Novel27 days ago · 4.9k chars · 1 pages

ドクターゼノは待ち合わせデートがしたい

かりかり

コラボカフェのビジュにやられました。 少女漫画に感化されたゼノに付き合ってピクニックデートする話です。 ※バカップル注意

ゼノに少女漫画貸したやつ、怒んねえから手上げな。

旧世界の水準を取り戻しつつあるなかで、飲食店がちらほらオープンしている。その中のひとつにゼノの興味を引くものがあったらしく、デートのお誘いがあった。何千年ぶりかのデートに浮かれていたら、鼻息を荒くしたゼノが外で待ち合わせをしたいと持ちかけてきた。顔面積の大半を目が占めているような男女のイラストが描かれたコミックスを抱えながら。

噴水の前に11時集合。俺はゼノに言われた通り30分前に到着し、暇を持て余している。

『僕は5分遅れで到着し、君に"待ったか"と聞く。そうしたら君は"今来たとこ"と微笑みかけるんだ。いいね、語尾にハートをつけるのをくれぐれも忘れないように』

最初のオーダーはこうだった。

ゼノは恋愛コミックスのデート模様にいたく感激したらしい。青春を科学に費やしたツケが今頃回ってくるなんて誰が思う? 俺はあんたのお気に入りの道具屋ハシゴして一生止まんねえおしゃべりのせいで温くなったコーヒーに渋い顔するあんたを見る、あのデートが好きなんだよ。
ゼノに見送られながら二人の家を出発し、とぼとぼと集合場所に向かった。家から手繋いで一緒に行くんじゃ駄目なん?

ボーッと煙草を吸っていると遠くに小走りで近づいてくる人物が見えた。5分遅れを演出するゼノだ。姿を視認できる距離まで来て、キラキラと地面に反射する太陽の光に紛れることのないその輝きに目が眩んだ。

「すまない、待たせてしまったかな」

俺ん目の前で止まると、そう言い膝に手をついて息を整える。何も言葉を発さない俺を見上げ、不満そうに名前を呼ぶ声が聞こえてきてハッとする。

「………今来たとこ♡」

オーダーをこなしながら衝撃で口からこぼれ落ちた煙草を拾い携帯灰皿に押し付ける。

グレーのセットアップに紺色のスタンドカラーシャツ。旧世界でゼノが愛用していたブランドの復刻版が出たと聞いてプレゼントした革靴を履いて、おまけに胸ポケットには俺が忘れてったサングラスがかけられている。

やんじゃん。最高。待ち合わせの良さを瞬時に理解した。要は俺んために着飾ってくれたゼノのお披露目会ってわけか。
そんで事細かく指定された俺ん服は2つ目のオーダーだったらしく、恋人はペアルックで周囲に関係を知らしめるんだよと得意気に教えてくれた。

着々とオーダーが叶えられ満足そうに口角を上げたゼノに、さあ行こうかと手を取り指を絡められる。
君も予習しろと押しつけられたコミックスは読んでねえけど、すげえ積極的じゃん。日本人ってシャイなんじゃねえの?

「今日は天気がいいから公園でコーヒーでも飲もう。この前良さそうなカフェを見つけたと話したろう?」

ゼノは楽しそうだ。ゼノが楽しいなら俺も嬉しい。春の陽気の元でゼノと手を繋ぎながらの散歩。セックス後の煙草くらい至福の時間だ。昨晩のことを思い出し、すり、と絡んだ指を撫でるとゼノは俺の耳元に唇を寄せた。

「いけないよ、今日は日本の少女漫画を模したデートなんだから。あくまで爽やかに、健全に。できるね」

そういうとちゅ、と音を立てて耳を啄んでから離れていく。
…イケナイのはどっちか。耳だけ赤くした俺を見てくすくすと笑うゼノにもう一度できるねと問われなんとか頷いてみせる。

そうこうしている間に目的地に到達した。
瓦屋屋根にモルタルの塗り壁。ボロっちい建物の前には小ぶりな木製の机と椅子がぎゅうぎゅうに並べられている。

「築年数のかなり古い住宅を日本では"古民家"と呼ぶそうだ。まあこの世界には新築しかないわけだが、この見た目に日本人はノスタルジーを感じるから敢えてこうしているらしい。面白いだろう」

止まらないお喋りを聞きながら店先の立て看板に書かれてあるメニューを見る。

「なあゼノ、ここ、パンケーキって書いてある?」

そう訊ねると日本建築の歴史についてベラベラと喋っていた口が止まり、キラキラと輝く瞳がこちらを向いた。

「君、いつの間にカタカナまで読めるようになったんだ。偉いじゃないか、勤勉な子は好きだよ」

褒められた。嬉しい。ゼノを驚かせるためにこっそりおベンキョーした甲斐があった。

「パンケーキもテイクアウトできるようだね。買っていくかい?」
「ん」

まだ完璧にカタカナをマスターしていない俺のためにゼノはメニュー表を指でなぞりながら読み上げてくれる。ベーコンとポテトが添えられたアメリカンブレックファストといちごのスフレパンケーキ。君はこっちだねと後者を指さそうとしたゼノが、何か思い出したように手を引っ込める。

「おお困った。2種類あるがどちらも美味しそうで選べない」

下手くそな演技に吹き出しそうになるのをなんとか堪える。
オーダーその3。ランチでゼノが迷った2択を両方頼んでやって半分こする。
普段のゼノなら食べたいものは秒で決めるし、さっき言いかけたように俺が食いたいもんまで先回りして注文している。それが今は甘えるように俺ん肩に頭を乗せている。やんじゃん。

「じゃ、どっちも頼みな。半分こしよ」
「いいのかい? ありがとう」

自分で用意したセリフにゼノは心底嬉しそうに微笑む。かわいい。

店先にあった机たちはピクニック用に貸し出しているものだったらしい。籠に詰められたパンケーキとアイスコーヒーを手に、机と薄っぺらい畳みてえなやつ(御座というらしい)を脇に抱えて公園を目指す。空いている方の手はもちろんゼノの手を取って。
適当な場所に御座を広げて隣に座る。机にパンケーキとアイスコーヒーを並べるとゼノが1枚写真を撮った。

「何、珍しいね」
「日本のカップルは思い出を集めて手作りのアルバムをプレゼントするそうだ。いつか僕もやりたい」
「へえ。なら2ショットも必要じゃねえの」

ゼノのスマホを取り上げて肩を引き寄せる。頬をくっつけてシャッターを切ると、半目のゼノが画面に写し出された。笑いを噛み殺していると肩に回した手をつねられる。

「合図もなしに撮るやつがあるか! やり直しだ!」
「はいはい」

もう一度カメラを構える。今度は文句を言われないようしっかりカウントしてやる。
シャッター音と同時に頬に柔らかいものが当たり、思わず目を見開く。画面には俺ん頬にキスするゼノが写し出された。

「…ふふっ、情けない顔だ」

驚く俺の顔を見てゼノは満足そうに笑う。半目の仕返しのつもりらしい。ご褒美の間違いじゃねえの? 今度は自分のスマホを取り出して、ゼノとパンケーキを撮る。何枚も連写するうちに満面の笑みをゲットできた。

そうやって戯れながらやっとパンケーキにありつく。さっきから心臓が痛いくらいに暴れている。わけのわかんねえゼノのお願いを聞き入れたのは、この先のオーダーが願ってもないものだったから。
パンケーキは絶品で、レシピの模索に夢中になったゼノはなかなかオーダーを実行しない。ならこっちから仕掛けっか。

「ゼノ、半分こすんだろ?」

ゼノの口のサイズに合わせて小さく切り分けたパンケーキの上にたっぷりの生クリームといちごを一粒載せてフォークに乗せる。ゼノはそのままフォークを受け取ろうとするからひょいと躱して口の前まで運ぶ。

「ほら、"あーん♡"」

オーダーその4。あーん♡して食べさせ合いっこする。
すっかりオーダーを忘れていたらしいゼノは俺がそう言うとみるみる顔を赤く染めた。

「…自分で食べられるよ」
「あんたがやりたいって言ったんよ」

今までゼノは自分で食べる方が早いし、良い大人が恥ずかしいと絶対に受け取らなかった。でも、これは少女漫画の真似事で、ゼノが言い出したことだ。ゼノは自分が言い出したことは絶対に引っ込めない。
何がそんなに恥ずかしいのかしばらく御託を並べていたが、いちごが落ちそうになるのを見て渋々口を開いた。あのゼノが俺の手から物を食べている。感動のあまり涙が出そうになるのをぐっと押し込む。
小さく切り分けたはずがゼノにはまだでかかったらしく口の端に生クリームがつく。気づかずにまだなんかブツブツ言ってっからそれを指で掬い舐めると信じられないと言う顔で見られた。最高にかわいい。

「あ」

次はゼノの番。口を開くとゼノは嬉々として自分のパンケーキを切り分け出した。自分は恥ずかしい癖に、俺に食べさせるのは良いらしい。大きめに切られたパンケーキにバターを塗りたくるとベーコンをまるまる一枚折りたたんで乗せる。別容器に入ったメープルシロップをひたひたになるまでかけてやっと完成らしい。無言で目の前まで運ばれたので口を閉じると、首を傾げる。何度か瞬きを繰り返し、正解を導き出したゼノはまた顔を赤くする。

「………あーん…」

小さい声が聞こえてきたから素直に口を開けて受け入れる。こういうのは恥ずかしがってる方がクんの、ゼノは知らねえらしい。
俺ん口のサイズなんてお構いなしに切り分けられたパンケーキのおかげで、口の周りがメープルシロップでベッタベタになった。ゼノのケツポケットに入ってるティッシュを取ろうと体を傾けると、至近距離でゼノが目を細めるのが見える。何か企んでいるときの顔だと気づいて退避しようとした矢先、唇を舐められた。広範囲に広がったメープルシロップを小さい舌がペロペロと舐めとっていく。堪らず舌を喰もうとしたところで、さっとゼノは顔を引いた。

「ふふ、怖い顔。君は少女漫画の主人公にはなれないようだね」

ギラついているであろう瞳を隠すように胸のサングラスをかけられる。ヒロインに向いてねえのはあんたの方だ。だって、エロすぎる。こんなんガキが見たら性癖捻じ曲がんだろ。

「なあまだ続けんの、少女漫画ごっこ」
「どうしようかな。オーダーはまだ残っているし…」

いくつかまだ残っているオーダーは映画を観に行って暗闇の中で手を繋いだり、ディナーでゼノがトイレに行く間に会計を済ませたりといつでもできることばかりで、最後は二人の家にゼノが入って扉が閉まったところでミッションクリアと聞いていた。

「でも、あんたの目的はもう達成されたろ?」
「……なんのことかな」

ゼノは嘘を吐かない。吐いても俺にバレることを知ってるから。代わりに誤魔化すように顔を伏せるゼノの顎を掴んでこちらに向かせる。

「わかんなかったんだろ、デートの誘い方」

途中から変だと思ったんだよな。あんた、回りくどいこと嫌いなのに。
目論見がバレたゼノは恥ずかしさからか目に涙を溜めている。あーもう、そんな顔すんなって。

「昔っから変わんないね、理屈なしじゃ本心伝えらんねえとこ」

5つの歳の差はゼノをより意地っ張りにさせた。そんなとこも間違いなくかわいいが、たまには素直に甘えてほしいとも思う。

「またやってもいいぜ。これであんたが思う存分甘えられんならな」

しばらく言い訳を考えうろうろと彷徨っていた視線は、俺の言葉に観念したように止まった。

「……もう二度とこんな非合理的なことはしないよ。慣れないことをして疲れたから帰ろう」

ほらな。早く帰ってイチャイチャしたい。普段は我儘プリンセスな癖に、それだけのことをゼノはうまく伝えらんねえんだ。

「ただ、待ち合わせはまたしたい。僕のために着飾って僕を待つ姿は最高にエレガントだった」

すました顔でそんなこと言うもんだから、ここで抱き潰してやろうかという考えが頭をよぎる。サングラスがあって良かった、絶対に見せらんねえ顔してっから。
帰ったらどうやって甘やかしてやろうかと考えながら帰路を急ぐ。珍しくだんまりのゼノの方を見ると、まだ頬が赤い。タイムマシンよりどこでもドアの方が先じゃねえのと笑うと思いっきり尻を蹴られた。

ゼノに少女漫画貸したやつ、手上げな。デキるやつの名前は知っときたいかんね。

— End —

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