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長野県警の諸伏三兄弟 番外編9(光明誕生日)

にゃんこばっにゃんこばっ

いつも作品を読んでいただきありがとうございます😊 スタンプやコメント、いいねやウォッチリストへの登録、フォローなど、ありがとうございます。ワクワクしながら通知を見ております✨ 待っていただいていた方がいらっしゃるのかは分かりませんが、お待たせいたしました。 光明くんの誕生日当日のお話です。 いつもと変わらず、弟や幼馴染達と仲良く過ごしているだけのお話です。 もう一年以上、光明くんのお話を綴っておりますが、中々愛着が湧くものですね。 これからも是非捏造諸伏三兄弟の長男として頑張っていってほしいものです。 余談ですが、六月六日は「兄の日」らしく。 これほど光明くんにピッタリな誕生日もないだろうと、この日になりました。 元々、紫陽花の咲く季節の生まれ、という構想はあったものの、まさかその季節にこんなピッタリな日があるとは。私自身も想像しておらず。これが運命というやつですね。 何はともあれ、お誕生日おめでとうございます。 表紙はまた後日差し替えますね。 ・拙宅の景光くんは長野産長野育ちです ・諸伏兄弟について捏造過多 ・それ以外についても捏造しかない ・警察学校組など救済されているキャラもいます ・原作無視軸です ・原作未読、アニメも全話追っているわけではありませんので矛盾点はこのお話ではそういうものなんだと流してください ・なんでも許せる方向けです ・雰囲気でお楽しみください

注意

・拙宅の景光くんは長野産長野育ちです
・諸伏兄弟について捏造過多
・それ以外についても捏造しかない
・警察学校組など救済されているキャラもいます
・原作無視軸です
・原作未読、アニメも全話追っているわけではありませんので矛盾点はこのお話ではそういうものなんだと流してください
・なんでも許せる方向けです
・雰囲気でお楽しみください

六月六日。この日も長野の平和を守ったお巡りさんな三兄弟はいつもどおり家に帰ってきていた。今日が光明の愛する両親が光明をこの世に産み落としてくれた日であることを光明も覚えている。だから今日が自分の誕生日であるという自覚はあった。

「今日は光明兄さんの誕生日パーティーするからね!」

「敢助くんと由衣さんは一度自宅に戻ってお風呂に入ってからこちらに顔を出してくれるそうです」

景光と高明の報告に、光明は居心地悪そうに笑みを浮かべた。

「そんな盛大にしなくていいけどなぁ」

弟妹の誕生日ともなれば、とっておきのプレゼントを用意して豪勢な料理で迎えるのに、自分のこととなると途端に消極的になるのは兄の悪いクセだと弟達は思っていた。昔から、自分を主張するような性格ではなかったものの、両親を亡くしてからの生活がより一層その性格に拍車をかけた。
自分のことより他の大切にしている人のことに意識を割く兄を、弟妹達は大切にしたいのだ。光明が光明自身を大切にしない分、それを補うように。否、それを補って余りある程に大切にしたいと思うのだ。

「僕達が光明兄さんを盛大にお祝いしたいからするんだ」

「そうそ。光明兄さんが大好きだからお祝いするんだよ」

弟二人の言葉を受けて、居心地悪そうに笑みを浮かべていた光明が表情を緩めた。自然な笑みに変わったそれを見て、高明と景光は胸中で安堵の息を吐く。別に祝われるのが嫌いなわけではないのだ。ただ、自身を大切にされるということに慣れていないだけ。ずっと自分をすり減らすような生き方をしてきたから。
庇護して愛をくれる存在は早々に光明の傍から居なくなってしまった。光明の中には両親に愛されていた記憶は微かにあるけれども、それも年月と共に風化してだんだんと朧気な物になってきている。両親と過ごした時間より、親代わりとなって弟達を胸に抱いて走った時間の方が長くなってしまったから。だから、人を大切にすることは覚えていても、自分が大切にされることに関しては忘れてしまっていた。それでもいいと思って生きてきたから。光明は、自分の大切な物が変わらず在るだけで十分幸せだと思っていたから。

「ちゃちゃっとお風呂入っちゃうよ。今日は豪勢にしたげるね!」

「僕も腕をふるいますので」

「高明も料理作ってくれるんだ?」

光明の疑問に、高明は含んだ笑みで「うん」と答えた。

敢助と由衣が諸伏家に着いたのは、業務終了後から三時間ほど経ってからだった。一度家に帰って風呂に入って誕生日パーティーの準備をしてきたのだから、巻いた方だろう。
その頃には高明と景光が作った料理は食卓に並んでおり、椅子も一脚引っ張りだして五人で食卓を囲む準備が整っていた。

「おー。敢助、由衣ちゃん。わざわざ悪いな」

「兄貴分の誕生日を蔑ろにするわけにもいかねぇだろ。ほら誕生日プレゼント」

「ミツくん、お誕生日おめでとう!いつもありがとう。これ私から」

敢助と由衣から光明に渡されたのは、ナイロン袋に入った何か。持ってみると温かい。鼻を鳴らせば、景光や高明が作ってくれたのとは違う料理の匂い。
光明が首を傾げれば、敢助と由衣が仕方なさそうに笑った。

「ミツが欲しいもの言わねぇから、今年のプレゼントは料理の持ち込みになった」

「ミツくんお魚好きでしょ?私のはアジの南蛮漬け。敢ちゃんのは赤魚の煮付けかな。敢ちゃんのおばあちゃん、ぼた餅だけじゃなくて、お料理も得意だから」

「ばあちゃんに作り方教わって作ってきた」

光明が目を瞬かせて、敢助や由衣の顔と渡された手の中にある料理の入った袋の間で視線を往復させる。しばらくして、ポツリと「……開けて見ていい?」と言うので、敢助も由衣も大きく頷いた。
ダイニングテーブルの上に並べられていた料理を景光が机の端に寄せて、敢助と由衣の料理を置くスペースを作ってやる。
光明は袋の中からタッパーを慎重に取り出して、ダイニングテーブルの上に置いた。まずは由衣のタッパーから。タッパーの蓋を開ければ、それまで微かに香っていた酢の香りが強くなった。散らされた玉葱と人参の彩りが鮮やかで、アジの切り身が纏った衣はタレを吸って大変に美味しそうだ。
次に敢助が持ってきたタッパー。光明の優れた嗅覚は密閉力に優れたタッパーからでも甘い匂いを感知していた。蓋を開ければより強く甘辛い醤油ベースのタレの匂いが光明の鼻腔を擽る。赤い皮に白い身。実際はよくタレに漬け込まれていたのだろう。白い身はタレの色が移り食べ頃であることを主張している。刻まれたショウガの匂いも、空腹を刺激するアクセントとなっていた。

「美味しそう」

光明が言いながら、無意識に唇を舐めていた。お腹が空いた子供のようなその仕草に、景光が手を叩く。

「はいはい。それじゃ、皆集まって準備も揃ったから始めよっか」

その場の皆が良い返事をして、それぞれの定位置につく。リビングの大窓を背にして、キッチンに近い席に光明。その横に敢助。お誕生日席に由衣。敢助の向かいには景光。その隣には高明。という順番だ。

「では祝われる側から一言どうぞ」

高明が面白そうに光明に雑に話を振った。光明も「アッ、今年そういう感じ?祝う側からおめでとうじゃなくて?」と困惑しつつ、落ち着けた腰を持ち上げた。

「えー、本日はお日柄も良く」

「もう夜だけど」

「昼間は雨だったろうが」

「結婚式の挨拶でも始めようとしてます?」

「ミツくん、簡単でいいわよ」

雑に話を振られてノってみればこれである。「皆が俺に冷たい」ええん。と雑な泣き真似をしているものの、光明の纏う空気は楽しそうなものだ。だから、机を囲む光明の弟妹達も皆それぞれ笑みを浮かべていた。
ふざけた雰囲気を取り払った光明が、立ったまま弟妹達の顔を見回す。そうして眉尻を下げて、へらりと笑った。

「ええ…っと、ありがとう。お前らが俺のこと考えて、こうやって集まってくれることが、俺は嬉しい。俺としては、皆が元気でいてくれたら、それだけでプレゼント貰ってるようなもんだよ。その上、手間かかるだろうに、こんな豪華な料理作って貰って……」

「まぁ、作ったのは煮魚と南蛮漬けと……」

「塩麹漬け唐揚げとカルパッチョ、オムライス、焼き鮭とキュウリのまぜ寿司に……」

「ナポリタンとたらこのクリームパスタ、ですね」

机の上を見つつ、敢助と景光と高明が並んだ料理のラインナップを上げていく。料理だけ見れば、何の催しなのかさっぱりだろう。そもそも誕生日パーティで煮魚と南蛮漬けは聞いたことがない。
本当にこれで良かったのだろうか。今回の発案者でもある敢助は、今更ながら少し焦り始めていた。光明に物欲がないのは今に始まったことではない。だから、今までは実用的な消耗品だったり高明や景光や由衣と連名で高めの物を贈ったりと、色々と思考を巡らせていたのだが、この歳になって少し焦りが出始めたのだ。
高明と知り合ったのとそう変わらない時期から、敢助は光明に世話になっている。初めは友達の兄貴だったその存在が、大和家の長男である敢助の“兄貴分”となるのにそう時間はかからなかった。
最初の頃は高明のついでに敢助の面倒も見てやっている程度だっただろうが、時間と共に光明と敢助だけで過ごす時間も多くなってきて。気がつけば、三十を超えてもまだ子供の面倒を見るように、光明は走り回る敢助を眺めている。
過去を振り返れば、大きな選択に迷った時に相談するのは実の父でも母でもなく、この兄貴分だったような気がする。甲斐さんは憧れの存在だったから、そんな簡単なことで悩んでいるのだと思われたくなくて本当に大事なことは相談できなかった。何でもない相談はいくらでも出来たのに。
大学進学で長野を出て行くか悩んだときも、悩み抜いた末に相談したのはこの兄貴分だったような気がする。高明が東都大学への進学を早々に決めて。大学在学中にかかる費用や一人暮らしの不安など。高明には勿論相談できないし、今までそこまで不安に思ったことはなかったから、どうしようと途方に暮れていた敢助に声をかけたのは光明だった。
その時には既に働いていた光明は、敢助を一人だけ食べに連れて行ってくれて。まだ子供だった敢助の不安を笑うことも馬鹿にすることもなく。真剣に話を聞いて、言葉を返してくれた。「大学進学の費用に関してはきちんとご両親と話をしな。奨学金の制度もあるし。それでも賄いきれないなら、足りない分俺が貸してあげる」鉛筆や消しゴムを貸すような、そんな気軽さに当時の敢助は言葉を失った。だって、両親が殺されてから光明がどれだけ苦労して生活費を稼いでいたのか、日々の生活をこなしていたのかを知っている。
弟二人の将来のために、どれだけその身を削って蓄えようとしていたのかを。だから、敢助は返す言葉を失ったのだ。なんで。どうして。それだけが頭の中をぐるぐると回って。「勘違いすんなよ」光明の言葉に、思考に沈んでいた敢助は現実に引き戻される。「貸してやるんだから、ちゃんと返せ。ウチはまだもう一人大学進学を控えた子供がいるんで」茶目っ気を持たせた言葉は、けれど決してその場だけの言葉などではなく、敢助が貸してくれと頭を下げれば本当に貸してくれるのだろう。弟分といえども、結局は赤の他人だ。どうしてそこまで。困惑する敢助に、光明は先程とは打って変わって真剣な表情で敢助に言った。「お前にはたくさん助けられたから。敢助がいなかったら、高明は今頃どうなってたか分かんないし。お前が高明の傍にいてくれたから、両親が居なくなってからも安心できてたとこはたくさんある。だから、ありがとう敢助」相談に乗ってもらって頭を下げるべきは敢助の方なのに、実際に頭を下げたのは光明だった。当時はとても慌てたものだから、あれから十年弱経つが未だに鮮明に敢助の記憶に残っている。
今までの敢助の人生の中で、光明に世話になった回数を数えれば、両手足の指では数え切れないだろう。
そんな兄貴分の誕生日を、適当なプレゼントで流してしまっていいものなのだろうか、という気持ちが今更ながら湧いてきたのだ。
いや、光明は渡される物が何であっても渡した人間が考えて選んだ物なら、とても喜んではくれるのだが。それは渡す側の気持ちの問題というか。
そうして、苦し紛れに思いついたのがコレだったわけだ。
最初は良い案だと思っていたのだが、光明が祝う側であれば祝われる側の好きな料理は勿論、欲しい物や好みなどを的確に把握して何かを与えてくれるので、釣り合いがとれていない心境になるのだ。全て光明が悪い。

(こいつの好きな料理を作って並べたとはいえ、結局は“好きそうな物”だからな……)

両親を亡くして、弟と思い出だけを抱えて走り抜けてきた光明は、他の全てを自ら投げ捨ててしまっていた。抱えすぎると腕の中からすり抜けていくことを知っていたから、本当に大切な物だけを腕の中に残したのだ。光明の大切な物の中に、光明自身は入らなかった。だから、光明は自分自身に関心はないし、好む物も趣味といえる物も、何一つ持っていなかった。
最近は弟達が光明の手を離れても生きていけることや、光明が頼ってもいい存在になり始めたことで光明自身に目を向ける余裕が出てきて少し改善されたようだが、それも結局は微々たる変化だ。
まだ。まだ、足りない。せめて自分の好きなもの十選に弟の名が入らない程度には自分の嗜好に目を向けてもらいたい。嫌いなものを嫌いだと声を大にして叫んでほしい。敢助だけでなく、高明や景光、由衣が大切にしたい光明のことを、光明自身が蔑ろにするのを見たくはない。

「ミツ、お前加熱したトマト苦手だったろうが。トマトスープとかも軒並みダメだったろ。ナポリタンはいけんのかよ」

「?俺トマト食べれる」

「いや、食べれるかどうかじゃなくてだな」

ああ、これだから。
敢助は片手で顔を覆った。景光が言うには、加熱して堅くなったトマトの皮が苦手なのではということだったが。光明自身はそんなことを微塵も考えていないらしい。光明の中には好きか嫌いかではなく、食べれるか食べられないかの基準しかない。昆虫食などは流石に忌避するらしく、イナゴの佃煮を前にして「……食べたくない」と泣きそうになっていたが。でも、何事も経験。と突き進む高明が食べようとしていたので、光明がええん、と泣きながら率先して口に入れていたのは流石に過保護がすぎる。もう大人なんだから勝手に食わせとけ。嫌ならもっと主張しろ。

「光明兄さんはトマトを加熱したときの酸味も苦手みたい?食材が痛んだりしたときの匂いとか味を連想するからなのかな?腐ると酸っぱい味とか匂いしたりするし。だから、酢の物とかの味付けも甘めのが食べるんだよね。甘いの苦手なのにね」

「動物かよ」

「まぁ、光明兄さんに気持ちよく食べて貰うには、まず匂いの関門をクリアしないと駄目だから似たようなものかも」

景光がそう言って笑った。呆れる敢助の横で光明は「食べれるってことは嫌いではないのでは?」と言って、高明に「シッ」と注意されている。

「酸味が強く出ないように上手く味を調整しましたから、大丈夫ですよ」

高明が柔らかに笑った。きっと完成に行き着くまでになんども試作しては光明に食べさせ、様子を確認していたのだろう。光明本人は、最近ナポリタン多いね。くらいにしか思っていないのだろうが。

「まぁ、俺の話はさて置いて」

「いや、ミツくんの誕生日だからね?」

「主役の話はさて置けねぇんだよな」

「光明兄さん主役の自覚持って」

「タスキでもかけますか?」

パーティグッズでよくある『俺が主役!!』と書かれたタスキを高明がどこからともなく取り出してきた。いや絶対今日のために用意してただろ。「ええ……」と光明が嫌そうな顔をしながら高明から与えられたタスキを身につけている。
気を取り直した光明が「ええっとぉ」と言葉を探している。

「お前らが生きてるだけで俺は幸せなんだけど、こうやって俺の誕生日を祝おうとしてくれることが、俺は嬉しいよ。俺のことを思って行動を起こしてくれる人がいることが、どれだけ幸せなのか、毎年噛み締めてる。あと、誕生日プレゼントありがと。敢助や由衣ちゃんの手料理はあんまり食べる機会ないから凄く嬉しい」

「俺と高明兄さんの料理は食べ飽きたって?」

「そんなわけないだろ。俺のこと考えて作ってくれた料理なんだから、一生かかっても食べ飽きねぇわ」

拗ねたような景光の頭とその横で話を聞いていた高明の頭を、光明は撫でた。「いつも美味しいごはんありがと。んで、今日は俺の好きなものいっぱい作ってくれて嬉しい」労われた弟達が照れたように笑みを漏らした。「ほら、悠長にしてると折角の飯が冷めるぞ」敢助が声を上げる。「俺もお腹空いた」光明がダイニングテーブルに並ぶ料理を見て舌舐めずりをした。
今日も長野の平和のためによく働いたのだ。働き盛りの男女五人の腹は元気に空腹を主張している。

「待って待って。最後にこれだけ!」

景光が慌てたようにダイニングテーブルの真ん中に焼き鮭とキュウリのまぜ寿司を寄せた。綺麗に平らにならされたそのまぜ寿司に景光が容赦なくろうそくを三本立てる。

「そこに立てんのかよ」

普通ならケーキに歳の本数だけ立てるだろうが、ここに揃っている人間は皆いい歳の大人である。歳の数だけろうそくを立てていればハリネズミのようになってしまうし、ろうそくが勿体ない。なので、諸伏家の誕生日では十の位の数だけろうそくを立てている。一本がなくなるほど火を点け続けることもないので、同じろうそくを使い続けている。衛生的なものを考えて、料理との接地面はラップで覆われていた。急な勿体ない精神。

「光明兄さん甘いの好きじゃないからケーキは用意してないんだよね」

「まあそれは毎年そうだもんな」

諸伏三兄弟だけでなく、敢助や由衣の誕生日パーティもこの家で行ったりするので、諸伏家でのろうそくの謎ルールは幼馴染達も周知のものだった。
景光が持ってきたチャッカマンでまぜ寿司の中に聳え立った小さく細めのろうそくに火を点けていく。高明がリビングの電気を消すために席を立った。

「去年は挿すとこなかったから、光明兄さんが直接持ったまま火点けたじゃん?」

「そこまでしてろうそくに火を点ける必要があるか議論になったやつな」

まだまだ着火点と持ち手の部分までの距離があるので火傷の心配はないだろうが、もう全員がいい歳なのだし、ろうそくがなくても問題はないのでは。と敢助は思うのだ。まあ、特別な日だから、ろうそくを点けたくなる気持ちも分からなくはないが。
ろうそくを点けて吹き消す機会など誕生日しかない。歳を重ねて、子供の頃抱いていたろうそくを吹き消すことに関しての特別感が薄れてしまって、率先してしようと思わなくなってしまった。
その“特別”を、この家はずっと大切にしている。
子供の頃心を躍らせていた小さなイベントを、大人になってもまだ大切に繰り返している。大人になりきらなくてもいいと言われているようで、なんだかんだ、それが嬉しいのだ。

「誕生日だよ?特別な日はろうそく点けないと!」

「ヒロのろうそくへの執着はなんなんだよ……」

楽しげに笑う景光も、呆れたような敢助も。どちらも、誕生日だけのこの特別なイベントを楽しみにしていることに変わりはない。きっと、笑って話を聞いている由衣も、高明も、光明も。ここに居る全員が。

「火点けた!」

景光の合図で高明が部屋の電気を消した。リビングの灯りはろうそく三本のみだ。その灯りがなくても、暗視能力に長けた三兄弟は不自由なく周りを見れるのだろうが。
炎が揺れる度に、当たりを照らす光も仄かに揺れる。

「誕生日おめでとう」

示し合わせたわけでもないのに、光明以外の四人の言葉は重なった。
生まれてきて、出会ってくれてありがとう。それはお互いがお互いの誕生日にかける言葉だった。いつから始まったものかは忘れてしまったけれど。でも、心の中に溢れる温かな思いを口に出したらそんな言葉になってしまう。この広い世界で兄弟として、幼馴染として関係を築けた奇跡を何度だって祝いたかった。
人生は様々な選択肢の上に成り立っている。
誰かの選択肢が一つでも違えば、こうして五人が揃って机を囲むこともなかったかもしれない。
この地を離れる選択をする者もいたかもしれないし、そもそもこの歳まで生きていられる保証だってなかった。平和といえども何が起きるか分からない世の中であるというのは、三兄弟は勿論、三兄弟に一番近いところにいた敢助と由衣だってよく知っている。
だからこそ、今この場を五人で迎えられていることが何よりも尊いことであるということを、皆理解していた。

未だ光明の嗜好は分からず仕舞いであるが、一つだけ分かっていることがある。
それは、光明の弟妹達が笑っていれば、光明も幸せだということだ。
ケーキに歳の数だけろうそくを立てて一度の息で吹き消せたなら、願いが叶うなどと子供の頃は言っていたが。光明は何を願ってろうそくを吹き消すのだろうか。
ろうそくの火だけが光源となっている諸伏家の静かなリビングに、光明が息を吸う音がよく響いた。
すぅ、と光明の呼吸音が聞こえて、それが一瞬止まる。弟妹達が席から勢いよく立ち上がったのは、その時だ。
ろうそくの火が消えた。
真っ暗な中でしばしの沈黙。「高明、電気」光明の声が響き、少し後にリビングの灯りが点く。
立ち上がったはずの弟妹達は真面目な表情で各の席に腰を降ろしていた。

「正直予想はしてた」

光明が『俺が主役!!』と主張の激しいタスキを掛けたまま、難しい顔をして腕を組んだ。
景光の腕が天井に向かって綺麗に伸びる。「発言を許す」光明の許可を得て、景光が真面目な表情で「敢助くんが火を消したと思います!」と発言する。続いて由衣が手を上げた。お手本のような綺麗な挙手。警察学校で鍛えられた成果が出ている。「私の肺活量では、その距離のろうそく三本の火を消せないと思います!」「そんなわけねぇだろうが。今更可愛い子ぶるんじゃねぇ」「由衣ちゃんは可愛いだろうが」「そうよ!」「じゃあ、光明は上原があのろうそくの火を吹き消せないとでも?」「ううん……」「エッ、そこ悩むの!?ミツくん嘘でしょ」「いやでも、景光怒鳴りつけるとき割と声でてるもんねぇ……」「ヤクザ顔負けだよね」「そんなわけないでしょ!?」「そういうとこでしょ」「あれ?これ僕だけ蚊帳の外ですか?」「波に乗り遅れるとそうなるんだよ、高明兄さん」「そもそも景光お前、俺の前じゃなくて、机のド真ん中にまぜ寿司置いた時点で狙ってただろ」「うん」「正直敢助くんと由衣さんがノってくるとは思いませんでした」「今しかないと思った」「私も!」幼馴染間でされる会話が特急列車のように凄まじいスピードで進んでいく。
あーあー。と光明は並べられた料理を見て思った。料理が並べられてから時間が経ってしまって、どれも随分と冷めてしまっている。食べ頃を逃してしまった残念さはあるものの、しかし負の感情が湧かないのは、この場が光明にとってとても心地よいものだからだろう。
喜色を浮かべて会話を弾ませる弟妹達の様子は、光明が何よりも望む光景だった。祝いの言葉も、祝いの場も、祝いの品も。何も無くて良い。光明の誕生した日など、光明だけが覚えていればそれでいい。両親が光明をこの世に産み落としてくれた日は、あの壮絶で多忙な日々の中でも色褪せることはなかったから、きっと光明は死ぬまでその日を忘れることはない。どれだけ両親の影がぼやけようが、記憶の中の声がなくなろうが、きっと。
だから、祝いなど必要がないのだ。
祝ってくれるのは、それはそれは光明にとって嬉しいことだけれど。
けれど、光明が今何より欲しているのは弟妹達がどれだけ楽しげに生きているのかを見ることなので。
軽口を言って、笑い合って。そうしているだけで、光明の生には意味がある。
皆は光明に生まれてきてくれてありがとうなどと言うが、それは光明の台詞だ。
光明がこの世に生まれ落ちていたところで、両親が死んでしまえば後を追うように生を諦めていたに違いない。そんな光明をこの世に留めたのは、血を分けた弟である高明と景光の存在だ。そして、そこに更に重しとして光明にしがみ付いているのが敢助と由衣だった。
だから光明としては、この歳になるまで自分のことを生かしてくれてありがとう、なのだ。ここまで光明の心身が充実しているのは目の前の弟妹達が光明を慕って、光明から離れてくれないからだ。
小さな頃から弟妹のように子供のように、光明の傍を走り回っていた弟妹達は未だに光明の足元でうろちょろと忙しなく走り回っては取っ組み合って転がっている。昔はあまり目の届かないところに行かれると心配になるので呼び戻していたのが悪かったのか。自由に何処へだって行けるようになっても、弟妹達は少し遠くに冒険に出ては必ず光明の傍に戻ってくる。
まあ、光明の存在が雨避けに使えるのなら、どれだけ利用してくれても構わないのだが。
光明は机に頬杖をついて、弟妹達の会話に耳を傾け、ころころと変わる弟妹達の表情を眺めている。

(あぁ、幸せだな)

ずっとこのままでいることは叶わないだろうけれど、ずっとこのままでいたいと思う程度には、この空間は光明にとっての幸せだった。
弟妹達には悪いが、光明は光明自身のことを考えるよりも弟妹達のために走り回っている方が幸せだから、中々光明自身への関心を深めるのは難しいかもしれない。
だから、光明の心臓が鼓動を止めるその瞬間まで、この子達がこうしていられる場を守りたいのだと、光明は決意を新たにするのだ。

人物設定

諸伏光明
諸伏家長男。
いつになっても自分を大切に出来ない男。
どうしても思考が自分より弟妹に向くので、たぶん一生改善されない。
食べ物は好き嫌いではなく、食べれるか食べれないかで判別している。ゲテモノ系は苦手。でも、弟に真っ先に食べさせるのは不安すぎるので、真っ先に食べる。ブラコン。
普通の食品で一番苦手なのは、実は牛乳。飲むことは可能なのだが、時間差で吐き戻す。体が受入拒否するほどに苦手なのだが、本人に自覚はない。
敢助の学費に関しては、足りない分は本当に出すつもりだった。“貸す”といいつつ、返ってこなくても別にいいと思っている。高明の人生にとって敢助との出会いは本当に大切なものであったのだということを理解しているが故。兄としては少し複雑なところもあるけれど。
高明は涼しい顔をして割と無茶苦茶するので、大学時代は密かに敢助に高明のストッパーを頼んでいた。何か無茶すれば敢助から光明に緊急連絡が入る仕様だった。

諸伏高明
諸伏家次男。
長年祝ってきた兄のプレゼントを選ぶのに毎年四苦八苦している。
何が好きなのか分からない兄が全て悪い。でも深く考えると、自分と弟を育てるために兄はそうならざるを得なかったのだという結論に至る。手の込んだ自殺。
もういっそのこと、毎年バリエーションを変えてネタパンツを提供するしかないのでは。
諸伏家ではパスタ全般の担当なので、ナポリタンは改良に改良を重ねた。たらこクリームパスタは、乳製品が苦手らしい兄のためにクリーム感少なめに仕上げている。
たとえ兄の誕生日であっても悪戯は年中無休。
愛情表現が時々歪んでいるので定期的に兄を精神的に虐める。別の年に別の恋愛ゲームの攻略をさせたら、入りにくいルートに一発で入ったので、その潜在能力に慄いている。
危なければ長男が止めてくれるし新しいことを経験するのに躊躇がないので、ゲテモノ系にも割と躊躇なく手を伸ばす。死にそうな顔で先にゲテモノ料理を食べる兄を見て、愛情メーターが潤う。

諸伏景光
諸伏家三男。
長男には好き嫌いをもっと主張して欲しい。
諸伏家の料理番。長男の好き嫌い(仮)を日夜研究している。二十年程をかけて、兄が鳥と魚を好んでいるらしいことを発見した。
プレゼントにネタ切れ感が出てきて、どうしようかと悩んでいる。家電を買っても、結局自分達が使ってるし、ネクタイ、時計、などなど普段使い出来る物は兄弟や幼馴染のこれまでのプレゼントで網羅してしまったし。
やはり、残るはネタパンツ……!!それが将来自分の首を絞める可能性を秘めていることにまだ気がつかない。
ゲテモノ料理は、虫系は無理だが割と戸惑わずに食べる。今後の料理の参考にする。本当は食べたくないのに、率先してゲテモノ料理を口に入れる兄の愛の大きさを感じてニッコリ。

大和敢助
三兄弟の幼馴染。
高明経由で光明と知り合うが、弟分となるまでそう時間はかかっていない。本当の兄弟のように過ごしてきたので、関係はとても気安い。
敢助自身も長男として育ってきたのだが、長年弟として接されると本人もそういう思考回路になってくる。困ったときの兄頼り。
でも、大和家長男として育ってきたのも事実で由衣の兄貴分でもあるので、“兄”としての思考は高明よりも光明に似ている。
それはそれとして、光明のことは頼りにしているので、実の親より光明に相談することの方が多かった。
甲斐さんは憧れの存在なので、出来る姿だけを見せたい。甲斐さんはそんな敢助の心情も見抜いて接してくれていた。
大学進学後の費用は親が払ってくれることになり、初めての一人暮らしは光明に勧められて、高明が借りているマンションから徒歩五分圏内のところにした。
光明が高明の様子を見るのと同時に敢助のところにも顔を出してくれるので安心していた部分がある。

上原由衣
三兄弟の幼馴染。
紅一点ということで光明に大変過保護に囲われている。
年が近い故か景光に対しては割と気安め。景光からの当たりも強めなので、バランスは取れている。光明が傍にいれば光明が率先して怒ってくれるので由衣自身が怒る機会はあまりないのだが、光明が居ないところでは景光とのキャットファイトが激化しがち。
過去にちょっと呟いていた高級化粧品が誕生日プレゼントとして与えられて、迂闊に欲しいものを発言できなくなった。でも、そもそも好みを光明に把握されているので無駄な足掻き。何気なしに見ている雑誌のページもきちんと把握していますよ。お兄ちゃんなので。

降谷零
今回不参加。まだ警察庁で働いている。
後日景光に光明の誕生日だったことを聞かされておこ。
そういう!!大事なことは!!もっと早く言え!!

松田・萩原・伊達
そもそも誕生日の存在を知らされていない。

毛利小五郎
いつかに話題に上がりはしたが、野郎の誕生日など覚えていない。

鮫谷浩二
いつかに話題に上がったので、覚えている。再び連絡を取るようになったのできちんとお祝いメールを送った。

— End —

Comments 12

ユヅキ1 天前
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青樹5 天前
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レインボオ6 天前

面白すぎてこの土日で1話からぶっ通しで読み終えてしまいました。シリアスとギャグの塩梅も良くて(?)...!!!!!本当に素敵な作品をありがとうございます!!!!!!

永遠6 天前

おめでとう🎉🎉🎉🎉

あんPAN7 天前
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ありす7 天前
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A
AYU7 天前
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きよみ7 天前

誕生日おめでとうぉぉぉぉ🎉 みんなが傍にいる・・・これが1番の誕生日プレゼントですね(*^^*) もう、ロウソクのとこは腹筋捻れるかと思ったぐらい笑かして頂きました🤣🤣さすヒロ🤣🤣 ほんと大好きなお話です❕ 更新ありがとうございました😊

T
Taketoshi7 天前
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Sakuria
Where every work blooms
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