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神様、どうかこの手から自由を

ちえり/しののめちえり/しののめ

ローエンのお姉ちゃんになりたいだろうが!!!!!!!!!!!!!! 規則に準じながらも道徳と倫理を危ういバランスで持っているローエンが自由じゃないわけがない、自由を愛していないわけがないだろうが!!!! *ネームレス *家族愛 *ローエンのお姉さんになりたかった

わたしには、かわいいかわいい弟がいる。
 目に入れても、何をしても痛くない。ちょっぴり悪巧みが上手なかわいいローエンという弟が。

 私より小さくて、ふわふわで、それでも力強く指を握りしめてくれた日のことを一生忘れないし、この子が幸せに生きて成長を見守ることができる日々がずっとずっと楽しみで、私なりに精一杯お姉さんであろうと可愛がってきた。

 大切で、大事な、宝物。

 そんな弟は西風騎士団へと身を寄せて、第5小隊の副隊長にまで上り詰めていた。誇らしくて、鼻が高い。
 さすがローエン。
 さすが私の弟。
 それに比べて、私は……。

「…………」

 生まれながらに病弱で、外へ満足に遊びにいけた試しがない私の支援や世話をしてくれているかわいいかわいい弟は、今度、騎士団を取りまとめる大団長の部隊に混じって遠征に出向くと聞いた。
 これは、風神様がお与えになったチャンスかもしれない、そう思った。姉である私がローエンを手放せるための。もう二度とないチャンス。
 だから機嫌良さげに帰ってきた弟にもう何度目かすら数えていない言葉を、上手に笑顔をつくりあげて、言うのだ。もういい、と。

「もういいんだよ。」
「その話、以前でオチがついたと思ったんだけどなァ……」
「丸め込まれたくないの。ここは自由を愛する国でしょう?」

 今や上手くベッドから立って歩くことすらままならない私のお世話に時間を割くより、目の前で同じ色をもった弟には明るくて、束縛されない、自由があるはずだった。
 でもこの子は、彼が生まれてきてから一度も姉らしいことなんてできていない私を気遣って、もう既に成人した不出来な姉の面倒を文句のひとつも言わず見てくれている。

 優しくて、自慢の弟。

 かわいいかわいい、自由という言葉がよく似合う、風が姿を持つのならこういう色だろうと幾度となく想像した容姿そのものの弟は、もっと遠くへ、足取り軽く行けるはずなのだ。
 戦うことが好きな、愉悦さを含んだ表情につい視線が向けられがちだけれど、騎士の名に恥じず善性を抱き倫理も備えているローエンが血の繋がった、両親を早くに亡くし唯一残った家族を見捨てられるわけがない。

 そう、
 だから、
 私さえ、

 ─────私さえいなければ。

「───あのなぁ、姉さん」

 ぴくりと、肩が震える。

「誰かに何か言われたか? 俺が家族の世話に追われて、何も自由にできてないって。知らない人間に言われたか?」
「……ちがう、ずっと前から思ってたことなの。」

 父譲りで、私にはない不思議な虹彩が揺らめく。
臆病な姉は、本人の口から否定の言葉を聞いても簡単には信じられない。
 いつからここまで卑屈になってしまったのだろう。
 いつから、取り返しのつかないところまで私は下を向いて歩いてきてしまったのだろう。
 情けなさすぎて悔しくて、涙がこぼれそうになって自然と顔を下にさげた。惨めだった。泣くのは、筋違いなのに。

「たとえ姉さんに嫌がられようが、周りの有象無象が口を挟もうが姉さんの世話をするのを迷惑に思っちゃいねぇよ。たったひとりの姉貴だぜ?」
「でも、あなたの人生で、ローエンは自由に生きるべきで……」
「あーあーそればっか。
姉さんは、姉さん自身がそんな体を望んで生まれてきたわけじゃない。代わりのきかない、俺の姉さん」

 ベッド脇に膝をついて、屈んだ弟の眼差しは嘘偽りはなくて。この瞳を、以前の私なら無邪気に信じられたのかな。ずっと昔に呼んでいた姉貴の呼称も、いまはどこか遠い。「それで? 俺は姉さんの?」

「……弟、だよ」
「かわいいかわいい、な。ほら、これ持ってきたし花瓶に生けてくるから、そんな顔すんなって」
「セシリアの花……」

 白く揺れる、花。
 小さい頃最初で最後となった遠出で、弟に編んであげた花冠の記憶がふいにけぶって、何も無かったかのように霧散した。

 ああ、頭が、おかしくなりそうだ。

 風神様、バルバトス様、どうか。
 どうか結局離れられなくて、実際問題、あの子の支援がなければろくに生きられもしない私に罰をお与えください。
 そうでなければ、
 そうでなければ。

 私はどうして、ローエンの姉としてこの世界に生まれ落ちたというのでしょうか。

******

【かわいいかわいいローエンの姉】
 文字通り、姉さん。成人済み。生まれた頃から身体が弱く家に閉じこもり気味だったが、弟が産まれてからは輝く純粋なまなこを守らなければ、と奮起。絵本を読んであげたり頑張って、無理しない程度に花畑に赴いて冠をつくってあげたりと、思いつく限りの姉としてできることをしていた。
 が、ローエンがひとりで活躍をあげるうちに己の存在意義を見失い、姉が弟に面倒をかけているのが嫌になった。
 どうして私は普通じゃないの?

【姉さんのかわいいかわいい弟】
 生まれた時から姉にかわいいかわいいと真珠のように可愛がられて育った弟。姉さんには甘えたいし甘やかしたいし、姉さんが姉さんらしく生きられるならニコニコで世話もするし面倒も見る。え?姉さんに懸想する男?俺より強いならいいゾ(*^^*)
 愛しているから、じゃだめなのかよ、姉さん。

— End —

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