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【壬猫】優しい願い

まなみんまなみん

最近始まったWEBくじの花畑で花冠を付けた2人のイラストを見て、結婚式前撮りのロケーションフォトみたいだなと思ったので、原作最新話の未来軸で結婚記念の絵姿を先取りして描いてもらう2人の話を書きました。 燕燕、姚、羅半父など、小説5巻以降の登場人物がたくさん出てきます。 あと、拙作「星空の舞台裏」を若干踏まえたお話になります。 よかったら、ご覧ください。 よかったら、読んだよの絵文字や感想を下記よりください。 https://wavebox.me/wave/buq96hw15z09ab00/

「僕の新しい事業に協力ありがとう、義妹よ。」
「羅半〜〜〜〜!!」

馬車を出迎えた羅半の爪先を念入りにすりつぶした。

優しい願い

姚と燕燕に朝早くに叩き起こされ、郊外に連れてこられた。
女3人で馬車旅をして、着いたのは見覚えがある田舎だ。
羅の屋敷がある辺りじゃないだろうか。
以前に種馬の父という頑固ジジイに監禁された場所だ。

今度は何をするつもりなんだか。
そう思っているうちに、羅の屋敷に押し込められて燕燕に手早く着付けをされる。

「で、この衣装はなんだ?説明しろ?」
「馬子にも衣装だな。よく似合っている。」
「そうじゃない!なんのためにこんな服を着せるんだ?」
「僕の新しい事業だよ。羅の屋敷の近くに風光明媚な丘があってね。一応うちの持ち物なんだが、綺麗な場所だから金持ち向けの商売に使おうかと思ってね。」
「金持ち向けの商売?」
「ああ、花が咲き乱れる丘を背景に新婚夫婦の絵姿を描いて結婚の記念にしてもらおうという企画さ。」
「それ、うまくいくのか?」
「需要はあると思うよ。だが、着替えや描画にどれくらい時間が掛かるか、といったことを知りたくて、お前に体験(モニター)してもらおうと思ったんだ。描いた絵は商談に使わせてもらう。」
「はー、ほー、ふーん。」
「そういう顔しない、しないの。無事終わったら、北亜連から入手した……なんだっけ、鹿の何かの生薬をあげるから!」
「鹿茸か。それなら仕方ないか。でも、夫婦の絵姿なんだろ?私だけでいいのか?」
「ああ、そのために、僕の友人の中で最も端正な男を呼んだよ。」

羅半がパチンと指を鳴らす。
ちびな算盤眼鏡には似合わない仕草に、へッという声が漏れた。

「猫猫、お久しぶりですね。」

別室の戸が開き、出てきたのは陸孫だった。
会うのは西都を出て以来だ。
濃紺の上着に空色の服を着ている。
顔の良さも相俟って、絵から抜け出したみたいに見えなくもない。

「お久しぶりです。お元気そうで。」
「猫猫も元気そうでよかったです。ところで、佳き報せはまだですか?」
「何のことでしょうか?」
「ええ、月の……モガッ」
「何もありませんよ、何も。」

臨時で侍女をさせられていた燕燕ならともかく、姚に月の君のことを知られると厄介だ。
陸孫の口を塞ぐと、優男の目が笑っている。
ったく、相変わらず食えない男だ。

「陸孫こそ、王都まで来て元上司の娘と絵姿におさまって良いのですか?奥方や情を交わす女の一人や二人はいらっしゃるでしょう?」
「残念ながら、良いご縁に恵まれず、今も独り者のままですよ。」
「へえ。一人に決めきれないの間違いじゃないですか?」
「そんなそんな。まあ、忘れられない女性がいることは否定しませんが。」
「へええ。純情ぶっても似合わないですけどね、陸孫には。」
「猫猫は相変わらず手厳しい。」

羅の屋敷の客間に笑い声が響く。

「旧交を温めたところで、そろそろ行こうか。絵師さんももう来ているし、馬車でここから四半刻くらいだよ。」

羅半の声に皆が立ち上がったときだった。
ゴンゴンと強めの音で戸が叩かれた。
使用人が対応しているようだが、招かざる客らしい。
不穏な声がしている。

「見てくるよ。」
羅半がその場を離れた。

「あ、あなたさまは!」
羅半の声がひっくり返っている。
来客は意外な知人のようだ。

「おい、猫猫、早く来い!!」

呼ばれたので渋々玄関へ向かった。

「え、壬氏さまに馬閃さま?なんでここに?」
「義姉上が、猫猫がここにいると言うものだから来ただけだ。」
「猫猫が陸孫と婚儀を挙げると聞いた。宿舎にいないから王都の羅の屋敷に行けば、こちらへ向かったと言うし。どういうことなんだ?」
「誰ですかそんなこと言ったの??」

壬氏さまと馬閃さまに詰め寄られて羅半を振り返るが、羅半は首を激しく横に振りながら潔白を申し立てている。

「猫猫と陸孫が婚儀を挙げて、その記念に絵姿を描くと聞いたぞ、雀に。」
「雀さーん!!」

思わず、おちゃらけた侍女の名を叫んだ。
おおかた、壬氏さまの悋気を煽って私を揶揄いたかっただけだろう。
本当に傍迷惑な侍女である。
本来ならば有能であることを知っているからこそ、悪質な悪ふざけが許せないというか。

「どうなんだ、猫猫!?」
「まあまあ、月の君、それは根も葉もない噂ですよ。」
「俺は猫猫に聞いているんだ!どうなんだ!?」
「私も今朝叩き起こされて連れて来られたのです。ただ、羅半の新規事業の協力者として。」
「新規事業?」
「風光明媚な丘で新婚夫婦の絵姿を描いて金を巻き上げるという碌でもない事業です。」
「猫猫っ!」
「ほう。素晴らしい事業ではないか。それでは羅半、私と猫猫が最初の客になろう。」

壬氏さまが、ずいっと一歩前に出られた。
そして私の手を掴む。

「ええっ?」
「壬氏さま!お気を確かに!!それがどう聞こえるのかお分かりにならない壬氏さまではありませんよね?」
「俺の結婚申込(プロポーズ)をお前が保留にしているが、断られたわけじゃないからな。」
「それは状況が整わないからで、そもそも、壬氏さま、ここ羅の屋敷ですよ?あのおっさんの父親がいる場所でして。」
「む、そうか。」
「お祖父様は今散歩に出てるし、お母様は実家へ帰ってる。だから……。」

羅半が周囲を見回した。

「私もお嬢様も、今お聞きしたことは誰に聞かれようとも一切お話ししません。」

拱手した燕燕が言い切る。

「私も、もちろん誰にも言わないわ。おめでとう、猫猫。」

こちらは姚。

「私も誰にも言いませんよ。そうですね、全ての嘘を見抜く羅漢さまに誓いましょうか。」

腹立たしいことを言うのは、陸孫。

「聞こえちゃったから僕も誓うけど、誰にも言わないよ。最近初めて会ったばかりとはいえ、猫猫は可愛い姪っ子だからね。」

いつの間にかいたのか、そう言い出す羅半父。

「だそうだ。」
「壬氏さま、皆に迷惑かけすぎですよ。」
「すまない。」

これにて一件落着、と誰もが思ったその時だった。

「あ……あの……壬氏さま、薬屋に結婚申込(プロポーズ)とは……?」

馬閃の震えた声が響いた。
そうだった、こいつもいたんだった。

「羅漢殿から押し付けられたのですか?なんとか断る方策を考えましょう!」

空気が凍った。
鈍いとは思っていたが、こいつは主人が花街の薬屋に10日に一度訪ねていた理由をなんだと思っていたのだろうか。

「馬閃。言っておくが、猫猫を妻にと望んでいるのは俺なんだ。俺の本心からだ。猫猫しかいらないんだ。」
「え゛え゛っ?!」
「お前、本当に気づいてなかったのか?」
「……はい。」
「そうか、とにかくそういうことだから、今後はそう認識しておいてくれ。」
「御意……。」

信じられないものを見るような目でこちらを見るのはやめてほしい。

「というわけで、羅半。私の衣装はないか?」
「猫猫との調和を考えると、こちらでしょうか。」

薄い藤色と青みが強い緑の衣装を差し出したのは燕燕だった。

「悪くないな。早速着替えてくるから部屋を貸してほしい。」
「こちらへ。猫猫、更衣をお手伝いできるか。」
「やるけど。どうするんだ、羅半?男の方が皇弟殿下じゃ商談に使えないぞ。」
「それは……男性は陸孫に頼むとして、女性の方は二人に頼んでも良いだろうか?」

羅半が問いかけたのは、姚と燕燕だった。
二人は顔を見合わせ、燕燕が口を開いた。

「お嬢様に初対面の男性と夫婦の真似事をさせられません。私がやりますから。」
「ありがとう。」

羅半の商売も何とかなりそうだ。

半刻後。

馬車で四半刻揺られて連れてこられた場所は、確かに美しい丘だった。
色とりどりの花が咲き乱れている。
薬効がある花もありそうで、散策したいのに壬氏さまに止められてしまった。
ここが良い、あそこが良い、と絵師を交えて立ち位置を決めた。

東寶と名乗った絵師と壬氏さまは知り合いだったようで、複数枚描いてもらうように交渉していた。
『いつもの』とは何なんだろうか。
気になるが、知らぬ方が幸せな気がしている。

「猫猫、殿下とおそろいでこれを頭につけたらどうかしら?」
「姚さん、ありがとうございます。花冠ですか。」
「それは良いな。もらえるか。」

壬氏さまが受け取り、私の頭に花冠を載せてきた。
さらりと髪をすいてくる。

「似合うな。」
「壬氏さま、しゃがんでいただけますか?」

頭を下げた壬氏さまの頭に花冠を載せる。
宦官のふりを辞めて表舞台に立つようになり、かつてのたおやかさは薄れてきたと思っていたのだが。
花も恥じらう美貌は健在だった。
珠のような菊の花冠が似合う成人男性など、初めて見た。

「猫猫、今日は耳飾りはないのか?」
「こちらでいかがでしょう?」

燕燕が赤い房飾りがついた耳飾りを差し出してくる。
耳が痛くなる螺子式の型(タイプ)だから、直前につけようと言っていたものだ。

「こうやってつけるのだったな。」

壬氏さまが耳に触れる。
ひんやりとした指の触れる場所が、いやに熱い。

「痛くないか?」
「大丈夫です。」

螺子を締めた壬氏さまが顔を覗き込んできて
「猫猫、耳が赤いぞ。」
と言いながら息を吹きかけてくる。

いつぞやのお返しかと気付くが、こんなに人のいるところでやらなくてもいいじゃないか。

「気のせいでは?」

とそっぽ向いた。

「猫猫、月の君の髪をこれで結って差し上げて。」
「髪紐?」
「ええ、猫猫みたいに下の方で結べば、似た雰囲気を出せるでしょう。」

燕燕の勧めに従い、壬氏さまの髪を結う。
相変わらず艶やかな絹糸を梳き、房飾りがついた金色の髪紐で緩く束ねた。

春めいてきた日差しの中、花が咲き乱れる丘で壬氏さまと隣り合って立った。
結婚の記念に絵姿を残す、か。
己の結婚がいつになるか分からない身にとっては、皮肉なものだ。
だが、隣に立つ壬氏さまが溢れんばかりの笑顔を見せていると、己の憂慮など小さく見えてくる。
新婚夫婦よろしく私の隣に立つことをここまで喜んでくれるのならば、この人の悲願を叶えてあげたくなる。
その結果起こることに目をつぶって。

隣に立つ人を見上げる。
視線に気づいたか、壬氏さまがこちらを見返してくれる。
優しい眼差しに、ほおが僅かに赤くなった。

ううん、だめだ。
今の私達が婚姻することや子を持つことによって引き起こされる事態で、この優しい貴人が傷つくことだけは避けたい。

だから、壬氏さまが状況を整えてくださるまでは、私達はこのまま、婚姻の真似事で心を慰めるしかないのだ。

絵師の指示で姿勢(ポーズ)を何通りにも変えたり、絵師の下書きが終わるのを待つ。
一刻ほどかかっただろうか。
終わりを告げられて、馬車で王都へ戻ることになった。
行きとは異なり、私は壬氏さまの馬車に二人きりで乗ることになった。

いつぞやのように、最高級の馬車の中で向かい合う。
取り付けられた卓には、芋を使った点心など、軽食が置かれていた。
羅半が用意させたものだ。

「お仕事はどうされたのですか?」
「虎狼と麻美に放り投げてきたからな。戻ったら終わらせないと。」
「自業自得とは思いますが、ご無理なさらずに。」
「だが、お前が陸孫と結婚と聞いたら、万難を排して駆けつけるに決まってるだろう。」
「雀さんの手のひらで踊り過ぎですよ。」
「だが、あいつのおかげで可愛いお前を見られた。」
「甘いですね。温情をかけるから、こうして揶揄われるのですよ。」
「しかし、俺が阻止していなかったら、陸孫と夫婦になったお前の絵姿が王都に出回ることになったのだろう?」

拗ねた顔をする壬氏さまが可愛く見えるようになったのは、いつ頃からだろうか。

「出回りませんよ。ただ、商談相手に想像しやすいように見せるだけですから。」
「だが、お前の愛らしい絵姿を見れば、欲しくなる者もいるかもしれん。」
「絵姿を残したいと考えるような新婚夫婦ですよ?おそらく恋愛結婚でしょう。絵姿の女に見惚れるような男など、いるわけないでしょう。」
「それもそうか。」

苦笑する壬氏さまに、徳利から茶を継ぐ。
ぬるく、湯気も立たない茶を飲み、壬氏さまが口を開いた。

「良い場所だったな。」
「ええ。あんなに美しい場所だったとは。私も初めて来ました。」
「お前との婚儀が決まったら、また来よう。羅半に頼んで、あの丘で俺たちの絵を描いてもらおう。」
「ええ。そうですね。」

この人の立場であっても、いや、この人の立場だからこそ、その願いを叶えることがどれほど難しいのか、よく分かっているつもりだ。
叶わない可能性が濃厚であることも。

「お前を待たせて済まないと思っている。だが、近いうちには必ず!」

そう言って私の手を握る壬氏さまの力は強い。
でも、その手が震えていることに御本人は気付いているのかどうか。

「ええ、信じておりますよ。」

壬氏さまが臣籍降下する方法が一つあるとすれば、徹底的に盆暗を演じることだと思う。
盆暗で、執務能力皆無で、昼間から女色にでも溺れれば、臣籍降下など容易いだろう。
だが、この人はそれをしない。
主上以外の唯一の成人皇族として、主上を助けるべく身を削りながら仕事をする。
だから、主上も手放せない。

本人もその悪循環を分かっているのだろうけれども、真面目すぎて盆暗を演じることはできないのだろう。

でも、与えられた役目に不器用なくらいに忠実なこの人だから、想いを寄せたのだ。
だから、この優しい人の願いが叶うように私も願っている。
私如きにできることならば尽力することを厭わないと誓う程には。

「いつかまた、あの丘を訪れる日を楽しみにしております。」
「猫猫っ……!」
「今日は植生の確認ができませんでしたし。」
「……っ!ったく、お前はぶれないな。」

壬氏さまが朗らかに笑った。
この笑顔の裏に、どれほどの汗と涙を隠しているのか、私には想像がつかない。

「束の間の休息ですから、満腹になったらお休みくださいませ。」
「そうだな。猫猫、こっちへ来い。」

呼ばれて、壬氏さまの隣に移る。
腰に手を回され、顔を壬氏さまの肩に預ける体勢になった。

「まだもう少し食べたかったんですけど。」
「いいだろ、少しは補充させろ。」
「はあい。」

陽が傾いてきた。
王都に戻る頃にはもう、日は暮れているだろう。

壬氏さまの顔越しに窓の外を一瞥して、目を閉じた。

余談だが。
羅半の新規事業は上手くいったらしい。
報酬の鹿茸は2本に増えた。
皇弟殿下の盛装を見られた礼も含まれているらしい。
同封の文には、『これを使って殿下に子種を胎につけてもらえ』と書いてあったので、次回見かけた時はつま先を念入りにすりつぶしておこうと思う。

数年後
悲願叶わずとも婚儀を挙げることが叶った春のこと。
「猫猫、羅半のあの丘を訪れたいのだが。」
と壬氏さまに言われて羅半に確認したところ、前年に辞めてしまったらしい。
事業は上手くいったが、羅半父(プロ農民)の芋育成欲が丘を侵略する方が早かったようだ。
今はあの丘は芋畑になっているそうだ。
羅半の一番の商売敵は父親だったらしい。

別の花咲き乱れる丘で似たような絵姿をまた描いてもらった。
その絵を壬氏さまが執務室に飾ろうとするのを止めるのに、多大な苦労をしたのは、また別のお話。

— End —

Comments 2

A
Amani3 个月前

この物語がとても気に入りました。素晴らしい創造性に心から感謝します。❤❤❤

Sakuria
Where every work blooms
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