフルボッコにされて出禁になっている。
「ちょっといろPも言ってあげてよ!かぐやこそがこの店の超VIPだって!」
「べ~っ!いろPはヤッチョの方が良いんだってさ~っ!」
喧嘩するんじゃないと言っておるだろうに。ほれ、かぐやちゃん。寝室行こう。
「はぁい♡じゃあねヤチヨ姉ぇ?かぐやは一足先にいろPのぬくもりを味わってくるよ~♡」
「ぐぬぬぬ……いろP!絶対今日、ヤッチョも添い寝してねっ!」
「しょうがないなぁ……」
悔しがるヤチヨを後ろに、かぐやと共に寝室に。ベッドに横になり両手を広げれば、ガバリと抱き着いてくるかぐやちゃんを受け止めてそのまま布団を被る。
「最近はちゃんと眠れているかな?」
「うん、寝れているよ。でも、此処が一番よく眠れるの」
「そりゃ冥利に尽きるね」
軽口を交わしていると、私の方が先に睡魔に襲われる。そりゃまぁ二徹後だし、そうなるよね。
「ふわぁ……かぐやちゃん、悪いけれどもう寝ちゃうよ……お休み……」
「うん、お休み……大好き、いろP……♡」
はいはい、私も大好きだよ~。そんなことを軽く考えながら眠りに就くのであった。
─────
「……本当に大好きだよ、いろP……」
多分私だけじゃあない。ヤチヨも、他のお客さん……すれ違っただけだけど、『ROKA』って言う女性も、『オタ公』って呼ばれていた女性も。いろPの事が大好きだ。
誰にでも変わらず接してくれるところも、好意に鈍感なところも、この温もりも……そして何より、あの日、かぐやとヤチヨに声を掛けてくれたことも。全部全部大好きになる要素しか存在しない。
「何時かは……かぐやだけの添い寝屋さんになってくれないかな……」
それが無理だと分かっていてなお、願わずにはいられない。この人が、自分だけの抱き枕になってくれる日が来ることを……なんて、今はそんな難しいことはどうでも良いや。時間は有限だ。添い寝を堪能しなきゃね。
「いろP……大好き……♡」
今はまだ本気にしてもらえない、私の本気を乗せて。そうして私もまどろみに落ちていくのだった。
END♡
彩葉「最近さぁ、お客さんに大好きって連呼されんの。これってどうなのかな?」
真実「刺されるんじゃないかなぁ?」
どうも、レントンです!
添い寝屋さんないろPでした!このネタ、資金不足彩葉シリーズでも使用予定です!よろしくお願いします!
何時もコメント、いいね、ブクマをいただける皆様、ありがとうございます。
励まされております!
今後もどうかよろしくお願いします。
ここまで閲覧ありがとうございました。























