Novel8 days ago · 4.9k chars · 1 pages

ハニーアンバーとバタースコッチ

おかゆおかゆ

泥酔パパがグローグーを愛でるギャグSS 糖度MAXゲロ甘な親子がいます

たくさん遊んでたくさん修行して、たくさんご飯を食べる。その夜、グローグーはとても良い夢を見ていた。
大きなテーブルに積まれたいっぱいのお菓子。目を輝かせていると隣に座っている大好きな父が「いくらでも食べていいんだぞ」と許しを与えてくれた。周りを見渡せば、カルガのおじちゃんやキャラのおねえちゃん。他にもペリとピットドロイドの姿もある。ボカターンもいたしグローグーにアーマーを作ってくれたマンダロリアンもいた。とにかくグローグーが大好きな人とお菓子しかない空間で自由を与えられる、この幸福は何物にも代えがたい、夢のようだ。食べても食べても無くならないお菓子を頬張って時折父に頬を拭われて、また食べて、…

ー…グー、

そんな幸福な時間を続けてどれほど経っただろう。幸せな部屋の外から声がする。
これもまた、大好きな父の声だ。横を見れば確かに父の姿があるのに、なんだかおかしい…と思ったが、グローグーはとても「かしこい」のですぐに分かった。

なんだ、やっぱり夢なんだ。

………

……

「…んぇ、…むぅ…」

「グローグー?」

部屋の明かりはついていた。
最近父はグローグーが寝た後一人の時間を満喫することがある。でも朝起きれば必ず横で寝てくれているので、それはグローグーにとって大した問題ではなかった。ヘルメットを外して父がゆっくり出来るのであれば、側にいてくれるのであれば、何も問題ない。
だから、こうやって起こしてくるのはとても珍しい。もしかして何か怖いことがあったのかな、父はいろんな人に狙われていて、危ない目に遭うことも多々あるから、また逃げろって言われるのかもしれない。

「んぅ、え、え…」

だとしたらグローグーもゆっくり寝てはいられない。まだまだひっつこうとする瞼を懸命に擦って、ベッドにうつぶせになっていた体を起こす。

…と、

ートン

「んぅっ?」

何故か父の手でまたベッドに戻された。ツンと突かれただけで小さな体はまたシーツに沈む。起きてくれって言ったのに。その不満を訴えるべく、頭を振って眠気を飛ばし、目を開けたとき、グローグーの視界に映ったのは

「!?ニエェエェーー!!」

何よりも重んじる教義を忘れたのか、無防備にヘルメットを外そうとする父の姿であった。

—ゴンッ!
「っ!なんだ、とれない…」

伸びた髭に薄い唇、高い鼻筋まで見えている。はっきりと。認識した瞬間グローグーは上げたことのない絶叫を上げて慌てふためく。こんなに大声を上げたのは、初めて父のジェットパックで空を飛んだ時以来だ。

同時にこの時、グローグーは己の反射神経をいかんなく発揮した、これもひとえに日頃の訓練の賜物である。瞬時に手をかざしてフォースの力で父のヘルメットを押さえつけることに成功したのだ。その際内部で頭頂部を強打した鈍い音が聞こえたが気にしていられる余裕はなかった。
どうして、何故父は今更顔をさらけ出そうとしているのだ?あと数秒遅れていたらまたあのブラウンの瞳をグローグーははっきりと見る羽目になっただろう。以前から「もう一度見たい」とは思っていたものの、それは父の意志に逆らってまで叶えたい望みではない。にもかかわらず目の前の父はこちらが何かを訴えたわけでもないのにヘルメットを脱ごうとしている。何が起こっているのか全く分からない。

幼いながらもマンダロリアンの道を歩み始めたグローグーがパニックになるのは当然だった。
理由があるのかと思ったが、自分に覆いかぶさり「なぜとれないんだ?」といつもより舌ったらずな声で、…非常に言い方は悪いが、間抜けにヘルメットを外そうと懸命に努力している。

…こわい、すごくこわい

「だ?だぁ?」
「?どうした?」

どうした、はこっちの台詞である。
グローグーは憤慨した。油断すればまたヘルメットを外そうとするものだから力を緩めることも出来ない。
まさか偽物だろうか、でも着ている服も、手についている古傷も、背丈もいつもの父と変わりない。大好きな匂いだって、…

「…んぅ?」

少し、違う。異なる匂いではなく、いつもの匂いに違う要素が混じっている。答えを探すようキョロキョロと視線を彷徨わせると二人がいつも囲むテーブルに…見慣れない青い水が置いてあった。ーそれは、この世界で『スポチュカ』と呼ばれるアルコールであることをグローグーは知る由もない。
だから端的な答えにしか辿りつかない。

(”どく”だ!)

父は毒を飲んでおかしくなったのだ。解毒を試みたいけども、ヘルメットを抑えつけながらヒーリング出来るほどグローグーは器用ではなかった。でも、父を治療しないと死んでしまうかもしれない。尊厳を守ったまま死なせるか、それとも顔を見て命を救うか。さっきまで幸福な夢を見ていたのにこの落差は酷すぎる。

グローグーは懸命に頭を働かせる。そろそろ抑える力の限界も近い。毒に犯されておかしくなった父はいまだヘルメットを外そうとしてるし、このままではグローグーは曝け出された父の顔を見てしまう。

「んぇ、ぇ…!」

父の命か、尊厳か。何度も何度も考え、グローグーが出した結論は、…

「…グローグー?寝たのか?」

「んぅーー…!」

ヘルメットを押さえつける力を解いて数秒後。室内に響く、ゴソゴソとした音。グローグーの耳に届く、クリアな父の声。
あぁ、外してしまった…だろう、ということしかグローグーには分からない。

大きな瞳を閉じ、加えて小さな手で自分の瞼を隠していたから。どちらも守ってみせる、と幼い子供が出した答えであった。
父がどのような表情をしているのか、グローグーには分からない。「絶対に見ないぞ」という意思表示をちゃんと受け取ってくれたのかも。父が体勢を変えたのか、寝台がギシリと音を立ててグローグーは身を強張らせる。

「ぴゃあっ!?」

視覚から得られる情報がゼロになったせいか、父の挙動一つ一つに驚きの声が漏れる。高い鼻筋が肩に触れてゆっくりと下っていく。次はお腹に顔を埋めてくるものだからグローグーの顎下あたりに父の髪の毛が当たってくすぐったい。

「んに、ひひ…!」

思わず漏れてしまった声を聞いた父は「起きてるじゃないか」と、存外に嬉しそうな声で指摘してきた。喋るたびにお腹に息が当たってむずむずする。グローグーが楽し気に声を上げることに気を良くしたのか、さらには背中もくすぐられて追撃されるからたまったものじゃない。
目を閉じていればより分かる。普段は感じられない髪の匂い、顔に残った傷跡。解毒する為に伸ばしたはずの手で父の顔を懸命に捉えて頬と頬を摺り寄せたらちくちくした髭の感触がした、ちょびっと痛い。前に、見たときと一緒だ。

--あぁ確かにパパのお顔だ。
見ることはできないけど触ることができる、すごく、すごく嬉しい

父に目いっぱい愛されて、直接父の肌に触れて、全身で父に抱きつけるこの時間。どれほど貴重で、幸福なんだろう。
この時点で『毒を治療する』なんて考えはグローグーの頭からすっぽりと抜けて、父とじゃれあうことに夢中になっていた。

「えへ、へ、」

またお腹の顔を埋められて、また深呼吸されて。くすぐったくて身をよじればそれを阻止するように大きな腕の中で体を拘束される。
「グローグー」…自分が抱く存在を確かめるよう、名前を紡ぐ声のなんたる甘さか。顔いっぱいに薄い唇が落とされて、いつもは出来ないけどそれを真似るようにグローグーも同じ仕草を父に返した。浴びせられる愛情に少しでも報いたくて高い鼻にかぷりと噛み付いても、父は「やったな相棒」と笑うだけ。

「…このまま食べてしまおうか」
「!キャァ!」

仕返しと言わんばかりに耳に歯が立てられる。でも軽い甘噛み。
なんということだ、このままでは父に食べられてしまう。いつもグローグーのことを食いしん坊だと言うくせに、父も同じ。グローグーを丸ごと食べようとしてる。

あの夢なんか比べ物にならない。グローグーはこの時確かに、この銀河で最も幸福な現実に包まれていた。

「…………?…」

翌朝。

ディンはシーツに伏せていた顔をゆっくりと上げて、辺りを見渡す。窓から見える空はどんよりと曇っていて、もしかしたら雨が降るかもしれない。
いつもと同じようにグローグーを抱きかかえて(何故かいつもより強めに抱いてるような気もするが)、随分開けた視界に自分がヘルメットを被っていないことを寝起きの頭で理解する。何故か頭が痛い。頭の内部だけじゃなくて頭頂部もジンジンと痛んでいる。ヘルメットは…ベッドの下に転がっていた。ご丁寧にこちらを見ている。「早くかぶれ」と言わんばかりに。いつもは脱いで寝るにしても必ずベッドサイドに置いてあるのに。

…この時点で昨夜の記憶が非常に曖昧になっていたが、理由は何となくわかっていた。カルガが手土産に渡してきたスポチュカを一人で呑んだから。
夜風に当たりたくて窓は全て開けていた。その隙間から不意に覗かれることを警戒してヘルメットは付けたまま。椅子に座り、ふすふすと愛らしい寝息を立てるグローグーを見ながら、心地よいアルコールの回り加減にすっかり気分が良くなって…

「…………」

腕の中ですやすやと眠るわが子の後頭部を見ながら、心臓が跳ねていく。わが子に対する愛しさとは違う、嫌な予感がする。
頭に血が巡ってきたようだ、余計な記憶がどんどんとよみがえる。
昨晩存分に吸った赤子特有の甘い香り…は、まだ良い。酒の力を借りずとも定期的に吸ってるから。
問題は、小さな手と小さな唇。それの感触を、温度を、直接自分の肌で感じた記憶が確かにある。

(…………グローグーの前で、脱いだ?)

顔に触れられた。つまりヘルメットを脱いでいた。寝ているグローグーが無意識に触れただけならまだしも、確かに父の真似をするようにちっちゃな口を頰に押し付けられた。………何たる愛しさ。可能なことならその記憶と感触だけは何らかの形で外部出力して永久に記録しておきたいところ。
いや、これは全て夢の中の出来事だろうか。だとすれば、どこまでが現実で、どこからが夢だった?

「んぇ、えぇ……」
「、…起きたか?」

1人で慌てふためく父の気配を察知したのか、賢い我が子は目を覚ました。マンダロリアンに対する不義理をこれ以上重ねるわけにはいかない。慌ててディンは寝台から降りてヘルメットを被る。
あぁ頭が痛い。
机の上に出したままのスポチュカを睨みつけて再びグローグーの元へと歩み寄る。

「……グローグー」
「、……んぅ?」

キョロキョロと辺りを見渡して、ディンを捉えて…グローグーは小首を傾げた。

「………昨日、何か見たか?」

何が、とは言わなかった。まだ道は残っているはず。そのわずかな希望を寄せてディンは尋ねた。
数秒にも、数時間にも思えた沈黙。
グローグーは、

「んん!」

首を左右に振って、声を上げる。…答えはNOだ。
あぁ、それでいい。

「そうだな、お前は何も見ていない」
「ん!」
「…俺も、何もしていないな?」
「んぅ?」
「……グローグー」

言葉にせずとも伝わったのか、再びグローグーは「何もなかった」と言うように首を振る。明らかにぎこちない動きで。
それでも当然、ディンが「嘘をついているだろう」と指摘することは無い。

そうだ、昨晩は何もなかった。俺は酒を飲んで、ヘルメットを"たまたま"投げ捨てて、そのまま寝た。グローグーはずっと眠っていた。いつも通り。

……だから、ぴるぴると動く長い耳に薄い噛み跡が残っていても、ディンは知らない。何故ならそれは全くの気のせい。
親子で無邪気に戯れ合う、ただの幸福な夢を見ただけなのだから。

— End —

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