「スタン、すまないが僕は今からとある人と待ち合わせをしているんだ。そこを退いてもらえるかな?」
ゼノの正面の席を陣取っていたスタンリーはその言葉にむっつりと唇をへの字に曲げた。
日頃、ラフな格好を好む彼にしては珍しいスーツ姿。ネクタイをきっちり上まで締めているということは、スタンリーもそれなりに大事な用事あるんだろう。無論、ゼノも同様にスーツを着用している。
「いんや、合ってんよ。あんたの見合い相手は俺だ」
予想していなかった答えにゼノは思わず天を仰ぎたくなったが、顔に貼りつけていた笑みを深めるだけに留めた。どうやらゼノは嵌められてしまったらしい。
文明復興が進んだ今日では、至るところでウェディングラッシュだった。一科学者のゼノには関係のない話だと割り切れれば良かったが、予算確保のためにあちこちに顔を売っていたおかげで、ありとあらゆるウェディング見学ツアーに強制連行されることになった。
とはいえ、ただ正装して微笑みながらそこにいれば済む話なので、衆愚と論争を交わすよりは余程ストレスフリーだ。頭の中ではラボに残してきた研究に思考を取られながら、気取ったコース料理に舌鼓を打つ。
もう何度となく繰り返してきたそんな時間の無駄の合間にふとゼノは気づいてしまった。
スタンリーもいずれ結婚して伴侶を得るのでは、と――
ゼノは恋愛にも結婚にも興味がない。ただ科学がありさえすればいい。そして時折、幼馴染であるスタンリーに話を聞いてもらえればよかった。だが、既婚者のスタンリーは果たしてゼノに割く時間を取ってくれるだろうか。
答えは常識的に考えて否だ。いや、あるいはスタンリーならゼノを優先してくれようとするかもしれないが、逆に嫁の方が納得しないだろう。
つまり、ゼノはこの先ひとり孤独に死んでいく可能性があるということだ。
ゼノ自身は別にそれでも構わないが、スタンリーはきっと気にする。ゼノに一等甘い男だから。
スタンリーを嫁より幼馴染を優先する甲斐性なしの旦那にはさせないためにも、ゼノは婚活をしなければならなかった。三十六にもなってようやく幼馴染離れを決意したのである。
この頃のウェディングラッシュに便乗して、一年ほど前に龍水が結婚相談所を立ち上げていた。まともに恋愛ができるとは思えないゼノにとっては渡りに船だ。善は急げと入会を決めた。
スタンリーにはまだ女の影さえ見えないが、ゼノはスタンリーの五歳上だ。アラフォーに片足をつっこんでいることを考えれば、すでに余り物の分類である。躊躇していれば見つかるものも見つからなくなってしまう。
ゼノが結婚相手に望む条件はシンプルだ。年齢、容姿、収入など全てを問わない代わりに、ゼノの科学を邪魔しないこと。身も蓋もない言い方をすれば、金はやるから邪魔をするなということだ。
いささか身勝手な条件かもしれないと思ったが、妥協したところでゼノの優先順位が変わる訳でもない。早々に離婚を突きつけられるよりマシだと担当の相談員に送った。そして、条件に合う相手が見つかったと連絡を受けたのが、つい二週間ほど前だ。
とても愛想がいいとは言えない態度のスタンリーを見ながら、確かに彼なら条件に合致するだろうと思った。何せゼノの科学と引き換えに永遠にも等しい石化を受け入れたのだから。
「……状況は理解した」
「んじゃ、始めんぜ」
スタンリーはどうやらこの馬鹿げた茶番を続けるようで少しばかり姿勢を正すと自己紹介を始めた。
「スタンリー・スナイダー、年は三十一。職業は元軍人のパイロットだ。趣味はタバコと射撃。特技は――まあ、いろいろあるが、体使うことなら大体いけんね」
「……知っているよ」
「そりゃ、めでたいね」
スタンリーとは十一歳の頃からの付き合いだ。軍の機密に触れることならともかく、一般人が知り得るようなことはゼノにとって常識だ。今さら説明されるまでもない。
「タバコ会社の経営もしてっから金には困らせねえよ。もし追加で研究費がいるってんなら、伝手で副業を斡旋してもらう」
「自分の趣味代くらい自分で稼ぐよ。僕がそれほど甲斐性のない男に見えるかい?」
「まあ、ゼノならそっちか。俺は別に専業主夫でもいいぜ。掃除洗濯から護衛に専属パイロット、何でもやんよ」
「スタン、そういう話じゃないんだ」
「何、まだ不満あんの? そりゃ、あんた高望みしすぎってもんだぜ。俺くらいで妥協しときな」
「…………」
ゼノはだんだん頭が痛くなってきて、お行儀が悪いと分かりながらテーブルに肘をついて顔を伏せた。
スタンリーは完璧な男だ。彼でダメだと言うなら、それはもう現実に存在し得ない人間になるだろう。ゼノだって出来ることならスタンリーがいい。
だが、スタンリーがスタンリーである限り、ゼノにとっては最も不正解な相手でしかない。何せスタンリーのために婚活しているのだ。
これでは本末転倒だと思いながら、ゼノはどう説明したものかと思考を巡らせる。下手な言い訳は見破られる。スタンリーはゼノと同じようにゼノのことをよくよく理解しているからだ。
全てを正直に話せばスタンリーが納得して引く可能性もあったが、さすがにゼノもそんな恥知らずなことはできなかった。
だって、幼馴染に見捨てられて孤独死するかもしれないから結婚したいなんて恐ろしいヒステリックだ。ゼノがスタンリーなら、まず病院に連れていく。
「……君に不満がある訳ではないよ」
たっぷり悩んで言えたのは、それだけだった。ゼノにとってスタンリーは最高の幼馴染であり、最高の騎士だ。その大前提を欠片足りとも疑わせることは許せない。
「そ。なら、今から役所行って手続きすんぜ」
「待て、スタン。僕はまだいいと言った訳では――」
「不満はないんだろ。それとも俺じゃ嫌なん?」
スタンリーが不機嫌そうに目を眇めたのを見て、ゼノは言葉を飲み込んだ。こうなったスタンリーは驚くほどに頑固になる。ゼノでも説得が限りなく難しいほどだ。
ゼノの言う事には何でもイエスマンだと見せかけて、スタンリーの中には一定の許容ラインがある。それはゼノの安全と科学が保証されることだ。婚活の一体どこにその要素が関わってくるのかは分からないが、スタンリーの基準ではアウトだったのだろう。
ゼノはテーブルの下でそっと指をクロスさせて、穏便に断る術を模索した。ゼノとて引けないのは同じことだ。
「……スタン、僕達は結婚相談所の仲介でこのお見合いに臨んだ。違うかい?」
「合ってんよ。それがどうかした?」
「日本には【郷に入っては郷に従え】という諺があってね。回りくどくとも相手のやり方に従うのが――」
「OK、わかった。もういい。結論は?」
「仲介人側のルールに従うべきだ。残念ながら交際0日婚は認められていない」
「つまり、オママゴトみてえなデートを重ねてから結婚しろってこと?」
「相談員の仕事を奪うことは不本意だからね」
ゼノはそう言ってスタンリーに微笑みかけた。嘘はついていない。スタンリーはゼノの言葉を信じたことだろう。
そして、ゼノの予想通りスタンリーは少しの間、黙り込んだ後にタバコを取り出した。スタンリーの行動を見た店員が灰皿を持ってくるのを見ながら、ゼノはそれを黙認した。
「まあ、ゼノがそうしろって言うんなら構わねえよ」
「いい子だね、スタン」
タバコの煙を吸い込んだスタンリーは先ほどまでの不機嫌を引っ込めると、見ている者がうっとりするような笑みを浮かべた。
「デートどこ行きたいか考えといてよ、せんせ」
お見合いの席を何事もなく乗り切ったゼノはすぐさま相談員に連絡を取った。他人を間に挟んで行うやり取りはまどろっこしく感じるが、今回ばかりは助かったと思う。
スタンリー・スナイダーにお見合いは不成立だと伝えてくれと言うだけで済むんだから。
一仕事終えたゼノはネクタイを解いて、ソファに倒れ込んだ。まさかスタンリーが出てくるとは思わなかった。おまけに何故かゼノの婚活を邪魔しようとしてくるのだ。
……てっきり応援してくれるものとばかり思っていたが、スタンも僕と同じように幼馴染離れしたくないのだろうか。
だとしたら、少しばかり嬉しいかもしれない。ゼノも叶うことならスタンリーとずっと一緒にいたい。せっかくしがらみの少ない世界に変わったのだ。まだ二人が十一歳の子供だった時のように、どこまでも自由に科学を追求したい。それをスタンリーも望むというなら――という仮定あっての話だが。
合理的な思考で今後のためにも伴侶を探しておくべきだと考えたゼノは相談員へ再度のお見合いを希望した。その際に条件は多少、外れても構わないと書き添える。
ゼノの理想はスタンリーだが、彼は無理なのだから妥協はあって然るべきだろう。
――と考えていた翌日、スタンリーは昼頃にラボへ押しかけてきた。
スタンリーはラボの職員ではないが、何度か要人警護を任されていることもあってもはや顔パスである。ゼノ個人の研究室まで訪ねてきたスタンリーは不機嫌オーラを丸出しにしながらゼノを見つめるばかり。用件を聞いても分かってんだろと言うばかりで、取り付く島もない。
お見合いを断った件だろうと予想がついたゼノはスタンリーを放置することにしたが、その程度でスタンリーが引くはずもない。冷戦状態の二人に先に根を上げたのは職員達だった。
「あの、ドクター。少し休憩してきてはいかがでしょうか?」
「僕は疲れていないよ。君達こそ顔色が悪いが、休憩してきたらどうだい?」
「いえ、あの、その、…………」
職員の目が気まずげにスタンリーの方へと向けられた。あれをゼノにどうにかして欲しいということだ。
ゼノにだって出来ることと出来ないことがあると思いながら、立ち上がって白衣をイスに掛けた。
このまま放置して職員達の集中を乱されるのは非効率だ。決して根負けした訳じゃないと内心で言い訳をしながらスタンリーに歩み寄る。
スタンリーはゼノが作った噛みタバコを口にしたまま、ゼノから一ミリも目を離さない。瞬きすらしないとは恐れ入ると思いながら話しかけた。
「スタン、少し話がある。場所を変えないか。そうだね、カフェテリアにしようか」
「ん」
短く返事をすると、スタンリーはゼノの後ろをついてくる。背後から職員達の深い溜め息が聞こえて、まったく困った男だと思った。
「で、何で断ったんよ」
席に着くなりスタンリーは本題を口にした。昼時を過ぎて人も疎らとはいえ、店員がまだ注文を取りに来てすらいないというのにせっかちなものだ。
二人の異様な空気感に怯むウェイトレスを呼び止めてゼノは注文を伝える。
「アイスコーヒーを二つ。両方、ブラックで構わないよ」
「かしこまりました」
「おい、ゼノ。無視すんなって」
「スタン、飲食店で何も頼まずに居座るのは営業妨害だよ。嫌なら君は帰りたまえ」
「…………」
スタンリーはムスッとした表情を隠さずに黙り込んだ。昔からそうだ。普段は周囲への気遣いを忘れない癖に、ゼノのことになると急に視野が狭くなる。
数分ほどして運ばれてきたアイスコーヒーにストローを差してから、ゼノはスタンリーの方を見た。スタンリーはゼノに許されるまでもなく話の続きを口にした。
「不満はないって言ったじゃん」
「そうだね」
「なら、何で断んの」
先ほどまで職員達を怖がらせていたとは思えないほど幼稚な口調だった。まるでロリポップを買ってもらえなくてダダを捏ねる子供だ。
ゼノは口元を緩めながらスタンリーの問いかけに答えてやる。
「不満はないが、君を選ぶとも言っていない」
「……屁理屈じゃんよ」
「スタン、結婚は条件だけでするものじゃないよ」
自分のことを棚に上げて、ゼノはスタンリーを諭した。
その言動ゆえに誤解されがちだが、ゼノはスタンリーがどれだけ愛情深い人かよく知っている。スタンリーならば、きっと心から愛する人と結婚することができるだろう。
「俺のどこがダメなん? 直すから教えてよ」
「不満なんてないと言っているだろう。君は君のままで完璧だ」
「あんたに選ばれないなら完璧でも意味ねえよ」
すっかり不貞腐れてしまったスタンリーはそっぽを向いてしまった。その横顔が悲しそうに見えるのはゼノの錯覚かもしれないが、そうだったらいいなと思った。
「スタン、君も結婚したくて相談所に登録したんだろう? なら、次の相手を見つけるべきだ。君ならきっと良い人が見つかるよ」
「……ゼノがダメならいんね」
「いつからそんなにワガママになったんだい? 僕のスタンは賢くて聡明な人だったと記憶しているが」
「人違いじゃね。ワガママな俺んことなんか放っておけよ」
どうでもいいと言いたげに吐き捨てるスタンリーにゼノは困惑した。こんなことくらいでスタンリーの機嫌を損ねるとは思っていなかったのだ。
「スタン」
「……帰んよ。ゼノには俺が邪魔みてえだからな」
コーヒーの代金を置いて立ち去っていく後ろ姿は何故だかとても小さく見えた。
大事な幼馴染が自暴自棄になっているのを放ってはおけない。そう考えたゼノはすぐさま相談員にカウンセリングを申し込んだ。婚活のプロである彼らならスタンリーを立ち直らせることができるかもしれないと考えたからだ。
だが、指定された場所を訪ねるとそこに居たのはゼノもよく知る人物だった。
「おお、ゲン。君が結婚相談所の職員だとは知らなかったよ。一体いつ転職したんだい? 千空に不満があるなら僕から伝えておくが」
「やめてよ、ゼノちゃん。ジーマーで冗談になんないから」
よくよく話を聞くとゲンは龍水に頼まれたのだとか。相談員がゼノの相手をするのは荷が重いと言い出したらしい。十中八九、スタンリーがやらかしたんだろうなと思うと文句も言えなかった。
「大前提としてなんだけど、ゼノちゃんはスタンリーちゃんのどこが気に入らなかったの?」
「スタンを気に入らないなどある訳ないだろう」
「でも、断っちゃったのよね?」
「僕と違って、スタンは人を愛することができる。自分のワガママに幼馴染を付き合わせるほど僕は非常識ではないよ」
「えーっと、尚更ゼノちゃんが断った理由が分からないんだけど……」
ゲンの言葉にゼノは首を傾げた。この上なく分かりやすく説明したつもりだが、どこがおかしかったのだろうか。
「ちょーっと嫌な予感がするんだけど、スタンリーちゃんってゼノちゃんをどう口説いたの?」
「口説くという定義は分からないが、スタンなら自らの有能さを提示していたよ」
「他には?」
「自分で妥協しておけ、とも」
ゼノがそう言うと、ゲンは手で顔を覆って俯いてしまった。何やら精神的負担が大きそうだが、そこまでのほどだとは思えず困惑してしまう。
「好き、とか言われてないよね……?」
「僕とスタンは幼馴染だ。そんなこと言うはずないだろう」
「オッケー、大体わかった。ゼノちゃん、選手交代よ。カウンセリングがいるのはスタンリーちゃんの方だわ」
「おお、君がスタンを説得してくれるのかい。それは頼もしい」
色良い返事をもらえたゼノは晴れやかな気分で立ち上がった。本職のメンタリストに任せておけば何も問題ないだろう。
「あ、ちょっと待ってゼノちゃん」
「まだ何か問題が?」
「ゼノちゃんの理想のプロポーズ教えて。ジーマーで大事なことだから」
「ふむ」
ゼノは腕を組み、考え込んだ。結婚など今まで考えたこともなかったので、当然プロポーズなどよく分からない。だが、ゲンが言うのであれば必要なことなのだろう。
「ありきたりだが、薔薇の花束に指輪がいいんじゃないかな」
▽
「――というのが、僕とスタンの馴れ初めだよ」
ゼノは言いながら左手の薬指にはまっている指輪を撫でた。聞いてきた女性職員は何とも言い難い顔をしているが、少し惚気が過ぎただろうか。
他ならないスタンリーのこととなると、少しばかり話しすぎてしまう自覚はある。
「ええっと、なんて言うか、スタンリーさんって意外とヘタ……いえ、可愛らしい方なんですね」
「そうだろう、そうだろう。スタンは可愛くてかっこいいんだ」
「ドクター達を見ていると、私も結婚したくなります」
「ふふ、君にもいい出会いがあることを祈っているよ」
つい先日、異性との出会いがないと悩んでいた彼女に結婚相談所を紹介したのはゼノだ。世話になった自覚は十二分にあるので、顧客の獲得に協力しようとしたのだ。
この調子なら彼女も相談所にお世話になることになるだろう。満足したゼノが笑っていると、大柄な男がスっと割って入ってくる。
「ゼノ、機嫌いいけど何かあったん?」
「おおスタン、ちょうどいいところに。彼女が――」
「ドクター、すみません。急用を思い出しまして」
「それは引き止めて悪かったね。行っていいよ」
彼女はスタンリーから目を逸らすようにして足早に行ってしまった。それほど急いでいたのだろうかと考えていると、スタンリーが手を握ってきた。
「……まだ残業?」
「いや、今日はもう帰るよ。君が迎えに来てくれたからね」
ゼノは最愛の伴侶の頬にキスをした。スタンリーは嬉しそうにしつつも物足りないと言いたげだ。
「続きは帰ってから、ね」
「んじゃ、家までエスコートすんぜ。プリンセス?」
「それならベッドまで頼むよ、ハニー」
二人は連れ立って歩きながら、ゼノは先ほど話していたことを説明した。ゼノがスタンリーと結婚したことは周知の事実だが、未だにスタンリーはゼノを誘惑するやつはいないかと神経を尖らせているのである。
だが、今日はいつもと違ってゼノが話せば話すほどスタンリーの顔色は悪くなるばかりだった。
「あんさ、ゼノ。正直に答えて欲しいんだけど」
「もちろんだとも。君との間に隠し事はなしだよ」
「俺んこと、ひとりで告白もできないチキン野郎だと思ってる……?」
予想外な言葉にゼノはびっくりしてパチパチと目を瞬かせた。スタンリーは暗い面持ちでますます落ち込んでいて訳が分からない。
「そんな訳ないだろう。君は僕の話を聞いていたのかい?」
「俺がティーンの頃からあんたのこと好きで拗らせてたって話だろ」
「やっぱり聞いていないじゃないか」
ゼノが成婚体験記を書いたのは頼まれたからというのもあるが、ひとえにスタンリーのことを自慢したかったからだ。だから仮名をそれとなく分かりやすいものにして惚気を書き綴った。現に職員の彼女もすぐにゼノだと気づいて本人かと問いかけてきた。
「薔薇の花束を持った君はまるでプリンスのようだったよ。そこで僕は初めて君に恋をしていることに気づいたんだ」
「ゼノ……」
「君は僕にとって、最高の幼馴染であり、最高の騎士であり、最愛の伴侶だよ」
ゼノがそう言うと、スタンリーは往来でゼノを抱きしめてきた。視線を感じて少し恥ずかしいが、ゼノも満更でもないので抱きしめ返す。
「疑ってごめん」
「いいよ。その代わり家に帰ったら、ウンと僕を甘やかしてくれ」
「分かってんよ。……だけど、あの体験記は下げてもらうように頼みな」
「何故だい。いい出来だと思ったんだが」
「俺はあんたとの思い出も独占したいんよ。ゼノの愛は俺だけが知ってたらいいかんね」
久しぶりに拗ねたような口ぶりを聞いて顔を見たくなってしまったが、さらにギュッと力を込められて敵わなかった。嫉妬深くて可愛い男である。
「分かったよ。それでは、惚気は君自身に聞いてもらうとしよう」























