目が覚めたらアルバス・ダンブルドアだった。つまりたった今この瞬間から、愛と善に全てを捧げるトップオブ社畜人生が確定したということである。ちょっと待ってくれ世界。急展開過ぎる。アルバスは古びたベットの上に腰掛けながら顔を覆った。状況を整理しよう。
___アルバス・ダンブルドア
この名前を知らない子供はそういない。それはアルバスが犯罪者の子供というレッテルを貼られながらもホグワーツきっての秀才と持て囃されたからでも、カイロ国際錬金術会議を始め数々の世界的な賞を総なめしたからではない。え?私凄すぎ。天才ぢゃん。この世界の栄誉は全部私のものって言っても過言じゃなくな……おっとっと。済まない。内なる(笑)権力欲と自己顕示欲が。話を戻そう。世界中で私の名を知らない子供はそうはいない。それは私が大人気児童文学書『ハリー・ポッター』のなんか凄いお爺さん枠だからだ。当然私も著作にハマって金ローに齧り付いた。ファンタビももちろん見たし、二フラーの愛おしさにきゃあきゃあ言ったよ。じゃあここからの人生、未来も分かってイージーモードなんじゃないかって?ばっきゃろう!イージーなら私がこんな薄汚れたパブで寝泊まりするわけ、
____ガンガンガンガン!!!!!
「ごめんね!褒め言葉だよ!私はこのパブの気軽さを何より買ってるつもりさ!漏れ鍋って名前もイかすよね!曾孫あたりにつけたい名だ!」
「清掃でぇーす」
「あっ清掃か」
アルバスはごほんと咳払いしながら、清掃婦にお帰りいただいた。ポケットに詰めたレモンキャンディはほんのオマケのつもりである。口止め料なんかじゃないよ。本当だって。
「………はぁぁぁああぁ」
寝返りを打つたびに軋むベット、独房のように狭い部屋、薄汚れて湿った空気。本編内で何度かハリーも寝泊まりをしたこの漏れ鍋こそが今のアルバスの住居である。実家たるゴドリックの谷から蹴りだされたからだ。おっと。勘のいい君達ならもう分かったかな。そう。イージーなんて冗談じゃない。アルバスが記憶を取り戻したのは、絶対に回避したいアルバス兄弟決別の切欠__アリアナの死を見送った後であった。
「……鼻が無事なのは奇跡だね」
私が冒頭に言った社畜人生の意味が分かっただろうか。もう全ては動き出しているのだ。アリアナはもういないし、アーバーフォースには吸魂鬼の如く嫌われてるし、ゲラートは革命へのめり込んだ。勿論血の誓いも手元でちゃりちゃり言ってる。こうなってしまった以上今の私のすべきことは、変身術を教えながらニュートスキャマンダーに目を掛け、それとなくアメリカへ唆し、ゲラートを捕らえ、ニコちゃんと賢者の石作りに励み、取り込みたがる魔法省をのらりくらりと交わしつつ脱獄ゲラート狩りに手を回し、血の誓いを打ち砕き、未来の闇の帝王をホグワーツへ誘い、愛じゃよとドヤ顔し、わしらには救えぬものじゃとそれっぽくハリーを軌道修正させ……多いわ!!!!
「(もうゲラートは仕方ないにしてもせめてヴォルデモート……トムリドル関連の手間だけでもスキップ出来やしないだろうか……)」
『ハリーポッター』好きとしてあるまじき発想をしている自覚はあるが、物語として楽しむのと自分の人生に立ちはだかるのじゃ話が変わってくるのだ。気持ちとしては、遊園地の体験型アトラクションと上司が残した特大不祥事案件の後始末ぐらい違う。今の私の現状が後者であることは言うまでもない。せめてもうちょっと前に記憶を取り戻せてたらなぁ。あの子だって死なせずに済んだかもしれないのに。
「(それに今更原作クラッシュくらいどうってことないでしょう)」
アルバスは鏡を横目に見ながら自嘲気味に笑った。長い鳶色の髪を適当に掻き上げ、 ベッドに寝転ぶ。そこにはアイスブルーの瞳を憂鬱げに揺らしたひとりの女が映っていた。
なんでアルバス・ダンブルドアが女体化してるんですかーーー!!!?????
抑圧と惨めさで構築された無彩色の世界に鮮やかな赤が横切った。玩具の取り合いをしていた子供も薄めたスープを煮込んでいた職員もその場にいた誰もが彼女の背中を目で追いかける。それほどに鮮烈で眩しい存在だった。
「___私達の世界へおいで。君は私達と同じ魔法使いだ」
今まで見てきた金持ち達の中で最も高貴で美しい存在はそう言って少年の手を優しく引いた。少年の名をトムリドルという。後に歴史上最も恐れられた大魔法使いとして名を馳せる男の名だ。
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「___アルバス!!!!」
怒り狂ったマグゴナガルが扉を開け放つと、中から大量のポップコーンが溢れ出してきた。何ですかこれは。文字通りポップに飛び跳ねたお菓子達に出鼻を挫かれた彼女は部屋の主たる女を仰ぎ見る。ちゃっかりバケットにポップコーンを詰めたアルバスはまるで映画鑑賞でも始めるかのように宙に浮いたソファに腰掛けながら優雅にポップコーンの海を見下ろしていた。
「やぁミネルバ。ちょうどよかった。ポップコーンは如何かね。好きなだけ持っていってくれて構わないよ。私のオススメはキャラメル味かな。舌に残るあの甘味は堪らない」
「何をやっているんですか貴方は!」
「君もご存知の通り変身術の講義だよ。今日は変身するのではなく、見破る方法を学ぼうと思ってね。この中に一つだけあるポップコーンに化けたレモンキャンディを皆に探して貰っているのさ。君も参加するかね」
「だからってこんなに量産する必要がどこにありますか!私の腰までありますよ!?」
「私としてもそこは想定外だった。彼等の繁殖力を甘く見ていたよ。改善の余地ありだね」
アルバスは肩を竦めて言った。彼女とてここまでポップコーンの海を作り上げるつもりはなかった。ただ時間制限もあった方がいいよなぁ〜お菓子いっぱい増えると嬉しいよなぁ〜の気持ちで生徒が間違える度に偽物ポップコーン達が増える魔法をかけ、「早く見つけないとどんどんポップコーンが増えて余計に見破れなくなるよ〜」と発破をかけつつポップコーンに合うマグル映画を探していたら、一先ず時間を止めてポップコーンを探そうと目論んだ優秀な生徒が「AreestoMomentum_動きよ止まれ_」を唱えた。素晴らしい発想である。グリフィンドールに十点!ただ一つ惜しむべきは彼の使っていた杖が折れかけていたことだ。流れ出した魔力は途中でネジ曲がり動きを止めるのではなく動きを早めてしまう結果に。そうして出来上がったのがポップコーンの海である。
「せんせい〜!もうポップコーン飽きたあ」
「ノートがギトギトだよ」
「それは失敬。スリザリンの授業では蛙チョコレートを使うことにするよ」
「アルバス!!!」
「分かっておるよ。ミネルバ」
マグゴナガルの金切り声にアルバスはとうとう両手を上げた。するとポンポン弾けたポップコーン達がピタッと止まり、音もなく消える。
「さて授業はここまで。次の授業までに私の老眼を欺けるとびっきりの変身を編み出してくること。以上」
学用品にスコージファイをかける生徒達を追い出した彼女は機嫌よさそうにマグゴナガルに席を用意して向き合った。このひとはいつも人の不機嫌に取り合ってはくれない。
「さてミネルバ。君の要件がポップコーンの過剰摂取であればたった今解決したところだけど、私に話したいことが他にあるかね」
「ええ、ええ勿論ですよ。アルバス。貴方に話したいことは沢山あります」
マグゴナガルは何もポップコーン大量密造を引っ捕らえに来たのではない。彼女だって暇ではないのだ。忙しい合間を縫ってマイペースに生きる同僚を怒鳴りに来たのには理由がある。
「トム・リドル。彼を養子にしたというのは本当ですかアルバス」
「左様。後見人という方が近いかもしれんが」
「正気ですか!?生徒を養子にするなんて!これは越権行為ですよ」
「ホグワーツの規則に生徒を養子にしてはいけないという一文はなかったと思うが……はてさて私の知らぬ間に変わっていたのかな」
「アルバス。真面目に話しているのですよ」
「同僚として?」
「貴方の友人として」
そこまで言われてしまえばアルバスは手の内に潜めたペロペロ酸飴を再びポケットに戻すほか無かった。
「そう大層な話ではないのだよミネルバ。私は教師として生徒の背中を押しただけに過ぎない」
アルバスは瞼を閉じて思い出した。古い洋箪笥、木製の椅子、鉄製の簡易ベッドしかない小さな部屋を。そこで出会ったたった一人の少年を。アルバスは彼を知っていた。それでも思わず心が凍りついたのをよく覚えている。まるで真似妖怪にでもあった気分だった。それほどまでに彼は同じだった。物語の悪役ヴォルデモート卿にという話ではない。ゴドリックの谷に閉じ込められ、在学時の栄誉を踏み付けながら、妹の介護に身を捧げ、その一方で野心を燃やし続けた醜い己自身に。過去の記憶は叫ぶ。アルバス・ダンブルドアがこのとき少年を疑わなければ、彼に愛を与えてやれればヴォルデモート卿は生まれなかった。現在の己が眉を顰める。どうして警戒せずにいられる。あれほど自己充足的で、秘密主義で、残酷さと支配欲に溺れるあの者を。迷ったアルバスは少年に委ねることにした。古びた杖を手にし、みすぼらしい洋箪笥に向けて気軽にヒョイッと一振りした。
洋箪笥にホグワーツが映った。
真夜中にそびえ立つ城、廊下を楽しげに駆ける生徒達、彼等を導く威厳のある教授陣、盛り上がるクディッチ、賑わうホグズミード。ホグワーツで過ごせばいずれ目にするであろう暖かな日々をまるでTVのようにアルバスは映した。これを見て彼が眉を顰めるのであれば、値踏みをし、利用価値を探すような素振りをみせたならば自分は彼を、彼の周りの者たちの為に警戒しなくてはならない。だがもし。もしも待ちゆく神秘へ胸を膨らませ、経験したことのない暖かな毎日に心を踊らせるのであれば、まだ彼は間に合うのではないか。
「ここが……ホグワーツ……」
「左様。君の新しい世界だ」
「ここには……僕や貴方のような力を使える人達が沢山いるんですか……」
「そうとも言えるしそうでないとも言えよう。君の様に既に頭角を表している者もいればこれから殻を破る者たちもいる。ホグワーツは選択次第で何者にもなれる場所だからね」
「何者にも……」
陶酔したように洋箪笥へ釘付けだったトムは不意にアルバスを見上げた。その瞳には強い熱が篭められている。彼がどのような意図で口を開いたのか、アルバスには分からなかった。
それでも、
「__貴方のようにもなれますか」
この瞬間アルバスは決めたのだ。彼を信じよう。例えこの言葉がアルバスの権威や能力を指していたとしても自分がこの子を支え導いてやればいい。彼の憧れに足る存在として胸を張れる生き方を私はしなければならない。
「__勿論。君がそう望んでくれるなら」
アルバスが答えたと同時に洋箪笥の映像が消えた。そしてカタカタと物音がする。するとトムは夢から冷めたようにサッと顔を青褪めた。
「何か出たがってるみたいだけど」
「……」
「出しなさい」
トムは躊躇したが、洋箪笥へ向かいその中から小さなダンボール箱を取り出した。中を開くと小さなガラクタがごちゃごちゃと入ってる。ヨーヨー、銀の指貫、色の褪せたハーモニカ。どれもきっと誰かの大切なものだった筈だ。アルバスは言い含めようと頭を回したがすぐに辞める。上から押さえつけては駄目だ。彼は押さえつけられて育てられた子なんだから。
「私ならトロフィーは奪うのではなく差し出させてみせるかな」
「!どうやって」
「彼等と友人になる」
興奮に染め上がったトムの顔が無表情に変わった。相手を従わせるような恐ろしい魔法を知りたかったのだろう。分かりやすい子だ。アルバスは何だかこの小さな魔王が可愛く見えてクスクス笑った。笑うな!!とトムが目を真っ赤にして叫ぶ。馬鹿になんてしてないのに。
「済まないね。君が可愛くって」
「僕は蛇と話が出来る!」
トムは遮るように言った。漸く切り札を出すことにしたらしい。アルバスはハリネズミのように威嚇する彼の目の前でしゃがみこみギラギラ光る赤い瞳と真っ直ぐ向き合った。トムが一瞬息を呑む。その隙を逃さず、アルバスは右手をぬいぐるみの蛇に変えて「シュー」とこっそり囁いた。
「《お揃いで嬉しいな》」
蛇語だ。訛ってないといいけど。些か照れ臭そうな顔で笑うアルバスに今度こそトムは気味の悪いものを見る目で黙った。そんな彼の手にダンボール箱を握らせ「持ち主に謝って返しなさい」と告げる。「種の知れたマジックほど見苦しいものはない。賢い君なら私の言いたい意味がわかるね」と釘を指すのも忘れずに。トムは渋々箱を受け取った。
「恐怖に打ち勝てる者はいるが愛に打ち勝てる者はそういない。君もいずれわかるよ」
何せひと夏の愛に負けて妹を死に追いやった愚か者が君を育てるのたから。
「貴方が極めてグリフィンドールらしい直情さと出たとこ勝負をしたことはよく分かりました」
「耳が痛いな」
「ですが本当に大丈夫なのですか。保護者と指導者は違うのですよ」
マグゴナガルの懸念は最もであった。アルバス・ダンブルドアは人を導くという一点において素晴らしい才を持つことは言うまでもない。だが教師と保護者は違う。彼女は一見心優しく、親しみ深い人物に見え、事実その通りであるが、一方で策略家的冷酷さと合理主義的一面を持つ人物でもあった。シビル・トレローニーの件が良い例だ。後に彼女は著名な予言者であるカッサンドラ・トレローニーの玄孫だったからこそシビルとの時間を設け、シビルに才が無いと分かれば失望し、あると分かれば掌を返して彼女を迎え入れた。この件がなければハリー達が占い学を学ぶ日は来なかったに違いない。上記の事項はまだ起きていないことだが、アルバス・ダンブルドアには"そういうところ"がある。つまりアルバスの愛は博愛と策略の延長でしかなく、親が与えるべき子への無償の愛を果たして彼女がトムに与えてやれるのか。というのがマグゴナガルの懸念であった。
「ミネルバ。残念なことに君の問への答えを私は持っていない」
しかし、とアルバスは続ける。
「……やがてトム自身が我々に答えを示してくれるだろう」
アルバスがフッと顔を上げて窓を開けた。するとパタパタと白い梟が彼女の肩に飛び乗り、ぽとっと羊皮紙を落とした。
「おお吸魂鬼の軍事運用か!素晴らしい着眼点だね。それなら私は捕虜の有用性について論じようかな!」
アイスブルーの瞳がキラキラと輝く。まるでクリスマスプレゼントでも貰ったかのような顔だ。よく見なさいアルバス。それは毛糸の靴下ではなく、触れば爛れる呪い付き論文ですよ。
「何をどうしたらそこまで嫌われるんですか」
「トムなりの愛情表現だよミネルバ」
「歪み過ぎです」
「否定はしないがの」
不死鳥の涙を自動除菌スプレーに手をかざすような仕草で待つアルバス(ガン無視されてる)を見てマグゴナガルは大きく溜息を吐いて立ち上がった。
「いつでも相談なさってください。是非とも何か起こす前に」
「覚えておこう。済まないねミネルバ」
「いつものことです」
飽きれ顔で席を立ったマグゴナガルは肩をすくめながらヒョイッと杖を振った。真っ黒になった指先が瞬く間に元に戻る。つれない不死鳥はそっぽ向いたままアルバスの頭に乗った。
__さて、何故アルバスが呪いつき論文をトムから貰うに至ったか。話は入学前まで遡る。
マグゴナガルの言葉を借りれば極めてグリフィンドール的勇猛果敢さで未来の巨悪を懐に拾ったアルバスは内心焦っていた。完全に勢いで決めたからだ。こんなつもりじゃなかった。あくまで教師として夏季休暇の居所くらいは手配してやろうかなぐらいの腹積もりだったのに。はてさてどうしたものか。「ありがとうございます。ですがもう結構です。充分です。いらない、いいって、いらないっていってんだろ!」とブチギレられてることに気づかず永遠にトムへお菓子を与え続けながら、アルバスは考え、そしてひらめいた。
「さて、これからの話をしよう」
「んぐっぐ」
「おや。爆発ボンボンがそんなに気に入ってくれたとは嬉しいね。だが、もうすぐ夕食だ。食べ過ぎはオススメ出来ないよ」
「(いつか殺してやる)」
全くもってクソしょうもない理由で殺意を向けられたことに特に気づかなかったフリをしたアルバスは、魔法で優雅に紅茶を淹れてやった。真っ赤な瞳が彼女の杖を追いかける。
「話を戻そう。私は君を引き取った。つまり書面上君は私の養子というわけだ」
「お母様とでもお呼び致しましょうかマダム」
少年は吐き捨てるように言った。あと数ヶ月遅ければ飾り物の笑みを添えていただろう。まだ彼は上手な猫の被り方を知らなかった。お陰で随分分かりやすい。
「君が望むなら吝かでもないが、そうではないだろう?私は既に君の望みを知っている」
彼の紅茶に大量の砂糖を入れようとして、蛇の様に睨まれ、こくこく紅茶を飲まれたアルバスは少し困った顔をして「君には、」と続けた。
「今しがた君が飲み干した紅茶と同じ様に私の人生を飲んでもらおうと思っている。その為に君を手元に置くことにした」
「……」
「私の知識を、技術を、経験を。余すことなく君の糧として使ってほしい。君は私の様になれるかと先程言ってくれたね。勿論なれるとも。だが私としては、私の様にではなく私以上の存在になってほしい。私から得たものを君自身で精査し、新たなものを培っていってくれることを切に願う」
女へ敵意を向けていた少年はただ静かに女の言葉を聞いていた。小さな拳が力強く握られており、肩が僅かに強張っている。不安と緊張と高揚で綯交ぜになった彼の顔はホグワーツ城を見上げた新一年生達とよく似ていた。
「我々の関係を指す名はやがて大人になった君が決めればいい」
他人、養母、後見人……宿敵。それらしき言葉は沢山ある。いずれ彼自身が答えを見つけるだろう。だからこれは私が勝手に思っていることだが、私はね、トム。
「___君を私の弟子にしたいと思っているよ」
「弟子?」
そこで初めてトムは声を出した。まあるい戸惑った声だった。"弟子"が付き従えたい者ではなく与えて授けたい者を指すことはもう話している。だからこそ動揺しているのだろう。
「貴方は僕を弟子にしたいんですか」
どうして、と彼は続けた。アルバスは声を出して笑う。そして揶揄うように肘をついて眉を顰めるトムリドルの額をちょんっと突いた。
「君がそれを私に聞くのかい?」
___私を選んだのは君のくせに。
その瞬間幼い両頬がポッと赤らんだ。はくりと小さく息を呑んで、ぐっと黙り込む。彼女の返答が予想外だったからだ。トムはアルバスに人生を買われたのだと思っている。家族になるなんて戯言でしかない。養子縁組なんて所詮は人身売買だ。だからこの女は自分にやらせたいことがあるんだと思っていたし、その上でトムはこの女を利用してやろうと考えていた。だけどそうか。この女が僕を選んだのではなく僕がこの女を選んだのか。トムは改めて目の前で笑う魔女を見つめる。この美しく、特別な力を持つこの女を、僕が。背筋がぞわりと泡立ち腹の中から熱い衝動が湧き上がってくる。ウサギを絞め殺してやった時よりもずっと強い多幸感がトムを襲った。
「〜〜っそうだ!貴方が僕を選んだんじゃない!僕が貴方を選んでやったんだ!!!」
「おお。年寄りに大声は堪える……」
「お前の助けなんていらない!全部一人でやれる!お前なんかと一緒に暮らさない!お前は僕が呼んだ時だけペットのように尻尾を振りながら来ればいい。僕がお前を上手く使ってやる」
「無茶苦茶言いおる……」
「何でも僕の望みどおりになるって言っただろ!!!」
落ち着くかなと再びお菓子を差し出せば振り払われた。余談だがトムリドルが魔法界の物で一番最初に嫌いになったのがこの爆発ボンボンである。それはそう。アルバスはどうしたものかなぁと思いつつ「未成年者の君を一人暮らしさせてやることは保護者として許容出来ない」とハッキリ告げた。
「だが頭ごなしに否定するのもお洒落じゃないね。ふむ。じゃあ私と一つゲームをしようか」
「ゲーム?」
「そう。何か一つでも私に勝ってみなさい。そしたら君の求める自由へ可能な限り取り図ろう」
「却下だ。そんなのお前に有利すぎる」
「おや自信がないのかね?」
「安い挑発になんか乗らない。僕にどれほどの能力があろうと、お前が僕を閉じ込めれば僕はお前に勝つ術がない。大人の卑怯なやり口なんてお見通しだ」
「確かにそうだね。きみは賢い。では書面で誓おう。さて他に憂慮事項は?」
「命を賭けて誓わせる魔法はないんですか」
トムは高圧的に言った。そんな小さな帝王を柔らかな笑みで封殺しアルバスは立ち上がる。
「自分で学びなさい」
__たった今二人の間でゴングが鳴った。
さて、この勝負を受けたときトムは当然魔法で彼女に勝たなくてはならないのだと思った。しかし残念なことに魔法界では未成年者の魔法使用が禁止されている。規則の穴をつくことはアルバスが許さない。別にやってやれなくもないが、輝かしい勝利が大人の目を掻い潜って魔法を使ってやったぞ〜!なんてのは些か格好悪いと思った。ということは必然的に知識で彼女を超えなくてはならないことになる。そして始まったのがあの論文合戦だ。これにはアルバスもニッコリ。彼女は大魔法使いであると共に素晴らしい研究家なので。吸魂鬼の軍事利用やアズカバンの脆弱性など興味深い理論には彼の論理の弱点をつくような論文を返し、その一方でマグル家畜化や純血主義には「浅はか過ぎる」と、マグルの有用性や近親婚の遺伝子学的リスクと純血主義に至るまでの歴史に加え純血の優位性、マグルの最新科学など様々な判断材料を差し出したりした。偏見とは未知によって引き起こされるものである。魔法が使えないから無価値と論ずるのはあまりにも視野が狭い。無論純血主義全てを否定するのもナンセンスだ。
「物事を一つの面でしかみれないようでは私には到底勝てないだろう。常にメリットとデメリットを天秤にかけなさい。そして二手三手を読んで先読みし、それら全ての策が潰れたときのことまでよくよく考えるのよ。君なら出来るでしょう」
「はい先生」
闘志に燃える赤い瞳にアルバスは背筋が泡立った。なにこれ。めちゃくちゃ楽しい。早く箒なしの空中飛行理論も編み出してくれないかなあ。あれ格好良いんだけど難しくて。あと一歩利便性への捻りが足りないのだ。まだホグワーツへの入学すら果たしていない子供に懸ける期待ではないが、思わずそう願ってしまうほどにトムは優秀で前途ある若者であった。
「人狼の秘密警察を作ってはどうです!彼等は我々に恨みがある筈だ!喜んで罪人共を捕まえるでしょうし噛んでしまえばこちら側に引き込める!」
「うん。一緒にゾンビ映画でも見ようねトム」
そんなこんなで何とかヴォルデモート卿ルートを回避してのんびり研究ライフに明け暮れたいダンブルドア成り代わりと拗らせトムリドル少年の奇妙な師弟関係がスタートしたのであった。
孤児院を出て暫く。トムリドルは"魔法族は極めて高位の種族である"と考えていた。
姿形はマグルと同じだが、彼等は魔法も使えないし我々ほど長く生きない。何より魔法使いに比べて非常に愚かだ。アルバス・ダンブルドアを見てみろ。彼女は孤児院の職員達と違ってルールだからと押さえつけるのではなく、何故このルールが作られたのかという話から始め、無駄の多いルールであれば「ならば君が新たなルールを考えてみたまえ」と課題を出す。そんな大人は一人としていなかった。
『いるわけないだろ!ダンブルドアみたいな大人なんか!数百年に一度の大天才だぜ!?』
……と、彼の頭をひっぱたいてくれるロン(友達)がいなかったのが少年にとって一つ目の不幸だろう。そして彼女の友人達(稀代の錬金術師ニコラス・フラメル、魔法理論家のアドルバート・ワフリング、魔法史の権威バチルダ・バグショット等々)も極めて優れていたことがまたトムの勘違いを拍車させた。
よってトムは自分もホグワーツに入学したらすぐにニコラスやアドルバートの様な素晴らしい人物達と巡り会い、友好を深められるのだろうという婚活女子もびっくりなクソ高理想を描いてしまったのである。気の毒なことだ。そう簡単にアベンジャーズが組めるわけないのに。
――結果わくわくトム坊やはこうなった。
「純血も穢れた血も等しく馬鹿ばかりじゃないか!どいつもこいつも下らない!彼等は本当に魔法族なのか?世間の受け売りと親の口癖を声高に叫ぶしか脳がないグズ共め……!やはり僕に友人なんていらない。これならお前と退屈な愛の魔法について論じている方がまだマシだ」
部屋の中をカツカツと歩き回るトムの癇癪にアルバスは慣れたように「私の前でそのような侮蔑的な言葉を吐くのはやめてくれるかな」とだけ言って窘めた。
何せ入学前は5分に1回、
「なんだこの穢れた生き物は!僕の目の前にこんなもの見せるな!」
「しもべ妖精だよトム」
「杖を寄越せ!僕が怖いのか!?」
「はいはい来週買ってあげるから今夜はもうおやすみ……」
「いつか殺してやるからな」
「そうね。クランベリージャムの海にでも沈めてちょうだい」
といったやり取りをしていたのだから。事実もう慣れっこである。したがってアルバスはカエルチョコレートに逃げられながら「困ったわミネルバ」と笑いかけた。
「老いぼれの相手ばかりさせたばかりにトムの心は随分皺くちゃになってしまったみたい」
「なんだと?」
「ホグワーツの神秘を探す快感も友達とズル休みをしてバタービールを引っ掛ける楽しさも知らないまま学生時代を過ごすなんて勿体無い」
「教師としてあるまじき発言は聞かなかったことにするとして、これは確かに不健全ですね。子供は子供らしくあるべきです」
トムは鼻に皺を寄せた。だが一変して気取った笑みを浮かべる。彼は既に猫の被り方を身に着けていた。
「教授方は馬鹿共との馴れ合いをご所望ですか」
「彼等を愚かと決めつけるのは時期尚早ではないかな?」
周りをよく見てご覧。君が見えてないだけで、君の誠の友人足り得る人物はすぐ側にいるかもしれない。何せ君が入ったのはスリザリンなのだから。優しくそう告げるアルバスにトムは軽快に答えた。
「ええ勿論です先生。僕に相応しい友人が出来たらすぐにご紹介して差し上げますよ。まぁそれまで貴方がご存命かは分かりかねますが」
__などと嫌味を返してみたものの、正直な話ホグワーツの神秘については興味がある。特に彼が注目しているのはサラザール・スリザリンが残した"秘密の部屋"だ。中には彼の崇高な秘宝が隠されており、誰も見つけたことがないという。……そう、誰も。つまりアルバス・ダンブルドアですら見つけられなかった部屋だ。
「(論文などカモフラージュに過ぎない。僕は秘密の部屋を見つけ、あの女へ僕の能力を認めさせてやる)」
その為にも"友"が必要だ。一人でもできるがなるべく最速で終わらせたい。そうなるとやはり協力者が必要だ。僕が会話するに値するだけの友が。そしてトムリドルは一人のレイブンクロー生に目を付ける。
――彼の名をフィリウス・フリットウィックという。後にトムリドルの友人となり、呪文学の教授を務める極めて優秀な半ゴブリン族の少年であった。
第二話 継承者と秘密の部屋
「おやトム。よくここを見つけ出せたね」
「……これはどういうことです?」
「紹介しよう。私の友人バジリスクのバジちゃんよ。サラザール・スリザリンの置土産だね」
「フン、友人ね。手紙の返事が遅いと思っていたら彼と戯れていたと、そういうわけですね」
「あっ」
「つまり僕よりその蛇を選んだと」
「誤解だよトム」
「別に構いませんよ。貴方がそういうつもりなら僕にも考えがあります」
「お聞きなさいトム」
「貴方の不死鳥は暫く僕が預からせてもらう」
「なんですって?」
「貴方はその爬虫類と好きなだけ仲良くしていたらいい!!」
「えっちょ、トム、お待ちなさい、トム!!?」
___間男はまさかのバジリスク!?不死鳥の親権問題はどうなる!?これって結局マートル生存!?次回「継承者と秘密の部屋」お楽しみに!(大嘘予告

























最近ハリポタ夢が再熱したのでセドリックやセブルス、原作沿いを読んでいたらとても面白い小説を見つけてしまいました。 ダンブルドア成主に振り回されているトムが滅茶苦茶面白いです! まさかの間男扱いのバジリスクwww