転生してから十五年。すくすくと元気な腐り目系男子に育った俺は各地から貴族の有望な若者達が集う大陸最高峰の学園、ミドガル魔剣士学園に下級クラスとして入学した。
本来、ミドガル家の御子息ともなれば即上級クラス行きだが、そこに拾われた俺が入っていいのか問題が貴族間で発生し、俺もその意見に同意したことにより下級クラス行きとなった。上級クラスって目立ちそうだし忙しそうだからという理由では断じてない。
その時にアイリスとアレクシアに文句を言われそれぞれ決闘連続五十回、計百回もの決闘をしたことは苦い思い出だ。俺を殺す気かあの二人は。
そして学校生活というのはあっという間で、いつの間にやら二ヶ月が経っていた。学力、実技が低いと家の名に泥を塗ってしまうと思い下級クラス内で一位を取るようにしている。その所為か勉強を教えてくれと声を掛けられることも屡々。まぁ理由は他にもあるが......。
「お〜い、お前ら実技テストどうだった〜?」
「自分たちはB判定でした」
そう言って俺の前にやって来たのは同じクラスで知り合いのガリ男爵家の次男ヒョロとイモ男爵家の次男のジャガ。まぁ特に語ることもない普通の学生達だ。
「俺はA判定だったぞ」
「カーッ! やっぱハチマンはいつもどおりかぁ。まぁ貴様には最初から期待なぞしていない!」
なぜヒョロとジャガがこんなにも興奮してるのかと言うと、実技試験の評定最下位だった者は、この学園のアイドル、アレクシア・ミドガル......つまり俺の義姉に告白するという罰ゲームを設けていたのだ。だが、これで俺が義姉に告白をし振られた挙げ句嘲笑われることも無くなった。安心安心。
「シド! お前はどうだ!?」
ヒョロとジャガの視線が俺の隣にいるやつに向けられる。名はシド・カゲノー。学力普通。実技普通。容姿もまぁ普通の普通すぎる奴。
「あぁ、僕はC判定だったよ。魔力量がまだ乏しいって」
「おっ、それじゃ今回の被害者はお前だな!」
着いてこいと口角を上げて言ったヒョロの後ろをトコトコと三人で追う。
「アレクシア王女。どうか私とお付き合いしてはくれないか。貴重な青春を共に歩みたいのだ」
着いて行ったその先に居たのは絶賛イケメン公爵家の息子(名前は知らん)に告白され中の我が義姉、アレクシア・ミドガルだった。
「ごめんなさい。悪いけど、興味無いの」
告白相手にそう告げたアレクシアの背には猛吹雪が起きていた。おぉうドライすぎる......。そういやあいつが色恋にキャッキャしてるところ見たことねえな。告白してきた奴ら全員振ってきてたし、そういうことに興味がないのだろう。もしくは心に決めた人が既にいるか。
アレクシアのモテ女っぷりを思い出していると覚悟を決めたシドがアレクシアに向かって行く。心做しかめっちゃ悪い顔していたような......気の所為か?
「ア、アッ、アアア、アッ......アレクシアおうにょっ......!」
プルプルと震え視線は泳ぎ床を眺めている。そして右手を掲げ少し静止した後ピッタリ九十度の直角でお辞儀した。
「ぼ......ぼっ、ぼぼぼ僕と、付き合ってくぁさい......?」
なんだろう、友人が姉に告白する現場を見るのはなんとも複雑な信条だ。もしかしたらシドが義兄になる可能性が......うわっ、鳥肌立ってきた。というか、アレクシアがシドの方を振り返る瞬間目があったような。
「......ごめんなさい。私、付き合ってる人がいるの」
そう言ったアレクシアは何故かこちらに向かって来た。俺は嫌な予感がしたためすぐその場から離れようとするが、右手に柔らかい感触と共に甘く柔らかいいい匂いが漂い動けなくなる。
「彼女を置いてどこに行くの? ハ・チ・マ・ン」
俺は、何時から義姉とのラブコメを発展させてたのだろうか......。
「おかしいだろ」
「おかしいですね」
「おかしいな」
「そう?」
昼休憩、学食にて反省会という名の俺の断罪会が行われていた。ちなみにさっきの発言は俺、ジャガ、ヒョロ、シドの順だ。おいシドよ、お前振られたのになぜそんな爽やかな笑顔で飯が食えるんだ?
「くそっ、ハチマンお前、なに姉との青春タイム作ってたんだよマジでこの裏切り者が」
「いやだから俺も身に覚えが......」
「隣、良い?」
そこにやって来たのは我が姉であり悩みの原因、アレクシア。微笑んでる目の奥には、断るなよ?と言いたそうなドス黒い感情が見える。そして後ろには家でも馴染みのあるメイドさんが昼食を持ってきていた。
「......どうぞ、お義姉様」
「あら、お義姉様呼びだなんて珍しいわね。いつも通りアレクシアって、それともこれを気にマイハニーとでも呼んでみては?」
「いえいえ。私のような拾われの身であるものがアレクシアお義姉様をそのように呼ぶことは出来ませんよ」
公然の面でこう言えば、俺とアレクシアが付き合っているという噂も消えるだろう。ただの拾われの身。俺は偶々王家に保護されただけの平民以下の身分でしかないのだから。
「それは違いますハチマン様!! ハチマン様は素晴らしき心をお持ちのお方であります! 元の身分なんて関係ありませんわ!」
ちょっとメイドさん? 今は黙ってて欲しいな?
「こらこら。ハチマンが困っちゃうでしょ?」
今困ってんのはてめえの所為じゃボケェ。
「ハッ! すっ、すみません......つい」
「いえ。気にしてませんよ。それよりお義姉様。私達なんかと食を共にするのでは無くクラスメイトと交流を図ってみては?」
「それよりも弟であり彼氏であるハチマンの日頃の話を良く聞きたいわ。御三方、教えてくださる?」
「「はい喜んで!!」」
こいつら......俺の精神安定よりアレクシアとの会話を選びやがった。後で二人揃ってジャーマンポテトにしてやる。それとシドはひっそりといなくなろうとするな。
「そういえば、ハチマンって午後からの実技科目は王都ブシン流だったわよね? 私も同じだから一緒に受けましょ?」
「えっ、嫌だ」
「......私の推薦で上級クラスの枠を空けて上げたわ。一緒に受けるわよ」
フル無視した挙げ句お願いじゃなくて命令になってるじゃないですかヤダー。
午後の授業、俺はアレクシアのお願い基命令に逆らえなかった為上級クラスにて実技授業を受けることになった。周囲からの視線が痛いなぁ帰りたいなぁ。
「はい注目! 準備運動はそのへんにして集まってくれ!」
指導者の声と共に隣にいる俺に更に視線が集まる。
「彼は今日からこのクラスに来たハチマン・ミドガル君だ。皆仲良くするように」
キラキラと周りに爽やかな光を纏ったこのイケメンは今回の指授業の指導者、ゼノン・グリフィ。地位も名誉も金もある非の打ち所がない人物だ。チッ、俺の嫌いな人類筆頭だ。リア充は◯ね。
ゼノン先生のことを観察していると、少し遅れてアレクシアがこちらにやって来た。
「おまたせハチマン。早速打ち合いをしましょう」
「わぁったよ......」
他の人達とは少し離れた場所にて互いに剣を構えぶつけ合う。そして剣を交わえてすぐにある違和感を感じる。
「またなんか迷ってんのか?」
「っ!?」
「流石に気づく。前よりも剣筋にブレが出てるし、何より表情が暗い。お前、俺と稽古したり決闘する時毎回ニッコニコでやってるだろ」
「......まぁ、ちょっとね」
アレクシアは苦笑いをするだけで悩みの種を話さない。こんな時、普通なら俺に話してみろよとか気の利いたことを言うんだろうが生憎俺の口からはそんな言葉を出すことは出来ない。人の悩みは話したい時に話してくれた方が本音を聞けるのだ。......別に時間が解決してくれるのを待ってるとかじゃなくてね?
言い訳に思考を割いていると、剣を振るう力加減をミスってしまいアレクシアの獲物を上に弾いてしまう。そして飛んでいったアレクシアの剣はゼノン先生がパシッと音を立て掴み取った。
「ぼーっとしてどうしたんだいアレクシア。何か悩み事かい?」
「何でもありませんよ」
そう言ってアレクシアは不機嫌オーラを撒き散らしながら剣を受け取りハンカチでゼノン先生が掴んでいた部分を念入りに拭いた。それを見ていたゼノン先生は何故か嬉しそうな顔をしている。.....そういうプレイですか? あらやだ授業中に端ないわ。
「ハチマン君は筋が良いね。ブレも全く無い鋭い剣だ。君みたいな子に王都ブシン流を教えれるのはとても嬉しいよ」
「はぁ......そっすか」
王都ブシン流。ブシン流から派生させた革新的な流派。王都を中心に広まったことからその名がつけられた。その流派を広めた一人が眼の前にいるゼノン先生らしい。まぁ、どうでも良いけど。
「先生! 二人きりで練習したいので世間話はその辺りにしてください」
アレクシアは俺の服の裾を引っ張り豊満な胸に俺の顔を埋めさせた。おっふ......柔らかい母性の塊が。
「私達ラブラブなんです。邪魔しないでもらえませんか?」
「......いつまでもそうやって逃げれる訳じゃないよ」
「大人の事情は子供にはわかりませんの」
その時、キラキラと輝いていたゼノン先生のオーラが消え少しだけ本性が見えた。......これはあれか。金持ち特有の問題である、婚約者関係がこの二人にあるってことで良いのか?それなら今までのアレクシアの行動はゼノン先生に対する当てつけ兼、婚約関係破棄に繋げさせる物と考えられる。う〜ん面倒くさい巻き込まれたくない引きこもりたい。
放課後、アレクシアと帰宅している時ある程度事情を聞いた。予想通りアレクシアとゼノン先生は婚約者.....厳密には候補関係であり、その関係を破棄させようと今回の行動に出たのだと言う。俺を巻き込まないでおくれよ。
「そういえば言い忘れてたのだけど」
「あっ? なんだよ.....こっちはこれからの学校生活が罵詈雑言の嵐を正面から突っ切るようなことになるのを覚悟してんだよ。邪魔すんな」
「あなたも私の婚約者候補の一人よ」
「へぇへぇそれは凄い光栄なこった一生の自慢話だな。......すまん、もう一回言ってもらって良い?」
「だから、あなたも私の婚約者候補の一人よ。と言っても現状婚約者候補はあなたとあの薄ら仮面しかいないけどね」
「......ほぁ?」
あれから数日後。今すぐ破棄してやりたい偽の恋人関係は未だ続いていた。アレクシアは何故俺がこの関係を続けているのか聞いてきたが、俺はあのキラキライケメンが義兄になるのは嫌なのでと説明した。まぁ理由は別にもあるが......。いや、実際あれが義兄になるのはほんとに嫌だけどね。
「あなたから見て、あの男はどう見える?」
今日も人が居ない場所で剣術授業をしていた時、剣の打ち合いをしながらそう聞いてきた。ここで言うあの男とは、今回の関係が出来た原因でもあるゼノン先生のことだろう。
「イケメンで地位も名誉も何もかも持っているどんな女でも引っ掛けられそうなほどの優良物件野郎」
「......あなたでもあいつの本性は」
その先を喋らせる前に俺は『でも、』と付け足しアレクシアの言葉を遮る。
「外骨格みたいなの付けて、周囲をまるで自分を評価する機械のようにしか見ていない......薄っぺらい人間って印象」
そこまで言うと、アレクシアはキョトンとした顔を下に向けプルプルと震えだす。えっ、なに。俺なんか変なこと言った? ......言ったなそういえば。
「ふふっ、アハハ!!」
えっ、なに急に笑いだして。怖いこの子。
「やっぱりハチマンは最高ね! フフッ、クフフ」
「いや笑いすぎだろ。それに俺が最高? 過大評価も大概にしてくれ。俺はそのへんにいる専業主夫志望の一般市民だぞ」
「王族の家にいるんだから一般ではないんじゃない?」
うるさいアレクシアうるさい。良いんだよ。王族の中でも俺は一般市民になれる唯一無二の存在なの。なにそれかっけぇ。......いやかっこよくないな。普通にダサい。
「やっぱり結婚するならハチマンが良いわ」
「そいつはどうも.......」
「照れてる?」
「なわけ」
俺が婚約者候補というのは嘘では無かった。なんでも信用出来ない貴族を婿に来させるなら、身内且つ血の繋がっていない俺を婿にさせようという魂胆らしい。オヤジィ.......せめてその婿候補の俺には話しとこうぜぇ?
そういえばその話しを聞いたアイリスが三日三晩暴れまくって大変だった。終いには『私もハチマンと結婚するぅ!』とか言い出す始末。ほんと......疲れたわ。あれを慰めるために俺を使うのはやめてほしい。お陰で寝不足なんだよこっちは。
「でも、そうねぇ。私と結婚すればあなたを養ってあげるわよ?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は目の色を変え、打ち合いの途中なのも気にせず剣を手放し、両の手でアレクシアの手を包み込むように握った。
「アレクシア、結婚しよう」
「えっ、ちょっ! はぁ!?」
アレクシアは顔を真っ赤にし、餌を待つ金魚のように口をパクパクさせている。ハッ!なんで俺は姉を口説いてるんだ?就職先を見つけた喜びと寝不足が原因でおかしくなってしまった。
「あっ、その......悪い、冗談だ。ハチマンジョークハハハ」
「っ〜! 馬鹿!」
「あちょっ、待っグエッ!!」
迫りくる剣を躱すことが出来ず頭にモロに受け床にぶっ倒れる。その時のアレクシアの剣は今までのどんな剣よりも鋭く、力強い一撃だった。
朦朧とする意識の中最後に見たのは、リンゴように真っ赤な顔をしブツブツとなにかを呟いているアレクシアの姿であった。んだよ、乙女な要素もあるじゃねえかお義姉様。ガフッ......。





















いやぁ面白いな