はぁ・・・もう、疲れてしまったよ。
まさか「順位を下げるように」と言われるなんて・・・養父様も心苦しそうにしていたけれど、だからといって大人たちを宥めようとはしなかったんだ。
粛清で貴族が減ってしまったから、たいへんなのはわかるけれど、まさかね・・・
これまで頑張ってきたことは、ぜんぶ無駄だったってことなんだ。
フェルディナンド様がアーレンスバッハに行ってしまって、神殿のことや孤児院のこと、工房のこと、印刷業のこと・・・手伝ってくれる人がいるとはいっても、まだまだ手を離せるほどではない。
それに、自分のため、普通の学生がするように貴族院の予習もフェシュピールの練習も必要だ。
二度目のユレーヴェのおかげで、少しは体調管理がしやすくなったけれど、だからといってぜんぜん体力は足りないんだけどな。それでもやらなきゃなのか・・・
わたしの状況をシャルロッテが辛うじて理解してくれていたのはありがたかった。でも、社交はしないといけないんだって。
わたしが頑張らないと、家族を守れない。
失敗したら
『わたしの代わりに、エーレンフェストを守ってくれ』
あの日、フェルディナンド様にそう言われて、頑張ろうって思ってこれまでやってきたけれど、さすがに今日の養父様の言葉は堪えたな。
がんばって、隠し部屋まで帰って来れたのを褒めて欲しい。
「あぁ〜、お小言でもいいから、声が聞きたいなぁ」
思わず声に出していた。
録音された声じゃなくて・・・眉間に皺を寄せて、米神をトントン叩きながらでもいいから、声が聞きたい。
ちょっと痛いけれど、ほっぺをぐにぐにされるのもいいなぁ。
頬に触れながら、懐かしくてちょっと笑ってしまった。
ーあぁ、まだ笑えるんだー
一瞬そう思った。けれど、笑顔を思い出させてくれた当の本人は、もうエーレンフェストにはいないのだ。その現実が、わたしの心に突き刺さってくる。
これまでやってきたことを放り出せばいいのかな。
順位を下げるって・・・何もしなければいいのかな。
これまで、みんなに「頑張れ」って言ってきたのに「もう頑張らなくていいよ」って言えばいいのかな。
貴族になって失敗しないようにって頑張ってきたのに・・・わたし、失敗したんだ。
失敗したら、処分・・・って。
これから、取り返せるのかな。
不安がどんどん膨らんできて、体が動かなくなっているみたい。
寒い・・・
あ、これまずいかも。
そう、気づいた時には、遅かったんだよね。
ここは隠し部屋だから、動けないってことは誰も助けに来られないってことで・・・非常にまずいことになってしまった。
ただね。これまでだったら、抗おうと思うことができたんだけど、今日は「もうどうでもいいかな」としか思えなくなっていた。
周りから頼ってもらえるのは嬉しいけれど、今までのやり方が全否定されたわけで、ほんとうに応えられるのか? わたしで大丈夫なのか?って不安の方が大きくなってしまった。
体の震えが止まらないよ。
胸が痛くて、息が苦しい・・・熱も上がってきた?
なんだか、頭がぼーっとしてきた気がする。
ー苦しい・・・助けて・・・ー
下町にいた時、何度も経験したような苦しさが襲ってきた。
ーフェルディナンド様ー
ーごめんなさい。
頑張るって言ったのに
約束したのに・・・ー
伸ばした手を取ってくれる人は、もういない。
ーフェルディナンド様、ごめんなさい・・・ー
伸ばした手は空を切って、パタリと落ちた。
ーフェルディナンド様ー
これは、なんだ?
アーレンスバッハの城の客間で、一日の予定を終えやっと一息ついたと思い寝椅子に身を投げ出すように座った時だった。
目の前に広がるのは、隠し部屋の映像か。誰の隠し部屋だ?
そう思っていたところで頭に響いてきたのは、聞き慣れてはいたが、今はもう遠く離れ懐かしくも思える少女の声だった。
ーごめんなさい。
頑張るって言ったのに
約束したのに・・・ー
は? 何を言っているのだ?
床に倒れているのは、ローゼマインか?
「ローゼマイン。何をしている? 早く起きなさい!」
ーからだ・・・動かないー
頭の中に、神殿に入ってすぐ、反省室に入れた時のことが思い出され、慌てて声をかける。少し丈夫になったとはいえ、まだまだ虚弱であることは変わらないはずだ。ましてや隠し部屋であるのなら、自力で起きなければどうなることか。
「ローゼマイン、ローゼマイン!!!」
見慣れていた金蜜色の瞳から涙が溢れている。
すでに熱が上がっているのか、その瞳には力がなく、消えかけた蝋燭のような弱い光しか感じられなかった。
抱き上げて、寝台に運べばなんとか間に合うだろうか。そう思って手を伸ばすがただ空を切るだけで触れることができない。
ーフェルディナンド様。ごめんなさいー
彼女も、私の方に手を伸ばして助けを求めているように見える。だが、懸命に声をかけても、届かない。そのうちに、涙に濡れた瞳から力がなくなり、ゆっくりと瞼が閉じられてしまった。
まさか、これは・・・そう考えていると、ふっと視界が客室に戻っていた。
「フェルディナンド様。一体どうなさったのですか?」
目の前にいるユストクスが、少し慌てた様子で問うてきた。
「ローゼマインが今・・・」
そこまで口にして、ハッとする。
もしあれが『遺言』であったのなら・・・
「ローゼマイン様が、何となさったのでございますか?」
「おそらく『遺言』を飛ばしてきた」
感情の乗らない言葉だけが、口から出てくる。
「まさか・・・」
ユストクスも、そして共にいたエックハルトも、私の発した言葉を耳にして動きを止め、息を殺して続く言葉を待つように私を見つめているのがわかった。
だが、続く言葉が見つからぬ。
境界門で、見惚れるほどの全属性の魔法陣を描き、祝福を与え見送ってくれたのは先の冬の初めごろのことだ。
領地対抗戦とディートリンデの卒業式のために貴族院のエーレンフェスト寮で食事をともにし・・・元気にしていると思っていた。
あれから幾ばくも経ってはおらぬのに・・・なぜローゼマインからの『遺言』が届くというのだ。
何が起きたというのか・・・
床に倒れたままのローゼマインの姿が瞼に焼き付き、思考が空回りする。
ほんとうであれば、エーレンフェストはこれからたいへんになるだろう。ゲオルギーネの動きも把握ができておらぬというのに・・・
とにかく、己が何をなすべきか、何ができるのか、考えなければ。
そうして、懸命に思考をまとめようとして瞬きをした次の瞬間、真っ白な空間にいるのに気がついた。
「あなたも気がついたのでしょう?
・・・ローゼマインが、遥か高みに上がりました」
頭の中に直接響くような声が聞こえてくる。
『此度の件には神々が関わっているのか・・・』
苦々しい気持ちが溢れそうになるところを『上位の存在である声には、耳を傾けなければなるまい』という思いだけで、私は白い空間で礼をとっていた。
(続)
(あとがき らしきもの)
性懲りも無く、新しいお話をはじめてしまいました。
今回、特に頭を悩ませたのが
折り返しポイントをどこにするか・・・でした。
次回はっきりするのですが、実は今でも悩んでいます。
うん、わたしの中では決まっているのですよ。
何を悩んでいるかというと、考えているポイントにすると
原作とはずれてくる部分が出てくるわけで、
どこまで影響出てくるかなぁと思うと、ちょっと尻込みしてしまうのでしたw
また、長くなる? かも(笑)
でも、頑張ってみようと思います(^_-)b
目指すは、ハッピーフェルマイエンドです!!!
ゆらゆるとした更新になると思いますが、お付き合いいただけたら、嬉しいです。
いつも、たくさんのいいね、ブックマーク、コメント、ウォッチリストへの追加、ありがとうございます。とても励みになっています。


























