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【X(旧Twitter)log】Hope / Our Table

晴麻晴麻

短い話二本詰め合わせ。S3最終話後の話。 ①畑を耕すディンの話 ②食に関心がないディンが食事の大切さを気付かされる話。串焼きを一生懸命食べるグローグーがいる。

Hope

 ネヴァロは溶岩地帯と黒い砂地が広がる惑星だ。人々の営みが見られる場所を除けば灰色の荒野がどこまでも広がっている。噴火によって積もった火山灰混じりの土壌では、作物は育たない。それでも、不毛の地に生きる人々の知恵によって、ネヴァロでは乾燥に強い植物や作物が育てられてきた。今では、郊外で畑を有する者も多い。
 そしてまさに今、都市の外れに居を構えて日の浅いディン・ジャリンもまた、畑を耕そうとしていた。市場で培養土や肥料、種だけでなく、鍬とシャベルといった農具も購入してきた。二日間半日以上かけて耕起し、畝を作り、三日目に、ようやく畑と呼べるほどの菜園ができたころには、くたくただった。
 あとは種を植えるだけだ……。
 庭先でグローグーと昼食を摂りながら——今日はパンにハムとバンサのチーズを挟んで焼いたものと、グローグーの好きなオムレツを作った——ディンは未完成の畑を眺めた。一月もすれば成長の早い野菜が採れるだろう。半年後にはジョーガン・フルーツが実る。うまくいけばの話だが。
「もうひと踏ん張りといこう」
 食事を終えて少し休んで、ディンはふーっと溜息をついて立ち上がった。腹を満たしたグローグーも椅子から降りて、あとをついてきた。
「種を蒔いてみるか?」
 ディンは先ほど鍬で掘り起こして作った深い溝の横でしゃがみ込んで、種の入った掌サイズの麻袋の口を広げてグローグーに見せた。グローグーは不思議そうに小首を傾げ、喃語を漏らして麻袋覗き込んだ。
「こうやるんだ」
 ディンは揃えた二本の指で、耕した土壌に等間隔に三つ穴を空け、そこに摘み上げた種をいくつか落とし、盛り上がった柔らかな土を削るように落として被せた。三つの穴をすべて埋めて「やってごらん」と促すと、グローグーは頷いた。
 小さな握り拳が土を何度か突く。ちょこんと空いた穴から、ミミズが顔を出し、這い出てきた。グローグーは驚いたのか「ぴゃ」と声を上げて長い耳をぱたぱたと動かした。
「ミミズだ」
 ミミズは丸々と肥えていた。いきなり地上に出てきたものだから、慌てたように土の中に戻ろうとのたうち回っている。ミミズは長い身体をくねらせて、あっという間に住処に潜っていった。グローグーははじめて見るミミズを追って溝に手を突っ込んだが、掴んだのは土だけだった。
「ミミズがいるのは、土が良質になった証拠なんだ」
 土の感触が楽しいのか、グローグーはきゃあと笑い声を上げて隆起した土を叩いた。三本指の手形がいくつも散らばる。グローグーはここ二日ずっと土を弄っては黄褐色のローブを真っ黒にしていたが、何事も経験だ。それに、子供が夢中になることはいいことだとディンは思う。
 結局種はすべてディンが植えた。グローグーは少し離れた場所で、せっせと土を掘り返して山を作って遊んでいた。
 人の営みは、簡単なようで難しい。それでも、この場所が帰る場所となったのなら、種子が芽吹き実るように、豊かにしていきたい。グローグーにとっていい環境にしていきたい……。
 そんなことを考えながら、ディンはグローグーの背中を見詰めた。すっかり土まみれだ。微笑ましくて、思わず笑ってしまった。あとで風呂に入れて、ローブも洗濯しよう。

Our Table

 ネヴァロは日が暮れるのが早い。かつては夜の帳が降りはじめると、人々は帰路を急ぎ、家にこもって窓の鎧戸をしっかり締めていたが、治安がよくなってから、街は姿を変えた。ならず者たちが格好の獲物がいないか目を光らせていた薄暗い通りも、今はすっかり明るくなって、屋台が軒を連ねている。日が完全に落ちても、ネヴァロ・シティが眠ることはない。街を照らす燈の下で、夜市は賑わいを見せ、酒場では酔っ払いたちが陽気に過ごしている。
 ディン・ジャリンは、グローグーを連れて夜市にいた。仕事を終えて帰還したばかりで、自宅の保冷庫はからっぽで、グローグーになにか食わせるために来たのだ。
 屋台が並ぶ通りは、食欲をそそるにおいが立ち込めていた。腹を空かせたグローグーが指差したのは、串焼き屋だった。ちょうど店主が焼いているのは、ゴーグだ。ロティサリーグリルで炙られて、脂を滴らせている。小振りで掌サイズなので、グローグーでも食べられるだろう。
 ディンは屋台の前で足を止め、ゴーグ串を指差した。「それをひとつもらえるか」
「あいよ」店主は慣れた手つきでロティサリーグリルから焼きたてのゴーグ串を外すと、耐油性の包みに入れてディンに手渡した。「焼きたては美味いよぉ」
「ありがとう」
 包みを受け取り、クレジットを渡すと、店主は額を確認し、「あい、ちょうどね」と頷いた。
 包みはじんわりと熱を帯びている。ディンは足元でそわそわしているグローグーを見下ろした。「おいで」
 人のいない通りの外れに寄って、グローグーに包みを渡してやろうとしゃがみ込む。熱々のゴーグ串を前に、グローグーの黒々とした眸がきらきらと輝いている。
「熱いから気を付けるんだぞ」
 グローグーは頷き、小さな手で包みを抱いた。火傷しないか心配になった。吹き冷ましてやりたいが、ヘルメットは外せない。
 丸々としたゴーグの串焼きを取り出した腹ペコのグローグーは、「ぴゃあ、みゃ」と幼児特有の喃語で歓喜を紡いだ。小さな唇が窄まって、脂で照った身にふうふうと息が吹き掛かる。慎重に冷ましてから、唇はほろほろの肉に触れた。グローグーは小さな歯で柔らかな肉を噛みちぎり、はふはふと頬張った。一口、二口、三口……肉は少しずつ減っていく。
 一生懸命食べる姿が愛らしくて、思わずふっと笑みが漏れる。
「美味いか?」
 串焼きに夢中だったグローグーが顔を上げる。口の周りは脂でてらてらと照っている。あとで拭いてやらなくては。
「ぱとぅ」グローグーはしっかりと力強く頷いた。
「そうか。ゆっくり食べるんだぞ」
 グローグーは黙々と串焼きに齧りつき、きれいに平らげた。
 グローグーから受け取った串と包みを屋台横のゴミ箱に捨て、ディンはグローグーを抱き上げた。街の出入り口であるゲートに足を向けようとした時、グローグーがかんかんと胸当てを叩いてきた。
「どうした?」
 グローグーは屋台を指差した。
「まだ食べたいのか?」
 グローグーは首を振り、屋台を指差してから、ディンの胸当てをとんとん叩いた。長い耳が垂れている。
「……ああ、俺の分か。俺はいい。腹は空いていない」
 グローグーはじっとディンを見上げている。耳はずっと垂れたままだ。しばらくの間、上と下で見詰め合って——先にディンが折れた。
「わかった。今夜は、俺も串焼きを食べる」
 グローグーの耳がようやくぐっと持ち上がった。ディンは踵を返し、屋台の前で再び立ち止まった。「さっきのをふたつもらえるか?」
 自宅に戻るまで、グローグーは大事そうに串焼きの包みを抱えていた。
 生きる上で、食事はかかせないものだが、ディンは食に対して執着はない。栄養価があって、腹に入ればなんでもいいとすら思う。しかし、グローグーと暮らすようになってから、大切な者と食卓を囲うということがどれほどかけがえのないものか思い出した。同じ屋根の下で暮らす。同じものを食べる——それこそが、生活なのだ。
 皿に出した串焼きは、まだ温かい。
「さぁ、一緒に食べよう」
 ふたりだけの小さな食卓で、ディンはグローグーと向かい合って、遅い夕食にありついた。

— End —

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maki2 天前
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