注意
リチャード1世のメンタルわっかんねぇ!!となっているため解釈違いの可能性があります
ジョン成り代わりものです
諸々細かいところはそういうものだと流してください
前作→欠地王ジョン成り代わりは全て知っている
を読んでからの方が多少分かりやすいかと思います
筆者も厄介な藤丸ファンのため、良さが全く書き切れていないと先に書いておきます。
藤丸立香はね、魔術の才能はからっきしで、時折とんでもない行動を取るけど、真っ直ぐな言葉で心を射抜くような、輝ける星じゃなきゃいけないんです。
終章までクリア済みのため、行間にある程度のネタバレが含まれる可能性があります
ん?と思っても見逃していただけると幸いです
「もちろん目を凝らして読んでもいいけどね?」
「こら、まだ出番じゃないよ」
「細かいことはいいんだよ!ほら、もうすぐ始まるよ!」
以上、ご了承の上お進みを
此度の舞台の進行は、私たちが務めよう!
「やあやあ、みんな!ご清覧ありがとう!」
「なんで私たちがって?やだなぁ、そんなの簡単だよ!」
「「僕たちは、面白いことがだーいすきだから!」」
「そもそも、不思議に思わなかった?他にも色々覚えてただろうに、どうしてあの子のことを道導にして生きたのか、ってさ」
「どうしてだろうね?なんでだろうね?もっちろん、私たちが手助けしたからだよ!」
「あの子と彼が夢との親和性が高くて助かった。それにお互い心の底では、自分のことを[[emphasismark:落ちこぼれ>・]]だと、客観視できていたのもね」
「これで『僕は王だから何してもいい!』とか、『最後に選ばれたのは、自分に特別な力があったからだ!』とか、思われてたら無理だったかも」
「「嘘だけどね!!」」
ここで君らへ、一礼を。
手慣れたような優雅な仕草で。
「それに彼は隠したかったんだ、自分が成した喜劇をね」
「そんなのすっごくもったいない!もったいないことこの上ない!!」
「だから遺した、厳重に。魔術で保護を重ねた上に」
「彼の劇が完成し、皆が笑い終わった後に」
「幕が最後まで降りてから、嘘が切れるよう細工した」
「幻が晴れればあとは簡単。後世の学者は優秀だった!コインの表と裏のように、喜と悲はくるりと入れ替わる」
「「私たちみたいにね!!」
楽しんでくれた?面白かった?
僕も私も大満足!
だからこれはちょっとしたお礼。
「さて、おふざけはここまでだ。僕らがあの時好き勝手できたのは、神秘と歴史の狭間にあったイングランドだったから」
「そして今!新たな読者たちによって、彼の成したことは観測されちゃった」
「観測されたということは、そこに在るということだ」
「例えどれほど隠しても、犯罪の証拠は残るみたいにね」
もしもあの悪の教授が手を引いたなら、話は変わっていただろうけど、彼が出てくるのはもっと後。完全犯罪は叶わない。
「私たちは女神アーテーの残滓。その最も大きな細波。故にあなた達の愚行を喜びましょう」
「君たちの狂気を言祝ごう」
「「自分は正気だと勘違いした狂人が、道化となって踊る様を、僕たちは歓迎しよう」」
でもその命の果てに
哀れな凡人の献身に
「「一抹の救いがある方が、もっと面白いと思うんだ」」
これより始まる物語は、誰に知られることもなく。
無論、覚えておく必要もない。
ただ泡沫の夢だと思って、楽しんでもらえたら幸いだ。
序幕:あるいは獅子の独白
何を見ているのかわからないやつだった。
「にいさま、そこは危ないですよ」
「なぜだ?幹も太いし枯れ枝が多いわけでも、極端に葉が少ないわけでもない」
「おとが他よりも少し軽いです。きっと中に虫か鳥がいる。登るのならあちらの木にしましょう」
「すごいな!ジョン!お前は天才だ!」
「深く考えなくたって、みんな分かりますよ」
城の大臣たちも知らない知識を、弟はなぜか知っていた。
「衛生が終わってる」
「えいせー、始皇帝の別名か?」
「違います。うーん、清潔であるためのもの……?ですかね」
「そのエーセーは必要なのか?」
「兄上、今ある病のほとんどは穢れからくるものですよ。例えば生まれてくる赤子が死なないようにするには、大人が清潔でなければならないのです」
「???」
「………僕は身綺麗な人の方が好きです、といえばいいですか?」
「なるほど!なら俺もエイセイを手に入れよう!それは誰が持っているんだ?」
「違います!剣から手を離してください。食事前の手洗いとかそういうやつです。僕が何か言っていいなら……戦場突っ込んで帰ってきた後は、僕の元に首持ってこなくていいので、すぐに血を落としてください」
「……血に塗れた俺が怖いからか?」
「いえ、怖いのは兄上じゃなくて、誰のものか分からない血の方です」
素手で触れるとか本当に無理……なんて青い顔をしていた。なのに、そんなものに塗れるようなことをした俺を、怖くないと言い切った。
「っはは、本当に面白いやつだ」
「何ですかその台詞、ゲームのキャラクターみた、みたいというかそうだった……しかも僕もか……?やりにくいな…………」
「何言ってるんだ?」
「兄上は分からなくていいです。僕が分かっていればいい」
「何をだ??」
「いつか分かりますよ」
何に焦っているのかも、何に囚われているのかも。ただ息苦しそうに生きるお前を、俺は最後までちゃんと分かってやれなかったのに。
幼い頃から、お前は俺を分かってくれた。
「英雄になんて、ならないで」
「どうした、何か怖いものでも見たのか?」
それとも、俺が怖いだろうか。
ポツリとつぶやいたその独り言は、どうやら弟に届いてしまったらしい。
「怖くない、兄様が怖いわけがない。僕が怖いのはあなたが、いつか炎へ自ら飛び込むように、死んでしまうことのほうだ」
「ジョン、人はいつか死ぬ。その終わりがどうあろうとも」
「それでも。死ぬために生きようとする兄様を、僕は見ていたくない」
ふつり、と周囲の音が遠ざかった気がした。
「……死ぬために生きようとなんて思ってないぞ!」
「それはきっと嘘でしょう」
「なぜそう思う」
「だって兄様は、正しい終わりを求めている。いつかその振るう剣が、僕らに、民に向かないように。だから英雄に憧れている?英雄は悪者にしか剣を向けないから」
ああ、こんなことがあっていいのだろうか。
理解されることがないと思っていた。
己が己である理由を、容易く白日の元に晒す人間が、こんなすぐそばにいてくれたなんて。
ぎゅうっと弟を抱きしめれば、子どもらしい体温がじわじわと染み込んでくる。
まだ小さい、ずっと幼い。外のこともよく分かっていないお前が、俺のことは分かってくれるのか。
「そうだなぁ、きっとそうかもしれないな。ジョン、お前は何が見えている?」
「むぐ、ちょ、にいさましか見えな、」
「ははは!そうかそうか!!」
俺の理解者、俺の心。
命よりも大切なお前。
母すら気がつかなかった本質を、まぁるい目でなんてことでもなさげに見抜いた弟よ。
英雄という導がなければ獣性を抑えることができない己よりも、ずっとずっと王に向いている。
ならばこの獣は、お前のために地を駆けよう。お前の敵を蹂躙しよう。そしてそんな兄が、お前の為すことの邪魔になったその時は。
「俺はお前に殺されてもいいぞ!」
「嫌だよ兄様、殺すとか死ぬとか、そんな物騒なこと言わないで」
「やっぱりお前は優しいなぁ、ジョン!」
あの時よりも背丈が伸びた。それでも俺より未だ小さい、守るべき宝物。
命のやり取りを厭う優しい弟。どうか、その優しい光が翳ることがないように。
お前が苦手な血を被るのは、この先ずっと俺だけでいい。
そうして、王になった俺が最初に行ったのは、聖地エルサレムの奪還に向けた行軍だった。今回の行軍に参加したのは我が国を含めて三国、それぞれの国から王が軍を率いて聖地へと向かった。一人はフランス王国のフィリップ2世、もう一人は神聖ローマ帝国のフリードリヒ1世。こいつはバルバロッサの名の方が知られているか。
途中で船が大破し、人質をとったキプロスを占領するなど諸々のアクシデントがあったが、ここでは割愛しよう。
ようやく着いたアッカーの地。聖地エルサレムはすぐそこだ。
と、小高い丘の上に神聖ローマ帝国が軍を敷いているのが見えた。一時とはいえ背を預ける仲だ、礼を失するような真似はしないほうがいい。
「ん?」
そう思って近づいた時、風上から神聖ローマ軍の兵の声が聞こえた。
「なぁ、聞いたか?」
「なにをだ?」
「イングランドの王族サマだよ!」
「何かやらかしたのか?それともお前が何か掴んだのか?」
「血がこわくて触れられない、なんて言ったらしいぞ……王族として上に立つ者でありながら、まさか戦で流れる血を恐れ、」
一閃。
「すまない!少し耳障りだ!」
「き、貴様、何をして」
「ああ!オーストリア公か」
「今、貴様が行ったのは!旗持ちと旗そのものを切り落とした愚行!我らに対するぶじょ、」
「それでもいいぞ」
「な、」
「俺はあまり気が長い方ではない!特に家族のことに関しては、些か手が出るのが早い。ジョンにはもう少し考えてから行動しろ、とよく言われるんだが、なかなか直せなくてな。そうやって目を見て怒ってくれるのがいいところ、と言っているのがバレるとまた怒られてしまうな!話を戻そう。今は聖地を奪還することが先決であるが故に、これで剣を納めたまで。行軍中でなければ、今頃転がっていたのは旗ではなく君の首だ」
「……チッ、覚えていろよ獅子心王。我らはこの侮辱を決して忘れることはない」
「それはいいな!楽しめそうだ!」
——仲間の旗を落としたりして、余計な火種を残さないでくださいね
「……しまった」
言葉を聞いた時には、俺か俺の部下が何か不手際で旗を落とすのかと思ったが、俺が他国の旗を叩き落とすなと忠告していたのか!
すまない!思い出した時には落としていた!と言ったら、きっと天を仰いで言葉を失う弟の姿が見れるだろう。
まぁ、バレることはない。ジョンは此度の行軍に参加していない。
「流石だな。やはりお前は賢い、俺よりも。きっと民に愛される王になる」
ジョンには、未来が見えている。
なぜかを問う必要はない。その方法を問うこともない。
あいつはそのことに触れられたくないと、そう願っていることを知っている。
ならば俺は目を瞑ろう。自分を理解してくれたお前のことは、何だって許してやるのだと、遥か昔にそう決めている。
「敵は全て俺が始末していこう!」
そして王ではなく暴君として、怪物になった俺を殺すことになったとしても。その時はお前が悪を討ち取った、誰よりも輝かしい王になれる。
あいつが、我が弟が、この後を継いでくれるというのならアンジュー帝国は安泰だ。
「ああ、人生というやつは本当に面白い!」
もしも、弟がこの場にいたのなら、「頭のてっぺんからつま先まで全部間違い!大間違いだ!!馬鹿兄上!!!!!」と泣き喚いて、兄をオロオロさせたことだろう。
彼は、弟が自分を殺す選択肢を取れると心の底から信じている。怪物となった己が殺されることを、とうの昔に承知している。
民から見た自分、恐ろしい自分の本性。それらを客観視して自罰的になれるのに。弟が、どれほど兄の生存を望んでいるのか、という視点がずっと欠落している。
兄が弟を愛することは当然だと宣いながら、自らが同等かそれ以上に[[emphasismark:愛されている>・]]と、微塵も考えない傲慢さこそが、彼が獅子心王であったことの証左だ。
王は人の心がわからない、とはよく言ったものさ。あれとは意味がまるで違うけどね。
本来の意味で使うなら、この言葉は、憎まれた末に毒を煽った彼の方が相応しい。
その時点ではあるはずもない、正しい歴史をなぞるため、自分を切り捨てた姿はまさしく人でありながら、機構に徹した役者だろ?
例え言葉を重ねることができたとしても、その溝が埋まることはきっとない。最初から欠けている者と、自ら擦り減らしてしまった者。凹凸がズレた位置で噛み合ってしまったことが、彼らにとって最大の幸福であり、不幸だったんだろうね。
っと、せっかくの舞台なのに僕がしゃしゃり出たら面白くないな。
ほら、続きが始まるよ。
「………」
約束の日にちを過ぎても、返答が来ない。
捕虜を生かすのもタダではない。相手も生きている以上、食事は与えなければならない。
それなのに相手との交渉は進まない。将と顔を合わせることもない。
一度目の期限は過ぎた。捕虜の数ではこちらが圧倒的に優位。だというのにサラディンは譲歩する姿勢を見せていない。
時間がかかれば不利になるのはこちらの方だ。何せ軍は既に統制が乱れつつある。
バルバロッサが道中で溺死したため、諸侯らが神聖ローマ帝国を率いることになったのだが、他の二国の王より軽んじられていることに不満を持っていた。
各国の王と諸侯が同じ卓についているだけでも、十分名誉なことであるはずなんだが。
そしてフィリップ2世とは、色んなところで意見のぶつかり合いが生じた結果、ギクシャクしていた。多分あれはこの後さっさと国に帰る気がする。
というわけで、あまり待っていられない。サラディンがなんとなくこちらを侮り、時間稼ぎをしていることは分かっている。
「殺すか」
それが一番手っ取り早い。
資金も稼がねばいけないことだし、
———慈悲を与えてあげてはくれませんか
「………ジョン?」
ふと言葉が聞こえてきた、気がした。弟は今回の行軍には参加していない。イングランドで留守番をしている筈だ。最後に会ったのは数ヶ月前。だというのに。
「まさか、俺がこう思い至るとまで分かっていたのか?」
喧嘩の弱い末の弟。妹にすら口喧嘩で負ける気の弱さ。血を恐れる臆病さ。いや正確には血が汚いから嫌とか、なんかそんなことを言っていたが。本当に綺麗好きで愛らしい、ではなくて。
「……はは、はははは!!!」
面白い、なんて面白い!
そんな臆病なお前が、怖がっては手を引いてしまうお前が。怪物である俺には手を差し出すと?卓越した頭脳で見た未来を、その一端を握らせてくれるというのか。
ああ、もし本人にも戦の才があれば!軍を率いることがあれば!!
「戦は一人で行うものではないからな!」
きっと、さぞかし[[emphasismark:楽しませてくれた>・]]だろうに!
「さて、よく考えてみれば捕虜は民ばかり。大した金を持っているわけでもなさそうだし、内臓を抉ってまで調べるのはやめておくか」
なんとなく、弟が泣いてしまうような気がしたから。
少し待ったが未だに進展はなく、返答の期限は半月前に過ぎている。もう十分だ。相手がこちらの時間的不利を見越した上で、譲歩する余地はないと見た。
「よし!捕虜を壁に集めてくれ!」
「承知しました、どこへ連れて、」
「一人残らず首を刎ねろ」
最愛の弟に言われた通り、慈悲を持って殺しておこう。
この判断は十字軍の中でも反発が起きたと言われているが、リチャード1世は強行した。
他の十字軍の指揮官よりも他の国の王よりも、軍を率いる才覚があることは、兵と民たちには既に知れ渡っていた。
だがこの決断によって、外交交渉の場において交渉の打ち切りという手段も取ることができる、冷酷さを持ち合わせた王として、さらに名を知らしめることになる。
皮肉にも、それは弟が最も疎んだ英雄への凱旋になったのだー!
なーんてね?これは彼がイングランドに留まって、人伝いにしか知ることができなかった兄の姿。
戦という劇に蝕まれ、王は遂に獣へと堕ちた。
あとのことはもう知っているよね?
そう、矢で射られて死んじゃった!
獣が弓矢で死ぬなんて!
当たり前すぎて逆に面白い!
因果応報、自業自得。
彼の生き様も最高だったよ!
自分の狂気を自覚してもなお振り回される。
とっても愚かでだーいすき!
でもね?かつて王だった獣は、全てを許すと決めた弟の、最期だけは許せなかったんだって。
じゃあここからがお待ちかね
兄と弟の続編だ!
コーラは冷えてる?
クッションはある?
全てを笑う準備はOK?
例えなくても大丈夫!
知られることが大事なのさ。
第一幕:知る者、視る者、語る者
「おーい!マスター!」
「リチャード?どうしたの?」
「調べ物をしたいんだが、いつも書庫にいる和装の婦人がいなくてな!少し時間を借りてもいいか?」
「それくらいなら喜んで、何調べたいの?」
ペかーっとした笑みを浮かべ、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに口を開いた。
「我が弟の、ジョンの最期についてだ!」
相変わらず〆切に追われて死んだ顔をしている作家たち以外は誰もいなかった。図書館では静かに!というポスターは今日は何の意味もない。
そんな静謐な図書館の一角、マスターは内心とんでもない冷や汗をかいていた。
「(これ本当に大丈夫なのかな)」
目の前に座る獅子心王、いつもなら快活に話をしてくれるその口は、今や真一文字に閉じられていた。というかちょっとへの字になってる。
「り、リチャード?何か分からないことでもあった?」
「いや、分かっているからこそ分からない」
「何が??」
「どの書物にも、病死が死因として挙げられている。だがそれはあり得ない。第二の暗殺の線も薄いからな」
「病死じゃない?」
「あいつは綺麗好き……というよりも、今の衛生観念と同じ考えを生前から持っていた」
「……例えば?」
「狩った動物は病気を持つ虫に刺されるのは嫌だと触れなかったし、赤子が死にやすいのは、一番最初に触れることになる親や産婆が不潔だからだとまで言い切った」
「それは、すごいね」
「だろ!ジョンはすごいんだ!川の水をそのまま飲むな、必ず沸騰させろとか、血は病気の媒体だ!と徹底的に洗い流して度数の高い酒をぶちまけていた。今考えれば、あれは消毒というやつだな」
「なるほど?」
「それにだ。病にかかったのなら、それよりも前に、病になったという一文があって然るべきだ。一国の王の体調不良を、文字に残さない者はいない。それも無しに病死?あのジョンが?そんなわけがないだろう」
「じゃあ暗殺はないって言い切れるのはどうして?」
「俺の生きていた頃に、アイツに害を為しそうなやつは全員殺しておいた」
「!??」
さらっと事も無げに言い切った。リチャードが獅子心王として崇められる一方で、畏れられたのはこういうところだ。
「弟さんが恨まれるんじゃ?」
「ん?ジョンは何も知らないぞ?顔すら知ることもない。一族諸共消えた辺境の人間のことがアイツの耳に入る必要はないからな」
「本当に何してるんですか」
既に苦労が偲ばれる。
「でもほら、リチャードがいなくなった後に誰かと仲悪くなってーとかさ」
「いや、それもないな。アイツは、ちゃんと話をした相手には好かれるんだ。こう、ちょっとじっとりした感じで」
「じっとり?」
「思い出すから待ってくれ……、そう!ヤンデレだ!」
「それ本当に大丈夫なやつ!?」
「何も心配ないぞ?なんというか、『あなたを殺して私も死ぬ!』という系統ではなく、『あなたが言うことならよろこんで!』みたいな感じで好かれる」
「それはそれでダメだと思うんだけど……」
「ちょっと説明が難しいんだが、ジョンは人を信じていない。だから他人に何も期待をしない。自己肯定感が低いやつって、変に期待されると空回りする時があるだろ?そういうやつにとって、アイツの側は心地いいんだ」
なるほど、それはそれでまた一癖ありそうな人だ。
獅子心王とされるリチャードが太陽のような人であれば、その影になった欠地王ジョンは月、もしくは月より穏やかな星明かりのような人なのかもしれない。
図書館の空気に当てられ、少し詩人じみた素人の考えを、パッとかき消すような尊大な声が響いた。
「ここにおったか」
「おお、英雄王!」
「今の我はキャスターだ。賢王とでも呼ぶがいい」
「賢王か!これは失礼した」
「どうしてこんなところに?王様は普段こっち来ないよね?」
「貴様に言伝だ雑種。霊基グラフに反応が見られたと、万能の嬰児が探していたぞ」
「ありがとう!……リチャードも一緒に来ない?ダヴィンチちゃんに聞いてみたら、何か新しい視点があるかも」
「本当か!では共に行こう!管制室だろう?」
「少しは急いでやるといい。言伝を預かったのは数十分は前だ」
「それ早く言ってよ王様!!!」
行こうリチャード!とバタバタと図書館から去っていく。
その姿が消えるまで見ていたものが三人。
「珍しいなギルガメッシュ、わざわざお前が言伝などと伝書鳩のような真似をするとは。ついに社長はクビにでもなったか?なんとも愉快なことだ」
「死後も〆切に追われている貴様よりはマシだ」
「過労死した王の言葉にしては、随分と生ぬるい言葉だな!夏の装いと共に、皮肉る口もバカンス中か?まあそんなことは置いておこう。わざわざお前が出向くくらいだ、一体どんな面白い未来を視た?」
「なんとでも言うがいい。此度は劇が始まるというのに、役者が揃う様子もなかったのでな。少しばかり手を貸してやっただけのこと」
「劇ィ?おい、シェイクスピア!どうやらお前の出番らしいぞ!」
「呼びましたかな!」
「呼んどらんわ戯け。貴様ら劇作家は、すぐに脚色を加えたがる悪癖を抑える術を知らんのか。ただ終わるまで静かに眺めていればよい」
「劇と言われれば吾輩、吾輩と言えば劇!得意分野と言っても過言ではありません!喜劇もしくは悲劇ですかな?どうあれ、新たなインスピレーションとなることには違いなく。その様を見て口を開かないなど、作家の手指を切り落とすようなものなれば!」
「貴様は手指を切り落としたところで、筆を咥えて書き上げるであろう。だがそうさな。道化が道化として四苦八苦する様は、あの雑種が手を差し伸べたくなる哀れさに満ちていることだろうよ」
「哀れ!哀れときたか!それはさぞかし人間の醜悪さがこれでもかと詰め込まれた、三文芝居に違いない!俺は離席だ、〆切まで幾許もないのに、たったの一文字も進んでいないからな」
「そう断ずるのは時期尚早やもしれんぞ?なに、獣が愛を知る話は、貴様も好むところであろう」
少年の姿をした作家は自室へ戻る足をぴたりと止める。
少しの逡巡。しばしの沈黙。
だが何か思い至ったのか、ハ、と小馬鹿にしたようにこう言った。
「愛はアイでも悲哀だろう、バカめ。そのくらい千里眼がなくとも分かる」
第二幕:約束された再会を
「あーいたいた藤丸。ダヴィンチちゃんがさっき召喚室の方に行って探してたぞ?」
「ありがとうムニエル!」
と、いわれてようやく出会えた我らが天才は、こちらを見るとパッと顔を明るくして、いや?焦っている?
「来てくれてありが、待った!!」
「うわ何!」
「リチャード1世、キミだけは今来ちゃ、」
「なんだ!そんなこと言われたら気にな」
「止まってリチャード!何か変、?」
———英霊召喚システム起動、英霊召喚が実行されます。
「ああ、しまった、総員退避ー!!!」
万能の天才の掛け声で、召喚室にいたスタッフはみんな弾かれたように飛び出した。
召喚された影を見て、足をとめてしまったサーヴァントと、そのサーヴァントを置いていけなかったマスターを除いての話だが。
「なんで、僕なんかが召喚され……」
「君は、」
「ジョン!!!!!!」
「うわっ!?」
ぎゅうぎゅうと、背の高いリチャードに抱きしめられて、呼ばれた相手は全く見えない。
が、呼び出した相手は、先ほど突発的に開催された調べ物のおかげでわかってしまった。
「まさか?」
「あの霊基パターンはリチャード1世の血縁だと思ったけど、これも運命ってやつなのかな?」
いつの間にかダヴィンチちゃんが眉を八の字にして、戻ってきていた。
「一応確認してから、と思ったんだけどそんなことする前に縁が強すぎて、呼び出しちゃったみたい」
「ほ、本当に敵じゃないんだな?いつものトンチキイベント開始の合図ではないな?」
「もーゴルドルフくんったら。あれが敵だったら表彰ものだよ」
「兄上!せめてまず、マスターに名乗らせ、」
「そうだ!それは大切だな!紹介しよう!俺の、」
「兄上が教えても意味ないでしょう!ちょっと黙っててくれ!!」
「すまない……」
もうすっごくやかましい。仲がいいのはいいことだけれど。ようやく顔を見ることができた、新たな仲間に笑いかける。
「初めまして俺は藤丸立香、君の名前は?」
「マスターから名乗られるとはな。余はジョン、ジョン・ラックランド 。欠地王として名の知れた、世界で最も愚かな王。そこで沈んでる獅子心王は、どうか素知らぬふりをしてほしい」
「さっきは兄上って呼んでたじゃないか!」
「……迷惑をかけて本当にすまない、もし余計な火種を生みそうなら余は座に帰、」
「それはダメだ」
間髪入れずに否定が入った。先程までのおちゃらけた雰囲気は一切ない、兄ではなく王としての姿がそこにあった。
「頼む、マスター。本人の口から聞ける機会が転がり込んできたのに、それをみすみすと失う俺ではない」
「うん、大丈夫。せっかく来てくれたのに、もうお別れなんて俺も嫌だし」
後ろでなんだか顔色を悪くしたようなジョンに、あれ?もしかして何かまずいことを言ったかな?と思ったものの。まだ彼とは出会って数分。相手の何が苦手で、何が好きで、どこに踏まれたくない話題があるか。
人類最後のマスターとはいえ、そこまで判断するのは至難の業だった。
「立香くん、ちょっといいかな?」
「どうしたの?ダヴィンチちゃん」
「実は霊基パターンの話とは別に大事な話があってね」
声を潜めた様子に、あまり多くの人に知らせるべきではない話題だと判断する。
ジョンと、とても嬉しそうに話しているリチャードに断りを入れ、召喚室から離れるとダヴィンチちゃんは笑みを消してこう言った。
「保管庫から、聖杯が一つ消えた」
「ジョン!!!!」
「うわっ!?」
パッと鎧から当世風の姿になった兄上の姿を視認した、と思った瞬間抱きしめられて何も見えなくなった。待って名乗りを、とんでもないブラコンの姿を見せているだけになってる。
……なるほど、何の因果か召喚されてしまったらしい。いや原因はなんとなく分かってる。異物の私が、あの時あの場所で君を垣間見てしまったから、どうせ縁ができたんだろ。最悪だ。神とやらがいるのなら、今頃腹を抱えて笑っているに違いない。
「ごめんね、ちょっとダヴィンチちゃんに呼ばれてるから少し話してて欲しいんだ。いいかな、リチャード?」
「もちろんさ、マスター!」
本当に最悪だ。私は兄上と合わせる顔も、言葉を交わす資格もないのに置いていかないでくれ。
とは言えなかった。一番新参者である私が、マスターに楯突くようなことをすべきではないことくらい、重々承知している。
王位を奪おうとしたのも、その先の未来を知って何も手を貸さなかったのも、何もかも全て。例え二度と口を聞いてくれない可能性があったとしても、兄上には誠実でいたかった。だから、
「兄上。私は、」
あなたを、と続けようとした言葉は唇に当てられた指で押し留められた。
「もしその先の言葉が謝罪であればその口は閉じたままでいろ。お前が謝るようなことなど何もない。お前は正しい。何も間違っていない」
そんなわけがあるか。間違いも間違い、大間違いだ。二者択一すら投げ捨てて、泥沼へダイブした愚か者が、間違っていないわけがないだろう。
「いえ、私は裁かれなければならない。申し訳ありません兄上。私はあなたを見殺しにし、あなたの功績を無きものにした暗愚な施政者だったのです。何の申開きがありましょう」
「仕方ないやつだ!なら此度の謝罪は受け入れよう。これで手打ちだ。俺はお前を許すとも。ああ、だが一つだけ聞いておきたいことがあってな」
「だが……?」
なんだろう。兄上に許されないことがあったなんて驚きだ。良かった、あなたもまだ私に対して怒るという、
「なぜ自ら毒を煽った」
なぜ。あなたが、知っている?
どうして、どうして?どうして!あなたがそれを知るはずはない!
資料は燃やした、諸侯らには金と名誉でもって口を閉じさせた。後世に伝わるはずがない。ずっと前に死んでしまった兄上が、知るはずなんて。
そんなことを考えていたから、間違えた。
「、なんのことでしょう」
一拍反応が遅れてしまった。
そうだ、ずっとそう。
武力も、智力も、遊戯すらも。何もかも兄上に勝てたことなぞ一度もなかった。
そんな私が面と向かったこの状況で、兄上との騙し合いに勝てる道理なんて存在しなかったのだ。
「俺に、嘘をついているな?」
こちらをじっと見ていた紅い目に怒気が宿った。これはいつぞやの、僕を噛んでしまった犬を、死ぬ気で庇った時に見たのと同じだ。
「まって、兄様!この仔は悪くない、僕が上から手をかざしたから少し怯えてしまっただけで、」
「いいかジョン。いつか国を統べるお前に、手を上げるような獣は殺せ。お前ができないなら俺がやろう。この国の獣を殺し尽くすくらい簡単だ」
「……兄様、僕が王になるのなら。この獣は僕が躾けて見せる。機会を与えないのは上に立つ者として相応しくない、そうでしょう」
……あの時、獣と言っていたけれど。それはきっと自分も含めた言葉であったのだと、後になってようやく分かった。幼い頃の思い出としては、あまりにも不穏が滲んでいるが。
だが今回はその時以上に怒っている。僕が傷つけられた時に関してはブレーキが消え、
アクセルベタ踏みバチギレ状態になることが分からないほど、無能ではない。
あれ?もしかしてこれ、私が私を傷つけた時にも適用されるのか?とんでもない地雷踏んでる?
死ぬほど焦っている内心はもうバレていそうだが、何とか落ち着いてもらえないかなと視線を右往左往させた時、天の助けが現れた。
「一旦ジョンから離れようか、リチャード。それじゃ尋問だよ」
「マスター、これは俺とジョンの問題だ」
「立香くんも私も、兄弟喧嘩に口を挟む気はないんだけどね?彼は現界して何時間も経ってるわけじゃない。後に残った歴史書が、歪められるのは世の常だってことくらい、キミも分かってるだろ?本当に分からないかもしれないのに、無理に聞いて良い答えが返ってくるとは限らないさ」
「……ダヴィンチの言も一理あるな。すまなかったジョン!」
助かったァ!!サーヴァントになってから、死にそうな目に遭うって何だ?つくづく運がない星のもとに生まれたようだ。
「いえ。私は兄上に首を落とされても仕方ないことをしてきましたから」
「お前が俺を殺すことはあっても、俺がお前を殺すことはないぞ?」
「そういうとこ嫌いなんですよね」
「何でだ!?」
鬱陶しいです、と兄をひっぺがす弟。
「……これは、相当拗らせていそうだ」
たった数分、されど数分。
随分と捻くれて絡まった彼らであることを見抜けるからこそ、彼女は天才と呼ばれるのだ。
少しドタバタした召喚だったからちょっとバイタルチェックさせてねー、と弟はダヴィンチと共に連れられていった。
それと入れ替わるように、そっくりな少年少女の二人組が現れた。
「やぁ、獅子心王。今日もお日柄がよく」
「こんにちは王様、ようやく弟さんに会えて良かったね」
「ああ、君たちか!俺に何か用か?」
「うーん、用事といえば用事かも?」
「お節介とか、ちょっかいって方が正しいんじゃない?」
「お節介好きな俺にお節介とは!」
さて、いったいどんな面白いものを見つけてきてくれたのやら。
「さっき図書室で聞いちゃった!弟が死んだ原因が、後世に間違って伝わってると思ってるんでしょ?」
「ジョンが病死などするわけがないからな」
「だから本人に聞いたんだ?自分の直感と推測で?」
「ああ、それが一番手っ取り早い!」
「その結果があの尋問なら世話ないね。ねえねえ、どうして分かったの?弟が服毒自殺した、なんて」
「いや、分かってはいなかった」
「ウッソー!本気?そうだと思ったから聞いたんじゃないの?」
「ある程度はな!だが確信したのはあの反応だ。アイツは自ら毒を飲んだ。それは今や間違いない」
「正直そうに見えて、弟にカマかけるのも厭わない。そういうところが怖いんだよね」
「ははは!褒め言葉だな!」
げぇ、という顔をした少年はすぐに表情を切り替えた。
「なら別のアプローチにしよう。獅子心王様が求めてやまないモノをあげてもいい」
「ええー!それ私も結構疲れるから嫌だなぁ……嘘だけどね!」
「おお!それは一体なんなんだ!冒険か!聖剣か?」
「冒険ではあるね、君が望むモノとは毛色が異なるけど」
詰め寄った少女の手を引いて、二人は少し距離を取った。
ふむ、これは嫌がらせの類いと見える。
それを肯定するかのように、芝居がかった台詞が聞こえてきた。
「なぜ愚かな王として名を刻まれたのか」
「なぜその最期を選んだのか」
「気にならない?気になるよね?」
「それに的確な助言を与えられた、先を見据えた行動をとれた彼がどうして、愚かな王として名を残したのかってさ」
「……君たちに分かるとでも?」
「もちろん分かるよ!」
「だって私たちは彼のことを、ずっとずーっと見ていたんだから!」
「一番前の特等席で」
「毒酒を飲み干す最期ま、」
きゃらきゃらと笑う少女の急所を薙ぎ払えば、面白いように首が飛んでいった。
「わー!!いきなり何するんだよ!フランチェスカが死んじゃった!!」
「感覚が軽い、幻術だな」
「だいせいかーい!さっすが彷徨える王。この程度の目眩しじゃ、やっぱり騙すのは無理か」
ゆらりと空間が歪んで、何事もなかったかのように少女の姿が現れる、のを待つこともなく剣を振るった。空振りだ。
「嫌だなぁ、そのノータイムで殺しにくる姿勢」
「でもいいよ!楽しませてくれたからね」
「二度と囀らないように、その舌と首はここで切り落としておこう」
「「わーん!!この王様とっても怖ーい!!」」
「でも本当にいいのかな?私たちを殺しちゃって?」
「僕らは君に、彼の選択を見せることができるのに?」
「何?」
「全部見てきたって言ったでしょ?そしてここになんと!」
「とっても純粋な魔力リソースが!」
ひょいと手品師のように手を振ると、彼の手には黄金の杯が収まっていた。
「それは、聖杯か?」
「そう!ちょっと借りてきちゃった!」
「あれだけあるなら、一つくらい拝借しても問題ないと思ってね」
「いや、多分血眼で探されているぞ」
「大丈夫、大丈夫!使った後は戻すから」
「それに君は見たくない?あの王様の決断を。道化を演じたその様を」
「全てを識った上でなお、泥を被った弟を」
その言葉に、剣先が僅かにブレた。
「そうだよねぇ?知りたいよねぇ?」
「優しい優しい兄だったらさ、弟の勇姿は知りたいだろうね」
「大丈夫、責められることはないよ」
「何も気に病む必要もない」
「「これは君には知る権利がある、歴史に消えた裏話さ」」
一瞬の浮遊感。足元を見れば床がない。
またも幻術?いや違う。
これは、現実だ。
舌打ちを一つ。流石に踏みしめてもいない状態から、何もない空中を駆け上がることはできない。突き落とした張本人たちはこちらに何かを投げつけ、楽しそうに手を振った。
「聖杯、の欠片か?」
「じゃあね王様!いやお兄様?」
「彼を助けたいならそれでもいいよ?ずっと手強いだろうけど」
「王でもなければ、獣でもない」
「[[emphasismark:英雄>・]]の君じゃ彼は救えない」
「「それでもなお足掻く様を、僕たちに見せておくれ」」
第三幕:道化は踊る
「じゃあそろそろ、本腰を据えて話し合うとしようか」
召喚されたジョンとは正式な契約を結び、少しだけ案内し終わった藤丸は、カルデア内の一室でダヴィンチちゃんと話し合っていた。
「聖杯がなくなるなんてそんなこと、いや、時々あるけども……!」
足が生えたり、うどんの器にされたり。あまり深く考えてはいけない。魔術師でなくとも、頭をおかしくする光景だ。
「今回の件に関しては盗まれた、と言うべきかな」
ンンン!だのハッハァ!だの、喧しい声が脳内を駆け抜けていった。思い当たるサーヴァントが多すぎる。誰かに唆される可能性も考えれば、容疑者候補はさらに増える。
「唆す?嫌だなァ、そんなすぐバレる方法をこの私が取るわけないだろう?」とか言いそうな教授は、先日フランに手酷く怒られて意気消沈している。今回に限り除外しよう。
「誰もその犯行を見てないの?セキュリティが切れてたとか?」
「監視カメラも魔術的防御もしてあるさ。ただ今回それが突破された。ということは」
「……魔術に長けたサーヴァント」
メディア、キルケー、マーリン。その他諸々の名だたる英雄達。思いあたる名前は出ても、聖杯を盗むようなメンツではない。いや、マーリン辺りはわざと見逃しそうだけど。
「いやいや。流石の私もそんなことはしない。見ていることが好きなのであって、舞台に上がらないといけない展開は、あまりお呼びじゃないからね」
「うわ出た」
「ただ顔を出しただけなのに、ゴキブリみたいな言い方をされるなんて傷つくぞぅ!」
「マーリンは犯人を見てないの?」
「残念ながら。随分と上手に幻をかけたようだ、私と同じくらいにね。きっとそういう魔性の類さ」
「魔性だって?」
「やぁダヴィンチ、今日も元気そうで何より。あまり思考ばかりに気を取られていると、現実の靄を見落とすよ。これは花のお兄さんからの、心優しいアドバイスだ」
にっこりと笑った花の魔術師は、僅かな花弁を残して夢のように消えた。
言わんとしたことを理解した天才は、手慣れたように機器を動かしていく。見落とさないよう慎重にデータに目を通し、数秒もしないうちにそれを見つけた。
「………これは、」
「どうしたの?」
「立香くん、マシュを呼んできてほしい。まだ僅かな綻びで、しかも巧妙に隠されているけれど。微小特異点が発生してる」
カルデア内の誰かが聖杯を盗んだ可能性がある以上、あまり大っぴらに人を集めることは避けるということで意見が一致した。
管制室にいるのはいつもよりも少数のスタッフと特異点攻略に主要なメンバー達だけ。
だが、百戦錬磨と言っても過言ではない彼らが、レイシフトを始める前のミーティングで行き詰まっていた。
「何とかできないのかね、技術顧問!藤丸はレイシフトできるのに、サーヴァントがついていけないだと!」
「残念だが、今回の特異点はほとんどのサーヴァントのレイシフト適性がない」
「ですが、先輩だけではあまりにも危険です!現地で召喚することもできないのでしょうか」
「それについても分かっている。ほぼ不可能だ。というよりも、イングランド。この場所は外からの介入を拒んでいる。ずっとだ。人理が焼却された時も、この場所だけは特異点が生まれることはなかった」
管制室に重たい沈黙が降りる。
それをわざと破るかのように、明るい声がパッと響いた。
「さっきダヴィンチちゃんはほとんどって言ったけど、つまり少しはいるってことだよね?」
「……今回適性があるとされたのはリチャード1世、そしてその弟のジョン・ラックランドだ」
「おお!獅子心王がいるなら心強い!そのストッパーになりそうな、常識人らしき弟もいるなら尚更だ!何だ、技術顧問。何とでもなるではないか。わざわざ不安になるようなことばかり述べおって」
ダヴィンチは、その言葉に緩く首を横に振った。
「既にこの特異点には、リチャード1世がレイシフトしているらしい。なのに、その反応がこちらからは追えていないんだ」
「来てもらって早々で悪いんだけど、少し特殊な特異点が見つかった。今回のレイシフトの同行をキミに頼みたい、ジョン・ラックランド」
こんな弱い私を指名!?と、思っても顔には出さない。どれだけ王様ムーブの仮面をつけてきたと思ってるんだ。
「そうか、数多の英雄がいる中でわざわざ余を使う必要もないと思うが。特段断る理由もない、その特異点というのはどこに?」
「イングランドだ」
おい、ふざけるな。その地は、その場所だけは。特異点が生まれちゃダメだろう。所詮、無能な王では、命程度を賭けたところで出来るものではなかったということか。ロンドンが特異点になりそうな時に、アレと戦って負けたのは覚えているが。
やっぱり何にもできなかったな、私。少し知っているくらいじゃ、運命を変えることなんて、
「キミじゃないとダメなんだ。キミ以外、カルデアにいるサーヴァントのレイシフトの適性がない」
「その、すまない。私の知識が不足している。レイシフトはその地に所縁ある人物であれば、存在証明がしやすいものではないのか?その地であれば、それこそ円卓の騎士などの方が私よりも適性のはずだ」
「おや、聖杯の知識かな?それともカルデアを見て回った少しの時間で勉強した?キミの理解は正解だ。ただイングランドという場所に関しては別なのさ。この地は人理を取り戻す時から今に至るまで、特異点が生まれたことはなかった。なのに、今回初めて観測された。かなりの異常事態と言っていい」
……もしかして上手くいっていた?それなら少しは喜べる。君の旅の重荷を少し、軽くすることはできただろうか。
いや?今、特異点できちゃったから、ギリギリマイナスかもしれない。というか英霊たちのレイシフトを阻んでるのって、過去の私の願いの副作用じゃないか?ダメだ、大迷惑をかけている。
何をしても裏目に出るのは、知識があろうと変わらないらしい。
だが、それならそれでおかしなことが一つある。
「なら兄……リチャードは?余があるならば彼にも適性があるはずだ。その、先ほどから姿を見ないようだが」
「どうやら今回の特異点に、先にレイシフトしてるみたいなんだ。けど、その反応がこちらから観測できていない。だから本当にキミしかいないんだ」
「兄上…………!!」
胃が痛い、頭も痛い。来て早々何の冗談だ。悪い夢なら覚めてくれ。
「分かった、必ず馬鹿兄上は連れ帰ろう。例え相打ちになったしても、あの戦力はこの後も助けになるはずだ」
「キミもちゃんと戻ってこなきゃダメだからね!?ちょっと立香くん!この王様も割とノーブレーキかもしれない!しっかり手綱握っておいて」
「任せてよ、ダヴィンチちゃん。さっきのカルデア案内ツアーで仲良くなったから大丈夫」
「さっすがー!そう来なくっちゃ!」
「仲良く、仲良く……?」
「もう茶飲み仲間だよね?」
「まだ飲んでないが!?」
「ほら、まだって言ってくれたでしょ?」
にっこりと、マスターは笑った。
ああ、眩しいな。苦しくなるほどに。
幕間:愉快犯の妄言
なんで僕らが彼をオモチャにしたのかって?前世の魂がそりゃもう臆病だったからさ!
道端に落ちていた小銭を、懐にいれるのが怖くて賽銭箱に投げ入れたり、ポイ捨てされたゴミを見て、わざわざ拾ってゴミ箱に捨てたりしてた。
良い人?違うよ、あれは見えない何かを畏れてたの。もしもその悪さを誰かに見られていたら嫌われる、神様に見られていたらバチが当たるってね。
知っていて行動しなかったら、自分も悪い人になるんじゃないか、ってビクビクしてた。
キャー!とってもみじめで可哀想!信じられないくらい自罰的!だから、虐めたくなっちゃった。
そんなビビリで偽善な凡人が、何をしても逃げられない状況になった時、どんな愚かな真似をしてくれるんだろうって!
酷い?なんでさ。君らだって子供の頃は、アリの行列を邪魔したり、ワケもなく花をむしったりするだろ?それとやってることは同じだよ。
次の場所に行こうとした魂をちょっと魔術で捕まえて、逃げられない役目を与えてみようと、人間達を眺めてたんだ。
少し話は変わるけど、どんな人間にも魂の器ってやつがある。ここに乗るのはいろんなものだ、縁とか人望とか知識とか。
高ーく上まで乗せられるのが才能アリな英雄で、普通に埋められるのが凡人。埋めることすらできない才能ナシが愚鈍ってこと!
この器は生まれる前から、どれだけ埋まるか決まってる。そしてあのジョンとかいう王様は、この器が全く埋まらないポンコツだった。
才能もなければ運もない。余分に魂を押し込めるくらいにスッカスカ!王様の役からは逃げられない!こんな都合の良い素材が、ちょうど生まれてくるなんて、私たちは運が良い!
あとは知っての通りだよ。前世を忘れないように、彼には何度も何度も夢を見せた。自罰的な善人の方が面白いから、人類最後のあの子の夢をね。そうしたら何が起こったと思う?
何もかも知っていたはずなのに、逃げることもできないまま。道化に成り切り、毒を煽って、あの魔術王を欺いた!もう予想外!想定外!笑いすぎて窒息死しそう!
しそう!じゃなくて、してただろ。いやぁ、あれは傑作だった。正気だと心の底から思ったまま、正気じゃない選択肢を取れるなんて。本当に人間ってやつは最高だ!
だから、これはお礼。文字通り死ぬほど楽しませてくれたお礼だよ。
もちろん、嘘だけどね!!
第四幕:観客は静粛に
「余は暗君として死ぬ」
お前は、何を言っている?
優しい弟、血を疎うお前。優しい心を持った王は民に愛されるべきだろう。
あの道化に空に落とされ、地に足をつけた後。なぜか目の前にジョンがいた。
俺の知らない姿、王となったお前が。
どうやらこちらの姿は見えていない、というより何の干渉もできない。心許ない言葉を吐き捨てた人間に、少し話が必要だな!と掴もうとした手は何事もなくすり抜けていった。
見せてあげる、と言っていたがこれは弟がどう生きたかを、ただ見せられているだけのようだ。劇、あるいは映画のようなものか。その題材が弟であることは、複雑なことこの上ないが。
弟の口車にいいように乗せられて、臣下たちは愚かな王を作ることに賛同した。そうだろうな、聡いお前が全ての選択を間違えて、愚者として名を残すなど考えにくいことだった。
真実は隠せ、書物は燃やせと厳命した後、思い出したかのようにジョンは口を開いた。
「ああ、そうだ。余が死んだ時の原因は病だ。愚かな王は民の祈りが天に届き、病でこの世を去ったと。そう文には書き記すように。暗殺されたのでは後に禍根を残す」
「王よ、口を挟むことをお許し願いたく。死に方を、既に決めているようなお言葉はあまりにも酷にございます」
「何だ。分からぬことばかりだったお前も、少しは頭が働くようになったか?」
止めてくれるな。民の憎悪は私だけに向けさせる。ならば私の死と共に全て煉獄へ持っていけるとも。
「民が王を殺すのは構わぬ、だが王がいなくなる時があってはならん。人は不自由という名の庇護の下で生きられる。その秩序が乱れた時、最初に皺寄せを食らうのは最も弱い女子供だ。女は子を産み、子は新たな民となる。次を担うものが消えた国など、滅亡しか行く末はあるまい。それは許さん。何があろうと、この国は先へあり続けるために」
「思慮深き我が王よ、なぜそのような智慧を持ちながら、悪しき王を演じるのですか」
「私に才はない。賢王となるには程遠い。であれば痛みを持って民に知恵を与える薬となるまでのこと」
「斃されるべき王に、民を虐げる悪に、自ら身を落とすのですか」
「斃されるべき、か。良い表現だ。そうなれたなら、もしかしたら英雄が殺しに来るのかもな。だがこの世に英雄などいない。全てまやかし、眉唾物だ。人は英雄になることはない!王を殺すのは民であり、民が死ぬのは天命によるものだ」
「それでは、生かすのは誰なのですか」
「変わらんな、お前は。だが変わらぬ愚かさのままでいることを赦す。民を生かすのは王の責務。だが王は最初から生きてなどおらぬ。国を守るための機構だ。王になった時点で、その命は全て民に分け与えている」
もう話は終わりだ、疾く失せよ。
その言葉の後、二度と智者である王が口を開くことはなかった。
「一人になりたい、今日の夜の番は数を減らせ」
なんとなく、ここだと思った。
もうすぐこの劇は終わるのだと。
終わる、ということはそういうことだ。
「これが最初で最後であってくれよ」
机の引き出しから何かを取り出した。種?あるいは薬?あいにく植物には明るくない。ただ見ただけでは何なのかまでは突き止められない。何をするかは分かっている、だが止めようとした手はすり抜けた。
「こらこら、劇を観てる時に観客が席から立っちゃダメだよ」
その言葉と共に体が動かなくなる。視線だけを動かせば道化師の片割れが顔を出していた。
「あれはイチイの種だよ、猛毒のね」
「なるほど!それで君はわざわざ何をしにきた?」
「ここにいる私は幻だから何かしたって意味ないよー!本体はカルデアで遊んでるからね」
「あいつの終わりを見せずに帰すつもりなら、いくら見せてもらった恩があるとはいえ、今すぐ剣を取らせてもらうが」
「まさか!首だけになってでも最期まで見てもらわなきゃ!見たかったんでしょ?弟の死に様。私たちと同じくらい悪趣味だよね!」
ほら、と指差した先で弟の目から光が消えていく。何もできない、既に起きたことを変えることはできない。
「王様の直感は大正解、あの子は毒を飲んで幕を引いた。自分に向けられた憎悪と一緒にね」
「そうするように、仕組んだのか」
「答えはノーだよ、弟想いのお兄様。あれは彼の選択、彼の結末。私たちは何の干渉もしていないし、できなかった。今の君みたいにただ見ていることしかね。ねえねえ、怒った?怒るの?全てを弟に押し付けて死んだ君が?」
「俺にはその資格などない。決断も行動も全て讃えるべきものだ。なぜなら、アイツの願いは、あの在り方は。俺が求めた理想の王、その考えと同じ極地へ至ったのだからな!」
「でも怒ってるよね?」
「そうだな、俺は怒っている。何もできなかった己にだ。だが、王でも獣でも英雄でもなく、[[emphasismark:兄として>・]]であれば、アイツに少し灸を据えることはできる」
「へぇー?一体彼の何を叱るの?」
「嫌だと思ったことを、口に出さないのと出せないのでは、全く違うからな!」
「あははは!!!君が言うんだ!彼に一番嫌なことをした君が!?はちゃめちゃだね!最高だよ!そう来なくっちゃ」
と、高揚した顔の道化を切り捨てる。驚いた顔のまま、頭がずり落ちた。
「ここで幻ごときに足を取られている時間はない。俺を早くここから出すといい」
「本当そういうところ大っ嫌いだよ。劇場で暴力沙汰は御法度だ。さっさと退場願おうかな」
憎々しげにこちらを見た生首の言葉と共に、今までいた空間が切り替わった。
空中に。
「また空か!?君たちは地上に転移はさせられないのか?」
「首を刎ねてきた相手に、そこまでしてあげる優しさはないよーだ!バイバイ王様!精々頑張ってね!」
1216年、イングランド。
私が死んだ年だな。嫌な予感がする。運が悪いし、こういう時の予感は大体当たる。
「うーん、ここにいるはず。存在証明はできている……時間が合ってない?」
「何の話だ?」
ダヴィンチが困ったように独り言を言っている。存在証明ができないのはマスターの一大事だが。
「いや、リチャード1世を探してるんだけどね?その場所にいるのは間違いない。ただ顕微鏡みたいに、まだピントが合っていないんだ。多分時間が少しズレているんだと思う」
「時間が?」
「もう少しこちらで調べてみるよ。そこは小さな特異点だから、全体をスキャンできたんだけど、特段魔力反応も敵性存在もいない。どこかに隠されているか、そもそもそこにあるのかも微妙なラインだ」
変な特異点!と言い切った。聖杯の反応がないのは困るが、敵がいないなら少しは安心だ。この場所が君を傷つける場所であって欲しくはないので。
「一番近い村は少し先にあるみたいだ、歩いて一日くらいかな。周囲の探知は怠らないけど、敵はいないみたいだし、ちょっとした息抜きだと思って様子を見てきてほしい」
「了解!ありがとうダヴィンチちゃん!」
実際、道中は何もなかった。野生の動物くらいはいたが。本当に敵はいないらしい。随分昔によく見た光景、いや何も考えずに眺めることはできなかったけれど。もしも自分に才があったのなら、民はこんな長閑な暮らしを享受できていたのだろうか。
日が落ちて暗くなってしまったので、一度歩くのはやめて火を起こす。これで敵が炙り出されたのなら、情報を引き出すこともできるだろう。
と、何かをいじっていたマスターは、これでよしと呟くと、こちらへ向き直った。
「今はカルデア側からこっちの音は聞こえてないよ」
「なぜそんなことを……?」
「話がしたかったんだ。内緒話ってやつ」
「話すだけであれば、わざわざ彼らから隠れるような真似をしなくても」
「それじゃあ話しにくいかなって」
「話しにくい?君がか?」
「俺は欠地王のジョンだけじゃなくて、[[emphasismark:ただのジョン>・]]とも話をしたいな」
リチャードと話す時みたいに僕って言ってる君の方、と恥ずかしげに言った。
これで自認は一般人なんて笑わせる。
「……君のその勘の良さは、僕の兄上と同じくらいだろうな」
「初めまして、じゃないけど。こうして話すのは初めてだね!改めてよろしく」
そう、そうだね。私の方こそ。
君がこの星に生まれ落ちるずっと前から。
僕は君と、話がしてみたかった。
「犬が好きなんだ、可愛いよね犬」
「僕を裏切らないからな」
「うーん流石アヴェンジャー。でもジョンは人にじっとり好かれるってリチャードが言ってたよ」
「あの兄、人のことをなんだと……!好かれるわけがないだろう、だから裏切られたんだ。まさかこの時代にまで残るとは思わなかった」
「臣下の手紙のこと?あのおかげで良い人かも?って評価になったのに」
「その評価にならないように、文書を燃やして口を閉じさせたのだ」
「それはどうして?」
「……語る口は持ち合わせていない」
そっかー、なんて夜空を仰ぎ見たマスターは、なんの変化もないように見えた。
「本来なら特異点はロンドンにできるはずだった」
「!?」
「って、ゲーティアが言ってたんだけど」
びっくりした。バレたのかと。魔術王も口が軽いな。いや、それもそうか。アレは君には特別甘い。僕よりも才があったのに、届かぬ空の星に手を伸ばす愚か者だった。
「悪魔とかそれに連なるモノを拒み、王を憎んで拒絶する場所だったって。一番肝心な時間が、分かっていたかのように牙を向いたって言ってたよ」
「そうか、珍しいこともあるものだな」
「病気の原因は悪魔だから排除しろと命じたり、民が権利を得るきっかけを作ったりした有能な王様がいたんだって、後から知った」
答えを聞いたわけではないだろう。その言葉と、残されたヒントを掛け合わせれば簡単に答えは出る。だからあれほど隠せと命令したのに。
「ロンドンが、というよりもイングランドが特異点にならなかったのは、君がそうしたからなんじゃないの?ジョン」
僕は、君に嘘をつきたくなかったから。
「そういうことは、わかっていても素知らぬフリをしろと言われなかったか?」
「ドクターとかに?ドクターは空気読まないところあるし、分かった時点でポロッと言いそう。言わないことは本当に言わないけど。足りる時と足りない時のギャップが激しすぎるんだよね」
「万能の天才は」
「私には全部わかっちゃうんだぜ〜?とか言ってタイミング見て話すことの方が多いんじゃないかな。でも二人とも誰かが傷つくなら口を閉じるし、喋らないともっと傷つくなら、話すように促してくれると思うよ」
「……周りにもっと普通の人間はいないのか?」
「うーん、人理燃えてからカルデアの人と特異点で会う人以外はいなかったから」
「すまない私の失言だ」
「いいよ、全然気にしてないから。でも出会ってきた人たちは何かしらいいところを持つ人だったよ。だからさ、君がそんなことをした理由を聞きたいんだ」
空からこちらへ視線を戻したマスターは、正しく見極める目をしていた。
「どうして、まだ起きていない人理焼却を、人間の時のジョンは知ってたの?」
口を開いて、閉じる。何と言うべきなのだろう。ずっと前からファンでした、とかそんな理由じゃ務まらない。
だってそれはあり得ない。ただ夢見ただけで、人生を棒に振るような真似、普通だったらやるわけがない。でもそうなると知っていた、その先の未来を知っていた。自分が動くしかなかったから。
元々あまり嘘をつくのが上手い方ではない。兄上にもすぐバレてしまうし、君にだってバレてしまった。あの生前の嘘がバレなかったのは、何か運命の後押しがあったからに違いない。
「信じてもらえるとは思わない」
「君が言うことなら信じるよ」
「愚かだな、私を呼んだだけのことはある」
もう全ては終わったことだ。願いの一部は叶っている。
「夢を見た、君の夢だ。一度であればいざ知らず、だが忘れるなとでも言うかのように何度も何度も夢を見た」
前世、なんてものはあまりにも荒唐無稽だから。夢とぼかして話をしよう。何の因果か知らないが、何度も君の夢を見たのは事実だし。
「その夢は鮮明で、言葉もよく聞き取れた。特異点、人理焼却、魔術王。他にも分からないものはたくさんあったが、知っている単語も時々あった。特に耳に残ったのはロンドンだ」
「どうして、まだ生まれてもいない俺の夢を?」
「少し話が逸れるが、歴史上の暗君としては私以外にもいくつか候補があるだろう。後にスペイン継承戦争を起こしたカルロス2世や、始皇帝の息子である胡亥などな。だが、前者は近親婚による病弱、後者は悪しきことを吹き込んだ側近に踊らされたから。自らにあった能力だけで見れば王として最も愚か、いや落ちこぼれだったのは私だ」
パチパチと薪が燃える音がする。マスターは肯定も否定もしなかった。どちらの反応をしたところで、僕がそれ以上話さなくなる可能性を考慮したのだろう。
これが、人類最後のマスター。僕が夢見た果ての星。その在り方は心地良い。君を慕う英霊が、文字通り星の数ほどいるのも頷ける。
「落ちこぼれという共通点があったことで、君の旅を垣間見てしまったのだ、と……本当にすまない今のは決して数多の特異点を修正してきた君が私と並ぶ無能だとかそんなことを言いたいわけじゃなくて」
「うおお!?すごい勢いでネガティブに!?!大丈夫、分かってるよ。ジョンは優しいし、そんなつもりで言ってるわけじゃないことくらい」
「僕が優しいわけないだろ」
「うん、結構めんどくさい性格してるよね」
分かってるよそんなこと。もっと素直な性格だったら、こんな王様にはなっていない。
「そろそろカルデアとの通信戻さないと怒られちゃうな、また内緒話しよう!この話は絶対誰にも言わないからさ」
信じられない言葉の羅列だ。それが君でなければの話だが。
「つまらぬ話だが、知りたいのなら君に話すくらいは構わない。ただ絶対兄上には言わないでくれよ」
「フリ?」
「違うからな?」
そして翌日、日が登ってから。
「やあ立香くん。ちょっと情報が、っとその前に。昨日の夜途中で通信が切れたみたいだけど機械の不調?何かあった?」
「何にもないよ、ちょっと内緒の話がしたかったんだ」
「男同士の友情ってヤツ?仲良くなれたなら何よりだ。敵性存在は確認されていないけど、仲間同士の絆は強い方がいいからね」
ニコニコとそう言い切った。多分全部わかってそう。
「それで情報って?」
「ああそのことなんだけど。一つ目、その特異点に聖杯はない。というかそこはマップの上にもう一つレイヤーを作ってそこに転移させたフェイクみたいなものでね。ちょっと説明が難しいけど、要は特異点って反応は嘘!聖杯はもう既にこちらに戻ってきている!ああ、全く本当に厄介なことをしてくれたものさ。わざわざ特異点だと間違えさせた上で、立香くんをレイシフトさせるように仕向けたな?」
「やだなぁ、ただの嫌がらせだよ」
「そうだよ。ただの暇つぶしだよ?」
「こらー!!やっと出てきたな!プレラーティ!!そこを動くな!捕まえろー!!!!」
「「捕まえられるならやってみなよ」」
ドタバタと大騒ぎする音が聞こえてきた。これは、相当揉めていること間違いなし。
「というわけだ、幸いカルデアには留まっている英霊が数多くいる。あの二人を捕まえるために動いてるから安心してほしい。そして二つ目、ようやくその時間軸にリチャード1世が現れたようだ、多分プレラーティの幻術で惑わされていたんだと思う。上手く合流して、カルデアに戻ってきて欲しい。座標は送っておくから、無事会えることを祈るよ」
第五幕:斃されてこそ意味を為す
「リチャードはこの辺りにいるはずなんだけど」
「マスター、上から来る」
即座に抱えて飛び退いた。
「ジョン、お前の判断は素晴らしい。昔からそうだったな」
「兄上!マスターを巻き込むような登場の仕方は、」
「だが、あの最期はなんだ?民を慮ったお前が、そのために毒を煽るだと?巫山戯るのも大概にしろ」
「……私は病気で死んだ。どんな本にもそう書いてあったでしょう」
「まだ嘘をつく気か?俺は全て見てきた。俺が亡き後、どう動いたか。何を考えて、臣下に書を改竄させたのかも全て」
ゆらりと土埃の奥から姿を見せた兄の目に、いつもの光はなかった。
「は、?……まさか」
「あの道化師には手厚く礼をしなくてはな!その後で首を貰い受けるとしよう!」
「リチャード、何の話を」
「すまないマスター!私が巻き込んだ。これは私の生前の、」
「ジョン、俺はお前のことは全て許すが、その精神は叩き直さねばならない」
「兄上に精神がどうこう言われる筋合いはない」
「そうだな。お前も俺も、民に理解されなかった者であることに変わりない。だが俺のことを理解してくれたお前を、俺は理解できなかった」
「そんなことどうだって」
「良いわけがない。一人で抱え込んだお前を、置いていった俺に怒りを向けるならば良い。だがお前は受け入れた。自分の心を押し殺し、民の怒りも何もかも。その在り方は、お前の首を絞めることになる。いやその末路があの姿か」
なぜかは知らないが、本当に全部バレているらしい。つまり!
わざと愚か者になって、国民に『王様ヤベェと俺らもヤベェ!マグナ・カルタ提出しまーす!』となるよう仕向けたことも、最期にもう終わり終わり解散!って感じでさっさと毒飲んで退場したことも、全部バレている。
たかが犬に少し噛まれた程度で、国内の犬を全部殺そうとした兄様に。
「(まっっっっずい!!!!!)」
それくらい見越して動け?無茶言うな。私みたいな愚鈍な王が、英霊になって未来で兄と再会します!なんて誰が想像するんだ。
というか「あの王様実は全部わざとでした!」なんて文を残した臣下がいたのが悪い。あれほど残すなと言ったのに。
しかもそれをホイホイ信用した後世の人間も大馬鹿だ。信じるな、そんなもの。これだから平民どもは嫌いなんだ。ただの文字に一喜一憂して英雄を作り出すんじゃない。紛い物にしかならないだろう。
そのせいで、今の私がこんな目に遭っているときた。やはり夢物語なんて燃やすべきだ。実はいい人だったんだ!なんて、そんな都合がいい話があるか。脚色する馬鹿も、信じる阿呆も、広める道化も消えてしまえ!
いや、そんなことを考えている場合ではない。この場にマスターがいるのもさらにまずい。僕だけじゃ、守り切れるかどうか分からない。
使えるものは、逃がす手立ては。
可能な限り目を凝らす、と遠くにいる白髪の少年が必死に何か口パクしている。
「(お、えん?)」
何だ?君のこと応援してるよとか?いや違う、ならあんな必死な顔はしない。が突然声が届いた。
「ようやく波長が合ったね!いやーミスった、ごめん!ちょっと人生見せただけで、まさかあんなに怒るとは」
誰か知らないがお前の仕業か!何してんだ本当に!!!
「巫山戯るな!と言いたいところだが、そんなことよりもマスターを頼む。私はあの兄を止めないと」
「僕らのせいでもあるからそれくらいは引き受けよう。でもできるの?君に?あれセイバー霊基だけど、頭バーサーカーだよ?」
「そんなの生きてた頃から変わらない」
せめて自分のやらかしたことは、自分でケジメをつけなくては。ふぅん?と楽しそうに微笑むと少年は消えた。消えた?おい、マスターはちゃんと守れ。
未だこちらを見据える獅子心王に向き合った。生前こうすることができていたのなら、また違った未来があったのかもしれない。もしかしたら彼の宰相として、王ではない自分がいたのかも。
だがそれは全て絵空事。もしもの話で、ありえない話。
「全て見たんだな」
「ああ」
「その上で叱ると?私を?矢で射られて死んだあなたが?」
「そうだ」
「であれば話は早い。間違ったことはしていないと思っている私と、そうではない兄上。その逆も然り。このまま話し合いをしても平行線だ」
ゆるりと目が細められる。その先の言葉を言えと言いたいのだろう。
「話しても分かり合えないのなら、拳で分からせるしかないだろう」
にんまりと兄の口角が上がった。正解だとでも言うように。爛々とした目は先程の昏いものではなく、この先のことを楽しもうという気概に満ちている。
ほら見たことか。ずっと前から、それこそ英雄なんかになる前から、この言葉を待っていたんだろ。
そういうところが大っ嫌いだ。
「その意気やよし!ならば俺とお前、どちらが正しいか。武勇を持って決めておこう!」
「どっちの言い分もきっと正しいし、わざわざ戦う必要なんて、」
「いやマスター、僕からも頼む。本来ならこんなことに、君を巻き込むべきではないんだが……。生前できなかった、兄弟らしい大喧嘩だ」
「そっか、なら何も言わないよ。でもカルデア帰ったら君たち二人ともお説教ね」
「耳が痛いな……さて兄上。僕は弱い、知っているとは思うが」
「ああ!弱いな!俺と剣を交えれば、2秒と経たない内に地に伏せるだろう」
「それでも、なお戦いたいというのは策があってのことだと判断していいな?」
「流石だな、ジョン!その通りだ!そしてここに、道化師たちによって、来る前に渡された聖杯の欠片がある」
「ん???」
話がとんでもない勢いでかっ飛んだ。ダメだこの兄、早く止めなきゃ。
「俺はお前と戦いたい!」
「それはもう聞いた」
「お前の力は武ではなく智に宿るもの。故に、ここに[[emphasismark:宣戦布告>・]]する!お前と俺で戦争をしよう!俺はお前が間違いだったと、この戦をもって認めさせる!」
キラキラと、心の底から楽しそうに、兄はそう言い切った。もう彼は怒っていない。いや怒っていてもその感情よりも前に、私と戦いたい!と思う心に突き動かされて、行動しているのだろう。
その在り方が好ましい。そして、そう在ることを許さなかった世界が憎い。
だが。
あなたは僕の結末を、
私の願いを、その判断を、
全て知った上で、真っ向から否定してきた。
であれば。
「っははは!!侮辱するか獅子心王!!いいだろう、その宣戦布告は受け取った!今この瞬間、お前は俺の敵だ」
開戦の狼煙を上げろ。
例えそれが血を分けた兄であろうと、自らの人生を否定してきた相手を、許せるような心の広さは品切れだ。
「全ては私が望んだ結末、私が引き寄せ掴んだ未来。兄上だろうと君であろうと。その否定は許さない!」
「そうだ、俺はお前を否定する!その全ては見届けた!だがその結末を俺は許さん。お前に似合うのはもっと穏やかなものだった。そのことだけは間違いないと、今も自信を持って言える。だから英霊となった今だけは、お前に認めてもらおう!毒を煽ったのは良くなかったんだとな!」
「だーれが認めるか!あの結末でも幸福なくらいだ!!自分を殺した相手を簡単に許すどころか、誰かに殺されるのを受け入れていた、馬鹿兄上だけには言われたくない!!」
聖杯の力で双方に軍が生み出される。例え欠片であっても、雑兵を作り出すくらいなら十分過ぎるほどの性能だ。
さぁ、兄弟喧嘩を始めよう。
「……つまり、リチャードはもっとジョンに長生きして欲しくて、ジョンは自分の命を軽く扱うリチャードにすごい怒ってるってことかな」
「そういうことさ、不器用で面白いだろ?」
「うわっ!フランソワ!?」
「やぁマスター、元気?こんな兄弟喧嘩に巻き込まれて災難だったね。仕組んだのは僕なんだけど」
「ダヴィンチちゃんたちの包囲網は?」
「そっちではフランチェスカが遊んでるよ」
飛んできた小石を、適当に弾く。ついでにマスターには防御の魔術をかけておく。大切な星を傷つけた、なんて彼が知ったら、落ち込むことがわかっているからだ。数ヶ月は霊体化して姿を見せなくなる程度に。全く、本当にネガティブなやつ。いや?それも面白いからアリだな。
「そういえば、カルデアとの通信切ってるんだ?」
「生前の続きとか兄弟喧嘩なら、あんまり人に見られたいものでもないんじゃないかなって」
「へえー、僕が今ここで君を殺したらとか考えなかった?」
「わざわざ仕向けた兄弟喧嘩が、消化不良で終わるなんて面白くないことしないと思う」
「はは!正解だよ。よく分かってるじゃないか」
もしかしたらこのマスターも、似たような趣味を持ってるのかもしれない。人類最後のマスターが、僕と同じ面白いことに命を賭ける破滅主義者?そんなの絶対楽しいに決まってる!
ま、違うだろうけどね。これは超がつくだけのお人よしだ。
「なんでこんなことしたの?」
「それ僕に聞く?その方が面白そうだからだよ」
「それもあると思うけど……なんとなく、フランソワもフランチェスカも、ジョンには結構目をかけてるような気がして?」
「流石だね、人類最後のマスターってやつは。その程度のことは見抜けちゃうか」
「なんでかって聞いてもいい?」
「……ああなった原因に僕らが関わっているからかな、ゲームを途中で放り投げるのは、プレイヤーとして失格だろう?」
「プレラーティって変なところで律儀だよね」
「あはは!そんなこと言うの君くらいだよ!」
そう笑った道化師は、幻のようにその場から消えた。
首元に剣が突きつけられる。
「……降参だ」
私の負け。それはそうだ。同じ軍を与えられたとて、最初から兄上に勝てるなどと、思い上がったりはしない。
「では認めるな?」
「それは嫌です、絶対認めません」
「強情だな!だが許そう、お前が[[emphasismark:嫌だと言えた>・]]なら今回はそれで十分だ!」
「……そういうとこです、そういうとこ」
本当に、そういうところが大っ嫌いだ。心の底から本気で怒り、本気でぶつかってきてもなお。全て僕の糧になるように動く。
最初から、兄上の手のひらの上で踊らされた道化だった。何がお前の力は智に宿る、だ。あなたの方が何もかも優れている英雄のクセに。
一度霊体化して再臨を変える。風呂に入れない時でも清潔を保てるなんて実に素晴らしい。人間にもこの仕様が欲しい。
負けたのに少し清々しい、よくわからない心のまま、近くにいるはずのマスターを探す。
と、いた。こちらに駆け寄ってきている人影だ。
「終わったみたいだね!じゃあ帰ろう!せっかくカルデア来てもらったのに、まだ食堂のご飯すら食べてないでしょ?」
「いや、サーヴァントに食事は」
「カルデアの食事はすごいぞ!古今東西見たことのない素晴らしい料理が並ぶんだ!ジョンも食べよう!」
パッと手を広げて、抱きつこうとした兄からするりと逃げる。
「兄様、再臨変えてください」
「!、すまない、鎧じゃ痛いよな!」
断じて違う。土埃に塗れたままの姿で来るなという意味だ。
何を勘違いしたのか、ほら!これなら痛くないぞ!と言いながら頭を撫でる兄上に遠い目をする。
「ジョンって、やっぱりお兄さんのこと大好きなんだね」
「はァ?どこがだ、大嫌いだこんな兄。勝手に突っ走って、勝手に死んで、勝手に怒ってくるんだぞ?」
ガーンと喧しい顔芸をする兄上を引き剥がし、さっさと立ち去る準備をする。
「そういうことにしておくよ」
さ、帰ろう!とマスターも歩き出した。今回の旅はこれでおしまい。意味はないけれど、この旅は必要なものだったのだと、そう思うことにする。
そうしてカルデアに帰還した三人は、勝手に通信をオフにしていたことや、特異点もどきで兄弟喧嘩をしたことで、プンプンと可愛らしく怒る万能の天才からお説教を受けることになる。
終幕:そしてコインは裏返る
ぺしょぺしょとした顔をして報告書を抱えているマスターが、僕を見つけると駆け寄ってきた。多分、新所長とやらに捕まって、『絶対出せ』と釘を刺されたんじゃないのか。なぜこっちに来る。
「ジョンどうしたの?リチャード探してる?呼ぼうか?」
「いや兄様のことは探してない、呼ばなくていい。ただありがたい説教からようやく解放されたし、少し気分転換でもと……そもそも君はなんで走ってきたんだ?」
「え?ジョンと話したかったから?」
「……余は復讐者だ。憎悪で人を殺すもの。決して君の側にいていい存在じゃない」
突き放すべきだ。例えこの縁が、自ら望んだ奇跡によるものだとしても。君のそばにいるにはあまりにも、この姿は不相応だ。
「そうかな。今、俺と話してくれているジョンも、あの時話してくれたジョンも、その炎を俺に向けたりはしなかったよ」
「余は民を憎んで物語を憎む。それは生前から変わらぬ。かつて愚かにも抱いた願いの欠片を、垣間見た時点で未練なんてものも存在しない。ならばこの身は、憎悪の炎に焚べられ、灰となるのを待つだけだ。ただその道中で君の敵となる者を、巻き込み、殺す装置にすぎん。あまり心を砕くな」
「憎んでいるのは知ってるよ。きっとこの場所が、君が見たくないもので溢れていることも。でも、それだけじゃないはずだ。せっかく来てくれたのに、嫌なものだけ見て帰るなんて、」
優しい君。多くの英雄を従えるマスター。それだけの力を必要とするということは、君の旅路が過酷であることの裏返しだ。そんな道を歩んでもなお、この世界を肯定できる君が、私にはひどく眩しく見えた。
「……どんなにこの世が美しいもので満ちていようと、私の目に映るのは憎いものだけだ。私が最も許せないのは、俺自身だからこそ」
私は何もできなかった自分が。
僕は兄を見殺しにした自分が。
俺は間に合わなかったこと全てに、
そして、王として民を憎む何もかもが。
「英雄に押し込められた兄様を持ち上げた、そうした民も物語も大っ嫌いだ。消え去ってしまえばいい。なのに、だというのに。俺は、英雄である兄様に憧れた。いや違うな。王になる前、最初に出会った頃からずっと、兄様は僕の英雄だっ、口が滑った忘れてくれ」
「それはリチャードにも言った方が良くない?」
「言えるか!こんな恥ずかしいこと絶対言わないからな」
「と思ったので、呼ばなくていいよって言われた時に呼んでおきました」
「ジョン〜〜〜!!!俺もお前を誇りだと思っているぞ!!!いや、そんな言葉では生ぬるいな!よし!歌を作ろう!!!」
「やりやがったなマスター!!!!!」
魔術礼装で強化した脚力で逃げ出す藤丸
を、本気で追いかけるジョン(敏捷C)
の鬼事に楽しそうに混ざりに行くリチャード(敏捷EX)
という混沌とした状況が生まれた。
最高だね!僕たちも混ざりに行こう!
「いや、君らは私とお話しの時間だ」
「げぇっ!ゴルドルフくんだ!」
「既に鉄拳制裁は喰らっているようだからな。技術顧問と私の、楽しい楽しいお茶会にご招待だ」
「それお説教ってルビ振ってるでしょー!わーん!頭グリグリは勘弁してよ!」
これにて舞台には幕が降りる。
別の終わりはないし、番外編もない。
この余韻を忘れないでね?
その奇跡を忘れないでよ?
知られることが大事だと、始まる前に伝えたはずさ。
カーテンコール:演者たちの短い紹介
成り主
バレた、怒られた、怒った。
ロケットのような加速装置が隣にいるから、相対的にまともに見えているだけで、こっちもこっちでぶっ飛んでいる。
本家は世界を恐れたが、こちらは世界すらも憎んだという決定的な違いがある。
より苛烈な在り方だが、君がいる限りは、目に入るもの全てを燃やす、制御なき機構になることはない。
魔術的な才はないが、雑兵しかいない状況かつ敵に自分も兵として突っ込んでくる英霊がいても、持ち堪えられる程度には戦術の才がある。ちゃんと兄は見抜いていました。
この後カルデアの食堂にて、和食に目を輝かせる姿が目撃される。
王であり獣であり、兄
その様に生きるとはすごいな!俺にはできない!さすが俺の弟だ!!
それはそれとして、その終わり方は許さないぞ?
誰よりも弟の幸福を願い、不器用な愛し方をした。
君あるいは一等星
ファインプレーを連発した。
完璧なタイミングで1クリを叩き出す、人類最後のマスターである。
万能の天才
もー!そういう喧嘩はシミュレーションでやって!
本当の道化
道化っていうのはね?なるぞーって思ってなるものじゃなくて、いつの間にかなってるの。
それか最初からそう在るモノだ。
だからさ、彼には最初から全部向いてなかったんだよ。
とある作家による人物評価
なんだその陰鬱なツラは!キノコでも生やすつもりか?
本棚に「兄について」と「星について」しか置いていないから、視野が狭くなるんだ、バカめ!自分の空間すら作れないヤツに、何かできるわけも無いだろう。
ファンレターを書きながら、その本を焚べて暖を取るとは。しかも、自分にまで引火していることに気が付かないのか?違うな、気が付いた上で放置してると見た!ドがつく阿呆だな!救いようが無い。
どこが悲哀だったのか、だと?そんなの見れば分かるだろう!隣にいて、いくら言葉を交わしたところで、平行線だからだ。いや、厳密には存在する階層が違う。あの様子なら生前からだろうさ。英霊となっても、その行先が交わることは決してない。自分とは違う視点から相手を見ていたからこそ、ああも理解した上で拗れている。
何?わざとそうした?[[emphasismark:そうすることしかできなかった>・]]の間違いだろう!始まる前から結末が決まった物語なんて何の自由もない。その違いすら自覚できていないとはな!ギルガメッシュが視た通り、哀れなことだ。
自覚がないといえば人の自覚もか。才が無いというのは惨いものだな。全てを切り詰めてもあと数歩足りない。人生とはそういうものだ。それでも足掻いたことを、無様とは言わん。星に願いを託すのは、人だからできることだろう。
見ていてやれよ、マスター。アイツは人だ。物言わぬ機械に徹しようとした、不器用なだけのな。
ああそれと、あの暴走した獣に一泡吹かせたのは褒めてやる。ジャイアントキリングというのは、どんな時も心を躍らせるものだ。
その部分なら書いてやってもいい。無論、多少の脚色と誇張は加えるぞ?なんだ嫌なのか?つまらんヤツだ。
ネタになる気がないなら帰れ、俺は忙しいのでな!
[b:カーテンコールのその後で]
「ふぅ、酷い目に遭うところだった」
「まさか笑顔でお礼を言われた後に、本気で殺しにくるなんて」
「ちょっと死にかけた?」
「もちろん、嘘に決まってる!こんな面白い場所をすぐに退去するなんて嫌だからね!」
「流石僕だね……おや?」
「あれ?あれれ?もしかしてまだ見てるの?ありもしない続きを期待してる?」
「じゃあ僕ららしくネタバレでもしようか。嫌なら最初に戻って、再演でも見るといい」
「うん?イングランドに特異点を作ったかって?違うよ。天才が言ってたでしょ、あれはフェイク。全部ウソ」
「あの地は彼がそうならないようにと、願って呪って守った場所だ」
「人が作るなら話は別だけど、神が作るのはダメ。そんなの全く面白くない」
道化は笑われる者ではなく、笑わせる者である。
であれば、その行動原理は面白いかどうかが全て。
「そういえば、君たちはこの舞台のタイトルが変なことに気づいてた?」
「単語が抜けている?うんうんそうだね、大正解!じゃあそれは一体なんでしょうか?特別にヒントからスタート!」
「彼が憧れた一等星。遥か未来の空の果て、手が届かない輝けるモノ。それは英雄なんて器じゃなかった」
「ただ生きるために、がむしゃらに、走り続ける凡人だった」
「それでも彼は憧れた。英雄ではない凡人に」
「えー?まだ分からない?」
「仕方がないから教えてあげよう」
「数多の命を奪うわけでもなく」
「数多の命を救うわけでもない」
「地に咲く花に救われる、人間がいることもあれば」
「空を流れるただの塵に、祈りを託す人間もいる」
「これだから人間は面白い!」
「意味がないものに意味を与えては、救いを求めて勝手に救われるんだから」
「つまり何言いたいのかって?」
誰だって、誰かの英雄になれる可能性を秘めているってことさ!
欠地王ジョン成り代わりは、英雄として知られている




























