偉大なる航路(グランドライン)前半の海に浮かぶ、とある美しい島。その日は、島民たちにとって息を潜めるべき日だった。
世界貴族(天竜人)の視察である。港に豪華な船が停泊し、ユキノシタ家の長女、ユキノシタ・ハルノが護衛を連れて石畳の道を歩いていく。
島民「ひぃっ……! 天竜人様だ……頭を下げろ……!」
島民たちが地面に額を擦りつけ、恐怖に震える中、ただ一人、路地裏の木箱に腰掛け、平然と彼女を見つめる男がいた。
男の名はハチマン。
その目は、深海よりも暗く濁りきった**「腐った目」をしていた。幼い頃、たった一人の妹を天竜人に奪われ、周囲の大人たちからは虐待と裏切りを受け続けた結果、彼の見聞色の覇気は「人間の負の感情と建前を読み取る」**という特異な性質を持っていた
護衛「貴様! 世界貴族であらせられるユキノシタ宮ハルノ様に対し、頭を垂れんか!!」
銃を構える護衛。しかし、ハルノは優雅に手を挙げてそれを制した。
ハルノ「……あら? いいわ、下がっていなさい」
ハルノは完璧な「威厳」と「慈愛」の笑みを浮かべながら、ハチマンへと歩み寄る。
ハルノ「珍しいわね。私を見て頭を下げないなんて。あなた、怖いもの知らず?それともただのお馬鹿さん?」
甘く、優しく、しかし有無を言わせぬ圧を伴った声。普通の人間なら、そのプレッシャーだけで気を失うだろう。
しかし、ハチマンの濁った目は、彼女の奥底にある感情を即座に読み取っていた。彼の見聞色には、ハルノの纏う「完璧な天竜人」という殻の下にある、深い諦観と退屈が痛いほど伝わってきたのだ。
ハチマン「……」
ハルノ「どうしたの? 黙っていてはわからないわ」
ハチマン**「……随分と息苦しそうな仮面だな。あんた、本当はそんなこと欠片も思ってないだろ」**
ピタリ、と。
ハルノの笑みが凍りついた。
護衛「き、貴様! ハルノ様に向かって何という暴言を……!」
ハルノ「……待ちなさいと言っているでしょ!彼には手を出さないで」
ハルノの声から、先程までの甘い響きが完全に消え去っていた。冷たく、底知れない瞳でハチマンを見下ろす。
幼い頃から完璧に演じ続けてきた天竜人としての自分。それを、初対面の薄汚れた剣士に一瞬で見破られたのだ。
ハルノ「……面白い子。ねえ、少し私とお話ししない?」
人気のない海岸の岩場。
ハルノは護衛を遠ざけ、ハチマンと二人きりで潮風に吹かれていた。
ハルノ「……私はね、他の天竜人たちとは少し違うの。私は幼い頃から、この窮屈な世界にずっと疑問を持っていたわ」
ハルノは水平線を見つめながら、ポツリポツリと本音をこぼし始めた。
ハルノ「本当は、この自由な海を旅してみたい。でも、天竜人という立場がそれを許さない。だから私は、完璧な仮面を被って、波風を立てずに生きていくことを選んだの」
ハチマン「……なら、さっさとそのふざけた宇宙服みたいなモン脱ぎ捨てて、海に出りゃいいだろ。仮面被って死んだふりして生きるのが、あんたの望みか?」
ハルノ「……生意気。私だって、一人ならとっくにそうしているわ。でも……マリージョアには私の妹がいるのよ」
ハルノの表情に、微かな翳りが落ちる。
ハルノ「あの子も、本当は外の世界に憧れてる。毎日図書館に引きこもって、青海の書物ばかり読んでいるわ。でも、あの子は不器用で、一人じゃ生きていけない。……あの子を置いて、私だけ自由になるなんてできないのよ」
妹を想う姉の、切実な本音。
ハルノは自嘲気味に笑い、諦めの念を浮かべた。
ハルノ「だから、無理なのよ。私一人じゃ、聖地マリージョアの厳重な警備を掻い潜って、あの子を連れ出すなんて不可能だわ」
沈黙が落ちる。波の音だけが響く中、ハチマンは腰に差した刀――ネコネコの実を食べた愛刀『カマクラ』の柄を撫でた。
カマクラ「ニャン……」
小さく鳴いた愛刀を撫でながら、ハチマンは低く冷たい声で言った。
ハチマン**「……なら、俺を奴隷として買え」**
ハルノ「……え?」
ハチマン**「首輪をつけて、俺をマリージョアに連れて行け。俺が、あんたの妹ごと引きずり出してやる」**
ハルノは目を丸くした。天竜人の本拠地であるマリージョアに、自ら奴隷として乗り込むなど、狂気の沙汰だ。
ハルノ「……あなた、正気? もし見つかれば、ただじゃ済まないわよ。それに、あなたに何のメリットがあるの?」
ハチマン「俺の妹も、昔天竜人に攫われた。……クソみたいな世界の本拠地に潜り込めば、何かわかるかもしれねぇからな。あんたの妹を助けるのは、そのついでだ」
ぶっきらぼうに言い放つハチマンの言葉に嘘はないと、ハルノは悟った。
彼の腐った目は、底知れない覚悟と憎悪、そして……不器用な優しさを隠し持っていた。
ハルノ「ふふっ……あはははは!」
突然、ハルノが腹を抱えて笑い出した。天竜人としての仮面など微塵もない、年相応の少女のような無邪気な笑い声。
ハルノ「あー、おかしい。あなた、本当に馬鹿ね。最高に狂ってるわ」
ハチマン「……人のこと馬鹿馬鹿言うな。取引は成立か?」
ハルノは笑い涙を拭いながら、悪戯っぽく微笑んだ。
ハルノ**「ええ、いいわ。あなたを私の『特別な奴隷』として買ってあげる。…...私たち姉妹を自由な海へ連れ出してちょうだい!」**
こうして、腐った目を持つ剣士は自ら首輪を受け入れ、完璧な仮面を被った天竜人の少女と共に、レッドラインの頂上・聖地マリージョアへと足を踏み入れるのだった。


















ところどころ**があるけど何ですか?