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今日の献立

タチバナ ユズルタチバナ ユズル

S3を見終えてまず思ったのが「ディンとグローグーの定住生活が書けるだと〜〜〜!!?」でした。生活萌のオタクにはご褒美すぎるぜ。というわけで趣味全開です。

日の高くなった頃、ディンはキッチンに火を入れた。小さいが高温を示す火の青さを見るたび、アーマラーがベスカーを鍛えるために扱う神聖な炎の整然とした円い並びを思い起こす。
 フライパンを火にあてがい、植物油を振り撒く。果実から搾られた風味の美味な油で、これをたっぷり吸わせた野菜をくたくたに煮るとグローグーがよく食べる。暖かい季節に生る野菜はすぐに火が通るのも、食べ盛りの子供がいる身としては心強い
 鉄と油を温める間にエッグプラントとトマトをナイフで素早く切り分け、熱くなったフライパンに具材を放り込むと塩を振る。
 フライパンの取っ手を持って何度か軽く具材を揺らしたあと、高温に焼かれてゆっくりと様相の変わって行く野菜を見つめながらディンは「暇だ」とふと思う。料理(などというものをするようになったのだ、戦いに生きるマンダロリアンたるディンが)をしていると、数分だけ要される待ち時間のたびにいつもそう思う。
 そういう時は背後を振り返る。そこには、片付いた食卓にスプーンを構えた手を置いて、きらきらした目でディンの作る昼食を待ち受けるグローグーが座っている。その期待に満ちみちた顔を見て、「まあもう少し待て」とディンは我が子を宥めた。
 それだけのことで明らかに何か充足された心地でフライパンに向き直ると、しゅうしゅうと上がる湯気の間で水分の出たトマトがくたっとなっている。そこへ適量の水を加え、沸騰するのを待つ間に調理に使った道具をざっと洗い、食器を取り出した。カカン、コン、と高い音がする。待ちきれないグローグーがスプーンの柄で食卓を鳴らしている。
「くぅう」
「もう少しだ」
 ぼこぼこと沸騰しだしたスープに、これまた火の通りが早い挽き肉をたっぷりと入れる。ぐるりかき混ぜてるうちにあっという間に食べ頃の色となった細かな肉ごとレードルでスープを掬い、わずかにヘルメットをずらして味見した。塩をもう少し。再び味見。よし。
 新鮮な野菜と肉を、質のいい塩と油だけで調味したシンプルなスープに、粒の粗いペッパーを結構な量振ってやったものがグローグーのお気に入りだった。
 火を落とす。食器にたっぷりの野菜ごとスープをよそうと、二切れのパンと一緒にグローグーの前に出してやった。ぴゃーっ、と声を上げて嬉しげに見開いた目で、グローグーは小さな手で早速パンをちぎる。
 ちぎられたパンの白く柔らかい部分に、じゅわっとスープを染み込ませてからかぶりつく。出来立ての熱々スープも、そうして一工夫して食えば火傷せずに済むのだと教えたのもディンだ。
 グローグーははぐはぐと旺盛にパン一つ分をあっという間に食べ切ってしまうと、いよいよスプーンを構えて粗熱のおさまったスープの具材に取り掛かった。かちゃかちゃと食器同士のかち合う賑やかな音。
 その間に台所をざっとだけ片付けたディンも、自分の皿を持ってグローグーの向かいに座った。だがそのまま、しばらく我が子の食事する姿を眺めて過ごす。
 不思議だ、いつも。食べていないのに、見ているだけで満ちる何かが確かにある。まあ食べるけれども。
 スープをぴちゃぴちゃこぼしながら皿の中身をどんどん減らしていくグローグーを見ながら、ディンは考える。レーションのように携行と効率優先の食糧なら扱いもごく手軽だが、こうも輝くグローグーの表情と旺盛な食欲を目の当たりにしていると。
「ぱとぅ!」
 パン二つと一皿をぺろっと食べ切ったグローグーに、立ち上がったディンはスープのお代わりをよそってやった。
 いくら面倒でもこのキャビンに住む限り食事の支度は続くし、材料の買い出しにも赴かねばなるまい。そして食料の新鮮さと質を求めるなら、買い出しはそこそこの頻度で。穏やかな定住は、それなりに細々と面倒だ。
 ――ふふぅぅ、とグローグーのごく満足げな吐息。しきりに自分の口の周りを舐めている。よし、とこちらも食べ終わったディンも流しの前に立って、自らの食器に向けて水道の蛇口を捻った。そして、ふわふわとフォースの力でやってきたグローグーの分の食器を見もせずに受け取り、同じく流水の下へ。
 洗い物を済ませ、コンロとシンクの周りから汚れと水気を拭い去り、ついでに調理用ナイフのメンテナンスも済ませてしまう。戦闘用の刃物と違い、口に入るものを扱うわけだから食用油を使って手入れする、という区別がはじめは面倒だったが、慣れてしまえば都度済ませるのも早い。道具を使いやすくしておくことが迅速なタスクの片付けにつながるのは、戦闘にも料理にも同じこと。
 背後では、グローグーがペーパータオルできゅっきゅっと食卓を拭いて綺麗にしている。用事の済んだペーパーを丸めてトラッシュボックスへインすると、てててっと外へ駆け出していく。食べたばかりでも子供は元気だ。
 ディンもこの昼食で出た生ゴミをまとめてボックスに捨てた。あとは規定の日にごみ収集ドロイドが回収していってくれる。(捨て方が雑だと時に苦言を呈される。定住生活ではマナーも重要なことだ。)
 ディンもポーチに出て、一人でちょろちょろと遊び回るグローグーを視界に収めながらベンチでしばしぼんやりする。フリッジの中身が寂しいので、この夕方までには市場まで買い出しに出ようと考えながら。グローグー専用のおやつボックスも軽くなってきたことだし。
 夕飯は何を作ろうか。日々強いられるこのアイデア出しの、なんと面倒なことか。賑やかで品揃え豊富な市場で、ここネヴァロの恩人でもあるディンを慕ってお得意扱いしてくれている日用雑貨店のおかみさん連中に知恵を借りようか。
 様々な種族の逞しい彼女らは「いくら実入りがいいマンドーさんでも肉は分厚いのより挽き肉がいいよ、子供は待てないんだから! すぐ火が入ってすぐ食べられるのが一番!」と助言をくれたり、その一方で「肉はそれなりでいいの、子供には野菜が大事だよ。お菓子ばっかり食べさせても良くないんだからね!」と真正面からディンを説教したり。やかましいが、ありがたいことには違いない。
 そろそろ腹もこなれてきた。さて、とディンは軽く首を回す。
「グローグー、おいで」
 父の呼び声にくるりと振り向いたグローグーが、ぱきゅ、と返事すると瞬く間にフォースの力でディンの元まで飛んでくる。
「買い出しに出よう。スナックを二つまで選んでいいぞ」
 グローグーはこっくり頷いて、悠然と歩き出すディンの肩口にぴたりとくっついた。暖かい昼下がり、用事ついでに歩くにはいい日和だ。

— End —

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