最近、担当ウマ娘について悩みがある。
といっても、レースについてやコミュニケーションについてではない。
先日の前哨戦も理想的な勝ち方をして、本命のレースに向けての順調そのもの。
お互いの関係についても良好、少なくとも悪いということはないはずだ。
では、何に悩んでいるのかというと────
「……トレーナーさん?」
鼓膜を揺らす声に、ハッとした。
気がつけば、夕焼け空のような綺麗な瞳が俺を見つめていた。
鹿毛のボブカット、ピンクと黄色のメッシュ、左耳には海老色のカクテルハット。
担当ウマ娘のノースフライトは、不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
「ご、ごめんね、少しぼーっとしていたよ」
「わたしは気にしてませんけど……もしかして、少しお疲れですか?」
「大丈夫大丈夫、少し考え事をしていただけだからさ、ウォーミングアップは終わった」
「はい、ばっちりです、まずはスプリントでしたよね」
「ああ、そうなんだけど」
会話をしながら、俺はちらりと視線を下へと向けてしまう。
そこにあるのはしなやかな脚線美だった。
引き締まった足首からメリハリの付いた脹脛、そして細くも中身の詰まった太腿。
何時見ても惚れ惚れするような理想的な脚ではあるのだが、悩みの種はその根元である。
「……フライトは、ジャージを履かないのかい?」
「もう暑くなってきましたからね……ふふ、今から夏のコーデを考えるのが楽しみです」
「そっか、まあ、そうだな」
夏本番、というのはまだまだだけれど、微かに汗ばむことも多くなってきた。
故に、これからトレーニングをこなす彼女がジャージを脱ぐこと自体には何の問題もない。
問題があるのは、その“下”であった。
「それじゃあトレーナーさん、行ってきますね」
「あ、ああ」
そう言いながら、フライトはくるりと背中を向けた。
必然的にすらりと伸びた背中とさらりと靡く尻尾────そして形の良い臀部が視界に入った。
ブルマに包まれている、きゅっと持ち上がった丸い尻。
比較的小振りであるはずなのに、そんなことをまるで感じさせない張りの良さがあった。
瑞々しさと柔らかさを兼ね備えたそれは桃を彷彿とさせる。
一歩進むごとにぷるんと尻肉が弾む様は、まさしく桃源郷といっただろう。
「…………んしょ」
ふと、フライトの歩みが止まる。
おもむろに両手でブルマの裾に触れると、くいっと食い込んでいた布地を伸ばした。
何てこともない動作でありながら、どことなく艶やかさを感じさせる仕草。
俺は思わずドキリとしてしまい────そこで、ようやく我へと返った。
「……っ」
慌てて視界を伏せて、自己嫌悪とともに心の中で大きくため息をつく。
悩みとは、これであった。
フライトが着用しているブルマは、明らかにサイズが小さいのである。
尻の形がはっきりとしてしまうほどに、少し動けば食い込んでしまうほどに。
そうなってしまう理由自体は、わからなくもなかった。
彼女はその体型に反して、ウエストがとても細い。
レースを走るウマ娘全体にその傾向はあるものの、フライトはその中でも群を抜いていた。
故に、ぴったりと合うサイズのブルマが販売していない、という可能性は考えられる。
考えられる、のだが。
「…………フライトが知らない、なんてわけないよな」
ないならば、オーダーメイドで作ってもらう、という手段がある。
普段G1レースで身に纏っている勝負服と比べてば、極短期間で用意することが出来るだろう。
しかしファッションやコーディネイトに精通する彼女が、それに気づいていないはずがない。
つまり────何かしらの理由でそのままにしている、と考えられるのだった。
◇
「お疲れさま、フライト」
「お疲れさまでした、今日のわたしはどうでしたか?」
「……うん、一段とまた輝きを増して、とても素敵になったと思う」
「……えへへ」
ふにゃりと、照れたように微笑むフライト。
実際、走りの内容はどれをとっても素晴らしいの一言だった。
本番に向けて何の不安もない、そう確信出来るほどに。
強いて言うのならば────。
「クールダウンのストレッチはしっかりとね?」
「はいっ」
────怪我や体調管理に気を付ける、くらいだろうか。
それも、今の彼女であれば何の心配もいらない。
そう思えるだけの日々を、俺達は過ごして来たのだから。
そのことを噛み締めつつ今日のトレーニングの数字を見直す、その最中だった。
「あの、トレーナーさん」
「うん?」
手を止めて、声の方向へと顔を向ける。
そこには、芝生の上で腰を落としているフライトが上目遣いで俺を見つめていた。
彼女は耳をぴょこぴょこと動かしながら、言葉を紡ぐ。
「少し、ストレッチを手伝ってもらえますか?」
「ああ、そのくらいお安い御用だけど…………?」
承諾してから、違和感に気づく。
今まで、フライトが俺にストレッチの手伝いを頼むことなんてなかった。
そもそも彼女は得意なものとしてヨガを挙げるほどに身体が柔らかい。
俺の手伝いなんて、必要だとは思えないのだが。
「ありがとうございます…………それじゃあ、わたしの脚を、ゆっくりと持ち上げてくださいね」
フライトはその言葉とともに、ごろんと芝生の上で仰向けになった。
それは簡単な静的ストレッチの形の一つ。
片脚を空に向けて上げ、かかとを身体に近づけるようにしながらじっくりと伸ばす。
ハムストリングスと────お尻のストレッチであった。
「……」
無防備に寝転がっているフライトの姿を、真正面から見つめる。
トレーニング後の身体は熱気が籠っていて、シャツもブルマも微かに湿っていた。
立ち昇る汗の匂いと甘ったるい香りが鼻腔へと入り込み、理性を刺激していく。
「…………っ!」
慌てて首を左右に振り、邪な思考を振り払う。
これは、大切なクールダウンのストレッチだ。
決して気を抜いたり、余計なことを考えたりしてはいけない。
そう自分自身に言い聞かせながら、俺は彼女の太腿へと触れた。
「……あ、んっ」
ぴくんと震えるフライトの身体、小さな唇から漏れる甘い声。
その肌はとても暖かく、手が吸いつきそうなほどにしっとりとしていて、すべすべできめ細やかだった。
むっちりとした感触の太腿は柔らかくも弾力性に富み、何時までも触っていたい衝動に駆られるほど。
俺は平静を装いつつ、彼女の脚をゆっくりと上げていく。
「はっ……ふぁ……んん……あ……っ」
フライトが、微かに身悶える。
顔は心地良さそうに蕩けていき、頬は微かに紅潮し、瞳は熱っぽく潤み始めた。
その表情を見てはいけない、と本能が警鐘を鳴らして、俺は目を伏せるように視線を下に向ける。
それこそが、致命的なミスであった。
「あっ」
思わず、声を漏らしてしまった。
何でこんな単純なことに気づかなかったのだろう。
この体勢でフライトの顔から視線を下に動かせば、その先には彼女の下半身があることに。
艶やかに白く光る太腿、ぷりんとした尻の曲線、股間に食い込んだブルマの布地、ちらりと見え隠れする鼠径部。
その健康的でありながら官能的な姿に、俺の意識は一瞬にして奪われてしまった。
「…………このコーデは、下着との組み合わせが大事なんです」
愉しげなフライトの声が、鼓膜を揺らす。
見れば、悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女が俺を見下ろすように見上げていた。
「はみ出すのは恥ずかしいですし、それでいて運動に適したものでないといけませんから」
フライトの脚が、更に上がっていった。
一人で綺麗なI字バランスをこなせるほどの柔軟性も持つ彼女だ、そのくらい容易いことである。
そして必然的に、お互いの距離も更に近づいてしまった。
濃厚なまでの彼女の香りが、嗅覚から全神経に伝わっていく。
「薄くて、小さくて、伸縮性があって、ぴったりフィットで、シンプルだけど可愛くて」
弾むように響く、フライトの声。
その言葉は俺の脳裏に良からぬ妄想を模らせてしまう。
やがて、フライトの両腕は静かに、俺の頭へと伸びていく。
それは子どもを慈しむ母親のようであり、獲物を捉える蛇のようでもあった。
「トレーナーさんが私のお尻を熱心に見ている姿、可愛かったですよ…………えっち」
死刑宣告のような囁き。
けれど、それで背筋を凍らせるほどの理性はもはや残っていなかった。
フライトはそんな俺を満足そうに眺めながら、トドメを刺すように言葉を続ける。
「ふふっ、とってもお似合いだと思いませんか? わたしの、トレーナーさん♪」














つよつよフーちゃん