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酔った君の「好き」は、明日もう一度聞く

七瀬七瀬

実装前 ローエン夢 普段は真面目で隙を見せない夢主が、女子会のやけ酒でまさかの酔いどれ告白。 そんな夢主をローエンがお姫様抱っこでお持ち帰りする話。 一生小説の書き方を模索してる。むずかしいね。こまったね。

○○は、隙のない女だった。

酒場で笑う時も、訓練で息を切らす時も、任務で背中を預ける時も。
どこか必ず、最後の一枚を自分の手元に残している。
それが腹立たしかった。
誰より近くにいる自覚はある。
誰より多く、こいつの無茶も、強がりも、負けず嫌いも知っている。
声を聞けば、機嫌がわかる。
歩き方を見れば、どこを痛めているのかだいたいわかる。
笑っていても、本当に笑っているのかどうかくらいは見分けがつく。
そこまで見ている時点で、まともじゃない。
わかっていても、目を離せなかった。

それでも○○は、肝心なところで踏み込ませない。
信頼はしているし頼ってもくる。背中も預ける。
だが、甘えない。
俺はそれを、ずっと面白くないと思っていた。
気づいた時には、目で追っていた。
任務中も、訓練中も、酒場で仲間に囲まれている時でさえ。
好意を向ければ笑ってかわす。
踏み込めば、冗談の顔で一歩引く。
まるで、これ以上近づかれたら困るとでも言うように。
そういう態度を見るたびに、力任せに引き寄せたくなる。
逃げ道を潰すのは得意だ。追い詰めるのも嫌いじゃない。
必要なら、相手が諦めるまで外堀を埋めるくらいは平気でする。

だが、○○相手にそれをやりすぎれば、手に入る前に壊れる。
あいつは頑丈だ。戦場ではしぶといし、多少の無茶なら笑って耐える。
けれど、心の奥にあるものだけは、妙に脆い。
だから急がなかった。
待つくらいの分別はある。
待ちながら距離を詰めるくらいの性格の悪さもある。
訓練を見てやる。任務に連れ出す。背中を預ける。無茶をしたら叱る。傷を負えば手当てする。酒場で隣に座る理由を作る。
少しずつ。
焦らず。
けれど確実に、俺のいる場所に慣らしていく。
そうやって、○○が逃げない距離を測っていた。

そんな女が酒場で酔い潰れたと聞いた時、俺はまず眉を寄せた。
○○が、酔い潰れる?
普段のあいつならありえない。酒場にいても、限度を越す前に必ず手を止める。
酔った仲間の世話をする側であって、自分が世話される側に回る女じゃない。
ろくなことになっていない。
そう思って酒場へ向かった。
まさか、そこで待っていたのが、こちらの腕に頬を寄せて名前を呼ぶ○○だとは思いもしなかった。

酒場の扉を開けた瞬間、やけに明るい声が飛んできた。

「副隊長、こっちですこっち!」

呼びに来た部下の声は、妙に弾んでいた。
嫌な予感がした。
第五小隊の連中は、任務中は十分使える。
索敵、援護、撤退判断。必要な場面で必要な動きをする程度には鍛えてあるし、無駄口を叩きながらでも銃は外さない。
だが、酒が入ると話は別だ。
特に、女連中が妙な結束を見せている時は、だいたい面倒なことになっている。

酒場の隅。
いつもなら騒ぎの中心から一歩引いた席にいるはずの○○が、机に頬をつけるようにして座っていた。
その周りを、妙に目を輝かせた女たちが囲んでいる。
俺はその光景を見て、まず眉を寄せた。
「お前ら、どんだけ飲ませたんだよ」
責めるつもりで言ったのに、返ってきたのは妙な沈黙だった。
いや、沈黙というより、期待に満ちた空気だった。
全員、目が笑っている。

こいつら、何か仕込んでやがる。
そう思った時には、もう遅かった。

「ん……」

机に突っ伏していた○○が、ゆっくり顔を上げた。
目元が赤い。
視線が合っているようで、合っていない。
普段の、張りつめた糸みたいな気配はどこにもなかった。
いつもなら背筋を伸ばして、酒場でも必要以上に羽目を外さない。
冗談には笑うが、線は越えない。
酔ったふりをしても、判断だけは最後まで残す女だ。
その○○が、こちらを見て、ぱっと顔を緩めた。

「ろーえんさん?」
「……あ?」
「ろおーえんさんだ〜」

間延びした声だった。
俺は一瞬、言葉を失った。
次の瞬間、○○は当然のようにこちらへ倒れ込んできた。
肩に額が触れる。腕が絡む。
逃がさないと言わんばかりに、両腕で俺の腕をぎゅっと抱き込んだ。
軽い力だ。
本気でほどこうと思えば、どうとでもなる。
だが、俺は動かなかった。

「酔いすぎだ、○○」
「よってないです」
「目がすわってんだよ」
「すわってないです~ろーえんさんがいるから、だいじょうぶなんですもん」

周囲の女たちが、音もなく身を乗り出した。
俺は横目でそれを見る。
全員、作戦成功、と顔に書いてあった。

なるほど。
こいつらが俺を呼んだ理由は、酔いつぶれた仲間の回収じゃない。

「ろ~えんさんに質問でーす」
「聞け」

反射で答えてから、少しだけ後悔した。
隣で○○が、えへへ、と笑ったからだ。
その笑い方を、俺は知らなかった。
任務の成功を喜ぶ笑いでもない。敵を倒したあとの高揚でもない。
誰かに気を遣って作るものでもない。
ただ、俺がいるから嬉しい。そんな馬鹿みたいに無防備な笑い方だった。

「私たちの部隊で、一番強いのはだれでしょう?」
「俺」

即答すると、○○は満足げに頷いた。

「せいか~い!」
「当たり前だろ」
「じゃあ~いつも私の訓練みてくれてるのは?」
「俺」
「せいか~い!」

周囲が小さく肩を震わせている。
笑いを堪えているのが丸わかりだった。
俺は半眼で睨んだ。

「お前ら、あとで覚えてろよ」
「まだです、副隊長。まだ本題じゃないです」
「本題?」

その言葉に、嫌な予感がした。
○○は腕を抱えたまま、俺を見上げてきた。
酔いで焦点の甘い目。赤くなった頬。
普段なら絶対にしない距離の詰め方。
それだけでも十分、たちが悪い。
なのに、○○は首を傾げて、ふにゃりと笑った。

「じゃあ~」

間が空いた。
俺は黙って続きを待った。
周囲の連中は、なぜか全員、祈るような顔になっている。

「私が、最も信頼してて~」

その言葉で、少しだけ空気が変わった。

「大好きで、好きで好きでしかたないって思ってる人は、誰でしょ~?」

とびきり甘い声だった。
酔いで舌足らずになっているくせに、そこだけ妙にはっきりしていた。
冗談でも、からかいでもない。
胸の奥に隠していたものが、酒に浮かされてそのままこぼれたような声だった。

酒場の音が、一瞬遠のいた。
くだらない酔っ払いの戯言だ。
そう片づけるのは簡単だった。
酔っているし、判断力が落ちている。
明日になれば覚えていない可能性だってある。
だから本気にするな、と頭のどこかが言った。
だが、無理だった。
あんな声で好きだと言われて、笑って流せるほどできた男じゃない。
しかも、その前にこいつは言った。最も信頼している、と。
信頼なら、前からあった。
こいつが俺の指示を聞くことも、戦場で背中を預けることも、今さら疑ってはいない。
だが、好きで好きでしかたない相手として。
最も信頼している相手として。
その両方を俺に向けたのなら、もう聞かなかったことにはできなかった。

「……」

目の前で、酒を飲ませた連中が必死に首を縦に振っていた。
言え。
今だ。
そう顔に書いてある。
俺は、ゆっくり息を吐いた。

「お前ら」
「はい」
「よくやった」

その瞬間、酒場の一角が爆発した。

「ふーー!!!おめでとうございます!!!」
「副隊長おめでとうございます!!」
「○○、言えたじゃん!!」
「えらい!!よく言った!!」
「うるせぇ」

短く切り捨てたが、誰も黙らなかった。むしろ余計に盛り上がった。
隣の○○だけが、何が起きているのかわかっていない顔で、俺の腕を抱えたままにこにこしている。

「ろーえんさん」
「なんだ」
「せいかい、言ってないです」
「あ?」
「こたえ~」

答え。
俺は、周囲の騒ぎを無視して○○を見下ろした。
○○は本気で待っていた。自分であれだけ言っておきながら、答えをこちらに言わせるつもりでいるらしい。
酔っ払いは面倒だ。
しかも、こいつは酔うと質が悪いことがわかった。
こんなふうに甘えてくるなんて、知らなかった。
こんなふうに名前を呼ぶなんて知らなかったし、俺の理性の隙間へするりと入り込んでくるなんて。

「俺だろ」

低く答えると、○○は満足そうに笑った。

「せいか~い!」

その声が、やけに胸に残った。
俺は額に手を当てたくなった。代わりに、○○の肩を支える。

「とりあえず、こいつは連れて帰る」
「きゃー!!」
「お持ち帰りだ!!」
「副隊長、紳士的にお願いします!!」
「明日の訓練、全員倍な」

悲鳴が上がった。
だが、誰も本気で嫌がってはいなかった。
むしろ全員、やり遂げた顔をしている。
腹立たしいことに、実際、こいつらはよくやった。

「かえるんですか?」
腕にしがみついたまま、○○がきょとんと俺を見上げた。

「ああ」
「ろーえんさんと?」
「俺が連れて帰る」
「やったあ」

何がそんなに嬉しいのか、○○はふにゃりと笑った。
普段の○○を知っている者が見れば、まず目を疑う顔だった。
背筋を伸ばし、酒場でも羽目を外さず、任務中は誰よりも早く状況を見て動く女。
冗談には笑っても、距離の取り方だけは間違えない女。
その○○が、今は俺の腕に頬をすり寄せている。

「立てるか」
「たてま~す!」

きっぱり答えたくせに、立ち上がろうとした瞬間、○○の膝は頼りなく崩れた。
俺はため息をつく。

「立ててねぇだろ」
「床が……ちょっと、やわらかいです」
「床は硬い」
「じゃあ、わたしがやわらかいのかも」
「意味わかんねぇこと言うな」

周囲の女たちが肩を震わせていた。笑いを堪えているのが丸わかりだった。
俺は無言でそいつらを一瞥する。

「お前ら、明日の訓練は覚悟しとけ」
「副隊長、今それ言う顔じゃないです」
「めちゃくちゃ大事そうに抱える顔してます」
「うるせぇ」
短く切り捨てて、俺は○○の膝裏に腕を差し入れた。
「え?」

○○が間の抜けた声を上げる。
次の瞬間、ふわりと体が浮いた。
俺は○○を横抱きに抱え上げた。いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
酒場の一角が、一拍遅れて爆発した。

「きゃああああ!!」
「お持ち帰りだ!!」
「副隊長がお姫様抱っこした!!」
「○○、見てる!? 見えてる!? あんた今すごいことされてるよ!!」
「お前ら本当に黙れ」

低くきつめに言ったが、効き目はなかった。

腕の中の○○は、騒ぎの意味があまりわかっていないらしい。
ただ、抱き上げられたことだけは理解したようで、ぽかんと俺を見上げていた。

「ろーえんさん」
「なんだ」
「ちかいです」
「抱えてんだから当たり前だろ」
「そっかあ」

納得したらしい。
○○はそのまま、何の警戒もなく俺の胸元に頬を寄せた。

「ろーえんさん、あったかいです」

その一言で、周囲がまた悲鳴を上げた。
俺は舌打ちした。本当に、こいつらに見せるにはもったいない。
そう思った自分に、少しだけ腹が立った。
○○は重くなかった。
戦場で大剣を振り回す相手を受け止めるより、よほど軽い。
だが、その軽さとは別のものが、腕にずしりと乗っていた。
信頼。
酔っているからこそ、こいつは余計な警戒を忘れている。
普段なら絶対に見せない隙を、今だけ俺に預けている。
それがわかった。
だから、抱える腕にほんの少し力を込めるだけにした。
落とさないように。誰にも触らせないように。それ以上の意味を、今夜だけは表に出さないように。

「帰るぞ」
「は~い」

○○は素直に頷いた。
それから、少しだけ不満そうに眉を寄せる。

「でも、ろーえんさん」
「今度はなんだ」
「まだ質問、あります」
「明日にしろ」
「だめです。いまです」

酔っ払いのくせに、そこだけ妙に頑固だった。
俺は酒場の扉へ向かいながら、短く息を吐く。

「聞くだけ聞いてやる」
「ろーえんさんは」
「俺は?」
「わたしのこと、すきですか?」

背後で、誰かが椅子を倒した。
完全に沈黙が落ちた。
さっきまで騒いでいた連中も、今度ばかりは息を止めている。
俺は足を止めなかった。
止めたら負けだと思った。
腕の中の○○は、答えを待っている。
酔っているくせに、変なところで真剣な目をする。
いつもそうだ。逃げる時は徹底して逃げるくせに、踏み込む時は何の準備もなく心臓を刺してくる。

「酔っ払いに言うことじゃねぇな」
「えー」

○○は不満そうに唇を尖らせた。

「聞きたいです」
「明日、酔いが抜けてから聞け」
「いま聞きたいのに」
「明日だ」
「けち」
「酔っ払い相手に答えを安売りするほど、俺は優しくねぇよ」
そう言うと、○○は少し考え込むように目を瞬かせた。そして、ふにゃっと笑った。
「じゃあ、明日もろーえんさんに会えますね」

俺は一瞬だけ黙った。
酒場の扉を押し開ける。
夜風が入り込んで、○○の髪を少し揺らした。

「……会えるに決まってんだろ」
「やったあ」

心底嬉しそうな声だった。
それから○○は、俺の首元に腕を回した。
力は弱い。酔っているせいで、しがみついているというより、甘えてまとわりついているだけだった。
だが、その仕草があまりに無防備で、俺は視線を前に固定した。
見下ろすと、余計なことを考えてしまう。

「ろーえんさん」
「なんだ」
「落とさないでくださいね」
「落とすか」
「ほんと?」
「俺を誰だと思ってんだ」
「えっと……」

○○は真剣に考える顔をした。
酔って赤くなった頬。眠たげな目。そのくせ、答えだけは妙に嬉しそうだった。

「私がいちばん信頼してる人」

俺は、今度こそ足を止めた。
ほんの一瞬だけ。
すぐに歩き出したが、その一瞬を背後の連中に見られなかったのは幸いだった。

「……そうかよ」
「はい」
「なら黙って運ばれてろ」
「はぁい」

○○は素直に返事をして、また俺の胸に頬を寄せた。
ほわほわと幸せそうに笑っている。普段の堅物ぶりが嘘みたいだった。
任務では冷静で。訓練では負けず嫌いで。酒場でも節度を守って。
誰かに寄りかかることを、まるで悪いことのように避ける。
そんな女が、今は俺の腕の中で完全に力を抜いている。

「ろーえんさん」
「まだ喋るのか」
「すきです」

何度目かわからない爆弾を、○○は眠そうな声で落とした。

「……」
「だいすきです」
「……明日、覚えてろよ」
「なんでですか?」
「言った分、全部聞く」
「なにを~?」
「今のやつを、素面でもう一回」

○○はぼんやり瞬きをした。それから、なぜか嬉しそうに笑う。

「いいですよ」
「……言ったな」
「はい。ろーえんさんになら、いいです」

今夜の○○は、たちが悪い。酔っているし、判断力がない。
だからこれ以上、何かを引き出すべきではない。
そうわかっているのに、こいつは勝手に渡してくる。
信頼も、好意も、甘えも。
普段なら奥に隠して出さないものを、両手いっぱいにしてこちらへ差し出してくる。
受け取るなという方が無理だった。
ただし、今夜は抱えて帰るだけだ。
それで十分だ。いや、十分すぎる。
俺は○○を抱え直した。
腕の中の体が少し揺れて、○○が小さく笑う。

「おひめさまみたいです」
「お前が?」
「ちがいますか?」
「……今だけな」
「じゃあ、ろーえんさんは王子様ですか?」
「俺がそんな柄に見えるか」
「見えます」

即答だった。
俺は眉を寄せる。

「目まで酔ってんのか」
「かっこいいです」
「……」
「つよくて、やさしくて、ちゃんと帰ってきてくれて、私のこと落とさないでくれるので」
「基準が雑だな」
「ろーえんさんだから、いいんです」

その言葉に、俺は返事をしなかった。
返せば、声が少し変わる気がした。
○○はしばらく満足そうにしていたが、やがて眠気に負けたのか、瞼をとろんと落としはじめた。
それでも、首元に回された腕は離れない。

「ろーえんさん」
「なんだ」
「明日も、だっこしてくれますか」
「調子に乗るな」
「だめですか?」
「素面で同じこと言えたら考えてやる」
「じゃあ、いいます」
「本当に覚えてろよ」
「ろーえんさんが覚えててくれるから、だいじょうぶです」

また、それだ。
自分が忘れても、俺が覚えているならいい。
そんなふうに言われたら、こちらは忘れられない。
忘れるつもりもない。
夜道を進みながら、俺は低く笑った。

「お前、明日後悔するぞ」

腕の中で、○○は幸せそうに目を閉じた。

「しーまーせーん。ろーえんさんに、つれてかえるって言ってもらえたので」
「……」
「うれしいです」

それきり、○○は静かになった。
寝息が近い。
首元に触れる呼吸がくすぐったい。
俺は足を止めず、ただ少しだけ抱える腕に力を込めた。
堅物が崩れると、ここまで面倒なのか。
そう思う。
だが、その面倒を他の誰かに渡す気は一切なかった。
明日、○○は顔を真っ赤にするだろう。
否定するかもしれない。覚えていないふりをするかもしれない。
その時は、ひとつずつ言わせる。

今度は酒のせいにできない声で。
腕の中の○○を見下ろして、俺はほんの少しだけ笑った。

「……逃がさねぇよ」

夜風に紛れるくらいの声だった。
○○はもう眠りかけていて、聞こえていない。
それでいい。
今夜の言葉は、酒のせいにしてやる。けれど、なかったことにはしない。
明日、酔いの抜けた声でもう一度聞く。
最も信頼していて。
好きで好きでしかたないと思っている人は誰か。
その答えを。

— End —

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