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【壬猫】熱の温度

まなみんまなみん

なろう最新話に滾って書いた話です。 最新話、猫猫が都に戻った夜のお話です。 年末の話だそうなので、祭祀前の潔斎に絡めたお話になりました。 先生の更新に間に合って良かった。 「長紗は夜の寝台でも無双した」の一文を書きたくて書いたお話でした。 さーて、次回の逢瀬でのR展開を書くかどうしますかね。 よかったら、本文下のアンケートポチッと押してくださいな。 そして、下記より読んだよの絵文字や感想もください(強欲) https://wavebox.me/wave/buq96hw15z09ab00/

熱の温度

「猫猫さん、猫猫さん!」

熊の解体から戻り、寮の自室に入ると雀が踊っていた。

「え、雀さん?どうやって入ったんです?」
「雀さんの手にかかれば、ここの鍵なんてちょちょいのちょいなのですよぅ。それで、主人よりお届け物です。」

差し出された文を見る。
差出人は高順だが、筆跡は壬氏さまのものだ。
数日前の夜も会ったのに、どうしたことだろうか。
書かれていたのは、宮へ来いという内容だった。

疲れているが、貴人に呼び出されたら従うしかない。
湯浴みは街の風呂屋で済ませてきたから血の匂いは多分大丈夫だろう。
雀と共に馬車で皇弟宮へ向かう。

宮へ着くと、そのまま居間へ通されて食事を供される。
腹が減っていたので御相伴に預かることにする。

「猫猫、昨夜はどうした?」

食事を始めてしばらく経ったころだった。
壬氏さまが切り出した。
なるほど、これが本題か。

「昨夜は郊外の村に泊まっておりました。」
「村?なぜだ?誰とだ?」
「もしかして壬氏さま、昨夜も雀さんを遣いに出されたのですか?」
「ああ、そうだ。先日は日付が変わる頃まで毛布一枚で寝かせてしまったからな。風邪でも引いていないかと思って、雀に様子伺いに行かせたのだが。」

壬氏さまは、心配から雀さんを寄越したようだ。
それなのに私が不在だったものだから、今日も雀さんに様子伺いに来させたようだ。

「それは申し訳ありませんでした。急遽熊の腑分けが入ったものですから。」
「そうか。それで郊外の村か。で、誰と泊まった?一人ということはあるまい。」

本当に妙なところで鋭いお方だ。

「同期と後輩官女が同室で、別室に医官が数名です。」
「ほう。お前以外の官女も腑分けを学んでいるのだな。で、何かあったわけではないだろうな?」
「ありませんて。」
「その割にお前、だいぶ疲れていないか?さっきから首を傾けたり肩を回したりしているだろう。」

嫌になるほどよくご覧になっているお方だこと。

「同じ寝台で寝た後輩の寝相がなかなかのものでして。」

長紗の独壇場は飲み会だけではなかった。
夜の寝台の上でも無双したのである。

隣同士、仰向けになって寝ていたら、小柄な体のどこにこんな力があるのかというほどの力で裏拳を食らった。
寝返りを打てば足先が飛んでくるし、布団は引っ剥がされる。
最後は抱きつかれて眠った。
裏拳と足よりマシだと、引き剥がさなかった。

壬氏さまに毛布で包まれて眠った夜とは違った意味で、体が凝る夜だった。

「後輩官女と同衾したのか?」
「ええ、高度に政治的な判断の結果です。」

姚と同衾したとばれてお嬢様命の燕燕に命を狙われるのか、それとも姚を床で寝かせたとして燕燕に詰られるのか。
どちらがマシか3人で検討した上で決めたと伝えると、壬氏さまが笑い出した。

「あの燕燕とやらはいまだにお嬢様に執着しているのか。」
「ええ、今回意外だったのは、お嬢様本人が燕燕の愛着を自覚していたことですね。」
「ほう?燕燕には女色の気があると聞いたが、お嬢様本人も燕燕の執着を知っていて遠ざけないのか?」

さすがは燕燕を臨時の侍女として雇っていただけのことはある。
燕燕のことをよくご存知だ。

「そのようですね。ただ、燕燕にはお嬢様を嫁がせる意思はあるようですよ。大変厳しい条件付きですが。」
「そうなのか。意外だな。己の手の内でずっと愛でたいわけではないのか。」

己の手の内で愛でたいのは壬氏さまの趣向だろう。
対象が己であることは一旦脇に置いておいて、男性の趣味趣向としては一般的といえよう。
燕燕の姚への欲はわからない。
肉欲があるのかどうかも知らない。
だが、燕燕が姚のさまざまな、いや、全ての瞬間を切り取って記憶に残したい人種であることは間違いない。

そして、燕燕の大変厳しい条件を大部分叶えていた羅半兄の偉大さよ。
燕燕にさえ惚れなければ、もっと簡単に恋人や妻を得られたと思うのに。

「燕燕をなんとかここに引き抜きたいんだがなあ。お嬢様は医官付き官女を辞める気はないんだろう?」
「お嬢様は魯侍郎の姪御さんですよ。皇弟宮で働かせますか?」
「それは困るな。」

名持ちの家ほどではないが、ある程度の家格がある家の娘だ。
皇弟宮で侍女をするということは、入内前提と見做されてしまう。
この男がそうしたいなら、私はそれでも良いが。
だが、否定してくれた壬氏さまに少しだけ気分が上向くのも事実だ。

そんな会話をしていると、水蓮さまが点心を持って入ってきた。

「小猫、今夜も泊まっていくでしょう?点心を食べたら湯浴みをなさいな。」

泊まっていけ。
だが汚いまま坊ちゃまと同衾するな。
という水蓮さまの強い意思表示を感じる。

「いや、2日連続で外泊になってしまうので、今日は戻ります。」

老練な侍女の視線に負けず、なんとか言えた。

「そうなのか?せっかく来てくれたのだし、西都から葡萄酒が届いているから一緒に飲もうかと思ったのだが。」

捨てられた子犬のような瞳で、隣の男から追撃される。
疲れた身体に葡萄酒は薬だ。
だが、長紗の無双で昨夜の眠りが浅かったため、酒を飲んで毛布で包まれたら寝落ちする未来しか見えない。

「それでは、葡萄酒だけいただいて、早めにお暇させていただきます。」
「猫猫、そろそろ年末の休みだろう。俺は新年の祭祀に合わせて明日から潔斎に入る。だから、少し補充させてくれないか。泊まりになるかもしれないが。」
「明日から潔斎ならば、遠慮させてください。血は穢れです。今の私は壬氏さまと触れ合って良い身ではありません。」

風呂は入ってきたが、血と獣の匂いはそう簡単に消えるものではない。

「構わん。俺が触れたいんだ。潔斎は明日からだ。今日は何しても良いんだ。」
「何してもって……。」
「あ、そういう意味じゃなくて!まだそこまではしないから!」

顔の前に両手を挙げて『やましいことはしない』と主張する壬氏さまの姿に、笑いが込み上げてくる。
必死になっちゃって。
後ろに控える侍女からは『もちろん泊まっていくわよね????』という強い視線が突き刺さる。
仕方ないな、もう。

「壬氏さまの優しさとお心の強さは、分かっております。今夜はお言葉に甘えさせていただきます。」

頷くと、坊ちゃまと老練な侍女がそろってにっこりする。
壬氏さま本人は知らないが、この二人は祖母と孫なのだ。
顔立ちは似ていないと思っていたが、こういうときの笑顔の質感は二人ともそっくりである。

「さあ、小猫、点心を食べたら湯浴みよ。今着ている服は洗っておくから置いておいてね。」
「いえ、そこまでしていただくわけには!あと、帰るときに服が違うと見た人に疑問に思われるのでは?」
「あらいやだ。同じ服で帰った方が意味深じゃない?」
「……それも確かに。」

反論しきれずに黙ると、隣の男が口を開く。

「猫猫に似合いそうだと買っておいた服があっただろう。新しい綿入れも。それじゃだめなのか?」
「ああ、それがよろしいですわね。小猫、それで良いわよね?」
「えっ?壬氏さまが私の服を??」
「あっ、ああ。悪いか?」
「……いえ、はい、ダイジョウブデス……。」

思わず半目で睨め付けてしまった。
服を贈る意味は、脱がせたいという意思表示だと小姐たちが言っていた。
手もつけていない女に服なぞ贈ってどうするつもりなのか、この御仁は。
そして、政はよく分からぬ私にも、この方が私に手を付けることができる日が近くないことは分かっている。
実現できるかどうかさえ、定かでないことも。
私でわかることは、この方が一番ご存じだろうに。

ーー賢いのに莫迦なんだよなあ。

口に出したら不敬そのものの言葉を思い浮かべながら壬氏さまを見上げると、白皙の頬に朱を刷いて蕩けそうな瞳でこちらを見ていた。

ったく、もう。そんな顔しやがって……。
こちらの顔まで熱くなってくるじゃないか。

誤魔化すように口に含んだ点心は、雪蛤だった。
雪蛤の効用は、胸部の肥大だけではない。
滋養強壮と美肌効果もある。
水蓮さまの何某かの意志を感じて、ゾクリと背中が泡立った。

点心を食べ終え、湯を遣う。
何度も固辞したけれども、壬氏さまの湯殿に通され、湯上がりには水蓮さまが手ずから支度を整えてくださる。
壬氏さまのものと同じ生地でできた夜着を着せられ、壬氏さまの私室へ向かった。

「猫猫、よく来た。」

嬉しそうな壬氏さまに出迎えられた。
長椅子に誘導される。
椅子の前には葡萄酒と玻璃の杯。
不敬にも、壬氏さまの酌で杯が満たされる。
口に含むと、果実の風味が喉に抜けた。
甘さはほとんどなく、酸味を纏った渋みと濃厚な果実味が好ましい。

「美味しいですね。」
「お前が好きそうだと思ってな。」
「よくご存知で。」

この御仁は本当によく人のことを見ている。

仕事のたわいもない話をしているうちに、玻璃の瓶が空になっていた。

「なあ、そろそろいいか?」

頷くと横抱きにされて、寝台に横たえられた。
そのまま毛布で包まれて、壬氏さまがすぐ隣に横たわる。
白檀が香る布団をかけられ、壬氏さまにぎゅううっと抱きしめられた。
壬氏さまの体温は高い。
毛布越しにほんのりと伝わってくる体温は、ぽかぽかと

「今宵は寝台なのですね。」
「長椅子だとお前が翌朝辛そうだったからな。昨日も安眠できなかったのだろう。」
「寝台だと変な気になりませんか?」
「なる、なるが、お前も疲れているだろうから、寝台の方が良いのではないかと思ってな。」

至近距離で頬を染めて宣う壬氏さまに苦笑が漏れる。
我が身を削るようにして仕事される方だ。
私との触れ合いでまで、精神力を削ってほしくはないのだが。
太ももの辺りで何かが固くなっている。

「壬氏さま、本番なしってご存知ですか?」
「……何の話だ?」
「触れただけなら子はできないと以前にも申し上げましたよね?」
「それは分かってる!……何が言いたい?」

太ももに触れるものが、生々しくその形を露わにしている。

「手や口でお慰めするだけなら子もできずに楽しめますよ。」
「そういうのは好きじゃない。第一、そういうことは俺ひとりが悦くなるようなものじゃないだろう。」

甘い触れ合いがお好きな方なのは、まあ、わかる気がする。

「壬氏さまにその気があれば、私に触れていただいても構いません。手や口以外にも方法はありますし。」
「いいのか?触れるだけじゃなくて、ぎゅっとするし噛むし吸うし揉むし指を入れるし舐め回すぞ。」
「構いませんよ。」
「お前、義務感で言ってないか?」

全くもって鋭い方だ。
確かに、夜伽を求められてここに来たときは、半分くらいは義務感からだった。
己がしたかったわけではないが、気持ちを受け入れた以上、求められたら応じるのが当然だと思っていた。
求められて、「かまされる前にかましたれ」精神で乗り込んできたのだ。
しかし、あれからもう一年ほど経過している。
あの夜に手を付けられなかったこと、その後の誠実な振る舞いで、私の中の壬氏さまへの想いもあの夜よりは熱を帯びてきたのだ。

「義務感だけで申し上げる内容ではありませんよ。」
「それはそうだが。」
「義務感なのか、確かめてみますか?」
「確かめたいが、俺がお前に無体を働いたらどうするんだ?」
「何があっても合意の上ですと申し上げたことは今も有効ですよ。」

壬氏さまの顔がますます赤くなる。
その顔を可愛いと思える時点で、もう私も大概なのだ。

「それに、壬氏さまに限って、私の意思を無視することはないと、これまでのお付き合いでよく分かっておりますから。」
「あ゛ーーーっ……!」

上目遣いで言うと、壬氏さまが奇声を上げた。
すーはーすーはーと深呼吸をしている。

「いかがされました?」
「猫猫の信頼は嬉しいが、若い男の衝動を甘く見るなよ。」
「滝壺の裏の洞窟で致そうとしたり、禁軍の大将のくせに子供達の遺体を安置した馬車で四半刻で抱こうとしたり、寒い中庭で押し倒したり?」
「お前な!!」

揶揄うと、唇を尖らせて抗弁する壬氏さま。
やっぱりあれらは壬氏さまのなかでも黒歴史なのか。

「今でも野外や馬車の中はご容赦いただきたいですが、ここでなら、構いませんよ。お辛いでしょうに。」

毛布越しに固くなったものに手を這わせた。
指先で根元から撫で上げると、壬氏さまが大きく身体を揺らす。

「猫猫っ… …!」

赤い顔で悲鳴を上げる男からは、いつもの優雅な物腰が消え失せていた。
咎める声に、唇の両端を上げる。
ったく、どれだけ溜め込んでいらっしゃるんだか。
緩んだ顔のまま、壬氏さまを見つめる。
しばし視線を彷徨わせていた御仁は、やっと口を開いた。

「なあ、それ、新年の祭祀が終わってからでいいか?」
「ええ。では、今夜はこのまま?」
「……お前に触れて、3日程度で煩悩を払拭できる気がしない……。」
「ふふっ……壬氏さまらしいですね。」

本当に生真面目な方だ。
そういうところが好ましいと、今は思っている。

「いかがされました?」

突然、壬氏さまの腕が枕と肩の間に差し込まれた。

「これくらいいいだろ?」
「痺れますよ。」
「左手だから構わん。」
「妓楼ではしばしば、こうして腕枕をして腕に翌日以降も痺れが残る人がいるのです。考えたくありませんが、突然襲撃された時に片腕が痺れているのは、お立場上問題です。」
「……お前なあ。」
「無粋で申し訳ありません。しかし……。」
「わかってる。お前が寝るまでだ。」
「……仕方ありませんね。」

こう言われたら、もう寝るしかない。
朝帰り確定だ。

「おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。年明け、覚悟しとけよ。」
「……はあい。」

焼きつきそうな視線を感じながら、目を閉じる。
茉莉花の吐息が頬を撫で、柔らかい唇が頬に触れた。
触れてもらえない唇が、うすら寒い。

結局は朝帰りになってしまった
帰宅時に長紗にだけは会わないことを願って、意識を手放した。

— End —

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Sakuria
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