マンダロリアンの秘密のアジトがある水辺にて。マンダロアの子たちが訓練や手合わせするにほどよい日当たりと風のちょうどよさで、つまりそれは幼な子の昼寝にもお誂え向きの気候なのだった。
ホバー・プラムの中ですいすい午睡に耽るグローグーを覗き込んで、ディンは徐に手を伸ばす。手袋越しの指の背で、ぷくりとした頬に触れて撫でながら、反射で身じろぐものを指で追い回すようにして覚醒を促す。グローグーは心地よい眠りを妨害するものにあらがってうずうずした。
んんぅ、いーぁあ……。
むずがる幼い声に(心苦しいことだが、)と優しくも執拗に赤子の顔に触れながら、ディンはアーマラーの言葉を思い出している。――あまり長く昼寝させない方がいい、夜の寝入りに障るから。
グローグーの寝かしつけに手こずっている、という親としてなかなか真っ当かつ人並みの悩みを抱えていたディンは、このたび隠れアジトを訪れてふいに思い出したのだった。孤児を救い、コミュニティの一員として迎え入れることを最重要の教義の一つとする――実際その教義を根拠にかつて幼いディン・ジャリンもマンダロアの子となった――マンダロリアンのその共同体は、実は育児の秘訣の宝庫でもあることを。
あるマンダロリアンの男は。
「添い寝するんだ、ディン・ジャリン」
とディンを諭した。
「親が一緒に寝れば、子も眠るタイミングだと察する。寝たふりでいいから30分でも寄り添ってやれ」
「……色々すべきこと、やりたいことがあるんだが」
こちらが態勢を変えなくても済む方法を知りたい、とディンが一応言ってみると。
「子が寝ようという時に親のしたいことなど、 アンバン・ライフルで消し飛ばす程度のものだ」
撃てば標的を分子レベルで分解する二股の武器の名前を持ち出されて(ディンも愛用している)、その辛辣さにディンはやや呆気に取られる。
「どうせ消し飛ばされるくらいなら、やりたいことなどはなから考えずまず寝かしつけに専念することだ。我らの道」
投げっぱなしのまま定型句でごり押された。
あるマンダロリアンの女は。
「あなたの子なら、あの大きな耳を撫でるのが有効そうだわ」
とディンに提案した。
「ゆっくり、優しく、ずっと触ってあげるの。子供はスキンシップに安心する」
「なるほど」
「ただし片手間の気分ではいけない。1時間かけても寝てくれないなら、一旦離れるのも手だわ」
……1時間、と思わずおうむ返しするディンに気づかず(あるいはあえて黙殺して)、女はそのあとも細かなコツの色々を教えてくれた。軽くトントンすること。抱っこして歩き回ること。寝る前のルーティンを作ること。照明や室温に気遣うこと。
そのどれもが既に片っ端から試したあとなのだと言えずにいるディンに、女は締めくくりにこう告げた。
「例え万策尽きようとも、子供は寝かせるもの。寝る子こそが育つのだから。我らの道」
もうそれは知っている、と思っても言わなかっただけのディンをとうに見抜いていた女に、半ば反射で「我らの道」と返してもやや空虚な響きのディンだった。
空中でライフルによる射的の腕を競い、地上では全身で取っ組み合って、戦いに生きる子らとしての鍛錬につぐ鍛錬を水辺のそこらじゅうに見ながら、グローグーを肩に連れたディンはパズを見つけた。彼の子であるラグナーの体術の訓練をじっと見守る男を。
ディンにとってその男は何かとそりが合わず、手合わせの域を超えた争いにも一度ならず発展しかけた相手である。だが彼も、ラグナー・ヴィズラという一人の少年を、栄誉のヘルメットを授かるまでに育て上げた一人の父親には違いなかった。
ディンはあえてパズの視界に入る位置に立ち止まる。ディンの肩口からヘルメット周りをちょろちょろしながら、あーうーとグローグーが声を上げてさらにパズの気を引いた。ヘルメット越しの視線がこちらに刺さったところでディンは、
「寝かしつけのいい方法を知っているか」
と出し抜けに。
――はん、と秒でパズに鼻で笑われるが、何かと逆撫でするそのやり方はディンもとうに慣れっこである。いちいち真面目に取り合っていられない。
「今よりもっと小さかったラグナーは、まあ寝なかった」
徐に回顧する声の響きは、思い出を蓄積してきた父親のそれだ。
「どうしてかわかるか」
こちらを見ながら聞くパズだが、その視線はディンよりディンにじゃれつくグローグーに向いていることがわかる。わからない、と沈黙で応えるディンに。
「起きてる方が子供には断然楽しいからだ。俺たち親が構ってくれる面白さに比べて、どうして寝てられる」
――まあ、とパズは軽く嘲るように突き放した口調で。
「何がなんでもなんとかしよう、としないのが一番だな」
親が強いようとすることを、子供は敏感に察するもんだ。
その声音の落ち着きに、ディンはやや途方に暮れたように宙を見つめた。グローグーが何やらディンの腕の中に小さな体を捩じ込もうとしている。請われるままに幼な子を抱きかかえてやりながら、
「参考にならんが、参考にする」
と正直な気持ちで告げるディンに、――っはん! とひときわの音の高さでまたパズがあしらう。ざまあみろ、とでも言わんばかりの仕草ながらその視線は、少し先で組み敷かれようとも必死にあらがって相手に食いつくラグナーを見つめている。
ディンも我が子を見下ろした。さっき無理やり中断させられた昼寝の眠気がぶり返したらしいグローグーが、ディンのアーマーに顔を押し付けて大きな耳を折り曲げている。
うたた寝にちょうどいい体勢が取れる抱擁を求めている幼な子の既に眠たげな顔に、今寝られては夜の寝入りが……、という建設的な打算も萎れていくばかり。
なるほど、とディンは致し方なく思わされつつ、腕の中のグローグーを二度目の午睡に見送ってやった。その天使のようなあどけない表情だけで、子供は親の労苦に報いるものだと。






















