Novel14 days ago · 4.7k chars · 1 pages

金色に染める

おかゆおかゆ

グローグーの誕生日を祝いたいマンドーの話 マンドーが変わらず激重感情を持っています ※作者はドラマ映画履修済のSW無知勢です。設定の甘さはご容赦ください

それはカルガの邸宅から帰る道中だった。日が沈むのが他の星より早いネヴァロでは、地平線に光が沈んで街のランタンがポツポツと灯り始めている。住人たちの声は賑やかで、これから家族と食事に行く者、友人同士で気兼ねなく飲みにいく者、三者三様に幸福な夜を過ごす気配を感じさせていた。
マンドーの腕に抱かれたグローグーが「う」と声を上げる。先ほどまで眠そうにしていたのにはっきりと意思を持つその声にマンドーはすかさず「どうした?」と返す。

腕の中の子供はある一点を興味深げに見つめていた。大きな瞳が向く先を追って…マンドーは小さくため息をつく。

「ダメだ、夕飯後のお菓子はもう買った」
「う、うー…」

グローグーが見ていたのはいつも2人(主にグローグー)が懇意に訪れる菓子店だった。つい数時間前に訪れたばかりだというのに、と呆れたところ、どうやら少しばかり彼が指差した意図が違うことにマンドーは遅れて気付く。

そこには、大きなホールのケーキを受け取る親と、子供の姿があった。「僕が持つ!」と意気揚々と手を上げる子供を心配しながらも、母親は「貴方のケーキだものね」と優しい声でケーキが入った箱を預けていた。ゆっくり、足元に気を遣って自宅に帰るであろう2人の姿を見送ってマンドーは少し感傷的な気持ちになる。

「…誕生日なんだろうな、あの子供の」
「うぅ?」
「生まれた日だ。年が一つ増える日。…お祝い用に買ったんだろう」

最愛の子供が生まれた日。無事に歳を重ねたことを家族で祝う日。
俺にも、昔はあった。
自分の過去はあまり振り返らない主義だ。家族を失った悲惨な過去であれば尚更。両親を失った後も一人前の戦士になるまでは、自分がマンダロリアンに迎えられた日を密かにアーマラーが祝ってくれた。そう考えれば、自分の幼少期は救われていたと思う。

…しかし、グローグーは違う。

自然とグローグーを抱える腕に力が籠る。当の本人は自分がこんな感情の色に染まっていることに気づきもせず、不思議そうに父を見上げた。
もしかしたら単純に大きなケーキが食べたいだけなのかもしれない。しかし、今やディンジャリンにとって何よりも大切な我が子の誕生日を、他の子供と同じように祝ってやれていない現状は非常に問題であった。
自分よりも遥かに長い長い時間を生きるこの子にとって誕生日など取るに足らない1日に過ぎないのかもしれないが……

「…グローグー」
「んぅ?」
「……お前が生まれた日、は…」

「……んん…?」

グローグーは顔を伏せて、ふるふると首を左右に振った。
もしかして、と僅かな期待を寄せた質問ではあるが、覚えているはずがない。ジェダイの修道院では子供の誕生日を祝う習慣なんてあったんだろうか。両親には…愛されていたんだろうか。幼い頃からフォースの修行をしていた、優秀なジェダイ候補であったグローグー。
今、無邪気に自分に対して甘えてきて、時には困らせてくる『子供』の顔が彼の悲惨な過去を曖昧にすることがあった。目の前で、大切な人たちの命が簡単に奪われていく残酷な現実もこの大きな目で確かに目撃していたという事実。何十年もの間1人で逃げ回って過去を記憶の奥底に封印した事実。

それを時折思い出して、胸が張り裂けそうになってしまう。お前はただ生きているだけで、笑っているだけでこんなにも周りを幸福にしているというのに。

……

「…お前の誕生日を決めようか」
「んぇ?」
「好きに決めていい、家に帰ったらこの星の暦表があったはずだ」
「……」

ネヴァロの家で、一年に一度。お前の誕生を祝う日。
そう告げてもグローグーはあまりピンと来ていないようだった。

「気が乗らないか?ケーキも食える」
「!ぱとぅっ」
「なんなら明日でもいいぞ」
「んぅーん!」

ケーキ、の単語を聞いた途端現金に瞳を輝かせる子供に笑みが溢れる。そうだ、今のお前にとっては「大きなケーキを食べられる日」ぐらいに受け取ってくれて構わない。
もうケーキから視線を外して早く帰ろうと催促してきた。この調子であればこいつの誕生日は本当に明日にでもなるのかもしれない。

夕飯後、ネヴァロの星の暦表を見ながらグローグーはふんふんと唸っていた。単純にケーキを食べたいから早々に設定するかと思っていたが本人なりに思考を巡らせているらしい。いざ暦表を前に「どこでも良いぞ」と言われれば悩んでしまっても致し方ない。
…もしくは自分の誕生日を思い出そうとしているのだろうか。望ましいことであるが、銀河に数多とある星、それぞれに暦がある。グローグーがいた星とこの星では暦の流れもまるっきり異なる。

「…ここはどうだ?時期的にタトゥイーンのブーンタウィークも終わっている。呼べばペリにも会えるかもしれない」
「んー……」
「じゃあここは?この時期になったらネヴァロには雪が降ることもある、この間遊んでただろう?冷たいやつだ」
「…んんー……」
「じゃあ暑い時でもいいぞ、お前は水遊びが好きだから、」
「んんぅ!」

横でそわそわと茶々を入れ出したからか、グローグーが「め!」と不満げに口を尖らせて、珍しく父を咎めてきた。その表情も非常に愛らしい。ディンが脳内に刻み込んでいる間にもグローグーの視線は再び暦表に向き治る。

この子にとっては、一世一代の『記念日』になるかもしれない瞬間に横槍を入れ過ぎた、とディンは反省し机に肘をついてその懸命な横顔をしばし眺めることにした。
丸い頬に赤みが差して,小さな鼻からふんふんと息が漏れている。唇はツンと尖って大きな目がきょろきょろと暦表を右往左往する。3本の指が懸命にペンを掴んで迷っていて……

(…可愛いな…)

こんなにも可愛い子供が生まれた一日を、父となったディンが祝ってあげたい。そう思うのは自然だった。どうして今まで気付いてやれなかったのか不思議なほど。
そんな幸福な悩みに身を苛まれるなんてお前と出会う前は想像もしなかった。自分以外の誰かのために時間と、命を捧げるだなんて。それほどお前は俺の人生を、…

ふと、席を立ってマンドーはとある星の暦表を
探し始める。収納棚のさらに奥に潜んであったアウターリムに存在する星の暦表をまとめた子供用の図鑑。いつかグローグーが興味を持つかと思って買っていたがいまの今まで日の目を浴びることなどなかった。パラパラとページを巡り…とある星の暦表で指が止まる。星によって暦は違う、再び机に戻ってネヴァロの暦表と照らし合わせた。当時の星の配置、衛星の場所、二つの惑星の距離から生まれる時空の差、星々を照らす日のルート……

「…ここはどうだ?」
「んぅーー…!」

また水を刺されたと思ったのか、グローグーの目がじと、とディンを見据える。それを「ふ」と微笑で流して、グローグーを抱き上げた。

「んんゎ」
「この日はな、」

自分の膝の上に乗せて、高さは違えど同じ方角から暦表を見る。大好きな場所に座れたことからグローグーの不満げな表情はあっという間に緩んだ。

「俺たちが出会った日だ」

「んぇ?」
「アルヴァラで、俺が初めてお前を見つけた日。もしかしたら多少のズレはあるかもしれないが…ほぼ間違いないだろう」

小さな小さな籠の中で、ずっと逃げ回っていたお前を初めて見つけた日。お前が初めて俺の指を握りしめた日。ただの賞金稼ぎだった俺と、標的だった子供。…俺たちの運命が交わって、互いの人生が変わった日。
一生忘れることがない日だ。

「この時期のネヴァロは寒気と雨季のちょうど間。もしかしたら天気が悪い日が続く季節かもしれないな。…だから祝い事には不向きかもしれない」
「ぶえぇ…」
「ふふ、でもな。ここが良いと思った。
お前が本当に生まれた日を俺は知らない。調べれば分かることなのかもしれないが、…それよりもお前と出会えた日の方を俺は大切にしたいと思った」
「……んむ」

「…勿論お前がいつか、本当の誕生日を思い出したなら忘れてくれても問題はない。俺じゃなくて本当の両親に愛された、」

「!んんんーー!!」

どこか、自己満足にも思えた日付の提案に対して補足するように加えた条件に、グローグーは抗議の声を上げた。大人しく膝の上に乗っていたのに体ごと振り向いてポカポカとアーマーを外した胸元に懸命に不服を訴えてくる。

「ふふ、わかってる、良くないことを言ったな」
「あぅう!んんーー!!」
「わかってる、わかってるよ…。お前の父親は今は俺だ、だからお前の誕生日を大切にしたい。たとえ仮初だとしてもな」
「ん!ん!」
「…良いのか?俺といる間は絶対に変えられないぞ?」

俺の胸元のシャツを掴んだまま、グローグーは先ほど指差した日を短い指で何度も指差す。考えることに飽きたわけでもなく、言われたから従っているわけでなく、ここが良いのだと大きな瞳と弧を描く口元が訴えていた。

「そうか、じゃあこの日にしよう」
「ほぇ、ぷぅぇ!」
「…あぁもうすぐお前の誕生日だ、盛大に祝わないとな」

無機質な暦表に、子供用のペンで花丸がつく
太陽があと…十数回も登れば当日を迎えることに今更気付いた。この日だけはどうしても仕事は入れられない。前後ももちろんだ。初めて迎えるグローグーの誕生日は万全の準備で迎えたい、この子の父として。

「何が欲しい、この日はなんでも買ってやるぞ」
「んえぇ?」
「ケーキも、ぬいぐるみも、会いたい人がいるなら呼んでやる。お前の我儘全部聞いてやる、その為の1日だ。お前が望むこと、全部叶えてやる」
「!キャァ!」

夢のような1日を予感したのか、グローグーは手を上げて歓喜の声を上げた。その後俺に抱きついてきてぐりぐりと顔を押し付ける。頰が赤らんでいてもう当日への期待に染まっている。

「…グローグー」
「んぅ?」

「……、…いや、なんでもない。当日までのお楽しみだ」
「んぇ!きゃい!」

頭を撫でて、少しだけ持ち上げたヘルメットから小さな額にキスを落として。
仮初の誕生日、グローグーが幸せになるためだけの都合の良い記念日。
それは、ディン自身の救いの日にもなるかもしれない。

—生まれてきてくれてありがとう

—俺を選んでくれてありがとう

素直に言えないその言葉すら、この日であれば堂々と言えるような気がして。いつもは買うに至るまで一つ、二つの問答があるお菓子だってなんでも買ってやる。お前が笑ってくれるなら。
普段からそうしてやりたいのは山々だけど、将来のことを考えれば心を鬼にして叱らないといけないこともあるから。むしろ最近はお前のやんちゃが過ぎて叱る割合も増えたような気がする。
ケーキは今までに見たこともない、この町で一番大きく豪華なものを用意してやろう。ずっと欲しがっていたぬいぐるみも買ってやる。お前が望むなら大好きな友人全員招待してあげる。時期的に天気に恵まれなくても、お前のためなら気候さえ変えてやるさ。

喜ぶグローグーの顔を想像するだけでディンの心は幸福に満たされる。これほど自分の心を動かす存在を、ディンは知らない。今後も知るつもりはない。
だからこそ、胸が詰まりそうなほど溢れる愛を素直に伝えられるこの子の誕生日が早く来れば良い。

苦しい幼少期を過ごしたこの子の記憶が少しでも幸福な色で上書きされるように。願わくば、父が星となった後の、1人になった世界でもこの記憶が救いとなるように。

— End —

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