Novel1 years ago · 4.6k chars · 1 pages

まあさんまあさん

ようこそおいで下さいました。有難う存じます。  こちらは「縷(る)」の第六話です。  あっれぇラザファムってこんなんだったっけ、ロジーナが男性相手に会話出来ちゃうのはちょっとねぇ、とお思いならば、お勧め致しません。  そうかこの書き手はそうしたのね、とお認め頂けるのならば、お時間と胸をお借りしたく存じます。

エーレンフェストに、短い秋が訪れた。まだ木々には青い葉が残るが、それも色はくすみ、風が攫うまでもう間も無いだろう。
 その秋の朝、ユストクスは馬車でフェルディナンドの邸を訪れた。しかも二台、うち一台は裏へと回された。
 ラザファムは迎え入れただけで、すぐに下がった。案内など不要、とばかりにユストクスも応接室へと進む。
「ご要望の品を持って参りましたよ、フェルディナンド様。只今、ラザファムが検めておりますので、今暫くお待ち下さい。」
 にこやかに告げると、主は何時もの無表情で頷いた。
「ですが、少々気がかりな者が一人おります。それにどうしようもないおまけも。」
「承知の上だ。が、おまけとは何の事か。」
「ご承知でしたなら安心致しました。おまけについては、すぐに運ばれて来るでしょう。」
 やや有って、ラザファムがワゴンと共に戻った。
「フェルディナンド様、妙なモノが荷に紛れておりました。」
 押してきたワゴンの上には、団子のように丸く戒められた少女が一人。橙色の目が悔しそうにユストクスを睨んでいた。
「見破られました。」
「ラザファムの目を謀る事など出来ぬ、と忠告はしたのですが。」
 わざとらしいため息を付きつつ、ユストクスは事の次第を説明する。育った後は無理だろうが、今ならまだ女装しても大丈夫だろうと言い、平民の服一式と鬘を用意して来た、どうしようもないおまけですと。
「何事も行わないよりは行って検証しなければ、確と身に付きません。」
 団子が主張した。
「それに、手練のラザファム様だから見破れたのかも知れません。次はどこで試すべきか。」
「ヴィルマとモニカにも気付かれていたぞ。そもそも、其方に女装は無理だ。骨格が合わぬ。」
 団子は愕然と師を見上げた。
「お茶会が、有るのです!おひとりで送り出すなど!」
「諦めよ。ラザファム、この荷を解いて、外身を換えてやってくれ。着替えは印の付いた木箱だ。」
仕方がないですね、と苦笑しながら、ラザファムはワゴンを押して下がる。
 程なくして、ラザファムは、着替えたハルトムートと、成人女性一人、少女三人を伴って戻って来た。戸口で女性達は跪く。
「こちらはこのお邸の、そして其方等を買い上げた主、フェルディナンド様でいらっしゃる。ニコラとモニカはお会いした事もあろうが、皆、ご挨拶をするように。」
 ユストクスが告げると、成人女性は震える声でヴィルマと名乗り、少女三人は歳の順にロジーナ、ニコラ、モニカと名乗る。
「このお邸が其方等の仕事の場となる。今は男性だけだが、近く、幼い令嬢がいらっしゃる予定だ。其方等にはその御令嬢のお世話をして貰う。」
 続けたユストクスは、フェルディナンドに目を向けた。
「ヴィルマとロジーナは、クリスティーネの側仕えを務めていたと聞く。得意な分野は何か。」
 フェルディナンドの声に、ひく、と二人の肩が動く。
「直答を許す。話せ。」
「わたくしは楽器を少々と、絵画を。」
 やはり震える声でヴィルマが答える。貴族姿のフェルディナンドに怖気付いているのか、視線は少し下、執務机の天板辺りに向けられている。
「わたくしは主にフェシュピールを弾いておりました。」
 対して、希望に満ちたロジーナは笑顔。
「では、二人にはそれらを教える事も仕事とする。モニカとニコラには今まで厨房で助手を勤めさせていたが、他に何か得意が有るか。」
「わたくしは、まだ側仕えとしてどなたかに付いた事がございません。」
「わたくしもそうです。」
 ニコラは緊張よりも好奇心の勝つ声で答え、モニカは落ち着いた声音で言おうと努力した。
「では、ラザファムとユストクスから、側仕えとしての技量を学ぶように。」
 はい、と二人は応える。
「先に告げておくが、その子供は身体が弱く、従って体力も無い。思いもよらぬ場所で突然発熱し、倒れる事もある。なるべく傍から離れぬようにしなさい。良いな。」
 フェルディナンドが話し終えると、ユストクスの隣からハルトムートが一歩出た。
「私はハルトムートと言う。ユストクス様に付いて、側仕えの技を教えて頂いている。私も先々はその御令嬢にお仕えする予定なのだ。よろしく頼む。」
 にこやかに告げるが、四人の顔は引きつった。
 所作と物腰は貴族らしいが、妙な扮装をする子供である以上、まだ若い女性が警戒しても当然。
「ああ、此奴の事は気にせずとも良い。偶に来る変わり者だと思いなさい。」
「師よ、貴方が仰いますか。」
「其方等、私の時間を無駄にするなと何度申した。」
 くぷっ、と堪えきれない笑いが漏れた。続けてぴしゃんと肌を打つ音。見れば、青ざめたモニカがニコラの後頭部に手を添え、空いた片手でその口を塞いでいる。当のニコラは、目を見開いていた。
「モニカ?」
「申し訳ございません、後できつく叱っておきますので、どうかご寛恕を頂けますよう、お願い申し上げます。どうか、どうか!」
 ユストクスが問いかけると、まるで自分の身が危ういかのように、モニカは言い募る。ヴィルマとロジーナも青い顔で平伏した。
「良い。モニカ、手を放しなさい。」
 フェルディナンドに言われたモニカは恐る恐る手を放し、ヴィルマに倣って平伏する。
「ニコラ。貴族の前で不作法を働けば、その場で高みへと上げられる事もあると知って居ろう。それ故、モニカは其方の口を塞ぎ、其方の代わりに謝罪した。ヴィルマとロジーナも、大変恐ろしい思いをしている。何か言う事はあるか。」
 低いフェルディナンドの声。あまりに勢いよく閉ざされたニコラの口の周りは赤く、それ以外は青ざめていた。
 その顔色を当然だとユストクスは思っていた。神殿の灰色達は皆、貴族の機嫌を損ねたならばどうなるか、よく知っている。知らなければ危うい。前の時には役に立っていたと聞いたが、よくよく教育しなければならないか、いや平民ならば逆にこのくらいが楽なのか、これは匙加減が難しいと考えながらちらりとラザファムを見た。ラザファムもユストクスの目配せを受け取り、瞼の動きで困惑を返す。
 ニコラの口許はモニカの手型に飾られたまま開いた。
「わ、わたくし、皆様がとっても仲良しで、それで…。」
 くくっ。ユストクスの傍から笑い声が上がった。
「あっ、申し訳ありません、あまりにも、可笑しくて。」
 ハルトムートは口を覆うが、笑いは収まらない。
「仲良し!私達が、仲良し!」
 大きくため息をついたユストクスが、弟子の頭を鷲掴みにする。
「痛っ、痛いですっ、ユストクス様っ!」
「だ、ま、れ。」
「ですが仲良しですよ、フェルディナンド様と、ユストクス様と、私が!」
 痛いと言いながら笑い続けるハルトムートに、元灰色巫女達は気味の悪い思いをしつつ、呆気にとられている。
「黙らねば姫様にお目通りは叶わぬと思え。」
「黙ります。」
 ぴた。ハルトムートは姿勢を正した。
「ハルトムート。」
 フェルディナンドの、氷雪の手前程度に冷たい声。やり過ぎだと窘めている事は呼ばれた本人も理解している。
「申し訳ございません。」
 謝罪には静かな頷きが返った。
「ニコラ。」
「申し訳ございませんでした、以後気をつけます!」
 ニコラも平伏して答えた。
「二度目は無い。では、部屋へ連れて行きなさい。」
 フェルディナンドは元灰色巫女達を下がらせた。

 ラザファムは四人を地階の部屋へと連れて行く。そこは一階に新設された扉から、元々の下働き用通路とは別の通路と階段を使う、区切られた場所だった。
「二人で一部屋です。組み合わせは自分達で決めて下さい。ヴィルマとロジーナが楽器の練習をするのなら、専用の場所がありますが、今はまだ楽器がありません。暫くの間は下働きの仕事のみとなります。御令嬢がお見えになるまでは、三階の清めくらいでしょう。ヴィルマには画室も用意されていますので、同室の者が絵の具の匂いを気にする事もありません。ニコラとモニカは下働きの仕事と厨房の助手に加え、毎日、鐘半分ほどを側仕えとしての訓練の時間に宛てます。お仕着せは箪笥の中に有りますので、部屋割りに合わせて交換する様に。あちらへ行けば専用の厨房で、料理人は女性です。洗濯物は、この奥にやはり専用の洗濯場と物干し場を用意しました。洗濯場の外には、小さな中庭が設えられています。厠は二部屋それぞれに有ります。」
 一度、言葉を切って、四人の顔を見る。
「それから、ここは女性専用の区画となっており、先程の通路は一階へ、そこの階段は三階まで直通となっています。貴女達は、この許可証を身に付けなさい。」
 隠しから小さな皮袋を出し、硬貨に穴が空いたような物を一人ひとりに取らせる。
「これを外したまま外に出ると、ここへは入れません。」
 え、とヴィルマは微かに声を出した。
「邸内には他にも下働きがおり、全員男性です。ご令嬢がいらした後には同行する事が多くなると思われますが、それ迄はこの区画と三階から出なければ会う事も無いでしょう。フェルディナンド様は邸内の風紀が乱れる事を大変厭うていらっしゃいます。ですが、お迎えする方の為に女性の側仕えが必要ですから、この様な仕儀となりました。くれぐれも、許可証を身から離さないように。」
「ラザファム様、伺ってもよろしいでしょうか。」
 意を決して、しかしやはり震える声でヴィルマが言った。
「なんでしょう。」
「この許可証を持たない者は、ここへは入れない、と云う事でしょうか。」
「そうです。許可証を作製したフェルディナンド様以外の者は、この後、私も含めて無許可で入る事は出来ません。」
「フェルディナンド様以外は…。」
「ヴィルマ。正確には、フェルディナンド様が貴女達の安全の為に邸を改築し、許可証を与えたのです。」
 え、と、今度は四人共が声を上げた。
「安心しなさい。」
 柔らかくラザファムが微笑む。
「このお邸は、エーレンフェストのどこよりも安全です。そして邸の主は、貴女達を花として買った訳ではありません。幼く病弱なお方の為に、心を込めてお仕えする事の出来る者を選び、集めたのです。」
 ラザファムがヴィルマの目を見る。
「ヴィルマ。貴女は幼い子に心を添わせ、守る事が出来ると聞きました。それに絵画の手解きも出来るのですね。芸術はきっと糧となります。」
 次に、ロジーナと目を合わせる。
「ロジーナ。貴女の所作は中級貴族ならば合格ですので、基本をお教え出来ます。それに貴族の子にフェシュピールは必須ですから。」
 ニコラの明るく暖かい瞳を覗きこむ。
「ニコラ。貴女は側仕えとしてはまだまだですが、その明るさは幼い方の心も照らすでしょう。大切な事なのですよ。」
 モニカの静かな瞳に向き合う。
「モニカ。貴女は知性を秘めています。行動する力もあります。それらはとても心強く思われるに違いありません。」
 そこで笑みを消し、ラザファムの表情は厳しいものに変わった。
「ですが、主は怠惰な者、己を高めようとしない者を許しません。私やユストクスもです。心して励みなさい。」
 はい、と四人は跪いた。

— End —

Comments 65

R
rkira11 个月前

なにげに結果に結びつけそうなラザファム😍

R
rkira1 年前

豪商の娘風ビスクドール団子😆

すず1 年前
Sticker
ねむり ねこ(mii2020)1 年前

わぁ〜ラザファムが・・・さすが!って思いました✨ 原作でも彼の本質はいまいち掴みにくかったのですが、こちらのラザファムはさすが魔王様の眷属!って感じがします。姫様迎える準備ができましたね〜。楽しみです♪

しろむ(白霧)1 年前
Sticker
C
clarte1 年前
Sticker
まおむ1 年前
Sticker
めぇ1 年前
Sticker
S
sakura5519kaede1 年前
Sticker
ソルバス1 年前

フェル様、ロゼマさんを迎える日に向けて館を改築し、4人を買い上げ、教育し、着々と準備を進めているのワクワクします。ハルハルも挑戦心旺盛!いつか上手に変装できるようになるといいですね(〃∇〃)

(すみっこパンダ)1 年前
Sticker
ヒツジ1 年前
Sticker
Sakuria
Where every work blooms
Click anywhere to skip