「撮影、お疲れ様」
労いの言葉を伝えながら、俺は瓶入りのミネラルウォーターを差し出す。
それは最近の彼女が気に入っている逸品であった。
鹿毛のドーナツヘア、幼さを残す愛くるしい顔立ち、大きなハート型の髪飾り。
担当ウマ娘のジェンティルドンナは目を細め、口角を不敵に吊り上げつつ瓶を受け取った。
「あら、気が利きますのね……まあ、労われるほどのことではありませんでしたけど」
刹那、キンと軽い音が響く。
それはジェンティルが手刀、ではなく親指の動きだけで瓶の口を切断してみせた音だった。
……正直、切り口とかが危ないからそういうのは止めて欲しいのだが。
優雅に水を飲み進める彼女を見て────撮影中の姿を思い出し、俺は表情を緩めてしまう。
「でも、あの無秩序ぶりはさしもの君でも困惑したんじゃないか?」
「…………初見で少し、驚いただけですわ」
ピクリとジェンティルの耳が動き、彼女は不満げに眉を歪ませる。
この日の撮影はとあるイベントの企画で、他のウマ娘達とともに会場全体をペンキで無茶苦茶に塗りたくったて欲しい、というものだった。
子どもの落書き、その規模を大きくしたものというべきだろうか。
一部の子は水を得た魚のようにハシャいで、それに他の子達も感化されて行ったのだが。
『…………………………』
ペンキ缶片手にぽかんと立ち尽くすジェンティルの姿はなかなかに見物だった。
上流家庭で生まれ、幼い頃から強者として一流の教育を受ける彼女にとって、落書きなどは理外の発想なのだろう。
すぐに華やかかつ派手な立ち居振舞いを見せつけたものの、あの一瞬の珍しい表情はしばらく忘れられそうになかった。
「…………随分と、楽しそうですわね?」
美しい微笑みを浮かべるジェンティル。
そこからは不満のオーラが漏れだしていて、俺は慌てて話題を変えることにした。
「そ、そういう衣装も良く似合うんだな!」
「20点、レディを褒めるにはあまりに言葉が足りていないのではなくて?」
「……」
ジェンティルの指摘はまさしく、正鵠を射ていた。
その場しのぎのありきたりな褒め言葉、これでは女性に限らず相手に失礼というものである。
俺は背筋を正して、椅子に腰かける彼女の姿を見つめた。
────白いノースリーブのブラウスと、短いデニムスカート。
彼女には珍しい、ラフで露出度の高い衣装だった。
ブラウスは胸元が大きく開き、その豊満な谷間が露になっている。
また丈も短くて、引き締まった腹筋と可愛らしい小さな臍が大胆にも晒されていた。
そして何より、そのスカートである。
股下数センチと思われるその布地からは、溢れんばかりに張りのある太腿がはみ出していた。
パンパンで、ムチムチで、シミ一つない彼女の太腿が────。
「……………………少し、下を見すぎですわよ?」
「あっ」
ふと、太腿が締まって、それを隠すように彼女の両手が添えられる。
ハッと我に返って顔を上げるが、時すでに遅し。
ほんのりと恥ずかしげに頬を染めたジェンティルが、俺をジトーっとした目で見ていた。
「ごっ、ごめん、つい!」
「淑女に不躾な視線を向ける輩には、罰が必要ね」
「…………何なりと」
挽回しようとして無様を晒した。
これはもはや言い訳のしようもない、俺はどんなことでも受け入れる覚悟でジェンティルに向き直る。
彼女────にやりと、背筋が凍るような笑みを浮かべた。
「私の太腿に、まだ少しだけ、ペンキが付いているの」
「えっ?」
「それを貴方の手で、拭ってくださるかしら」
「…………付いてるようには、見えなかったけど」
「…………ほんの少しですもの、さあ、どうぞこちらへ」
ジェンティルは小さく手招きをする。
何なりと、と宣言した以上は拒むことなど出来ようもない。
言われるがまま、彼女の下へと歩み寄ると────。
「ハンカチはお持ち?」
「も、もちろん」
「宜しい、それを貸してくださる……あら、これは以前に私が差し上げた…………ほほほ、殊勝な心構えだこと…………失礼するわね」
ジェンティルは手渡したハンカチに、瓶の水を少しだけ垂らして湿らせる。
それを俺に返すと、悠然とした態度で告げた。
「────跪きなさい?」
可愛らしい声でありながら、強い圧のこもった言葉。
出会った頃の俺だったら震えて腰を抜かしていたかもしれない、でも、今は違う。
しっかりとジェンティルの見つめ、自らの意思でこうするのだと伝えながら、俺は彼女の前へ跪いた。
「ふふっ、捩じ伏せたくなるくらいに、素敵な目…………その目で、決して見逃さないことね」
「……っ!?」
そう言いながらジェンティルは────ゆっくりと両脚を開いた。
びっちりとくっついていた太腿と太腿の間、それが徐々に広がる。
むわっと甘ったるい香りが立ち昇り、しっとりとした彼女の内股が晒されていった。
短いデニムスカートが少しずつずり上がるものの、その奥にあるはずの布地はギリギリのところで隠されている。
微かな赤みを帯びた白い太腿の内側、脚の付け根まで後僅かという場所、そこには確かに小さなペンキが付着していた。
「……っ、で、では、宜しくてよ」
さしものジェンティルも流石に緊張しているのか、少しだけ声が震えていた。
彼女に、恥をかかせるわけにはいかない。
深呼吸を一つ、俺は緊張で荒ぶる心臓を何とか落ち着かせながら、濡らしたハンカチで太腿に触れた。
ぷにっと柔らかな感触、その奥から伝わるしなやかな筋肉、そして。
「あっ、あァン…………っ!」
ジェンティルの艶やかな嬌声と跳ね上がる肢体。
さあっと血の気が低くのを感じながら、俺は恐る恐る彼女の様子を伺う。
彼女は顔を朱色に染めながら、拗ねたような表情を浮かべていた。
「…………乙女の柔肌でしてよ、もう少し丁寧に扱ってくださる?」
「…………すまない」
返す言葉もない、とはまさにこのことだろう。
俺は素直に謝罪を告げて、再びジェンティルの太腿に挑んだ。
高級なアンティーク家具を手入れするように、否、それ以上の繊細さを意識しながら、彼女の内股を拭っていく。
撫でるように、さするように、くすぐるように。
じっくり、丹念に、ゆっくり、丁寧に。
「んん…………そう……お上手よ…………あっ……もっと…………奥まで…………はぁ………………ん…………っ!」
ぴくぴくと悶えるように身体を震わせながら、ジェンティルは甘い声と熱っぽい吐息を漏らし続けた。
────とっくに、ペンキの汚れなんて落ちている。
でも、わかっていた。
彼女が続けることを、望んでいることは。
あるいは、俺自身も。
「やん……そこは…………んんっ………………きもち…………あぁ…………っ!」
ジェンティルの淫らな艶姿、じっとりと汗ばむ肌、香り立つ濃厚な匂い、鼓膜と脳を揺らす甘美な音色。
俺達は互いに我を忘れて、貪るようにこの時間を堪能するのだった。















