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長野県警の諸伏三兄弟

にゃんこばっにゃんこばっ

生存してる諸伏兄弟が見たいです。 見たいので自己満足で書きました。 このお話の景光くんは東京の親戚に預けられていないため、降谷さんとの出会いもなく、警察学校組メンバーとの出会いもありません。東京に遊びに行った時に友達になってる可能性があるかも程度です。 生まれも育ちも長野な景光くんを捏造しています。 ・諸伏兄弟について捏造過多 ・それ以外についても捏造しかない ・原作との矛盾が多々あるかもですが、原作未読のため流してください ・なんでも許せる方向けです ・雰囲気でお楽しみください 主人公 諸伏光明(モロフシミツアキ) 諸伏家長男。 2025/5/9 大和警部の名前の漢字を間違っておりましたので修正しました。大変申し訳ございませんでした。

注意

・諸伏兄弟について捏造しかしてません

・その他についても捏造過多です

・原作未読のため、原作と矛盾する点があるかもしれませんが寛大な心で流してください

・このお話の景光くんは東京の親戚には預けられてないので、長野産長野育ちな景光くんです

・何でも許せる方向けです

「犯人が雪山に逃げ込みました!」

ちらちらと雪が降る中、白く濁る呼気を弾ませてブラウンのコートを着た部下が「どうしますか」と伺いをたててきた。
いくら慣れているとはいえ、雪山は危険が多い上に逃げた犯人は山に精通している元猟師。自分と部下の二人では流石に追いきれない。
雪山の捕物といえば、『ユキヒョウ』。長野県警では有名となったその言葉にため息を吐いて男は携帯を開いた。

「長野県警本部に要請を。犯人が雪山に逃げ込んだ。『ユキヒョウ』を貸して欲しい」

「諸伏!」

長野県警察刑事部捜査一課。
刑事部長の呼び声に顔をあげた三人の男がいる。誕生日席とその前に向かい合うようにしている机に座っている三人だ。三人とも目尻が釣り上がった所謂猫目に青系統の瞳を持つすっきりとした青年達である。
その似通った目元の三人に一斉に視線を向けられ、刑事部長は米神をひくつかせつつため息を吐いた。

「諸伏警部!」

「はい」

一人が自分ではないと視線を下げたものの、呼びかけた声に応えたのは二人の声。
未だこちらに視線を向けるスカイブルーの瞳を持つガタイのいい黒スーツの男とダークブルーの瞳を持つ細身の紺色のスーツの男だ。
周りがまたか、と慣れたように笑う中、刑事部長は叫んだ。

「お前らまぎらわしいからどうにかしろ!!」

「いやぁ、理不尽すぎね?」

「まぁ、気持ちは分かりますが」

「はは、そもそも三兄弟が同じ課で集まってるのが珍しいからね?」

似た顔が目の前のパソコンをいじりつつ話をしている。
隠しもしていないが、この三人はご覧の通り正真正銘の三兄弟である。

「いや、マジでこっちとしちゃやり辛くてしゃあねぇんだよ…」

ダークブルーの猫目である諸伏高明の横に席がある大和敢助警部が大げさにため息を吐きつつそう言った。
その前の席に座る上原由衣も苦笑いしている。

「でも、本当に前代未聞よね。三兄弟が三人とも警察で同じ課なんて」

「別に示し合わせた訳ではないんだけどな」

「そうですね」

「でも、警察といえばって感じはするよね。刑事部って」

無邪気に笑う末弟の笑顔に長兄と次兄が満面の笑みを浮かべた。今日も弟が可愛くて幸せ。長兄である光明は末弟である景光の机にそっと赤い包装のチョコ菓子を置いた。半分にパキンと割れて包装の後ろにメッセージも書けるヤツである。景光は「ありがとー!」と言って後ろのメッセージを確認した。『大好きな景光へ♡』と書かれているのを上原は見た。わぁ、今日も相変わらず弟愛が強い。
景光は容赦なく包装を破って捨てた。中身だけ美味しく頂いている。ちなみに、半分に割って「お兄ちゃんにもあげるね♡」とはしない。長兄と次兄の戦争が起こることを賢い末弟は分かっているので。
シレッとしている景光の奥で光明は高明にもお菓子をあげていた。ビスケットとチョコレートの船のマークが付いたお菓子だ。白と水色の包装のヤツでミルク分が多いそれを高明は好んでいるらしい。上原から見ても表情の変化はよくわからないが。
ちょうど高明を見ていた上原の方を景光が見たことで、上原の視線もそちらを向いてパチリとグレーブルーの瞳と目が合った。三兄弟の中で幼さの残るぱっちりとした猫目の男が首を傾げた後、何かに気づいた顔をする。そうして容赦なく光明のデスクの右上の引き出しを開いて赤い包装のチョコ菓子を強奪する。

「はい。上原さんもどーぞ」

「え?あ、ありがとう…」

いいのだろうか。仮にも上司だ。でもそれ以前に幼馴染でもあった。
上原が中学生の頃、喧嘩っ早い光明はよく地元の不良に喧嘩をふっかけられては腕力に物を言わせて全てを黙らせていた。だからか記憶の中の光明はいつも怪我ばかりしていたように思う。
一番ヤクザみたいな見た目している敢ちゃんがドン引きしてたほど喧嘩に明け暮れていた。よく警察になれたものだとこのデスクの島の全員が思っていたと思う。光明も含めて。
もらったチョコ菓子を食べようとして後ろのメッセージを確認する。
『ひーくんへ♡』と書かれていた。

「あの…ヒロくん…」

「大丈夫」

「でも…」

「気にしないで」

「えぇ…?」

いや、無理じゃない?このメッセージ見て食べるの無理じゃない?
悩んでいる上原を気にしてか、目の前のデスクの敢ちゃんが少し腰を上げてこちらを覗いた。見やすいように角度を変えれば顔を顰めた後、素知らぬ顔をして資料を見始める。
味方はいない。上原は絶望した。
見かねた景光が黒のマジックペンを持って上原の方に椅子を寄せた。その手の中からチョコ菓子を抜き取り、光明の心を込めて書いたメッセージを雑に塗りつぶしてその下に『上原さんへ』と書き直す。

「これで大丈夫。光明兄さんも怒ったりしないから」

にこり、と笑う景光の奥で光明が資料から目を離さないままヒラリと右手を振っていた。
なら、大丈夫なのだろう。「ありがとう」と景光に礼を言って上原はチョコ菓子の包装を破り中を美味しくいただいた。

江戸川コナンはちょうど阿笠博士の提案で少年探偵団と共に長野に旅行に来ていた。部活の合宿があった蘭ねぇちゃんは今回不参加である。
丁度降りた土地で近くに警察車両があるのに気がついた。
気になってそろそろと近づいていけば、刑事と思われる人間が4人集まっている。
耳を澄ませて内容を聞いてみた。

「殺人犯が山に逃げ込んだってよ」

「今の季節じゃ雪があるからな…」

「体勢を立て直して捜査するそうだが…相手が猟師じゃ中々キツイもんがあるよな…」

「だから本部の『ユキヒョウ』を呼んだってよ」

「あぁ、あの三兄弟…」

「ならなんとかなるか」

(ユキヒョウ…?)

ユキヒョウといえば、あのネコ科で長い尻尾を自分で追いかけくるくる回り、自分の尻尾を咥えてキョトンとしている可愛い姿が頭に浮かんだ。
警察組織の隠語か…?
いやでも、そんなもの初めて聞くが…。コナンの頭の中は白いモフモフで溢れた。

(というか、三兄弟…?)

たしかに、兄弟で警察というのは珍しくはないが、三兄弟が呼ばれるというのは異例だ。
特定の三人を指して三兄弟と言っているのか…?
コナンの頭の中は白いモフモフと得体の知れない三人の男で溢れた。

「諸伏!」

「はーい。どの諸伏をご所望ですかぁ?実働系?頭脳系?射撃系?」

「全部だ!『ユキヒョウ』の要請だとよ」

『ユキヒョウ』。それは長野県警本部にいる諸伏兄弟を指して言われる俗称だ。というのも、この三人刑事としてのポテンシャルが高い上に機動力が落ちる雪山でもその機動力があまり落ちない。三人による雪山での検挙率は驚異の100%である。面白がった同僚がまるで雪が積もる山岳地帯に棲むユキヒョウの狩りのようだと揶揄って呼んだのが発端だった。でも、県警刑事部の人間は知っている。この三人がユキヒョウのように可愛い存在ではないと。末弟はまあユキヒョウでもいいとしても、次兄は良くて黒豹だし、長兄はグリズリーともタメを張れるという地球上最大のネコ科であるトラだ。三兄弟全員がネコ科であることは間違いない。猫目なので。
あと、この三人異様な身体能力もそうだが、頭も悪くないし、何故か夜目もきく。そして、三兄弟というだけあって阿吽の呼吸というやつがあるのだ。ネコ科は基本的に群れないらしいが、三兄弟の包囲網は正しく狩りに近い。夜間の狩りにあった犯罪者の中には夜の雪山がトラウマになった奴もいる。純粋に怖い。絶対追いかけられたくない。

「ほら、これ資料だ。友人島の全員連れてけ」

「いいんすか?やったぁ」

『島』とはデスクで分けられており、光明の島は三兄弟に加え、幼馴染である大和敢助と上原由衣もいる。某無人島ゲーム風に言えば『お友達島』である。なので、刑事部でも通称『友人島』などと言われている。最後まで反発していた敢助も今は諦めて噛み付くこともしない。なにしろその名前に噛み付いているのは敢助だけなので。ほかのシレッとしている幼馴染達を見て馬鹿らしくなったともいう。

「んじゃ、由衣ちゃんと高明は車出してくれる?由衣ちゃんは敢助連れてって。高明は俺ら乗せて。今から用意して現地集合でよろしく〜」

コナンが警察を張っていた時、その場に走り込んできたのは見覚えのあるシトロエンと警察車両だった。
警察車両からは見覚えのあるヤクザ風の厳つい男と美人な女刑事が降りてきた。

「大和警部!上原刑事!」

「おぉ…ボウズか。なんでこんなとこに」

「ちょうど阿笠博士と同級生と一緒に旅行に来てたんだ!大和警部達はどうしたの?」

「ちょっとした捕物だ」

「おや…白眉の少年。奇遇ですね」

シトロエンから降りてきた高明がコナンを見て涼しげな目元を緩ませた。その後ろから高明とよく似た目元をした男が二人現れる。

「ホシは?」

一番上背がある男が最初から待機していた刑事達に声をかけている。
その後ろからやってきた一番背が低そうな男がコナンを見てパチリとした猫目を瞬かせた。

「こども?」

「前に話をしたでしょう。とても頭の良い子ですよ」

「あぁ、高明兄さんが新野署にいた頃の…」

「はい」

不思議そうに見上げるコナンを見て、にっこりと優しそうな笑顔を見せた景光がしゃがんでコナンと目線を合わせる。

「こんにちは。俺は諸伏景光っていいます。そっちの諸伏高明の弟なんだ。兄がお世話になったみたいで、ありがとう。兄さんとまた仕事ができて俺嬉しいんだ」

「えっ、あ、弟…?」

たしかに目元がそっくりだ。諸伏警部の髭を剃ればもっとそっくりな気がする。まあ、弟の方は顎髭が生えているが。

「なぁに?ソイツ」

「ヴッ」

景光の頭にガン、と太い腕が乗った。体勢を崩さなかったのは流石刑事か。鍛えているだけある。
コナンが景光の頭の上に乗った腕から辿って相手の顔へと視線を上げる。
上背のある男が景光の頭の上からこちらを見下ろしていた。丁度逆光になって顔の細部までは見えなかったものの、青空のようなスカイブルーの瞳がジッ…とコナンを見下ろしている。鮮やかな瞳のおかげでその瞳孔がコナンを見てぐん、と開いたのが分かって悲鳴さえ上げなかったものの、無意識に一歩距離を取っていた。

「こら」

言葉とは裏腹にゴツンと結構な音が男の頭からする。伝播して最下層にいた景光にもダメージがあったらしく、小さく「イタッ」と悲鳴が上がった。ぞんざいに男を景光から引き離した諸伏警部が弟の頭を優しく撫でてあげている。「エーン」「よしよし。かわいそうに」兄弟仲が大変よろしい。でも殴ったのは諸伏高明である。

「高明、お前もうちょっと兄への扱い考えよ?我長兄ぞ?」

「なら、それらしい行動をしては。幼い子供を怖がらせるような人は私の長兄ではありません」

「へーへー。すいませんねぇ。人相が悪くて」

足を大っぴらに広げてしゃがみ込む様はどう見てもチンピラだったが、先ほど見えなかった顔に浮かんでいる表情は好青年然とした笑みだった。

「お前が江戸川コナンか」

「うん」

「弟が世話になった。感謝する」

「……おとうと?」

「?おう。あぁ、自己紹介がまだだったな」

スカイブルーの瞳は先程の威圧感を露とも感じさせないほどに暖かな光を滲ませている。
その釣り上がった目が先ほどの諸伏兄弟に似ていると今になってコナンは気がついた。

「俺は諸伏光明。そこの二人の一番上の兄だ」

指で指された先。ダークブルーの瞳とグレーブルーの瞳を持つ男が二人微笑んでいた。他の二人と違って目の前の光明は髭がないせいか、二人より幼く見えるが。
コナンの身近に男兄弟はいない。あの容赦ない鉄拳が男兄弟故のものなのかはわからなかったが、遠慮のなさは兄弟然としていて不思議と納得できた。
納得できただけで、理解して受け入れられたわけではない。
コナンの口は何よりも先に驚愕の声を上げた。

「え、えええーーーー!!!」

「ははは!!いい反応だなボウズ!」

バシン、と背中を叩かれてヨロついたコナンを見て高明の鉄拳が光明の頭に降った。「ぴえん」「おかわりいりますか?」「イリマセン」
はは。なるほど、兄弟。

「おいミツ。茶番はそこまでにしろ。そろそろホシを探さねぇと」

「ん?あぁ、そうだったそうだった」

よっこらせ、と声を出して立ち上がった光明が視線を鋭くして山を見る。

「昼頃に山に逃げ混んだところまでは確認しています。ホシはライフルを所持。猟師らしく、山での動きも機敏で…」

「うーん。俺あんま頭良くないからそういうの苦手なんだよな」

「ここの地図ってある?」

コナンの言葉に高明が持っていた地図を広げてやった。その地図をコナンと諸伏三兄弟、大和、上原が覗き込んだ。

「今何時だ?」

「14時すぎですね。要請があったのは13時。一時間でどこまで行けるかですが」

「俺がもし長期で潜伏するなら水場のそばにするな。ホシは猟師だったんだろ?森の中で狩りも出来るし水も飲める」

「でも発砲したら場所がわかるんだから狩りは出来ないんじゃないかしら?」

「猟師なら罠の一つや二つぐらい作れんじゃねーの?」

「光明兄さん適当すぎない?」

「だがまぁ、他に逃げるとこも無さそうだな。この奥はしばらく山が続く。もし潜伏するんなら山の中。街に逃げるなら山伝に北上する方が足がありそうだ」

「とりあえず、ホシが逃げそうな街には警戒するように伝えてくれ。景光いけるか?」

「オッケー」

ぐっ、と準備運動を始めた景光とそれぞれにやるべきことを把握してバラバラと解散する面々にコナンは「えっ?…エッ!?」とキョロキョロと困惑しつつ子猫のような鳴き声をあげている。
奥で阿笠博士や子供達がコナンを呼んでいた。次の場所に行こうと言っているが、犯人を捕まえるなら自分も…!と揺るぎない信念が溢れる。

「今回はボウズの活躍する間はねぇかもしれねぇが、まぁ、いいだろ。ここにいろ。後でアイツらのとこへ送ってやるよ」

「やった!」

コナンは早速阿笠博士と少年探偵団の元に走り大和警部が言ってくれた旨を伝えた。子供達から非難されたもののどこ吹く風だ。目の前の事件が一番大事なので。
走り出したビートルに手を振りコナンは大和警部に向き合った。
元々この場にいた刑事達は連絡のためそれぞれ走って行った。
この場にいるのは山を睨むように見る大和警部とその側に控える上原刑事。そして準備運動をしつつ山を指差して話し合っている諸伏光明と諸伏景光。地図を眺めて何かを考えている諸伏高明の五人だ。

「ねぇ、大和警部。これからどうするの?」

トリックを見破るなら大得意だが、今回のこれは完全なる捕物である。コナンはどう手を出すべきかと考えた。

「これからミツとヒロが山に入る。んで、ある程度犯人がどこに行ったのか痕跡から検討をつける。いければそのまま確保だな」

「でも、この山でしょ…?」

コナンは眼前に聳える山々を見上げた。自然ってすごい。
長野の山は広い。この山々を二人だけで捜索が出来るとは思えない。
普通はもっと人を導入してすべきことだ。

「ミツは鼻が効くし、ヒロは目がいい。それに、あいつらに付いていける人間がいねえ」

「?」

「あいつらは長野の『ユキヒョウ』だからな」

(『ユキヒョウ』…!この人達が…)

コナンの横で大和警部がインカムをつける。上原刑事がコナンの分のインカムを渡してくれた。
インカムから落ち着いた息遣いと声が聞こえる。肉声でもその声はコナンの耳を打った。

「んじゃ、行くわ。高明はいつも通り地図見つつ指示頼む。必要があれば山に来い。敢助と由衣ちゃんはここで待機。緊急の時は頼むな」

「気ぃつけろよ」

「はい」

「ご武運を」

三人の言葉に頷いた光明が「景光」と少し固い声で弟の名を呼んだ。拳を合わせた兄弟が犯人が通ったと情報のあった場所から山に入っていく。
現在時刻は14時半。犯人の姿を最後に見てから一時間半が経過している。
空には黒く重い雲が流れてきていた。

「こりゃ、ひと雪きそうだな…」

雪の積もる山を足早に登る。走りはしない。いつ、どこまで体力を持たせるべきかまだわからないからだ。
少し遅れてくる景光が左右に視線を走らせている。鷹の目とも揶揄される出来のいい目にも犯人の証拠はまだ映らないようだ。
すん、と鼻を鳴らして空気の匂いを嗅いだ。
鼻に入ってくるのは森の匂いと雪の匂い。犯人の匂いらしきものは感じられない。そもそも、鼻が効くといっても犬ではないのだから嗅げる匂いには限度がある。
鳴らしていた鼻にぴとり、と冷たいものが当たって空を見上げた。暗く重い雲が空を占め、太陽が陰る。今は冬。日は短い。少し山を登ってきてそろそろ15時に差し掛かる。あっという間に日は落ちるだろう。
鼻に当たったのは雪だったらしい。雪が降れば足跡も匂いも消えてしまう。それまでに何か見つけたいが…。

「光明兄さん」

「わかってる。川沿いに二手に別れよう。とりあえず川近くに潜伏している可能性にかける。何かあればインカムで」

「了解」

川から少し離れたところで光明は右に景光は左に分かれる。うまくいけば川沿いに挟み撃ちにできるだろう。
進んだ先で風が匂いを運んでくる。僅かなアンモニア臭。動物か人間かはわからないが、排泄物の匂いだ。

「こちら光明。アンモニア臭を感知。まだ人かはわからんが」

すん、と匂いを嗅ぐがそれ以上の情報がとれない。もっと近くで嗅げば何かわかるかもしれないが、ライフルを持った犯人が近くにいる可能性を考えるとのこのこ開けた場所に出るのは自殺行為だ。
ちらちらと雪が舞う中、呼気が風に流される。
何かの視線を感じて息を殺して身を伏せる。空は雲に覆われて森の中は薄暗い。薄暗い中でも良く見える自分の目に感謝しつつ視線の送り主を探した。
自分の呼吸を抑えれば、聞こえるのは自分の心音のみ。その中で、ぐ、と雪を踏み締める独特の音を耳が拾った。
何かいる。

(みつけた…!)

グレーのキャップを被り、同じくグレーの多機能ベストを着た男がライフル片手に光明と川を挟んで反対側を練り歩いている。聞こえる呼吸音から男が緊張状態にあることは察せた。
出来るだけ抑えた声でインカムに話しかける。

「光明だ。ホシを発見した」

『こちら景光。そっちへ向かうよ。GPSで大体の位置はわかるから』

『高明です。こちらのことは敢助くんに任せて私も上がります』

「了解」

ぐる、と自分の喉が鳴るのが分かる。獲物を見て瞳孔が開く。
狩りの始まりだ。

「さあ、始まるぜ。『ユキヒョウ』どもの狩りがな」

楽しげに口元を釣り上げた大和警部を見てコナンの口元は引き攣った。
インカムからはひっきりなしに三兄弟が自分の位置を知らせる短い報告が飛び交っている。
GPSで三人の位置を確認すれば、V字型に布陣を展開しているようだった。

「これ…何してるの?」

「相手はライフルを持ってるからな。煽りつつ確保する隙を窺ってるってとこだろう」

たーん、と山から銃声が聞こえた。

『そろそろ諦めろや。いくら猟師といえどもそろそろキツいんじゃねぇの?』

『ライフルも弾数に限りあるでしょ?時間の問題だよ』

『帰師おおう勿れ窮寇追う莫れ…追い詰められた敵は死に物狂いで抵抗します。くれぐれも油断しないように』

現在時刻は16時を回ったところだ。もう夜だと言っても過言ない程度には暗くなってきた。

「や、大和警部!これ以上は危険じゃ…!」

いくらホシが目の前にいると言っても相手はライフルを所持している。この暗い視界の中で灯りも持たずに山の中にいる三人では対抗できない。

「アイツらは大丈夫だ。なんたって『ユキヒョウ』だからな」

「さっきから言ってるその『ユキヒョウ』って何なの…?」

「長野県警内でも雪山での捕物であの三兄弟の右に出る奴はいねぇんだよ。雪山での移動速度、身体能力の高さ、…そしてなにより、暗視能力の高さ」

「暗視能力…」

「アイツらの夜目の効きは正直異常と言っていいくらいだ。一度検査をさせたことがあるが、夜間訓練に慣らされた軍人と同程度の認識能力はあるらしい」

「たしか、桿体細胞の多さで暗視能力の高さは決まるんだよね。猫は人間の6から8倍程度の桿体細胞を持つ。だから夜目が効く。でも、桿体細胞が多いと色覚異常が出るって聞いたことあるけど…」

「よく知ってるなボウズ。まぁ、時々色の認識について食い違うこともあるが、それは個々人で認識が違うのとそう変わらない程度だ。色覚異常ってほどでもねぇよ。…夜でも雪山を走り回れるサツなんざ、犯人からすりゃ悪夢そのものだろ?」

悪い笑みを浮かべた大和警部にコナンも乾いた笑みを返した。

「あと、猫目」

「え?」

「猫目で、雪山駆け回って、夜目も効く。じゃあ『ユキヒョウ』だなって誰かが言って定着したんだよ。…まあ、実際雪山での検挙率は100%なんだから強ち間違いじゃねぇ。ユキヒョウの狩の成功率はネコ科でも高いらしいからな」

インカムから聞こえた光明の唸り声にコナンは静かに笑った。それがまるで猛獣の唸り声のように聞こえたからだ。

走る。走る。撹乱する。
たん、とライフルが撃たれて近くの木に穴が穿たれる。光明から見て左前方にいる景光がピストルを撃つも相手のライフルを飛ばすまでに至らない。
右前方の高明が威嚇射撃で犯人の足元を穿った。犯人の視線が景光から高明に逸れる。
いける。
今の犯人には光明のことは意識にない。なぜなら光明はこれまで発砲を一度もしていないからだ。発砲するのは両側の奴らだけ。
そちらに意識を割いたことで光明が犯人の視界から逸れた。
景光がさりげなく立ち位置を光明と変える形で犯人を追い詰めていく。この目視も何もなく当たり前のようにお互いがお互いのすることを分かる、というのがこの三兄弟の強みだった。さながら狼のようでいて獅子のようでもある狩りの仕方だ。何をすべきか全員がわかっている。
追い詰めて煽り、煽って追い詰める。
犯人が気がついた時には背後から伸びてきた光明の腕が首を回って気道を締め、米神にはピストルが添えられていた。

「はぁい。大人しくしようなぁ?」

死にたくなければ。さながら殺し屋のような猫撫で声のそれに震えを酷くした犯人は大人しくライフルから手を離し両手を挙げる。降参の合図だった。
素早く景光がライフルを回収し、高明が犯人の手首に手錠をかける。

「16時32分。確保、ですね」

「うし。お疲れさん。帰るぞ」

犯人の脇を固めた光明、景光と少し遅れて高明がインカムで報告を入れつつ下山する。

「待て、待ってくれ…!」

「んだよ。話なら署で聞くって。こんな寒いとこからさっさと帰らせてくれよ」

「早いんだよ!お前ら!!」

暗い中足場を確認しつつ降りる犯人をよそに暗くてもある程度物が見える三兄弟に迷いはない。むしろ早くしろと腕を引きずっていた。

「あ、ごめん」

景光がペースを落とすので光明も仕方なくそれに倣った。
いくら猟師といえども夜に狩はしない。歩く時も滑り落ちないようにある程度慎重に歩く。
それをこの三兄弟は普通に山道を走るように軽やかに犯人の跡を追いかけてきた。
一番運動が出来なさそうな後続の細身の男もだ。
その上あれだけ走り回って息が上がっている様子も見受けられない。何だこいつらバケモンか。と犯人の猟師は体を震わせた。自分が追う鹿でももう少し慎重に雪山を駆けてたぞ。
特に怖かったのは気配を感じてライトで辺りを照らした時だ。自分の周りをライトで一周確認した時に自分を中心にして直線上と左右に三対の光が見えた。野生動物だと思ったが、草食動物にしては光の位置が近すぎる。あの位置は肉食動物の目の位置である。と気づいた時には最悪の事態を想定した。雪山で一番怖い動物は冬眠に入れていない熊だ。冬眠に入れていない熊は通常個体よりも獰猛になりやすい。それが三体。死んだ。と思った。
実際は自分を追いかけてきたサツだったのだが。
猟師であった犯人は後に署に引き渡されて取り調べを受けている時にハッと気がついてしまった。
人間の目は通常光に当たっても猫や野生動物のように光ることはない。
というのも、動物には夜間の視覚を補助するために、眼の中にタペタムという光を反射する膜がある。その結果、目が光って見えることがある。
しかし、このタペタムという膜は人間には存在しない。ただ、人間の瞳孔が限界まで開いていた場合に稀に光を反射することがあるらしい。
ということは、あのとき見えた三対の光は…。
猟師である犯人は似通った猫目の三人の男の瞳孔が限界まで開いてこちらを見ている様を想像して震えた。
もう二度と夜の森には入れないだろう。

犯人を引きずって下山した三人を見てコナンはほっも息を吐いた。
三人に目立った怪我はない。

「これで検挙率100%を死守できたな!良かったじゃねぇか!」

笑う大和警部がインカムを外した。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。

「これ署まで同行すんだろ?だるぅ」

「俺と上原は先帰って上司に報告しといてやる」

「うーす。俺と高明と景光は署へ寄って報告あげてからそっち帰るわ」

大和警部と光明が話している横で景光がコナンの前にしゃがみ込んだ。高明は立ったままこちらを見下ろしている。

「や。君も残ってくれてたんだ」

「う、うん。何か手伝えたらと思ったけど、全然必要なかったね。凄かった!兄弟三人で犯人を追い詰めるなんて!」

子供のように無邪気に笑うコナンに景光も満面の笑みを浮かべた。

「でしょ!俺の自慢の兄弟なんだ。こんな凄い兄さんたちと同じ土俵に立ててるってことが俺の誇りなんだよ」

頬を染めて笑う景光の頭を高明が慈愛の眼差しで見つめている。
ああ、本当に仲のいい兄弟なんだな。
一人っ子のコナンには経験できない感覚であるだろうが、兄がいたらと空想を重ねてしまう程度には景光の幸せそうな笑みは少し羨ましかった。

「ま、諸伏兄弟っつったら長野では有名だからねぇ」

「わっ、光明兄さん!いきなりは危ないって」

景光の上に乗るようにして体重をかけてきたのは長兄である光明だ。高明が拳を構えたのでそそくさと上から降りる。

「有名、なんだぁ…」

まあ、こんだけイケメン揃いで有能な三兄弟ともなれば有名にもなるだろう。色んな意味で。
三兄弟の後ろでは光明から犯人を預かっていた大和警部と上原刑事がやってきた署の刑事に犯人を引き渡していた。

「おい!諸伏三兄弟!そろそろ署へ向かえよ!」

それだけ言って大和警部と上原刑事は車に乗り込んだ。前を通った時に窓を開けて挨拶をしてくれたのでコナンも「ばいばい」と挨拶を返す。
目の前の諸伏三兄弟も仕事のようだ。光明と景光が同じタイミングで同じように伸びをした。
血のつながりを感じてコナンの顔にも笑みが浮かぶ。それを見て三兄弟も兄弟でよく似た笑みを漏らした。

「すごい。兄弟みたいだった」

「兄弟だからな」

諸伏三兄弟がお互いに顔を見合わせて、背筋を伸ばして立った。それで漸くコナンは景光が高明よりも上背があったことに気がついた。

「諸伏三兄弟を今後ともよろしくな」

「また長野に来たら教えてね。暇があれば観光案内してあげられるかも」

「また、君の知恵を借りることもあるかもしれませんね。ではまた」

去っていく三兄弟を見送ろうとして、コナンは一番最後尾だった高明の服の裾にしがみついた。

「おや」

「ごめんなさい。阿笠博士のとこまで連れてって」

コナンも忘れていたが送ってくれる約束をしていた大和警部は帰ってしまったのだった。
今度は三者三様の笑い声を上げた三人は「署までご同行願いましょうか」とからかい混じりの声でコナンをシトロエンの後部座席へと案内したのだった。

人物紹介

諸伏光明(モロフシミツアキ)
通称ミツ。
長野県警察刑事部捜査一課の警部。38歳。
警視への昇格を打診されているが、管理職になりたくないので警部の階級にしがみついている。
両親は毎日恒例の喧嘩から帰ると亡くなっていた。ユリちゃんを探していた犯人と鉢合わせ、怪我を負いつつ確保。警察へ引き渡している。
兄弟離散の危機だったが、なんとか親戚を説得して高校生活ほぼバイトに明け暮れて弟二人を育てる。
高卒で県警に就職した。
諸伏高明、諸伏景光の兄。
黒髪で襟足が長い。猫っ毛。
スカイブルーの猫目が特徴的。髭はないため兄弟で一番若く見られる。
兄弟の中で一番身長が高くガタイもいい。
兄弟の中で一番頭が良くない。
超がつくブラコン。
幼少期から山の中を走り回っていたので、山も雪山もどんとこい。長野県警内で密かに『ユキヒョウその1』と呼ばれてる。体力バカ。
とても鼻がきく。
口が悪くてキレるとすぐ手も足も出る。通称『死の猫パンチ』。
見た目からしてパワータイプ。
諸伏兄弟の一番やべーやつ。
愛車は青いシビックTYPE R。

光明:明るい光。逆境にあったりどうしてよいかわからないで迷っている時に見出す希望や解決の糸口。

諸伏高明
通称タカ。
長野県警察刑事部捜査一課の警部。35歳。
お前の兄を警視になるよう説得しろ。と上から懇願されているが兄と現場を走り回りたいので笑顔で却下している。
諸伏光明の弟で諸伏景光の兄。
黒髪ストレート。猫っ毛。
ダークブルーの猫目が特徴的。年相応に見えるように髭を生やした。兄には泣かれた。
実は兄弟で一番背が低い。(いつでも姿勢良く立っているため弟より高く見られやすい)
兄弟の中で一番頭がキレる。
超がつく隠れブラコン。
幼少期から山の中を走り回っていたので、山も雪山もどんとこい。長野県警内で密かに『ユキヒョウその2』と呼ばれてる。一番体力ない。
とても記憶力が良い。
キレると頭脳戦しかけてくるが、ブチギレるとすぐ手が出る。殴れる軍師。テクニカル詐欺。
瞬間的な力は一番強い。
諸伏兄弟の実はやべーやつ。
愛車は皆さんご存知シトロエン。

高明:位置が高く明るいこと。学識や見識、知恵などが優れていること。

諸伏景光
通称ヒロ。
長野県警察刑事部捜査一課の警部補。29歳。
この世界線では兄弟離散イベントが発生しなかったので、長野で生まれ長野で育った。警察学校組とは東都に行ったときに偶然出会ってるといいな。つまり、この世界線にスコッチはいないし自殺する未来もなかった。
お前のやべー兄貴二人の手綱を絶対離すなと言い聞かせられている。が、残念。コイツもやべーやつだ。
諸伏光明と諸伏高明の弟。
光明、高明ときて景光だったので、名前に若干疎外感を感じている。が、高明も景光も光明の名前から一文字ずつとったと長兄に聞いて疎外感は無くなった。
あと全員名前の意味が光に関係することも含めて。
黒髪ストレート。猫っ毛。
グレーブルーの猫目が特徴的。次兄に倣って顎髭を生やし始めた。長兄は泣いた。
実は次兄より背が高い。(左足を軸にして立っていることが多いので、姿勢のせいで低く見られがち)
兄弟の中で一番足が速い。
兄二人にドライかと思いきやコイツもブラコン。
幼少期から山の中を走り回っていたので、山も雪山もどんとこい。長野県警内で密かに『ユキヒョウその3』と呼ばれてる。
とても目がいい。
キレると真っ先に足が出る。
スピードタイプかと思いきやコイツもパワー振り。むしろパワーにスピード乗せてくる。
諸伏兄弟のなんやかんややべーやつ。
愛車は青いシボレーカマロ ホットウィールスペシャルエディション。

景光:光り輝く様子。希望。

— End —

Comments 32

S
summer7 个月前

殴れる軍師はパワーワードwww

すてら8 个月前
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ユヅキ9 个月前
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ぬくぬくお布団🎶9 个月前
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水すん1 年前

最高に楽しいめちゃくちゃすき

N
N1 年前

死の猫パンチはクソ笑う

R
RINAN1 年前
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ピヨルド1 年前
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ひー1 年前
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ナツキ1 年前
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コーン1 年前
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終夜1 年前
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Sakuria
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